説明

高強度ガラス基板の加工装置

【課題】高強度ガラスに形成する初亀裂としての傷をガラスの強化層に対して最適な深さおよび形状に制御して形成することにより、高強度ガラスのレーザスクライブ処理に当たり、効果的な初亀裂を形成する。
【解決手段】高強度ガラス基板1をスクライブ加工する際に、高強度ガラス基板1に対して初亀裂を形成するダイヤカッタを設け、このダイヤカッタのダイヤチップ21を高強度ガラス基板1に対して割断予定線方向に引き摺るように移動させながら、高強度ガラス基板1に押しつけて高強度ガラス基板1の表面に初亀裂26としての傷17を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスマートフォンやタブレット端末、ノートパソコン、タッチテーブルのスクリーンやテレビのスクリーンなどに使用されるフラットパネルディスプレイ用ガラスなどに使用されるガラス基板の加工装置に関し、特にガラス表面を化学強化したアルカリアルミノシリケートガラスやフロートガラスに熱処理を加えて風冷強化した強化ガラスの加工に好適な高強度ガラス基板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近ガラス割断において、過去1世紀にわたって使用されてきたダイヤモンドチップによる機械的方法に代わって、レーザビーム照射による熱応力スクライブ方法(以下レーザスクライブと略記する)が使用されるようになってきた。
【0003】
レーザスクライブによれば、機械的方法に固有の欠点、すなわちマイクロクラック発生によるガラス強度の低下、割断時のカレット発生による汚染、適用板厚の下限値の存在などが一掃できる。
【0004】
レーザスクライブにおいては一般に、ガラスを局所的に加熱し、気化、溶融やクラックが発生しない程度のレーザ光照射を行なう。この時ガラス加熱部は熱膨張しようとするが周辺ガラスからの反作用にあい十分な膨張ができず、この加熱領域には圧縮応力が発生する。周辺の非加熱領域でも、加熱部からの膨張に押されてさらに周辺に対して歪みが発生し、その結果圧縮応力が発生する。こうした圧縮応力は加熱中心点を原点とした半径方向のもので、加熱が発生後ほとんど音速でガラス板全域に伝播する。ところで物体に圧縮応力がある場合には、その直交方向にはポアソン比に比例した引っ張り応力が発生する。
【0005】
引張り応力の存在位置に亀裂がある場合にはこの亀裂先端では応力拡大が発生し、この拡大された応力が材料の破壊靱性値を超えると亀裂が拡大する。すなわち、亀裂先端から加熱中心に向かって亀裂が進展するという制御された割断が生じることになる。したがって、レーザ照射点を先行走査することで、亀裂を延長させていくことができる。
【0006】
ガラスのレーザスクライブはこの原理を使用しており、引張り応力の最大点付近に冷却を行なうと、このときガラスの収縮によって増幅される引張り応力が割断強化に役立ち、加熱と冷却の併用によって割断が効率よく実現できることが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1によれば、加熱用レーザ光としてはCOレーザ光が使用される。COレーザ光のビームスポットにおけるエネルギーの99%は、ガラス板6の深さ3.7μmのガラス表面層において吸収され、ガラス板の全厚さにわたって透過しない。これは、CO2
レーザ波長におけるガラスの吸収係数が著しく大きいことによる。この結果、加熱はガラス板の表面層のみで発生し、この加熱領域では圧縮応力が発生する。
【0008】
一方、この加熱領域から外れた位置にある冷却点で冷却を行なうと引張り応力が発生し、この冷却点から後方に初亀裂を出発点とする表面スクライブが発生する。このスクライブの深さは、ソーダガラスなどでは通常100μm程度である。しかしながら、ガラス板は脆性が強く、このスクライブ線にあわせて曲げ応力を印加し機械的に割断することが容易である。この曲げ応力の印加によって割断するプロセスをブレイクと称する。レーザビームは走査方向の方向に走査される。この方法は従来方法である機械的方法に比較すれば数多くの長所があり、フラットパネルディスプレイ装置の生産に徐々に応用されるようになって来た。
【0009】
ガラスのレーザスクライブ加工においては、割断すべきガラスをガラス基板保持テーブル上に載置し、ガラスの割断予定線における割断開始位置にダイヤモンドカッタなどにより初亀裂を形成し、ガラスの割断予定線に沿ってガラスが気化、溶融やクラックが発生しない程度のレーザ光を照射して局所的に加熱し、加熱領域から外れた位置を冷却すると、この冷却位置から後方に初亀裂を出発点とする表面スクライブ溝が形成される。その後スクライブ溝に沿っていわゆるブレイク加工を行なうことによりガラスを割断している。
(たとえば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3027768号明細書(コンドラテンコ特許)
【特許文献2】特開2011−11972号公報(榎園フルスクライブ特許)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、スマートフォンやタブレット端末、ノートパソコン、タッチテーブルのスクリーンやテレビのスクリーンなどのフラットパネルディスプレイ用ガラスとしてガラス表面の硬度を増すためにガラス表面を強化した強化ガラスが使用されている。図6(a)は一般的に使用されているソーダガラス31の表面を化学処理あるいは熱処理を加えて風冷強化した強化ガラスで、ガラス31の表面に厚さが数μmの強化層32が形成されている。
【0012】
一方、近年この強化ガラスとして、図6(b)に示すような、表面を一層高強度に化学強化したアルカリアルミノシリケートガラス15が活用されている。この高強度に強化されたアルカリアルミノシリケートガラス15は、一般的な強化ガラスよりも強化層16が強くかつ厚さが20〜30μmと厚く、ガラス15に対して深く形成されている。
【0013】
前述したように、ガラスにレーザスクライブを行う場合、スクライブ開始点に初亀裂と呼ばれる機械的な亀裂(傷)を付ける必要がある。図6(a)に示す従来の強化ガラス31は強化層32が数μmと薄いが、表面の強化層32のために初亀裂としての傷は一般に図7(a)のように強化層32の内部に浅い傷33として形成される。初亀裂としての傷33が浅いと傷33がガラス表面の強化層32の内部に留まる事になり、レーザスクライブの熱応力を加えても、堅い強化層32に阻まれて亀裂として進展する事が困難である。
【0014】
そこで、図7(b)のように、傷33の深さを深く形成することが考えられる。しかし、傷33が深すぎると、レーザスクライブの熱応力によって、傷33がガラス31の深部まで容易に進展してガラス31の裏面に達することがあり、その結果ガラス31が裏面まで割れてしまう。ガラス31が裏面まで割れてしまうと、ガラス31の割断面の進行方向が割断予定線から外れてしまったり、希望する位置で割断が停止せずに予期しない位置にまで割断が進行してしまうなどの現象によりガラスの割断を制御できず、ガラスを所望の状態でスクライブすることができないなどの問題が発生する。また、傷33の割断予定線の方向に沿った形状によっても同様の問題が発生する。この問題は、図6(a)に示す従来の強化ガラス31はもちろん、図6(b)に示す表面を一層高強度に化学強化したアルカリアルミノシリケートガラス15においても同様である。したがって、これらの問題を解決するためには、傷33の深さおよび割断予定線の方向に沿った形状を精密に制御する事が重要となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたもので、表面を化学処理あるいは熱処理を加えて風冷強化した強化ガラスはもちろん、表面を一層高強度に化学強化したアルカリアルミノシリケートガラス(以下これらを高強度ガラスと総称する。)に形成する初亀裂としての傷をガラスの強化層に対して最適な深さおよび形状に制御して形成することにより、高強度ガラスのレーザスクライブ処理に当たり、効果的な初亀裂を形成することができるガラス基板の加工方法を提供することを目的とするものである。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、高強度ガラス基板をガラス基板保持用テーブル上に支持し、高強度ガラス基板の割断予定線に沿ってレーザビームで加熱後その加熱位置を冷却し、レーザビームの照射位置および冷却点を高強度ガラス基板に対して割断予定線に沿って相対的に移動させて高強度ガラス基板にスクライブを形成する高強度ガラス基板の加工方法において、高強度ガラス基板に対して初亀裂を形成するダイヤカッタを設け、このダイヤカッタを高強度ガラス基板に対して割断予定線方向に引き摺るように移動させながら、高強度ガラス基板に押しつけて高強度ガラス基板の表面に初亀裂としての傷を形成するものである。
【0017】
上記構成によれば、高強度ガラスに形成する初亀裂としての傷を高強度ガラスの強化層に対して最適な深さおよび形状に制御して形成することができるので、高強度ガラスのレーザスクライブ処理に当たり、効果的な初亀裂を形成することができる高強度ガラス基板の加工方法を提供することができる。
また、スクライブを進める方向における傷の形状としては、傷の長さおよび太さを制御することにより、高強度ガラスの特性(厚み・強化層の状態)に応じた初亀裂としての傷を形成することができる。
【0018】
高強度ガラスの強化層に初亀裂としての傷を付けるには、特許文献2のようにダイヤチップを先端に取り付けた棒状のカッタを使用する事が経済的であるが、このカッタを使用する場合、以下のような原因によりカッタの喰い込む深さを適正に制御する事が困難である。
【0019】
たとえば、カッタを停止させてカッタのダイヤチップをガラスに喰い込ませた後移動させる場合は、ダイヤチップを喰い込ませた場所ではカッタが深く入るが、カッタの移動に連れてガラス表面の反力により、相対的にカッタが持ち上げられる方向に動き、急激に亀裂が浅くなって、最適な深さで、かつ或る程度の長さを保持する事が困難である。
また、カッタのダイヤチップをガラスに喰い込ませた状態でダイヤチップをガラス表面に引き摺らせる場合は、ガラスの反力でダイヤチップが浮き上がり、カッタの喰い込む深さを一定深さに保つ事が困難である。
【0020】
つまり、まとめると以下のようになる。
(1)
ガラス表面にカッタのダイヤチップを一定位置で喰い込ませるようにすると、カッタの移動に連れてガラス表面の反力により
相対的にカッタが持ち上げられる方向に動くので、ダイヤチップをガラスの強化層を破って喰い込ませるためには強い力が必要となるが、多くの場合深く喰い込みすぎてガラス本体内に深く喰い込んだ傷が形成されてしまい、傷の深さを一定の深さに保つ事が困難である。
(2)ダイヤチップがガラスに喰い込んだ状態で引き摺ると、ガラスの反力でダイヤチップが浮き上がるので、傷の深さを一定深さに保つ事が困難である。
【0021】
本発明においては、カッタのダイヤチップをガラスに対して引き摺る方向へ動作させながら、ガラス表面に押しつけることにより、強い力が不要で、かつ、ガラスの反力によりダイヤチップが浮き上がることもなく所望の一定深さの傷を形成することによって、レーザスクライブの成功率が大きく向上させるものである。この方法によって作られた傷は、喰い込み始めた部分は深さが浅いために細く、距離を経るほどに喰い込んで行くために、ダイヤチップを引き摺る方向に沿って徐々に深くかつ太く形成され、上から見るとヒトダマのような形状となる。傷の長さはダイヤチップをガラスに対して引き摺る長さによって制御することができる。
【0022】
なお、ガラスの特性(厚み・強化層の状態など)により、スクライブを進める方向に向かって細くなる傷がよい場合と、スクライブを進める方向に向かって太くなる傷が良い場合がある。そこで、本発明においては、傷の深さのほかにスクライブを進める方向における傷の長さおよび太さを制御することができるようにしている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高強度ガラスに形成する初亀裂としての傷を高強度ガラスの強化層に対して最適な深さおよび形状に制御して形成することができる。したがって、強化ガラスのレーザスクライブ処理に当たり、最適な初亀裂としての傷を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係る高強度ガラス基板の加工方法に使用される加工装置の概略側面図
【図2】本発明の実施例に係る高強度ガラス基板の加工装置に使用されるダイヤモンドカッタの概略図
【図3】本発明の実施例に係るガラス基板保持用テーブルに高強度ガラス基板を載置した状態の概略斜視図
【図4】本発明の実施例に係る高強度ガラス基板の加工方法の加工過程および初亀裂の形状を説明する図で、(a)は初亀裂としての溝加工初期段階の断面側面図、(b)は初亀裂としての溝加工終了時の断面側面図、(c)は加工された初亀裂の平面図、(d)は加工された初亀裂の断面図、
【図5】本発明の他の実施例に係る高強度ガラス基板の加工方法による初亀裂の形状を説明する図で、(a)は加工された初亀裂の平面図、(b)は加工された初亀裂の断面図、
【図6】本発明に使用される高強度ガラスの断面図で、(a)は一般的な強化ガラス、(b)は表面を一層高強度に化学強化したアルカリアルミノシリケートガラスの図、
【図7】従来の強化ガラス基板に初亀裂としての傷を形成したときの断面側面図で、(a)は傷が浅く形成された場合、(b)は傷が深く形成された場合の図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、高強度ガラス基板をガラス基板保持用テーブル上に支持し、高強度ガラス基板の割断予定線に沿ってレーザビームで加熱後その加熱位置を冷却し、レーザビームの照射位置および冷却点を高強度ガラス基板に対して割断予定線に沿って相対的に移動させて高強度ガラス基板にスクライブを形成する高強度ガラス基板の加工方法であって、初亀裂を形成するダイヤカッタを高強度ガラス基板に対して割断予定線方向に引き摺るように移動させながら、押しつけて高強度ガラス基板の表面に初亀裂としての傷を形成するものである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施例においては、高強度ガラス基板として表面を高強度に化学強化したアルカリアルミノシリケートガラスを例に説明するが、そのほかの強化ガラスについても適用可能であることはもちろんである。
図1は本発明によるガラスの加工方法に使用される加工装置の全体構成を示す概念図である。アルカリアルミノシリケートガラスによる高強度ガラス基板1はガラス基板保持テーブル10上に載置され、ガラス基板保持テーブル10はX−Y駆動装置によりX−Y平面において移動する。図においては、ガラスの移動方向であるY軸駆動用のサーボモータ8とシャフト軸9のみが示されており、X軸駆動系は図示省略されている。
【0027】
高強度ガラス基板1を加熱するレーザ発振器2は、ガラス基板1に対して不透明な波長のレーザ光線を出力するレーザ光源、例えば、波長10.6μmのレーザ光線を出力するCOガスレーザ光源が使用される。レーザ発振器2はたとえば最大出力100Wのガス封じ切り型が使用される。なお、高強度ガラス基板1がアルカリアルミノシリケートガラスのような表面強化層が厚い場合には大きな熱歪を発生させる必要がある場合がしばしばあるので、最大出力が200Wのレーザ発振器を使用することが好ましい。レーザ照射装置2から出力されるレーザビーム3は、反射鏡4により下向きに反射されてビーム変換装置11に入射される。
【0028】
ビーム変換装置11は、平行に対向配置された全反射面および部分反射面を備えており、反射鏡4から反射された一本のレーザビーム3をビーム変換装置11に斜入射させると、レーザビーム3は全反射面および部分反射面の間において複数回多重反射して、部分反射面からビームエネルギーの一部を順次に透過することにより割断予定線の方向に配列した複数本のビームよりなるレーザビーム列5に変換される。このレーザビーム列5は高強度ガラス基板1に斜照射される。
【0029】
複数本のビームよりなるレーザビーム列5の照射位置の前方には、高強度ガラス基板1の割断予定線の始点となる初亀裂となる傷を形成するためのダイヤモンドカッタ7が設けられている。一方、複数本のビームよりなるビーム列5の照射位置の後方には、レーザビーム列5による加熱領域に間隔をあけて追従しながら加熱された高強度ガラス基板1の表面に水ミストなどの冷媒を吹き付けて急冷却する冷却装置6が配置されている。
【0030】
図2は本発明によるガラスの加工方法に使用される加工装置におけるダイヤモンドカッタ7の詳細図である。図2において、ダイヤモンドカッタ7のダイヤチップ21はダイヤチップ21を適度な弾力でガラス表面に押しつけて加圧するダンパ22に結合されており、ダイヤチップ21およびダンパ22はモータ23で上下方向に駆動されるモータ式の直動式アクチュエータ24に結合されて上下方向に駆動される。ダンパ22としては、空気圧や油圧などの流体の移動により圧力を発生するシリンダなどの機構により構成することができる。
【0031】
図3はガラス基板保持用テーブル10に高強度ガラス基板1を載置した状態の概略斜視図である。ガラス基板保持テーブル10の一主面には加工する高強度ガラス基板1が載置される。高強度ガラス基板1の割断予定線25の始端には初亀裂26となるクラックが形成される。高強度ガラス基板1は初亀裂26を始点としてスクライブ溝27が形成される。詳細は後述する。
【0032】
つぎに図面をもとに本発明によるガラス基板の加工装置の動作を説明する。
アルカリアルミノシリケートの高強度ガラス基板1をスクライブ加工するために、まず、高強度ガラス基板1の割断予定線25の始端にダイヤモンドカッタ7により初亀裂26を形成する。この初亀裂26がガラス基板11の加工の出発位置となる。初亀裂26を形成するには、まず、ガラス基板保持テーブル10の上に載置されたガラス基板1をサーボモータ8により−Y方向に移動させ、高強度ガラス基板1の割断予定線25の始端をダイヤモンドカッタ7のダイヤ21の直下に位置させて、直動式アクチュエータ24によりイヤモンドカッタ7のダイヤチップ21を下降させてガラス基板1に接触させ、さらに、エアダンパ22によりダイヤチップ21を適度な弾力でガラス基板1の表面に押しつける。
【0033】
図4は初亀裂26の形成過程を示す図である。図4(a)のようにダイヤモンドカッタ7のダイヤチップ21の先端をガラス基板1の割断予定線25の始端に接触させ、ダイヤモンドカッタ7のダイヤチップ21を高強度ガラス基板1に押し込みながらガラス基板保持テーブル10を+Y方向に移動させると、図4(b)のように、傷17が徐々に高強度ガラス基板1の強化層16内に伸びてゆき、やがて高強度ガラス基板1の本体部15に達する。傷17の深さが高強度ガラス基板1の本体部15内の所定の深さDに達した時、ダイヤチップ21の押し込みを一定に保ちながら高強度ガラス基板1をさらに所定の距離Lだけ移動させ、ついでダイヤチップ21の押し込みを徐々に減らしながらさらに高強度ガラス基板1を移動させると、やがてダイヤチップ21は高強度ガラス基板1から離間し、高強度ガラス基板1に傷17により初亀裂26が形成される。この時の初亀裂26の形状は高強度ガラス基板1の上面から見たときは図4(c)のように高強度ガラス基板1の端部から徐々に幅が大きくなったヒトダマのような形状をしている。断面で見ると図4(d)のように傷17の深さが徐々に深くなった形状をしている。この深さおよび形状はエアダンパ22によりダイヤチップ21の押し込み量を制御することにより自在に制御することができる。
【0034】
傷17の所定の深さDとしては、強化層16の厚さより10%〜30%程度若干深い位置が好ましく、最適値としては高強度ガラス基板1の表面から強化層16の厚さ+20%、すなわち強化層16の厚さの1.2倍の深さとすることが望ましい。一方、距離Lは、初亀裂26の形状としての長さを決めるために決定され、高強度ガラス基板1の割断予定線25の長さに応じて定められる。
【0035】
なお、高強度ガラス基板1の強化層16の厚みや強化層の形成状態などの特性により、初亀裂26の深さおよび形状が図4(c)、(d)のようにスクライブを進める方向に深くかつ太くなる傷17を形成する方が良い場合と、図5(a)、(b)のようにスクライブを進める方向に浅くかつ細くなる傷17を形成する方が良い場合がある。たとえば、高強度ガラス基板1の板厚が厚い場合(たとえば0.7mm以上)は、必要とされるレーザスクライブを維持するためにスクライブを進める方向に向かって深くかつ太くなる傷17を形成し、板厚が0.7mmより薄い場合(たとえば0.6mm以下)は、必要とされるレーザスクライブを維持するためにはスクライブを進める方向に向かって浅くかつ細くなる傷17を形成した方が良いと思われる。ただし、いずれの場合も傷17の深さは前述した所定の深さDに達していることが必要であることは言うまでもない。
【0036】
図5(a)、(b)のように、スクライブを進める方向に浅くかつ細くなる傷17を形成するには、図4の場合とは逆に、ダイヤチップ21の先端をガラス基板1の割断予定線25の始端に接触させ、ダイヤチップ21を高強度ガラス基板1に強く押し込みながら高強度ガラス基板1を+Y方向に移動させると、ただちに傷17の深さが高強度ガラス基板1の本体部15内の所定の深さDに達し、その後ダイヤチップ21の押し込みを一定に保ちながら高強度ガラス基板1をさらに所定の距離Lだけ移動させ、ついでダイヤチップ21の押し込みを徐々に減らしながらさらに高強度ガラス基板1を移動させるようにすればよい。
【0037】
ただし、この場合は、高強度ガラス基板1の傷17の形成に対する抵抗が大きくなり、ダイヤチップ21の先端に強い力が働いて折れてしまうことがある。これを防ぐには、まず、ダイヤチップ21の先端を高強度ガラス基板1の割断予定線25の始端から内側の距離Lの位置に接触させ、その状態から図4の場合と同様にダイヤ21を高強度ガラス基板1に押し込みながら高強度ガラス基板1を図4とは逆の−Y方向に移動させるようにすれば、割断予定線25の始端において深く広い形状の初亀裂26を形成することができる。
【0038】
こうして高強度ガラス基板1に初亀裂26を形成したのち、ダイヤチップ21をガラス基板1の表面から離間させ、ガラス基板保持テーブル10の上に載置された高強度ガラス基板1をサーボモータ8により+Y方向に移動させながら、レーザ照射装置2を発振させてレーザビーム3を出射する。出射されたレーザビーム3は、反射鏡4により下向きに反射されてビーム変換装置12に斜入射され、ビーム変換装置12の全反射面および部分反射面の間において複数回多重反射して、部分反射面から割断予定線25の方向に配列した複数本のビームよりなるレーザビーム列5に変換されて高強度ガラス基板1に斜照射される。
【0039】
この結果、高強度ガラス基板1は初亀裂26を始端として割断予定線12に沿ってレーザビーム列5により加熱される。可動式テーブル10をサーボモータ8によりさらに+Y方向に移動させると高強度ガラス基板1もさらに+Y方向に移動し、レーザビーム列5により加熱された領域は冷却装置7の真下の位置に達する。このとき、冷却装置6から冷媒となる水ミストを噴射すると、高強度ガラス基板1は冷却点直下で初亀裂26から拡大した亀裂が高強度ガラス基板11の板厚方向に発生する。
【0040】
初亀裂26の付近で板厚方向に拡大した亀裂は、レーザビーム列5および冷却点の組み合わせが高強度ガラス基板1に対して相対的に移送するのに伴って、割断予定線12に沿って亀裂を拡大させることができる。この結果、高強度ガラス基板11表面にスクライブ溝27が形成される。
【0041】
なお、以上の説明において、ダイヤモンドチップ21の上下機構およびガラス基板1へ押し付ける弾力印加機構としてダンパ22およびモータ式の直動式アクチュエータ24を使用した例について説明したが、ダンパ22およびモータ式の直動式アクチュエータ24のいずれか一方を省略していずれか一方のみでダイヤモンドチップ21の上下機構およびガラス基板1へ押し付ける弾力印加機構を兼用するようにしてもよい。
【0042】
以上のように、本発明は、高強度ガラス基板にスクライブを形成する高強度ガラス基板の加工方法において、高強度ガラス基板に初亀裂を形成するダイヤカッタを高強度ガラス基板に対して割断予定線方向に引き摺るように移動させながら、高強度ガラス基板に押しつけて高強度ガラス基板の表面に初亀裂としての傷を形成するものである。
本発明によれば、高強度ガラスに形成する初亀裂としての傷を高強度ガラスの強化層に対して最適な深さおよび形状に制御して形成することができるので、高強度ガラスのレーザスクライブ処理に当たり、効果的な初亀裂を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明による高強度ガラス基板の加工方法は、近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイや携帯電話、携帯端末などの表示装置用に用いられているガラス表面に強化層を形成した高強度ガラスの鏡面割断に適用して好適である。
【符号の説明】
【0044】
1 ガラス基板
2 レーザ発振器
3 レーザビーム
4 反射鏡
5 レーザビーム列
6 冷却装置
7 ダイヤモンドカッタ
8 サーボモータ
9 シャフト軸
10 ガラス基板保持テーブル
11 ビーム変換装置
21 ダイヤチップ
22 ダンパ
23 モータ
24 直動式アクチュエータ
25 割断予定線
26 初亀裂
27 スクライブ線
31 ガラス
32 強化層
33 傷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラス基板をガラス基板保持用テーブル上に支持し、強化ガラス基板の割断予定線に沿ってレーザビームで加熱後その加熱位置を冷却し、レーザビームの照射位置および冷却点をガラス基板に対して割断予定線に沿って相対的に移動させて強化ガラス基板にスクライブを形成する強化ガラス基板の加工方法であって、前記強化ガラス基板に初亀裂を形成するダイヤカッタを設け、前記ダイヤカッタを前記強化ガラス基板に対して引き摺る方向へ移動させながら前記強化ガラス基板の表面に押しつけて、前記強化ガラス基板の表面に傷を形成することを特徴とする強化ガラス基板の加工方法。
【請求項2】
強化ガラス基板の表面に形成する傷がスクライブを進める方向に沿って深く、かつ、太くなる傷であることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の加工方法。
【請求項3】
強化ガラス基板の表面に形成する傷がスクライブを進める方向に沿って浅く、かつ、細くなる傷であることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の加工方法。
【請求項4】
強化ガラス基板の表面に形成する傷の深さを前記強化ガラスの表面から前記強化ガラスの強化層の厚さより10%〜30%大きい深さの位置に設定したことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の加工方法。
【請求項5】
強化ガラス基板の表面に形成する傷の深さを前記強化ガラスの表面から前記強化ガラスの強化層の厚さより20%大きい深さの位置に設定したことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82598(P2013−82598A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225378(P2011−225378)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(503390651)株式会社レミ (34)
【Fターム(参考)】