説明

高純度ニッケルの製造方法及びそれにより得られる高純度ニッケル

【課題】銅、鉄、及びコバルトのほかに、鉛、亜鉛等の不純物元素や水素のようなガス成分を除去することができる高純度ニッケルの製造方法を提供する。
【解決手段】不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、不純物元素イオンを吸着除去し、精製液を得る工程(A)、該精製液を、カソードを設置したカソード室と不溶性アノードを設置したアノード室とを備えた電解槽を用いて電解採取に付し、電解ニッケルを得る工程(B)、及び該電解ニッケルを、5000℃以上の水素含有高温雰囲気下に水素プラズマ溶解に付し、電解ニッケルに残存する蒸発成分を除去し、精製金属ニッケルを得る工程(C)を、含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高純度ニッケルの製造方法及びそれにより得られる高純度ニッケルに関し、さらに詳しくは、銅、鉄、及びコバルトのほかに、鉛、亜鉛等の不純物元素や水素のようなガス成分を除去することができる高純度ニッケルの製造方法及びそれにより得られる高純度ニッケルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケルは、その固有の磁気特性、耐食性、耐熱性等の優れた特性を利用する電子材料及び合金材料として広く使われている。さらに、近年、半導体の内部電極としても有望な材料として注目されている。これらの用途に対しては、不純物元素が存在すると特性を大きく損ねることがあるため、市販されている純度99.9重量%レベルの電気ニッケルを大幅に上回る純度、例えば6N(99.9999重量%)クラスの高純度ニッケルが求められ、このため様々な手段での精製処理が試みられている。
【0003】
ところで、不純物元素の含有量が少ない金属ニッケルを製造するため、既にいくつか方法が知られている。例えば、
(1)従来から銅などの精製に用いられてきた方法と同様に、電気ニッケルを硫酸浴を用いた再電解による電解精製を繰返し行ない、その後真空又は水素を含むアルゴンガス雰囲気下で溶解する。これにより、6N(99.9999重量%)クラスのニッケルが得られるとしている(例えば、特許文献1参照。)。
(2)粗ニッケルを5〜12M濃度の塩酸で溶解し、得られた酸性塩化ニッケル水溶液を0.01〜1の通液量(SV)で陰イオン交換樹脂に通液して不純物元素を精製した液から、濃縮又は拡散透析によって遊離塩酸分を除去し、その後電解し、得られた電気ニッケルを真空溶解する。これにより、アルカリ金属;<0.1ppm、Fe、Cr、Co; <1ppm、U、Th;<0.1ppb、C;<10ppm、O;<50ppmのニッケルが得られるとしている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、一般の電気ニッケルと大差ない品位の不純物元素を含有したり、また、銅のように精製効果が未確立な不純物元素があった。特に、コバルトについては、その性質上ニッケルとの相互分離が一般に困難であるため、原料中の品位が上昇した場合にイオン交換樹脂での分離も不完全となりまたばらつきが生じるので、十分な精製処理が実現していないという課題があった。また、酸性塩化ニッケル水溶液を得る方法として、塩酸溶液を張った槽に未精製の電気ニッケル等の金属ニッケルを入れ、加熱しながら塩素ガス又は酸素を吹き込む方法を用いる場合、金属ニッケルの溶解は容易ではないので、高温かつ強酸化性雰囲気下で溶解することが必要とされるので、大量の酸ミストが発生し、設備の腐食を促進してコンタミの原因となったり、作業環境を悪化させるという課題があった。
また、(2)の方法では、イオン交換樹脂によって精製した強塩酸性の液を中和又は拡散透析などで処理し、電解前にpH調整することも示されているが、イオン交換樹脂によって精製した後に、試薬を添加したり、新たな工程を通すことは、コスト増加及びコンタミ防止、さらには電解排液の循環使用を考慮すると実用的ではない。
【0005】
これらの課題を解決する方法として、精製前の金属ニッケル等を電解槽のアノードとして用いて電解し、溶出されたニッケルと不純物元素を含む液をアノード側から抜き出し、その後溶媒抽出等の精製方法で不純物元素を分離し、次いでカソード側へ給液して電解する方法が開示されている(例えば、特許文献3、4参照。)。しかしながら、これらの方法においては、一般に不純物元素を含むアノード側からの液が、精製されたカソード側からの液に混入するのを防ぐことが必要である。このため、得られる電着ニッケルの純度に対する制限が低い場合には、濾布など比較的簡単な仕切りでも実用できるが、高純度ニッケルを製造する際には、イオン交換膜など高価な材質で完全に仕切らねばならない。この際、イオン交換膜の寿命又は破損等を考慮すると、工業上コスト的に実用的とは言い難い点が課題であった。
【0006】
しかも、以上のようなイオン交換法、溶媒抽出法及び電解採取法を行っても、得られる金属ニッケル中の不純物元素の精製には限界があり、特に、鉛、ガス成分等を高レベルでの除去することが困難であった。
【0007】
一方、金属中の蒸気圧の低い金属元素、及び炭素、窒素、酸素ガス等のガス成分を除去するため、金属を原料としてプラズマ溶解する方法が知られている。例えば、不活性ガスと共に2〜100%の濃度の水素ガスを流しながらプラズマ溶解することで蒸気圧の低い金属を蒸発除去することができる(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、このような水素プラズマ溶解法を用いても、金属ニッケル中に含まれる蒸気圧の高い不純物元素、例えば、銅、鉄、及びコバルトは除去できないという課題があった。
【0008】
以上の状況から、銅、鉄、コバルト等の蒸気圧の高い不純物元素とともに、鉛、亜鉛等の蒸気圧の低い金属不純物元素、及び水素のようなガス成分を除去することができる高純度ニッケルの製造方法が求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2002−285371号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開平11−152592号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2000−219988号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献4】特開2004−43946号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献5】特開平7−90398号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、銅、鉄、及びコバルト等の蒸気圧の高い不純物元素のほかに、鉛、亜鉛等の不純物元素や水素のようなガス成分を除去することができる高純度ニッケルの製造方法及びそれにより得られる高純度ニッケルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ニッケルの精製方法においてニッケル中の不純物元素の挙動について、鋭意研究を重ねた結果、イオン交換法、電解採取法、及びプラズマ溶解法を特定の条件で行なうことにより、銅、鉄及びコバルトのほかに、鉛、亜鉛等の蒸気圧の低い金属不純物元素や水素のようなガス成分を除去し、高純度の金属ニッケルを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、不純物元素イオンを吸着除去し、精製液を得る工程(A)、該精製液を、カソードを設置したカソード室と不溶性アノードを設置したアノード室とを備えた電解槽を用いて電解採取に付し、電解ニッケルを得る工程(B)、及び該電解ニッケルを、5000℃以上の水素含有高温雰囲気下に水素プラズマ溶解に付し、電解ニッケルに残存する蒸発成分を除去し、精製金属ニッケルを得る工程(C)を、含むことを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記酸性塩化ニッケル水溶液は、pH1以下の塩酸水溶液からなる電解液中で、純度99.9重量%レベルの電気ニッケルを電極として用いる電解に付し、ニッケルを溶解させることにより生成されることを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記電解に際し、電極間の通電方向を一定時間毎に切り替えることを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記切替時間は、1〜15分であることを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、前記酸性塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を20〜60g/L、かつ塩酸濃度を7〜9モル/Lに調整することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、前記酸性塩化ニッケル水溶液に酸化剤を添加して、銀/塩化銀電極で測定した酸化還元電位を530〜800mVに調整することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、酸化剤の代わりに、前記酸性塩化ニッケル水溶液中に、工程(B)のアノード室からの電解排液を添加して、酸化還元電位を調整することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換カラムを使用し、それに酸性塩化ニッケル水溶液を通液するとともに、該カラムへの1時間あたりの通液量をSV1〜3に調整することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記イオン交換カラムを直列に2つ以上設置し、該カラム出口での銅、鉄、及びコバルト濃度をそれぞれ0.5mg/L以下に維持することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第10の発明によれば、第8の発明において、工程(A)で吸着除去される不純物元素を含む樹脂が充填されたカラムに、該樹脂容積の1〜3倍量に当たる濃度8モル/Lの塩酸を通液して樹脂に付着した液を洗浄した後、不純物元素を分離回収するために、まず、樹脂容積の1倍量の濃度0.5〜1モル/Lの塩酸水溶液を通液することにより鉄イオンを溶離し、次いで樹脂容積の1〜3倍以上の水を通液することにより銅、コバルト、及び亜鉛を順次選択的に溶離することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0022】
また、本発明の第11の発明によれば、第1の発明において、工程(B)において、濾布で仕切られた箱型のカソード室にカソードを装入し、工程(A)で得られる精製液を該カソード室内に給液することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第12の発明によれば、第1の発明において、工程(B)で得られる電解ニッケルは、銅、鉄及びコバルト品位がそれぞれ1ppm以下であることを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0024】
また、本発明の第13の発明によれば、第1の発明において、工程(C)において、水素プラズマ溶解は、工程(B)で得られる電解ニッケルを水素濃度10〜20容量%のアルゴンガス中で5〜60分間プラズマ溶解した後に、溶解生成物を反転してさらに5〜60分間プラズマ溶解を継続し、その後プラズマ溶解しながら水素ガスの供給を止めてアルゴンガス単独に切り替えて5〜60分間溶解することにより行なうことを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0025】
また、本発明の第14の発明によれば、第13の発明において、前記電解ニッケル及び/又は工程(C)の水素プラズマ溶解での反転する前の溶解生成物を、水素プラズマ溶解する際に、これらに先だって電解ニッケル又は溶解生成物の表面を酸洗浄することを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0026】
また、本発明の第15の発明によれば、第1の発明において、工程(C)で得られる金属ニッケルは、銅、鉄、コバルト、鉛及び亜鉛品位がそれぞれ1ppm以下であることを特徴とする高純度ニッケルの製造方法が提供される。
【0027】
また、本発明の第16の発明によれば、第1〜15のいずれかの発明の製造方法で得られてなる高純度ニッケルが提供される。
【0028】
また、本発明の第17の発明によれば、第16の発明において、銅、鉄、コバルト、鉛、及び亜鉛品位がそれぞれ1ppm以下であることを特徴とする高純度ニッケルが提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明の高純度ニッケルの製造方法は、銅、鉄及びコバルト等の蒸気圧の高い不純物元素のほかに、鉛、亜鉛等の不純物元素や水素のようなガス成分を分離除去することができ、それにより高純度の金属ニッケルを製造することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の高純度ニッケルの製造方法及びそれにより得られる高純度ニッケルを詳細に説明する。
本発明の高純度ニッケルの製造方法は、不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、不純物元素イオンを吸着除去し、精製液を得る工程(A)、該精製液を、カソードを設置したカソード室と不溶性アノードを設置したアノード室とを備えた電解槽を用いて電解採取に付し、電解ニッケルを得る工程(B)、及び該電解ニッケルを、5000℃以上の水素含有高温雰囲気下に水素プラズマ溶解に付し、電解ニッケルに残存する蒸発成分を除去し、精製金属ニッケルを得る工程(C)を、含むことを特徴とする。
【0031】
(1)不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液
本発明に用いる不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液としては、特に限定されるものではなく、原料鉱石、粗ニッケル原料、一般的な製品グレードの金属ニッケルを塩素ガス、酸素ガス等の酸化剤の存在下に浸出し、或いは溶解して得られる酸性塩化ニッケル水溶液が用いられる。ここで、粗ニッケル原料としては、不純物元素を含有する各種の塩類、金属ニッケル、ニッケル硫化物等が挙げられる。また、一般的な製品グレードの金属ニッケルとしては、純度99.9重量%レベルの電気ニッケルが含まれる。
【0032】
この中で、上記酸性塩化ニッケル水溶液の製造方法としては、pH1以下、好ましくはpH0以下の塩酸水溶液からなる電解液中で純度99.9重量%レベルの電気ニッケルを電極として用いて電解に付し、ニッケルを溶解させることにより生成されるものが好ましい。なお、純度99.9重量%レベルの電気ニッケルには、通常コバルト、銅、鉄、鉛、亜鉛等の金属不純物元素が数〜数百ppmのオーダーで含有されている。そのため、電解において、ニッケルとともにその大部分が溶出して、酸性塩化ニッケル水溶液中に含まれる。
【0033】
ここで、上記電解液は強塩酸水溶液であるので、カソードでの電流効率は低くなる。そのため、アノードから溶出したニッケルイオンは、カソード上で効率よく電解析出されずに液中に留まり、結果としてニッケルを溶解することが可能となる。また、電解液として例えば7〜9モル/Lの塩酸溶液を用いれば、工程(A)においてイオン交換樹脂を通過させる液の事前の液調整が不用となり、コストと環境面で有利である。
【0034】
さらに、上記電解において、両方の電極に電気ニッケルを使用し、電極間の通電方向を一定時間毎に切り替え、アノードとカソードの役割を入れ替えることで、電気ニッケルの溶解を効率的に促進することができる。さらに、前記切り替えの時間間隔としては、1〜15分が好ましい。すなわち、切り替え時間間隔が1分未満では、電極表面での反応が安定化する初期時間だけで通電が切り替わってしまい、有効な溶出が起る時間が確保できない。一方、切り替え時間間隔が15分を超えると、電解析出が進行しすぎて、ショートの原因となったり、またカソードから剥離して電気溶解に供されなくなったりする。
【0035】
なお、上記電極として用いる電気ニッケルとしては、板をそのまま用いてもよいが、チタンなど不溶性金属製の籠に入れて、電解槽に装入した方が小片の落下の恐れもなく、手間をかけずに溶解できるので好ましい。
【0036】
(2)工程(A)
工程(A)は、不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、不純物元素イオンを吸着除去し、精製液を得る工程である。
【0037】
上記酸性塩化ニッケル水溶液としては、特に限定されるものではないが、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、該酸性塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を20〜60g/Lに調整することが好ましく、かつ塩酸濃度を7〜9モル/Lに調整することが好ましい。これにより、コバルトイオンの除去の効果が著しく高めることができる。これに対して、陰イオン交換樹脂を用いて塩化ニッケル水溶液中の不純物元素を分離する従来の技術では、コバルトイオンの分離が不充分であった。すなわち、塩酸濃度が7モル/L未満では、コバルト除去の効果が低く、塩酸濃度が9モル/Lを超えてもコバルト吸着のそれ以上の増加は見られない。また、8モル/Lの塩酸溶液へのニッケル溶解度は、30〜60g/Lとなるので、ニッケル濃度は20〜60g/Lに調整される。なお、電解浴のニッケル濃度が高いほど、電流密度を上昇させやすく、生産性の向上に貢献することは良く知られている。しかしながら、イオン交換樹脂中又は電解時に結晶が析出すると操業の支障となるので、その防止のため、ニッケル濃度は30g/L程度がより好ましい。
【0038】
上記酸性塩化ニッケル水溶液としては、特に限定されるものではなく、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、該酸性塩化ニッケル水溶液に酸化剤を添加して、銀/塩化銀電極で測定した酸化還元電位を530〜800mVに調整することが好ましく、600mV程度に調整することがより好ましい。これにより、鉄イオンを完全に3価として、樹脂に吸着させることができる。すなわち、一般的な陰イオン交換樹脂においては、2価の鉄イオンは吸着し難いため、液を酸化して鉄イオンを3価の形態にすることが必要となる。銀/塩化銀電極で測定した酸化還元電位が530mV未満では、鉄イオンを完全に3価に酸化することができない。なお、800mV以上であっても差し支えないが、あまりに高いと有機物であるイオン交換樹脂の劣化を促進する。
【0039】
上記酸化剤としては、特に限定されるものではなく、各種の酸化剤が用いられるが、過酸化水素などを添加したり、塩素ガス又は空気を吹き込んだりすることができる。さらに、酸化剤の代わりに、上記酸性塩化ニッケル水溶液中に、工程(B)のアノード室からの電解排液を添加することにより酸化還元電位を調整する方法がコストも抑えられて効果的である。
【0040】
上記強塩基性陰イオン交換樹脂としては、特に限定されるものではなく、市販のダイアイオンSA10A(三菱化学(株)製)、アンバーライトIRA−402(オルガノ(株)製)、ダウエックス1−X4(ダウケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0041】
工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と酸性塩化ニッケル水溶液との接触方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、酸性塩化ニッケル水溶液中で強塩基性陰イオン交換樹脂を混合撹拌する方法等が用いられるが、特に、効率性から、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換カラムを使用して酸性塩化ニッケル水溶液を通液し、吸着、洗浄、及び溶離の操作を連続的に行なう方法が好ましい。
【0042】
このとき、前記カラムへの1時間あたりの通液量としては、SV(空間速度)3以下に調整することが好ましく、1〜3がより好ましい。すなわち、一般に強塩基性陰イオン交換樹脂は不純物元素との分配に差があり、例えば、銅イオンは強塩基性陰イオン交換樹脂への分配が、コバルト及び鉄に比べて小さく、カラム内に吸着される前に流失したり、他の不純物元素に置換されたりして通液中に溶離することも知られている。これに対して、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを使用する際に、該カラムへの1時間あたりの通液量をSV1〜3とすることにより、カラム出口での銅イオン濃度を0.5mg/L以下まで低減することができる。
【0043】
さらに、上記イオン交換カラムを直列に2つ以上設置し、同時にカラムへの1時間あたりの給液量(SV)を1〜3とする方法によって、前段カラムからリークした銅イオンを2段目のカラムで確実に吸着させることにより、電解でのコンタミを抑制することができる。
【0044】
工程(A)において得られる精製液としては、上記イオン交換カラム出口での銅、鉄、コバルト濃度のいずれもが0.5mg/L以下であり、これを用いて、次工程である工程(B)の電解採取において銅、鉄及びコバルト品位がそれぞれ1ppm以下である電解ニッケルを得ることができる。
【0045】
さらに、工程(A)においては、必要に応じて、不純物元素を吸着した樹脂を、洗浄及び溶離を行なうことで再使用することができる。例えば、工程(A)で得られる不純物元素を吸着した樹脂が充填されているカラムに、樹脂容積の1〜3倍量に当たる濃度8モル/Lの塩酸を通液して樹脂に付着した液を洗浄した後、それに引き続いて、まず、樹脂容積の1倍量の濃度0.5〜1モル/Lの塩酸水溶液を通液することにより鉄イオンを溶離し、次いで樹脂容積の1〜3倍量以上の水を通液することにより銅、コバルト、亜鉛を順次選択的に溶離する。すなわち、樹脂からの不用意な溶離や吸着を防ぐために、洗浄には吸着液と同じ塩酸濃度のものが好ましい。また、溶離は水でおこなえるが、洗浄との間に0.5〜1モル/L程度の弱塩酸性溶液を樹脂容積と同量程度流すことで鉄の沈殿生成を抑制し、同時に銅又はコバルトをそれぞれ別々に溶離し、分離して回収することもできる。
【0046】
(3)工程(B)
工程(B)は、上記精製液をカソードを設置したカソード室と不溶性アノードを設置したアノード室とを備える電解槽を用いて電解採取に付し、電解ニッケルを得る工程である。
ここで、電解槽内部をカソード室とアノード室とに隔膜により分割し、カソードと不溶性アノードとの間に通電することによってニッケルをカソード表面上に電解析出させる隔膜電解法が用いられる。
【0047】
工程(B)で用いる電解槽への給液としては、工程(A)で得られる精製液であり、例えば、塩酸濃度を7〜9モル/L、銅、鉄、コバルト濃度のいずれもが0.5mg/L以下の塩化ニッケル水溶液である。これにより、工程(B)で、銅、鉄及びコバルト品位がそれぞれ1ppm以下である電解ニッケルが得られる。
なお、ここで、塩酸濃度が8モル/Lの塩酸を用いると、pHは0以下となる。これは、工業的なニッケルの電解採取では、電解液のpHは概ね1〜3程度の範囲で行われるのが普通であるので、極端に低い領域となる。このような低pH領域で電解すると、カソードから水素の発生が優先し電流効率が著しく低下したり、電解析出状態が悪化することがよく知られている。しかしながら、本発明の方法においては、次工程においてプラズマ溶解を行なうので、プラズマで除去できない不純物元素がコンタミしない限り、電着物の形状は平滑でなくても問題はない。
【0048】
工程(B)で用いる電解の方式としては、特に限定されるものではないが、上記電解槽の濾布で仕切られた箱型のカソード室にカソードを装入し、工程(A)で得られる精製液をカソード室内に給液する方式が好ましい。これによって、電流効率を向上することができる。すなわち、強塩酸水溶液下での水素発生を継続させて、カソード近傍の電解析出反応に関与する部分のpHを上昇させ、同時にカソード表面での電気的な還元雰囲気を利用することによって電着物の溶解を防止し、電流効率を向上させることができる。一方、従来から行われているように、アノードを箱型のアノード室に入れることもでき、これによりアノードから発生する塩素ガスが拡散して電着物を溶解する事態は防止することができる。なお、箱型のアノード室も使用し、アノードとカソード両方ともに箱型を利用することもできる。
【0049】
上記箱型のカソード室の厚さとしては、濾布とカソードの距離は近いほど好ましいが、電着物が濾布と接触するのを避けるため実用的には想定電着物の2〜3倍程度の厚さが好ましい。
【0050】
上記カソードとしては、特に限定されるものではなく、ニッケル、ステンレス、チタン、チタン合金、黒鉛等が挙げられるが、この中で、耐久性や不純物のコンタミ防止などを考えるとチタンが最適であると考えられる。その形状としては、板状、棒状、簾状、エキスパンドメタル状のもの等が用いられる。
【0051】
上記不溶性アノードとしては、特に限定されるものではなく、市販されている黒鉛、白金被覆チタン、酸化ルテニウム被覆チタン、イリジウム酸化物系被覆チタン等が用いられる。また、板状、穿孔板状、棒状、簾状、エキスパンドメタル状等の形状ものが用いられる。
【0052】
上記濾布としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル樹脂、モダアクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ弗化ビニリデン等の材質からなるものが用いられ、この中でも、特に目が細かく、通水度が低くなるように織られた濾布が好ましい。
【0053】
(4)工程(C)
工程(C)は、上記電解ニッケルを5000℃以上の水素含有高温雰囲気下に水素プラズマ溶解に付し、電解ニッケルに残存する蒸発成分を除去し、精製金属ニッケルを得る工程である。すなわち、工程(A)、(B)においては、銅、鉄、コバルト等は十分に分離除去されるが、鉛、亜鉛等の金属元素が多く含有される場合においては分離が不十分なときがある。また、塩素、酸素、窒素、水素等のガス成分の除去は通常の場合困難である。これに対して、水素プラズマ溶解では、鉛、亜鉛等の蒸気圧の低い金属元素とガス成分の除去が効果的に行なわれるので、工程(A)、(B)と組合せて行なうことは、高レベルの精製のため好都合である。
【0054】
上記水素プラズマ溶解は、特に限定されるものではないが、プラズマアークを発生させるためのプラズマトーチと被精製金属試料を載せる水冷銅ハースを備える市販のプラズマ溶解炉を用いて、以下の手順で行なわれる。
例えば、水冷銅ハースに電解ニッケル試料を載せ、炉内を真空にした後、所定濃度の水素を含有するアルゴンガスを流しながら、プラズマトーチに所定の電圧、電流、出力の電力を印加してプラズマを発生させ、発生したプラズマアークにより水冷銅ハース内の電解ニッケル試料を所定時間溶解し、不純物金属等を蒸発除去する。
【0055】
ここで、不純物金属の蒸発除去は、5000℃以上の水素含有高温雰囲気下で、水素(H)の解離により生成される活性水素(H)の作用により効果的に行なわれる。すなわち、この活性水素は、通常の水素に比べて、反応性、還元性が著しく優れており、水素プラズマ相と接する溶融金属表面上のガス側境界層内において、高い蒸気圧を有する不純物金属元素の蒸気と活性水素とが一次的な緩い結合を生じ、活性水素が不純物金属元素を捕捉する形でガス相側に搬出し、その結果、高い蒸気圧を有する不純物金属元素の蒸発除去を促進する。なお、溶解雰囲気が5000℃未満の温度では、水素(H)の解離が行なわれない。
【0056】
上記水素プラズマ溶解の操業方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、水素を10〜20容量%の割合で混合したアルゴンガス中で、5〜60分間水素プラズマ溶解した後に、ルツボ内の溶解物を反転してさらに5〜60分間水素プラズマ溶解を継続し、その後プラズマ溶解しながら水素ガスの供給を止めてアルゴン単独に切り替えて5〜60分間溶解することが好ましい。
【0057】
ここで、上記水素プラズマ溶解の時間としては、特に限定されるものではなく、それぞれ5〜60分間が用いられるが、好ましくは5〜10分の時間で、鉛、亜鉛等の蒸気圧の低い金属元素の品位をいずれも1ppm以下にまで低下させることができる。これによって、銅、鉄、コバルト、鉛及び亜鉛品位がそれぞれ1ppm以下である高純度ニッケルが得られる。また、プラズマ溶解炉中では、通常プラズマの当たらない下部側では鋳型からの冷却により不純物元素の除去が不充分であるので、一度溶解後に溶解生成物を反転して再度溶解することで効果的に精製することができる。
【0058】
これに引き続いて、溶解の終了前に、水素ガスの供給を止めてアルゴンガスだけを5〜60分間、好ましくは5分程度流すことで、水素などのガス成分を効果的に除去することができる。これによって、酸素品位3ppm以下、水素品位3ppm以下、及び窒素品位1ppm以下の精製金属ニッケルが得られる。
【0059】
さらに、上記電解ニッケル中に、ケイ素、チタン等の元素がコンタミされている場合には、水素プラズマ溶解の前、あるいは水素プラズマ溶解で溶解生成物を裏面に反転して再溶解するときに、電解ニッケル又は溶解生成物の表面を塩酸等で酸洗浄することにより、表面に浮上したこれら非溶解性不純物成分を除去することができる。これによって、さらに高レベルに精製された金属ニッケルを得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いた電解ニッケル及び精製金属ニッケル以外の溶液中の金属元素の分析は、ICP発光分析法で行った。また、電解ニッケル及び精製金属ニッケルの金属元素はグロー放電質量分析装置(GD−MS)で、窒素、水素、酸素等のガス成分はガス分析装置で分析した。
【0061】
(実施例1)
電気ニッケルを原料として、不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液の製造、工程(A)、工程(B)及び工程(C)を逐次行なった。
(1)不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液の製造
【0062】
(イ)電気ニッケルの電解溶解
純度99.9重量%レベルの電気ニッケル(不純物元素品位:コバルト17ppm、銅12ppm、鉄2.5ppm)を電極として用いて、次の方法で酸性塩化ニッケル水溶液を得た。
塩化ビニール製の電解槽を用い、その中に、電極として幅50mm、長さ100mm、及び厚さ1mmの電気ニッケル2枚を装入し、電解液として濃度8モル/Lの塩酸0.5リットルを入れた。
まず、電極間の通電方向を一方向として、2.5Aの電流(電流密度500A/m)で32AHの積算電流量に達するまで12.8時間通電し、得られた塩化ニッケル水溶液のニッケル、コバルト、鉄及び銅濃度と溶解での電流効率を求めた。結果を表1に示す。
【0063】
次に、同じ電流値で、電極間の通電方向が5分毎に正逆が切り替わるようタイマーで制御しながら、32AHの積算電流量になるまで通電し、得られた塩化ニッケル水溶液のニッケル、コバルト、鉄及び銅の濃度と溶解での電流効率を求めた。結果を表1に示す。
なお、溶解での電流効率は、次の関係式により算出した。
【0064】
溶解電流効率(%)={1−溶解Ni量(g)/[電流量(A)×Niの電気化学当量(1.09)]}×100
【0065】
【表1】

【0066】
表1より、電気ニッケルを電極として用いて電解酸化することにより、ニッケルを高電流効率で溶出することができることが分かる。また、一方向で通電した場合よりも正逆を切り替えることにより通電したほうが、溶解電流効率が向上することが分かる。
【0067】
(ロ)電気ニッケルの空気酸化溶解
塩酸溶液中に、純度99.9重量%レベルの電気ニッケル(不純物元素品位:コバルト17ppm、銅12ppm、鉄2.5ppm)を投入し、次いで空気を吹き込みながら溶解した。得られた酸性塩化ニッケル水溶液の組成は、ニッケル濃度30g/L、コバルト0.41mg/L、鉄0.14mg/L、銅0.11mg/Lであった。
【0068】
(2)工程(A)
上記(ロ)で得られた不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液を用いて、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、不純物元素を吸着した樹脂と精製液を得た。
まず、上記酸性塩化ニッケル水溶液の塩酸濃度が6、7、8、9モル/Lになるように試薬塩酸で調整した。このときの銀/塩化銀電極を用いて測定した酸化還元電位は、500〜530mVの間であった。次に、この液を二分し、一方に過酸化水素を添加して800mVまで上昇させ、液中の鉄を3価に酸化し、2種類のイオン交換樹脂通過用の液を準備した。
【0069】
次いで、市販の強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:ダイアイオンSA10A)130mLを充填したカラムに、これらの液のそれぞれを1時間当たりの通液量(SV)3を基準として1〜9の範囲にて通液した。なお、液温は常温とした。ここで、定量ポンプを用いて樹脂量の3倍量まで通液し、得られた通過液の鉄濃度を分析した。結果を、表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2より、過酸化水素での酸化により、強塩基性陰イオン交換樹脂への鉄の吸着が向上していることが分かる。
【0072】
さらに、それに引き続いて、上記カラムに、通液した液と同一塩酸濃度である塩酸を樹脂量の3倍量通液して樹脂を洗浄した。その後、濃度0.5モル/Lの塩酸水溶液を樹脂量と同量だけ通液し吸着元素を溶離し、引き続いて純水を樹脂の3〜5倍量通液した。なお、0.5モル/Lの塩酸水溶液を通液せず直接純水を通液すると、鉄酸化物と思われる茶色の沈殿物がカラム内に発生し、鉄の回収ができなかった。
このとき、塩酸濃度及びSVを変えた時のカラム出口液でのコバルト、鉄、及び銅濃度の変化を求めた。結果を、図1〜4に示す。なお、図1〜3は、それぞれ塩酸濃度を変えてSV3で通液した際のカラム出口液(サンプル液量各50mL)中のコバルト、鉄、銅濃度の元液に対する比の変化を表す。ここで、また、図4は、塩酸濃度を8Mとし、SVを変えたときのカラム出口液(サンプル液量各50mL)中の銅濃度の元液に対する比の変化を表す。
【0073】
また、図1〜3より、鉄と銅では6モル/Lの塩酸濃度の溶液からも十分に吸着されるが、コバルトの吸着では、6モル/Lでは不安定であり、7モル/L以上、確実には8モル/Lの濃度が望ましいことが分かる。また、各条件における出口濃度の変化から、洗浄用の塩酸は樹脂容積の2〜3倍量程度、0.5Mの塩酸は1倍量程度、純水は3倍量程度が適当であることも分かる。
また、図4より、SVが大きくなるほど洗浄中に銅が樹脂から溶離し始める傾向があり、安定的な吸着には、SV3が好ましく、1程度がより好ましいことが分かる。
【0074】
また、同一形状及び容量のイオン交換樹脂カラムを2基用意して、イオン交換カラムを直列に2段設置した場合の効果を見た。まず、1段目のカラムに過酸化水素を添加して800mVまで上昇させた液1リットルをSV3で通液し、1段目のカラムの排液を2段目のカラムに通液した。1段目と2段目のカラム出口での液を分析した。結果を、表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表3より、給液した元液よりも1段目のカラムの出口で銅濃度が低減され、2段目では定量下限まで低減されることが分かる。これより、銅、鉄、コバルト濃度が大幅に低減された精製液が得られることが分かる。
【0077】
(3)工程(B)
工程(A)で得られた精製液を用いて、カソードを設置したカソード室と不溶性アノードを設置したアノード室とを備える電解槽を用いて、電解採取に付し、電解ニッケルを得た。
まず、容量1リットルの塩化ビニール製の電解槽内に、上記精製液を満たした。それから、電極面積が100×50mmとなるようにマスキングしたアノード1枚とカソード1枚を装入した。アノードとしてはペルメレック社製の不溶性電極(DSA)を、カソードとしてはチタン板を用いた。液温は常温とし、通電電流2A(電流密度400A/m)で24時間通電し、そのときの電流効率を求めた。また、通電終了後得られた電解ニッケルの銅、鉄、及びコバルト品位を分析した。結果を表4に示す。
なお、電流効率は、通電終了後カソードの電着量を測定し、次の関係式で算出した。
【0078】
電流効率(%)=電着量(g)/[電流(A)×通電時間(H)×1.09]×100
【0079】
次に、電解槽の中に、アノードに対する面が濾布でできている箱型のカソード室を用意し、その中にカソードを入れたこと以外は、上記と同様の条件の隔膜電解法による電解を行ない、同様の関係式により電流効率を求めた。また、通電終了後得られた電解ニッケルの銅、鉄、及びコバルト品位を分析した。結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4より、電解ニッケルの銅、鉄、コバルト品位はいずれも、1ppm以下であることが分かる。また、箱型のカソード室を用いたほうが、電流効率が向上することが分かる。
【0082】
(4)工程(C)
工程(B)で得られた電解ニッケルを5000℃以上の水素含有高温雰囲気下に水素プラズマ溶解に付し、蒸発成分を除去し精製金属ニッケルを得た。
まず、電解ニッケルを約40gづつ、プラズマ溶解炉に装入した。前記炉内を真空にした後、10〜20容量%の水素ガスと残りがアルゴンとの混合ガスを5リットル/分で流しながら、電圧22〜38V、電流165〜115A、出力3600〜4400Wの電力を印加してプラズマを発生させ、それぞれ5〜30分間の所定時間、溶解(1次)した。この溶解後、一度炉をあけて試料を上下反転し、再度同時間溶解(2次)して、精製金属ニッケルを得た。また、溶解No.1では、その後、水素ガスの供給を止めてアルゴン単独に切り替えて所定時間溶解(3次)した。このときのプラズマ溶解条件を表5に示す。
溶解終了後、得られた精製金属ニッケルを切断し、洗浄後に分析した。結果を表6に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
表6より、亜鉛、及び鉛は短時間の水素プラズマ溶解で効果的に除去されることが分かる。また、水素プラズマ溶解で塩素の除去が効果的である。また、酸素、窒素、及び水素も低下し、最後にアルゴンだけで溶解したほうが水素除去効果が大きいことが分かる。また、片面だけ溶解するよりも反転して両面溶解した方が、同じ溶解時間であっても、酸素が低減されることが分かる。さらに、ケイ素のような非溶解性成分も低減されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上より明らかなように、銅、鉄、コバルト、鉛及び亜鉛品位がそれぞれ1ppm以下で、かつガス成分も低い金属ニッケルが得られるので、半導体などの電子材料及び合金材料など不純物の少ないニッケルを製造しようとする分野に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムにSV3で通液した際のコバルト濃度の変化を表す図である。
【図2】強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムにSV3で通液した際の鉄濃度の変化を表す図である。
【図3】強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムにSV3で通液した際の銅濃度の変化を表す図である。
【図4】強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用いてSVを変えたときの銅濃度の変化を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物元素を含有する酸性塩化ニッケル水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、不純物元素イオンを吸着除去し、精製液を得る工程(A)、該精製液を、カソードを設置したカソード室と不溶性アノードを設置したアノード室とを備えた電解槽を用いて電解採取に付し、電解ニッケルを得る工程(B)、及び該電解ニッケルを、5000℃以上の水素含有高温雰囲気下に水素プラズマ溶解に付し、電解ニッケルに残存する蒸発成分を除去し、精製金属ニッケルを得る工程(C)を、含むことを特徴とする高純度ニッケルの製造方法。
【請求項2】
前記酸性塩化ニッケル水溶液は、pH1以下の塩酸水溶液からなる電解液中で、純度99.9重量%レベルの電気ニッケルを電極として用いる電解に付し、ニッケルを溶解させることにより生成されることを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項3】
前記電解に際し、電極間の通電方向を一定時間毎に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項4】
前記切替時間は、1〜15分であることを特徴とする請求項3に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項5】
工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、前記酸性塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を20〜60g/L、かつ塩酸濃度を7〜9モル/Lに調整することを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項6】
工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、前記酸性塩化ニッケル水溶液に酸化剤を添加して、銀/塩化銀電極で測定した酸化還元電位を530〜800mVに調整することを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項7】
工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、酸化剤の代わりに、前記酸性塩化ニッケル水溶液中に、工程(B)のアノード室からの電解排液を添加して、酸化還元電位を調整することを特徴とする請求項6に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項8】
工程(A)において、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換カラムを使用し、それに酸性塩化ニッケル水溶液を通液するとともに、該カラムへの1時間あたりの通液量をSV1〜3に調整することを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項9】
前記イオン交換カラムを直列に2つ以上設置し、該カラム出口での銅、鉄、及びコバルト濃度をそれぞれ0.5mg/L以下に維持することを特徴とする請求項8に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項10】
工程(A)で吸着除去される不純物元素を含む樹脂が充填されたカラムに、該樹脂容積の1〜3倍量に当たる濃度8モル/Lの塩酸を通液して樹脂に付着した液を洗浄した後、不純物元素を分離回収するために、まず、樹脂容積の1倍量の濃度0.5〜1モル/Lの塩酸水溶液を通液することにより鉄イオンを溶離し、次いで樹脂容積の1〜3倍以上の水を通液することにより銅、コバルト、及び亜鉛を順次選択的に溶離することを特徴とする請求項8に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項11】
工程(B)において、濾布で仕切られた箱型のカソード室にカソードを装入し、工程(A)で得られる精製液を該カソード室内に給液することを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項12】
工程(B)で得られる電解ニッケルは、銅、鉄及びコバルト品位がそれぞれ1ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項13】
工程(C)において、水素プラズマ溶解は、工程(B)で得られる電解ニッケルを水素濃度10〜20容量%のアルゴンガス中で5〜60分間プラズマ溶解した後に、溶解生成物を反転してさらに5〜60分間プラズマ溶解を継続し、その後プラズマ溶解しながら水素ガスの供給を止めてアルゴンガス単独に切り替えて5〜60分間溶解することにより行なうことを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項14】
前記電解ニッケル及び/又は工程(C)の水素プラズマ溶解での反転する前の溶解生成物を、水素プラズマ溶解する際に、これらに先だって電解ニッケル又は溶解生成物の表面を酸洗浄することを特徴とする請求項13に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項15】
工程(C)で得られる金属ニッケルは、銅、鉄、コバルト、鉛及び亜鉛品位がそれぞれ1ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の高純度ニッケルの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかの製造方法で得られてなる高純度ニッケル。
【請求項17】
銅、鉄、コバルト、鉛、及び亜鉛品位がそれぞれ1ppm以下であることを特徴とする請求項16に記載の高純度ニッケル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−254800(P2007−254800A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79132(P2006−79132)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】