説明

高強度・高導電性銅合金及びその製造方法

【課題】強度と導電性を兼ね備えた銅合金、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】この銅合金は、適切な組成をもった合金の鋳造、冷間加工、時効処理によりCu初晶デンドライトならびに、添加元素が過飽和に固溶したCu相と化合物相からなる共晶の複合組織が冷間加工により伸長され、時効処理により所望の微細化合物相を分散した組織から成る。この組織により高強度と高導電性を兼備することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等に代表される小型情報機器のコネクタ用電気接点部材として利用される強度と導電性とを兼ね備えた銅合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの情報機器は、小型化、高密度化が進み、今後も更に進展すると考えられる。現在、このような機器のコネクタの電気接点部材には、主としてベリリウム銅合金が使用されている。しかし将来の超小型コネクタ用として狭ピッチ化に対応するには、ベリリウム銅合金では材料強度と導電性の両面で不十分と考えられ、また、ベリリウムは毒性の高い元素として知られ、人体・環境への影響を考慮して、今後はベリリウムを含まない高強度高導電性合金の使用が望まれている。
そこで、ベリリウムを含まず高強度・高導電率を有する銅合金が開発されてきており、このような銅合金としては、例えば以下のような特許文献が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2501275号公報
【特許文献2】特開平10−183274号公報
【特許文献3】特開2005−281757号公報
【特許文献4】特開2006−299287号公報
【0004】
ベリリウム銅合金以外で電気接点部材として使用可能な高強度・高導電性合金としては、コルソン合金などに代表される析出硬化型銅合金やCu−Ni−Sn系、Cu−Ti系等のスピノーダル分解型銅合金が知られている。
析出硬化型銅合金としては、Cu−Zr、Cu−Cr、Cu−Ag、Cu−Fe等を基本形に様々な合金開発が現在も盛んに行われており、その例として上記特許文献1〜4が挙げられる。これらの析出硬化型銅合金では、Cuに強度を向上させるための合金元素を添加することで、Cu母相と異なる第2相を析出させ、さらに強加工によりこの相を細かく分散させることで、高強度と高導電率を両立させることを可能としている。
【0005】
しかし、上記の手法では、主に合金元素をCu母相へ再固溶させ加工性を向上させるための高温での溶体化処理、第2相を適正に析出させて望ましい特性を発現させるための時効処理といった複数回の熱処理を必要とし、最終部材となるまでに煩雑なプロセスを経なければならないために、多量の熱エネルギーが必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況から、ベリリウムを含まず、高い強度と導電率を兼ね備えた銅合金の開発が行われてきたが、材料・製造コスト面も含め、ベリリウム銅合金を凌駕するような実用合金は未だ見出されていない。本発明は、高強度と高導電性を併せ持ち、ベリリウムを含まない銅合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は種々検討を行なった結果、加工前に高温での溶体化処理を必要とせず、加工後に比較的低温で時効処理することのみでCu母相中に微細な化合物相が均一に分散した組織が得られ、この結果、強度と導電性に優れた銅合金が製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
上記課題を解決可能な本発明の銅合金は、原子%による組成が、一般式:Cu100−a−b−c(Zr、Hf)(Ag、Au、Pt、Pd)(C、B、Si、Al)(式中、3.5≦a<6.0、0.05≦b≦1.5、0≦c≦0.5)で表され、平均二次デンドライトアーム間隔が5μm以下のCu初晶と、化合物相およびCu相で構成される共晶マトリックスから構成された組織を有することを特徴とする。尚、本発明の銅合金は、不可避的不純物として、O、S、Fe、As、Sb等を含むが、これらの総量は0.1原子%以下である。
【0009】
また、本発明の銅合金は、前記の原子%による組成と組織を有した銅合金であって、当該銅合金に50%以上の冷間加工を行うことで、Cu初晶と共晶マトリックスが互いに層状組織を有していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の銅合金は、前記の銅合金であって、当該銅合金の引張強さσが1000MPa以上であり、しかも、導電率δが、焼鈍した純銅の導電性に対する相対比として30%IACS以上であることを特徴とする。
【0011】
又、本発明は、強度と導電性に優れた銅合金を製造するための方法であり、この製法は、原子%による組成が、一般式:Cu100−a−b−c(Zr、Hf)(Ag、Au、Pt、Pd)(C、B、Si、Al)(式中、3.5≦a<6.0、0.05≦b≦1.5、0≦c≦0.5)で表される組成となるように各元素を調合した母合金を溶解させ、その後、冷却凝固させることを特徴とする。
【0012】
又、本発明は、上記の特徴を有した製法において、前記冷却凝固後の銅合金に50%以上の冷間加工を行うことで、Cu初晶と共晶マトリックスに互いに層状組織を形成させることを特徴とするものでもある。
【0013】
更に、本発明は、上記の特徴を有した製法において、前記冷間加工を行った後に、300〜400℃の温度範囲で0.5〜2時間の時効処理を行うことを特徴とするものでもある。
本発明では、上記の製法によって、上記の引張強さσと導電率δを兼備した銅合金を製造でき、従来の課題を解決できる。
【0014】
ここで、本発明の銅合金の添加元素の効果および添加元素の組成限定理由について説明する。本発明の銅合金を構成するZr、Hfから選ばれる1種または2種の添加元素群は、Cuに対して負の混合熱を有し、融点を降下させるとともに初晶としてCuデンドライト、残部融液が当該元素群とCuの間で化合物ならびに元素群が固溶したCuで構成される共晶組織を形成せしめる。共晶組織中の当該元素群の固溶および化合物の形成はCuの導電率を大きく損なうことなく強度を向上させる。
【0015】
また、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の添加元素群の組成範囲を、3.5以上6.0未満(原子%)に限定した。添加元素群が3.5原子%未満では化合物の生成量が少なく銅合金の強度向上効果が少ない。一方、6.0原子%以上では初晶であるCuデンドライトの生成量が少なく銅合金の導電性を損なうばかりか、後の冷間加工性を低下させる。
【0016】
また、本発明の銅合金を構成するAg、Au、Pt、Pdから選ばれる1種または2種以上の添加元素群は本発明の根幹を構成する添加元素である。当該元素群は、Cu-(Zr、Hf)二元合金融液に対し強い化学的親和力を有し、少量の添加で融液中に均一に分散する。この均一に分散した添加元素が凝固時に結晶核の生成起点となり、Cu初晶デンドライト、および化合物相およびCu相で構成される共晶マトリックスの組織を劇的に微細化する。この元素群の添加により、鋳造材のCu初晶デンドライトの平均二次デンドライトアーム間隔が5μm以下となり、これに伴い共晶として凝固する残部融液も5μm以下となる。Cu初晶デンドライトの平均二次デンドライトアーム間隔が5μm超の場合、後の冷間加工および熱処理で強度と導電性の上昇が見込めない。上記平均二次デンドライトアーム間隔は、例えば、「銅及び銅合金の基礎と工業技術」日本伸銅協会発行に従い、鋳造時の熱流束方向に平行な断面組織より求めた。
【0017】
また、Ag、Au、Pt、Pdから選ばれる1種または2種以上の添加元素群についても組成範囲を、0.05以上1.5以下(原子%)に限定した。当該元素群が0.05原子%未満では凝固時に結晶核生成の生成起点数が少なく組織の微細化効果に乏しい。
一方、1.5原子%超では導電性は向上するものの、凝固時にZr,Hfから選ばれる1種または2種の添加元素群との間で化合物相を形成するため、Zr、Hfから選ばれる1種または2種の元素群添加の効果を損ない、銅合金の強度と冷間加工性を低下させる。
【0018】
さらに、本発明の銅合金を構成するC、B、Si、Alから選ばれる1種または2種以上の添加元素群は、比較的原子半径が小さいか、あるいは合金内で価電子上に半金属的に振る舞う元素であり、容易にCu融液中に固溶する。溶解凝固時にCu融液中に固溶した当該元素群は、冷間加工の後の時効処理で、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の添加元素群との間で、高融点かつ極めて高硬度の微細化合物相を形成し、銅合金の導電率を大きく損なうことなく強度を補助的に向上させる。
【0019】
C、B、Si、Alから選ばれる1種または2種以上の添加元素群についても組成範囲を、0以上0.5以下(原子%)に限定した。当該元素群を含まなくとも高強度および高導電性を兼備した銅合金は得られる。このため当該元素群の量を0以上と規定した。しかしながら、0.5原子%超では凝固時にZr、Hfから選ばれる1種または2種の添加元素群との間で化合物相を形成するため、Zr,Hfから選ばれる1種または2種以上の元素群添加の効果を損ない、銅合金の強度と冷間加工性を低下させる。
【0020】
また、本発明における冷間加工率および組織の規定理由について説明する。本発明の銅合金への冷間加工率を50%以上と規定した。50%未満の加工率では銅合金中に充分なひずみを導入することができず、このため固溶した添加元素群の再分配による化合物相形成および組織の微細化効果が望めない。この結果、銅合金の強度向上効果が少ない。冷間加工率を50%以上、さらに好ましくは80%以上とすることで、銅合金の強度が上昇するのみならず、変形能に優れたCu初晶デンドライト相が層状組織を形成するため導電性が向上する。
【0021】
本発明における時効処理の温度の限定理由について説明する。本発明において冷間加工を行った後の時効処理の温度を300〜400℃の範囲に限定しているのは、時効処理の温度が300℃未満であれば冷間加工時に導入された歪みを充分開放できないため時効処理で導電性の向上が望めないからである。時効処理の温度が400℃超であれば結晶粒が粗大化し強度が低下する。
【0022】
さらに、本発明において時効処理の時間の限定理由について説明する。本発明において冷間加工を行った後の時効処理の時間を0.5〜2時間の範囲に限定しているのは、時効処理温度と同様、時間が0.5時間未満であれば冷間加工時に導入された歪みを充分開放できないため時効処理で導電性の向上が望めないからである。時間が2時間超であれば結晶粒が粗大化し強度が低下する。
【0023】
これらの限定範囲を満たすことによって、本発明の銅合金は引張強さσが1000MPa以上ならびに導電率δ(焼鈍した純銅の導電性に対する相対比)が30%IACS以上を兼備する強度と導電性を発現することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
組成、冷間加工および時効処理の組合せを制御することにより製造された本発明の銅合金は、優れた強度と高い導電性を兼備し、電気接点部材として有用である。合金の組成と、それに合せた冷間加工率および時効処理の条件を変化させることにより、強度と導電率は高いバランスで比較的容易に制御できる。また毒性の高いベリリウムを含まないため、人体・環境に与える危険性が格段に低い安全な材料である。さらに高温長時間の後に急冷が必要な溶体化処理が必要ないため、製造加工コストを低く抑えることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の請求項1に記載する銅合金を鋳造するための好ましい実施形態を示す図である。
【図2】(a)はCu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材の断面組織、(b)はCu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材を圧延により冷間加工した圧延方向断面組織、(c)はCu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材を圧延により冷間加工した後、時効処理を施した試料の圧延方向断面組織である。
【図3】Cu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材、圧延材および時効処理材から得たX線回折図形である。
【図4】Cu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材を圧延により85%の冷間加工を施した後に、375℃で1時間の時効処理した合金の真応力‐真ひずみ曲線である。
【図5】実施例にて使用した引張試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る高強度および高導電性を兼備した銅合金は、原子%による組成が、一般式:Cu100−a−b−c(Zr、Hf)(Ag、Au、Pt、Pd)(C、B、Si、Al)(式中、3.5≦a<6.0、0.05≦b≦1.5、0≦c≦0.5)で表され、平均二次デンドライトアーム間隔が5μm以下のCu初晶と、化合物相およびCu相で構成される共晶マトリックスからなる組織で構成されている。
【0027】
本発明に係る高強度および高導電性を兼備した銅合金は、好ましくは50%以上の冷間加工を行うことで、Cu初晶と共晶マトリックスが互いに層状組織で構成されている。
【0028】
本発明に係る高強度および高導電性を兼備した銅合金は、さらに好ましくは冷間加工を行った後に300〜400℃の温度範囲で0.5〜2時間の時効処理を行うことで構成されている。
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態について図示により説明する。
図1は、本発明の銅合金を製造する実施形態を示している。予めアルゴン雰囲気中アーク溶解炉により本発明の組成を有する母合金を溶製し、図1に示す石英製ノズル内に装填して、高周波誘導加熱により再溶解せしめる。再溶解した合金溶湯を、石英製ノズル下部のオリフィスよりガス圧等により噴出させ、ノズル下部に設置した銅鋳型中に鋳込み、冷却凝固させ合金塊を得た。
【0030】
ここで、本発明の組成を有する合金を溶解する方法はアルゴン雰囲気中アーク溶解および高周波誘導加熱のみに限定されるものではなく、抵抗加熱、電子ビーム加熱も用いることができることは言うまでもない。
【0031】
また、溶解した合金を冷却凝固させる鋳型の材質および形状は銅製および円柱状に限定されるものではなく、材質は鋼製、銅合金等が好ましく使用でき、鋳型形状は工夫によりブロック状、板状、管状等の合金塊として製造することが可能である。
【0032】
また、本発明における冷間加工については、板材を簡便に得るためには圧延が好ましく用いられるが、圧延に限定される必要はなく、押出し、線引き、鍛造、プレス成形を用いることができる。
【0033】
さらに、本発明における冷間加工後の時効処理については、本発明に係る銅合金の表面酸化を防止するため、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気が好ましく用いられる。加熱後の冷却は作業効率を考慮して空冷もしくは水冷が好ましく用いられる。しかしながら当該時効処理は処理雰囲気、加熱方法および冷却方法を選ばない。
【0034】
図2は、本発明に係る銅合金の断面組織を示すものである。図2(a)は、本発明における組成のうちCu93.5Zr5.5Ag合金の鋳造組織を示している。図中の白色組織はCu初晶のデンドライトであり、残部の灰色組織は化合物相および添加元素を過飽和に固溶したCu相で構成される共晶である。図中の白色Cu初晶の平均二次デンドライトアーム間隔は3.4μmであった。
【0035】
また、図2(b)は、Cu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材を圧延により85%の冷間加工を施した圧延方向組織を示している。白色Cu初晶デンドライト組織および灰色共晶組織の圧延方向垂直の組織厚みは1.0〜3.0μmであり、組織が著しく圧延方向に伸長されていることが見てとれる。
【0036】
また、図2(c)は、Cu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材を圧延により85%の冷間加工した後、375℃で1時間時効処理した圧延方向組織を示している。
白色Cu初晶デンドライト組織および灰色共晶組織の圧延方向垂直の組織厚みは1.0〜3.0μmと圧延による組織の伸長は維持されている。さらに、時効処理により白色Cu初晶デンドライトの伸長組織中に平均粒径2.0μm程度の化合物相が晶出する。
【0037】
図3は、Cu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材、圧延材および時効処理材から得たX線回折図形である。鋳造材のX線回折図形は面心立方構造のCu相と同定される。さらに、鋳造材に圧延による冷間加工は面心立方構造のCu相とCuZr化合物相が同定される。CuZr化合物相は冷間加工により、化合物相および添加元素を過飽和に固溶したCu相の共晶組織の中から、添加元素の再分配と集合組織化に伴い晶出したものである。時効処理材から得たX線回折図形は、冷間圧延材と変化は認められない。断面組織で認められた白色Cu初晶デンドライトの伸長組織中の平均粒径2.0μmの化合物相は体積分率が小さいためにX線回折では検知できない。
【0038】
図4は、Cu93.5Zr5.5Ag合金鋳造材を圧延により85%の冷間加工を施した後に、375℃で1時間の時効処理した合金の真応力‐真ひずみ曲線を示している。0.2%耐力は860MPa、ヤング率は114GPa、引張強さは1210MPa、破断ひずみが2.8%であった。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
上述の本発明の好ましい実施形態で述べた銅鋳型に合金を鋳造することにより表1の実施例1〜20に記載する合金組成の鋳塊(幅10mm、長さ20mm、厚さ2.0mm)を得た。これらの鋳造材を表1に示す加工率で圧延により冷間加工し、その後、表1の処理温度および処理時間で時効処理を施した。これらの処理済み板材を図5に示される形状に冷間打抜き加工し引張試験片とした。表1に記載する導電性は、板材の表面酸化スケールを除去した後、四端子法で評価した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、本発明の組成を有する合金を鋳造し、本発明の冷間加工ならびに時効処理を適切に施すことにより実施例1〜20では、引張強さσが1000MPa以上ならびに導電率δ(焼鈍した純銅の導電性に対する相対比)が30%IACS以上の強度と導電性に優れた銅合金が得られる。
【0043】
一方、表2に実施例1〜20と同様の製造方法でありながら本発明の請求項を満たさない比較例1〜20を示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2の比較例1は、本発明の根幹をなすAg、Au、Pt、Pdの1種または2種以上の添加元素を含まないため請求項1記載の二次デンドライトアーム間隔を満たさず、鋳造後の適切な冷間加工および時効処理を施しても引張強さ、導電率ともに低い。
【0046】
比較例2も、Zr、Hfの1種または2種の添加元素が限定範囲よりも少ないために本発明の二次デンドライトアーム間隔を満たさず、適切な冷間加工および時効処理を施しても引張強さ、導電率ともに低い。
【0047】
比較例3〜7は、本発明で限定する組成範囲を外れるために、加工性に乏しく本発明の加工率の冷間加工を行っても圧延割れが生じてしまう。
【0048】
比較例8〜10は、本発明で規定するZr、Hfと同族元素であるTiを含有させた例であるが、Tiは室温で母相であるCu中での固溶限が大きく、冷間加工、時効処理後の引張強さを僅かに低下させるとともに、導電性を大きく損なう。
【0049】
比較例11〜20は、本発明の実施例の中で結果の良好であった実施例2あるいは実施例15と同一試料であるが、本発明の加工率で冷間加工を行っていないか、本発明における時効処理の温度ならびに時間の限定範囲を外れているため引張強さもしくは導電率が本発明において規定する値に満たない。
【0050】
以上述べたように、本発明の実施例1〜20に対し比較例1〜20は、引張強さσが1000MPa以上ならびに導電率δ(焼鈍した純銅の導電性に対する相対比)が30%IACS以上を兼備させることはできない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の銅合金は、携帯電話等に代表される小型情報機器のコネクタ用電気接点部材として利用される強度と導電性とを兼ね備えており、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%による組成が、一般式:Cu100−a−b−c(Zr、Hf)(Ag、Au、Pt、Pd)(C、B、Si、Al)(式中、3.5≦a<6.0、0.05≦b≦1.5、0≦c≦0.5)で表され、平均二次デンドライトアーム間隔が5μm以下のCu初晶と、化合物相およびCu相で構成される共晶マトリックスから構成された組織を有することを特徴とする強度と導電性に優れた銅合金。
【請求項2】
前記Cu初晶と共晶マトリックスが互いに層状組織を有していることを特徴とする請求項1に記載の強度と導電性に優れた銅合金。
【請求項3】
引張強さσが1000MPa以上であり、しかも、導電率δが、焼鈍した純銅の導電性に対する相対比として30%IACS以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の強度と導電性に優れた銅合金。
【請求項4】
強度と導電性に優れた銅合金を製造するための方法であって、原子%による組成が、一般式:Cu100−a−b−c(Zr、Hf)(Ag、Au、Pt、Pd)(C、B、Si、Al)(式中、3.5≦a<6.0、0.05≦b≦1.5、0≦c≦0.5)で表される組成となるように各元素を調合した母合金を溶解させ、その後、冷却凝固させることを特徴とする、強度と導電性に優れた銅合金の製造方法。
【請求項5】
前記冷却凝固後の銅合金に50%以上の冷間加工を行うことで、Cu初晶と共晶マトリックスに互いに層状組織を形成させることを特徴とする請求項4に記載の銅合金の製造方法。
【請求項6】
前記冷間加工を行った後に、300〜400℃の温度範囲で0.5〜2時間の時効処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の銅合金の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−229461(P2010−229461A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76787(P2009−76787)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム 高機能複合化金属ガラスを用いた革新的部材技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】