説明

高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法

【課題】高炉炉頂下部シール弁に装着されているパッキンの損傷を的確に抑止して、パッキンの長寿命化を図ることができる高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法を提供する。
【解決手段】下部シール弁5の環状の弁座12の内部に、周方向に貫通した溝21を設け、その溝21内に常温の窒素ガスを供給して弁座12を冷却し、それによって、弁座12に圧接するパッキン13を間接的に冷却して、パッキン13の温度を、前記パッキンの熱損傷を防止しつつ原料粉の付着による摩耗損傷を防止できる温度範囲(例えば、100℃〜120℃)になるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉頂下部シール弁に装着されているパッキン(シールゴム)の損傷防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なベルレス型高炉の炉頂部を図1に示す。高炉の操業においては、生産性向上を目的として高圧操業を行っているため、図1に示すように、炉頂ホッパー(炉頂バンカー)2の装入口8には、炉頂ホッパー2と大気との間の遮断用として上部シール弁3が配設されているとともに、炉頂ホッパー2の排出口9には、炉頂ホッパー2と高炉炉内7との間の遮断用として下部シール弁5が配設されている。上部シール弁3および下部シール弁5は、それぞれ、矢印aおよび矢印bの方向に回動可能なレバー4、6に連結しており、レバー4、6を回動することによって、炉頂ホッパー2の装入口8または排出口9をシール(閉鎖)したり、あるいは開放したりすることができる。
【0003】
鉱石やコークス等の原料を高炉に装入するにあたって、原料は装入コンベア1によって炉頂ホッパー2内に投入される。このとき炉頂ホッパー2の装入口8はレバー4を矢印aの方向に回動させて上部シール弁3を開放状態にし、一方、排出口9はレバー6を矢印bの方向に回動させて下部シール弁5を閉鎖状態にする。炉頂ホッパー2内への原料の投入が終了すると、炉頂ホッパー2の装入口8は、レバー4を矢印bの方向に回動させて上部シール弁3を閉鎖状態にする。こうして炉頂ホッパー2を密閉して、炉頂圧とほぼ同じ圧力になるまで炉頂ホッパー2内を加圧する。炉頂ホッパー2内の加圧が終了すると、排出口9の下部シール弁5を開放状態にして、原料を高炉炉内7に装入する。ちなみに、上部シール弁3および下部シール弁5は、上記の開放・閉鎖動作を1日に360回程度行っている。
【0004】
図2は、下部シール弁5が閉鎖状態になっているところを示す断面図である。下部シール弁5は、レバー6と一体的に回動する円盤状の弁体11と、炉頂ホッパー2の下端部に固定される環状の弁座12とを備えている。そして、弁体11にはリング状のシリコンゴム製のパッキン(シールゴム)13が装着されており、レバー6を矢印bの方向に回動させることによって、パッキン13の上面が弁座12の下端面に圧接される。
【0005】
しかしながら、上述した下部シール弁5には、次のような問題がある。すなわち、下部シール弁5の周辺は、約4%の水分を含有する炉内ガスの雰囲気にさらされているため、シール面(パッキン13上面)に結露が生じる。このようにシール面(パッキン13上面)に結露が生じるのは、下部シール弁5を境として、シール面(パッキン13上面)近傍の炉内ガスの温度と炉頂ホッパー2内の温度(大気温度)との間に大きな温度差があるため、その温度差によって、シール面(パッキン13上面)近傍の炉内ガスが露点(飽和水蒸気圧温度)以下の温度に冷却されるためである。このように、シール面(パッキン13上面)に結露が生じると、その結露した個所に装入原料中の粉が付着して成長する。この結果、パッキン13が摩耗・損傷して、シール不良となり、高炉の操業を停止して、パッキン13を交換しなければならない。
【0006】
そこで、パッキン13の寿命を延長して、高炉の稼働率向上やパッキン13のコスト削減等を図るために、特許文献1においては、下部シール弁5の弁座12の外面に添って水蒸気配管を設置し、その水蒸気配管に100℃以上の飽和水蒸気を流して弁座12の外面を加熱するようにしており、それによって、下部シール弁5の閉鎖状態の際に弁座12に圧着するパッキン13を間接的に加熱して、シール面(パッキン13上面)近傍の炉内ガスが露点(飽和水蒸気圧温度)以下の温度に冷却されることを防止し、シール面(パッキン13上面)への結露とそれによる原料粉の付着を抑止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−128107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載のように、下部シール弁5のパッキン13の長寿命化を図るために、100℃以上の飽和水蒸気を用いて弁座12の外面を加熱することによって、パッキン13を間接的に加熱する方法を採用した場合でも、短期間でパッキン13の損傷が生じることがあった。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高炉炉頂下部シール弁に装着されているパッキンの損傷を的確に抑止して、パッキンの長寿命化を図ることができる高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは、上述したように、100℃以上の飽和水蒸気を用いてパッキン13を間接的に加熱した場合に、短期間で損傷したパッキン13の損傷状態を調査した。その結果、このパッキン13の損傷は、従来のようなパッキン13上面への原料粉の付着による摩耗損傷ではなく、シリコンゴム製のパッキン13がその耐熱温度(約200℃)に近い温度にさらされたことによる熱損傷であることが判明した。パッキン13の周辺には、主に炉頂中心部のガスが到着するが、従来、この炉頂中心部のガスの温度は100℃未満と考えられていた。しかし、操業条件の変更等によって、炉頂中心部のガスの温度が200℃に近い温度になっていて、そのためにパッキン13が熱損傷したものと推定された。
【0011】
そこで、本発明者らは、このようなパッキン13の熱損傷を防止しつつ、パッキン13上面への原料粉の付着による摩耗損傷を防止するためには、従来技術のようにパッキン13を加熱してパッキン13の温度を上昇させるのではなく、むしろ、パッキン13を冷却して、パッキン13の温度が所定の温度範囲に収まるようにすることが必要であると考えた。ただし、パッキン13を直接冷却するのは難しいので、弁座12を冷却することによって、間接的にパッキン13を冷却することにした。
【0012】
上記のような考え方に基づいて、本発明は以下のような特徴を有している。
【0013】
[1]弁体と、弁座と、前記弁体に装着されて前記弁座に圧接されるパッキンとを備えてなる高炉炉頂下部シール弁において、前記弁座の前記パッキンに圧接する下端面近傍の内部に設けられた溝に常温の窒素ガスを供給して前記弁座を冷却することによって、前記パッキンの温度を、前記パッキンの熱損傷を防止しつつ原料粉の付着による摩耗損傷を防止できる温度範囲に制御することを特徴とする高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法。
【0014】
[2]前記弁座の温度を測定して、弁座の温度が所定の上限温度を上回ったら、弁座に設けられた前記溝への常温の窒素ガスの供給を開始し、前記弁座の温度が所定の下限温度を下回ったら、弁座に設けられた前記溝への常温の窒素ガスの供給を停止することを特徴とする前記[1]に記載の高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法。
【0015】
[3]前記上限温度は、前記パッキンの耐熱温度に基づいて定めた温度であり、前記下限温度は、炉内ガスの露点に基づいて定めた温度であることを特徴とする前記[2]に記載の高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、高炉炉頂下部シール弁に装着されているパッキンの損傷を的確に抑止して、パッキンの長寿命化を図ることができる。その結果、パッキンの交換頻度が減少し、高炉の稼働率向上やパッキンのコスト削減等を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ベルレス型高炉の炉頂部を示す図である。
【図2】高炉炉頂下部シール弁を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における弁座の温度推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明の一実施形態において対象とするのは、前述の図1に示した、炉頂ホッパー2と高炉炉内7との間の遮断用として配設されている下部シール弁5である。そして、下部シール弁5は、図2に断面図を示したように、レバー6と一体的に回動する円盤状の弁体11と、炉頂ホッパー2の下端部に固定される環状の弁座12とを備えている。そして、弁体11にはリング状のシリコンゴム製のパッキン(シールゴム)13が装着されており、レバー6を矢印bの方向に回動させることによって、パッキン13の上面が弁座12の下端面に圧接される。
【0020】
その上で、この実施形態においては、図3に断面図を示すように、環状の弁座12のパッキン13に圧接する下端面近傍の内部に、周方向に貫通した溝21を設け、その溝21内に常温の窒素ガスを供給して、弁座12を冷却するようにしており、これによって、弁座12に圧接するパッキン13を間接的に冷却して、パッキン13の温度を、熱損傷を防止しつつ原料粉の付着による摩耗損傷を防止できる温度範囲(例えば、100℃〜120℃)になるように制御している。なお、図3において、21aは溝21への窒素ガスの供給口であり、21bは溝21からの窒素ガスの排出口である。
【0021】
その際に、パッキン13の温度を直接測定するのは難しいので、パッキン13とほぼ同一の温度となると想定される弁座12に温度計22を設置して、その温度計22で弁座12の温度を測定することによって、間接的にパッキン13の温度を測定するようにしている。
【0022】
そして、温度計22によって測定した弁座12の温度が所定の上限温度を上回ったら、弁座12の溝21への常温の窒素ガスの供給を開始し、弁座12の温度が所定の下限温度を下回ったら、弁座12の溝21への常温の窒素ガスの供給を停止するようにしている。
【0023】
ちなみに、上記の上限温度は、パッキン13の耐熱温度(約200℃)に基づいて定めた温度であり、ここでは、120℃に設定している。また、上記の下限温度は、炉内ガスの露点に基づいて定めた温度であり、ここでは、100℃に設定している。
【0024】
図4は、このようにして弁座12の温度を制御(間接的にパッキン13の温度を制御)した例を示すものである。
【0025】
上記のようにして、この実施形態においては、下部シール弁5の弁体11に装着されているパッキン13の熱損傷と摩耗損傷を的確に抑止して、パッキン13の長寿命化を図ることができる。その結果、パッキン13の交換頻度が減少し、高炉の稼働率向上やパッキン13のコスト削減等を図ることが可能となる。
【実施例1】
【0026】
本発明例として、上記の本発明の一実施形態(窒素ガスを用いた弁座12の冷却)によって下部シール弁5のパッキン13の損傷防止を行った。一方、従来例として、前記の特許文献1に記載の技術(飽和水蒸気を用いた弁座12の加熱)によって下部シール弁5のパッキン13の損傷防止を行った。
【0027】
そして、下部シール弁5の使用回数が35000回(約100日間)になったところで、本発明例と従来例におけるパッキン13の状態を比較した。
【0028】
その結果、従来例では、パッキン13に熱損傷による大きな亀裂が生じていて、シール性能が大幅に低下していたのに対して、本発明例では、パッキン13に熱損傷および摩耗損傷はほとんど生じておらず、シール性能は充分であった。
【0029】
このようにして、本発明の有効性を確認することができた。
【符号の説明】
【0030】
1 原料装入コンベア
2 炉頂ホッパー(炉頂バンカー)
3 上部シール弁
4 レバー
5 下部シール弁
6 レバー
7 高炉炉内
8 炉頂ホッパーの装入口
9 炉頂ホッパーの排出口
11 弁体
12 弁座
13 パッキン(シールゴム)
21 溝
21a 溝への供給口
21b 溝からの排出口
22 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体と、弁座と、前記弁体に装着されて前記弁座に圧接されるパッキンとを備えてなる高炉炉頂下部シール弁において、前記弁座の前記パッキンに圧接する下端面近傍の内部に設けられた溝に常温の窒素ガスを供給して前記弁座を冷却することによって、前記パッキンの温度を、前記パッキンの熱損傷を防止しつつ原料粉の付着による摩耗損傷を防止できる温度範囲に制御することを特徴とする高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法。
【請求項2】
前記弁座の温度を測定して、弁座の温度が所定の上限温度を上回ったら、弁座に設けられた前記溝への常温の窒素ガスの供給を開始し、前記弁座の温度が所定の下限温度を下回ったら、弁座に設けられた前記溝への常温の窒素ガスの供給を停止することを特徴とする請求項1に記載の高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法。
【請求項3】
前記上限温度は、前記パッキンの耐熱温度に基づいて定めた温度であり、前記下限温度は、炉内ガスの露点に基づいて定めた温度であることを特徴とする請求項2に記載の高炉炉頂下部シール弁パッキンの損傷防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−68963(P2011−68963A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222153(P2009−222153)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】