説明

高密着性透明フィルムの製造方法

【課題】表面に機能層を設ける際に使用する高密着性透明フィルムを、簡易な製造プロセスにて、品質均一性が優れ、低製造コスト、高製品歩留まりで製造する。
【解決手段】光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する光硬化性樹脂組成物を、透明ベースフィルム上に一定厚さにて流延し、その上に透明カバーフィルムを圧着した後、紫外線を照射し、光硬化性樹脂組成物を硬化反応率75〜90%の範囲に硬化後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離除去することにより高密着性透明フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高密着性透明フィルムの製造方法に関するものであり、特にハードコート膜、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、抗菌膜、ガスバリア膜または耐光性膜を単独、あるいは2種類以上の性能を組み合わせた高機能膜の付与に適した密着性の良好な透明フィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
従来、透明フィルムの表面にハードコート膜、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、抗菌膜、ガスバリア膜または耐光性膜などの高機能層を付与する方法として、蒸着、スパッターなどのドライ成膜方法とコーティングによるウェット成膜方法がある。しかし、透明フィルム表面を未処理の状態で高機能層を付与すると、透明フィルムと高機能膜との界面において密着不良が生じ易い傾向にある。密着性向上のため、透明シートの表面をコロナ処理、プラズマ処理またはオゾン処理を施したり、透明シートの表面にウェット処理より、アンカーコート及びプライマーコートにより、高機能膜との密着性向上を図る必要がある。
【0003】
例えば、特開2003−238711号公報(特許文献1)には、スチレン系フィルム表面にコロナ処理を施し、濡れ性を改善し、密着性向上を図る施策が開示されている。特開2009−255398号公報(特許文献2)には、アンカーコート層によるガスバリア膜の密着性向上を図る方法が開示されている。また、特開2008−156702号公報(特許文献3)には、プラズマ処理またはオゾン処理により、シールド膜の密着性向上を図る方法が開示されている。
【0004】
これらの前記に紹介した高機能膜の密着性向上を図る方法のうち、コロナ処理、プラズマ処理またはオゾン処理方法の場合、特殊な装置が必要なるだけでなく、発生するオゾンガスの排気除去の処理機構が必要となり、設備コストや生産性の点で問題がある。一方、アンカーコート処理、プライマーコート処理の場合、ウェット塗工が必要となり、コート剤の選択、塗液の洗浄など、設備コスト並びに使用資材のコストの点で問題がある。
さらに、密着性品質の面からもコロナ処理、プラズマ処理またはオゾン処理及びアンカーコート処理、プライマーコート処理の場合、面内均一に密着性を制御することは困難であり、表面機能層の品質均一性の悪化、コストの向上及び製品歩留まり低下を招く原因となっていた。
【0005】
一方、特開2004−143449号公報(特許文献4)には官能基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法が紹介されているが、これを硬化させて得られる樹脂フィルムは透明フィルムとして優れている反面、フィルム表面の活性が低いため高機能膜との密着性に劣るという傾向を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−238711号公報
【特許文献2】特開2009−255398号公報
【特許文献3】特開2008−156702号公報
【特許文献4】特開2004−143449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高密着性透明フィルムの製造方法を提供するものであり、特にハードコート膜、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、抗菌膜、ガスバリア膜、耐光性膜等の高機能膜を単独、あるいは2種類以上の性能を組み合わせた高機能膜を密着させることができ、これら高機能膜に対する膜密着性の良好な高密着性透明フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、硬化透明フィルムの硬化反応率が75〜90%に制御された透明フィルムを製造することにより、その後の高機能膜の成膜において、表面機能層の品質均一性、低製造コスト、高製品歩留まりの高密着性透明フィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する光硬化性樹脂組成物を、透明ベースフィルム上に一定厚さにて流延し、その上に透明カバーフィルムを圧着した後、紫外線を照射し、光硬化性樹脂組成物を硬化反応率75〜90%の範囲に硬化後、上記透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離除去することを特徴とする高密着性透明フィルムの製造方法である。
【0010】
上記光硬化性樹脂組成物は、かご型シルセスキオキサン樹脂を3重量%以上含有することが好ましい。また、上記かご型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(1)で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるものであることが好ましい。
RSiX3 ・・・(1)
(式中、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基のうちのいずれか一つの基を有する有機官能基を示し、Xは加水分解性基を示す。)
【0011】
また、上記かご型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましい。
(R1R2R3SiO3/2)n-(R4R5R6SiO1/2)m (2)
(式中、R1〜R6はメチル基、フェニル基、又は(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基から選ばれるいずれか一つの反応性基を有する有機官能基を示し、R1〜R6は互いに同じであっても異なっていてもよいが、少なくとも一つは上記反応性基を有する有機官能基であり、nは8、10、12又は14を示し、mは0、2、4又は6を示す。)
【0012】
(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基から選ばれるいずれか一つの反応性基を有する有機官能基としては、下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される有機官能基であることが有利である。
【化1】

(式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、式(3)及び(4)中、mは1〜3の整数を示す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の高密着性透明フィルムの製造方法によれば、製造される透明フィルムの表面層の品質均一性に優れるばかりではなく、簡易なプロセスにて製造が可能であり、製造コストの低減、製品の歩留まり向上にも優れたものとなる。そのため、本発明により製造される高密着性透明フィルムは、液晶ディスプレイ、タッチパネル、透明電極、レンズシート等の光学フィルム、建材基板、透明基板等に適して用いられ、このような透明フィルムを得ることが可能となる本発明は、その産業上の利用価値が極めて高いものである。また、本発明の高膜密着性透明フィルムの製造方法により得られる高膜密着性透明フィルムからは、簡易な製造プロセスにて表面機能層の品質均一性、低製造コスト、高製品歩留まりの表面機能性光硬化シートが得ることができる。このようにして得られる表面機能性光硬化シートは、液晶ディスプレイ、タッチパネル、透明電極、レンズシート等の光学フィルム、建材基板、透明基板等に適して用いられ、その産業上の利用価値が極めて高いものである。本発明の高密着性透明フィルムの製造方法の産業上の利用分野としては、光学用フィルム等の透明性、表面硬度、耐熱性、平滑性が要求される用途への適用が考えられ、具体的には、ディスプレイ基板、太陽電池基板等の多様な用途に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の高密着性透明フィルムの製造方法について、好適な実施形態を詳細に説明する。
【0015】
本発明の高密着性透明フィルムの製造方法では、光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する光硬化性樹脂組成物を使用し、これを透明フィルム(ベースフィルム)上に一定厚さにて流延し、その上に透明フィルム(カバーフィルム)を圧着した後、紫外線を照射し、硬化反応率を75〜90%に制御して硬化後、支持体として使用した透明フィルム(ベースフィルム及びカバーフィルム)を剥離除去する。
【0016】
光硬化性樹脂組成物は、光硬化性を有し、流動性または可塑性を有する液状のものが使用される。好ましい光硬化性樹脂組成物としては、光硬化性を有するかご型シルセスキオキサンを3重量%以上、好ましくは5〜30重量%含有する光硬化性樹脂である。
【0017】
光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂としては、例えば、次のようなものが適用できる。
先ず、第1として、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるかご型シルセスキオキサン樹脂である。
【0018】
上記一般式(1)において、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基のいずれか一つの反応性基を有する有機官能基であり、好ましくは上記一般式(3)、(4)又は(5)で表される有機官能基である。Xは加水分解性基であり、アルコキシ基、アセトキシ基等が挙げられるが、アルコキシル基であることが好ましい。アルコキシル基としてはメトキシ基、エトキシ基、n−及びi-プロポキシ基、n-、i-及びt−ブトキシ基等が挙げられる。このうち反応性が高いメトキシ基であることが好ましい。
【0019】
また、第2として、上記一般式(2)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂を使用することができる。上記一般式(2)において、R1〜R6はメチル基、フェニル基、又は反応性基を有する有機官能基である。R1〜R6は互いに同じであっても異なっていてもよいが、少なくとも一つは上記反応性基を有する有機官能基である。反応性基を有する有機官能基は、(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基のいずれか一つの反応性基を有する有機官能基であり、上記一般式(3)、(4)又は(5)で表される有機官能基が好ましく挙げられる。また、nは8、10、12又は14であり、mは0、2、4又は6である。
【0020】
上記第2で使用するかご型シルセスキオキサン樹脂は、たとえば、国際公開WO2008/099850公報に記載されているような方法で得ることができる。その際に、上記第1で使用するかご型シルセスキオキサン樹脂を原料として上記第2で使用するかご型シルセスキオキサン樹脂としてもよい。
【0021】
本発明で使用するかご型シルセスキオキサン樹脂が分子量分布及び分子構造の制御されたケイ素原子全てに(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基のいずれか一つの反応性基を有する有機官能基からなる反応性官能基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂であるのが好ましい。本発明で使用する光硬化性樹脂組成物には、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂、又はこれを主成分として含有する樹脂混合物、また、n数の異なる成分等の他の成分が含まれていてもよく、また、かご型シルセスキオキサン樹脂がオリゴマーであってもよい。
【0022】
光硬化性樹脂組成物には、かご型シルセスキオキサン樹脂に加えて、他の光硬化性樹脂や各種添加剤を配合することができる。
【0023】
他の光硬化性樹脂としては、重合性二重結合を有する不飽和化合物が好ましく、トリメチロールプロパントアクリレート等の多価アクリレート樹脂が好適に使用される。他の光硬化性樹脂はモノマーであっても、オリゴマー又は樹脂等の樹脂状物であってもよい。光硬化性樹脂組成物における他の光硬化性樹脂の配合量は、かご型シルセスキオキサン樹脂と他の光硬化性樹脂の合計に対し、97wt%以下であり、好ましくは30〜95wt%である。
【0024】
添加剤として、通常、光重合開始剤が配合される。光重合開始剤が配合量は、かご型シルセスキオキサン樹脂と他の光硬化性樹脂の合計に100重量部に対し0.5〜5重量部の範囲が好ましい。また、添加剤として、光硬化性を阻害しなければ、光硬化性樹脂組成物にフィラー系添加剤を加えてもよい。
【0025】
なお、本発明では、適当な溶媒を希釈剤として用い光硬化性樹脂組成物の粘度調整等して用いることもできるが、溶媒の揮発除去工程を考慮すると時間を要し生産効率が低下すること、硬化フィルム内部に残留溶媒等が存在し成形フィルムの特性低下につながることなどから、塗布される光硬化性樹脂組成物中、その含有量は5%以下にとどめておくことがよく、実質的には溶媒が含有されていないものを使用することが好ましい。しかし、透明ベースフィルム上に流延可能な程度の粘度に調整する。
【0026】
光硬化性樹脂組成物を透明ベースフィルム上に流延して、光硬化性樹脂層を一定の厚みとするが、その厚みは0.02〜1.0mmの範囲であることが望ましい。光硬化性樹脂層の厚みが0.02mmに満たないと塗工厚みの均一性が損なわれる恐れがあり、さらに透明カバーフィルム等の剥離時に透明フィルムの破損等が生じやすくなる。一方、1.0mmを超えると光硬化性樹脂の硬化収縮による変形が発生し、シート形状の不良となるおそれがある。
【0027】
光硬化性樹脂組成物を液状とすることにより、公知の塗布装置で塗布することができる。この場合、塗布ヘッドで硬化反応を起こすとゲル状の付着物が筋や異物の原因となるので、塗布ヘッドには紫外線が当たらないようにすることが望ましい。また、光硬化樹脂の硬化を進行させないためにも、この工程は5〜70℃の範囲で行うことが好ましい。塗布方式としては、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、カーテンコート、押出コート、スピナーコート等の公知の方法がある。
【0028】
透明フィルム(透明ベースフィルム及び透明カバーフィルム)としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセテート、アクリル、フッ化ビニル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン樹脂系、等のフィルムを単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、耐熱性と透明性に優れ他の諸特性のバランスのとれたポリエステルフィルムが好ましい。透明フィルムの光透過率は、80%以上が好ましく、85%以上にすることがより好ましい。
【0029】
透明フィルム(透明ベースフィルム及び透明カバーフィルム)の厚さは特に限定されないが、10〜400μm、特には50〜300μmのものが好ましい。表面形状についても平坦性を有するものであっても、表面に凹凸加工が施されているものでもよい。ただし、透明性を阻害しない表面形状が好ましい。透明フィルムの厚みが10μmに満たないと、本発明の製造方法で使用するには、その張力に耐えられない恐れがあり、また、製造工程で生ずる積層体のたわみやゆがみが大きくなってしまう可能性が高い。また、透明フィルムの厚みが400μmを超えると、透過率が低下するため光硬化性樹脂に与える紫外線エネルギー量が低下し、光硬化性樹脂の硬化が不十分となるおそれがある。
【0030】
光硬化性樹脂組成物を透明ベースフィルム上に流延して、その上に透明カバーフィルムを圧着することにより、透明ベースフィルム、光硬化性樹脂組成物層及び透明カバーフィルムが順次積層された積層体が形成される。この積層体の光硬化性樹脂層に、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムの少なくとも一方の面から紫外線が照射される。紫外線照射は、紫外線ランプを使用し紫外線を発生させて照射することができる。紫外線ランプには、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプ等があり、いずれも使用することができる。これらの紫外線ランプの中で、メタルハライドランプもしくは高圧水銀ランプが好ましい。照射条件はそれぞれの光硬化性樹脂、透明フィルム(ベースフィルム)、透明フィルム(カバーフィルム)、ランプ条件、塗工速度、塗工厚によって異なるが、光硬化性樹脂組成物の硬化反応率が75〜90%の範囲で制御される必要がある。上記光硬化性樹脂組成物の硬化反応率は、光硬化性樹脂組成物層に存在する重合性官能基(重合性二重結合やエポキシ基)の反応率と定義される。
【0031】
光硬化性樹脂層の硬化反応率が75%に満たないと光硬化性樹脂組成物層の機械物性不良が発生し、弾性率の低下、線膨張係数の増大が発生し易くなる。一方、光硬化性樹脂組成物層の硬化反応率が90%を超えると光硬化性樹脂組成物層表面に未反応官能基が少なく、後工程である高機能膜の密着性が悪化する。光硬化性樹脂組成物の硬化反応率は照射露光量によって調節することができる。照射露光量の目安として20〜10000mj/cm2程度であればよく、好ましくは100〜10000mj/cm2である。
【0032】
紫外線ランプには光エネルギーの有効利用のため楕円型、放物線型、拡散型等の反射板を取り付けることが好ましい。さらには、冷却対策として、熱カットフィルターを装着してもよい。
【0033】
紫外線硬化反応はラジカル反応であるため酸素による阻害を受けるので、紫外線照射ゾーン、すなわち、透明ベースフィルム及び転写フィルムにより挟まれ、流延された原料の液状光硬化性樹脂の表面では酸素濃度を1%以下にすることが好ましく、0.1%以下にすることがより好ましい。酸素濃度を小さくするには、透明ベースフィルム、透明カバーフィルム等の表面に空孔がなく、酸素透過率の小さいフィルムを採用することが有効である。
【0034】
このようにして光硬化性樹脂組成物層を硬化して高密着上性透明フィルムとするが、本発明では、原料に溶剤などの揮発成分をほとんど含有させなくとも流動性を確保できるので、塗布厚みとほぼ同等の厚みの高密着性透明フィルムを得ることが可能である。
【0035】
硬化後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離し、高密着性透明フィルムを得る。その後、ロール形状にて、そのまま巻き取りしても、所望のサイズにシート切断してもよい。シート切断方法としては、鋸盤法、コンターマシン法、シャーリング法、旋盤法、ガス切断法、レーザー切断法、プラズマ切断法、ウォータージェット切断法、打ち抜き切断法等の公知の方法がある。シート切断時点として、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムのベース基材を剥離前の段階でもよい。
【0036】
本発明においては、透明ベースフィルム、透明カバーフィルム等を剥離した後、シート切断及びロール巻き取り前に得られた高密着性透明フィルムの物性や品質を連続的に測定することが可能である。そのことにより、製造から製品の品質管理までの工程を連続的に行うことが可能となる。測定に使用される物性評価装置としては、赤外吸光装置による硬化反応率測定装置、分光光度計による光透過率測定装置、レーザー反射による表面欠陥検出装置、レーザー変位計によるフィルム厚み検出装置等があり、フィルムについての物性および品質測定装置であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0037】
本発明では、前記した透明ベースフィルム等の引き出しから、光硬化性樹脂の塗布を初めとし、紫外線による硬化、透明ベースフィルム等の剥離除去、望ましくは物性評価までが連続して行うことができ、最終的には所望のシート状またはロール状の高機能膜密着向上性透明フィルム製品とすることができる。本発明で使用される製造装置の設置環境としては、異物混入等の懸念があるため、クリーンルーム環境が好ましいが、装置回りの異物混入等の排気、吸気環境の配慮が成されていれば十分である。
【0038】
本発明で得られた高密着性透明フィルムには、高機能膜が密着されて、高機能膜密着透明フィルム製品となる。ここで、高機能膜とは、ハードコート膜、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、抗菌膜、ガスバリア膜または耐光性膜などの機能層を与える膜であればよく、これに限定されない。また、高密着性透明フィルムに、高機能膜を密着させる方法としては、蒸着、スパッターなどのドライ成膜方法とコーティングなどによるウェット成膜方法があるが、特に限定されない。
【0039】
高機能膜密着向上性透明フィルム製品の使用方法又は使用の形態は、テレビ・PCモニタ・携帯電話・PDA等の液晶表示装置の液晶表示パネルと液晶表示パネルを保護する保護板などである。この際、高機能膜密着透明フィルム製品は、そのまま又は硬化反応を完了させた状態で、液晶表示パネル等に適用されるが、この際必要により接着剤等を使用してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例もしくは比較例中の部は重量部を表す。
なお、硬化反応率は赤外分光分析にて1640cm-1付近のメチレン二重結合ピークと1470cm-1付近のメチル基ピークとの高さ比によって算定した。
【0041】
使用した材料とその略号を示す。
・TMTA:トリメチロールプロパントアクリレート、日本化薬社製KS-TMPA
・ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGACURE 184
・透明ベースフィルム:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上
・透明カバーフィルム:透明ベースフィルムと同じフィルム
【0042】
実施例1
TMPA80部、下記構造式(6)で表わされるシルセスキオキサンオリゴマー20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0043】
【化2】

【0044】
この液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明ベースフィルム上へスロットダイコーター法にて0.2mmの厚さに塗布した。そして、透明カバーフィルムを塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着して積層体とした。
この積層体の両面から、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で照射した。その後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離し、高密着性透明フィルムを得た。得られた高密着性透明フィルムの硬化反応率は88%であり、全光線透過率は90%であった。
【0045】
その後、高密着性透明フィルムの表面に反射防止膜をウェットコートにて10μm厚に成膜して、高機能膜密着透明フィルム製品とした。得られた高機能膜密着透明フィルム製品の全光線透過率は反射防止膜成膜前より+2.0%向上した。また、温水浸漬試験による密着性の評価を実施したところ、クロスカット試験での剥離は見られず本透明フィルムと反射防止膜との密着性は良好であることを確認した。
温水浸漬試験では、60℃温水3時間浸漬、その後取り出し、室温乾燥にて2時間放置。その後、クロスカット試験(JIS K5600)を行った。以下の実施例も同様である。
【0046】
実施例2
実施例1で得られた高密着性透明フィルムの表面に反射防止膜の代わりにハードコート膜をウェットコートにて70μm厚に成膜して高機能膜密着透明フィルム製品とした。そして、ハードコート膜の付与により初期鉛筆硬度(JIS K5600)は、2Hから5Hへ向上した。さらに温水浸漬試験を実施したところ、クロスカット試験での剥離は見られず、高密着性透明フィルムとハードコート膜との密着性は良好であることを確認した。
【0047】
実施例3
TMPA80部、下記構造式(7)で表わされるシルセスキオキサンオリゴマー20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。この液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明ベースフィルム上へスロットダイコーター法にて0.2mmの厚さに塗布した。そして、透明カバーフィルムを塗工した光硬化性樹脂組成物へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。その後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離し、高密着性透明フィルムを得た。この高密着性透明フィルムの硬化反応率は88%であった。
【0048】
その後、この高密着性透明フィルムの表面に反射防止膜をウェットコートにて10μm厚に成膜して高機能膜密着透明フィルム製品とした。そして、反射防止膜の付与により全光線透過率2.0向上した。さらに温水浸漬試験を実施して、高密着性透明フィルムと反射防止膜との密着性は良好であることを確認した。
【0049】
【化3】

【0050】
実施例4
TMPA80部、下記構造式(8)で表わされるシルセスキオキサンオリゴマー20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。この液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明ベースフィルム上へスロットダイコーター法にて0.2mmの厚さに塗布した。そして、透明カバーフィルムを塗工した光硬化性樹脂組成物へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を1500mj/cm2の割合で両面から照射した。その後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離し、高密着性透明フィルムを得た。この高密着性透明フィルムの硬化反応率は85%であった。
その後、この高密着性透明フィルムの表面に反射防止膜をウェットコートにて10μm厚に成膜して高機能膜密着透明フィルム製品とした。そして、反射防止膜の付与により全光線透過率2.0向上した。さらに温水浸漬試験を実施し、高密着性透明フィルムと反射防止膜との密着性は良好であることを確認した。
【0051】
【化4】

【0052】
実施例5
TMPA80部、下記構造式(9)で表わされるシルセスキオキサンオリゴマー20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。この液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明ベースフィルム上へスロットダイコーター法にて0.2mmの厚さに塗布した。そして、透明カバーフィルムを塗工した光硬化性樹脂組成物へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を1000mj/cm2の割合で両面から照射した。その後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離し、高密着性透明フィルムを得た。この高密着性透明フィルムの硬化反応率は83%であった。
その後、この高密着性透明フィルムの表面に反射防止膜をウェットコートにて成膜した。そして、反射防止膜の付与により全光線透過率2.0向上した。さらに温水浸漬試験を実施して、高密着性透明フィルムと反射防止膜との密着性は良好であることを確認した。
【0053】
【化5】

【0054】
比較例1
TMPA80部、上記構造式(6)で表わされるシルセスキオキサンオリゴマー20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。この液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明ベースフィルム上へスロットダイコーター法にて0.2mmの厚さに塗布した。そして、透明カバーフィルムを塗工した光硬化性樹脂組成物へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を1500mj/cm2の割合で両面から照射した。その後、透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離し、高密着性透明フィルムを得た。この高密着性透明フィルムの硬化反応率は94%であった。
その後、この高密着性透明フィルムの表面に反射防止膜をウェットコートにて成膜した。反射防止膜の付与により全光線透過率が2.0向上した。さらに温水浸漬試験を実施したが、高密着性透明フィルムと反射防止膜の間で剥離が生じた。
【0055】
比較例2
比較例1で得た高密着性透明フィルムの表面にハードコート膜をウェットコートにて成膜した。ハードコート膜の付与により初期鉛筆硬度(JIS K5600)2Hが5Hへ向上した。温水浸漬試験を実施したところ、高密着性透明フィルムとハードコート膜の間で剥離が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する光硬化性樹脂組成物を、透明ベースフィルム上に一定厚さにて流延し、その上に透明カバーフィルムを圧着した後、紫外線を照射し、光硬化性樹脂組成物を硬化反応率75〜90%の範囲に硬化後、上記透明ベースフィルム及び透明カバーフィルムを剥離除去することを特徴とする高密着性透明フィルムの製造方法。
【請求項2】
光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を3重量%以上含有したことを特徴とする請求項1に記載の高密着性透明フィルムの製造方法。
【請求項3】
光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(1)、
RSiX3 ・・・(1)
(式中、Rはビニル基、(メタ)アクリロイル基、又はグリシジル基から選ばれるいずれか一つの重合性基を有する有機官能基を示し、Xは加水分解性基を示す。)
で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高密着性透明フィルムの製造方法。
【請求項4】
光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2)、
(R1R2R3SiO3/2)n-(R4R5R6SiO1/2)m (2)
(式中、R1〜R6はメチル基、フェニル基、又は(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基から選ばれるいずれか一つの反応性基を有する有機官能基を示し、R1〜R6は互いに同じであっても異なっていてもよいが、少なくとも一つは上記反応性基を有する有機官能基であり、nは8、10、12又は14を示し、mは0、2、4又は6を示す。)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高密着性透明フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)において、(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基から選ばれるいずれか一つの反応性基を有する有機官能基が、下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される有機官能基であることを特徴とする請求項4に記載の高密着性透明フィルムの製造方法。
【化1】

(式(3)中、R7は水素原子又はメチル基を示し、式(3)及び(4)中、mは1〜3の整数を示す。)

【公開番号】特開2012−218322(P2012−218322A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87309(P2011−87309)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】