説明

高純度アルミニウム線及びその製造方法

【課題】表面状態に優れる高純度アルミニウム線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、残部が不可避的不純物からなる高純度アルミニウム線であり、導電率が61%IACS以上である。アルカリ土類金属元素を所定量含有することでこの高純度アルミニウムは、鋳造時における外引けや、外引けに起因する再溶融現象の発生を低減し、鋳造後の圧延や伸線における割れやキズなどを低減することができる。このような高純度アルミニウムを利用することで、表面状態に優れる高純度アルミニウム線が得られる。また、この高純度アルミニウム線は、アルカリ土類金属元素の添加量を所定の範囲とすることで、導電率を低下させることがなく、アルミニウム電解コンデンサのリード端子の形成材料に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度アルミニウム線、及びその製造方法に関するものである。特に、アルミニウム電解コンデンサのリード端子などの形成材料に利用される高純度アルミニウム線であって、表面状態が優れる高純度アルミニウム線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム電解コンデンサのリード端子の形成材料には、工業的に純アルミニウムと呼ばれるような高純度のアルミニウムが利用されている。リード端子は、連続鋳造後、得られた鋳造材に圧延加工(熱間又は温間)、伸線加工(冷間)を順次施し、得られた線材に鍛造加工といった2次加工を施して製造する。また、伸線途中において、皮剥を実施したり、探傷器によって不良品を選別したりすることで、2次加工前の素材表面に存在するキズを低減することが行われている。なお、高純度のアルミニウム導体として、超電導電力貯蔵装置に利用されるものが特許文献1に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7-150278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、コンデンサの電解液に低粘度のものを使用するようになってきている。そして、従来の高純度アルミニウム線では、低粘度の電解液に対して十分な表面状態であると言えず、このようなアルミニウム線により作製したリード端子では、低粘度の電解液が液漏れする可能性がある。従って、低粘度の電解液の漏洩を防止することができ、信頼性のあるリード端子が製造できるように、従来よりも良好な表面状態を有する高純度アルミニウム線の開発が望まれている。
【0005】
高純度アルミニウムは、合金成分量(Al以外の元素の含有量)が極めて低いことから、連続鋳造すると、通常のアルミニウム合金を連続鋳造する場合と比較して、凝固時に外引けが発生し易く、凝固収縮により鋳物(鋳造材)の外表面が変形するといった現象が起き易い。このような現象は、純度99.7%以上である高純度アルミニウムを用いた場合に特に生じ易い。また、この変形部分は、鋳型と接触しなくなることで冷却が遅くなり、鋳造材内部の熱により融点以上の温度に再上昇して再溶融現象が起こり、結晶粒が粗大化したり、表面状態がより悪化したりといった現象が生じる。更に、この外表面の変形部分や表面状態の悪化部分、粗大な結晶粒が起点となり、鋳造後の圧延加工や伸線加工で微少な割れやキズが発生する。このような微細な割れやキズが2次加工前の素材に存在すると、上述のような液漏れといった不具合が生じる。上述のように従来は、伸線途中において皮剥や探傷検査を行っているが、近年、表面状態に対する要求が厳しくなってきており、現状の表面状態では、十分と言えないことがある。そこで、より良好な表面状態を有し、かつ品質の安定した高純度アルミニウム線を得るために、皮剥の厚み及び皮剥の回数を増やしたり、探傷器の感度を高めて選別規準を厳しくし、表面状態がより良好なもののみを選別することが考えられる。しかし、このような対策では、要求に対応することができても、良品の割合が少なくなって歩留まりが悪く、生産効率が悪いという問題がある。従って、優れた表面状態を有し、品質の安定した高純度アルミニウム線を生産性よく製造できることが望まれる。
【0006】
そこで、本発明の主目的は、優れた表面状態を有する高純度アルミニウム線を提供することにある。また、本発明の他の目的は、表面状態に優れる高純度アルミニウム線の製造に適した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、特定の元素を微量に添加することで表面状態を改善することができ、また、高純度アルミニウム線を生産性よく製造することができるとの知見を得た。より具体的には、アルミニウムを99.7質量%以上含む高純度アルミニウムに対して、アルカリ土類金属を所定量添加することで、鋳造時の外引けが内引けに変化して、再溶融現象の発生を低減でき、圧延工程や伸線工程での微少な割れやキズの発生を低減できる、との知見を得た。内引けの凝固収縮は鋳物内部で生じるため、収縮力以上の圧力(押し湯)を与えて欠陥の発生を防止したり、続く圧延工程で欠陥を修復することができる。上記知見に基づき本発明を規定する。具体的には、本発明高純度アルミニウム線は、アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、残部が不可避的不純物からなり、導電率が61%IACS以上であることを特徴とする。また、本発明高純度アルミニウム線の製造方法は、アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度アルミニウムの溶湯を鋳造し、得られた鋳造材に塑性加工を行って、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、導電率が61%IACS以上である高純度アルミニウム線を製造することを特徴とする。
【0008】
アルミニウムを99.7質量%以上含有する高純度アルミニウムに特定量のアルカリ土類金属元素を添加することで、鋳造時に生じる外引けや外引けに起因する再溶融現象の発生、結晶粒の粗大化などを低減して、圧延時や伸線時の割れやキズの発生を抑制できる。従って、本発明アルミニウム線は、伸線途中に、皮剥量を増加させたり、探傷器の感度を高めたりすることなく、優れた表面状態を有する。従って、例えば、低粘度の電解液を用いる電解コンデンサのリード端子の形成材料に本発明アルミニウム線を使用した場合、液漏れなどが発生することがない。また、本発明製造方法は、このような信頼性が高く、安定した品質の高純度アルミニウム線を生産性よく製造することができる。
【0009】
<アルミニウム線>
(組成)
本発明アルミニウム線(Al線)は、アルミニウム(Al)を99.7質量%以上含有し、アルカリ土類金属元素(以下、aem元素と呼ぶ)を0.002質量%以上0.15質量%以下含有する。Alの含有量を更に高める場合、具体的には、Alを99.9質量%以上含有する場合、aem元素の含有量は、0.002質量%以上0.05質量%以下とする。aem元素は、1種でも、2種以上でもよい。複数種のaem元素を含有する場合、合計含有量が上記の範囲を満たすものとする。aem元素の含有量が0.002質量%未満であると、外引けや外引けに伴う再溶融現象を抑制して表面状態を改善する効果が乏しい。aem元素の含有量が多いほど、表面状態の改善に効果がある。また、aem元素の含有量が多いほど、鋳造材の結晶組織を微細にする傾向がある。しかし、0.15質量%程度で再溶融の抑制効果が飽和する傾向にある。また、aem元素の含有量が0.15質量%超であると、導電率を低下させたり、コンデンサのリード端子に利用する場合などで陽極酸化皮膜処理をする際に酸化皮膜の状態が悪化するといった悪影響が出る。表面状態の改善、及び導電率などを考慮すると、aem元素のより好ましい含有量は、0.005〜0.1質量%、更に好ましい含有量は、0.01〜0.05質量%であり、より好ましい元素は、Ca,Sr,Ba、更に好ましい元素は、Caである。
【0010】
本発明においてアルミニウム及びアルカリ土類金属元素、後述のTi以外の元素は、不可避的元素とする。不可避的元素としては、Si,Fe,Cuなどが挙げられる。
【0011】
(Tiの添加)
更に、aem元素に加えて、Tiを0.002質量%以上0.05質量%以下含有する高純度アルミニウム線を提案する。Tiは、特に、鋳造材の結晶組織を微細にしたり、鋳造材中の柱状晶の割合を抑え、等軸晶の割合を増加させる効果がある。従って、Tiを含有することにより、鋳造材の塑性加工性、具体的には、圧延加工性や伸線加工性を向上できる。また、結晶組織が微細化されることで、塑性加工時にキズが生じ難いため、キズが少なく、表面状態が優れた塑性加工材を得ることができる。Tiの含有量が0.002質量%未満であると、結晶粒の微細化効果が少ない。Tiの含有量が多いほど、結晶粒の微細化、微細化に伴うキズの低減に効果があるが、0.05質量%程度でこの効果が飽和する傾向にあり、0.05質量%超では、導電率の低下を招く。結晶粒の微細化、及び導電率を考慮すると、Tiのより好ましい含有量は、0.0075〜0.04質量%であり、更に好ましい含有量は、0.01〜0.03質量%である。また、Ti及びCaの双方を添加すると、結晶粒が更に小さくなる傾向にある。
【0012】
(組織)
本発明Al線は、鋳造材、又は圧延材や伸線材といった塑性加工材(塑性加工途中に適宜熱処理を施したものも含む)とする。本発明Al線が鋳造材である場合、このAl線は、鋳造組織を有する。本発明Al線が圧延材や伸線材である場合、このAl線は、加工組織(加工集合組織)を有する。コンデンサのリード端子の形成材料に利用する場合、本発明Al線は、伸線材が適する。伸線加工後に熱処理を施して再結晶組織を有する軟材では、リード端子に要求される機械的特性(強度)を満たさない。これに対し、加工組織を有する伸線材は、後述するように優れた強度を有すると共に、塑性加工後の熱処理が不要であるため、製造性がよく、コストも低減できる。
【0013】
(結晶粒径)
鋳造材である本発明Al線に圧延加工を施したり、圧延材である本発明Al線に伸線加工を施す場合、加工前の結晶粒径が大きいと、加工性が悪く、割れやキズなどが発生し易くなる。また、伸線材である本発明Al線に実際の使用形態に応じた2次塑性加工を施す場合、例えば、コンデンサのリード端子にこのAl線を利用するにあたり、鍛造加工を施す場合、加工前の結晶粒径が大きいと、加工性が悪く、割れや異常な変形が発生し形状不良となる。従って、上記圧延や伸線といった塑性加工、上記鍛造加工といった2次加工の前において、結晶粒径は、小さいことが好ましい。結晶粒径は、小さいほど好ましく、具体的には、平均結晶粒径をr、平均結晶粒径rを測定するときの素材の線径Rとするとき、線径Rに対する平均結晶粒径rの割合r/Rが1/10以下、特に、1/50以下であることが好ましい。即ち、線径Rが平均結晶粒径rの10倍以上、特に、50倍以上であることが好ましい。
【0014】
鋳造材の結晶粒径を小さくするには、上述したようにTiを添加する他、後述するように鋳造時の冷却速度を速くして、結晶粒の成長を抑制することが挙げられる。圧延材や伸線材といった塑性加工材の結晶粒径を小さくするには、加工度を高めることが挙げられる。再結晶が起こらない温間加工や冷間加工では、結晶粒径と線径との比(粒径/線径)が維持されるため、加工度を高めるにつれて、結晶粒径を小さくできる。また、再結晶が起こる熱間加工や熱処理を行う場合、再結晶粒の粒成長を抑制することで、結晶粒径を小さくできる。結晶粒径は、Alの純度が高いほど大きくなる傾向にあるが、上述のような手法により、小さくすることができる。
【0015】
結晶粒径の測定は、素材の断面を組織観察することで行うことが挙げられる。また、結晶粒径の測定は、最終の塑性加工、特に、最終の冷間加工が施される前に測定する。例えば、鋳造材、圧延材、最終の伸線加工が施される前の伸線途中材について測定する。本発明Al線で規定するようなAl濃度が高い高純度アルミニウムは、添加元素の濃度が比較的高いアルミニウム合金と比較して、粒界の判別が難しい傾向にある。特に、冷間加工後に組織観察を行うと、断面組織が加工組織となり、加工度の上昇に伴って形状が複雑に変形した結晶粒となる傾向がある。従って、加工度が上がるにつれて結晶粒径の測定が困難となる。そのため、特に、冷間加工後に結晶粒径を測定する場合は、最終の加工前までの早い段階で測定する。なお、冷間加工後に熱処理を実施しない場合、再結晶が起こらないため、上述した線径と結晶粒径との関係(r/R或いはR/r)は、製造途中で測定したものが、最終の線径まで維持されると考えられる。
【0016】
(導電率)
本発明Al線は、導電率が61%IACS以上である。特に、Alを99.9質量%以上含有する本発明Al線は、導電率が62%IACS以上である。本発明Al線は、Alの含有量が高く、aem元素の含有量が微量であることから、高い導電率を有する。従って、本発明Al線は、コンデンサ用のリード端子に求められる導電率を十分に満たし、リード端子の形成材料に好適に利用することができる。
【0017】
(線径)
本発明Al線をコンデンサ用のリード端子に利用する場合、線径は、φ0.5〜4.5mmが好ましい。線径がφ0.5mm未満では、実用上強度不足となったり、コンデンサの封止が十分に行われず、液漏れが起きたりする可能性がある。線径を4.5mmとすることで、リード端子に要求される電気特性、機械的特性を十分満たすため、特にこれ以上の線径は必要ないと考えられる。
【0018】
(引張強さ)
本発明Al線をコンデンサ用のリード端子に利用する場合、使用の際に必要な機械的特性、特に強度を具えておくことが望まれる。例えば、引張強さは、90N/mm2以上であることが望まれる。好ましくは、95N/mm2以上、より好ましくは、105N/mm2以上である。引張強さは、所望の適正値以上であることが望ましいが、300N/mm2超では、鍛造加工などの2次加工が困難になる。従って、300N/mm2を上限とする。加工度(断面減少率)が20%以上である冷間加工を行うことで、引張強さを90N/mm2以上とすることができる。加工度を高めることで、引張強さをより高くすることができる。
【0019】
(0.2%耐力)
本発明Al線をコンデンサ用のリード端子に利用する場合、0.2%耐力も所定の大きさにあることが望まれる。具体的には、引張強さに対する0.2%耐力の割合が50%以上98%以下であることが好ましい。より好ましくは、60〜95%である。引張強さに対する0.2%耐力の割合は、(0.2%耐力)/(引張強さ)×100により求められる。この割合は、Al線の軟化状態を表す一つの指標であり、0.2%耐力が引張強さの50%未満であるとき、つまり、軟化させ過ぎると弾性変形範囲が狭くなると共に、加工硬化し易くなる傾向がある。このようなAl線をコイル状に巻き取ったり、巻き取ったものを取り外してリード端子に加工する際にAl線に曲げなどが加わることで、部分的に加工硬化が発生し、形状の安定を図ることが難しい。0.2%耐力が引張強さの98%超であると、硬化させ過ぎて、巻き取りやリード端子への加工が行いにくくなる。鋳造後に熱間加工又は温間加工を行い、更に冷間加工を行う、つまり、最終の線径を得る工程を冷間加工工程とすることで、引張強さに対する0.2%耐力の割合を上記範囲とすることができる。また、冷間加工における加工度を20%以上、特に40%以上、更に80%以上とすることで、リード端子に要求される機械的特性を十分に満たすAl線が得られる。
【0020】
<製造方法>
本発明Al線を鋳造材とする場合、本発明Al線は、aem元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度Alの溶湯を鋳造することで製造することができる。また、本発明Al線を圧延材や伸線材といった塑性加工材とする場合、本発明Al線は、上記高純度Alの溶湯を鋳造し、得られた鋳造材に圧延や伸線といった塑性加工を行うことで製造することができる。
【0021】
[鋳造]
鋳造時の冷却は、5℃/sec以上で行うことが好ましく、より好ましくは、8℃/sec以上、更に好ましくは20℃/sec以上である。冷却速度を5℃/sec以上とすることで、結晶粒が粗大化することを防止して、微細な組織の鋳造材としたり、単位断面積あたりの等軸晶の割合が高い鋳造材とすることができる。また、冷却過程にある溶湯のどの位置においても冷却速度が5℃/sec以上であること、つまり全体が均一的に冷却されることが好ましい。
【0022】
鋳造は、連続鋳造が好適である。本発明製造方法では、高純度アルミニウムの溶湯を用いているが、aem元素を含有していることから、外引けを内引けに変化することができ、鋳造時の不具合を低減して、表面状態に優れる鋳造材を得ることができる。このような鋳造材を用いることで、圧延時や伸線時に割れやキズが発生することを低減することができ、表面性状に優れる圧延材や伸線材とすることができる。特に、本発明製造方法では、従来のように伸線途中の皮剥数を多くしたり、皮剥量を多くしたり、探傷器の感度を高めたりしなくても、表面状態に優れる伸線材を得ることができる。従って、本発明製造方法は、歩留まりがよく、表面状態に優れるAl線を生産性よく製造することができる。連続鋳造方法としては、ベルトアンドホイール方式が好ましい。
【0023】
[塑性加工]
本発明Al線を圧延材や伸線材とする場合、上記鋳造材に圧延加工、圧延加工及び伸線加工といった塑性加工を施す。鋳造と塑性加工とは連続して行うことが好ましい。例えば、ベルトとホイールを組み合わせた鋳造機とこの鋳造機に連なる圧延機を用いて行う。このような装置としては、プロペルチ式連続鋳造圧延機が挙げられる。
【0024】
塑性加工は、冷間加工、温間加工、熱間加工が挙げられる。特に、本発明製造方法では、熱間加工又は温間加工後に冷間加工を行うことが好ましい。より具体的には、圧延を熱間又は温間で行い、伸線を冷間で行う。本発明Al線を塑性加工材とする場合、最終線径を得る工程が冷間加工工程であることが好ましい。このような塑性加工を行うことで、上述した引張強さや0.2%耐力を有するAl線を製造できる。特に、冷間加工は、加工度を20%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは80%以上とすることで、リード端子に要求される機械的特性を十分に満たすAl線が得られる。
【0025】
なお、コンデンサ用のリード端子に利用されるAl線は、軟材で用いられることがほとんどない。そのため、本発明Al線をリード端子に用いる場合、軟化のための熱処理を施す必要がなく、塑性加工後、特に冷間伸線後に熱処理を施すことを省略できる。熱処理を実施する場合は、塑性加工の途中で実施し、熱処理後、冷間伸線といった塑性加工を行う。即ち、本発明Al線をリード端子とする場合、最終線径の状態にある素材に対して、熱処理を実施しないことが好ましい。塑性加工途中の熱処理後に上述した結晶粒径を測定する場合、熱処理後から最終の塑性加工前までに測定する。
【0026】
上述したような鋳造や塑性加工を行うことで、Al含有量が99.7質量%以上であって、導電率61%IACS以上である高純度Al線、或いは、99.9質量%以上であって、導電率62%IACS以上である高純度Al線を製造することができる。
【0027】
[Tiの添加]
aem元素に加えてTiを含有したAl線を製造する場合、例えば、aem元素を合計で0.002〜0.15質量%、Tiを0.002〜0.05質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度Alの溶湯を用いる。この溶湯は、所定量のAl、aem元素、Tiを溶解炉で溶解することで得られる。ここで、Ti単体では、結晶粒の微細化効果が少ないため、Tiの添加は、Tiを含む微細化剤を利用することが好ましい。Tiを含む微細化剤としては、Ti、Tiの酸化物(TiO)、Tiの硼化物(TiB)、Tiの炭化物(TiC)、及びAlとTiとの化合物(例えば、TiAl3)から選択される少なくとも一種を含有するものが挙げられる。このような微細化剤は、結晶粒を微細化すると共に、鋳造組織における等軸晶の割合を増加させる。
【0028】
上述のように予めTiを含有した溶湯を用いてもよいが、鋳型に注湯する直前にTiを含む微細化剤を添加させてもよい。つまり、aem元素を合計で0.002〜0.15質量%、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度Alの溶湯に、Tiの含有量が0.002〜0.05質量%となるようにTi含有微細化剤を添加しながら鋳造してもよい。予めTiを含有する溶湯を用意し、この溶湯を鋳型に注湯すると、Ti成分が鋳型の底に沈降することがある。そこで、注湯の際にTi含有微細化剤を添加して、Ti成分の沈降を防止する。具体的には、TiBなどを分散させたアルミニウムをワイヤ状に作製し、aem元素を含む高純度Alの溶湯が鋳型に注湯される際にこのワイヤを供給して、鋳型内に溶湯とワイヤとが同時に注がれるようにする。添加したTiBなどは、注湯時の溶湯の対流により沈降することなく溶湯中に均等に混合される。
【0029】
[大きさ]
得られたAl線をコンデンサ用のリード端子に利用する場合、最終の冷間加工前までにおいて、結晶粒径が特定の大きさとなるように鋳造や塑性加工を行うことが好ましい。具体的には、鋳造後における鋳造材の平均結晶粒径rcが鋳造材の線径Rcの1/10以下とする。つまり、rc/Rc≦1/10である鋳造材を製造する。或いは、圧延後における圧延材の平均結晶粒径rrが、圧延材の線径Rrの1/10以下とする。つまり、rr/Rr≦1/10である圧延材を製造する。或いは、最終の冷間加工前における加工材の平均結晶粒径rdが、加工材の線径rdの1/10以下とする。つまり、rd/Rd≦1/10である加工材を製造する。このような鋳造材、圧延材、加工材に対して、線径がφ0.5〜4.5mmとなるように冷間加工、具体的には、冷間伸線加工を施す。鋳造材には、熱間圧延又は温間圧延を施した後、上記線径となるように冷間加工、具体的には冷間伸線加工を施す。このような塑性加工を行うことで、コンデンサ用のリード端子の形成材料に適した高純度Al線を製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明高純度アルミニウム線は、表面状態が非常に優れており、優れた表面状態が望まれる用途に好適に利用できる。また、本発明製造方法は、表面状態に優れた高純度アルミニウム線を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
高純度アルミニウムの溶湯を用意し、プロペルチ式連続鋳造圧延機を用いて、この溶湯を連続鋳造した後、得られた鋳造材を引き続いて圧延し、圧延材を作製した。
【0032】
試料No.A1〜A26,A100,B1〜B29は、表1,2に示す組成のアルミニウム(Al)及びアルカリ土類金属元素(aem元素)を反射型溶解炉にて溶解した後、得られた高純度アルミニウム溶湯にフラックスによる通常の溶湯処理を実施することで得た。試料No.F1〜F14は、表3に示す組成のAlを反射型溶解炉にて溶解した後、得られた高純度アルミニウム溶湯にフラックスによる通常の溶湯処理を実施することで得た。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
Tiを含有しない試料No.A1〜A26,A100,F1〜F5については、処理した溶湯を連続鋳造した。Tiを含有する試料No.B1〜B29,F6〜14については、Al-3%Ti-1%Bワイヤ、又はAl-3%Ti-0.15%Cワイヤを用意し、鋳込み直前に高純度アルミニウムにおけるTiの含有量が表2,3に示す量となるようにワイヤを添加した。また、鋳型内に溶湯とワイヤとが同時に注がれるようにして連続鋳造した。Al-3%Ti-1%Bワイヤとは、ワイヤ中にTiを3質量%、Bを1質量%含有し、残部がAl及び他の元素(主として不可避的不純物)により構成されるワイヤ、Al-3%Ti-0.15%Cワイヤとは、ワイヤ中にTiを3質量%、Cを0.15質量%含有し、残部がAl及び他の元素(主として不可避的不純物)により構成されるワイヤである。表2,3における「Ti 計」の数値は、溶湯を鋳造して得られた鋳造材におけるTiの含有量を質量%で表している。また、表1〜3における不純物元素は、Fe,Siなどといった不可避不純物元素の分析量の総計を質量%で表している。
【0037】
連続鋳造では、台形状の鋳造材を製造した。鋳造時における冷却速度は、溶湯のどの位置にあっても10℃/sec以上であった。得られた鋳造材を適宜サンプリングし、外観を観察して再溶融部分の数を調べると共に、断面組織を観察して結晶粒径(平均結晶粒径)を調べた。再溶融部分の評価は、試料No.F6と比較して、再溶融部分の数が減少していた試料は○、数が同等の試料は△、数が多い試料は×とした。結果を表1〜3に示す。また、平均結晶粒径を測定し、鋳造径を平均結晶粒径で割った値(線径/結晶粒径)を表1〜3に示す。鋳造径(線径)は、製造した台形状の鋳造材の断面積から等価径を求め、この等価径を用いた。
【0038】
表1〜3に示すように、アルカリ土類金属元素を所定量含有する試料No.A1〜A26,B1〜B29は、アルカリ土類金属元素を所定量含有していない試料No.F1〜F14と比較して、再溶融部分の発生が低減されていることがわかる。また、Tiを添加した試料は、「線径/結晶粒径」の値が大きくなっており、平均結晶粒径がより小さくなっていることがわかる。
【0039】
連続鋳造後に行った圧延は、熱間とし、線径φ9.5mmの丸線を得た。この丸線(圧延材)を多段冷間伸線機で線径φ3.6mmまで冷間伸線を実施した(加工度:約85%)。この伸線途中において皮剥を実施した。この皮剥により、再溶融以外の原因、例えば、熱間の圧延加工やその後の伸線加工において発生するガイドへの当てキズといった比較的深さの小さいキズを除去することができる。この試験では、線径φ7.5mmの伸線材に皮剥ダイスを用いて片側0.2mm(厚さ0.2mm)の皮剥を実施した。なお、皮剥は、行わなくてもよい。皮剥後、伸線機に具えるオンラインの渦流型探傷器を用いて表面のキズの個数及び大きさ(深さ)を観察し、探傷カウント部にマーキングを行った。キズの深さは、探傷器において表面のキズをカウントした部分(マーキング部分)について試料の横断面を観察して調べた。また、探傷数の評価は、アルカリ土類金属元素を添加していない試料のうち、最も探傷数が少なかった試料No.F6の探傷数を100とし、その相対数を求めた。その結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示すように、アルカリ土類金属元素を所定量含有する試料No.A1〜A26,B1〜B29は、アルカリ土類金属元素を所定量含有していない試料No.F1〜F14と比較して、探傷数が減少している、つまり、表面キズが減少していることがわかる。これに対し、試料No.F1〜F14は、皮剥を行っても表面キズが多いことがわかる。また、同時に調査したキズの深さについても試料No.A1〜A26,B1〜B29は、試料No.F1〜F14と比較して、キズの深さが小さいことが分かった。
【0042】
得られた線径φ3.6mmの伸線材に更に冷間伸線を施し、最終線径φ1.5mmの伸線材を得た(最終伸線工程(φ3.6mm→φ1.5mm)の加工度:約82%)。この線径φ1.5mmの伸線材について、引張強さ、0.2%耐力、導電率を測定した。引張強さ(N/mm2)、引張強さに対する0.2%耐力の割合(%)、導電率(%IACS,室温)を表5〜7に示す。引張強さに対する0.2%耐力の割合は、(0.2%耐力)/(引張強さ)×100にて求めた。
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
表5〜7に示すように試料No.A1〜A26,B1〜B29は、所定量のアルカリ土類金属元素を含有しながらも61%IACS以上の導電率を有することがわかる。また、試料No.A1〜A26,B1〜B29は、熱間加工後、冷間加工を行うことで、引張強さと0.2%耐力との双方に優れることがわかる。
【0047】
試料No.F6よりも探傷数が少なかった試料について、表面処理を行い、電解コンデンサの端子タブ形状に加工した。すると、試料A100を除くいずれの試料についても端子タブ形状に加工することができ、コンデンサのリード端子に使用することが可能であることが確認できた。試料A100は、酸化皮膜処理をする際に酸化皮膜の状態が他の試料と比較して悪化していた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明高純度アルミニウム線は、優れた表面状態が求められる種々の用途、例えば、アルミニウム電解コンデンサのリード端子の形成材料に好適に利用することができる。また、本発明高純度アルミニウム線の製造方法は、表面状態に優れる高純度アルミニウム線の製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、残部が不可避的不純物からなり、
導電率が61%IACS以上であることを特徴とする高純度アルミニウム線。
【請求項2】
アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.05質量%含有し、アルミニウムを99.9質量%以上含有し、残部が不可避的不純物からなり、
導電率が62%IACS以上であることを特徴とする高純度アルミニウム線。
【請求項3】
更に、Tiを0.002〜0.05質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度アルミニウム線。
【請求項4】
アルカリ土類金属元素は、Sr,Ba,Caから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度アルミニウム線。
【請求項5】
引張強さが90〜300N/mm2であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度アルミニウム線。
【請求項6】
断面組織が加工組織であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度アルミニウム線。
【請求項7】
引張強さに対する0.2%耐力の割合が50〜98%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度アルミニウム線。
【請求項8】
線径がφ0.5〜4.5mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度アルミニウム線。
【請求項9】
アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度アルミニウムの溶湯を鋳造し、
得られた鋳造材に塑性加工を行って、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、導電率が61%IACS以上である高純度アルミニウム線を製造することを特徴とする高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項10】
アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%、Tiを0.002〜0.05質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度アルミニウムの溶湯を鋳造し、
得られた鋳造材に塑性加工を行って、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、導電率が61%IACS以上である高純度アルミニウム線を製造することを特徴とする高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項11】
アルカリ土類金属元素を合計で0.002〜0.15質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる高純度アルミニウムの溶湯を用意し、
Tiの含有量が0.002〜0.05質量%となるように用意した高純度アルミニウムの溶湯にTiを添加しながら鋳造し、
得られた鋳造材に塑性加工を行って、アルミニウムを99.7質量%以上含有し、導電率が61%IACS以上である高純度アルミニウム線を製造することを特徴とする高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項12】
塑性加工として、熱間加工又は温間加工の後に、冷間加工を行うことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項13】
冷間加工における加工度は、20%以上であることを特徴とする請求項12に記載の高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項14】
アルカリ土類金属元素は、Sr,Ba,Caから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項15】
Tiの添加は、Tiを含む微細化剤を用いて行い、この微細化剤は、Ti、Tiの酸化物、Tiの硼化物、Tiの炭化物、及びAlとTiとの化合物から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項10又は11に記載の高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項16】
鋳造後の鋳造材の平均結晶粒径が、この鋳造材の線径の1/10以下である素材、又は最終の冷間加工前における加工前材の平均結晶粒径がこの加工前材の線径の1/10以下である素材に、線径がφ0.5〜4.5mmとなるように冷間加工を施すことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項17】
鋳造時において冷却は5℃/sec以上で行うことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高純度アルミニウム線の製造方法。
【請求項18】
鋳造及び塑性加工は、ベルトとホイールとを組み合わせた連続鋳造機とこの連続鋳造機に連なる圧延機とを用いて行うことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高純度アルミニウム線の製造方法。

【公開番号】特開2007−302988(P2007−302988A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135854(P2006−135854)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591174368)富山住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】