説明

高減衰ゴム組成物及び制振部材

【課題】幅広い温度範囲で充分な減衰性を発揮できるとともに、加工性及び疲労耐久性にも優れた高減衰ゴム組成物、及びそれを用いた制振部材を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム、シリコーン系高分子、過酸化物及び硫黄を含有し、上記ジエン系ゴム100質量部に対する上記シリコーン系高分子の含有量が5〜110質量部である高減衰ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高減衰ゴム組成物、及び該高減衰ゴム組成物を用いた制振部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、住宅、ビルなどの建築物や、橋梁などにおいて、地震、交通振動、風揺れなどで生じる振動エネルギーを吸収することを目的として、高減衰ゴム組成物を用いた制振部材が設けられている。しかし、粘弾性体であるゴムは、気温に応じて剛性や弾性率が変化するため、安定した減衰性が得られにくいという問題がある。
【0003】
シリコーンゴムは、温度依存性及び圧縮永久歪みが小さく、柔軟性が高いという点から、高減衰ゴム組成物への適用が期待されているが、減衰性が充分ではないという点で改善の余地がある。一方、天然ゴムなどのジエン系ゴムは、優れた減衰性を有しているが、温度依存性が大きいため、温度によっては充分な減衰性を発揮できない場合があるという点で改善の余地がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−41603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、幅広い温度範囲で充分な減衰性を発揮できるとともに、加工性及び疲労耐久性にも優れた高減衰ゴム組成物、及びそれを用いた制振部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シリコーンゴムは硫黄による架橋では充分な破壊強度が得られないため、シリコーンゴムを配合したゴム組成物においては、通常、架橋剤として、過酸化物が使用される。一方、ジエン系ゴムを過酸化物で架橋した場合、硫黄で架橋した場合と比較して一般に破壊強度が劣るため、大きな変形を受ける制振部材に使用するためには疲労耐久性が不足する傾向がある。従って、幅広い温度範囲で充分な減衰性を発揮することができる高減衰ゴム組成物を作製することを目的として、温度依存性が小さいシリコーンゴムと、優れた減衰性を有するジエン系ゴムとを併用したとしても、従来の架橋方法では、充分な疲労耐久性を確保することは困難であった。また、シリコーンゴムは、ジエン系ゴムと比較して粘着性が低い傾向があるため、シリコーンゴムを配合すると、金属板などの他の部材と接着しにくくなり、加工性が悪化する傾向があった。
【0007】
そこで、本発明者らが検討したところ、ジエン系ゴム及びシリコーン系高分子を併用し、更に、架橋剤として過酸化物及び硫黄を併用することで、幅広い温度範囲で充分な減衰性を発揮できるとともに、加工性及び疲労耐久性にも優れた高減衰ゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、ジエン系ゴム、シリコーン系高分子、過酸化物及び硫黄を含有し、上記ジエン系ゴム100質量部に対する上記シリコーン系高分子の含有量が5〜110質量部である高減衰ゴム組成物に関する。
【0008】
上記高減衰ゴム組成物は、上記ジエン系ゴム、上記シリコーン系高分子及び上記過酸化物を混練する第一混練工程と、上記第一混練工程で得られた混練物及び上記硫黄を混練する第二混練工程とによって製造されることが好ましい。
【0009】
上記第一混練工程では、上記過酸化物が架橋剤として機能する動的架橋を行うことが好ましい。
【0010】
上記第一混練工程では、上記ジエン系ゴムの一部と上記シリコーン系高分子及び上記過酸化物とを混練した後、上記ジエン系ゴムの残部を添加して更に混練することが好ましい。
【0011】
上記ゴム組成物は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、10〜250質量部の充填材を含有することが好ましい。
【0012】
上記充填材は無機フィラーであることが好ましい。
【0013】
上記ジエン系ゴムは天然ゴム及び/又は改質天然ゴムを含むことが好ましい。
【0014】
上記硫黄による架橋反応を行った後に測定される上記シリコーン系高分子の最大径は10μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた制振部材に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ジエン系ゴムと、所定量のシリコーン系高分子と、過酸化物と、硫黄とを含有するゴム組成物であるので、幅広い温度範囲で充分な減衰性を発揮できるとともに、疲労耐久性及び加工性にも優れた高減衰ゴム組成物、及びそれを用いた制振部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム、シリコーン系高分子、過酸化物及び硫黄を含有する。ジエン系ゴム及びシリコーン系高分子を併用することで、幅広い温度領域(特に低温)でも充分な減衰性を発揮することが可能となり、また、疲労耐久性も改善できる。更に、シリコーン系高分子を配合すると、通常、粘着性が低くなるため、金属板などの他の部材との架橋接着性が低下し、加工性が悪化する傾向があるが、本発明のゴム組成物は、架橋剤として過酸化物及び硫黄を併用しているため、シリコーン系高分子を配合しても、良好な加工性を確保することができる。
【0018】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム、シリコーン系高分子及び過酸化物を混練する第一混練工程と、上記第一混練工程で得られた混練物及び硫黄を混練する第二混練工程によって製造されることが好ましい。このように、過酸化物を混練する工程の後に、硫黄を混練する工程を設けることにより、過酸化物による架橋反応を行った後に、硫黄による架橋反応を行うことが可能となる。これにより、過酸化物から発生するラジカルが硫黄によって失活することを防止することができ、ジエン系ゴムとシリコーン系高分子とを効率よく架橋することが可能となる。その結果、金属板などの他の部材との架橋接着性をより改善することができる。
【0019】
第一混練工程では、過酸化物が架橋剤として機能する動的架橋を行うことが好ましい。これにより、圧縮永久歪みが小さくなり、疲労耐久性をより改善できる。この効果は、シリコーン系高分子とジエン系ゴムとが共架橋されることでもたらされると推測される。
【0020】
動的架橋は、過酸化物による架橋反応が進行する温度で、ジエン系ゴム、シリコーン系高分子及び過酸化物を混練することで行うことができる。動的架橋を行う際の混練温度(第一混練工程における混練温度)は好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上である。100℃未満の場合、動的架橋が充分に進行できないおそれがある。また、該混練温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。150℃を超えると、分子切断が起こり易くなり、物性の低下を招くおそれがある。
【0021】
動的架橋を行う際、予め架橋されたシリコーン系高分子を使用すると、シリコーン系高分子とジエン系ゴムとの共架橋が進行しにくくなるおそれがある。したがって、第一混練工程では、架橋されていないシリコーン系高分子を使用することが好ましい。
【0022】
第一混練工程では、ジエン系ゴムの一部とシリコーン系高分子及び過酸化物とを混練し(動的架橋)、マスターバッチを作製した後、該マスターバッチにジエン系ゴムの残部を添加して更に混練することが好ましい。これにより、得られるゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることができる。
【0023】
第二混練工程における混錬温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上である。60℃未満の場合、硬黄の分散性が低くなり、所望の物性が得られないおそれがある。また、該混練温度は、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下である。120℃を超えると、ゴム焼け(ゲル化)が起こり易くなる傾向がある。
【0024】
第一混練工程及び第二混練工程で使用できる混練機としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどが挙げられる。
【0025】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(Cl−IIR)、ブロモブチルゴム(Br−IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、環境負荷が小さいという点から、NR、改質天然ゴムが好ましい。
【0026】
改質天然ゴムとしては、例えば、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水酸基化天然ゴム、水素化天然ゴム、脱蛋白天然ゴムなどが使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、安価で入手し易いという点から、ENRが好ましい。
【0027】
本発明のゴム組成物において、ジエン系ゴム100質量%中のNR及び改質天然ゴムの合計含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。上記範囲内であれば、本発明の効果が良好に得られる。
【0028】
上記シリコーン系高分子としては、例えば、シリコーンゴム、シリコーン樹脂などを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、粘着性、ジエン系ゴムへの分散性に優れるという点から、シリコーンゴムが好ましい。
【0029】
シリコーンゴムとしては、例えば、ジメチルシリコーンゴム(MQ)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、フェニルビニルメチルシリコーンゴム(PVMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、二重結合を有するもの(VMQなど)が好ましく、VMQがより好ましい。
【0030】
シリコーンゴムは、鎖状ポリオルガノシロキサン化合物(生ゴム)に補強剤等の添加剤を配合したもの(シリコーンゴム配合物)を使用してもよい。シリコーンゴム配合物としては、例えば、架橋剤を添加して架橋させるミラブル型シリコーンゴムや、架橋剤を添加せずに、縮合反応や付加反応で架橋させる液状シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0031】
シリコーン系高分子の重合度は、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、更に好ましくは5000以上である。また、シリコーンゴムの重合度は、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下、更に好ましくは10000以下である。シリコーン系高分子の重合度が上記範囲内であれば、温度依存性及び疲労耐久性の改善効果を高めることができる。
なお、シリコーン系高分子の重合度は、GPC、NMR等によって測定できる。
【0032】
本発明のゴム組成物において、シリコーン系高分子の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。5質量部未満の場合、シリコーン系高分子による改善効果を充分に発揮することができないおそれがある。また、シリコーン系高分子の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、110質量部以下、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。110質量部を超えると、粘着性が低下し、加工性が悪化する傾向がある。
【0033】
シリコーン系高分子の最大径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。10μmを超えると、疲労耐久性が悪化する傾向がある。
なお、上記シリコーン系高分子の最大径は、硫黄による架横反応を行った後のゴム組成物中に分散したシリコーン系高分子について測定した値であり、後述する実施例の方法で測定できる。
【0034】
上記シリコーン系高分子の最大径を調節する方法としては特に限定されないが、例えば、シリコーン系高分子を混練する工程の条件(混練温度、混練時間、混練機の回転数など)、シリコーン系高分子の重合度、過酸化物の量、ジエン系ゴムとシリコーン系ゴムの混合比、等を調節する方法や、アニーリング処理を行う方法などが挙げられる。
【0035】
過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、1,6−へキサンジオール−ビス−t−ブチルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、良好な疲労耐久性が得られるという点から、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサンが好ましい。
【0036】
本発明のゴム組成物において、過酸化物の含有量は、シリコーン系高分子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上である。0.1質量部未満の場合、架橋密度が低くなり過ぎるため、圧縮永久歪みを充分に確保できない傾向がある。また、過酸化物の含有量は、シリコーン系高分子100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。5質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎるため、疲労耐久性が悪化する傾向がある。
【0037】
硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが使用できる。また、硫黄としては、硫黄ドナー型化合物、チウラム化合物、チオウレア化合物、ジメルカプト化合物、メルカプトトリアジンなどの硫黄化合物を使用することもできる。メルカプトトリアジンとしては、2−ジブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン、2,4,6−トリメルカプト−S−トリアジンなどが使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明のゴム組成物において、硫黄の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上である。0.5質量部未満の場合、架橋密度が低くなり過ぎるため、圧縮永久歪みを充分に確保できない傾向がある。また、硫黄の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。5質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎるため、疲労耐久性が悪化する傾向がある。
【0039】
本発明のゴム組成物は、充填材を含有することが好ましい。充填材としては、例えば、カーボンブラックなどの有機フィラーや、クレー、シリカなどの無機フィラーが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、減衰性をより向上できるという点から、無機フィラーを用いることが好ましい。
【0040】
充填材は、本発明のゴム組成物の製造工程においていずれの工程で混練してもよいが、第一混練工程で混練することが好ましい。また、第一混練工程でジエン系ゴムを分割して混練する場合、充填材は、ジエン系ゴムの残部とともに混練することが好ましい。
【0041】
本発明のゴム組成物において、充填材の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは60質量部以上、更に好ましくは100質量部以上である。10質量部未満の場合、補強性が低く、充分な疲労耐久性を確保できない傾向がある。また、充填材の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは250質量部以下、より好ましくは200質量部以下である。250質量部を超えると、充填材が分散しにくくなり、混練時の加工性や疲労耐久性が低下する傾向がある。
【0042】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ(湿式シリカ、乾式シリカ)、セリサイト、炭酸カルシウム、クレー、アルミナ、タルク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、減衰性をより向上できるという点から、シリカが好ましく、湿式シリカがより好ましい。
【0043】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは150m/g以上、更に好ましくは200m/g以上である。100m/g未満であると、減衰性が悪化する傾向がある。また、シリカのNSAは、好ましくは300m/g以下、より好ましくは250m/g以下である。300m/gを超えると、シリカが分散しにくくなり、混練時の加工性や疲労耐久性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0044】
本発明のゴム組成物において、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは100質量部以上である。60質量部未満の場合、補強性が低く、充分な疲労耐久性を確保できない傾向がある。また、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下である。200質量部を超えると、シリカが分散しにくくなり、混練時の加工性や疲労耐久性が低下する傾向がある。
【0045】
本発明の効果が良好に得られるという点から、本発明のゴム組成物は、充填剤として、無機フィラーとともに有機フィラーを併用することが好ましく、シリカ及びカーボンブラックの併用がより好ましい。
カーボンブラックとしては特に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0046】
本発明のゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満の場合、カーボンブラックを配合した効果が充分に得られないおそれがある。また、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。10質量部を超えると、混練時の加工性が悪化する傾向がある。
【0047】
本発明のゴム組成物は充填材とともに分散助剤としてシリル化剤、シランカップリング剤、ポリアルキレングリコールなどを使用してもよい。
【0048】
シリル化剤としては、例えば、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシランなどのクロロシラン化合物;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物;ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン化合物;N−トリメチルシリルアセトアミド、N,N−(ビストリメチルシリル)アセトアミドなどのアセトアミド類;N,N−(ビストリメチルシリル)ウレアなどの尿素類;などが挙げられる。これらのシリル化剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、減衰性と疲労耐久性のバランスに優れるという点から、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが好ましく用いられる。
【0049】
シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドなどがあげられる。なかでも、補強性改善効果が高いなどの点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドが好ましい。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、事前にこれらを縮合させたオリゴマーを使用してもよい。
【0050】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。また、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールの共重合体であってもよい。
【0051】
分散助剤としては、減衰性と疲労耐久性のバランスに優れるという点から、シリル化剤を用いることが好ましい。
【0052】
これらの分散助剤は、本発明のゴム組成物の製造工程においていずれの工程で混練してもよいが、充填材と同じ工程で混練することが好ましい。すなわち、分散助剤は、第一混練工程で混練することが好ましい。また、第一混練工程でジエン系ゴムを分割して混練する場合、分散助剤は、ジエン系ゴムの残部とともに混練することが好ましい。
【0053】
本発明のゴム組成物において、分散助剤の含有量は、充填材100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。5質量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高くなり、混練時の加工性が悪化する傾向がある。また、分散助剤の含有量は、充填材100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。40質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0054】
本発明のゴム組成物は、硫黄とともに加硫促進剤を併用してもよい。加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、加硫速度とゴム物性とのバランスに優れるという点から、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系を用いることが好ましく、スルフェンアミド系及びグアニジン系の併用、スルフェンアミド系及びチウラム系の併用がより好ましい。
【0055】
加硫促進剤は、本発明のゴム組成物の製造工程においていずれの工程で混練してもよいが、第二混練工程で混練することが好ましい。
【0056】
本発明のゴム組成物は、上記成分に加え、オイル、液状ポリマー、レジン、ロジン、粘着付与剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤等、必要に応じた添加剤が適宜配合され得る。
【0057】
本発明のゴム組成物は、液状ポリマー(液状ゴム)を含有することが好ましい。これにより、低温での減衰性をより向上できる。なお、液状ポリマーとは、室温(25℃)において液状であるポリマーを意味し、室温で固体である上述のジエン系ゴムには含まれない。
【0058】
液状ポリマーとしては、例えば、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状イソプレン−ブタジエンゴム(液状IRBR)や、これらを水展した水展液状ゴムなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、天然ゴムとの相溶性が良いという点から、液状IRが好ましい。
【0059】
本発明のゴム組成物において、液状ポリマーの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満の場合、液状ポリマーを配合した効果が充分に得られないおそれがある。また、液状ポリマーの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。50質量部を超えると、剛性が低くなり過ぎて、減衰性が低下するおそれがある。
【0060】
液状ポリマーは、本発明のゴム組成物の製造工程においていずれの工程で混練してもよいが、第一混練工程で混練することが好ましい。
【0061】
本発明のゴム組成物は、振動を抑制、減衰させる機能を有する制振部材に使用することができ、制振シート、制振ダンパーに好適に使用できる。
【0062】
本発明の制振部材は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階で所望の形状にあわせて加工し、接着剤を塗布した金属板で挟み、加硫機中で加熱加圧することにより、製造することができる。
なお、本明細書において、未加硫の段階とは、硫黄による架橋反応を行う工程が終了していない状態を意味している。未加硫の段階では、過酸化物による架橋を行う工程が終了した状態であってもよい。
【実施例】
【0063】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0064】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
天然ゴム:SMR−CV60
改質天然ゴム:クンプーランガスリー社(Kumpulan Guthrie Berhad(マレーシア))製のENR25(エポキシ化率:25モル%)
シリコーンゴム1:信越化学工業(株)製のKE−785−U(ミラブル型シリコーンゴム)
シリコーンゴム2:信越化学工業(株)製のKE−552D−U(ミラブル型シリコーンゴム)
有機過酸化物:信越化学工業(株)製のC−8(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを25質量%含有)
シリカ:東ソー・シリカ(株)製のニプシルKQ(NSA:236m/g)
シリル化剤:信越化学工業(株)製のKBE103(フェニルトリエトキシシラン)
液状ゴム:(株)クラレ製のLIR−50
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシーストSO(FEFカーボン、NSA:42m/g、DBP吸収量:115ml/100g)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のつばき
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラックMB(2−メルカプトベンゾイミダゾール)
老化防止剤2:松原産業(株)製のアンチオキシダントFR(ポリマライズド2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラ−NS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT(テトラブチルチウラムジスルフィド)
【0065】
実施例及び比較例
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、NR、シリコーンゴム及び過酸化物を120℃で3分間混練りし(動的架橋)、マスターバッチ(MB)を作製した。
【0066】
次に、表2に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で4分間混練りし、混練物を得た。この工程で、実施例1、2及び5、比較例3の混練物は動的架橋された。次に、得られた混練物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で45分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物を、予めブラスト加工等の表面処理を施した鉄板2枚の間に挟み、プレス加硫と共に加硫接着を行い、加硫ゴム組成物(縦40mm、横40mm、厚さ8mmの直方体形状)に鉄板(プレート)が固着された制振部材を得た。
【0067】
上記マスターバッチ、未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物及び制振部材を用いて以下の評価を行った。その結果を表1及び2に示す。
【0068】
(加工性1)
オープンロールにて上記マスターバッチをシーティングした際の作業性を、下記基準により評価した。
○:粘着性は天然ゴムと遜色なし
△:粘着性やや低い
×:粘着性が乏しく、シート同士が接着しない
【0069】
(加工性2)
オープンロールにて上記未加硫ゴム組成物をシーティングした際の作業性を、下記基準により評価した。
○:粘着性は天然ゴムと遜色なし
△:粘着性やや低い
×:粘着性が乏しく、シート同士が接着しない
【0070】
(減衰性、温度依存性、疲労耐久性)
上記制振部材(制振ユニット)を2つ1組として、測定装置((株)島津製作所、EHF−EV020K2−040−1 A形サーボパルサー耐久試験機)に設置し、周波数2Hz、歪100%で0℃及び20℃における動的粘弾性評価試験を行い、等価剪断弾性率(Geq)及び等価粘性減衰定数(heq)を求めた。結果を下記方法で表示した。
減衰性:20℃におけるheq。値が大きい方が良好。
温度依存性:(0℃におけるGeq)/(20℃におけるGeq)。値が1に近いほど良好。
疲労耐久性:比較例1のサンプルが破壊するまでの繰返し回数を100として指数表示。値が大きい方が疲労耐久性に優れる。
【0071】
(シリコーンゴム径)
(株)日立製作所製の透過型電子顕微鏡H−7100を用いて、上記加硫ゴム組成物中に分散しているシリコーンゴム相30個の最大径を測定し、最大のものを示した。単位はμmである。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表2より、天然ゴムと、所定量のシリコーンゴムとを配合するとともに、架橋剤として過酸化物及び硫黄を併用した実施例は、シリコーンゴムを配合しない比較例1と比較して、同等の減衰性、加工性を確保しながら、温度依存性が小さくなり、低温特性が改善された。また、疲労耐久性も改善された。なお、シリコーンゴムを増量すると、減衰性が比較例1よりも若干劣る傾向があったが(実施例2、4)、シリコーンゴムとともにシリカを増量すれば、良好な減衰性を確保することができた(実施例5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム、シリコーン系高分子、過酸化物及び硫黄を含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記シリコーン系高分子の含有量が5〜110質量部である高減衰ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム、前記シリコーン系高分子及び前記過酸化物を混練する第一混練工程と、
前記第一混練工程で得られた混練物及び前記硫黄を混練する第二混練工程とによって製造される請求項1記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項3】
前記第一混練工程では、前記過酸化物が架橋剤として機能する動的架橋を行う請求項2記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項4】
前記第一混練工程では、前記ジエン系ゴムの一部と前記シリコーン系高分子及び前記過酸化物とを混練した後、前記ジエン系ゴムの残部を添加して更に混錬する請求項2又は3記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項5】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、10〜250質量部の充填材を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項6】
前記充填材が無機フィラーである請求項1〜5のいずれかに記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項7】
前記ジエン系ゴムが天然ゴム及び/又は改質天然ゴムを含む靖求項1〜6のいずれかに記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項8】
前記硫黄による架橋反応を行った後に測定される前記シリコーン系高分子の最大径が10μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の高減衰ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の高減衰ゴム組成物を用いた制振部材。

【公開番号】特開2012−153741(P2012−153741A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11180(P2011−11180)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】