説明

高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法

【課題】 本発明は、気体状の塩素化エチレンを光分解した後の分解副生成物を分離し処理するクロロ酢酸類の処理方法を提供する。
【解決手段】 塩素ガスを塩素ガス発生導入手段により発生させる工程と、前記塩素ガスと気体状の塩素化エチレンを混合し混合ガスを得る工程と、前記混合ガスに光を照射し分解する工程と、前記分解する工程で生じた分解副生成物を分離する工程とを有する塩素化エチレンの分解方法で、前記分解副生成物を高温アルカリ溶液により分解する工程と、次いで塩酸によって中和する工程を有し、前記中和する工程において中和された溶液を、前記塩素ガス発生導入手段において発生させる塩素ガスの原材料として再使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状の塩素化エチレンを光分解した後の分解副生成物を分離あるいは処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに気体状の塩素化エチレン、例えばトリクロロエチレン等塩素化エチレンや塩素化メタン等を、塩素ガスと混合し光照射することで分解させる方法が紹介されてきた(特許文献1)。
【0003】
このような方法では、分解によってクロロ酢酸類などの分解副生成物が生じてきている。クロロ酢酸類は消毒副生成物として、最近、上水で基準が制定されているが、人への健康影響といった観点からも注目されてきた。
【特許文献1】特開2001−137697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術で述べたように、気体状の塩素化エチレンを光分解した後の分解副生成物であるクロロ酢酸類は、高温アルカリ溶液を用いた方法により無害化することができる。
【0005】
このような方法によって、分解副生成物であるクロロ酢酸類は分解され分解後の処理液はpHを中性付近に持ってゆくことで除害化される。ただ、pH調整後の処理液は塩濃度が高く、無害であっても処理液放流先の環境になじまないこともある。また、このような処理液についても資源の有効利用は望ましい。よって本発明の課題は、無害化された処理液に対する塩濃度の対策であり、また、pH調整後の処理液の回収再利用である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
よって本発明は前記課題を解決するために次の手段を採用する。すなわち、
本発明は、塩素ガスを発生させる塩素ガス発生導入手段と、前記塩素ガスと気体状の塩素化エチレンとの混合ガスを収容する容器と、前記容器内の前記混合ガスに光を照射する光源とを有する塩素化エチレン分解手段と、
前記塩素化エチレン分解手段からの分解副生成物を分離する酸性液分離手段とを有する塩素化エチレン分解装置において、
前記分解副生成物を分解対象物とし、分解対象物を高温アルカリ溶液により無害化する分解工程と、塩酸による中和工程を有し、
前記中和工程において塩酸により中和された溶液を、前記塩素ガス発生導入手段において発生させる塩素ガスの原材料として使用する分解対象物分解方法である。
【0007】
前記分解副生成物がクロロ酢酸類であることが好ましい。
また、前記高温アルカリ溶液の水酸化物濃度が10%以上であること、前記高温アルカリ溶液が摂氏80度以上の温度であることが好ましい。
【0008】
また、前記中和工程において塩酸により中和された溶液から、水分の蒸発により塩化物を固形化分離する塩化物分離工程を有することが好ましい。
【0009】
また、前記塩化物分離工程が水分の蒸発により塩化物を固形化分離する方法であって、前記中和工程の中和熱を水分の蒸発に利用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
気体状の塩素化エチレンを光分解し、分解副生成物であるクロロ酢酸類を、高温アルカリ溶液を用いた方法により無害化することができた。また、この処理液のpHを中性付近にしたものについては、本発明により、さらに塩濃度の対策がなされた。そして、処理液から回収した塩化物結晶の再利用も可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法の一実施形態を示す概略図である。
【0012】
図1において、気体状の塩素化エチレンは導入手段1によって塩素化エチレン分解手段2に導入される。気体状の塩素化エチレンは、塩素化エチレンを使用する工場や塗装工程等からの排気ガスであってもよいし、塩素化エチレンを含む排水や地下水等を曝気処理したときに発生する排気であってもよく、固体あるいは液体の塩素化エチレン含有廃棄物より気化させたものであってもよい。また、塩素化エチレンの含有濃度を高めるために濃縮装置によって濃縮したガスであってもよい。このような濃縮装置は活性炭あるいはゼオライトのような吸着材に塩素化エチレン一時吸着させ、次に吸着材を少量の加熱空気で塩素化エチレンを脱着し濃縮ガスとしたもので、脱着によって吸着材が再生される構造である。いずれの場合も空気との混合状態であるか、あるいは酸素と水蒸気を含む気体との混合状態とする。
【0013】
塩素化エチレン分解手段2は気体状の塩素化エチレンを含む空気等と塩素ガス発生手段3からの塩素ガスと混合し分解反応をさせる容器であり、光照射手段4による光の照射を受け塩素化エチレンは分解する。分解反応後の気体はダクト5を通り、酸性液分離手段6に導かれる。
【0014】
本発明では中和工程14において中和された溶液を塩素ガス発生手段3で再利用されるため、塩素ガス発生導入手段は塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを電気分解することで陽極付近に発生する塩素ガスを利用する手段とすることとなる。
【0015】
塩素ガスと気体状の塩素化エチレンとの混合ガスに光を照射することを特徴とする塩素化エチレン分解手段においては、光照射手段4として使用する光源は300nm以上500nm以内の波長の光が好ましく。350nm以上450nm以内の波長を用いるのがより好ましい。
【0016】
塩素化エチレン分解手段2による分解反応後の気体には分解反応で消費されていない余剰塩素ガスと、塩素化エチレン分解により生成したクロロ酢酸等や塩酸の酸性液体がミスト化したものを含んでいる。
【0017】
ここで、クロロ酢酸類とは、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等を示す。
【0018】
酸性液体分離手段6は、水に吸収させる方法、アルカリ水溶液に吸収させる方法、分解反応後の気体を冷却により分離する方法その他がある。アルカリ水溶液に吸収させる方法では酸性液体の他に余剰塩素ガスも吸収させることができるが、水に吸収させる方法の場合では酸性液体の吸収によって吸収液のpHが低下するため塩素ガスは吸収されず酸性液体分離手段からリークする。この場合、酸性液分離手段6に導かれ酸性液体が分離された気体はそのまま大気放出することができないため、ダクト7によって、塩素ガス吸収手段8に導かれ塩素ガスを取除かれ浄化気体排出手段9によって大気放出される。また、酸性液体分離手段6がアルカリ水溶液に吸収させる方法である場合、余剰な塩素ガスも酸性液体分離手段6のアルカリ水溶液に吸収されるため、ダクト7および塩素ガス吸収手段8は必要なく、酸性液体分離手段6からの気体が直接浄化気体排出手段9によって大気放出される。塩素ガス吸収手段8はアルカリスクラバーであってもよいし、水スクラバーであってもいいが、pHが低下しないようにアルカリスクラバーであればアルカリ剤をいれて調整し、また水スクラバーであれば吸収液を排水して新水に交換するか、アルカリ剤をいれてpH調整等の管理をおこなう。酸性液体分離手段は、ここで挙げたものも含めて酸性液体が分離される方法であればいずれの方法であってもよい。
【0019】
酸性液体分離手段6における吸収液あるいは酸性液体は、酸性液タンク10に貯留される。酸性液タンク10は酸性液体分離手段6の一部であっても酸性液体分離手段6と一体化していても構わない。例えば、水あるいはアルカリスクラバーの場合ではスクラバー下部の吸収液タンクがそのまま酸性液タンクと見なせる一体化した構造となっている。
【0020】
酸性液体分離手段6における吸収液あるいは酸性液体は酸性液タンク10より引き抜かれ高温アルカリ溶液分解工程12により処理される。
【0021】
酸性液タンク10から高温アルカリ溶液分解工程12をおこなう装置または容器への移送手段11については、固定化されたポンプあるいはバルブと配管によって移送してもよいし、持運びができるポリタンク等に酸性液タンク10から一旦引きぬいていれ、ポリタンク等を移動し高温アルカリ溶液分解工程12へ投入しておこなってもかまわない。ポンプあるいはバルブと配管によって移送する場合は、酸性液タンク10及び高温アルカリ溶液分解工程12をおこなう装置または容器の液面を見ながら自動制御する。また、高温アルカリ溶液分解バッチ処理する場合、移送手段11を実行する間は気体状の塩素化エチレンの導入を停止しておくが、例えば、酸性液タンク11を2基用意しておいて移送期間の間は予備の酸性液タンクに切り替える等の方法によって停止させないでもよい。
【0022】
高温アルカリ溶液分解工程12では、溶液は水酸化物濃度を10%以上で望ましくは15%以上となるようアルカリ性に調整され、また、温度を摂氏80度以上で望ましくは摂氏95度になるよう調整し、多くとも6時間を過ぎない範囲で加熱することで処理される。
【0023】
クロロ酢酸類の水への溶解は高いため吸収液あるいは酸性液体は水等に多く吸収させることができる。例えばトリクロロ酢酸の水への溶解度は90%以上といわれている。塩素化エチレンが希薄濃度のガスを処理する場合、クロロ酢酸類を少ない量の吸収液に高濃度になるまで吸収させておいて、いっきに高温アルカリ溶液分解するバッチ処理する方法も考えられる。また、高濃度ガスを処理する場合やエネルギー消費や経済性が悪くない場合等においては、高温アルカリ溶液分解工程12が連続処理であってもよい。
【0024】
高温アルカリ溶液分解工程12において分解対象物質を含む溶液は高温アルカリ溶液となり分解される。高温アルカリ溶液分解工程12に引き続く工程を冷却工程13とし、また、さらに続く工程を中和工程14とする。
【0025】
高温アルカリ溶液分解工程12によって処理された液体はそのままでは高温でありpHが高いので、冷却工程13によって適度な温度になるまで冷却される。冷却工程13では中和工程14において発生する中和熱による液温の上昇によって沸騰しないようにあらかじめ冷却することであり、そのときの冷却温度以下の経済的な冷却範囲の温度をここでは適当な温度としている。また、冷却工程13と中和工程14とは別々に行う必要はなく同時に、すなわち冷却しながら中和をするということも可能であるが、このときは中和熱による液温の上昇によって沸騰しないように冷却を追従させる必要がある。中和工程14ではpHが中性から酸性の範囲になるよう、すなわちpH7以下となるように注入するが中和工程では攪拌する方が好ましい。また、塩酸を注入するため、pH処理された水溶液は、高温アルカリ溶液分解工程12において水酸化物濃度を10%以上のアルカリとするために使用された薬品がNaOHであればNaCl水溶液となり、また、KOHによりアルカリ溶液とした場合は生成する塩化物はKCl水溶液となる。
【0026】
高温アルカリ溶液分解工程12と冷却工程13と中和工程14はそれぞれ別々の装置を用意して配管やポンプ等の移送手段によって各装置を接続した一体化したシステムであってもよいし、高温アルカリ溶液分解工程12と冷却工程13と中和工程14の各機能を有した1つの装置において各工程を順々におこなうものであってもよい。
【0027】
pH処理された水溶液であるNaCl水溶液等は、移送手段16によって塩素ガス発生手段3に送られ、そこで発生させる塩素ガスの原材料として使用する。
【0028】
移送手段16については、固定化されたポンプあるいはバルブと配管によって移送してもよいし、持運びができるポリタンク等へpH処理された水溶液を一旦引きぬいて、ポリタンク等を移動し塩素ガス発生手段3へ投入しておこなってもかまわない。ポンプあるいはバルブと配管によって移送する場合は、酸性液タンク10及び塩素ガス発生手段3をおこなう装置または容器の液面を見ながら自動制御する。また、移送手段16にはpH処理された水溶液を一時貯留する機能をもたせる方がよい。すなわち、固定化されたポンプあるいはバルブと配管のあいだにタンク18を設けておくか、ポリタンク等のストックヤードである。ところで、気体状の塩素化エチレンの分解時に塩素が出てくるため、NaClあるいはKClが増加してゆき、やがては塩化物として析出してくる可能性がある。このときタンク18は重力沈殿による塩化物の分離ともなりえるため、単なる容器ではなく沈殿槽の構造としてもよい。タンク18のかわりに塩化物分離装置としてろ過、遠心分離等により塩化物の分離をおこなってもよい。
【0029】
この析出した塩化物やNaClあるいはKClが濃縮したpH処理液はここで回収し、一つには廃棄物として処分される。この廃棄物は少量であり有害でない。
【0030】
気体状の塩素化エチレンは酸性液タンク10で回収され、分解対象物であるクロロ酢酸類となる。クロロ酢酸類を含む溶液は高温アルカリ溶液で処理されpH調整され、塩素ガス発生手段3に送られ、そこで発生させる塩素ガスの原材料として使用する。したがって、塩濃度が高いpH処理液はクローズド化され、高塩濃度の処理液放流はなくなる。また、pH処理液の再利用もおこなわれることになる。
【0031】
図2は本発明の高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法についての実施形態を示す概略図である。
【0032】
図1に示した実施形態では分解の系内において塩素のバランスが取れないため、高塩濃度のpH処理液や塩化物の結晶を回収され廃棄物とすることになる。回収物は液体よりも適度な水分を持った粉体あるいは粒状の固体である方が取扱い容易であり、他の工程や他の場所において用途を確保できればリサイクルも可能となる。そのためには低コストで回収物の価値を高める方法が重要となる。
【0033】
図2においては、中和工程14までの手段及び工程は図1に示した実施形態と同じである。
【0034】
図2において、冷却された高温アルカリ水溶液は中和工程14に引続き塩化物分離工程15に入る。ここは中和工程14で生成する塩化物結晶を分離する。
【0035】
塩化物分離工程15では、pH調整後の高塩濃度水溶液を再度加熱し蒸発させて塩化物を濃縮固形化する方法、あるいは晶析手段など用い塩化物の分離をおこなう。このとき、蒸発された水を回収することも大気開放することも可能である。また、この工程で回収された塩化物の結晶は乾燥しており再利用しやすい状態となっている。
【0036】
移送手段16を中和工程14の後、塩化物分離工程15の手前におき、高塩濃度のpH処理液のうち一部を塩素ガス発生手段3に送り、塩素ガスの原材料として使用する。あるいは、塩化物分離工程15で回収された塩化物結晶をストックし、塩素ガス発生手段3で発生させる塩素ガスの原材料として使用する。
【0037】
移送手段16のルートを用いないで、回収しストックした塩化物結晶だけを塩素ガス発生手段3へ送り塩素ガスの原材料として使用する方法もある。この移送手段は図示していない。
【0038】
ここで、高温アルカリ溶液分解工程12と冷却工程13と中和工程14と塩化物分離工程15はそれぞれ別々の装置を用意して配管やポンプ等の移送手段によって各装置を接続した一体化したシステムであってもよいし、高温アルカリ溶液分解工程12と冷却工程13と中和工程14と塩化物分離工程15の各機能を有した1つの装置において各工程を順々におこなうものであってもよい。
【0039】
さらに、図3は、冷却工程13を省略し高温アルカリ溶液分解工程12と中和分離工程17での実施形態である。図2で示した実施形態での高温アルカリ溶液分解工程12と冷却工程13と中和工程14と塩化物分離工程15までが、高温アルカリ溶液分解工程12と中和分離工程17に置き換わった実施形態である。
【0040】
図3の実施形態では、塩化物の分離が水分の蒸発により塩化物を固形化分離する方法であって、塩酸による中和の中和熱を水分の蒸発に利用する方法となる。ここでは、高温アルカリ溶液分解工程12の後に冷却工程を省略し直ぐに中和分離工程17に入る。このときすでに摂氏80度以上の液温に中和熱が加わるため水分の蒸発が起こりやすくなる。ただし、中和熱による沸騰が激しく危険な場合は中和分離工程17を実施する装置を冷却し蒸発を制御してもよいし、また、中和熱が蒸発により塩化物を固形化するに足らない場合には中和分離工程17を実施する装置を加熱して蒸発を制御してもよい。
【0041】
高温アルカリ溶液分解工程12と中和分離工程17はそれぞれ別々の装置を用意して配管やポンプ等の移送手段によって各装置を接続した一体化したシステムであってもよいし、高温アルカリ溶液分解工程12と中和分離工程17の各機能を有した1つの装置において各工程を順々におこなうものであってもよい。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
図4は実施例1に用いた装置を示している。
【0043】
気体状の塩素化エチレンとしてテトラクロロエチレンが空気と混合し、濃度は7.5ppm、風量は200L/分で装置に配管19により光反応チャンバー20に導入される。
【0044】
実施例で用いた塩素ガス発生手段は密閉された20Lの塩素ガス発生槽21に10%のNaCl水溶液を10L入れ、8cm×16cmの電極板2枚を対になるように水没させて設置したもので、一方を陽極電極板22、もう一方を陰極電極板23とした。これに直流電源を接続して通電すると陰極側から塩素ガスが発生する。また、塩素ガス発生槽21の下部から7L/分でブロワ24により空気を吹き込み、その際吹き込み空気で塩素ガス発生槽内21のNaCl水溶液を攪拌しつつ塩素ガス含有気体を押し出すものである。塩素ガス発生槽21から1400ppmの塩素ガス含有気体が押出され、配管25を通って配管19に接続し、テトラクロロエチレンと空気とが混合した気体とさらに混合し、光反応チャンバー20へと導がれている。
【0045】
光反応チャンバー20は、本体が内径150mm×長さ1000mmの円筒管で両端が平板で塞がれ密閉しているものである。この円筒管の中心軸に光源ランプ26として東芝ライテック株式会社製FHF32BLBを1本配置し光反応チャンバー1基とした。本実施例ではこの光反応チャンバー6基を直列に接続した。
【0046】
光反応チャンバーを通過したガスのテトラクロロエチレン濃度は0.1ppm未満となった。
【0047】
光反応チャンバー内で反応した気体と凝縮液は配管により結ばれた酸性液体分離手段である純水スクラバー28に導かれる。
【0048】
本実施例で使用した酸性液体分離手段は純水によるスクラバーでありドレインの連続排出はなされていない。スクラバーは内径200mm長さ1.5mの円筒缶29に充填材(日鉄化工機株式会社製テラレットS・II型)をつめて充填材層30とし、下部に充填材落下防止網31を敷きその下に密着する形で容量50Lの集水タンク32を置いたもので、この集水タンクには最初20Lの純水を入れ内部液とした。酸性液体を含有する気体は集水タンク32の液位より常に上にある入口より入り円筒缶29内で充填材層30をとおり純水スクラバー頂部出口より出て、ファン及びダクト33によって後段の処理へ導かれる。内部液は集水タンク32から循環ポンプ34で抜かれ配管35に導かれて、円筒缶29上部にあるディストリビューター36より降らせスクラバー内部を循環する。このとき充填材層30で純水と酸性液体を接触させる構造となっている。
【0049】
この純水スクラバー28でトリクロロ酢酸が純水に吸収され濃縮させた、1ヶ月連続運転したときのトリクロロ酢酸濃度は約2%となった。トリクロロ酢酸によって純水スクラバー中の水のpHは大幅に低下するため、塩素ガスは酸性液体分離手段では補足されないでリークする。そこで酸性液体分離手段の後段に苛性ソーダを吸収液としたアルカリスクラバー37を設置し塩素ガスを吸収後し、吸収後のガスをファンとダクト38により吸引し大気放出する。アルカリスクラバー37は充填材層と充填材落下防止網、円筒缶、下部の集水タンク及び循環ポンプと配管により構成されている。
【0050】
アルカリスクラバーを通過した最終的なガスのテトラクロロエチレン濃度は0.1ppm未満となった。
【0051】
この1ヶ月の連続運転の後、純水スクラバーの水溶液を引き抜きポンプと配管39で引き抜き新たに純水20Lと入れ替える。また、塩素ガス発生槽21の残液もこの時点で抜き取り、この残液は廃棄されるかpH調整後放流する。
【0052】
引き抜かれた水溶液は60Lのテフロン(登録商標)製水槽40に入れ、濃度40%の苛性ソーダ20Lと混合し高温アルカリ溶液分解にはいる。
【0053】
図5は高温アルカリ溶液分解における処理シーケンスを示したフロー図である。
【0054】
処理対象物の水溶液はテフロン(登録商標)水槽40に投入され、高温アルカリ溶液分解工程12において、所定量の苛性ソーダが注入されNaOH濃度20%となったのち、2時間の間、摂氏95度で加熱することで処理されこの工程が完了する。
【0055】
この処理によって、トリクロロ酢酸濃度は5mg/L未満となった。
【0056】
処理後にこれを冷却工程13で冷却し、冷却途中から塩酸を注入しpHを中性とする。すなわち、冷却により水溶液温度が摂氏95℃から下がり設定温度Aとなったら中和工程14にはいる。また、中和工程14に入っても冷却工程13は完了しない。
【0057】
中和工程14では塩酸注入を開始し、低下するpHが設定pHになるまで塩酸注入を続けて後完了する。冷却工程13は中和工程14が完了した後で、尚且つ水溶液温度が設定温度Bになったら完了する。ここで、設定温度Aは摂氏45℃、設定温度Bは摂氏40℃とし、また、設定pHは7.5以下とした。
【0058】
この中和水溶液のNaCl濃度は約25%となりテフロン(登録商標)水槽40から排出される。中和水溶液の排出後、洗浄工程44にはいる。洗浄工程44では、テフロン(登録商標)水槽40に純水を注入して、水槽洗浄し、洗浄排水を排出される。
【0059】
NaCl濃度約25%の中和水溶液と洗浄工程44での洗浄排水はそれぞれ移送ポンプと配管41によって貯槽42に送りだされる。この貯槽42の役割は、塩素ガスの発生で消費される食塩水をためるものであり、また余剰の食塩水を排出する再の一時貯留のためのものである。貯槽42のNaCl濃度は洗浄排水による希釈されている。これをポンプと配管43によって塩素ガス発生槽21に送り、最終的に純水を加えてNaCl濃度を10%に調整し10Lとする。
【0060】
その後、このNaCl濃度を10%の液を使用してまた次の約1ヶ月間の連続運転を再開させることができた。
【0061】
(実施例2)
実施例2は、実施例1で示したような方法で発生する余剰の食塩水排水や塩素ガス発生槽の残液を処理するもので、塩化物分離工程を有した図2のフローシートに示す方法を実施したものである。実施例1における貯槽42の余剰の食塩水排水と塩素ガス発生槽21の残液あわせて40Lについて、蒸発固形化をおこない食塩を回収した。蒸発固形化においては株式会社オカドラ製SD−650II型の乾燥装置を用い、熱源として蒸気を利用した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法について別の実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明の高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法について別の実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明の高温アルカリ溶液による汚染物質の分解方法について実施例1に用いた装置を示す概略図である。
【図5】実施例1における高温アルカリ溶液分解の処理シーケンスを示したフロー図である。
【符号の説明】
【0063】
1 導入手段
2 塩素化エチレン分解手段
3 塩素ガス発生手段
4 光照射手段
5 ダクト
6 酸性液分離手段
7 ダクト
8 塩素ガス吸収手段
9 浄化気体排出手段
10 酸性液タンク
11 移送手段
12 高温アルカリ溶液分解工程
13 冷却工程
14 中和工程
15 塩化物分離工程
16 移送手段
17 中和分離工程
18 タンク
19 配管
20 光反応チャンバー
21 塩素ガス発生槽
22 陽極電極板
23 陰極電極板
24 ブロワ
25 配管
26 光源ランプ
27 配管
28 純水スクラバー
29 円筒缶
30 充填材層
31 充填材落下防止網
32 集水タンク
33 ファン及びダクト
34 循環ポンプ
35 配管
36 ディストリビューター
37 アルカリスクラバー
38 ファン及びダクト
39 引き抜きポンプと配管
40 テフロン(登録商標)製水槽
41 移送ポンプと配管
42 貯槽
43 移送ポンプと配管
44 洗浄工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素ガスを塩素ガス発生導入手段により発生させる工程と、
前記塩素ガスと気体状の塩素化エチレンを混合し混合ガスを得る工程と、
前記混合ガスに光を照射し分解する工程と、
前記分解する工程で生じた分解副生成物を分離する工程とを有する塩素化エチレンの分解方法であって、
前記分解副生成物を高温アルカリ溶液により分解する工程と、
次いで塩酸によって中和する工程を有し、
前記中和する工程において中和された溶液を、前記塩素ガス発生導入手段において発生させる塩素ガスの原材料として再使用することを特徴とする塩素化エチレン分解方法。
【請求項2】
前記分解副生成物がクロロ酢酸類である請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記高温アルカリ溶液の水酸化物濃度が10%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の分解方法。
【請求項4】
前記高温アルカリ溶液が摂氏80度以上の温度であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項5】
前記中和工程において塩酸により中和された溶液から、水分の蒸発により塩化物を固形化分離する塩化物分離工程を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の分解方法。
【請求項6】
前記塩化物分離工程が水分の蒸発により塩化物を固形化分離する方法であって、前記中和工程の中和熱を水分の蒸発に利用することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−273787(P2006−273787A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98174(P2005−98174)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】