説明

高度推定方法、携行端末及び情報提供装置

【課題】ユーザーに携行される携行端末の高度を推定するための新たな手法の提案。
【解決手段】高度推定システム1において、登山者であるユーザーに携行される登山用携行端末2は、携行予定範囲に対応する登山口位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを、登山口位置に設置された登山支援装置3から直接通信によって取得する。そして、登山用携行端末2は、取得した予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を求め、気圧センサーの測定値と、求めた予想気圧とを用いて、登山用携行端末2の現在高度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度推定方法、携行端末及び情報提供装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザーに携行される携行端末において高度推定を行う技術として、例えば特許文献1には、広域の大気モデルから取得される携行端末の位置における海面気圧と、携行端末が測定した気圧とを用いて、携行端末の位置の高度を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−544216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術では、携行端末の高度推定を行うために、携行端末の位置(位置座標)が必要となる。すなわち、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)を利用するなどして携行端末の位置を求める。そして、求めた位置における気圧を広域の大気モデルから導出し、導出した気圧と携行端末が測定した気圧とを用いて携行端末の位置の高度を推定するのである。
【0005】
この特許文献1の技術を実現するためには、理論的には、地球上の全ての位置の気圧を導出可能な大気モデルを作成するか、或いは、地球上の全ての位置について気圧モデルを個別に用意する必要があり、現実的ではない。また、携行端末の位置を求める必要があるため、位置算出装置を携行端末に組み込む必要がある。位置算出装置を組み込まずに、外部サーバー等で携行端末の位置を算出する手法も知られてはいる。しかし、そのためには、外部サーバーと通信する手段を携行端末に組み込む必要がある。加えて、外部サーバーとの間で通信ができなければ携行端末の高度が推定できず、例えば山の中での高度推定は不可能となる。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ユーザーに携行される携行端末の高度を推定するための新たな手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の形態は、ユーザーに携行される携行端末が実行する高度推定方法であって、携行予定範囲に対応する基準位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを取得することと、気圧を測定することと、前記予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を求めることと、前記測定された気圧である測定値と前記予想気圧とを用いて現在高度を推定することと、を含む高度推定方法である。
【0008】
また、第7の形態として、携行予定範囲内の所与の基準位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを取得する取得部と、気圧を測定する測定部と、前記予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を算出する予想気圧算出部と、前記測定部による測定値と前記予想気圧とを用いて現在高度を推定する推定部と、を備えた携行端末を構成してもよい。
【0009】
この第1の形態等によれば、携行予定範囲に対応する基準位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンが取得される。そして、当該予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧が求められ、気圧の測定値と予想気圧とを用いて現在高度が推定される。
【0010】
ユーザーが携行端末を携行して移動することが予定される範囲は、ある程度広範な範囲となることが予想される。実施例で詳細後述するが、本願発明者は、ある一定の距離範囲内においては、気圧の時間変動の傾向が同一視可能であることを発見した。そこで、携行端末の携行予定範囲に対応する基準位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを定めておき、当該予想気圧変動パターンから求めた現在時刻における予想気圧を用いて現在高度を推定することとした。かかる手法により、携行端末の現在高度を適切に推定することができる。
【0011】
また、第2の形態として、第1の形態の高度推定方法であって、設置位置にて、直接通信によって、当該設置位置の高度と当該設置位置での現在気圧とを少なくとも含むローカル情報を提供する情報提供装置から前記ローカル情報を取得すること、前記ローカル情報と前記測定値とを用いて測定誤差を算出すること、前記現在高度を推定する際に前記測定誤差を用いて補正する、或いは、前記測定を校正すること、を更に含む高度推定方法を構成してもよい。
【0012】
また、第8の形態として、設置位置にて、直接通信によって、当該設置位置での前記予想気圧変動パターンを第7の形態の携行端末に提供する情報提供装置を構成してもよい。
【0013】
携行端末が測定した気圧の測定値には、例えばセンサーのバイアス値といった測定誤差が含まれ得る。そこで、第2の形態では、情報提供装置の設置位置において、当該設置位置での現在気圧を含むローカル情報を直接通信によって取得し、当該ローカル情報と気圧の測定値とを用いて測定誤差を算出する。そして、現在高度を推定する際に当該測定誤差を用いて補正する、或いは、測定を校正することで、高度推定の正確性を向上させることができる。
【0014】
また、第3の形態として、第2の形態の高度推定方法であって、前記情報提供装置は、設置位置での前記予想気圧変動パターンを前記ローカル情報に更に含めて提供する装置であり、前記情報提供装置から取得した前記ローカル情報に含まれる前記予想気圧変動パターンを、前記携行予定範囲の予想気圧変動パターンとして用いることを更に含む、高度推定方法を構成してもよい。
【0015】
この第3の形態によれば、情報提供装置から取得したローカル情報に含まれる予想気圧変動パターンを、携行予定範囲の予想気圧変動パターンとして用いる。これにより、情報提供装置の設置位置を含む携行予定範囲での高度推定を適切に行うことができる。
【0016】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の高度推定方法であって、前記予想気圧変動パターンは、前記基準位置での陸上気圧を気圧基準としており、前記現在高度を推定することは、前記予想気圧と前記測定値とを用いて前記基準位置の高度からの高度差を求め、前記高度差を前記基準位置の高度に加算することで前記現在高度を推定することである、高度推定方法を構成してもよい。
【0017】
この第4の形態によれば、予想気圧と気圧の測定値とを用いて基準位置の高度からの高度差を求め、当該高度差を基準位置の高度に加算するといった簡易な演算によって、現在高度を推定することができる。
【0018】
また、第5の形態として、第1〜第3の何れかの形態の高度推定方法であって、前記予想気圧変動パターンは、前記基準位置での陸上気圧を気圧基準としており、前記予想気圧を求めることは、前記予想気圧変動パターンを、海面気圧を気圧基準とする予想海面気圧変動パターンに換算し、前記予想海面気圧変動パターンに基づいて現在時刻における予想海面気圧を求めることであり、前記現在高度を推定することは、前記予想海面気圧と前記測定値とを用いて前記現在高度を推定することである、高度推定方法を構成してもよい。
【0019】
この第5の形態によれば、当該予想海面気圧変動パターンに基づいて現在時刻における予想海面気圧を求め、当該予想海面気圧と気圧の測定値とを用いるだけで、現在高度を簡易に推定することができる。
【0020】
また、第6の形態として、第3の形態の高度推定方法であって、前記携行端末は、登山用携行端末であり、前記情報提供装置は、登山道の所定位置に設置されており、前記登山道に沿った移動範囲を前記携行予定範囲とみなすことを更に含む、高度推定方法を構成してもよい。
【0021】
この第6の形態によれば、携行端末は、登山用携行端末であり、情報提供装置は、登山道の所定位置に設置されている。そして、登山道に沿った移動範囲を携行予定範囲とみなして高度を推定する。登山用携行端末を携行したユーザーは、登山用携行端末に、登山道に設置された情報提供装置から予想気圧変動パターンを取得させる。そして、登山の間、登山用携行端末に高度推定を行わせることで、ユーザーの現在位置における高度を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】高度推定システムのシステム構成の説明図。
【図2】予想気圧変動パターンの説明図。
【図3】高度推定の説明図。
【図4】登山支援装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【図5】登山口情報のデータ構成の一例を示す図。
【図6】登山口予想陸上気圧変動パターンのデータ構成の一例を示す図。
【図7】センサーデータのデータ構成の一例を示す図。
【図8】登山用携行端末の機能構成の一例を示すブロック図。
【図9】登山支援処理の流れを示すフローチャート。
【図10】メイン処理の流れを示すフローチャート。
【図11】高度推定処理の流れを示すフローチャート。
【図12】変形例におけるエリア構成の説明図。
【図13】第2登山支援情報のデータ構成の一例を示す図。
【図14】(A)は通常時の表示画面の一例。(B)は異常時の報知画面の一例。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、登山者であるユーザーに携行される登山用の携行端末(以下、「登山用携行端末」と称す。)における高度推定を実現するための高度推定システムの実施形態について説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけではないことは勿論である。
【0024】
1.システム構成
図1は、本実施形態における高度推定システム1のシステム構成の説明図である。本実施形態は、登山者である登山用携行端末2のユーザーが登山を行う際に、登山用携行端末2が現在高度の推定を実行する実施形態である。
【0025】
図1では、登山者が登山を行う山の一例として「Mt.Yari」を図示している。「Mt.Yari」には、「表ルート」と「裏ルート」との2つの登山ルートが存在する。表ルートは、N登山口を基点として山頂に至る登山道であり、裏ルートは、T登山口を基点として山頂に至る登山道である。何れの登山道も、登山口から山頂までは一本道のルートである。高度推定システム1は、登山用携行端末2と、登山支援装置3と、サーバー4とを備えて構成される。
【0026】
登山用携行端末2は、登山者が登山を行う際に携行する小型の携行端末であり、登山者が登山中に、現在位置の高度や気圧といった情報を参照するために使用される。登山用携行端末2は、気圧センサー及び温度センサーを含むセンサー部を備え、登山用携行端末2が現在高度の推定を行うために必要な外界の情報を測定する。
【0027】
また、登山用携行端末2は、登山口に設置された登山支援装置3と、その設置位置にて直接通信を行って登山支援情報を取得する。具体的には、非接触式短距離無線通信等の近距離無線方式により登山支援情報を取得する。例えば、登山者は、登山を開始する前に、自身が携行する登山用携行端末2を登山口に設置された登山支援装置3にタッチする。これにより登山用携行端末2と登山支援装置3とを通信接続し、登山者の登山を支援するための情報である登山支援情報を登山支援装置3から取得する。そして、登山者が登山を開始すると、登山用携行端末2は、登山支援装置3から取得した登山支援情報を用いて登山用携行端末2の現在高度を推定する。この高度推定方法については、詳細に後述する。
【0028】
登山支援装置3は、登山者の登山を支援するために登山道に設置される情報提供装置である。本実施形態では、各々の登山ルートの登山口に登山支援装置3が個別に設置される。登山支援装置3は、登山口において登山者が視認し易い位置に設置される。例えば、登山口における案内図や地図、標識、登山ポストといった設置物に併設されると好適である。登山者が登山支援装置3の使用方法を知ることができるように、使用方法を記した看板を設置するなどすれば更に好適である。
【0029】
登山支援装置3は、登山者が登山支援装置3を操作するためのボタンスイッチや、登山用携行端末2をタッチするための近接通信用パネル、登山に係る各種の情報を表示出力或いは音出力するためのディスプレイやスピーカーを備えて構成される。
【0030】
登山支援装置3は、ローカル情報の一種である登山支援情報を生成して登山用携行端末2に送信・提供する。具体的には、サーバー4から取得したエリア別の予想気圧変動パターンを用いて、登山口位置を基準位置とし、当該登山口位置での気圧の時間変動を予想した登山口予想気圧変動パターンを生成する。そして、登山支援装置3の設置位置の位置座標や高度といった登山口情報と、登山口予想気圧変動パターンと、当該設置位置での現在気圧と、を含む登山支援情報を登山用携行端末2に提供する。なお、本実施形態では、登山支援装置3の設置位置(登山口)の位置座標及び高度は既知であるものとする。
【0031】
サーバー4は、登山支援装置3を統括的に管理する管理装置であり、登山支援装置3を管理する民間団体や公益団体等によって設置される管理サーバーに相当する。サーバー4は、所定のネットワークNを介して有線又は無線によって各登山口の登山支援装置3と通信接続される。サーバー4は、エリア別に予想気圧の時間変動の傾向をパターン化した予想気圧変動パターンのデータベースを保有している。
【0032】
エリア別の予想気圧変動パターンは、例えば、気象庁から提供される天気図等の気圧情報を用いて公知の生成手法に従って生成される。予想気圧変動パターンは、エリア別に気圧の時間変動の傾向をモデリングしたモデルデータであるとも言える。サーバー4は、登山支援装置3からの要求に応じて、当該登山支援装置3の設置位置のエリアに対応する予想気圧変動パターンを、当該登山支援装置3に提供する。
【0033】
2.原理
本実施形態における高度推定の原理について説明する。本願発明者は、気圧の時間変動の地域差を調査した。調査には、気象庁や民間団体等から提供されている気圧の時間変動に関するデータ(例えば天気図データ)を利用した。調査の結果、市町村レベルといったある程度狭小な距離範囲(以下、この距離範囲で定義される領域のことを「エリア」と称する。)で見た場合に、気圧の時間変動の傾向はほぼ同じであり、同一視可能であることがわかった。
【0034】
エリアが同じであっても、地点によって高度や気温は異なる。そのため、同じエリア内の各々の地点において観測される気圧値を個別に見ると、当然ながらその値は異なる。しかしながら、ある一定の期間(スパン)で見た場合、総体的な気圧値の高低の違いこそあれ、気圧が上昇/減少する時間的なタイミングは共通しており、各々の地点における気圧の時間変動には相関が見られた。
【0035】
かかる知見に基づいて、本願発明者は、日本国を複数のエリアに分割し、予想気圧の時間変動の傾向をパターン化した予想気圧変動パターンをエリア別に定めることを考えた。つまり、同じエリア内においては、予想気圧の時間変動の傾向は同じであるとみなし、共通の予想気圧変動パターンを定めることとした。
【0036】
本実施形態において、図1の「Mt.Yari」の全域は同じエリアに含まれているものとして説明する。この場合、N登山口とT登山口とは同じエリアに含まれるため、N登山口とT登山口とでは位置及び高度が異なるが、気圧の時間変動の傾向は同じとする。すなわち、N登山口とT登山口とで予想気圧変動パターンは共通となる。
【0037】
以下の説明では、「陸上気圧」と「海面気圧」との2種類の気圧を説明に用いる。陸上気圧は、陸上で実際に観測される気圧であり、現地気圧と同義である。それに対して、海面気圧は、陸上気圧を海面の高さ(高度0m)に更生した気圧であり、海面更正気圧と同義である。そして、陸上気圧の形式の予想気圧変動パターンのことを「予想陸上気圧変動パターン」と称し、海面気圧の形式の予想気圧変動パターンのことを「予想海面気圧変動パターン」と称する。
【0038】
図2は、予想気圧変動パターンの説明図である。ここでは、日本国のある1つの県に着目し、県の地図をメッシュ状に区切って複数のエリアを形成した場合を例示している。メッシュ状に区切られた矩形のエリアそれぞれについて、当該エリアの番号(エリアNo)と対応付けて予想気圧変動パターンが定められている。
【0039】
本実施形態では、サーバー4が、予想海面気圧変動パターンのデータベースを保持しているものとして説明する。登山口に設置された登山支援装置3は、既知である当該登山口の位置が含まれるエリアに対応する予想海面気圧変動パターンをサーバー4から取得する。そして、登山支援装置3は、既知である当該登山口の高度を用いて、取得した予想海面気圧変動パターンを予想陸上気圧変動パターンに換算する。
【0040】
予想海面気圧変動パターンから予想陸上気圧変動パターンへの換算式は、例えば次式(1)で与えられる。
0=P{1−0.0065h/(T+0.0065h+273.15)}−5.257
・・・(1)
但し、“P0”は海面気圧(海面更生気圧)、“P”は陸上気圧(現地気圧)である。また、“h”は観測地点の高度(標高)であり、“T”は観測地点の気温(温度)である。
【0041】
上記の式(1)において、海面気圧“P0”を予想海面気圧とし、観測地点の高度“h”を登山口の高度とすることで、予想海面気圧“P0”を予想陸上気圧“P”に換算することができる。なお、登山口の気温“T”は一定ではないが、気温“T”の項はさほど効いてこないため、気温“T”は固定値(例えば18度)としてもよい。
【0042】
このようにして換算された予想陸上気圧変動パターンは、登山口の高度を用いて換算されたパターンであり、登山口位置における予想陸上気圧の変動パターンである。そのため、この換算された予想陸上気圧変動パターンのことを「登山口予想陸上気圧変動パターン」と称する。登山支援装置3は、登山口予想陸上気圧変動パターンを登山用携行端末2に提供する。
【0043】
図3は、本実施形態における高度推定の説明図である。図3において、横軸は時間、縦軸は陸上気圧(単位はヘクトパスカル[hPa])を示している。登山口予想陸上気圧変動パターンに定められた登山口予想陸上気圧の時間変化の一例と、登山用携行端末2において測定される測定陸上気圧の時間変化の一例とをそれぞれ図示している。
【0044】
図3において、登山口予想陸上気圧は、ある陸上気圧の値から時間経過に伴って徐々に減少し、再び増加する時間変化として図示されている。それに対して、測定陸上気圧は、ある気圧から徐々に減少していく時間変化として図示されている。これは、登山者が山を登っていくことで登山用携行端末2の高度が増加し、陸上気圧が徐々に低下することによるものである。
【0045】
例えば、登山用携行端末2が、時刻“t0”において登山支援装置3から登山支援情報を取得したとする。この場合、登山用携行端末2は、登山支援装置3から取得した時刻“t0”における登山口位置での陸上気圧と、時刻“t0”における自端末の測定陸上気圧との差を算出する。この差は、登山支援装置3の設置位置での現地気圧を真値とした場合の登山用携行端末2の測定陸上気圧に含まれる測定誤差であり、自端末の気圧センサーのバイアス値に相当する。
【0046】
そして、登山用携行端末2は、上記のようにして求めた気圧センサーのバイアス値を考慮して、登山口予想陸上気圧変動パターンに定められた時刻“t0”における予想陸上気圧“P1”と、時刻“t0”における登山用携行端末2の測定陸上気圧“P2”との差を気圧オフセット値“Poff”として求める。そして、登山用携行端末2は、気圧オフセット値“Poff”を保持する。
【0047】
登山用携行端末2は、次のようにして高度を算出する。例えば、図3において、高度を算出した時刻を“t1”とする。この場合、登山用携行端末2は、登山口予想陸上気圧変動パターンの時刻“t1”での予想陸上気圧“P3”と、その算出時点(時刻“t1”)での登山用携行端末2の測定陸上気圧“P4”との気圧差“ΔP=P3−P4”を算出する。ところが、この気圧差“ΔP”には、気圧オフセット値“Poff”分の誤差が含まれている。そのため、気圧オフセット値“Poff”を用いて気圧差“ΔP”を補正する。例えば、図3では、気圧差を“ΔP=P3−P4−Poff”と補正する。
【0048】
このようにして補正した気圧差“ΔP”は、登山口位置の陸上気圧を基準とした気圧差に相当する。そのため、気圧差“ΔP”を、登山口位置からの高度差“Δh”に換算する。換算方法としては、例えば、気圧差“ΔP”と高度差“Δh”とを線形的に結びつけた換算式によって換算してもよい。また、高度が高くなるほど、同じ気圧変化に対する高度変化は大きくなる。そのため、高度が高くなるほど、同じ気圧の変化量に対する高度の変化量が大きくなるように定められた換算式によって換算を行ってもよい。
【0049】
換算された高度差“Δh”は、登山口位置からの高度差である。そのため、高度差“Δh”を登山口位置の高度“h0”に加算することで、登山用携行端末2の現在高度“h=h0+Δh”を求めることができる。
【0050】
3.機能構成
3−1.登山支援装置3の機能構成
図4は、本実施形態における登山支援装置3の機能構成の一例を示すブロック図である。登山支援装置3は、処理部310と、操作部320と、表示部330と、音出力部340と、通信部350と、時計部360と、センサー部370と、記憶部380とを備え、各部がバスで接続されるコンピューターシステムである。
【0051】
処理部310は、記憶部380に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って登山支援装置3の各部を統括的に制御する機能部であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部310は、記憶部380に記憶されている登山支援プログラム381に従って、登山者であるユーザーの登山を支援する処理を行う。
【0052】
操作部320は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部310に出力する。具体的には、登山者が登山用携行端末2をタッチして通信するための近接通信用パネルや、登山支援情報をディスプレイに表示出力させたり、スピーカーから音出力させる指示を行うためのボタンスイッチ等を備える。
【0053】
表示部330は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部310から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部330には、登山支援情報等が表示される。
【0054】
音出力部340は、スピーカー等により構成され、処理部310から入力される音出力信号に基づいた各種音出力を行う音出力装置である。音出力部340からは、表示部330と同様に、登山支援情報等が音出力される。
【0055】
通信部350は、2つの通信装置で構成される。1つは、登山支援装置3が登山用携行端末2と無線通信を行うための通信装置である。この機能は、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)といった非接触型の無線通信方式や、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)といった公知の近距離無線方式の技術を用いて実現される。もう1つの通信装置は、ネットワークNを介してサーバー4と通信するための通信装置であり、無線或いは有線によってサーバー4と通信接続される。
【0056】
時計部360は、登山支援装置3の内部時計であり、水晶発振器等を有する発振回路を備えて構成される。時計部360の計時時刻は、処理部310に随時出力される。
【0057】
センサー部370は、登山支援装置3の外界の情報を測定・取得するための機能部であり、気圧センサー371と温度センサー373とを備えて構成される。気圧センサー371及び温度センサー373の測定結果は、処理部310に随時出力される。
【0058】
記憶部380は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備えた記憶装置であり、処理部310が登山支援装置3を制御するためのシステムプログラムや、登山支援機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、処理部310により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0059】
図4に示すように記憶部380には、プログラムとして、処理部310により読み出され、登山支援処理(図9参照)として実行される登山支援プログラム381が記憶されている。
【0060】
登山支援処理とは、処理部310が、サーバー4から予想海面気圧変動パターンを取得して予想陸上気圧変動パターンに換算し、登山支援情報に含めて登山用携行端末2に送信・提供する処理である。また、登山者からの指示操作に応じて、登山支援情報を表示出力或いは音出力させる。この登山支援処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0061】
また、記憶部380には、データとして、登山口情報383と、登山口予想陸上気圧変動パターン385と、センサーデータ387とが記憶される。
【0062】
登山口情報383は、自装置が設置された登山口に関する情報であり、そのデータ構成例を図5に示す。登山口情報383には、例えば、当該登山口の名称である登山口名3831と、当該登山口の位置(自装置の設置位置)の位置座標3833と、当該登山口の高度(自装置の設置位置の高度)3835とが紐付けて記憶されている。この登山口情報383は、予め測定されて登山支援装置3に記憶される。
【0063】
登山口予想陸上気圧変動パターン385は、登山口位置における予想陸上気圧の時間変動のデータであり、そのデータ構成例を図6に示す。登山口予想陸上気圧変動パターン385には、パターンの生成日時3851と、予想期間3853と、日時別の予想陸上気圧のデータ3855とが紐付けて記憶されている。予想期間3853は、気圧の予想対象とする期間であり、例えば日単位や週単位の期間が記憶される。
【0064】
センサーデータ387は、登山支援装置3のセンサー部370の測定結果が格納されたデータであり、そのデータ構成例を図7に示す。センサーデータ387には、センサー部370の測定時刻3871と対応付けて、気圧センサー371により測定された測定陸上気圧3873と、温度センサー373により測定された測定温度3875とが時系列に記憶される。このセンサーデータ387は、センサー部370の測定に応じて随時更新される。
【0065】
3−2.登山用携行端末2の機能構成
図8は、本実施形態における登山用携行端末2の機能構成の一例を示すブロック図である。登山用携行端末2は、処理部210と、操作部220と、表示部230と、音出力部240と、通信部250と、時計部260と、センサー部270と、記憶部280とを備えて構成される。
【0066】
処理部210及び通信部250は、登山支援装置3から予想気圧変動パターンを取得する取得部として機能する。また、処理部210は、登山支援装置3から取得した予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を算出する予想気圧算出部として機能するとともに、気圧センサー271の測定値と予想気圧とを用いて現在高度を推定する推定部として機能する。また、気圧センサー271は、気圧を測定する測定部に相当する。
【0067】
登山用携行端末2の記憶部280には、プログラムとして、処理部210により読み出され、メイン処理(図10参照)として実行されるメインプログラム281が記憶されている。また、メインプログラム281には、高度推定処理(図11参照)として実行される高度推定プログラム2811がサブルーチンとして含まれている。
【0068】
メイン処理とは、処理部210が、登山支援装置3から登山支援情報285を取得するとともに、自端末の現在高度を推定して登山者への報知を行う処理である。また、高度推定処理とは、原理で説明した高度推定方法に従って、自端末の現在高度を推定する処理である。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0069】
また、記憶部280には、データとして、センサーデータ283と、登山支援情報285と、気圧オフセット値287と、推定高度289とが記憶される。
【0070】
センサーデータ283は、登山用携行端末2のセンサー部270の測定結果が時系列に記憶されたデータであり、そのデータ構成例は図7のセンサーデータと略同一である。
【0071】
登山支援情報285は、登山支援装置3から取得されるローカル情報であり、登山口情報383と、登山口予想陸上気圧変動パターン385と、登山口陸上気圧389とがこれに含まれる。登山口陸上気圧389は、登山支援装置3の気圧センサー371により測定された陸上気圧(現在気圧)であり、気圧オフセット値287を算出するために使用される。
【0072】
4.処理
4−1.登山支援装置3の処理
図9は、登山支援装置3において、処理部310が記憶部380に記憶された登山支援プログラム381に従って実行する登山支援処理の流れを示すフローチャートである。
【0073】
先ず、処理部310は、登山用携行端末2と通信接続されたか否かを判定する(ステップA1)。具体的には、登山用携行端末2が登山支援装置3の近接通信用パネルにタッチされ、登山用携行端末2と通信可能になったことを検出する。
【0074】
そして、通信接続されたと判定した場合は(ステップA1;Yes)、処理部310は、登山支援情報285を生成して送信する(ステップA3)。具体的には、記憶部380に記憶された登山口情報383と、登山口予想陸上気圧変動パターン385と、気圧センサー371により測定された登山口陸上気圧389とを紐付けて、登山支援情報285として登山用携行端末2に送信する。
【0075】
次いで、処理部310は、操作部320を介して登山者から登山支援情報285の表示要求がなされたか否かを判定する(ステップA5)。すなわち、登山者が登山支援装置3のボタンスイッチを操作して、登山支援情報285をディスプレイに表示する表示要求を行ったことを検出する。
【0076】
そして、表示要求がなされたと判定した場合は(ステップA5;Yes)、処理部310は、登山支援情報285を表示部330に表示させる制御を行う(ステップA7)。具体的には、例えば、登山口位置の位置座標や高度といった情報(登山口情報)を表示部330に表示させるとともに、登山口予想陸上気圧パターンをグラフ化して表示部330に表示させる。
【0077】
なお、ここでは登山者からの表示要求に応じて登山支援情報285を表示部330に表示させる場合について説明したが、登山者からの音出力要求に応じて登山支援情報285を音出力部340から音出力させることとしてもよい。
【0078】
その後、処理部310は、予想気圧変動パターンの更新タイミングであるか否かを判定する(ステップA9)。この更新タイミングは、種々のタイミングとすることができる。例えば、急激な気候変動が発生したタイミングを更新タイミングとしてもよい。登山支援装置3は、気圧センサー371及び温度センサー373を具備している。そのため、陸上気圧の測定結果や温度の測定結果の時間変化を監視することで、気候変動を検出することができる。他の更新タイミングとしては、所定時間間隔毎のタイミング(例えば12時間に1回のタイミング)や、登山支援装置3の管理者によって更新操作がなされたタイミングを更新タイミングとしてもよい。
【0079】
ステップA9において更新タイミングであると判定した場合は(ステップA9;Yes)、処理部310は、通信部350を介してサーバー4に通信接続し、自設置位置を含むエリアNoに対応する予想海面気圧変動パターンをサーバー4から取得する(ステップA11)。
【0080】
その後、処理部310は、サーバー4から取得した予想海面気圧変動パターンを、予想陸上気圧変動パターンに換算する(ステップA13)。すなわち、登山口情報383に記憶されている登山口の高度3835を用いて、例えば式(1)に従って予想海面気圧変動パターンを予想陸上気圧変動パターンに変換する。そして、処理部310は、ステップA1に戻る。
【0081】
4−2.登山用携行端末2の処理
図10は、登山用携行端末2において、処理部210が記憶部280に記憶されたメインプログラム281に従って実行するメイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0082】
先ず、処理部210は、登山支援装置3と通信接続されたか否かを判定する(ステップB1)。すなわち、登山用携行端末2が登山支援装置3の近接通信用パネルにタッチされることで、登山支援装置3と通信可能になったことを検出する。
【0083】
次いで、処理部210は、登山支援装置3から登山支援情報285を受信したか否かを判定し(ステップB3)、受信したと判定した場合は(ステップB3;Yes)、当該登山支援情報285を記憶部280に記憶させる(ステップB5)。
【0084】
その後、処理部210は、気圧センサー271のバイアス値を算出する(ステップB7)。すなわち、気圧センサー271により測定された現在の測定陸上気圧と、登山支援情報285に含まれる登山口陸上気圧389との差を算出してバイアス値とする。
【0085】
そして、処理部210は、気圧オフセット値287を算出して、記憶部280に記憶させる(ステップB9)。すなわち、ステップB7で算出した気圧センサー271のバイアス値を考慮して、登山口予想陸上気圧変動パターン385に含まれる予想陸上気圧からの気圧オフセット値“Poff”を算出する。
【0086】
次いで、処理部210は、記憶部280に記憶された高度推定プログラム2811に従って高度推定処理を実行する(ステップB11)。
【0087】
図11は、高度推定処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、処理部210は、センサー部270からセンサーデータを取得する(ステップC1)。そして、処理部210は、記憶部280に記憶された登山口予想陸上気圧変動パターン385から、現在時刻における予想陸上気圧を読み出す(ステップC3)。
【0088】
次いで、処理部210は、ステップC3で読み出した予想陸上気圧と、ステップC1で取得したセンサーデータの現在時刻における測定陸上気圧との気圧差を算出する(ステップC5)。そして、算出した気圧差を、記憶部280に記憶されている気圧オフセット値287を用いて補正する(ステップC7)。
【0089】
その後、処理部210は、ステップC7で補正した気圧差を、所定の換算式に従って高度差に換算する(ステップC9)。そして、処理部210は、登山支援情報285に含まれる登山口の高度3835と、算出した高度差とを用いて現在高度を算出し、推定高度289として記憶部280に記憶させる(ステップC11)。そして、処理部210は、高度推定処理を終了する。
【0090】
図10のメイン処理に戻って、高度推定処理を行った後、処理部210は、記憶部280に記憶された推定高度289を表示部230に表示制御する(ステップB13)。そして、処理部210は、処理を終了するか否かを判定する(ステップB15)。例えば、登山者の登山が終了し、操作部220を介して登山者により高度推定の終了指示操作がなされたことを検出する。
【0091】
ステップB15において処理を終了しないと判定した場合は(ステップB15;No)、処理部210は、ステップB1に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップB15;Yes)、処理部210は、メイン処理を終了する。
【0092】
5.作用効果
高度推定システム1において、登山者であるユーザーに携行される登山用携行端末2は、携行予定範囲に対応する登山口位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを、登山口位置に設置された登山支援装置3から直接通信によって取得する。そして、登山用携行端末2は、取得した予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を求め、気圧センサー271の測定値と、求めた予想気圧とを用いて、登山用携行端末2の現在高度を推定する。
【0093】
登山者が登山を行う際には、登山口から山頂に至るまでの距離範囲が登山用携行端末2の携行予定範囲となる。本実施形態では、当該携行予定範囲においては、気圧の時間変動の傾向は同じであるとみなす。そして、当該携行予定範囲における予想気圧の時間変動をパターン化した予想気圧変動パターンを用いて、登山用携行端末2が高度推定を実行する。かかる手法により、登山用携行端末2の位置での高度推定を適切に行うことができる。
【0094】
6.変形例
6−1.予想気圧変動パターンの切替
上述した実施形態では、単一の予想気圧変動パターンを用いて高度推定を行うものとして説明したが、複数の予想気圧変動パターンを用いて高度推定を行うこととしてもよい。
【0095】
図12は、変形例におけるエリア構成の説明図である。ここでは、図1において登山者が登山を行う山として説明した「Mt.Yari」の全域を俯瞰した図を示している。山の高さや規模によっては、山の全域において気圧の時間変動の傾向を同一視することが適切ではない場合も想定される。このような状況を想定して、図12では、「Mt.Yari」の全域を複数のエリアに分割し、各々のエリアについて異なる予想気圧変動パターンを設定する場合を示している。
【0096】
図12において、N登山口とT登山口とは異なるエリアに属しているため、気圧の時間変動の傾向は同一ではなく、異なる時間変動の傾向を示すものとして考える。すなわち、N登山口において登山用携行端末2に提供される登山口予想陸上気圧変動パターンと、T登山口において登山用携行端末2に提供される登山口予想陸上気圧変動パターンとを異なるパターンとする。
【0097】
次に、N登山口から山頂に至る表ルートに注目する。表ルートにおいて、N登山口を含むエリア(以下、「第1エリア」と称す。)と、山頂を含むエリア(以下、「第2エリア」と称す。)とは異なるエリアとなっている。そのため、表ルートでは、第1エリアの予想気圧変動パターンと、第2エリアの予想気圧変動パターンとの2種類のパターンを用いて高度推定を実行する。
【0098】
図13は、この場合に登山用携行端末2がN登山口に設置された登山支援装置3から取得する第2登山支援情報400のデータ構成の一例を示す図である。第2登山支援情報400には、登山口情報383と、第1エリア用予想陸上気圧変動パターン401と、第2エリア用予想気圧変動パターン402と、切替高度データ403とが含まれている。
【0099】
第1及び第2エリア用予想気圧変動パターン401,402は、それぞれ第1及び第2エリアの陸上気圧の時間変動がパターン化(モデル化)されたデータである。また、切替高度データ403は、第1及び第2エリア用予想気圧変動パターンを切り替える高度(以下、「切替高度」と称す。)が記憶されたデータである。第1エリアと第2エリアとの境界位置の高度が切替高度として定められている。
【0100】
登山用携行端末2の処理部210は、N登山口において第2登山支援情報400を取得すると高度推定を開始する。処理部210は、切替高度データ403を参照して、現在高度が切替高度に達したか否かを判定する。そして、切替高度に達していないと判定した場合は、処理部210は、第1エリア用予想気圧変動パターン401を用いて高度推定を行う。また、切替高度に達したと判定した場合は、処理部210は、第2エリア用予想気圧変動パターン402を用いた高度推定に処理を切り替える。
【0101】
6−2.登山支援装置3の設置場所
登山支援装置3の設置場所は、登山口に限られるわけではない。例えば、登山道の途中に設けられた山小屋にも登山支援装置3を設置することとしてもよい。この場合、登山用携行端末2は、登山ルートの途中で、山小屋に設置された登山支援装置3からも登山支援情報を取得する。この場合は、例えば登山口から山小屋までの高度推定の結果を一旦リセットして、山小屋の位置から新たに高度推定を開始することができる。
【0102】
なお、前述した予想気圧変動パターンの切替とも関連するが、登山口に設置された登山支援装置3からは第1エリア用の予想気圧変動パターンを取得し、山小屋に設置された登山支援装置3からは第2エリア用の予想気圧変動パターンを取得して高度推定を行うこととしてもよい。
【0103】
6−3.気圧測定の校正
上述した実施形態では、気圧オフセット値を用いて予想陸上気圧と測定陸上気圧との気圧差を補正するものとして説明したが、気圧オフセット値を用いて陸上気圧の測定を校正することとしてもよい。すなわち、登山用携行端末2は、気圧センサーのバイアス値及び気圧オフセット値を用いて、自端末の気圧センサーをキャリブレーションする。そして、高度推定を行う際に、キャリブレーションが施された気圧センサーの測定陸上気圧と、予想陸上気圧変動パターンから読み出した予想陸上気圧との気圧差を算出する。そして、算出した気圧差を高度差に換算し、換算した高度差を用いて現在高度を推定する。
【0104】
6−4.現在高度の推定
上述した実施形態では、登山口位置での陸上気圧を基準として、登山口位置の高度からの高度差を求め、当該高度差を登山口位置の高度に加算することで現在の高度を推定した。この高度推定の計算を次のように行ってもよい。
【0105】
すなわち、登山用携行端末2は、登山支援装置3から取得した登山口予想陸上気圧変動パターンを、海面気圧を気圧基準とする登山口予想海面気圧変動パターンに換算する。この換算は、登山支援装置3から取得した登山口高度“h0”を用いて行うことができる。そして、換算した登山口予想海面気圧変動パターンに基づいて現在時刻における予想海面気圧を求め、当該予想海面気圧と、自端末の気圧センサー271による測定陸上気圧とを用いて現在高度を推定する。すなわち、登山口予想海面気圧変動パターンから読み出した予想海面気圧を“P0”、登山用携行端末2の測定陸上気圧を“P”、登山用携行端末2の測定温度を“T”として、式(1)に従って登山用携行端末2の高度“h”を算出・推定する。
【0106】
式(1)は、陸上気圧と海面気圧との相互の換算式であり、通常は同一地点における陸上気圧から海面気圧への換算、或いは、海面気圧から陸上気圧への換算に用いられる。本実施形態では、同じエリア内においては気圧の時間変動の傾向を同一視することとしている。すなわち、登山口位置と登山用携行端末2の位置とで気圧の時間変動の傾向は同じであると仮定している。この仮定により、登山口位置と登山用携行端末2の位置との2地点の高度差、換言すれば、登山口位置を基準高度とした場合の登山用携行端末2の相対高度を推定するために、式(1)を利用することができる。
【0107】
6−5.予想気圧変動パターンの算出
複数の地点において算出された予想気圧変動パターンを用いて、他の任意の地点における予想気圧変動パターンを算出することとしてもよい。例えば、A地点における予想気圧変動パターンが“pA(t)”、B地点における予想気圧変動パターンが“pB(t)”、C地点における予想気圧変動パターンが“pC(t)”であるとする。この場合、A地点、B地点及びC地点を結ぶエリアに属する任意のN地点の予想気圧変動パターン“pN(t)”を、予想気圧変動パターン“pA(t)”、“pB(t)”、“pC(t)”の加重平均によって求めることができる。
【0108】
具体的には、次式(2)に従って予想気圧変動パターン“pN(t)”を算出する。
N(t)=(α×pA(t)+β×pB(t)+γ×pC(t))/(α+β+γ)
・・・(2)
但し、“α”、“β”、“γ”は、それぞれ予想気圧変動パターン“pA(t)”、“pB(t)”、“pC(t)”の重みである。これらの重みは、A〜Cの各地点とN地点との間の距離に応じて、例えば距離が短いほど大きな値を設定するようにすればよい。
【0109】
6−6.予想気圧の信頼性報知
例えば、現地の気候に予想とは異なる急激な変動があったようなには、登山用端末の現地気圧の時間変動が予想気圧の時間変動と大きく乖離することとなる。そのような場合には、その旨を登山者に報知することとしてもよい。
【0110】
具体的には、例えば、次の様な処理を行う。図11の高度推定処理において推定した高度(推定高度)を、推定した時刻(推定時刻)とともに高度履歴データとして記憶部280に記憶していく。そして、推定高度の時間変化に異常が見られた場合には、予想気圧の信頼性が低下した、すなわち現地気圧の時間変動が予想気圧の時間変動と大きく異なっているとして所定の報知処理を行う。
【0111】
推定高度の時間変化の異常判定としては、例えば、高度履歴データに基づいて3分間隔の高度変化の変化速度(微分)を求め、その変化速度が所定の高度変化正常条件を満たしていれば「正常」と判定し、満たしていなければ「異常」と判定する。高度変化正常条件は、登山やトレッキング等における通常の高度変化に、ある程度の幅を持たせた条件として適宜設定される。そして、異常時(信頼性低下時)には所定の報知画面を表示する。
【0112】
図14は、この場合に登山用携行端末2の表示部230に表示される表示画面の一例を示す図である。図14(A)は正常時に表示される表示画面W10を示し、図14(B)は異常時に表示される報知画面W20を示している。表示画面W10には、高度推定処理で推定された推定高度のみが表示されている。
【0113】
それに対して、報知画面W20には、通常表示される推定高度の他に、予想気圧の信頼性が低いことを登山者に報知するための警告マークMKが表示されている。また、推定高度の下には、「予想気圧から外れています。現地気候の急変が予想されます。」というメッセージMSが表示されている。かかる表示により、登山者は、現地気候の急変を知ることができ、山小屋に避難するなどの安全対策を行うことができる。
【0114】
6−7.登山支援情報
登山支援装置3が登山用携行端末2に提供する登山支援情報の内容及びデータ構成は適宜設定変更可能である。例えば、予想気圧変動データを陸上気圧の形式で提供するのではなく、海面気圧の形式で提供することとしてもよい。また、陸上気圧の形式と海面気圧の形式との両方の形式の予想気圧変動データを提供することとしてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1 高度推定システム、 2 登山用携行端末、 3 登山支援装置、
4 サーバー、 210,310 処理部、 220,320 操作部、
230,330 表示部、 240,340 音出力部、 250,350 通信部、
260,360 時計部、 270,370 センサー部、
271,371 気圧センサー、 273,373 温度センサー、
280,380 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーに携行される携行端末が実行する高度推定方法であって、
携行予定範囲に対応する基準位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを取得することと、
気圧を測定することと、
前記予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を求めることと、
前記測定された気圧である測定値と前記予想気圧とを用いて現在高度を推定することと、
を含む高度推定方法。
【請求項2】
設置位置にて、直接通信によって、当該設置位置の高度と当該設置位置での現在気圧とを少なくとも含むローカル情報を提供する情報提供装置から前記ローカル情報を取得すること、
前記ローカル情報と前記測定値とを用いて測定誤差を算出すること、
前記現在高度を推定する際に前記測定誤差を用いて補正する、或いは、前記測定を校正すること、
を更に含む請求項1に記載の高度推定方法。
【請求項3】
前記情報提供装置は、設置位置での前記予想気圧変動パターンを前記ローカル情報に更に含めて提供する装置であり、
前記情報提供装置から取得した前記ローカル情報に含まれる前記予想気圧変動パターンを、前記携行予定範囲の予想気圧変動パターンとして用いることを更に含む、
請求項2に記載の高度推定方法。
【請求項4】
前記予想気圧変動パターンは、前記基準位置での陸上気圧を気圧基準としており、
前記現在高度を推定することは、前記予想気圧と前記測定値とを用いて前記基準位置の高度からの高度差を求め、前記高度差を前記基準位置の高度に加算することで前記現在高度を推定することである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の高度推定方法。
【請求項5】
前記予想気圧変動パターンは、前記基準位置での陸上気圧を気圧基準としており、
前記予想気圧を求めることは、前記予想気圧変動パターンを、海面気圧を気圧基準とする予想海面気圧変動パターンに換算し、前記予想海面気圧変動パターンに基づいて現在時刻における予想海面気圧を求めることであり、
前記現在高度を推定することは、前記予想海面気圧と前記測定値とを用いて前記現在高度を推定することである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の高度推定方法。
【請求項6】
前記携行端末は、登山用携行端末であり、
前記情報提供装置は、登山道の所定位置に設置されており、
前記登山道に沿った移動範囲を前記携行予定範囲とみなすことを更に含む、
請求項3に記載の高度推定方法。
【請求項7】
携行予定範囲内の所与の基準位置での気圧の時間変動を予想した予想気圧変動パターンを取得する取得部と、
気圧を測定する測定部と、
前記予想気圧変動パターンに基づいて現在時刻に対応する予想気圧を算出する予想気圧算出部と、
前記測定部による測定値と前記予想気圧とを用いて現在高度を推定する推定部と、
を備えた携行端末。
【請求項8】
設置位置にて、直接通信によって、当該設置位置での前記予想気圧変動パターンを請求項7に記載の携行端末に提供する情報提供装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−257260(P2011−257260A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131739(P2010−131739)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】