説明

高耐久性ばねおよびその塗装方法

【課題】 耐食性、耐チッピング性に優れた高耐久性ばねを提供する。また、そのようなばねを実現するための塗装方法を提供する。
【解決手段】 高耐久性ばねを、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された塗膜を有するよう構成する。また、高耐久性ばねの塗装方法を、塗膜形成面に、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる塗装工程と、付着した柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、を含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性、耐チッピング性に優れた高耐久性ばね、およびその塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両等には、種々の懸架用ばねが使用されている。これら懸架用ばねの多くは鋼製であり、その表面には、通常、耐食性を付与するための塗装が施されている。しかし、自動車の走行時には、車輪で跳ね上げられた小石や砂利が懸架用ばねに衝突するため、その衝撃により塗膜が剥離する、いわゆるチッピングが発生する。その結果、ばねの素地が露出し、素地が露出した箇所には錆が発生してしまう。したがって、懸架用ばねの塗装には、耐食性の付与に加え、高い耐チッピング性を有することが要求される。
【0003】
一方、自動車ボデーには、耐食性、耐チッピング性、ボデーの見栄え等を考慮して、複数層からなる塗装が施されている。しかし、自動車ボデーと懸架用ばねとでは、素地の成分、強度等が異なる。また、懸架用ばねには、変形に伴う大きな歪みが生じる。そのため、懸架用ばねには、耐食性、耐チッピング性を有する特有の塗装が必要となる。
【0004】
このような観点から、例えば、米国特許第5981086号明細書には、所定の割合で亜鉛を含む熱硬化エポキシからなる第一層と、エチレンアクリルのコポリマーからなる第二層と、の二層の塗装を施すことにより、高張力鋼に耐食性、耐チッピング性を付与する技術が開示されている。また、米国特許第6663968号明細書には、高張力鋼用の二層の塗装において、亜鉛を含まないトップコート層に、繊維や発泡剤を添加する試みが開示されている。
【特許文献1】米国特許第5981086号明細書
【特許文献2】米国特許第6663968号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、塗膜の耐チッピング性を向上させる手法として、塗膜の厚膜化が挙げられる。しかし、塗膜を厚くすると、内部応力が増加して塗膜が剥離し易くなることに加え、コストアップにもなる。一方、寒冷地での使用を考慮した場合、低温下における耐食性、耐チッピング性も大きな問題となる。しかしながら、上記特許文献1、2に開示された塗装方法では、所望の性能を有する塗膜を得ることはできない。
【0006】
本発明は、このような実状を鑑みてなされたものであり、塗膜の厚さが薄くても耐食性、耐チッピング性の高い高耐久性ばねを提供することを課題とする。また、そのようなばねを実現するための塗装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の第一の高耐久性ばねは、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された塗膜を有することを特徴とする(請求項1に対応)。
【0008】
柔軟剤は、塗膜の柔軟性を高め、塗膜の耐衝撃性を向上させる役割を果たす。柔軟剤の作用である「塗膜の耐衝撃性を向上させる」とは、柔軟剤を含まない態様と比較して、塗膜の耐衝撃性を高めることを意味する。塗膜の耐衝撃性は、例えば、耐衝撃性試験(JIS K 5600 5−3)等により評価すればよい。
【0009】
本発明の第一の高耐久性ばねに形成された塗膜は、上記柔軟剤を含み耐衝撃性が高いため、高い耐チッピング性を有する。特に、−30℃程度の低温下においても高い耐チッピング性を発揮する。このため、従来より塗膜の厚さが薄くても、実用に充分耐え得る。このように、耐チッピング性の高い塗膜が形成された本発明の第一の高耐久性ばねでは、小石や砂利が衝突しても塗膜は剥離し難く、素地の露出は抑制される。よって、本発明の第一の高耐久性ばねは、腐食し難く、耐久性に優れる。
【0010】
(2)本発明の第二の高耐久性ばねは、アンダーコート層と、該アンダーコート層の上に積層されたトップコート層と、からなる二層の塗膜を有する高耐久性ばねであって、該二層の少なくとも一方は、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成されたことを特徴とする(請求項6に対応)。
【0011】
本発明の第二の高耐久性ばねは、アンダーコート層とトップコート層とからなる二層の塗膜で被覆される。よって、塗膜が一層の場合に比べて素地が露出し難い。加えて、二層の少なくとも一方は、上述した柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成され、高い耐チッピング性を有する。したがって、本発明の第二の高耐久性ばねも、腐食し難く、耐久性に優れる。
【0012】
(3)本発明の第一の高耐久性ばねの塗装方法は、塗膜形成面に、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる塗装工程と、付着した前記柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、を含むことを特徴とする(請求項11に対応)。
【0013】
本塗装方法では、塗装工程にて付着された柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料が、焼付け工程にて加熱されることにより溶融、硬化して塗膜を形成する。このように、本塗装方法によれば、上記本発明の第一の高耐久性ばねを簡便に製造することができる。
【0014】
なお、「塗膜形成面」は、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料による塗膜を形成する面を意味する。よって、「塗膜形成面」には、ばねの素地表面の他、ばねの素地表面にリン酸亜鉛等のリン酸塩の皮膜が形成されている場合にはその皮膜表面、また、先に形成された塗膜の上に、当該柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料による塗膜を重ねて形成する場合には、その先に形成された塗膜表面が含まれる。
【0015】
(4)本発明の第二の高耐久性ばねの塗装方法は、ばねの表面に、アンダーコート用粉体塗料を付着させるアンダーコート工程と、前記アンダーコート用粉体塗料からなるアンダーコート膜の上に、トップコート用粉体塗料を付着させるトップコート工程と、前記アンダーコート膜および付着した前記トップコート用粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、を含み、該アンダーコート用粉体塗料および該トップコート用粉体塗料のうち少なくとも一方は、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料であることを特徴とする(請求項12に対応)。
【0016】
本塗装方法によれば、上記本発明の第二の高耐久性ばねを簡便に製造することができる。すなわち、本塗装方法では、アンダーコート工程にて、アンダーコート層を形成するアンダーコート用粉体塗料を付着させ、トップコート工程にて、トップコート層を形成するトップコート用粉体塗料を付着させる。各々の工程で付着された塗料は、加熱されることにより溶融、硬化して各々の層を形成する。
【0017】
ここで、アンダーコート用粉体塗料およびトップコート用粉体塗料のうち少なくとも一方は、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料である。このため、形成される塗膜の耐チッピング性は高く、塗膜の薄膜化を実現することが可能となる。塗膜を薄膜化すると、二層の密着性が向上する。また、使用する塗料の量を少なくすることができ、塗装コストを削減できる。通常、粉体塗料を付着させる工程は、粉体塗料を溶着させるため、ばねの温度を比較的高温にして行うことが多い。本塗装方法では、塗膜を薄膜化することで、アンダーコート工程およびトップコート工程を従来より低い温度で行うことができる。
【0018】
本塗装方法は、トップコート工程の後に焼付け工程を含む。しかし、塗料の硬化条件は、何ら限定されるものではない。つまり、アンダーコート工程の後と、トップコート工程の後とのそれぞれで、付着した塗料を加熱して焼き付ける態様(2コート2ベーク)や、トップコート工程の後のみで、付着した塗料を加熱して焼き付ける態様(2コート1ベーク)等、塗料の硬化条件を適宜選択することができる。したがって、本塗装方法のトップコート工程、および焼付け工程における「アンダーコート膜」は、アンダーコート工程における被塗物(ばね)の温度やその後の加熱の有無により、種々の状態をとり得る。すなわち、後に詳しく説明するが、「アンダーコート膜」の態様は、アンダーコート用粉体塗料が付着したままの状態、アンダーコート用粉体塗料が硬化途中の状態、アンダーコート用粉体塗料が硬化した状態のいずれであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の高耐久性ばねおよびその塗装方法について詳細に説明する。なお、本発明の高耐久性ばねおよびその塗装方法は、下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の高耐久性ばねおよびその塗装方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0020】
〈高耐久性ばね〉
本発明の第一の高耐久性ばねは、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された塗膜を有する。
【0021】
本発明の第一の高耐久性ばねは、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された塗膜を有すればよい。したがって、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料からなる塗膜が一層形成された態様、当該塗膜が二層以上形成された態様、当該塗膜とそれ以外の塗膜とが積層されて形成された態様等、種々の態様を採用することができる。例えば、二層の塗膜を有する態様として、本発明の第二の高耐久性ばねを挙げることができる。すなわち、本発明の第二の高耐久性ばねは、アンダーコート層と、該アンダーコート層の上に積層されたトップコート層と、からなる二層の塗膜を有する高耐久性ばねであって、該二層の少なくとも一方は、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される。
【0022】
以下では、まず、本発明の第一の高耐久性ばねと本発明の第二の高耐久性ばねとをまとめて説明し、その後で、本発明の第二の高耐久性ばねについての説明を追加する。なお、以下適宜、本発明の第一の高耐久性ばねと本発明の第二の高耐久性ばねとをまとめて「本発明の高耐久性ばね」と称する。
【0023】
本発明の高耐久性ばねにおいて、塗装が施されるばねの形状は特に限定されるものではなく、例えば、コイルスプリング、リーフスプリング、スタビライザ、トーションバー等の種々の形状のばねを用いることができる。ばねの材質も、金属であれば特に限定されるものではなく、一般にばね用として用いられるばね鋼等が好適である。例えば、ばね鋼等を熱間または冷間成形した後、ショットピーニング等を施してばねの表面粗さを調整しておくとよい。
【0024】
また、塗装が施されるばねの表面には、リン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩の皮膜が予め形成されていることが望ましい。リン酸塩皮膜の上に塗膜を形成すると、耐食性および塗膜の密着性が向上する。この場合、リン酸塩皮膜は、ばねの表面積の80%以上を覆っていると効果的である。特に、リン酸塩がリン酸亜鉛の場合には、耐食性がより向上する。
【0025】
形成されるリン酸塩皮膜の皮膜重量は、特に限定されるものではない。一般に、リン酸塩皮膜による耐食性の付与には、1.8〜2.3g/m程度の皮膜重量が必要とされている。一方、皮膜重量が小さい程、塗膜の密着性は高くなる。よって、密着性を考慮すると、皮膜重量を2.2g/m以下とするとよい。皮膜重量は、形成された皮膜の重量を測定して求める他、スプレー法により皮膜を形成した場合には、スプレーガンの吐出量から換算して求めればよい。
【0026】
また、例えば、リン酸塩皮膜におけるリン酸亜鉛の結晶は、Zn(PO・4HO(斜方晶)と、ZnFe(PO・4HO(単斜晶)とからなる。このようなリン酸塩の結晶の形状や大きさも、耐食性および塗膜の密着性に影響を与える。耐食性および密着性をより向上させるためには、リン酸塩の結晶形状は球形に近い方が望ましく、結晶の平均径は3μm以下であるとよい。ここで、結晶の平均径は、リン酸塩皮膜を走査型電子顕微鏡(SEM)等で観察して測定すればよい。本明細書では、SEMで観察された個々の結晶における長軸径の平均値を、平均径として採用する。
【0027】
例えば、本発明の第二の高耐久性ばねの好適な態様として、アンダーコート層の下にリン酸塩皮膜が形成されており、該リン酸塩皮膜の皮膜重量は2.2g/m以下であり、リン酸塩の結晶の平均径は3μm以下である態様が挙げられる。
【0028】
本発明の高耐久性ばねに使用される柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、エポキシ樹脂と柔軟剤とを含む。エポキシ樹脂は、主に塗膜形成のベースとなる基体樹脂としての役割を果たす。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、結晶性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、また、二種以上を混合して用いてもよい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は500以上2500以下とすることが望ましい。エポキシ当量が500未満では、エポキシ樹脂は液状であり、粉体塗料の調製に適さない。一方、エポキシ当量が2500を超えると、溶融粘度が高くなるため、粉体塗料の調製に適さない。塗膜の柔軟性を高めるという観点から、エポキシ当量を800以上1000以下とすると好適である。
【0029】
柔軟剤として用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂 、ポリオレフィン樹脂から選ばれる一種以上を用いると好適である。具体的には、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、ポリアミドビーズ、ポリエチレンビーズ等を使用するとよい。熱可塑性樹脂をビーズの態様で使用することにより、塗膜の内部応力をより緩和することができ、塗膜により柔軟性を付与することができる。
【0030】
これら各種ビーズの粒径は、特に限定されるものではない。入手容易なものとして、例えば、平均粒子径が10〜150μmのウレタンビーズ、平均粒子径が0.3〜150μmのアクリルビーズ、平均粒子径が10〜80μmのポリエチレンビーズ等を使用すればよい。
【0031】
塗膜の耐衝撃性の向上効果を効果的に発揮させるためには、柔軟剤の含有割合は、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料全体の重量を100wt%とした場合の5wt%以上とすることが望ましい。7.5wt%以上とするとより好適である。一方、柔軟剤の過剰添加による塗膜の物性低下を考慮して、柔軟剤の含有割合を15wt%以下とすることが望ましい。12.5wt%以下とするとより好適である。
【0032】
柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、既に公知の溶融混練法、ドライブレンド法等で製造すればよい。なかでも、塗膜の耐衝撃性を向上させるという柔軟剤の特性を最大限に生かすためには、ドライブレンド法を採用することが望ましい。ドライブレンド法は、粉体塗料の構成材料を機械的に混合する方法である。図1に、溶融混練法で製造した場合の塗料構成の模式図を示す。図2に、ドライブレンド法で製造した場合の塗料構成の模式図を示す。図1に示すように、溶融混練法を採用した場合には、柔軟剤3は粉体塗料1の基体樹脂2中に内包される。一方、図2に示すように、ドライブレンド法を採用した場合には、柔軟剤3は基体樹脂2と基体樹脂2との間に介在する。よって、ドライブレンド法で製造した粉体塗料を用いた場合には、基体樹脂間に介在する柔軟剤がクッションのような役割を果たすため、塗膜の耐衝撃性がより向上すると考えられる。
【0033】
柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、上記エポキシ樹脂、柔軟剤の他に、塗膜形成成分として通常の粉体塗料に使用される硬化剤を含む。硬化剤としては、例えば、芳香族アミン、酸無水物、ジシアンジアミドの誘導体、有機酸ジヒドラジドの誘導体、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0034】
また、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、エポキシ樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。例えば、耐候性等を考慮した場合には、エポキシ樹脂に加えてポリエステル樹脂を含む態様が好適である。この態様では、ポリエステル樹脂が基体樹脂となり、エポキシ樹脂が硬化剤の役割を果たす。つまり、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との反応で硬化する。このように、本明細書において「柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料」は、エポキシ樹脂を含むがエポキシ樹脂が基体樹脂としての役割を果たさない態様をも含む。
【0035】
ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との配合割合は、特に限定されるものではないが、例えば、当量比で1:1とすることが望ましい。ポリエステル樹脂としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のアルコールと、テレフタル酸、マレイン酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸等のカルボン酸と、をエステル交換および重縮合反応させた樹脂が挙げられる。これら樹脂の一種を単独で用いてもよく、また、二種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
上記以外にも、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、必要に応じて種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、防錆のための亜鉛、各種顔料、塗料の表面張力を調整するための表面調整剤、樹脂の酸化防止剤、帯電抑制剤、難燃剤等が挙げられる。なお、塗膜の形成方法は、以下の塗装方法の説明において述べる。
【0037】
本発明の高耐久性ばねにおいて、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された塗膜の厚さは、特に限定されるものではない。当該塗膜の厚さは、ばねに形成される塗膜の種類や積層数に応じて適宜調整すればよい。例えば、本発明の第一の高耐久性ばねにおいて、当該塗膜が一層のみ形成された態様では、充分な耐チッピング性を得るために、当該塗膜の厚さを400μm以上とすることが望ましい。500μm以上とするとより好適である。
【0038】
本発明の高耐久性ばねには、柔軟剤を含む塗膜が形成されている。このため、柔軟剤を含まない塗膜のみが形成されたばねと比較して、最表面の粗さは粗くなる。例えば、本発明の高耐久性ばねの好適な態様として、軸方向の表面粗さがRzjis5μm以上であり、周方向の表面粗さがRzjis10μm以上である態様が挙げられる。「Rzjis」は十点平均粗さである。また、算術平均粗さ(Ra)で示すと、軸方向、周方向ともにRa1μm以上である態様が望ましい。なお、表面粗さの上限は、軸方向、周方向ともにRa120μm以下、Rzjis120μm以下とすることが望ましい。本明細書では、軸方向の表面粗さとして、レーザ式表面粗さ計でばねの最表面を軸方向に測定した値を採用する。また、周方向の表面粗さとして、レーザ式表面粗さ計でばねの最表面を周方向に測定した値を採用する。
【0039】
次に、本発明の第二の高耐久性ばねについて説明する。上述したように、本発明の第二の高耐久性ばねは、アンダーコート層とトップコート層とからなる二層の塗膜を有し、該二層の少なくとも一方が柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される。具体的には、アンダーコート層のみが、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される態様、トップコート層のみが、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される態様、アンダーコート層とトップコート層の両方が、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される態様がある。二層に柔軟剤が含まれる態様では、塗膜の耐チッピング性および耐食性がより高くなる。なお、一方の層のみが柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される上記二つの態様では、他方の層は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等を用いた通常使用される粉体塗料を使用して形成すればよい。
【0040】
本発明の第二の高耐久性ばねは、防錆の観点から、アンダーコート層に亜鉛を含む態様が望ましい。しかし、亜鉛を含むことで、アンダーコート層の柔軟性は低下する。よって、塗膜の耐チッピング性を高めるために、アンダーコート層に柔軟剤を含有させることが有効である。すなわち、本発明の第二の高耐久性ばねは、アンダーコート層が、亜鉛を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成される態様が望ましい。この場合、高い防錆効果を得るためには、亜鉛の含有割合は、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料全体の重量を100wt%とした場合の75wt%以上であることが望ましい。
【0041】
また、トップコート層には、着色顔料、体質顔料等の種々の顔料を含むことが望ましい。例えば、着色顔料としては、カーボンブラック、二酸化チタン、ベンガラ、黄土等の無機系顔料、キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、ベンジジンエロー等の有機系顔料が挙げられる。また、体質顔料としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、シリカ、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0042】
特に、体質顔料は、塗膜の機械的性質に影響を与えるため重要となる。例えば、体質顔料を構成する粒子の粒子径が小さいと、塗膜の屈曲性等の機械的性質が向上し、その結果、耐チッピング性が向上する。例えば、体質顔料として炭酸カルシウムを用いた場合には、その平均粒子径を0.5μm以上1μm以下とすることが望ましい。また、鱗片状、不定形状、針状といった粒子形状によっても、塗膜の耐衝撃性等が変化する。耐チッピング性を向上させるという観点から、針状あるいは不定形状の体質顔料を使用することが望ましい。
【0043】
顔料の含有割合は、特に限定されるものではないが、例えば、隠蔽性の観点から、粉体塗料全体の重量を100wt%とした場合の2wt%以上とすることが望ましい。一方、顔料の分散性を考慮すれば、粉体塗料全体の重量を100wt%とした場合の60wt%以下とすることが望ましい。
【0044】
アンダーコート層とトップコート層とは、塗膜を構成する樹脂が同じでもよく、異なっていてもよい。例えば、二層に同種の樹脂が含まれている場合には、両層間の密着性は高くなる。このため、ばね特有の大きな歪みが生じても、両層は剥離し難く、ばねの変形に対する追従性に優れる。特に、両層ともに基体樹脂としてエポキシ樹脂を使用すると、塗膜の柔軟性がより高くなり、耐チッピング性がより向上する。また、耐候性等を考慮して、トップコート層の基体樹脂をポリエステル樹脂とする態様も好適である。
【0045】
アンダーコート層の厚さは、特に限定されるものではない。例えば、充分な耐食性を付与するという観点から、アンダーコート層の厚さは50μm以上であることが望ましい。60μm以上であるとより好適である。また、トップコート層の厚さも、特に限定されるものではない。本発明の第二の高耐久性ばねは、二層の少なくとも一方に柔軟剤が含まれており、高い耐チッピング性を有する。このため、従来より膜厚を薄くすることができる。例えば、トップコート層の厚さを200μm以上600μm以下とするとよい。400μm以下とするとより好適である。なお、各層の形成方法は、以下の塗装方法の説明において述べる。
【0046】
〈高耐久性ばねの塗装方法〉
本発明の第一の高耐久性ばねの塗装方法は、塗膜形成面に柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる塗装工程と、付着した柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、を含む。また、本発明の第二の高耐久性ばねの塗装方法は、ばねの表面にアンダーコート用粉体塗料を付着させるアンダーコート工程と、該アンダーコート用粉体塗料からなるアンダーコート膜の上に、トップコート用粉体塗料を付着させるトップコート工程と、アンダーコート膜および付着したトップコート用粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、を含む。両塗装方法は、塗膜形成面(ばねの表面、アンダーコート膜を含む)に粉体塗料を付着させて焼付けるという点で共通する。つまり、本発明の第二の塗装方法のアンダーコート工程およびトップコート工程の少なくとも一方は、本発明の第一の塗装方法の塗装工程に相当する。よって、以下では、本発明の第二の高耐久性ばねの塗装方法について、アンダーコート用粉体塗料とトップコート用粉体塗料とが、ともに柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料である態様を一例として説明する。
【0047】
(1)アンダーコート工程
本工程では、ばねの表面に、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる。被塗物となるばねの形状、材質等は、特に限定されるものではなく、上記本発明の高耐久性ばねに準ずる。また、「ばねの表面」は、ばねの素地表面の他、ばねの素地表面にリン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩の皮膜が形成されている場合には、その皮膜表面を意味する。耐食性および塗膜の密着性をより向上させるには、予めリン酸塩皮膜が形成されている態様が望ましい。この場合、本塗装方法を、本工程の前に、ばねの素地表面に予めリン酸塩皮膜を形成する前処理工程を含んで構成すればよい。
【0048】
前処理工程におけるリン酸塩皮膜の形成は、既に公知の方法に従えばよい。例えば、リン酸塩の溶液槽にばねを浸漬する浸漬法、リン酸塩の溶液をスプレーガン等でばねに吹き付けるスプレー法等によればよい。また、形成されるリン酸塩皮膜の皮膜重量、リン酸塩の種類および結晶形状等については、上記本発明の高耐久性ばねに準ずる。
【0049】
使用するアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料については、上記〈高耐久性ばね〉にて説明した通りである。例えば、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、エポキシ樹脂、柔軟剤に加え、亜鉛と所定の硬化剤とを含む態様が望ましい。本工程では、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を、粉体塗装に用いる通常の方法、例えば、静電塗装法、静電流動浸漬法、流動浸漬法等によりばねの表面に付着させればよい。
【0050】
ばねの表面へのアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の付着性を向上させるため、ばねを所定の温度に加熱し、該粉体塗料を溶融した状態で付着させるとよい。このため、本塗装方法は、本工程の前に、ばねを予熱する予熱工程を含むことが望ましい。この場合、予熱温度を70℃以上180℃以下にするとよい。予熱工程の余熱により、アンダーコート工程では、ばねの表面に付着した柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の硬化が進行する。柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の硬化をある程度進行させてから、次のトップコート工程を行うことで、アンダーコート層とトップコート層との層間密着性が向上する。なお、アンダーコート工程の前に、上述した前処理工程を行う場合は、前処理工程の後で予熱工程を行えばよい。また、予熱工程は、水洗後のばねの乾燥を兼ねて行ってもよい。
【0051】
また、本塗装方法を、本工程の後に、付着したアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を所定の温度で加熱して焼き付けるアンダー焼付け工程を含んで構成してもよい。アンダー焼付け工程の焼付け温度は、後に説明する焼付け工程と同様に、60℃以上220℃以下とすればよい。焼付け時間は20分程度とすればよい。
【0052】
(2)トップコート工程
本工程では、アンダーコート膜の上に、トップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる。本工程にてトップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる「アンダーコート膜」は、上述したように、アンダーコート工程におけるばねの温度やその後の加熱の有無により、種々の状態をとり得る。すなわち、アンダーコート工程と本工程との間に、付着したアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を加熱し、同粉体塗料の硬化を完了させるアンダー焼付け工程を含む場合(2コート2ベーク)には、「アンダーコート膜」は柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料が硬化した塗膜となる。また、ばねの温度が比較的高い状態でアンダーコート工程を行い、付着したアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の硬化を進行させる場合(2コート1.5ベーク)には、「アンダーコート膜」は柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の硬化途中の膜(半硬化状態の膜)となる。一方、アンダーコート工程にて、付着したアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の硬化を進行させずに本工程を行う場合(2コート1ベーク)には、「アンダーコート膜」は、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料が付着したままの状態の膜となる。
【0053】
使用するトップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料については、上記〈高耐久性ばね〉にて説明した通りである。例えば、トップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、エポキシ樹脂、柔軟剤に加え、ポリエステル樹脂、所定の顔料を含む態様、あるいは、エポキシ樹脂、柔軟剤に加え、硬化剤、所定の顔料を含む態様が望ましい。本工程では、アンダーコート工程と同様、トップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を、静電塗装法、静電流動浸漬法、流動浸漬法等によりアンダーコート膜の上に付着させればよい。
【0054】
アンダーコート工程と同様に、トップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料の付着性を向上させるため、ばねを所定の温度に加熱し、該粉体塗料を溶融した状態で付着させるとよい。例えば、本工程を60℃以上160℃以下で行うとよい。アンダーコート工程の前に予熱工程を含む場合には、ばねの加熱にその余熱を利用してもよい。また、別途昇温してもよい。
【0055】
本塗装方法で形成される塗膜は、柔軟剤を含むため、高い耐チッピング性を有する。このため、トップコート層の膜厚を薄くすることができる。膜厚を薄くすることで、例えば、本工程の温度、ひいては、上記予熱工程の予熱温度を低温化することができる。ちなみに、予熱工程でばねを180℃程度に加熱し、アンダーコート工程と本工程とを連続して行う場合、塗装環境にもよるが、本工程におけるばねの表面温度は120〜140℃となる。例えば、本工程の温度を低温化して、60℃以上80℃以下とすると、予熱工程では、ばねを120℃程度に加熱すれば足りる。ばねの加熱温度を低くすることにより、塗装コストを低減することができる。また、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料をドライブレンド法で製造した場合には、低温化により柔軟剤の特性がより引き出され、耐衝撃性がより高くなる。このように、本工程をより低温で行うことで、予熱工程を70℃以上120℃以下で行うことができる。
【0056】
(3)焼付け工程
本工程における「アンダーコート膜」も、上記トップコート工程にて述べたように、種々の状態をとり得る。本工程を経ることにより、アンダーコート層およびトップコート層が形成される。
【0057】
焼付けの温度は、特に限定されるものではないが、160℃以上220℃以下とすればよい。焼付け時間は20分程度とすればよい。また、焼付けは、通常使用される電気炉、山型炉等で行えばよい。
【0058】
以上まとめると、本塗装方法の好適な態様として、ばねの素地表面に予めリン酸塩皮膜を形成する前処理工程と、リン酸塩皮膜が形成されたばねを70℃以上180℃以下に予熱する予熱工程と、該ばねの表面に、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させるアンダーコート工程と、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料からなるアンダーコート膜の上に、トップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させるトップコート工程と、該アンダーコート膜および付着したトップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を、160℃以上220℃以下の温度で焼付ける焼付け工程と、を含む態様が挙げられる。なお、本態様において、アンダーコート工程とトップコート工程との間に、付着したアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を90℃以上180℃以下の温度で加熱する中間加熱工程を含んでもよい。
【0059】
これらの態様では、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させた後、同粉体塗料の硬化をある程度進行させる。半硬化状態のアンダーコート膜の上にトップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させ、最後に本焼付けを行うことで、形成されるアンダーコート層およびトップコート層の密着性を高めることができる。
【0060】
また、ばねの素地表面に予めリン酸塩皮膜を形成する前処理工程と、リン酸塩皮膜が形成されたばねを70℃以上180℃以下に予熱する予熱工程と、該ばねの表面に、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させるアンダーコート工程と、付着したアンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を160℃以上220℃以下の温度で焼き付けるアンダー焼付け工程と、アンダーコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料からなるアンダーコート膜の上に、トップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させるトップコート工程と、該アンダーコート膜および付着したトップコート用の柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を、160℃以上220℃以下の温度で焼付ける焼付け工程と、を含む態様が挙げられる。
【実施例】
【0061】
エポキシ樹脂を含む種々の粉体塗料を用いて二層の塗膜を形成し、その塗膜の耐チッピング性、耐食性等を評価した。以下、各試験ごとに説明する。
【0062】
(1)低温耐衝撃性試験
種々の塗装を施したテストピースを用いて、低温下での塗膜の耐衝撃性を評価した。テストピースの作製方法は、以下の通りである。まず、ばね鋼(SUP7)製のうす板の表面に、スプレー法にてリン酸亜鉛の皮膜を形成した。次いで、形成したリン酸亜鉛皮膜の上に、アンダーコート層およびトップコート層からなる二層の塗膜を形成した。二層の塗膜を形成するのに用いた粉体塗料の成分、製造方法を下記表1に示す。いずれのテストピースにおいても、アンダーコート用粉体塗料を付着させた後、115℃で15分間加熱して半硬化状態の膜を形成した。その後、トップコート用粉体塗料を付着させ、焼付けは185℃にて20分間行った。
【0063】
【表1】

【0064】
作製した5種類のテストピースについて、−30℃下で耐衝撃性試験を行った。耐衝撃性試験は、JIS K 5600 5−3 デュポン式に準じて行った。その結果、柔軟剤を含まない粉体塗料で二層の塗膜を形成した#11のテストピースでは、鋼球落下高さ40cmで塗膜表面にひびが観察された。これに対して、柔軟剤を含む粉体塗料(柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料)で塗膜を形成した#12〜#15のテストピースについては、同じ鋼球落下高さ40cmでは、塗膜表面のひびは観察されなかった。特に、アンダーコート用粉体塗料、トップコート用粉体塗料の両方をドライブレンド法で製造した#13、#14のテストピースについては、鋼球落下高さ50cmでも塗膜表面のひびは観察されなかった。このように、柔軟剤を含有させることで、低温下での塗膜の耐衝撃性が向上した。さらに、柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料をドライブレンド法で製造することで、耐衝撃性がより向上した。
【0065】
(2)低温耐久性試験
種々の塗装を施したコイルばねを用いて、低温下での耐久性を評価した。コイルばねの塗装方法は、以下の通りである。まず、SUP7製のコイルばね(線径φ13.9mm、巻き径φ136mm、荷重1.0〜2.9(kN))の素地表面にリン酸亜鉛皮膜を形成した。次に、コイルばねを塗装ラインに設置し、120℃で10分間加熱して乾燥させた。そして、この余熱を利用して、コイルばねの表面にアンダーコート用粉体塗料を付着させた。アンダーコート用粉体塗料は、上記表1に示した#11、#13、#14、#15の各テストピースに使用した4種類とした。さらに、形成されたアンダーコート膜の上にトップコート用粉体塗料を付着させた。トップコート用粉体塗料は、上記表1に示した#11、#13、#14、#15の各テストピースに使用した4種類とした。ここで、トップコート用粉体塗料とアンダーコート用粉体塗料との組み合わせも上記各テストピースと同じである。最後に、コイルばねを180〜185℃にて25分間加熱して焼付けを行った。このように塗装した各コイルばねを、上記表1に対応させて、それぞれ#11、#13、#14、#15のコイルばねとした。なお、#11のコイルばねは本発明の比較例となる。
【0066】
ここで、#11のコイルばねのアンダーコート層の膜厚は約60μm、トップコート層の膜厚は400〜500μmであった。表面粗さは、軸方向ではRa0.4μm、Rzjis1.5μm、周方向ではRa0.7μm、Rzjis8μmであった。また、#13のコイルばねのアンダーコート層の膜厚は約70μm、トップコート層の膜厚は180〜200μmであった。表面粗さは、軸方向ではRa1.03μm、Rzjis8.70μm、周方向ではRa1.41μm、Rzjis12.30μmであった。また、#14のコイルばねのアンダーコート層の膜厚は50〜100μm、トップコート層の膜厚は400〜500μmであった。表面粗さは、軸方向ではRa0.8μm、Rzjis5.3μm、周方向ではRa1.5μm、Rzjis21μmであった。また、#15のコイルばねのアンダーコート層の膜厚は50〜100μm、トップコート層の膜厚は400〜500μmであった。表面粗さは、軸方向ではRa0.6μm、Rzjis5.7μm、周方向ではRa0.84μm、Rzjis7μmであった。
【0067】
塗装した各コイルばねについて、低温耐久性試験を行った。低温耐久性試験は、まず、低温耐チッピング試験を行い、その後、腐食試験と低温加振試験とを交互に繰り返して行った。低温耐チッピング試験には、グラベロ試験機を使用した。約−30℃に冷却されたコイルばねに対して数百gの小石を衝突させた。腐食試験は、各コイルばねに塩水(NaCl濃度5%)を噴霧した後、強制乾燥し、さらに同コイルばねを塩水(NaCl濃度5%)に浸漬した後、自然乾燥させた。この塩水噴霧→強制乾燥→塩水浸漬→自然乾燥のサイクルを合計5サイクル行った。低温加振試験では、加振装置にコイルばねを取り付け、−30℃下で加振した。この際、コイルばねのロアシート部が配置されるロアシート溝部には、塗装ダメージ用散布砂を散布しておいた。腐食試験と低温加振試験との繰り返し回数は100サイクルとした。
【0068】
低温耐久性試験の結果、柔軟剤を含まない粉体塗料で二層の塗膜を形成した#11のコイルばねでは、35サイクル経過後に錆の発生が確認された。これに対して、柔軟剤を含む粉体塗料(柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料)で塗膜を形成した#13、#14、#15のコイルばねについては、錆の発生はほとんどなく、折損しなかった。このように、塗膜に柔軟剤を含有させることで、低温下での耐チッピング性、耐食性が向上し、結果的にばねの耐久性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の高耐久性ばねは、自動車、鉄道車両等に有用であり、特に、自動車の懸架用ばねに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】溶融混練法で製造された粉体塗料の塗料構成の模式図である。
【図2】ドライブレンド法で製造された粉体塗料の塗料構成の模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1:粉体塗料 2:基体樹脂 3:柔軟剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された塗膜を有する高耐久性ばね。
【請求項2】
前記柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、ドライブレンド法で製造される請求項1に記載の高耐久性ばね。
【請求項3】
前記柔軟剤の含有割合は、前記柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料全体の重量を100wt%とした場合の5wt%以上15wt%以下である請求項1に記載の高耐久性ばね。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂 、ポリオレフィン樹脂から選ばれる一種以上である請求項1に記載の高耐久性ばね。
【請求項5】
最表面の粗さは、軸方向でRzjis5μm以上、周方向でRzjis10μm以上である請求項1に記載の高耐久性ばね。
【請求項6】
アンダーコート層と、該アンダーコート層の上に積層されたトップコート層と、からなる二層の塗膜を有する高耐久性ばねであって、
該二層の少なくとも一方は、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成された高耐久性ばね。
【請求項7】
前記アンダーコート層は、前記柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料から形成され、
該柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料は、さらに亜鉛を含む請求項6に記載の高耐久性ばね。
【請求項8】
前記亜鉛の含有割合は、前記柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料全体の重量を100wt%とした場合の75wt%以上である請求項7に記載の高耐久性ばね。
【請求項9】
前記トップコート層の厚さは200μm以上600μm以下である請求項6に記載の高耐久性ばね。
【請求項10】
前記アンダーコート層の下には、リン酸塩皮膜が形成されている請求項6に記載の高耐久性ばね。
【請求項11】
塗膜形成面に、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を付着させる塗装工程と、
付着した前記柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、
を含む高耐久性ばねの塗装方法。
【請求項12】
ばねの表面に、アンダーコート用粉体塗料を付着させるアンダーコート工程と、
前記アンダーコート用粉体塗料からなるアンダーコート膜の上に、トップコート用粉体塗料を付着させるトップコート工程と、
前記アンダーコート膜および付着した前記トップコート用粉体塗料を焼付ける焼付け工程と、を含み、
該アンダーコート用粉体塗料および該トップコート用粉体塗料のうち少なくとも一方は、エポキシ樹脂と、熱可塑性樹脂からなり塗膜の耐衝撃性を向上させる柔軟剤と、を含む柔軟剤含有エポキシ樹脂系粉体塗料である高耐久性ばねの塗装方法。
【請求項13】
前記アンダーコート工程の前に、前記ばねを70℃以上120℃以下に予熱する予熱工程を含む請求項12に記載の高耐久性ばねの塗装方法。
【請求項14】
前記トップコート工程を、前記予熱工程の余熱を利用して60℃以上80℃以下の温度で行う請求項13に記載の高耐久性ばねの塗装方法。
【請求項15】
前記アンダーコート工程の前に、前記ばねの素地表面に予めリン酸塩皮膜を形成する前処理工程を含む請求項12に記載の高耐久性ばねの塗装方法。
【請求項16】
前記アンダーコート工程と前記トップコート工程との間に、付着した前記アンダーコート用粉体塗料を焼き付けるアンダー焼付け工程を含む請求項12に記載の高耐久性ばねの塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−198490(P2007−198490A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17464(P2006−17464)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【出願人】(391056066)ロックペイント株式会社 (8)
【出願人】(503452627)中部塗料販売株式会社 (1)
【Fターム(参考)】