説明

高強度マグネシウム焼結合金及びその製造方法

【課題】合金の強度を落とすことなく、ニアネットシェープで短時間にある一定サイズ以上の部品を成形することができる高強度マグネシウム合金材料と、その製造方法、このような材料から成る高強度マグネシウム合金部材を提供する。
【解決手段】例えば、Mg−aZn−bRE(0<a<10原子%、0<b<15原子%、REは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbのうちの少なくとも1種の希土類金属)で表わされるマグネシウム合金の溶湯を10000℃/秒以上の冷却速度で急冷して成る粉末及び/又は薄片をパルス通電加圧焼結法によって、理論密度の90%以上に固化成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばピストンや吸排気バルブ、タペットといった内燃機関用部品などに好適に用いられる高強度マグネシウム焼結合金と、このようなマグネシウム焼結合金の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は比強度が高く、軽量・高強度部材として有用な材料である。
従来から使用されている合金系としては、Al−Mg−Zn系、Mg−Zn−Zr系などが一般的であるが、さらなる高強度化が求められている一方、高温下での強度低下が著しいという問題がある。
【0003】
他方、溶湯からの急冷凝固により製造されたMg−Zn−RE(希土類金属)系合金の粉末や薄片に、押出しなどによる加熱、せん断加工を加えることによって、さらなる高強度化が達成されている(特許文献1参照)が、優れた引張強度を有するものの、伸びが5%以下と小さいといった問題がある。
これに対して、Mg−Zn−Y系合金については、最適な成分設計及び微細結晶組織を付与することによって、高強度、高延性(最大伸びで750%もの高速超塑性を有している)を達成したマグネシウム合金が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−256370号公報
【特許文献2】国際公開第2002/066696号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示されているマグネシウム合金は、原料粉末の作製から押出しインゴットの作製に至るまで、真空中及び不活性ガス雰囲気中で実施されており、工業的な実用化は困難と考えられる。
また、出来上がった押出しインゴットの大きさに関しても、変形抵抗が大きいために押出し加工には限界があることから、直径で10mm程度が限界であって、内燃機関用部品、例えばピストン、バルブ、タペット、スプロケット等を製造するには不十分な大きさと言わざるを得ない。
【0005】
本発明は、従来の高強度マグネシウム合金における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、合金の強度を落とすことなく、ニアネットシェープで短時間にある一定サイズ以上の部品を成形することができる高強度マグネシウム合金材料と、その製造方法、さらにはこのような材料から成る高強度マグネシウム合金部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、Mg−Zn−RE系合金の製造方法について、種々検討を重ねた結果、マグネシウム合金の急冷凝固粉末や薄片を放電プラズマ焼結法に代表される放電焼結法、プラズマ活性化焼結法を含むパルス通電加圧焼結法を用いて、ある特定の焼結条件で焼結することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の高強度マグネシウム焼結合金は、Mg−aZn−bREで表わされ、a及びbがそれぞれ0<a<10原子%、0<b<15原子%であると共に、REがY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er若しくはYb、又はこれらを任意に組合わせた希土類金属であって、微細結晶粒から成るマトリクス中に長周期積層構造相を有していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法においては、マグネシウム合金、例えば上記成分のマグネシウム合金の溶湯を10000℃/秒以上の冷却速度で急冷して製造した粉末若しくは薄片、又は粉末と薄片の混合物をパルス通電加圧焼結法によって、理論密度の90%以上に固化成形、つまり焼結するようにしている。
また、本発明の内燃機関用部品は、例えばピストンやバルブ、タペット、スプロケットであって、上記高強度マグネシウム焼結合金から成ること、あるいは上記方法によって製造されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マグネシウム合金溶湯を10000℃/秒以上の冷却速度の急冷凝固法によって粉末や薄片となし、これをパルス通電加熱焼結法によって理論密度の90%以上に固化成形するようにしており、これによって成形サイズの製薬が解消されると共に、低温かつ短時間で焼結することができ、急冷凝固によって微細化された粉末や薄片の結晶粒の粗大化が防止されることから、高強度のマグネシウム焼結合金を成形することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法やこの方法によって製造される焼結合金について、さらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法においては、上記したように、マグネシウム合金溶湯を10000℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固させることによって結晶粒を微細化させた粉末や薄片(粉末と薄片の混合物でも可)をパルス通電加圧焼結法によって理論密度の90%以上に固化成形するようにしており、これによって、比較的低温で、しかも短時間のうちに焼結合金を製造することができ、結晶粒の粗大化が抑制されることになる。
【0012】
すなわち、従来焼結法には、ホットプレス焼結法、熱間等方圧焼結方(HIP)、電気炉、ガス炉などによる常圧(無加熱)焼結法などがあるが、いずれも通電時間が長く、微細化組織構造の焼結体を得ることが困難である。また、直接通電型のホットプレス法の通電加圧焼結法では、グラファイトの成形型と押し棒を用いて、まず成形型に下側の押し棒をセットした状態で、燒結しようとする粉末を充填した後、上側の押し棒を押し込んで加圧する。この状態で上下の押し棒を介して直流若しくは交流、又はこれらを重畳した電流を流し、材料の電気抵抗を利用したジュール熱によって燒結する。
この方法は、投入エネルギーに対して効率よく燒結できるものの、材料の焼結温度自体を低くすることには大きな効果を期待することができない。
【0013】
これに対して、本発明においては、パルス通電加圧焼結法、すなわち印加する直流電流を連続ではなくパルス状とし、かつ直流大電流を通電するようにしており、これによって単なるジュール熱による効果だけでなく、高い電気エネルギーの瞬間的な投入による粒子間での放電効果、さらにこれに付随した放電プラズマ効果が重畳され、粉末や薄片粒子の表面が著しく活性化されることによって、緻密化速度が促進され、低い温度で短時間のうちに、高密度にかつ結晶流が粗大化することなく、焼結することができるようになる。
【0014】
本発明の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法においては、マグネシウム合金溶湯を10000℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固させた粉末や薄片状粒子を用いるようにしており、これによって合金の結晶粒を微細化することができ、このような粉末や薄片から得られる焼結合金を高強度のものとすることができる。
すなわち、冷却速度が10000℃/秒に満たない場合には、焼結材料粉体の結晶粒を十分に微細化することができず、低温度・短時間で焼結が可能なパルス通電加圧焼結法を適用したとしても、焼結合金組織の粗大化が避けられず、十分な部材強度が得られなくなる。
【0015】
このような冷却速度でマグネシウム合金溶湯を急冷凝固させるための方法としては、例えば単ロール法や双ロール法、高圧ガス噴射法などを適用することができる。
【0016】
そして、パルス通電加圧焼結法を用いた焼結に際しては、急冷凝固されたマグネシウム合金の材料粉体を理論密度の90%以上に固化成形することが必要となる。
すなわち、成形密度が理論密度の90%に満たない場合には、焼結合金の緻密化が十分に行われず、所望の強度が得られなくなることによる。
【0017】
このような焼結に用いるマグネシウム合金粉末の粒径や薄片の厚さについては、100μm以下とすることが望ましく、これによってこれら粉末や薄片を焼結型に充填する際に、十分な充填密度を得ることができるようになると共に、粉末や薄片同士の接触面積が増すことによってパルス通電を効率的に行うことができるようになることから、高密度化、高強度化が可能になる。
なお、本発明において、上記マグネシウム合金粉末の粒径とは、100μm間隔の格子を有するふるいにかけて、それを通過したものを意味する。
【0018】
また、上記したパルス通電加圧焼結法による焼結条件としては、加圧力を20〜200MPa、昇温速度を毎分30〜450℃、電流密度を70〜280A/cm、焼結温度を350〜550℃、焼結温度での保持時間を10分以下とすることが望ましく、これによって低温かつ短時間で、高密度に燒結することができるようになる。
【0019】
上記パルス通電加圧焼結法は、上述したように粒子間でのパルス通電に対するジュール熱、放電効果や放電プラズマによる熱拡散及び電磁場発生による電界拡散効果によって低温度・短時間焼結を可能にするものであって、種々の方法が知られているが、特に放電プラズマ焼結法を用いることが望ましい。
【0020】
すなわち、放電プラズマ焼結法は、グラファイト製のダイとパンチの間に試料(粉体)を詰め込み、上下のパンチで加圧しながら直流パルス大電流を流すことにより、ダイ、パンチ及び試料にジュール熱、放電プラズマ、放電衝撃圧力のスパッター作用、電磁場発生による電界拡散効果などが発生し、粉体粒子表面をインプロセル状態で浄化活性化してしょうけつするというものである。
粒間結合を形成しようとする部分に高エネルギーのパルスが集中できるように設計されているため、粒子表面のみの自己発熱による急速昇温が可能となり、出発原料の粒成長を抑制することができ、短時間で緻密な焼結体を得ることができるという特徴があることから、アモルファス構造やナノ結晶組織をもつ粉末をそのままの状態でバル化するという場合に適用することができる。
【0021】
本発明の焼結合金製造方法において、Mg−aZn−bREで表わされ、a及びbがそれぞれ10原子%未満及び15原子%未満であって、REがY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbから選ばれる少なくとも1種の希土類金属であるマグネシウム合金を用いることによって、微細な結晶粒から成るマトリクス中に長周期積層構造相を有する焼結合金とすることができ、高延性を備えた本発明の高強度マグネシウム焼結合金を得ることができ、押出し加工のような製造上の制約がないため、任意のサイズを有するニアネットシェープの焼結部品に短時間で成形することができる。
【0022】
なお、上記した長周期積層構造相とは、通常のマグネシウムはABABといった2周期の原子配列をとるのに対して、14周期あるいは18周期といった原子配列をとるものを言い、六方晶構造を有するマグネシウム合金での塑性変形で支配的である底面すべりを抑えることから、従来のマグネシウム合金に対して高強度、高耐力であるという特性を有する。
【0023】
上記によって得られた高強度マグネシウム焼結合金は、例えば内燃機関用部品、すなわちピストン、バルブ、タペット、スプロケット等に適用することができ、これら部品を軽量化することができ、燃費向上、音振性能向上を図ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
97%Mg−1%Zn−2%Y(原子%)の化学組成を有するマグネシウム合金溶湯を単ロール急冷凝固法(冷却速度:10,000〜100,000℃/秒)によって厚さ50〜150μmの薄片を作製し、約1μmのサイズに裁断したのち、この薄片を図1に示すような焼結型1に充填した。
この焼結型1は、内径50mmの貫通孔2aを備えた中空円筒形の型本体2と、貫通孔2aの下方側に挿入される下パンチ3と、貫通孔2aの上部側に挿入される上パンチ4を備えたものであって、これら型本体2及び上下パンチ3、4は、グラファイトから成り、上記マグネシウム合金から成る合金薄片Pは、型本体2の貫通孔2a内における下パンチ3と上パンチ4も間に装入される。
【0026】
次に、マグネシウム合金の原料薄片Pを充填した状態の焼結型1を図2に示す放電プラズマ焼結装置10にセットした。
この放電プラズマ焼結装置10は、パルス通電加圧焼結装置の1種であって、図2に示すように、上記焼結型1を挟持する下部パンチ電極11及び上部パンチ電極12を備え、これらパンチ電極11及び12は、焼結領域を真空雰囲気にする水冷可能な真空チャンバ13内に支持された状態で焼結用パルス電源14にそれぞれ接続されていると共に、加圧機構15によって加圧力が加えられるようになっている。
【0027】
上記焼結電源14及び加圧機構15は、それぞれ制御装置16に接続され、当該制御装置16のコントロール下において、焼結電源14から、20V以下の電圧で、1000〜30000Aのパルス状大電流を供給することができる。
【0028】
そして、放電プラズマ焼結装置10の上記下部パンチ電極11と上部パンチ電極12の間に、焼結型1を挟み、真空チャンバ13内で、下記のような焼結条件範囲で、厚さの異なる原料薄片Pをそれぞれ燒結した。なお、焼結温度は、焼結型1の型内温度を熱電対によって測定したものである。
【0029】
昇温速度 :30〜450℃/分
焼結温度 :300〜600℃
加圧力 :10〜250MPa
保持時間 :0.1〜10分
焼結電圧 :20V以下
焼結電流 :2000〜8000A(直流パルス電流)
電流密度 :70〜280A/cm2
焼結雰囲気:真空
【0030】
上記の各条件のもとに製造したマグネシウム焼結合金の円柱材の密度を測定すると共に、各円柱材から切り出した板状のテストピースによって引張試験を行った。
これらの結果を表1に示す。なお、引張強度については、MEL社規格に規定される従来のマグネシウム合金WE54−T6(Mg−Y−Nd系合金)の強度を「1」とする相対比を示している。
【0031】
【表1】

【0032】
その結果、焼結温度については、350〜550℃の範囲において、従来のマグネシウム合金よりも優れた強度を有する結果となった。
なお、焼結温度が350℃よりも低い場合には、材料薄片Pが十分に固化成形されておらず、焼結温度が550℃より高い場合には、結晶粒が粗大化したことによって強度低下が生じているものと考えられる。
【0033】
また、焼結時の加圧力については、20〜200MPaの範囲において、従来のマグネシウム合金よりも優れた強度を発揮することが確認された。
これは、加圧力が20MPaよりも低い場合には、材料薄片Pが十分に固化成形されておらず、強度低下が生じているものと考えられる。一方、加圧力が250MPa以上においては、強度が飽和傾向にあるものと考えられる。
【0034】
さらに、保持時間(焼結時間)については、400℃焼結の場合には、数秒でも十分な強度が得られることが確認され、極めて短時間で焼結が完了することが判明した。
そして、試験No.1〜12の焼結合金には、微細結晶粒から成るマトリクス中に長周期積層構造相の生成が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例に用いた焼結型の形状及び構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に用いた放電プラズマ焼結装置の構成を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg−aZn−bREにより表わされる組成を有し、a及びbがそれぞれ原子%で0<a<10%、0<b<15%であると共に、REがY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbから成る群から選ばれた少なくとも1種の希土類金属であり、微細結晶粒から成るマトリクス中に長周期積層構造相を有することを特徴とする高強度マグネシウム焼結合金。
【請求項2】
マグネシウム合金の溶湯を10000℃/秒以上の冷却速度で急冷して成る粉末及び/又は薄片をパルス通電加圧焼結法によって、理論密度の90%以上に固化成形することを特徴とする高強度マグネシウム焼結合金の製造方法。
【請求項3】
上記マグネシウム合金がMg−aZn−bREにより表わされる組成を有し、a及びbがそれぞれ原子%で0<a<10%、0<b<15%であると共に、REがY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbから成る群から選ばれた少なくとも1種の希土類金属であることを特徴とする請求項2に記載の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法。
【請求項4】
マグネシウム合金粉末の粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法。
【請求項5】
マグネシウム合金薄片の厚さが100μm以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つの項に記載の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法。
【請求項6】
真空又は不活性雰囲気中において、加圧力20〜200MPa、昇温速度30〜450℃/分、焼結温度350〜550℃、保持時間10分以下の条件で焼結することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つの項に記載の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法。
【請求項7】
上記パルス通電加圧焼結法が放電プラズマ焼結法、放電焼結法又はプラズマ活性化焼結法であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1つの項に記載の高強度マグネシウム焼結合金の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の高強度マグネシウム焼結合金から成ることを特徴とする内燃機関用部品。
【請求項9】
請求項2〜7のいずれか1つの項に記載の方法により製造されたことを特徴とする内燃機関用部品。
【請求項10】
ピストン、バルブ、タペット又はスプロケットであることを特徴とする請求項8又は9に記載の内燃機関用部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−7793(P2008−7793A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176229(P2006−176229)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(505301941)SPSシンテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】