説明

高圧遮断バルブ、燃料カートリッジ、及び燃料電池システム

【課題】流路内を流れる流体の圧力が高くなった際に、自動的に流路を閉状態とする高圧遮断バルブに関して、簡易な構造で、高圧異常時の緊急遮断を実現するバルブ、ならびに前記高圧遮断バルブを用いた燃料カートリッジ、及び燃料電池システムを提供する。
【解決手段】流入口2、流出口3、及び大気解放口4を有する筺体1と、前記筺体1の内部に摺動可能に設けられた弁体10とを備え、前記弁体10は連通路が設けられており、通常時には、前記流入口2と前記流出口3は前記連通路を含む流路によって連通され、前記流入口2からの流体の圧力が通常よりも高いときには、前記弁体10を摺動させて前記流路を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路内を流れる流体の圧力が高くなった際に、自動的に流路を閉状態とする高圧遮断バルブ、ならびに前記高圧遮断バルブを用いた燃料カートリッジ、及び燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいて、燃料カートリッジを使用している発電セルなどでは、燃料カートリッジから発電セルに流体を供給する際にポンプを用いている。しかし、高温状況下では燃料カートリッジから意図しない高い吐出圧力が生じ、ポンプの破損等が起きることがある。そのため、高圧異常時にポンプとの連通を遮断する緊急遮断弁が求められる。
【0003】
このような緊急遮断弁は、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示された緊急遮断弁は、図10に示すように、流入口502、流出口503及び大気孔504を有する弁室505と、開閉駆動部506、弁体510、ならびに前記弁体510の状態を初期状態に戻すリセットボタン520から構成されている。前記開閉駆動部506にはダイヤフラム511及びスピンドル512が設けられている。前記弁体510には凹形状をしたノッチ514が設けられており、前記ノッチ514と前記スピンドル512の間に係合するようにボール513が設けられている。
【0004】
流入口502から流入する流入圧が大気圧よりも小さいときは、ボール513が弁体510のノッチ514に係合し、図9の状態に弁体510が保持されている。このとき、流路は開状態に保持される。一方、流入圧が大気圧よりも大きくなると、ダイヤフラム511が押し上げられ、これに伴いスピンドル512が上方向に押し上げられる。この結果、前記弁体510に設けられているノッチ514とボール513の係合状態が解除され、弁体510が下方向へ移動して流入口502から流出口503への流路を塞ぐものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭62−2377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような緊急遮断弁は、弁体の開閉駆動のために複雑な機構が必要であり、装置が大型になるという問題がある。また、流体の圧力が閾値付近で変動した場合には、弁体の開閉状態が不安定になるために、開状態、及び閉状態を維持する機構を備える必要がある。そのため、装置がさらに大掛かりになるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡易な構造で、高圧異常時の緊急遮断を実現する高圧遮断バルブ、ならびに前記高圧遮断バルブを用いた燃料カートリッジ、及び燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、本発明に係る高圧遮断バルブは、流入口、流出口、及び大気解放口を有する筺体と、前記筺体の内部に摺動可能に設けられた弁体とを備え、前記弁体は連通路が設けられており、通常時には、前記流入口と前記流出口は前記連通路を含む流路によって連通され、前記流入口からの流体の圧力が通常よりも高いときには、前記弁体を摺動させて前記流路を遮断することを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記弁体には、前記連通路となる溝が設けられていることが望ましい。この場合は、バルブが開状態のときに溝が流路として作用し、閉状態のときは溝を流出口のみと連通させることで流体の逆流を防ぐことができる。
【0010】
また本発明は、前記筺体には、前記流路の一部となる溝が設けられていることが望ましい。この場合は、弁体溝と筺体溝を組み合わせることで流路の設計の自由度が上がり、低背型に対応できるようになる。
【0011】
また本発明は、前記弁体には、前記連通路となる穴が設けられていることが望ましい。この場合は、筺体に溝を設けず、弁体のみで流路を形成することができる。
【0012】
また本発明は、前記筺体が円筒形状で、前記弁体が円柱形状であることが望ましい。この場合は、流体の圧力が高くなっても筺体が変形しにくいため、隙間及び流体の漏れの発生を防ぐことができる。
【0013】
また本発明は、前記筺体の内壁における前記弁体と前記大気解放口の間に、弁体の復帰装置を設けることが望ましい。この場合は、流体の圧力が高くなり弁体が摺動した後、弁体を初期の位置に戻すことができる。
【0014】
また本発明に係る燃料カートリッジは、高圧遮断バルブが、出口側に内蔵されていることが望ましい。従来の燃料電池システムにおいては、バルブが大型であったためにバルブと燃料カートリッジを別々に提供していたが、この場合は、バルブが小型に構成できるため、燃料カートリッジ内への組み込みが容易にできる。
【0015】
また本発明に係る燃料電池システムは、前記高圧遮断バルブと、燃料カートリッジと、発電セルとを備え、燃料カートリッジと発電セルを結ぶ燃料の供給路に前記高圧遮断バルブが設けられていることが望ましい。この場合は、燃料カートリッジの吐出圧力が高くなっても、前記圧力が燃料カートリッジの出口から先へ伝わらないので、次段にある装置や発電セルを壊すことがない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流体の圧力を用いて弁体を摺動させるという簡易な構造で、高圧異常時の緊急遮断を実現できる。さらに、一度緊急遮断を行うと、流体の圧力が閾値付近で多少変動をしたとしても、閉状態を維持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1による高圧遮断バルブの中央断面図である。
【図2】実施形態1の高圧遮断バルブの分解斜視図である。
【図3】実施形態1の変形例1による高圧遮断バルブの中央断面図である。
【図4】本発明の実施形態2による高圧遮断バルブの中央横断面図、縦断面図、及び弁体の斜視図である。
【図5】本発明の実施形態3による高圧遮断バルブの中央断面図及び弁体の斜視図である。
【図6】実施形態3の変形例1の高圧遮断バルブの中央断面図である。
【図7】実施形態3の変形例2の高圧遮断バルブの中央断面図である。
【図8】本発明の実施形態4による燃料電池システムのブロック図である。
【図9】実施形態4による燃料電池システムのブロック図である。
【図10】先行技術を説明する緊急遮断弁の中央断面概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態に係る高圧遮断バルブについて説明する。
【0019】
(実施形態1)
図1は本実施形態1に係る高圧遮断バルブ100の中央断面図である。本実施形態の高圧遮断バルブ100は燃料電池システムにおける燃料カートリッジの後段に設けられた高圧遮断バルブとして用いられる。なお、本明細書において、断面図は理解しやすくするために概略的に示している。
【0020】
図2は高圧遮断バルブ100の分解斜視図である。以下、図1と図2を参照しながら説明を行う。
【0021】
本実施形態1の高圧遮断バルブ100は筺体1と弁体10から構成されている。筺体1は低背かつ直方体形状をしており、例えばPPS樹脂で形成されている。筺体1は下筺体11と、その上面に順次接着材により積層固着された中筺体12、及び上筺体13でもって構成されており、内部に第1の弁室5aと第2の弁室5bからなる弁室5を有する。
【0022】
筺体1の一部を構成する下筺体11には、下筺体を貫通し第1の弁室5aと連通する流入口2と、下筺体の中央を貫通し第2の弁室5bと連通する流出口3と、中筺体12の第1の弁室5aと第2の弁室5bを連通させるように設けられた筺体溝11aが形成されている。
【0023】
中筺体12は真ん中を大きくくりぬかれた枠状に形成されている。中筺体12と、下筺体11及び上筺体13によって囲まれた空間が弁室5となる。中筺体12の枠状部の中央付近には、弁室5の内側方向に凸形状に突き出たストッパ6が設けられている。これにより弁室5は第1の弁室5aと第2の弁室5bに分けられている。
【0024】
また、中筺体12には大気解放口4が設けられている。この大気解放口4は、中筺体12の枠状部の第2の弁室5b側の端部に設けられた穴で構成されており、第2の弁室5bと大気とをつなぐ。
【0025】
上筺体13は穴や溝が無い一枚板である。
【0026】
弁体10は、中筺体12と同等の厚みを有する直方体形状をしており、底部の中央に弁体溝10aが形成されている。この弁体10は、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)で形成されている。弁体10は第2の弁室5b内に、ストッパ6側から大気解放口4側に摺動可能な状態で設けられている。
【0027】
通常時の弁体10の位置は、第2の弁室5b内で最もストッパ6に近い位置であり、図1(A)に示すように、弁体溝10aが筺体溝11aと流出口3の両方と連通している。このとき、高圧遮断バルブ100の流路は、流入口2から第1の弁室5a、筺体溝11a、弁体溝10aを経由して、流出口3に至るように構成されており、バルブは開状態である。
【0028】
一方、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、弁体10が大気解放口4側に摺動した場合には、図1(B)に示すように、弁体溝10aが流出口3と連通しつつ、筺体溝11aとは連通しない状態になっている。このとき、流路が遮断されているのでバルブは閉状態となる。
【0029】
ここで、バルブの動作原理を示す。弁体10に加わる力は、流入口2側から弁体10にかかる力F1と、大気解放口4側から弁体10にかかる力F2と、弁体10の摩擦力(以下、摺動抵抗)F3である。
【0030】
F1は流入圧P1と弁体の受圧面積S1の積として表される。また、F2は大気圧P2と弁体10の受圧面積S2の積として表される。これより、弁体10が大気解放口4側に摺動するために必要な条件は、流入圧とその受圧面積による力F1>大気圧とその受圧面積による力F2+摺動抵抗F3となる。
【0031】
以下に、バルブの動作を示す。流体の流入圧とその受圧面積による力F1が所定の閾値である大気圧とその受圧面積による力F2+摺動抵抗F3を上回るまで、開状態を維持し続ける。
【0032】
一方、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、流体の流入圧とその受圧面積による力F1が所定の閾値を上回った場合には、弁体10が開状態を維持しながら大気解放口4側に向かって摺動する。さらに弁体10が大気解放口4付近まで摺動すると、筺体溝11aと弁体溝10aの連通が途切れるため、流出口3への流路が遮断される。
【0033】
また、一度流路が遮断されると、流体の圧力が閾値付近で多少変動をしたとしても、バルブの閉状態は維持され続ける。
【0034】
本実施形態では、弁体10に流入口2と流出口3を連通させるための流路の一部となる弁体溝10aが設けられている。このように構成しているので、バルブが開状態のときに弁体溝10aが流路として作用し、閉状態のときは弁体溝10aを流出口3のみと連通させることで流体の逆流を防ぐことができる。
【0035】
本実施形態では、筺体1に流入口2と流出口3を連通させるための流路の一部となる筺体溝11aが設けられている。このように構成しているので、筺体溝11aを弁体溝10aと組み合わせることで流路の設計の自由度が上がり、低背型に対応できる。
【0036】
本実施形態では、弁体溝の形状は直方体としているが、これに限るものではない。通常時には弁体溝が流入口、及び流出口と連通しており、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、弁体が大気解放口側に摺動したときには、弁体溝が流出口と連通しつつ、流入口とは連通しないような長さ及び形状で設計されていればよい。
【0037】
(実施形態1の変形例1)
図3は本実施形態1の変形例1に係る高圧遮断バルブ200の中央断面図である。本変形例1の高圧遮断バルブ200は筺体21と弁体20から構成されている。
【0038】
筺体21は低背かつ直方体形状をしており、例えばPPS樹脂で形成されている。筺体21は下筺体15と、その上面に順次接着材により積層固着された中筺体16、及び上筺体17でもって構成されており、内部に第1の弁室25aと第2の弁室25bからなる弁室25を有する。
【0039】
筺体21の一部を構成する下筺体15には、下筺体を貫通し第1の弁室25aと連通する流入口22と、下筺体の中央を貫通し第2の弁室25bと連通する流出口23が形成されている。
【0040】
中筺体16は真ん中を大きくくりぬかれた枠状に形成されている。中筺体16と、下筺体15及び上筺体17によって囲まれた空間が弁室25となる。中筺体16の枠状部の中央付近には、弁室25の内側方向に凸形状に突き出たストッパ6が設けられている。これにより弁室25は第1の弁室25aと第2の弁室25bに分けられている。
【0041】
また、中筺体16には大気解放口24が設けられている。この大気解放口24は、中筺体16の枠状部の第2の弁室25b側の端部に設けられた穴で構成されており、第2の弁室25bと大気とをつなぐ。
【0042】
上筺体17は穴や溝が無い一枚板である。
【0043】
弁体20は、中筺体16と同等の厚みを有する直方体形状をしており、内部に弁体穴20bが形成されている。弁体穴20bは、弁体20の側面中央部から長手方向へ直線穴を形成し、弁体20の中央付近で底面方向に直角に屈曲し、底面まで貫通して流路の一部を形成するものである。
【0044】
この弁体20は、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)で形成されている。弁体20は第2の弁室25b内に、ストッパ26側から大気解放口24側に摺動可能な状態で設けられている。
【0045】
通常時の弁体20の位置は、第2の弁室25b内で最もストッパ26に近い位置であり、図3(A)に示すように、弁体穴20bが流出口23と連通している。このとき、高圧遮断バルブ200の流路は、流入口22から弁室25、弁体穴20bを経由して、流出口23に至るように構成されており、バルブは開状態である。
【0046】
一方、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、弁体20が大気解放口24側に摺動した場合には、図3(B)に示すように、弁体穴20bが流出口23とは連通しない状態になっている。このとき、流路が遮断されているのでバルブは閉状態となる。
【0047】
本変形例では、弁体20に流入口22と流出口23を連通させるための流路の一部となる弁体穴20bが設けられている。このように構成しているので、筺体21に溝を設けず、弁体20のみで流路を形成することができ、より簡単な構造で本発明を実現できる。
【0048】
(実施形態2)
図4は本実施形態2に係る高圧遮断バルブ300の中央横断面図、縦断面図、及び弁体30の斜視図である。図4(A)に示すように、本実施形態の高圧遮断バルブ300は筺体31及び弁体30から構成されている。
【0049】
筺体31は円筒形状に構成されており、例えばPPS樹脂で形成されている。筺体31は円筒部分と、円筒の両端を塞ぐ二枚の円板とから形成されている。筺体31には一方の円板の中央に流入口32、他方の円板の中央に大気解放口34、円筒部分に流出口33が設けられており、内部に弁室35を有する。
【0050】
図4(A)をA−A'の面で切断した断面が図4(B)である。図4(B)に示すように、筺体31の流入口32付近には、弁室35の内側方向に凸形状に突き出たストッパ36が設けられている。これにより弁室35は第1の弁室35aと第2の弁室35bに分けられている。
【0051】
弁体30は、円筒形状の筺体31の内径と同等の外径を有する円柱形状に構成されている。弁体30には、図4(C)に示すように、弁体30の外周面に円周方向に一周して形成されている円周溝37bと、弁体30の外周面に円周溝37bから円柱の軸方向に平行に形成されている直線溝37aの二種類の弁体溝37が形成されている。この弁体30は、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)で形成されている。
【0052】
弁体30は第2の弁室35b内に、ストッパ36側から大気解放口34側に摺動可能な状態で設けられている。このとき、弁体30が大気解放口34側に摺動した状態になっても、弁体溝37と流出口33とが連通しないような回転位置に弁体30を設けることとする。
【0053】
通常時の弁体30の位置は、第2の弁室35b内のストッパ36側の位置であり、図4(A)に示すように、弁体溝37が流出口33と連通している。このとき、高圧遮断バルブ300の流路は、流入口32から弁室35、弁体溝37を経由して、流出口33に至るように構成されており、バルブは開状態である。
【0054】
一方、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、弁体30が大気解放口34側に摺動した場合には、弁体溝37が流出口33とは連通しない状態になっている。このとき、流路が遮断されているのでバルブは閉状態となる。
【0055】
ここで、バルブの動作原理を示す。弁体30に加わる力は、流入口32側から弁体30にかかる力F1と、大気解放口34側から弁体30にかかる力F2と、弁体30の摩擦力(以下、摺動抵抗)F3である。
【0056】
F1は流入圧P1と弁体の受圧面積S1の積として表される。また、F2は大気圧P2と弁体30の受圧面積S2の積として表される。
【0057】
これより、弁体30が大気解放口34側に摺動するために必要な条件は、流入圧とその受圧面積による力F1>大気圧とその受圧面積による力F2+摺動抵抗F3となる。
【0058】
以下に、バルブの動作を示す。流体の流入圧とその受圧面積による力F1が所定の閾値である大気圧とその受圧面積による力F2+摺動抵抗F3を上回るまで、開状態を維持し続ける。
【0059】
一方、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、流体の流入圧とその受圧面積による力F1が所定の閾値を上回った場合には、弁体30が開状態を維持しながら大気解放口34側に向かって摺動する。さらに弁体30が大気解放口34付近まで摺動すると、弁体溝37と流出口34との連通が途切れるため、流出口34への流路が遮断される。
【0060】
また、一度流路が遮断されると、流体の圧力が閾値付近で多少変動をしたとしても、バルブの閉状態は維持され続ける。
【0061】
本実施形態では、筺体31が円筒形状、弁体30が円柱形状として設けられている。このように構成しているので、筺体31が流体圧により変形しにくくなっている。その結果、弁体30と筺体31との間に隙間が生まれにくくなり、流体が大気解放口34や流入口32、流出口33から漏れにくくなる。
【0062】
(実施形態3)
図5は本実施形態3に係る高圧遮断バルブ400の中央断面図と弁体40の斜視図である。図5(A)に示すように、本実施形態の高圧遮断バルブ400は筺体41及び弁体40から構成されている。
【0063】
筺体41は円筒形状に構成されており、例えばPPS樹脂で形成されている。筺体41は円筒部分と、円筒の両端を塞ぐ二枚の円板とから形成されている。筺体41には一方の円板の中央に流入口42、他方の円板の中央に大気解放口44、円筒部分に流出口43が設けられており、内部に弁室45を有する。
【0064】
弁体40は、円筒形状の筺体41の内径よりも少し小さい外径を有する円柱形状をしている。弁体40には、図5(B)に示すように、弁体溝40a、弁体穴40b及びシール性がある複数のリング体40cが形成されている。弁体40は、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)で形成されている。弁体40は弁室45内に、流入口42側から大気解放口44側に摺動可能な状態で設けられている。
【0065】
弁体穴40bは、円柱の一方主面から長手方向へ直線穴を形成し、弁体40の中央付近で外周方向に直角に屈曲し、外周面まで貫通して流路の一部を形成するものである。
【0066】
弁体溝40aは、弁体40の外周部に円周方向に一周して形成されており、外周面まで貫通して設けられた弁体穴40bと連通している。このように構成されているので、弁体40を任意の回転位置に設けることができる。
【0067】
リング体40cは、円筒形状の筺体41の内径と同等の外径を有しており、弁体40の外周部に円周方向に一周して設けられている凸部である。リング体40cは、弁体溝40aから流入口42側までの外周部に二つ、反対側の外周部に一つ形成されている。リング体40cは例えば弁体40と同じ材質で一体成形されている。
【0068】
このように構成されているので、弁体40が筺体41と接触する面積が減るために、弁体40の摺動抵抗が減少する。また、リング体40cにはシール性があるため、流入口42、流出口43、及び大気解放口44の流体の圧力を確実に分離することができ、弁体40の動作をより精密に設定することができる。
【0069】
ここで、バルブの動作原理を示す。弁体40に加わる力は、流入口42側から弁体40に設けられた弁体穴40bにかかる力F1と、大気解放口44側から弁体40にかかる力F2と、弁体40の摩擦力(以下、摺動抵抗)F3である。
【0070】
F1は流入圧P1と弁体穴40bの受圧面積S1の積として表される。また、F2は大気圧P2と弁体30の受圧面積S2の積として表される。
【0071】
これより、弁体30が大気解放口34側に摺動するために必要な条件は、流入圧とその受圧面積による力F1>大気圧とその受圧面積による力F2+摺動抵抗F3となる。
【0072】
以下に、バルブの動作を示す。流体の流入圧とその受圧面積による力F1が所定の閾値である大気圧とその受圧面積による力F2+摺動抵抗F3を上回るまで、開状態を維持し続ける。
【0073】
一方、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、流体の流入圧とその受圧面積による力F1が所定の閾値を上回った場合には、弁体40が開状態を維持しながら大気解放口44側に向かって摺動する。さらに弁体40が大気解放口44付近まで摺動すると、弁体穴40bと流出口44との連通が途切れるため、流出口34への流路が遮断される。
【0074】
また、一度流路が遮断されると、流体の圧力が閾値付近で多少変動をしたとしても、バルブの閉状態は維持され続ける。
【0075】
本実施形態では、リング体40cを弁体と同じ材質から一体成形しているが、これに限るものではない。例えば、個別に形成してもよいし、異なる材料から形成してもよい。
【0076】
また本実施形態では、リング体40cの数もこれに限定されるものではない。本変形例よりも数を減らすと弁として機能しなくなり問題となるが、増やす分には構わない。
【0077】
(実施形態3の変形例1)
図6は本実施形態3の変形例1に係る高圧遮断バルブ400Aの中央断面図である。実施形態3と同一の部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0078】
本変形例の高圧遮断バルブ400Aは円筒状の筺体41及び円柱状の弁体40から構成されており、復帰装置を備えるものである。この復帰装置は、筺体41の内壁のうち、弁体40から大気解放口44までの間に、シール性のある薄膜45を設けたものである。
【0079】
この薄膜45は、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなると弁体40によって大気解放口44側に押し出されて撓むものである。このように構成しているので、流体の圧力が高くなり、弁体が大気解放口44側に摺動した後、圧力が通常の状態に戻ると、薄膜45の弾性により弁体を初期位置の方向に戻すことができる。また、薄膜45にはシール性があるので、液体が大気解放口44から漏れるのを防ぐ。
【0080】
(実施形態3の変形例2)
図7は本実施形態3の変形例2に係る高圧遮断バルブ400Bの中央断面図である。実施形態3と同一の部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0081】
本変形例の高圧遮断バルブ400Bは円筒状の筺体41及び円柱状の弁体40から構成されており、復帰装置を備えるものである。この復帰装置は、筺体41の弁室内で、弁体40から大気解放口44までの間に、ばね46を設けたものである。このように構成しているので、流入口からの流体の圧力が通常よりも高くなり、弁体40がばね46を圧縮しながら大気解放口44側に摺動した後、圧力が通常の状態に戻ると、ばね46の弾性により弁体40が初期位置の方向に戻る。
【0082】
本変形例では、ばね46の与圧を変更することで、弁体40が摺動する条件を簡単に変更することができる。また、リング体40cが設けられていると、弁体40の摺動抵抗が小さくなるため特に有効である。
【0083】
上記した変形例では、復帰装置を薄膜45またはばね46としているが、これに限るものではない。例えば、大気解放口44の外側から棒状のもので弁体40を押しこみ、初期状態に戻すといった手動復帰の手段を用いてもよい。
【0084】
(他の実施例)
なお、本発明に係る高圧遮断バルブは前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0085】
前記実施形態では、筺体をPPSから構成しているが、これに限るものではない。例えば、PPS以外の樹脂等を用いてもよい。
【0086】
前記実施形態では、弁体をEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)から構成しているが、これに限るものではない。例えば、ポリエチレン、エラストマーなど、弾性のある樹脂を用いてもよい。このとき、弁体の表面にはシール性があることが望ましい。
【0087】
前記実施形態では、弁室の内部にストッパを設けているが、これに限るものではない。ストッパは弁体の初期位置を設定するときや復帰装置を設けたときの復帰位置決めのために設けることが望ましいが、必要でないときは設けなくてもよい。
【0088】
(実施形態4)
図8は本実施形態4に係る燃料電池システムのブロック図である。本実施形態の燃料電池システムは燃料カートリッジ、高圧遮断バルブ、ポンプ、発電セルから構成されている。
【0089】
本発明の高圧遮断バルブは燃料カートリッジの出口側に設けられている。ポンプは高圧遮断バルブの出口側に設けられており、発電セルに供給する流体の流量を調節する役目を担う。発電セルはポンプの出口側に設けられている。
【0090】
本実施形態では、燃料カートリッジと発電セルを結ぶ燃料の供給路に前記高圧遮断バルブが設けられている。このように構成しているので、燃料カートリッジの吐出圧力が高くなっても、前記圧力が燃料カートリッジの出口から先へ伝わらないので、次段にあるポンプや発電セルを壊すことがない。
【0091】
さらに、高圧遮断バルブが小型になるため、燃料電池システムへの組み込みが容易になり、燃料電池システムをより小型化することができる。
【0092】
また、高圧遮断バルブを、燃料カートリッジの内部の出口側に直接内蔵してもよい(図9参照)。従来の燃料電池システムにおいては、高圧遮断バルブが大型であったために高圧遮断バルブと燃料供給用カートリッジを別々に提供していたが、このように構成した場合、高圧遮断バルブを備えた燃料カートリッジを提供できるため、燃料電池システムをより小型化することができる。
【符号の説明】
【0093】
100、200、300、400、500…高圧遮断バルブ
1、21、31、41…筺体
2、22、32、42、502…流入口
3、23、33、43、503…流出口
4、24、34、44、504…大気解放口
5、25、35、45、505…弁室
5a、25a、35a…第1の弁室
5b、25b、35b…第2の弁室
6、26、36…ストッパ
11、15…下筺体
11a…筺体溝
12、16…中筺体
13、17…上筺体
10、20、30、40、510…弁体
10a、37、40a…弁体溝
20b、40b…弁体穴
37a…直線溝
37b…円周溝
40c…リング体
45…薄膜
46…ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口、流出口、及び大気解放口を有する筺体と、前記筺体の内部に摺動可能に設けられた弁体とを備え、
前記弁体は連通路が設けられており、
通常時には、前記流入口と前記流出口は前記連通路を含む流路によって連通され、
前記流入口からの流体の圧力が通常よりも高いときには、前記弁体を摺動させて前記流路を遮断することを特徴とする高圧遮断バルブ。
【請求項2】
前記弁体には、前記連通路となる溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の高圧遮断バルブ。
【請求項3】
前記筺体には、前記流路の一部となる溝が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の高圧遮断バルブ。
【請求項4】
前記弁体には、前記連通路となる穴が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の高圧遮断バルブ。
【請求項5】
前記筺体が円筒形状で、前記弁体が円柱形状であることを特徴とする請求項1〜4のうち、いずれか1項に記載の高圧遮断バルブ。
【請求項6】
前記筺体の内壁における前記弁体と前記大気解放口の間に、弁体の復帰装置を設けることを特徴とする請求項1〜5のうち、いずれか1項に記載の高圧遮断バルブ。
【請求項7】
請求項1〜6のうち、いずれか1項に記載の高圧遮断バルブが、出口側に内蔵されていることを特徴とする燃料カートリッジ。
【請求項8】
請求項1〜6のうち、いずれか1項に記載の高圧遮断バルブと、燃料カートリッジと、発電セルとを備え、前記燃料カートリッジと前記発電セルを結ぶ燃料の供給路に前記高圧遮断バルブが設けられていることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−21623(P2012−21623A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161629(P2010−161629)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】