説明

高強度PC鋼撚り線およびそれを用いたコンクリート構造物

【課題】従来よりも高強度で、かつ十分な定着効率が得られるPC鋼撚り線およびそれを用いたコンクリート構造物を提供することである。
【解決手段】1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0〜15.6mm、総断面積が135〜148mm、撚り線全体の引張荷重が310kN以上、側線の引張荷重が中心線の引張荷重の80%以上となるように調整することにより、従来よりも高強度で、かつ実用に十分な定着効率が得られる高強度PC鋼撚り線とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間で伸線加工された複数本の線材を撚り合せて製造する高強度PC鋼撚り線と、それを用いたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
PC鋼撚り線は、通常、JIS G 3502に規定される線材を冷間で伸線加工した後、複数本撚り合わせ、最終工程で残留ひずみ除去のためのブルーイング処理を行う方法で製造され、JIS G 3536の規格を満たすものが使用されている。
【0003】
これに対して、特許文献1では、JIS G 3536における19本撚り線のうちの標準径が19.3mmのものに対して、撚り線構成および外径が同じで総断面積も公称断面積と同程度であり、引張荷重が規格値の下限を大幅に上回るPC鋼撚り線(PCストランド)が提案されている。このように引張荷重を高めたPC鋼撚り線を使用すれば、コンクリート構造物の高強度化や施工性向上、すなわち、従来よりも小径のPC鋼撚り線を用いたり、PC鋼撚り線の挿入ピッチを拡げたりすることができるようになる。
【特許文献1】特許第3684186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたPC鋼撚り線のように引張荷重を従来よりも高めても、定着効率が低いと実用には供しにくいものとなるおそれがある。ここで、定着効率とは、PC鋼撚り線に定着具をセットし、その定着具を介して引張試験を行った場合の引張荷重の、規格引張荷重に対する比率のことをいう。
【0005】
本発明の課題は、従来よりも高強度で、かつ十分な定着効率が得られるPC鋼撚り線およびそれを用いたコンクリート構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の高強度PC鋼撚り線は、1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0〜15.6mmであり、総断面積が135〜148mmであり、撚り線全体の引張荷重が310kN以上であり、側線の引張荷重が中心線の引張荷重の80%以上のものとした。
【0007】
すなわち、JIS G 3536における7本撚り線のうちの標準径が15.2mmのものに対して、撚り線構成および外径が同じで総断面積も公称断面積と同程度であり、撚り線全体の引張荷重が規格値の下限(261kN)を大幅に上回り、かつ側線と中心線の引張荷重の比が80%以上となるように調整することにより、従来よりも高強度で、かつ実用に十分な定着効率が得られるものとすることができる。
【0008】
ここで、総断面積を上記範囲に限定したのは、総断面積が135mm未満では、中心線および側線が単独で必要とされる引張強さを確保することが難しくなり、148mmを超えると、外径を標準径15.2mmの許容範囲(15.0〜15.6mm)に収めることが難しくなるからである。また、撚り線全体の引張荷重が310kN未満では、従来のものに対する強度向上代が小さく、それを用いたコンクリート構造物の高強度化や施工性向上のメリットが小さい。そして、側線の引張荷重が中心線の80%未満では、側線にかかる負担が大きくなり、定着効率が低くなって実用に供しにくいものとなってしまう。
【0009】
また、コンクリート構造物に上述した構成の高強度PC鋼撚り線を用いることにより、その構造物の定着安定性を確保しつつ、高強度化あるいは施工性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明のPC鋼撚り線は、引張荷重がJIS規格値の下限を大幅に上回り、かつ十分な定着効率が得られるものであるから、従来よりも高強度で、かつ確実に実用に供することができる。
【0011】
また、本発明のコンクリート構造物は、上記特性を有する高強度PC鋼撚り線を用いたものであるから、十分な定着安定性を有し、かつ従来よりも高強度のものあるいは施工性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この実施形態の高強度PC鋼撚り線は、1本の中心線(線径:5.20mm)と6本の側線(線径:5.00mm)とを撚り合わせた7本撚り構成のもので、その外径は15.20mm、総断面積は139mmとなっている。この撚り線構成、外径および総断面積は、JIS G 3536における7本撚り線のうちの標準径が15.2mmのものに準じている。また、その中心線および側線の素線としては、JIS G 3502に規定されるSWRS82A、SWRS82Bと、C:0.90〜1.3wt%、Si:0.5〜1.2wt%、Mn:0.1〜1.0wt%、Cr:0.05〜1.5wt%を含む過共析鋼の鋼線とを適切に組み合わせて使用し、撚り線全体の引張荷重が310kN以上となるように調整されている。
【0013】
このPC鋼撚り線の製造方法は、まず、上記の素線(線径:13.0mm)をパテンティング処理して、その強度を1490〜1550MPaに調整した後、9枚のダイスを有する連続伸線機により前記中心線および側線の線径まで冷間伸線加工する。そして、中心線と側線とを撚り合わせ、ストレッチング処理を行った後、380℃でブルーイング処理を行う。このストレッチング処理は、撚り線工程の途中に設置した2つのキャプスタンの間で撚り線に適度な引張荷重をかけて行う。また、ブルーイング処理は、加熱炉で2〜3秒間高周波加熱した後、水冷槽に通して水冷する。なお、加熱炉と水冷槽との間では、数秒間空冷される。
【0014】
次に、このPC鋼撚り線における側線と中心線の引張荷重の比が定着効率に及ぼす影響を調べた実験について説明する。実験では、まず、側線と中心線の素線種類の組合せを変えて引張荷重の比を異ならせた試験片を5種類作製した。そして、各試験片にSM工法用の楔式定着具をセットし、この定着具を介して引張試験を行って定着効率を求めた。この定着効率については、土木学会の基準では95%以上が必要とされている(土木学会コンクリート委員会PC工法設計施工指針改訂小委員会編集、「コンクリートライブラリー66号〜プレストレストコンクリート工法設計施工指針〜」、1991年、p.15 参照)。
【0015】
図1は上記実験の結果を示す。この図から明らかなように、PC鋼撚り線の側線と中心線の引張荷重の比が大きいほど、定着効率は高くなっている。これは、定着具の撚り線把持用の歯が側線に食い込んで定着効率を低下させる要因となっており、側線の引張荷重が高いほど側線にかかる負担が減るためと考えられる。そして、側線の引張荷重を中心線の80%以上とすれば、定着効率が土木学会で基準値としている95%を上回ることが確認された。
【0016】
また、図1に示したPC鋼撚り線のうち、側線と中心線の引張荷重の比が80%以上のものを使用してコンクリート構造物を製造したところ、従来と同等もしくはそれ以上の定着安定性を確保しつつ、高強度化あるいは施工性向上を図ることができた。
【0017】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のPC鋼撚り線の側線と中心線の引張荷重の比と定着効率との関係を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の中心線と6本の側線とを撚り合わせた7本撚り構成で、外径が15.0〜15.6mmであり、総断面積が135〜148mmであり、撚り線全体の引張荷重が310kN以上であり、側線の引張荷重が中心線の引張荷重の80%以上である高強度PC鋼撚り線。
【請求項2】
請求項1に記載の高強度PC鋼撚り線を用いたコンクリート構造物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7898(P2008−7898A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181284(P2006−181284)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】