説明

高性能耐侵食性炭窒化物サーメット

本発明は、セラミック相(PQ)およびバインダー相(RS)を含む、式(PQ)(RS)(式中、Pは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;Qは炭窒化物であり;Rは、Fe、Ni、Co、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;Sは、Cr、Al、SiおよびYから選択される少なくとも一種の元素を含む)によって表されることを特徴とするサーメット組成物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く、サーメットに関し、より詳しくは金属炭窒化物を含むサーメット組成物に関する。これらのサーメットは、優れた耐侵食および腐食性を有する金属が必要である高温用途に適切である。
【背景技術】
【0002】
耐侵食性物質は、表面が侵食力に付される多くの用途での使用が見られる。例えば、製油所プロセスの槽壁および内部は、種々の化学および石油環境で、触媒粒子などの堅い固体粒子を含む強烈な流体に暴露され、侵食および腐食の両者に付される。これらの槽および内部を、特に高温で物質の劣化を引起す侵食および腐食に対して保護することは、技術的な難問である。耐火性ライナーは、一般に、最も厳しい侵食および腐蝕に対して保護を必要とする構成部分に用いられる。固体粒子を流体ストリームから分離するのに用いられる内部サイクロン(例えば触媒粒子をプロセス流体から分離するための流動接触分解装置(FCCU)の内部サイクロン)の内部壁などである。耐侵食性物質の最新技術では、化学的に、キャスタブルアルミナ耐火物が結合される。これらのキャスタブルアルミナ耐火物は、保護が必要な表面に適用され、熱硬化で硬化し、金属錨または金属強化材によって表面に接着する。それはまた、容易に、他の耐火物の表面に結合する。一つの市販耐火物の典型的な化学組成は、重量で、Al 80.0%、SiO 7.2%、Fe 1.0%、MgO/CaO 4.8%、P 4.5%である。最新技術の耐火性ライナーの寿命は、実質的に、高速の固体粒子の衝突、機械的割れおよび破砕によるライナーの過度の機械的磨耗によって制約される。従って、高温用途のための優れた耐侵食および腐食特性を有する物質の必要性が存在する。本発明のサーメット組成物は、この必要性を満足する。
【0003】
セラミック−金属複合材は、サーメットと呼ばれる。十分な化学的安定性を有するサーメットは、高い硬度および破壊靭性に対して適切に設計され、技術的に知られた耐火性物質に勝るより高い耐侵食性程度を提供しうる。サーメットは、一般に、セラミック相およびバインダー相を含み、通常、粉末冶金技術を用いて製造される。ここで、金属およびセラミック粉末は、混合され、圧縮され、高温で焼結されて、稠密な成形体が形成される。
【0004】
本発明は、新規な改良サーメット組成物を含む。
【0005】
本発明はまた、高温で用いるのに適切なサーメット組成物を含む。
【0006】
更に、本発明は、高温条件下での侵食および腐蝕に対する金属表面の改良保護方法を含む。
【0007】
これらおよび他の目的は、次の詳細な説明から明らかになる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セラミック相(PQ)およびバインダー相(RS)を含む、式(PQ)(RS):
(式中、Pは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、
Qは炭窒化物であり、
Rは、Fe、Ni、Co、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、
Sは、Cr、Al、SiおよびYから選択される少なくとも一種の元素を含む)
によって表されることを特徴とするサーメット組成物を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
式(PQ)(RS)によって表されるサーメット組成物の一つの成分は、(PQ)として示されるセラミック相である。セラミック相(PQ)においては、Pは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属である。Qは、炭窒化物である。従って、炭窒化物サーメット組成物中のセラミック相(PQ)は、金属炭窒化物である。(PQ)におけるモル比P:Qは、1:3〜3:1の範囲で変わりうる。好ましくは、1:2〜2:1の範囲である。限定しない例証の例として、P=Tiの場合には、(PQ)は、Ti(C、N)でありうる。ここで、P:Qは1:1である。P=Crの場合には、(PQ)は、Cr(C、N)でありうる。ここで、P:Qは2:1である。セラミック相により、硬度が、炭窒化物サーメットに付与され、約1000℃未満の温度における耐侵食性が付与される。
【0010】
サーメットのセラミック相(PQ)は、好ましくは、バインダー相(RS)中に分散される。分散されたセラミック粒子のサイズは、直径0.5〜3000μmの範囲にあることが好ましい。より好ましくは、直径0.5〜100μmの範囲にある。分散されたセラミック粒子は、いかなる形状でもあってもよい。いくつかの限定しない例には、球体、楕円体、多面体、歪み球体、歪み楕円体および歪み多面体が成形されて含まれる。粒子サイズの直径とは、3D形状の粒子の最長軸の測定値を意味する。粒子サイズ決定には、光学顕微鏡法(OM)、走査電子顕微鏡法(SEM)、透過電子顕微鏡法(TEM)などの顕微鏡法を用いうる。本発明の他の実施形態においては、セラミック相(PQ)は、所定のアスペクト比、即ち小板の長さ/厚さ比を有する小板として分散される。長さ:厚さの比率は、5:1〜20:1の範囲で変わりうる。小板の微細構造により、優れた機械的特性が、侵食プロセス中に、負荷をバインダー相(RS)からセラミック相(PQ)に効果的に移動することにより付与される。
【0011】
式(PQ)(RS)によって表される炭窒化物サーメット組成物の他の成分は、(RS)として示されるバインダー相である。バインダー相(RS)においては、Rは、Fe、Ni、Co、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される卑金属である。Sは、Cr、Al、SiおよびYから選択される少なくとも一種の元素を含む合金化金属である。Sは更に、Y、Ti、Zr、Hf、Ta、V、Nb、Cr、Mo、Wおよびそれらの混合物からなる群から選択されるアリオバレント元素を含んでいてよい。Cr、Al、Si、Yおよびそれらの混合物の合計重量は、バインダー(RS)の重量を基準として少なくとも約12wt%である。アリオバレント元素は、バインダーの重量を基準として約0.01wt%〜約5wt%、好ましくは約0.01wt%〜約2wt%である。元素Ti、Zr、Hf、Ta、V、Nb、Cr、Mo、Wは、酸化状態にある場合に、多価状態によって特徴付けられるアリオバレント元素である。これらの元素は、酸化物スケールにおける欠陥輸送を減少し、それにより耐腐蝕性が高められる。
【0012】
炭窒化物サーメット組成物においては、バインダー相(RS)は、サーメットの容積を基準として5〜50vol%、好ましくは5〜30vol%の範囲にある。質量比R/Sは、50/50〜90/10の範囲で変わりうる。好ましい一実施形態においては、バインダー相(RS)中のクロム含有量は、バインダー(RS)の重量を基準として少なくとも12wt%である。他の好ましい実施形態においては、バインダー相(RS)中のジルコニウムおよびハフニウムの合計含有量は、バインダー相(RS)の全重量を基準として約0.01wt%〜約2.0wt%である。
【0013】
サーメット組成物は、更に、二次的な炭窒化物(P’Q)を含んでいてよい。ここで、P’は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ni、Co、Mn、Al、Si、Yおよびそれらの混合物から選択される。換言すれば、二次的な炭窒化物は、サーメット組成物(PQ)(RS)のP、R、Sおよびそれらの組み合わせからの金属元素から誘導される。(P’Q)中の比率P’:Qは、3:1〜1:3の範囲で変わりうる。本発明のサーメット中の全セラミック相の容積には、(PQ)および二次的な炭窒化物(P’Q)の両者が含まれる。炭窒化物サーメット組成物においては、(PQ)+(P’Q)は、サーメットの容積を基準として約50〜95vol%の範囲である。好ましくは、サーメットの容積を基準として70〜95vol%である。
【0014】
サーメット相(およびサーメット成分)の容量%は、多孔度による細孔容積を除く。サーメットは、0.1〜15vol%の範囲の多孔度によって特徴付けることができる。好ましくは、多孔度の容積は、サーメットの容積の0.1〜10%未満である。多孔度を構成する細孔は、好ましくは連続されない。しかし、サーメット体中に不連続の細孔として分配される。平均細孔サイズは、好ましくは、セラミック相(PQ)の平均粒子サイズと同じか、またはそれより小さい。
【0015】
本発明の一様態は、サーメットの微細形態である。セラミック相は、球体、楕円体、多面体、歪み球体、歪み楕円体および歪み多面体形状の粒子または小板として分散していてよい。サーメットにはまた、二次的な炭窒化物の層によって囲包された炭窒化物コアを有する層状構造が含まれる。好ましくは、分散粒子の少なくとも50%は、個々の炭窒化物セラミック粒子間の粒子−粒子間隔が、少なくとも1nmであるものである。粒子−粒子間隔は、例えばSEMおよびTEMなどの顕微鏡法によって決定しうる。
【0016】
金属およびセラミックなどの結晶質固体においては、個々の原子またはイオンは、それらが、結晶格子として示される配列で、三次元周期性を表すように配列される。金属炭化物および金属窒化物などのセラミック相は、それぞれ、相互貫入金属原子および非金属原子の部分格子を有する結晶質固体である。例えば、TiCセラミック相の場合には、二つの部分格子(一方はTi金属であり、他方はC非金属)が存在する。ここで、TiおよびCの格子位置の交換は認められない。しかし、多くの炭化物および窒化物においては、炭素または窒素は、考えられる化学の全範囲で、容易に、非金属部分格子上で互いが置き換わりうる(即ち純炭化物から純窒化物に置き換わる)。従って、これらの場合には、完全な相互溶解性が存在する。ここで、同じ金属の炭化物および窒化物は、純炭化物から純窒化物までの全範囲で、互いに溶解する。例えば、TiCおよびTiNは、互いに溶解し、通常、炭窒化物相と呼ばれ、Ti(C、N)によって示される混合炭化物−窒化物を生成しうる。この場合には、炭素および窒素は、炭素原子または窒素原子の部分格子のいずれか中で、自由に、互いが置き換わる。しかし、全金属原子:全非金属原子の比率は、依然として、これらの炭窒化物中で1:1として保持されうる。同様に、Tiと他の金属原子との置き換えもまた起こりうる。例えば、Nbが部分的または完全にTiと置き換わって、(Ti、Nb)(C、N)が形成されうる。このときも、全金属:全非金属の原子比は、これらの混合炭窒化物中で、1:1として保持される。これは、顕著なモノ炭化物およびモノ窒化物の特性である。即ち、全金属:全非金属の原子比は、第IV族(Ti、Zr、Hf)および第V族(V、Nb、Ta)元素に関して1:1である。一つの例外は、VCおよびVNである。これは、部分的にのみ、互いに溶解性である。炭窒化物(C、N)中の炭素含有量は、約0.01〜約0.99、好ましくは約0.1〜約0.9、より好ましくは約0.3〜約0.7で変わりうる。これは、(C、N)と略記される。
【0017】
本発明のサーメット組成物は、向上された侵食および腐食特性を有する。侵食速度は、開示の実施例欄に記載されるように、高温侵食および摩耗試験(HEAT)によって決定された。本発明の炭窒化物サーメットの侵食速度は、SiC侵食体に関して、1.0×10−6cc/g未満である。腐食速度は、開示の実施例欄に記載されるように、熱重量分析(TGA)によって決定された。本発明の炭窒化物サーメットの腐食速度は、1×10−10/cm・s未満である。
【0018】
本発明のサーメットは、約3MPa・m1/2超、好ましくは約5MPa・m1/2超、より好ましくは約10MPa・m1/2超の破壊靭性を有する。破壊靭性は、単調負荷条件下での物質中の割れ伝播に抵抗する能力である。破壊靭性は、割れが、物質中で不安定に伝播する臨界応力強度因子として定義される。曲げ試料の引張側での前割れを用いる三点曲げ外形荷重が、好ましくは、破壊靭性を破壊力学理論により測定するのに用いられる。本発明のサーメットの(RS)相は、初めの段落に記載されるように、主として、この属性を付与する原因である。
【0019】
本発明の他の態様は、冶金学の当業者に知られるシグマ相などの金属間沈殿物の脆化を回避することである。本発明の炭窒化物サーメットは、好ましくは、これらの脆化相約5vol%未満を有する。初めの段落に記載されるように、(PQ)および(RS)相を有する本発明のサーメットは、この属性を付与する原因である。
【0020】
サーメット組成物は、一般的な粉末冶金技術(混合、ミリング、圧縮、焼結および冷却など)によって作製される。これは、出発物質として、適切なセラミック粉末およびバインダー粉末を必要とされる容積比で用いる。これらの粉末は、ボールミル中で、エタノールなどの有機液体の存在下に、粉末を互いに実質的に分散させるのに十分な時間粉砕される。液体は、除去され、粉砕された粉末は、乾燥され、ダイに入れられ、素地に圧縮される。得られた素地は、次いで、約1200℃超〜約1750℃までの温度で、約10分〜約4時間の範囲の時間焼結される。焼結操作は、好ましくは、不活性雰囲気または還元雰囲気中で、もしくは減圧下で行われる。例えば、不活性雰囲気はアルゴンであり、還元雰囲気は水素でありうる。その後、焼結体は、典型的に周囲条件に冷却させる。本発明の方法に従って調製されたサーメットにより、厚さ5mmを超えるバルクサーメット物質の製作が可能となる。
【0021】
本発明のサーメットの一特徴は、高温においてさえ、その微細構造が安定であることであり、これは、金属表面を、約300℃〜約850℃の範囲の温度での侵食に対して保護する際に用いるのに、それらを特に適切なものにする。この安定性により、それらは、2年間超、例えば約2年間〜約10年間使用可能になると信じられる。対照的に、多くの既知のサーメットは、高温で転移を経る。これは、サーメットの特性に有害な影響を有する相を形成する。
【0022】
本発明のサーメットの高温安定性は、それらを、耐火材が一般に用いられる用途に適切にする。適切な使用の限定しない一覧には、プロセス槽、移送ライン、サイクロン(例えば、精製業で用いられる流動接触分解装置のサイクロンにおけるものなどの流体−固体分離サイクロン)、グリッドインサート、温度計保護管、バルブ体、すべり弁ゲートおよびガイド、触媒再生装置などに対するライナーが含まれる。従って、侵食または腐食環境に(特に約300℃〜約850℃で)暴露された金属表面は、表面に本発明のサーメット組成物の層を提供することによって保護される。本発明のサーメットは、機械的手段または溶接によって、金属表面に固定しうる。
【実施例】
【0023】
容量%の決定:
各相の容量%、成分および細孔容積(または多孔度)を、走査電子顕微鏡法による2次元面積画分から決定した。走査電子顕微鏡(SEM)法を、焼結サーメット試料について行い、二次電子画像を、好ましくは倍率1000×で得た。SEMによって走査された面積について、X線点画像を、エネルギー分散型X線分光法(EDXS)を用いて得た。SEMおよびEDXS分析を、試料の五つの隣接する面積について行った。各相の2次元面積画分を、次いで、各面積について、画像分析ソフトウェア、即ちEDXイメージング/マッピング バージョン3.2(EDAX Inc、Mahwah、New Jersey 07430、USA)を用いて決定した。面積画分の算術平均を、五つの値から決定した。容量%(vol%)を、次いで、平均面積画分を100倍することによって決定した。実施例に表されるvol%は、2vol%未満と測定された相の量に対しては精度±50%を有し、2vol%以上と測定された相の量に対しては精度±20%を有する。
【0024】
重量%の決定:
サーメット相中の元素の重量%は、標準EDXS分析によって決定された。
【0025】
次の限定しない実施例は、本発明を更に説明するのに含まれる。
【0026】
実施例1
平均直径1.3μmのTiC0.70.3粉末(Japan New Metals Company)70vol%および平均直径6.7μmのステンレススチール(SS)粉末(Osprey Metals、Fe(バランス):18.5Cr:9.6Ni:1.4Mn:0.63Si、95.9%が16μm未満に篩い分けられる)30vol%を、HDPEミリングジャー中でエタノールを用いて分散した。エタノール中の粉末を、イットリア強化ジルコニア(YTZ)球(直径10mm、Tosoh Ceramics)と、ボールミル中100rpmで24時間混合した。エタノールを、減圧オーブン中130℃で24時間加熱することによって混合粉末から除去した。乾燥粉末を、液圧一軸プレス(SPEX3630自動X−プレス)中5,000psiで、直径40mmのダイ中に粉末成形した。得られた緑色円板ペレットを、アルゴン中25℃/分で400℃に昇温し、残留溶剤を除去するために400℃で30分間保持した。円板を、次いで、アルゴン中15℃/分で1500℃に加熱し、1500℃で2時間保持した。温度を、次いで、−15℃/分で100℃未満に降温した。
【0027】
得られたサーメットは、
i)平均粒子サイズ約1.5μmのTiC0.70.369vol%、
ii)平均粒子サイズ約0.5μmの二次的な炭窒化物M(C、N)(wt%で、M=63Cr:24Fe:13Ti)2vol%、および
iii)Cr減損合金バインダー29vol%
を含む。
【0028】
図1は、この実施例に従って処理されたTiC0.70.3サーメットのSEM画像である。ここで、バーは2μmを表す。この画像においては、TiC0.70.3相は暗く見え、バインダー相は明るく見える。Crリッチの二次的なM(C、N)相もまた、バインダー相中に示される。Mリッチ、即ちCrリッチとは、金属Mが、Mを構成する他の成分金属より高い比率を有することを意味する。M(C,N)炭窒化物(Mは、主としてTiおよびTaである)は、TiC0.70.3コア周りのリムとして形成される。Taは、TiC0.70.3粉末からの不純物であると考えられる。図2は、この実施例に従って処理されたTiC0.70.3サーメットのTEM画像である。ここで、バーは0.5μmを表す。この画像においては、TiC0.70.3相は明るく見え、バインダー相は暗く見える。Crリッチの二次的なM(C、N)相もまた、バインダー相中に示される。M(C、N)リムは、TiC0.70.3コア周りに形成される。バインダー相の化学では、Crリッチの二次的なM(C、N)相の沈殿により、Crが減損され、TiC0.70.3の溶解によりTiがリッチになる。
【0029】
実施例2
平均直径1.3μmのTiC0.30.7粉末(Japan New Metals Company)75vol%および平均直径6.7μmのヘインズ(Haynes)(登録商標)566合金粉末(Osprey Metals、Fe(バランス):20.5Cr:20.3Ni:17.3Co:2.9Mo:2.5W:0.92Mn:0.45Si:0.47Ta、96.2%が16μm未満に篩い分けられる)25vol%を、実施例1に記載されるように、サーメット円板を処理するのに用いた。サーメット円板を、次いで、アルゴン中15℃/分で1500℃に加熱し、1500℃で2時間保持した。温度を、次いで、−15℃/分で100℃未満に降温した。
【0030】
得られたサーメットは、
i)平均粒子サイズ約2μmのTiC0.30.774vol%、
ii)平均粒子サイズ約0.5μmの二次的な炭窒化物M(C、N)(wt%で、M=65Cr:9Mo:12Ti:10Fe:3Co:1Ni)2vol%、
iii)平均粒子サイズ約0.5μmの二次的な炭窒化物M(C、N)(wt%で、M=49Cr:30Mo:7Ti:10Fe:3Co:1Ni)1vol%、および
iv)Cr減損合金バインダー(wt%で、36Fe:18Cr:22Ni:21Co:3Ti)23vol%
を含む。
【0031】
図3は、この実施例に従って処理されたTiC0.30.7サーメットのSEM画像である。ここで、バーは2μmを表す。この画像においては、TiC0.70.3相は暗く見え、バインダー相は明るく見える。Crリッチの二次的なM(C、N)相およびMoリッチの二次的なM(C、N)相もまた、バインダー相中に示される。図4は、この実施例に従って処理されたTiC0.30.7サーメットのTEM画像である。ここで、バーは0.5μmを表す。この画像においては、TiC0.30.7相は明るく見え、バインダー相は暗く見える。Crリッチの二次的なM(C、N)相もまた、バインダー相中に示される。Crリッチの二次的なM(C、N)およびMoリッチの二次的なM(C、N)の相もまた、バインダー相中に示される。バインダー相の化学では、Crが減損され、Tiがリッチになる。
【0032】
実施例3
実施例1および2の各サーメットを、酸化試験に付した。用いられた手順は、次のようであった。即ち、
1)10mm角および1mm厚の試料サーメットを、600グリットのダイヤモンド仕上げに研磨し、アセトン中で洗浄した。
2)試料を、次いで、熱重量分析装置(TGA)で、空気100cc/分に800℃で暴露した。
3)操作(2)を、800℃で65時間行った。
4)65時間後に、試料を、周囲温度に冷却させた。
5)酸化物スケールの厚さを、腐蝕の断面顕微鏡試験によって決定した。
6)図5においては、150μm未満のいかなる値も、許容可能な耐腐食性を表す。
【0033】
図5は、TiC、Ti(C、N)およびTiNサーメットの表面上に形成された酸化物スケールの厚み部分を示した。Ti(C、N)サーメットが、TiC、またはTiNサーメットより優れた耐酸化性を有することは明白である。Ti(C,N)サーメットについては、ヘインズ(Haynes)(登録商標)556合金バインダーを用いて作製されたサーメット上に形成された酸化物スケールの厚み部分は、若干、より低いバインダー含有量に係わらず、304SSを用いて作製されたものより低い。この改良は、ヘインズ(Haynes)(登録商標)556合金バインダー中に存在するアリオバレント元素に起因する。TiCサーメットの酸化メカニズムは、TiOの成長である。これは、TiO結晶格子中の浸入型Ti+4イオンの外方向拡散によって制御される。酸化が開始すると、アリオバレント元素は、炭化物または金属相中に存在するが、これは、アリオバレント元素のカチオンサイズ(例えば、Nb+5=0.070nm)がTi+4(0.068nm)のそれと同等であることから、TiO結晶格子中に置換して溶解する。実質的に溶解されたNb+5イオンは、TiO結晶格子の電子濃度を増大することから、TiO中の浸入型Ti+4イオンの濃度は、減少し、従って酸化は抑制される。この実施例は、優れた耐酸化性をもたらすアリオバレント元素の有益な効果を示す。
【0034】
実施例4
実施例1および2の各サーメットを、高温侵食および磨耗試験(HEAT)に付した。用いられた手順は、次のようであった。即ち、
1)直径約35mmおよび厚さ約5mmの試料サーメット円板を秤量した。
2)円板の片側の中心を、次いで、SiC粒子(220グリット、グレード#1の黒色炭化ケイ素、UK abrasives、Northbrook、IL)1200g/分に付した。これは、角度45゜で目標から1インチで終る直径0.5インチの管から出る加熱空気中に混入される。SiCの速度は、45.7m/秒であった。
3)操作(2)を、732℃で7時間行った。
4)7時間後に、試料を、周囲温度に冷却させ、秤量して重量減を決定した。
5)市販のキャスタブル耐火物の試料の侵食を、決定し、参照標準として用いた。参照標準の侵食を、値1とした。サーメット試料の結果を、参照標準と比較する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】304ステンレススチール(304SS)バインダー30vol%を用いて製作されたTiC0.70.3サーメットの走査電子顕微鏡(SEM)画像である。これは、バインダー中に分散されたTi(C、N)セラミック相粒子、並びに新規相M(C、N)(Mは、主としてCr、FeおよびTiである)およびM(C、N)炭窒化物(Mは、主としてTiおよびTaである)の再沈殿物を示す。また、顕微鏡写真には、Ti(C、N)セラミックの周りにM(C、N)リムの形成が示される。
【図2】図1に示された同じサーメットの透過電子顕微鏡(TEM)像である。
【図3】ヘインズ(Haynes)(登録商標)556合金バインダー25vol%を用いて製作されたTiC0.30.7サーメットのSEM画像である。これは、バインダー中に分散されたTi(C、N)セラミック相粒子、並びに新規相M(C、N)(Mは、主としてCr、FeおよびTiである)およびM(C、N)(Mは、主としてMo、Nb、CrおよびTiである)の再沈殿物を示す。
【図4】図3に示された同じサーメットの透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【図5】酸化物層の厚さ(μm)を、800℃で65時間空気暴露された本発明のチタン炭窒化物サーメット(バインダー30vol%を用いて製作された)の耐酸化性の目安として示すグラフである。炭化チタンおよび窒化物サーメットの耐酸化性をまた、比較のために示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック相(PQ)およびバインダー相(RS)を含む、式(PQ)(RS):
(式中、Pは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、
Qは炭窒化物であり、
Rは、Fe、Ni、Co、Mnおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、
Sは、Cr、Al、SiおよびYから選択される少なくとも一種の元素を含む)
によって表されることを特徴とするサーメット組成物。
【請求項2】
前記セラミック相(PQ)は、前記サーメットの容積を基準として50〜95vol%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項3】
前記セラミック相(PQ)におけるモル比P:Qは、1:3〜3:1の範囲で変わりうることを特徴とする請求項2に記載のサーメット組成物。
【請求項4】
前記セラミック相(PQ)は、直径0.5μm〜3000μmのサイズ範囲の球粒として、前記バインダー相(RS)中に分散されることを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項5】
前記バインダー相(RS)は、前記サーメットの容積を基準として5〜50vol%の範囲にあり、質量比R/Sは、50/50〜90/10の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項6】
前記Cr、Al、Si、Yおよびそれらの混合物の合計重量は、前記バインダー相(RS)の重量を基準として少なくとも12wt%であることを特徴とする請求項5に記載のサーメット組成物。
【請求項7】
Sは、Y、Ti、Zr、Hf、Ta、V、Nb、Cr、Mo、Wおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一種のアリオバレント元素を、前記バインダー相(RS)の全重量を基準として0.01〜5wt%の範囲で更に含むことを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項8】
二次的な炭窒化物(P’Q)(式中、P’は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ni、Co、Mn、Al、Si、Yおよびそれらの混合物から選択される)を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項9】
3MPa m1/2超の破壊靭性を有することを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項10】
空気中、10μm〜100μmのSiC粒子1200g/分に、衝突速度少なくとも45.7m/秒(150フィート/秒)、衝突角45度、温度少なくとも732℃(1350゜F)で少なくとも7時間当てた際、侵食速度1×10−6cc/g未満の減損を有することを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項11】
空気100cc/分に、800℃で少なくとも65時間当てた際、腐蝕速度1×10−10/cm・s未満、または厚さ150μm未満の平均酸化物スケールを有することを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項12】
空気中、10μm〜100μmのSiC粒子1200g/分に、衝突速度少なくとも45.7m/秒(150フィート/秒)、衝突角45度および温度少なくとも732℃(1350゜F)で少なくとも7時間当てた際、侵食速度1×10−6cc/g未満を有し、空気100cc/分に、800℃で少なくとも65時間当てた際、腐蝕速度1×10−10/cm・s未満、または厚さ150μm未満の平均酸化物スケールを有することを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項13】
前記サーメットの容積を基準として5vol%未満の脆化相を有することを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項14】
1000℃までの温度で侵食を受ける金属表面の保護方法であって、前記金属表面に、請求項1〜13に記載のサーメット組成物を提供する工程を含むことを特徴とする金属表面の保護方法。
【請求項15】
300℃〜1000℃の範囲の温度で侵食を受ける金属表面の保護方法であって、前記金属表面に、請求項1〜13に記載のサーメット組成物を提供する工程を含むことを特徴とする金属表面の保護方法。
【請求項16】
前記表面は、流体−固体分離サイクロンの内側表面を含むことを特徴とする請求項14に記載の金属表面の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−502373(P2007−502373A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533186(P2006−533186)
【出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/015554
【国際公開番号】WO2004/104248
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】