説明

高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体及び同タイル先付け工法

【課題】タイル接着界面の応力歪みを低減して、先付けしたタイルが高強度コンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落することを防止するタイル先付け構造体及び同タイル先付け工法を提供する。
【解決手段】先付けするタイル3の相互間の目地4が同タイルの裏面30よりも深い応力遮断目地5として形成されている。前記応力遮断目地5内に、充填材6として弾性モルタル又は弾性シーリング材が詰め込まれて止水処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高強度コンクリート製構造部材の表面に仕上げ材として貼り付けるタイルの先付け構造体及び同タイルの先付け工法の技術分野に属し、更に云えば、タイル接着界面の応力歪みを低減して、先付けしたタイルが高強度コンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落することを防止するタイル先付け構造体及び同タイル先付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート製構造部材或いはカーテンウォール等の表面に仕上げ材として貼り付けるタイルの先付け構造体は、例えば下記特許文献1〜4に種々開示されており、既に実用に供されている。下記特許文献1〜4に開示されたタイル先付け構造体には、コンクリートの強度について具体的な記載はないが、一般に、弾性歪みが小さい普通コンクリート製(10N/mm〜30N/mm程度)の構造部材等のタイル先付け構造体の場合は、構造部材に大荷重が作用しない設計とされているため、タイルがコンクリート表面から剥離・剥落するといった不具合の発生はほとんどない。
ところが、現在では高耐久性・長寿命化の観点から高強度コンクリート(60N/mm以上)による構造部材の普及が進み、同高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体を採用した超高層鉄筋コンクリート建物が増加している。しかし、高強度コンクリートは、弾性歪みが大きく、自己収縮や部材軸力による歪み量が大きいため、タイル接着界面にコンクリートに作用する応力が普通コンクリートの数倍も大きく、それ故にタイルが高強度コンクリート製構造部材の表面から剥離、剥落を防止する技術が求められている。このことは、2005年9月に開催された日本建築学会大会で株式会社フジタにより「超高強度コンクリート柱へのタイル先付け仕上げのひずみ追従性に関する実験的研究」として発表されている。したがって、高強度コンクリート製構造部材の表面にタイルを先付けする場合、タイル接着界面に作用する応力歪みを低減させて、タイルの剥離・剥奪を防止する必要がある。
【0003】
下記特許文献1に開示されたタイル先付け構造体には、タイルの裏面にコンクリート接着防止層を設けると共に、水平又は鉛直方向に突き出る裏足を設けてタイルとコンクリートとの一体化を図った構造である。
特許文献2に開示されたタイル先付け構造体は、コンクリートの表面にモルタルを塗布し、その上からタイルを押圧して貼り着けた構造である。
特許文献3に開示されたタイル先付け構造体は、複数のタイルの裏面を連結用樹脂で連結したタイルを、コンクリート製構造部材の表面に貼り付けた構造である。
特許文献4に開示されたタイル先付け構造体は、コンクリート製構造部材の表面にサッシュが取り付けられ、その上にタイルが貼り付けられており、同タイルの横目地部が前記コンクリート構造部材に達する深さまで形成され、該横目地部へエポキシ樹脂を充填して漏水防止を図った構造である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−59329号公報
【特許文献2】特開平6−307055号公報
【特許文献3】特開2003−62816号公報
【特許文献4】特開平11−172890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたタイル先付け構造体は、タイル裏足でコンクリートと強固に一体化する構成であるが、コンクリート製構造部材に大荷重が作用すると、同大荷重による応力歪みがタイル接着界面に直接的に作用するので、タイル裏足の根元が破損して先付けしたタイルがコンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落するおそれがある。
特許文献2に開示されたタイル先付け構造体も、コンクリート製構造部材に大荷重が作用すると、同大荷重による応力歪みがタイル接着界面に直接的に作用するので、先付けしたタイルがコンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落するおそれがある。
特許文献3に開示されたタイル先付け構造体は、連結用樹脂でタイル接着界面に作用する応力を低減させる技術的思想はない。したがって、コンクリート製構造部材に大荷重が作用すると、同大荷重による応力歪みがタイル接着界面に直接的に作用するので、先付けしたタイルがコンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落するおそれがある。
特許文献4に開示されたタイル先付け構造体は、タイルの横目地部が構造部材に達する深さまで形成され、該横目地部へエポキシ樹脂を充填されているが、あくまで漏水防止を図った構造であり、先付けしたタイルがコンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落を防止できる技術ではない。
【0006】
本発明の目的は、高強度コンクリート製構造部材に設計範囲の大荷重が作用しても、同大荷重による応力の伝達線がタイル接着界面を迂回するように応力遮断目地を形成して、同タイル接着界面に作用する応力歪みを低減させ、先付けしたタイルが高強度コンクリート製構造部材の表面から剥離・剥落することを防止するタイル先付け構造体及び同タイル先付け工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体は、
高強度コンクリート製構造部材2の表面に貼り付けるタイル3の先付け構造体1であって、
先付けするタイル3の相互間の目地が同タイルの裏面30よりも深い応力遮断目地5として形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体において、
応力遮断目地5内に充填材6が詰め込まれていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体において、
応力遮断目地5内に詰め込まれる充填材6は、弾性モルタル又は弾性シーリング材であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載した発明に係る高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け工法は、
高強度コンクリート製構造部材2の表面に貼り付けるタイル3の先付け工法であって、
成形用ベッド7の上面に敷き詰めたタイル3の相互間の目地部分4へ、同目地部分4の深さをタイル3の裏面30より深く形成する高さのバッカー8を設置し、前記成形用ベッド7内へ高強度コンクリート2を打設し、同コンクリート2が強度を発現するまで養生した後に、前記成形用ベッド7及びバッカー8を取り除いて仕上げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体及び同タイル先付け工法は、高強度コンクリート製構造部材2に作用する設計範囲の大荷重により発生する応力の伝達線Aが応力遮断目地5によりタイル接着界面から迂回するので、タイル接着界面に作用する応力歪みを低減でき、先付けしたタイル3が高強度コンクリート製構造部材2の表面から剥離・剥落することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体は、先付けするタイル3の相互間の目地が同タイル3の裏面30よりも深い応力遮断目地5として形成されている。前記応力遮断目地5内には、充填材6として弾性モルタル又は弾性シーリング材が詰め込まれている。
【0013】
本発明に係る高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け工法は、成形用ベッド7の上面に敷き詰めたタイル3相互間の目地部分4へ、同目地部分4の深さをタイル3の裏面30より深く形成する高さのバッカー8を設置し、前記成形用ベッド7内へ高強度コンクリート2を打設し、同コンクリート2が強度を発現するまで養生した後に、前記成形用ベッド7及びバッカー8を取り除いて仕上げる。
【実施例1】
【0014】
以下に、本発明に係る高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体及び同タイル先付け工法の実施例を図1〜5に基づいて説明する。
図1及び図2は、高強度コンクリート製構造部材2の表面に貼り付けるタイル3の先付け構造体1の完成図を示している。このタイル先付け構造体1は、先付けするタイル3、3が隣接する相互間の目地のうち、図示例の場合は一つ置きの目地5が、同タイル3の裏面30よりも深い応力遮断目地として形成され、該応力遮断目地5内に充填材として弾性モルタル又は弾性シーリング材6が詰め込まれて止水処理された構成を示している。その他の目地4は、通常の深さで構成されている。前記タイル3は、一例として平面形状が約45mm×95mm程度、厚さが約7mm程度であり、その裏面30には高強度コンクリート製構造部材2への接着強度を高める蟻足が形成されている。なお、前記目地4及び応力遮断目地5の幅寸は約5mm程度である。
【0015】
上記タイル先付け構造体1を製作する方法は、先ず図3に示すように、成形用ベッド7(コンクリート型枠)の上面に敷き詰めたタイル3、3が隣接する相互間の目地部分4のうち、一つ置きの目地部分5へ、同目地部分5の深さをタイル3の裏面30より深く形成する高さのバッカー8を設置する。そして、図4に示すように、前記成形用ベッド7内へ高強度コンクリート2を打設し、同コンクリート2が強度を発現するまで養生した後に、図5に示すように前記成形用ベッド7を反転させた上で脱型し、バッカー8を取り除く。その後、前記バッカー8を取り除いた跡の応力遮断目地5内へ充填材6(例えば弾性モルタル又は弾性シーリング材)を詰め込んで止水処理を行って仕上げる(図1を参照)。前記タイル先付け構造体1は、建築の現場サイトで製作することもできるし、プレキャストコンクリート工場で製作することもできる。
【0016】
前記応力遮断目地5は、一例として、タイル3の裏面30(タイル裏足)よりも約1mm〜10mm程度深く形成するのが好ましい。これは鉄筋の被り厚さを考慮した数値であり、高強度コンクリート製構造部材2に作用する設計範囲の大荷重により発生する応力の伝達線Aがタイル接着界面から十分に迂回でき、タイル接着界面に作用する応力歪みを効果的に低減できる深さとして適切と考えられるからである。なお、本実施例のタイル先付け構造体1は、例えば壁部材であれば厚さが約180mm程度の高強度コンクリート製構造部材2として使用し、柱部材、梁部材であればそれぞれ構造上必要な部材寸法に対してさらに厚さを割り増した高強度コンクリート製構造部材2として使用するので、前記寸法の応力遮断目地5を形成しても、断面欠損により耐力が低下する問題は生じない。
【0017】
また、前記応力遮断目地5を形成する間隔は、一例として、タイル3の縦方向及び/又は横方向に約5cm〜200cm程度までの範囲とするのが好ましい。これは応力遮断目地5の深さを上述した範囲とした理由と同様である。つまり、タイルの平面形状の外形寸法を考慮した範囲であり、高強度コンクリート製構造部材2に作用する設計範囲の大荷重により発生する応力の伝達線Aがタイル接着界面から十分に迂回でき、タイル接着界面に作用する応力歪みを効果的に低減できる間隔と考えられるからである。
【0018】
斯くして、本実施例の高強度コンクリート製構造部材2のタイル先付け構造体1は、高強度コンクリート製構造部材2に作用する設計範囲の大荷重により発生する応力の伝達線Aが応力遮断目地5によりタイル接着界面から迂回するので、タイル接着界面に作用する応力歪みを低減でき、先付けしたタイル3が高強度コンクリート製構造部材2の表面から剥離・剥落することを防止できる。応力遮断目地5に詰め込んだ弾性の充填材6は、大荷重による応力に対して柔軟性をもつので、タイル接着境界面に応力歪みが作用しても前記応力遮断目地5は従前と同じような美観を呈することができる。
【0019】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るタイル先付け構造体を示す断面図である。
【図2】本発明に係るタイル先付け構造体の一部分を示す正面図である。
【図3】成形用ベッドの上面にタイルを敷き詰めた状態を示す断面図である。
【図4】成形用ベッド内へ高強度コンクリートを打設した状態を示す断面図である。
【図5】成形用ベッド及びバッカーを取り除いた状態を示す断面図である。
【0021】
1 タイル先付け構造体
2 高強度コンクリート製構造部材
3 タイル
30 タイルの裏面
4 目地
5 応力遮断目地
6 充填材(弾性モルタル又は弾性シーリング材)
7 成形用ベッド
8 バッカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度コンクリート製構造部材の表面に貼り付けるタイルの先付け構造体であって、
先付けするタイル相互間の目地が同タイルの裏面よりも深い応力遮断目地として形成されていることを特徴とする、高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体。
【請求項2】
応力遮断目地内に充填材が詰め込まれていることを特徴とする、請求項1に記載した高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体。
【請求項3】
応力遮断目地内に詰め込まれる充填材は、弾性モルタル又は弾性シーリング材であることを特徴とする、請求項2に記載した高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け構造体。
【請求項4】
高強度コンクリート製構造部材の表面に貼り付けるタイルの先付け工法であって、
成形用ベッドの上面に敷き詰めたタイル相互間の目地部分へ、同目地部分の深さをタイルの裏面より深く形成する高さのバッカーを設置し、前記成形用ベッド内へ高強度コンクリートを打設し、同コンクリートが強度を発現するまで養生した後に、前記成形用ベッド及びバッカーを取り除いて仕上げることを特徴とする、高強度コンクリート製構造部材のタイル先付け工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−126904(P2010−126904A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299679(P2008−299679)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】