説明

高強度難燃性マグネシウム合金溶加材

【課題】溶接接合強度を高めた高強度難燃性マグネシウム合金溶加材を提供する。
【解決手段】素材を、0.5〜5重量%のカルシウムが添加された難燃性マグネシウム合金に、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、アルミナ(Al)、珪化マグネシウム(MgSi)、及び炭化珪素(SiC)から選択される少なくとも1種以上を追加添加物として添加した高強度難燃性マグネシウム合金とし、溶接接合強度を高めた溶加材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムやマグネシウム合金を溶接する際に用いられる溶加材、即ち、溶接棒や溶接ワイヤ(溶接線)であり、機械的強度を高めた高強度難燃性マグネシウム合金溶加材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、極めて軽量であるため、アルミニウム合金やその他の金属材料の代替材として注目されている。又、リサイクル性に富むためにプラスチックの代替材としても注目されている。マグネシウム合金は、実用金属の中では最も軽量に属し、比強度、比弾性率等が高い。このため、軽量化の要求される産業分野において、将来その需要が高まることが予想される。チタンやアルミニウム合金は十分な強度を有しているものの、マグネシウム合金に比し、軽量性や緩衝性等の特性が低いという欠点がある。
【0003】
通常のマグネシウム合金は、チタンやアルミニウム合金に比して強度が低いとともに、発火点が低いので発火しやすい欠点があることは従来から知られている。このため難燃性にするために、マグネシウム合金にカルシウムを添加して発火点を高め、発火し難いものにした難燃性マグネシウム合金とし、次いで押し出しや圧延等の塑性加工を施した高強度難燃性マグネシウム合金が特許文献1で示すように開発されている。
【0004】
一方、マグネシウム合金は、自動車、二輪車、鉄道車両、航空機、ロボット等の移動構造体や福祉機器、高齢者用機器等の構造部材への広範な応用が期待されている。そのような各種構造部材においては、各部材の接合、特に溶接技術が不可欠となる。
【0005】
溶接技術においても種々開発が行われており、マグネシウム合金に関してもレーザ溶接、TIG溶接、MIG溶接等々がなされている。難燃性マグネシウム合金ではないが、例えば、マグネシウム基合金の押し出し材などの母材に伸線加工を施した後、表面にシェービング加工を施して表面清浄性に優れるマグネシウム溶接線が開示されている(例えば特許文献2参照)。又、これも難燃性マグネシウム合金ではないが、強度と靭性に優れたマグネシウム基合金のワイヤとして、Al、Mn、Zn、Zr、希土類元素、等の成分を含むものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、前述のようにマグネシウム合金にカルシウムを含有させた難燃性マグネシウム合金は、発火点が高く、機械的強度も高く取り扱いやすい特性をもっている。このことから、この利点を利用しこの難燃性マグネシウム合金を製品としてヘルメットに適用した技術も開示されている(例えば特許文献4参照)。これには、分割された部材を突合せた状態で、レーザ溶接、TIG溶接、MIG溶接等の溶融溶接により接合し、一体化することが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−109963号公報
【特許文献2】特開2006−263744号公報
【特許文献3】特許第3592310号公報
【特許文献4】特開2005−350808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、マグネシウム合金の特性を向上させる改良技術は種々提案されている。しかしながら現状のマグネシウム合金はまだ問題点を多く抱え、満足すべきものとはなっておらず、製品化に適用するためにはまだ改良の余地があり不十分である。特に特許文献1の技術は、本出願人の出願になるものであるが、高強度難燃性マグネシウム合金はCaを0.1〜15重量%を含み、Al、Znを一部添加した合金である。
【0009】
これに対して、本発明の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、マグネシウム合金にCaを0.5〜5重量%を添加した上に、C,Mo,Nb、Si、W、Al、MgSi、SiC、のいずれか1種以上を追加添加して強度強化を図ったもので性質が異なる。本発明は、特許文献1の技術に改良を加え、一層強度の向上を図った高強度難燃性マグネシウム合金としたものである。
【0010】
又、特許文献2の技術は、マグネシウム溶接線に関するものであるが、溶接線の表面清浄性を高めることを目的としたものであり、溶接線や溶接棒といった、いわゆる溶加材の組成に関するものではない。更には溶接線は難燃性マグネシウム合金ではない。
【0011】
又、特許文献3の技術は、マグネシウム基合金ワイヤに関わる技術を開示しているが、Al、Mn、Zn、Zr、希土類元素、等の成分を含むものであり、本発明の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材とはその組成を異とする。該ワイヤを用いたばねを提供することを目的としており、溶接線としての利用はその可能性が開示されているが、その具体的な実施例は一切記載されていない。更に、難燃性マグネシウム合金に関するものではない。
【0012】
又、特許文献4では難燃性マグネシウム合金をヘルメットへ応用し、必要に応じて該マグネシウム合金のレーザ溶接、TIG溶接、MIG溶接などの溶融溶接を行うとして難燃性マグネシウム合金の溶接の可能性を開示している。しかし、実施例は伴なっていない。更には、特許文献4では難燃性マグネシウム合金は溶接される側の材料であり、溶接する際に使用される溶加材ではない。
【0013】
このように、従来の技術もそれぞれに利点はあるものの、それらは溶接線の表面性状の改善や、高価な希土類元素を使用しているものもあり、またワイヤ自体の機械的特性の改善に関わるものであり、いずれも不十分である。
【0014】
本発明は、このような従来の技術背景のもとになされたものであり、次の目的を達成する。
本発明の目的は、Caの添加に加え汎用的な元素や化合物の追加添加により、引張強度が高く、高耐力をもたせ、溶接性を向上させた高強度難燃性マグネシウム合金溶加材の提供にある。
【0015】
本発明の他の目的は、切削屑等の利用を可能とし、低コストに構成される高強度難燃性マグネシウム合金溶加材の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段を採る。
本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、マグネシウム合金に0.5〜5.0重量%のカルシウム(Ca)を添加した難燃性マグネシウム合金をベースとして、これに、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、アルミナ(Al)、珪化マグネシウム(MgSi)、及び炭化珪素(SiC)から選択される1種以上の追加添加物を添加して構成されることを特徴とする。
【0017】
本発明2の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記追加添加物モリブデン(Mo)の量は、1.0〜12.0重量%であることを特徴とする。
【0018】
本発明3の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記追加添加物ニオブ(Nb)の量は、0.5〜5.0重量%であることを特徴とする。
【0019】
本発明4の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記追加添加物タングステン(W)の量は、5.0〜40.0重量%であることを特徴とする。
【0020】
本発明5の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記追加添加物アルミナ(Al)の量は、1.0〜5.0重量%であることを特徴とする。
【0021】
本発明6の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記追加添加物珪化マグネシウム(MgSi)の量は、2.0〜6.0重量%であることを特徴とする。
【0022】
本発明7の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記追加添加物炭化珪素(SiC)の量は、0.7〜20.0重量%であることを特徴とする。
【0023】
本発明8の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記マグネシウム合金は、0〜12.0重量%のアルミニウムと0〜5.0重量%の亜鉛と0.5重量%以下のマンガンを含むマグネシウム合金であることを特徴とする。
【0024】
本発明9の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記マグネシウム合金は、米国材料試験協会(ASTM)規格で規定するAZ31系、AZ61系、AZ80系、AZ91系、AZ92系、AM50系、AM60系及びAM100系から選択される1種のマグネシウム合金であることを特徴とする。
【0025】
本発明10の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記難燃性マグネシウム合金は、該難燃性マグネシウム合金素材から得られる粉砕物からなることを特徴とする。
【0026】
本発明11の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記高強度難燃性マグネシウム合金は、前記追加添加物を添加した後、塑性加工により製造された合金であることを特徴とする。
【0027】
本発明12の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明10の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記粉砕物は、切削加工で得られる切削屑又はその粉末体であることを特徴とする。
【0028】
本発明13の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明11の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記塑性加工は、押し出し加工、引き抜き加工、鍛造加工、及び圧延加工のいずれか1以上の加工であることを特徴とする。
【0029】
本発明14の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、本発明1〜3の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、前記溶加材は、線状又は棒状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、高価な希土類元素を使用せず、Caに加え汎用的な元素や化合物の追加添加により、さらに押し出し加工等の塑性加工を施すことによって、引張強度が高く、高耐力の高強度特性を持ち、接合性能を向上させた高強度難燃性マグネシウム合金溶加材となった。
【0031】
また本発明の溶加材は、Caの添加によって発火点が高く通常の状態での接合ができ、溶接作業時に発生するヒューム(溶接又は切断時の熱によって蒸発した物質が冷却されて固体の微粒子となったもの)の発生が、通常のマグネシウム合金を溶加材として用いた場合に比して少ない。さらに切削屑等の粉砕物を有効に利用することで低コストの高強度難燃性マグネシウム合金溶加材となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に関する高強度難燃性マグネシウム合金溶加材について詳細に説明する。マグネシウム合金は、米国材料試験協会(以下「ASTM」と称する。)や日本工業規格(以下「JIS」と称する。)等により規格化されている。マグネシウム合金は鋳造用マグネシウム合金と展伸用マグネシウム合金とに大別され、各々の機械的特性について、ASTMやJISで規格化されている。
【0033】
一般に、金属の場合、鋳造用合金に比して展伸用合金は、塑性加工や加工熱処理の効果によって、強度や延性等の機械的性質は大幅に向上する。マグネシウム合金においてもそれらは向上しているものの、強度、延性ともにその向上程度は少ないのが現状である。このため、さらなる技術開発が行われて前述した特許技術のように、その技術が開示されている。本発明は、特に切削屑の難燃性マグネシウム合金を利用し、押し出し加工等の塑性加工により、強度を室温における引張強さを例えば419MPa以上、耐力を380MPa以上の特性を有する高強度難燃性マグネシウム合金で構成される溶加材を提案するものである。
【0034】
次に、溶加材のもとになっている素材の高強度難燃性マグネシウム合金について説明する。本発明に関わり実施の形態の溶加材に適用するマグネシウム合金は、ASTMの[AM60B]で表示される鋳造用マグネシウム合金である。本発明の適用合金としては、必ずしもこの[AM60B]に限定されるものではなく、他のマグネシウム合金であってもよい。この合金に0.5〜5重量%のCaを添加する。本実施の形態の合金においては、2重量%のCaを添加したものを適用する。
【0035】
AM60Bは、ダイカスト用合金であり、耐食性向上のため、不純物Fe、Ni、Cuの含有量を少なくした高純度マグネシウム合金である。その基本化学組成は、Al:5.5〜6.5重量%、Mn:0.24〜0.6重量%、残部マグネシウム及び不可避的成分からなる。これにCaを添加し、難燃性マグネシウム合金としている。Caの添加量は、前述したように0.5〜5重量%が望ましい。
【0036】
マグネシウムは、結晶構造が稠密六方晶であるため、室温のもとでは塑性加工性が極めて悪く、冷間加工はできないのが現状である。熱間では塑性加工性もかなり向上するが、他の金属と比較すると精緻な形状の加工はやはり困難である。従ってマグネシウム合金の製造は鋳造法が主に用いられる。又、鋳造法で得られた鋳造品や塑性加工で得られた鍛造材や展伸材等の最終形状への仕上げには切削加工が施される場合が多い。しかしながら、切削加工で発生する切削屑の処理はコスト等が嵩む制約があり、一方、リサイクル材としてこのままで再利用するには多くの問題を抱えている。
【0037】
近年この切削屑の有効利用を図る研究が行われているが、実用に供せる決定的な事例はまだ開示されていない。本例においては、難燃性マグネシウム合金の切削屑をベースとするものである。この難燃性マグネシウム合金は、切削性が良好であるため高速切削が可能であり、従って切削屑を多く発生させることが可能である。しかし、本発明においては切削屑に限定されず、切削屑に準じるものであればどのような小片状ブロックであってもよい。
【0038】
次に本発明の素材である高強度難燃性マグネシウム合金の製造について説明する。ベースとなるマグネシウム合金は、2重量%のCaが添加された難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca合金」である。AM60Bは本来鋳造用のマグネシウム合金であるが、熱間においては押し出し等の塑性加工を可能とするものである。この塑性加工には、押し出し加工、引き抜き加工、鍛造加工、回転鍛造加工、圧延加工等がある。
【0039】
このAM60Bに2重量%のCaを添加することによりマグネシウム合金の発火温度を200〜300℃上昇させることができる。このため、大気中での溶解作業も安全に行うことができる。この「AM60B+2Ca合金」から例えば粉砕に供する物として切削屑を求める。試験段階では、意図的に切削屑を作製することもあるが、実用的には高速切削等で発生する切削屑を使用する。この切削屑の粉末化をボールミル等で行う。
【0040】
本発明における難燃性マグネシウム合金の場合、Caの添加によって難燃化が図られているので、粉砕物の状態においても安全である。例えば、146μmの平均粒径を有する難燃性「AM60B+2Ca合金」の粉末の爆発下限濃度の値は100mg/mであり、アルミニウム粉末(35mg/m)よりも大きく鉄粉末(<120mg/m)並になり、爆発の危険性は大幅に軽減され取り扱いが容易となっている。
【0041】
次に切削屑等の粉末化に伴ない、本発明に関わる素材の特徴である追加添加物として所定元素あるいは化合物を添加する。この追加添加物は、その割合を含めて示すと、0.1〜0.3重量%C、1.0〜12.0重量%Mo、0.5〜5.0重量%Nb、0.5〜6.0重量%Si、5.0〜40.0重量%W、1.0〜5.0重量%Al、2.0〜6.0重量%MgSi、0.7〜20.0重量%SiCの各元素あるいは所定化合物である。
【0042】
これらの元素、化合物の種類と添加量を限定しているのは、高強度達成の範囲を示すもので、この範囲を外れると高強度化の効果が薄れるためである。これらの1種または選択される複数種を追加添加し、粉末化と複合化を同時に行う。即ち、この追加物の添加により例えば切削屑状にある難燃性マグネシウム合金は、凝固組織が破壊され微細均質な組織に改質する。粉末内部に追加添加物が均一に入り込み、組織を微細均質にするのである。
【0043】
このように微細均質な組織になった粉末状の難燃性マグネシウム合金を予備成形する。この予備成形は冷間成形も可能であるが、熱間成形が粉末の固化と焼結を兼ねることができるので好ましい。粉末の固化と焼結を同時に行う熱間成形では、短時間で行うことができる例えばパルス通電焼結法等が適する。次にこの予備成形され焼結された難燃性マグネシウム合金をビレットとして熱間押し出し加工を施す。この熱間押し出し加工やその他の塑性加工により難燃性マグネシウム合金は、高強度特性をもった難燃性マグネシウム合金になる。
【0044】
又、使用するマグネシウム合金は、前述の実施の形態例以外に、0〜12重量%のアルミニウムと0〜5重量%の亜鉛と0.5重量%以下のマンガンを含むマグネシウム合金でも有効な結果が可能であり、更にマグネシウム合金は、米国材料試験協会(ASTM)規格表示のAZ31系、AZ61系、AZ80系、AZ91系、AZ92系、AM50系、AM60系およびAM100系から選択されるいずれを使用しても有効な結果が可能である。
【0045】
このように、製造される高強度難燃性マグネシウム合金は、Caの添加に加え前述のように追加添加物を追加添加して得られたものである。この高強度難燃性マグネシウム合金は高強度特性を有し、それは追加添加物のそれぞれの元素又は化合物毎に示す図1から図8の実施データによって確認されている。このデータ図は、各追加添加物毎にその添加量に応じた引張強さ、耐力、破断伸びについて、表示したデータ図である。
【0046】
このデータ図は次のようにして得られたものである。前述のように、追加添加物の添加された切削屑状態にある合金をボールミルにより粉末化し、凝固組織の破壊に伴なってミクロ組織を微細均質化し、添加元素、化合物の均質分散複合化を施した。次にこのボールミルによって調製された難燃性合金の粉末をパルス通電焼結法により焼結温度480℃、時間は20分、大気中で固化形成した。次いでこれをビレットとして押し出し比を110、押し出し温度を480℃で熱間押し出し加工を行った。この押し出し材の長手方向に試験片を採取し、室温にて引張試験を行って、引張強さ、耐力、破断伸びを求めたものである。
【0047】
この結果によると、追加添加物のない特許文献1に示される従来のCa添加の高強度難燃性マグネシウム合金に比し、本例の場合、データ図からも明らかなように、いずれの追加添加物を加えた場合も機械的強度は向上している。例えば引張強さは、いずれの追加添加物を加えた場合においても419MPa以上を示している。従って、素材としての高強度難燃性マグネシウム合金は一層強度の向上した合金といえる。
【0048】
本発明は、このような性質を有する高強度難燃性マグネシウム合金を素材として、溶加材に適用するものである。溶接作業の際に使用される溶加材、即ち溶接棒あるいは溶接線(又は「溶接ワイヤ」ともいう)等は、マグネシウム合金に0.5〜5重量%のカルシウム(Ca)を添加した上に更にC、Mo、Nb、Si、W、Al、MgSi、SiCのいずれか1種以上を追加添加した本発明に関わる高強度マグネシウム合金であり、発火点が高く、強度を増している合金である。
【0049】
難燃化に伴ない、接合においても火花等の発生に伴う火災等の危険性が少なくなり、安全に接合作業を行うことができる。一般に、溶接作業時には溶接時の熱によって蒸発した物質が冷却されて固体の微粒子となったヒュームが発生することが知られているが、本発明による溶加材を使用することによって、その発生を抑制できる。このように、実際の溶接現場においてもその溶接環境の向上に寄与できる。
【0050】
溶加材は、例えば押し出し加工や伸線用に特化したローラダイス等による伸線加工を施す加工形態によって得られる。これらの加工を施すことにより、本発明溶加材に含まれる追加添加物は、マグネシウムマトリックス中に一層の均質分散が可能となり、その結果、溶接組織においても均質組織が達成され、機械的特性の向上ができる。
【0051】
本発明の高強度難燃性マグネシウム合金溶加材は、マグネシウムやマグネシウム合金素材を溶接する際、溶接の種類に依らず全般に適用可能であるが、特にTIG溶接やMIG溶接に好適に利用することができる。以下、TIG溶接で行った例を実施例において示す。
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、本実施の形態に限定されないことはいうまでもない。
【実施例1】
【0052】
本実施例は、素材である図1〜図8に示す高強度難燃性マグネシウム合金を、マグネシウム合金を溶接する際の溶加材、即ち本実施例1では溶接ワイヤとして用いた場合である。被溶接材には、AM60Bマグネシウム合金に難燃性を付与するために2重量%のCaが添加された難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca合金」の押し出し板材(板厚2mm)を用いた。溶接はTIG法にて行った。主な溶接条件は、以下のとおりである。
【0053】
即ち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と母材間の距離は2mm、交流式で電流100A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。溶接後、溶接における余盛り部を取り除いて試験片形状とした後、引張強度試験を行い接合強度を確認した。その引張強度試験結果を表1、図9及び図10に示す。図9は追加添加元素毎の結果であり、又、図10は追加添加化合物毎の結果を示している。図9及び図10における横軸は各種追加添加物の種類とその組成を表示している。実施例1の結果は、追加添加物5Siと9MgSiを除き、いずれも比較例を上回る結果となり、本発明の効果を確認した。尚、追加添加物5Siと9MgSiの場合の結果は、粗大な溶接欠陥による溶接不良のためであることを確認しており、正規の強度試験結果ではない。
【実施例2】
【0054】
本実施例2は、素材である図11〜図16に示す高強度難燃性マグネシウム合金を、マグネシウム合金を溶接する際の溶加材、即ち本実施例2では溶接ワイヤとして用いた場合である。被溶接材には、AM60Bマグネシウム合金に難燃性を付与するために2重量%のCaが添加された難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca合金」の押し出し板材(板厚2mm)を用いた。溶接はTIG法にて行った。主な溶接条件は、以下のとおりである。
【0055】
即ち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と母材間の距離は2mm、交流式で電流75A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。溶接後、溶接における余盛り部を取り除いて試験片形状とした後、引張強度試験を行い接合強度を確認した。その引張強度試験結果を表2及び図17に示す。図17における横軸は各種追加添加物の種類とその組成を表示している。実施例2の結果は、比較例2を上回る引張強さ、すなわち接合強度を有しており、本発明の効果を確認できた。
【0056】
[比較例1]
この比較例においては、溶加材、即ち本比較例では溶接ワイヤとして、「AM60B+2Ca合金」の鋳造材から熱間での押し出し加工、次いで熱間での引き抜き加工を経て作製された引き抜き材を用いた。被溶接材及び各種溶接条件を実施例1に同じくして、TIG溶接を行った。実施例と同様に、溶接後、溶接における余盛り部を取り除いて試験片形状とした後、引張強度試験を行い、接合強度を確認した。その結果を、表1の「比較例1」、図9及び図10の「比較例1」で示す。比較例1における溶接板材の接合引張強さは、いずれの実施例1の場合よりも小さく、173MPaであった。
【表1】

【0057】
[比較例2]
この比較例2においては、溶加材、即ち本比較例では溶接ワイヤとして、「AZ91D+2Ca合金」の鋳造材から熱間での押し出し加工を経て作製された押出し材を用いた。被溶接材及び各種溶接条件を実施例2に同じくして、TIG溶接を行った。実施例2と同様に、溶接後、溶接における余盛り部を取り除いて試験片形状とした後、引張強度試験を行い、接合強度を確認した。その結果を、表2の「比較例2」、図17の「比較例2」で示す。比較例2における溶接板材の接合引張強さは、実施例2に示すいずれの場合よりも小さく、166MPaであった。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にCを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図2】図2は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にMoを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図3】図3は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にNbを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図4】図4は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にSiを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図5】図5は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にWを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図6】図6は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にAlを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図7】図7は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にMgSiを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図8】図8は、難燃性マグネシウム合金「AM60B+2Ca」の粉砕物にSiCを追加添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図9】図9は、追加添加元素を含む高強度難燃性マグネシウム合金溶加材を用いて溶接した被溶接板材の引張強度試験結果を示し、比較例1を含むデータ図である。
【図10】図10は、追加添加化合物を含む高強度難燃性マグネシウム合金溶加材を用いて溶接した被溶接板材の引張強度試験結果を示し、比較例1を含むデータ図である。
【図11】図11は、難燃性マグネシウム合金「AZ91D+2Ca」の粉砕物にMoを添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図12】図12は、難燃性マグネシウム合金「AZ91D+2Ca」の粉砕物にNbを添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図13】図13は、難燃性マグネシウム合金「AZ91D+2Ca」の粉砕物にWを添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図14】図14は、難燃性マグネシウム合金「AZ91D+2Ca」の粉砕物にAlを添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図15】図15は、難燃性マグネシウム合金「AZ91D+2Ca」の粉砕物にMgSiを添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図16】図16は、難燃性マグネシウム合金「AZ91D+2Ca」の粉砕物にSiCを添加した場合の高強度難燃性マグネシウム合金の引張強度試験結果のデータ図である。
【図17】図17は、追加添加物を含む高強度難燃性マグネシウム合金溶加材を用いて溶接した被溶接板材の引張強度試験結果を示し、比較例2を含むデータ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金に0.5〜5.0重量%のカルシウム(Ca)を添加した難燃性マグネシウム合金をベースとして、これに、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、アルミナ(Al)、珪化マグネシウム(MgSi)、及び炭化珪素(SiC)から選択される1種以上の追加添加物を添加して構成されることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項2】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記追加添加物モリブデン(Mo)の量は、1.0〜12.0重量%であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項3】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記追加添加物ニオブ(Nb)の量は、0.5〜5.0重量%であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項4】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記追加添加物タングステン(W)の量は、5.0〜40.0重量%であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項5】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記追加添加物アルミナ(Al)の量は、1.0〜5.0重量%であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項6】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記追加添加物珪化マグネシウム(MgSi)の量は、2.0〜6.0重量%であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項7】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記追加添加物炭化珪素(SiC)の量は、0.7〜20.0重量%であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項8】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記マグネシウム合金は、0〜12.0重量%のアルミニウムと0〜5.0重量%の亜鉛と0.5重量%以下のマンガンを含むマグネシウム合金であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項9】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記マグネシウム合金は、米国材料試験協会(ASTM)規格で規定するAZ31系、AZ61系、AZ80系、AZ91系、AZ92系、AM50系、AM60系及びAM100系から選択される1種のマグネシウム合金であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項10】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記難燃性マグネシウム合金は、該難燃性マグネシウム合金素材から得られる粉砕物からなることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項11】
請求項1に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記高強度難燃性マグネシウム合金は、前記追加添加物を添加した後、塑性加工により製造された合金であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項12】
請求項10に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記粉砕物は、切削加工で得られる切削屑又はその粉末体であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項13】
請求項11に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記塑性加工は、押し出し加工、引き抜き加工、鍛造加工、及び圧延加工のいずれか1以上の加工であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。
【請求項14】
請求項1ないし10から選択される1項に記載された高強度難燃性マグネシウム合金溶加材において、
前記溶加材は、線状又は棒状であることを特徴とする高強度難燃性マグネシウム合金溶加材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−213041(P2008−213041A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26059(P2008−26059)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】