説明

高温焼成型銀ペーストとそれを用いた電磁波シールド

【課題】凹版オフセット印刷法等によって、精度のよい導電パターンを形成できる上、短時間の焼き付けで、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できる高温焼成型銀ペーストと、前記高温焼成型銀ペーストを用いて形成されたシールドパターンを有し、透明度や電磁波シールド特性に優れた電磁波シールドとを提供する。
【解決手段】高温焼成型銀ペーストは、平均粒径0.1μm以上、3μm以下の銀粉末、平均粒径10nm以上、200nm以下の銀ナノ粒子、ガラスフリット、バインダ樹脂、および溶剤を含み、前記銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合を1質量%以上、10質量%以下とした。電磁波シールドは、透明基板上に、前記高温焼成型銀ペーストを用いて、凹版オフセット印刷法によってシールドパターンを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフリットを含み、印刷等によるパターン形成後に、前記ガラスフリットが軟化もしくは溶融する温度以上の高温で焼き付けられて導電パターンを形成する高温焼成型銀ペーストと、前記高温焼成型銀ペーストの焼き付けによって形成される導電パターンをシールドパターンとして備えた電磁波シールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプラズマディスプレイパネル(PDP)の電磁波シールドのシールドパターンや前面板の電極等の、基板の面積と比較してごく微細な線幅を有する導電パターンを前記基板のほぼ全面に形成して前記電磁波シールドや前面板等を製造するために、従来はいわゆるフォトリソグラフ法を利用した導電パターンの形成方法が採用されてきた。しかし近時、前記フォトリソグラフ法に代えて、できるだけ工程数を少なく、消費エネルギーを小さく、使用する材料の無駄を少なく、そして短時間で生産性良く導電パターンを形成するために、印刷法、特に凹版オフセット印刷法を利用して導電パターンを形成することが普及しつつある(特許文献1、2等参照)。
【0003】
凹版オフセット印刷法では、前記導電パターンに対応した凹部を有する凹版を用意し、前記凹部に導電性ペーストを充填し、充填した導電性ペーストをブランケットの表面に転写した後、基板の表面に再転写して焼き付けることで、前記基板の表面に凹版の凹部のパターンに対応した導電パターンが形成されて電磁波シールド等が製造される。かかる凹版オフセット印刷法によれば、例えば凹版の凹部をフォトリソグラフ法によって形成することで、従来の、基板の表面に直接にフォトリソグラフ法によって形成した場合とほぼ同等の、高い精度を有する導電パターンを有する電磁波シールド等を製造することができる。
【0004】
またフォトリソグラフ法では、導電パターンを形成するために多数の工程を要する上、マスクパターンを用いたエッチングやプレーティング等を組み合わせて導電パターンを形成しているため、そのもとになる導電材料を、実際に形成する導電パターンが必要とする量以上に多量に使用したり、あるいはマスクパターンのもとになり導電パターンの形成後は除去しなければならない感光性樹脂等を多量に使用したりする必要がある。しかもエッチングや除去等によって発生する多量の廃材は、個別に回収して再利用することが困難である。
【0005】
これに対し凹版オフセット印刷法では、凹版およびブランケットを繰り返し使用できる上、導電性ペーストの使用量はほぼ導電パターンを形成するのに必要な分だけで済み、多量の廃材が発生するおそれもないため資源の節約に繋がる上、前記のように工程数も少なくて済む。そのため凹版オフセット印刷法によれば、フォトリソグラフ法に比べて消費エネルギーを小さく、使用する材料の無駄を少なく、そして工程数を少なくして、電磁波シールド等を短時間で生産性良く製造することができる。
【0006】
導電性ペーストのもとになる導電成分としては、耐酸化性に優れる上、高絶縁性酸化物を生成しにくいことや、焼き付け後の導電パターンの導電性をコスト安価に向上できることから銀粉末が好適に使用される。また銀粉末を含む導電性ペーストとしては、前記銀粉末をガラスフリット、バインダ樹脂、および溶剤等と配合して構成され、パターン形成後にガラスフリットが軟化または溶融する温度以上の高温で焼き付けられて導電パターンを形成する高温焼成型銀ペーストが一般的である。
【特許文献1】特開平11−354978号公報
【特許文献2】特許第3398092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近時、電磁波シールド等の製造に要するエネルギー、および排出CO量をできるだけ少なくして地球温暖化防止に貢献すると共に、前記電磁波シールド等の生産性を向上し、製造コストを引き下げること等を考慮して、高温焼成型銀ペーストを印刷後、焼き付ける際の焼き付け時間をできるだけ短くすることが求められつつある。しかし、前記従来の高温焼成型銀ペーストを用いて形成される導電パターンは、焼き付けの時間を短くするほど面抵抗が大きくなるという問題がある。
【0008】
高温焼成型銀ペーストを基板上に印刷して焼き付けると、まず溶剤、次いでバインダ樹脂が除去されると共にガラスフリットが軟化し、流動して銀粉末間に浸透する。また互いに接触する銀粉末同士が融着ないしは焼結されて導電接続が形成される。そして浸透したガラスフリットが焼き付け後の冷却によって固化して、多数の銀粉末を結着し、かつ銀粉末同士の導電接続を維持すると共に、導電パターンの形状を維持するバインダとして機能して導電パターンが形成される。
【0009】
そのため、融着ないしは焼結による銀粉末同士の良好な導電接続が形成される割合が多いほど導電パターンの導電性は向上し、面抵抗は小さくなるのであるが、焼き付けの時間を短くするほど、前記メカニズムによって銀粉末同士が良好に融着ないしは焼結されて導電接続される割合が少なくなる傾向があり、結果として形成される導電パターンの導電性が低下し、面抵抗が大きくなってしまう。そこで、銀粉末同士の良好な導電接続の形成を促進して導電パターンの面抵抗を小さくするために、銀粉末として、より短時間の加熱で良好に融着ないしは焼結する粒径の小さいものを用いることが検討された。
【0010】
しかし銀粉末の粒径を小さくすると、高温焼成型銀ペーストを凹版オフセット印刷法によって印刷して形成した導電パターンの精度が低下するという問題があった。この問題は、凹版上に供給した高温焼成型銀ペーストを、ドクターブレードを用いて凹版の凹部以外の表面から掻き取りながら凹部に充填する際に、粒径の小さい銀粉末が前記表面に掻き残されて残留し、残留した銀粉末がブランケットを経由して、基板の表面の、導電パターン以外の領域に転写されることが原因で発生すると考えられる。
【0011】
本発明の目的は、凹版オフセット印刷法等によって精度のよい導電パターンを形成できる上、短時間の焼き付けで、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できる高温焼成型銀ペーストを提供することにある。また本発明の目的は、前記高温焼成型銀ペーストを用いて形成された、精度が高く、かつ導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンをシールドパターンとして有し、透明度や電磁波シールド特性に優れた電磁波シールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための、本発明の高温焼成型銀ペーストは、平均粒径0.1μm以上、3μm以下の銀粉末、平均粒径10nm以上、200nm以下で、かつ銀粉末より平均粒径の小さい銀ナノ粒子、ガラスフリット、バインダ樹脂、および溶剤を含み、前記銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とするものである。
【0013】
前記本発明によれば、導電成分として、平均粒径0.1μm以上、3μm以下というミクロンないしサブミクロンオーダーの銀粉末に加えて、平均粒径10nm以上、200nm以下というナノオーダーで、かつ銀粉末より平均粒径の小さい銀ナノ粒子をも併用しており、かかる銀ナノ粒子が、先に説明した導電パターン形成のメカニズムにおいて銀粉末間の隙間に充填された状態で、より短時間の加熱で良好に融着ないしは焼結して、前記銀粉末同士の間で導電接続を形成するために機能する。そのため短時間の焼き付けでも、従来に比べて銀粉末同士の良好な導電接続が形成される割合を増加させて、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することが可能となる。
【0014】
また本発明によれば、導電パターンを形成する主体である銀粉末の平均粒径が0.1μm以上に限定されると共に、銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が10質量%以下に限定されることで、先に説明したオフセット印刷時の掻き残りの発生に繋がる粒径の小さい成分の量が制限されている。そのため前記掻き残りの発生を抑制して、精度のよい導電パターンを形成することも可能となる。
【0015】
なお銀粉末の平均粒径が3μmを超える場合には、個々の銀粉末の大きさが、導電パターンの微細な線幅に近づくため、前記導電パターンの、特に輪郭線の形状が銀粉末の形状によって影響を受けて乱れやすくなる結果、導電パターンの精度が却って低下してしまう。したがって、銀粉末の平均粒径は3μm以下に限定される。
また銀ナノ粒子の平均粒径が10nm未満では、前記銀ナノ粒子の大きさが、併用する銀粉末の大きさに比べて小さすぎるため、先に説明した、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が十分に得られない。したがって、銀ナノ粒子の平均粒径は10nm以上に限定される。
【0016】
一方、銀ナノ粒子の平均粒径が200nmを超える場合にも、やはり銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が十分に得られない。すなわち、前記銀ナノ粒子の大きさは、併用する銀粉末の大きさとあまり違わないため、銀粉末同士の隙間に良好に充填させることができない上、銀粉末との比較において、より短時間の加熱で良好に融着ないしは焼結させることもできない。したがって、銀ナノ粒子の平均粒径は200nm以下に限定される。
【0017】
また、銀ナノ粒子の平均粒径が銀粉末の平均粒径より大きい場合には、当然ながら銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が得られない。すなわち、前記銀ナノ粒子の大きさが、併用する銀粉末の大きさより大きい場合には、銀粉末同士の隙間に良好に充填させることができない上、銀粉末との比較において、より短時間の加熱で良好に融着ないしは焼結させることもできない。したがって、銀ナノ粒子の平均粒径は、たとえ前記範囲内であっても、併用する銀粉末の平均粒径よりも小さくなければならない。
【0018】
さらに、銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が1質量%未満では銀ナノ粒子が少なすぎるため、やはり、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が十分に得られない。したがって、銀ナノ粒子の割合は1質量%以上に限定される。
銀粉末の平均粒径は、前記範囲内でも0.3μm以上、2μm以下であるのが好ましい。平均粒径が0.3μm以上であれば、先に説明した掻き残りの発生をより一層効果的に抑制して、さらに精度のよい導電パターンを形成することができる。また平均粒径が2μm以下であれば、先に説明した、導電パターンの輪郭線が銀粉末の形状の影響を受けて乱される問題が発生するのをより一層効果的に抑制して、さらに精度のよい導電パターンを形成することができる。
【0019】
銀ナノ粒子の平均粒径は、前記範囲内でも20nm以上、150nm以下であるのが好ましい。平均粒径が前記範囲内であれば、前記銀ナノ粒子による、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能をさらに良好に発揮させて、短時間の焼き付けで、より一層導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することが可能となる。
本発明の電磁波シールドは、透明基板の表面に、前記本発明の高温焼成型銀ペーストからなるシールドパターンが形成されていることを特徴とするものである。また本発明の電磁波シールドは、透明基板の表面に、前記本発明の高温焼成型銀ペーストを、凹版オフセット印刷法によってパターン形成したのち焼き付けることによってシールドパターンが形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
本発明によれば、先に説明した本発明の高温焼成型銀ペーストの効果により、短時間の焼き付けで、精度が高く、かつ導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することができる。そのため、前記導電パターンをシールドパターンとして有し、透明度や電磁波シールド特性に優れた電磁波シールドを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、凹版オフセット印刷法等によって精度のよい導電パターンを形成できる上、短時間の焼き付けで、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できる高温焼成型銀ペーストを提供することができる。また本発明によれば、前記高温焼成型銀ペーストを用いて形成された、精度が高く、かつ導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンをシールドパターンとして有し、透明度や電磁波シールド特性に優れた電磁波シールドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
《高温焼成型銀ペースト》
本発明の高温焼成型銀ペーストは、平均粒径0.1μm以上、3μm以下の銀粉末、平均粒径10nm以上、200nm以下で、かつ銀粉末より平均粒径の小さい銀ナノ粒子、ガラスフリット、バインダ樹脂、および溶剤を含み、前記銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とするものである。
【0023】
銀粉末としては、高温焼成型銀ペーストに用いられる種々の銀粉末のうち、平均粒径が前記範囲内であるものがいずれも使用可能である。銀粉末は、球状ないし粒状のものと鱗片状のものに大別されるが、形成される導電パターンにおける光の反射率を低く抑えて、PDP等の表示のコントラストを向上することを考慮すると、前記銀粉末としては、鱗片状のものよりも球状ないし粒状のものの方が好ましい。
【0024】
銀粉末の平均粒径が前記0.1μm以上、3μm以下の範囲に限定される理由は、下記のとおりである。すなわち銀粉末の平均粒径が0.1μm未満では、凹版上に供給した高温焼成型銀ペーストを、ドクターブレードを用いて凹版の凹部以外の表面から掻き取りながら凹部に充填する際に、粒径の小さい銀粉末が前記表面に掻き残されて残留し、ブランケットを経由して基板の表面の、導電パターン以外の領域に転写されることによって導電パターンの精度が低下する。
【0025】
一方、銀粉末の平均粒径が3μmを超える場合には、その大きさが、導電パターンの微細な線幅に近づくため、前記導電パターンの、特に輪郭線の形状が銀粉末の形状によって影響を受けて乱れやすくなる結果、導電パターンの精度が却って低下する。そのため銀粉末の平均粒径は0.1μm以上、3μm以下の範囲に限定される。なお、これらの問題が生じるのをより一層効果的に防止して、さらに精度に優れた良好な導電パターンを形成することを考慮すると、銀粉末の平均粒径は、前記範囲内でも0.3μm以上、2μm以下であるのが好ましい。
【0026】
銀粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱式の粒度分析計〔例えば日機装(株)製のマイクロトラック(登録商標)粒度分布測定装置〕を用いて測定した累積グラフにおける50%容量での粒径でもって表すこととする。
前記銀粉末と併用する銀ナノ粒子としては、平均粒径が10nm以上、200nm以下で、かつ銀粉末より平均粒径の小さいものが用いられる。銀ナノ粒子の平均粒径が前記範囲に限定される理由は、下記のとおりである。すなわち銀ナノ粒子の平均粒径が10nm未満では、その大きさが、併用する銀粉末の大きさに比べて小さすぎるため、先に説明した、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が十分に得られない。
【0027】
また銀ナノ粒子の平均粒径が200nmを超える場合には、その大きさが、併用する銀粉末の大きさとあまり違わないことになる。そのため、銀粉末同士の隙間に良好に充填させることができない上、銀粉末との比較において、より短時間の加熱で良好に融着ないしは焼結させることもできない。したがって、やはり銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が十分に得られない。
【0028】
さらに銀ナノ粒子の平均粒径が銀粉末の平均粒径より大きい場合にも、当然ながら銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が得られない。すなわち、前記銀ナノ粒子の大きさが、併用する銀粉末の大きさより大きい場合には、銀粉末同士の隙間に良好に充填させることができない上、銀粉末との比較において、より短時間の加熱で良好に融着ないしは焼結させることもできない。
【0029】
そしてこのいずれの場合にも、銀ナノ粒子を併用することによる、短時間の焼き付けで、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成する効果が得られない。したがって銀ナノ粒子の平均粒径は10nm以上、200nm以下に限定される。また銀ナノ粒子の平均粒径は、たとえ前記範囲内であっても、併用する銀粉末の平均粒径よりも小さい範囲に限定される。
【0030】
例えば、併用する銀粉末の平均粒径が0.2μm(=200nm)を超える場合には、銀ナノ粒子として、前記範囲の上限である200nmのものまで使用可能であるが、銀粉末の平均粒径が下限の0.1μm(=100nm)である場合は、銀ナノ粒子として、前記範囲内でも平均粒径が100nm未満のものが使用可能である。前記範囲の中間の平均粒径を有する銀粉末と銀ナノ粒子の場合も同様である。銀ナノ粒子の平均粒径<銀粉末の平均粒径である必要がある。
【0031】
なお銀ナノ粒子による、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能をさらに良好に発揮させて、短時間の焼き付けで、より一層導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することを考慮すると、銀ナノ粒子の平均粒径は、前記範囲内でも20nm以上、150nm以下であるのが好ましい。
銀ナノ粒子の平均粒径は、例えば動的光散乱粒径測定法や、透過型電子顕微鏡を用いた測定方法によって測定した値でもって表すこととする。
【0032】
前記銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が1質量%以上、10質量%以下に限定される理由は、下記のとおりである。すなわち、前記割合が1質量%未満では銀ナノ粒子が少なすぎるため、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能が十分に得られない。
一方、銀ナノ粒子の割合が10質量%を超えても、前記銀ナノ粒子による、銀粉末同士の間に充填されて導電接続を形成する機能をそれ以上は向上させることができない。のみならず過剰の銀ナノ粒子が、凹版上に供給した高温焼成型銀ペーストを、ドクターブレードを用いて凹版の凹部以外の表面から掻き取りながら凹部に充填する際に、前記表面に掻き残されて残留し、残留した銀粉末がブランケットを経由して、基板の表面の、導電パターン以外の領域に転写されて導電パターンの精度が低下する。
【0033】
そのため、銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合は1質量%以上、10質量%以下に限定される。なお、これらの問題が生じるのをより一層効果的に防止して、さらに精度に優れると共に導電性に優れた面抵抗の小さい良好な導電パターンを形成することを考慮すると、銀ナノ粒子の割合は1質量%以上、5質量%以下であるのが好ましい。
【0034】
ガラスフリットとしては、高温焼成型銀ペーストを基板の表面に印刷した後の焼き付けによってバインダ樹脂が分解または揮散するのと前後して軟化もしくは溶融し、バインダ樹脂に代わって銀粉末同士、および銀粉末と基板との間を結着するバインダとして機能する種々のガラス材料からなる粉末が使用可能である。前記ガラスフリットとしては、例えばホウケイ酸ガラスの粉末や、あるいは酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化ビスマス等の金属酸化物を含有するガラスの粉末等の1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
ただしガラスフリットとしては、バインダ樹脂が軟化し、溶融し、さらに分解または揮散する温度以上で、かつ銀粉末の融点以下の温度範囲、特に400℃以上、550℃以下で軟化または溶融するものを用いるのが好ましい。かかるガラスフリットは、焼き付け時にバインダ樹脂が分解または揮散した後に軟化または溶融を開始して銀粉末同士、および銀粉末と基板との間を結着するバインダとしての機能を発揮するので、焼き付けによって形成される導電パターン中にバインダ樹脂が分解または揮散した後が空隙となって残って導電性が低下するのを抑制することができる。
【0036】
また前記ガラスフリットは、銀粉末の融点以下の温度で軟化または溶融を開始してバインダとしての機能を発揮するので、焼き付けの温度を引き下げたり焼き付けの時間を短くしたりすることができ、焼き付けに要する時間やエネルギー等を削減して電磁波シールド等の生産性を向上することもできる。ガラスフリットは、凹版オフセット印刷に対する印刷適性に優れる上、微細な導電パターンを細部まで良好に再現できる高温焼成型銀ペーストを調製することや、銀粉末同士、および銀粉末と基板との間を良好に結着させて導電性に優れた導電パターンを形成すること等を考慮すると、粒度分布の50%累積径D50が0.1μm以上、5μm以下、特に0.2μm以上、3μm以下であるのが好ましい。
【0037】
焼き付け後に導電パターンを構成する固形分である銀粉末、銀ナノ粒子、およびガラスフリットの配合割合は、前記導電パターンに求められる導電性等の特性に合わせて適宜設定すればよい。例えばPDPの電磁波シールドのシールドパターンの場合は、良好な電磁波シールド特性を得るために、銀粉末、銀ナノ粒子、およびガラスフリットの総量中に占めるガラスフリットの割合が5質量%部以上、100質量%以下、特に15質量%以上、50質量%以下であるのが好ましい。
【0038】
ガラスフリットの割合が前記範囲未満では、十分な強度を有するシールドパターンを形成できないおそれがあり、前記範囲を超える場合には、相対的にシールドパターンの導電性を担う銀粉末および銀ナノ粒子の割合が少なくなって、十分な電磁波シールド特性を有するシールドパターンを形成できないおそれがある。
バインダ樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリエステル−メラミン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ−メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。特にバインダ樹脂は焼き付けによって熱分解されて除去されるため強固な耐久性を要しない上、前記焼き付けによって熱分解させて除去する際に、樹脂分またはその残渣が残存せずに、完全に除去されることが求められ、そのような樹脂としてはポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロースが挙げられ、とりわけ、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0039】
バインダ樹脂の分子量は、銀粉末、銀ナノ粒子、ガラスフリットの分散性や、高温焼成型銀ペーストの印刷特性等に合わせて適宜設定すればよいが、通常は、質量平均分子量Mwが1000以上、30000以下、特に2000以上、20000以下であるのが好ましい。バインダ樹脂の添加量は、適用する印刷法に応じて高温焼成型銀ペーストに求められる粘度等の特性に合わせて適宜設定すればよい。
【0040】
溶剤としては、前記バインダ樹脂を溶解して、前記所定の特性を有する高温焼成型銀ペーストを形成しうる種々の溶剤が使用可能であり、特に沸点が150℃以上である溶剤が好適に使用される。溶剤の沸点が150℃未満では、印刷時に乾燥しやすくなって、良好な印刷を続けることができないおそれがある。
前記溶剤としては、例えばヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ステアリルアルコール、セリルアルコール、シクロヘキサノール、α−テルピネオール等のアルコール類:エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(セロソルブアセター)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルセロソルブアセタート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(カルビトールアセタート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルカルビトールアセタート)等のアルキルエーテル類の1種または2種以上が挙げられる。
【0041】
溶剤の添加量は、適用する印刷法に応じて高温焼成型銀ペーストに求められる粘度等の特性に合わせて適宜設定すればよい。
本発明の高温焼成型銀ペーストには、前記各成分に加えて、例えばレベリング剤、分散剤、揺変性付与剤(チキソトロピック粘性付与剤)、消泡剤、充填剤、硬化触媒等の種々の配合剤を任意の割合で添加することもできる。本発明の高温焼成型銀ペーストは、前記各成分を所定の割合で配合後、3本ロール、ボールミル、アトライター、サンドミル等を用いて攪拌し、混合して調製される。処理条件は特に限定されず、常法に従って処理すればよい。
【0042】
本発明の高温焼成型銀ペーストは、ガラス基板の表面に印刷して、バインダ樹脂の熱分解温度以上で、かつガラスフリットが軟化または溶融する温度で焼き付けることにより、PDPの電磁波シールドのシールドパターンや、前面板の電極等を形成するために用いることができる。印刷方法としては、先に説明した凹版オフセット印刷法が好適に採用される。
【0043】
《電磁波シールド》
本発明の電磁波シールドは、透明基板の表面に、前記本発明の高温焼成型銀ペーストからなるシールドパターンが形成されていることを特徴とする。前記シールドパターンは、本発明の高温焼成型銀ペーストを、凹版オフセット印刷法によってパターン形成したのち焼き付けることによって形成するのが好ましい。
【0044】
凹版オフセット印刷法においては、前記高温焼成型銀ペーストを凹版の凹部に充填し、次いでブランケットの表面に転写させた後、前記ブランケットの表面からガラス基板等の透明基板の表面に転写させる。ブランケットとしては、高温焼成型銀ペーストの、前記ブランケットの表面から透明基板の表面への転写率を高めるために、表面層がシリコーンゴムで形成されたものを用いるのが好ましく、前記表面層を形成するためのシリコーンゴムとしては、例えば未硬化時に液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムが好ましい。
【0045】
前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムを下地上に塗布し、硬化させて表面層を形成すると、前記表面層の表面を、硬化時に、液またはペーストのセルフレベリング効果によって平滑化できる。そのため、高精度のシールドパターンを形成するために好適な、表面粗さが極めて小さいブランケットを得ることができる。また、前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムを金型内に注入して、表面層の形状に成形しながら硬化させることによってブランケットを製造してもよい。
【0046】
凹版としては、その表面に所望のシールドパターンの平面形状と高さに対応する平面形状と深さとを有する凹部を形成しうる、種々の材料からなるものを用いることができる。前記材料としては、例えば42アロイ、ステンレス鋼等の金属や、ソーダライムガラス、ノンアルカリガラス等のガラス等が挙げられる。
特に、凹版に優れた耐久性が要求される場合には金属製の凹版が好適であり、凹部について極めて高度な寸法精度を要求される場合には、加工性が良好なガラス製の凹版が好ましい。また、特に優れた耐久性を求められる場合には、金属製の凹版の表面に、さらに硬質クロムメッキ処理等を施してもよい。
【0047】
凹版オフセット印刷法の具体的な印刷条件は特に限定されず、常法に従って適宜設定できる。例えば、凹版の凹部への高温焼成型銀ペーストの充填は、ドクターブレードやスキージ等を用いたドクタリング等の常法に従って行えばよい。また1回目の転写工程での、凹版の凹部からブランケットの表面への転写速度や、2回目の転写工程での、ブランケットの表面からガラス基板の表面への転写速度は、例えば凹版の凹部の幅および深さ、凹版やガラス基板の種類、高温焼成型銀ペーストの物性、シールドパターンに要求される線幅や三次元形状の精度等の諸条件を考慮しつつ、常法に従って適宜設定することができる。
【0048】
印刷後の焼き付け温度は、バインダ樹脂を速やかに熱分解させて除去すると共に、ガラスフリットを溶融させ、流動させて銀粉末を結着させ、さらには銀ナノ粒子の機能によって銀粉末同士を良好に導電接続させることができる任意の温度に設定できる。前記焼き付けの温度は、一般的には450℃以上、650℃以下、特に500℃以上、600℃以下であるのが好ましい。
【0049】
また焼き付けの時間は特に限定されないが、本発明の高温焼成型銀ペーストによれば、先に説明したように銀ナノ粒子の機能によって、通常に比べてより短時間で、銀粉末同士を良好に導電接続できることから、焼き付けの時間を従来よりも短めに設定することができる。前記焼き付けの時間は、通常は1ないし10分間程度、特に2ないし5分間程度である。
【0050】
焼き付けによって得られるシールドパターンの厚みは1.0μm以上、10μm以下、特に1.5μm以上、8μm以下であるのが好ましい。シールドパターンの厚みが前記範囲未満では断線とそれに伴うシールド不良が発生しやすくなるおそれがある。逆に厚みが前記範囲を超える場合には、シールドパターンの表面の平坦性が低下するおそれがある。
【実施例】
【0051】
〈実施例1〉
バインダ樹脂としてのポリエステル樹脂(質量平均分子量Mw:10000)100質量部と、球状ないしは粒状の銀粉末(平均粒径:0.5μm)873質量部と、銀ナノ粒子(平均粒径:100nm)27質量部と、ガラスフリット(軟化点:520℃、50%平均径D50:1.0μm)25質量部と、溶剤としてのブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)80質量部とを配合し、3本ロールを用いて混合して高温焼成型銀ペーストを製造した。銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合は3質量%であった。
【0052】
〈比較例1〉
銀ナノ粒子を配合せず、銀粉末の配合量を900質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高温焼成型銀ペーストを製造した。銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合は0質量%であった。
〈実施例2ないし4、比較例2〉
銀粉末と銀ナノ粒子の配合量を調整して、銀粉末と銀ナノ粒子の総量は変えずに、前記総量中に占める銀ナノ粒子の割合を1質量%(実施例2)、5質量%(実施例3)、10質量%(実施例4)、15質量%(比較例2)としたこと以外は実施例1と同様にして高温焼成型銀ペーストを製造した。
【0053】
〈電磁波シールドの製造〉
実施例、比較例で製造した高温焼成型銀ペーストを、精密印刷用の凹版オフセット印刷機を用いた凹版オフセット印刷法によってガラス基板上に印刷したのち焼き付けて、片面にシールドパターン(メッシュパターン)を有する電磁波シールドを製造した。
凹版としては、片面に線幅20μm、ピッチ300μm、深さ7.5μmの前記シールドパターンに対応した凹部が形成されたDLC凹版を用いた。またブランケットとしては、液状の常温硬化型(付加型)シリコーンゴムを硬化させて形成した表面層を有するシリコーンブランケットを用いた。ガラス基板としては、厚み2.8mm、対角寸法22インチの高歪点ガラス基板〔旭硝子(株)製のPD200〕を用いた。焼き付けには焼成炉を使用し、常温から昇温して650℃で5分間保持したのち常温まで自然冷却した。
【0054】
製造した電磁波シールドの、シールドパターンの面抵抗(Ω/□)を、低抵抗率計〔三菱化学(株)製のロレスタ(登録商標)GP MCP−T600型〕を用いて測定して導電性を評価した。面抵抗が0.4Ω/□以下であれば導電性良好とした。また前記電磁波シールドの、シールドパターンを形成した側と反対側の面の反射率(Y値)を、色彩色差計〔コニカミノルタセンシング(株)製のCR−300〕を用いて測定して、前記シールドパターンの精度を評価した。すなわち精度が低く、ガラス基板の表面の、シールドパターン以外の領域にも銀粉末や銀ナノ粒子が転写されている場合には反射率が高くなる傾向があり、前記反射率が8.5%以下であるとき、シールドパターンの精度が良好であるとして評価した。以上の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より、銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が1質量%以上、10質量%以下であるとき、精度が高く、かつ導電性に優れた面抵抗の小さいシールドパターンを形成できることが確認された。
〈実施例5ないし9、比較例3、4〉
銀粉末として、球状ないしは粒状で、かつ平均粒径が0.01μmであるもの(比較例3)、0.2μmであるもの(実施例5)、1μmであるもの(実施例6)、2μmであるもの(実施例7)、3μmであるもの(実施例8)、4μmであるもの(比較例4)を用いたこと以外は実施例3と同様にして高温焼成型銀ペーストを製造し、電磁波シールドを製造した。そして、前記各電磁波シールドについて、先に説明した面抵抗および反射率を測定した。結果を、実施例3の結果と合わせて表2、表3に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
表2、表3より、銀粉末の平均粒径が0.1μm以上、3μm以下であるとき、精度が高く、かつ導電性に優れた面抵抗の小さいシールドパターンを形成できることが確認された。
〈実施例9ないし12、比較例5、6〉
銀ナノ粒子として、平均粒径が5nmであるもの(比較例5)、10nmであるもの(実施例9)、20nmであるもの(実施例10)、80nmであるもの(実施例11)、150nmであるもの(実施例12)、210nmであるもの(比較例6)を用いたこと以外は実施例3と同様にして高温焼成型銀ペーストを製造し、電磁波シールドを製造した。そして、前記各電磁波シールドについて、先に説明した面抵抗および反射率を測定した。結果を、実施例3の結果と合わせて表4、表5に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
表4、表5より、銀ナノ粒子の平均粒径が10nm以上、200nm以下であるとき、精度が高く、かつ導電性に優れた面抵抗の小さいシールドパターンを形成できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.1μm以上、3μm以下の銀粉末、平均粒径10nm以上、200nm以下で、かつ銀粉末より平均粒径の小さい銀ナノ粒子、ガラスフリット、バインダ樹脂、および溶剤を含み、前記銀粉末と銀ナノ粒子の総量中に占める銀ナノ粒子の割合が1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする高温焼成型銀ペースト。
【請求項2】
銀粉末の平均粒径が0.3μm以上、2μm以下である請求項1に記載の高温焼成型銀ペースト。
【請求項3】
銀ナノ粒子の平均粒径が20nm以上、150nm以下である請求項1または2に記載の高温焼成型銀ペースト。
【請求項4】
透明基板の表面に、請求項1ないし3のいずれかに記載の高温焼成型銀ペーストからなるシールドパターンが形成されていることを特徴とする電磁波シールド。
【請求項5】
透明基板の表面に、請求項1ないし3のいずれかに記載の高温焼成型銀ペーストを、凹版オフセット印刷法によってパターン形成したのち焼き付けることによってシールドパターンが形成されていることを特徴とする電磁波シールド。

【公開番号】特開2010−113912(P2010−113912A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284609(P2008−284609)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】