説明

高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチおよびその製造方法、高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体、並びに高耐熱性熱線遮蔽透明積層体

【課題】可視光線透過能及び熱線遮蔽機能を有する様々な形状の熱線遮蔽透明樹脂成形体について、可視光透過性が良好でかつ優れた熱線遮蔽機能を有し、さらには高耐熱性の透明樹脂成形体が得られる高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを提供する。
【解決手段】一般式MWOで示される六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であって、さらに、酸素含有雰囲気下において50℃以上400℃以下で酸化暴露処理された複合タングステン酸化物微粒子と、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリエステル樹脂から選択される1種以上の前記熱可塑性樹脂とを含み、熱線遮蔽透明樹脂成形体を製造するために用いられる高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根材や壁材、自動車、電車、航空機などの開口部に使用される窓材、アーケード、天井ドーム、カーポート等に広く利用される熱線遮蔽成形体の製造に用いられる高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチおよびその製造方法、当該マスターバッチを用いて製造された高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体、並びに高耐熱性熱線遮蔽透明積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種建築物や車両の窓、ドア等のいわゆる開口部分から入射する太陽光線には可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれている。この太陽光線に含まれている赤外線のうち波長800〜2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、開口部分から進入することにより室内の温度を上昇させる原因になる。これを解消するために、近年、各種建築物や車両の窓材等の分野では、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制する熱線遮蔽成形体の需要が急増しており、熱線遮蔽成形体に関し多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、透明樹脂フィルムに金属、金属酸化物を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス、アクリル板、ポリカーボネート板等の透明成形体に接着した熱線遮蔽板が提案されていた。しかし、この熱線反射フィルム自体が非常に高価である。その上、接着工程等の煩雑な工程を要するため高コストとなる。また、透明成形体と反射フィルムとの接着性が良好でないので、経時変化によりフィルムの剥離が生じるといった欠点を有している。
【0004】
透明成形体表面に、金属若しくは金属酸化物を直接蒸着してなる熱線遮蔽板も数多く提案されている。当該熱線遮蔽板の製造に際しては、高真空で精度の高い雰囲気制御を要する装置が必要となるため、量産性が悪く、汎用性に乏しいという問題を有している。
【0005】
この他、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性透明樹脂にフタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物に代表される有機近赤外線吸収剤を練り込んだ熱線遮蔽板およびフィルムが提案されている(特許文献1、2等参照)。
さらに、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に、熱線反射能を有する酸化チタンあるいは酸化チタンで被覆されたマイカ等の無機粒子を、熱線反射粒子として練り込んだ熱線遮蔽板も提案されている(特許文献3、4等参照)。
【0006】
一方、本出願人は、熱線遮蔽効果を有する成分として自由電子を多量に保有する六ホウ化物微粒子に着目し、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂中に、六ホウ化物微粒子が分散され、または、六ホウ化物微粒子とITO微粒子及び/又はATO微粒子とが分散されている熱線遮蔽樹脂シート材を開示している(特許文献5参照)。
【0007】
六ホウ化物微粒子単独、または、六ホウ化物微粒子と、ITO微粒子および/またはATO微粒子と、が分散された熱線遮蔽樹脂シート材の光学特性は、可視光領域に可視光透過率の極大を有すると共に、近赤外線領域に強い吸収を発現して日射透過率の極小を有する。この結果、可視光透過率が70%以上で日射透過率が50%台という光学特性を発揮する。
本出願人は、特許文献6において、熱可塑性樹脂と熱線遮蔽成分六ホウ化物(XB,但し、Xは、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、SrおよびCaから選択される少なくとも1種以上)とを主成分として含有するマスターバッチと、このマスターバッチが適用された熱線遮蔽透明樹脂成形体並びに熱線遮蔽透明積層体を開示した。そして、当該マスターバッチを適用することで、優れた可視光線透過能を維持しつつ高い熱線遮蔽機能を有する様々な形状の熱線遮蔽透明樹脂成形体を、高コストの物理成膜法などを用いることなく簡便な方法で作製することを開示した。
【0008】
さらに、本出願人は、特許文献7において、日射遮蔽機能を有する微粒子として、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.0<z/y<3.0)で表記されるタングステン酸化物の微粒子、および/または、一般式MxWyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子を適用することにより、高い日射遮蔽特性を有し、ヘイズ値が小さく、生産コストの安価な日射遮蔽用合わせ構造体を製造できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−256541号公報
【特許文献2】特開平6−264050号公報
【特許文献3】特開平2−173060号公報
【特許文献4】特開平5−78544号公報
【特許文献5】特開2003−327717号公報
【特許文献6】特開2004−59875号公報
【特許文献7】国際公開第WO2005/87680A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの検討によると、特許文献1、2に記載の熱線遮蔽板およびフィルムにおいては、熱線を十分に遮蔽するために多量の近赤外線吸収剤を配合しなければならない。しかし、近赤外線吸収剤を多量に配合すると、今度は可視光線透過能が低下してしまうという課題がある。さらに、近赤外線吸収剤として有機化合物を使用しているため、直射日光に常時曝される建築物や車両の窓材等への適用は耐侯性に難があり、必ずしも適当であるとはいえなかった。
【0011】
また特許文献3、4に記載の熱線遮蔽板においては、熱線遮蔽能を高めるために当該熱線反射粒子を多量に添加する必要があり、熱線反射粒子の配合量の増大に伴って可視光線透過能が低下したり、成形体である透明樹脂の物性、特に耐衝撃強度や靭性が低下するという課題があった。
一方、特許文献5乃至7に記載の熱線遮蔽シート材は、耐熱性に関し十分満足すべきものではなく、未だ改善の余地が残されていた。
【0012】
本発明は上述の問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、可視光線透過能及び熱線遮蔽機能を有する様々な形状の熱線遮蔽透明樹脂成形体について、可視光透過性が良好でかつ優れた熱線遮蔽機能を有し、さらには高耐熱性の透明樹脂成形体が得られる高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチおよびその製造方法を提供し、併せてこのマスターバッチを用いて製造された高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体、並びに高耐熱性熱線遮蔽透明積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意研究をおこなった結果、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が既に酸化物であるにも拘わらず、当該複合タングステン酸化物微粒子を、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理した熱線遮蔽材料微粒子が、耐熱性に優れていることを知見するに至り、かつ、当該熱線遮蔽材料微粒子が分散されてなるマスターバッチや熱線遮蔽透明樹脂成形体並びに熱線遮蔽透明積層体も耐熱性に優れていることを知見するに至った。本発明はこのような技術的知見に基づき完成されたものである。
【0014】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
一般式MWO(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示される六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であって、さらに、酸素含有雰囲気下において50℃以上400℃以下で酸化暴露処理された複合タングステン酸化物微粒子と、
アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリエステル樹脂から選択される1種以上の前記熱可塑性樹脂とを含み、
熱線遮蔽透明樹脂成形体を製造するために用いられることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチである。
第2の構成は、
前記酸化暴露処理を施して得られた複合タングステン酸化物微粒子が、分散粒子径800nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチである。
第3の構成は、
第1または第2の構成に記載の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチが、このマスターバッチの上記熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂成形材料若しくは相溶性を有する異種の熱可塑性樹脂成形材料により希釈され、かつ、所定の形状に成形されたものであることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体である。
第4の構成は、
第3の構成に記載の高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体が、他の透明成形体に積層されたものであることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽透明積層体である。
第5の構成は、
熱線遮蔽透明樹脂成形体を製造するために用いられる高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法であって、
一般式MyWOz(但し、0.1≦Y≦0.5、2.2≦Z≦3.0)で示され且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を酸素含有雰囲気下において、50℃以上400℃以下で酸化暴露処理する工程と、
当該酸化暴露処理された複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、溶媒に加え粉砕・分散処理を行い、微粒子分散液を得る工程と、
当該微粒子分散液を得る工程の後、溶媒を除去して、当該微粒子分散粉を得る工程と、
当該微粒子分散粉と熱可塑性樹脂ペレットとを混合し、熔融混練し、成形する工程とを、具備することを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法である。
第6の構成は、
前記酸素含有雰囲気の酸素濃度が、0.1体積%以上25体積%以下であることを特徴とする第5の構成に記載の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを熱可塑性樹脂成形材料により希釈・混練し、さらに、押出成形、射出成形、圧縮成形等公知の方法により、板状、フィルム状、球面状等の任意の形状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収を持ち、かつ高耐熱性の熱線遮蔽透明樹脂成形体並びに熱線遮蔽透明積層体の作製が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
本実施形態の熱線遮蔽透明樹脂成形体用の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチは、熱可塑性樹脂と、一般式MWO(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)とで示される六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子とを主成分としている。そして、前記熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種であると共に、上記複合タングステン酸化物微粒子表面が酸化暴露処理されていることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチである。
【0017】
以下、当該高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを構成する、複合タングステン酸化物微粒子、高耐熱性分散剤、熱可塑性樹脂について順に説明し、さらに、熱線遮蔽機能を有する微粒子の熱可塑性樹脂への分散方法、高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法、について説明し、最後に、熱線遮蔽透明樹脂成形体について説明する。
【0018】
1)複合タングステン酸化物微粒子
複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調はブルー系の色調となるものが多い。また、当該熱線遮蔽材料の粒子径は、その使用目的によって適宜選定することができる。
【0019】
まず、透明性を保持した応用に使用する場合には、複合タングステン酸化物微粒子は、800nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。800nmよりも小さい分散粒子径は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合には、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0020】
また、この粒子による散乱の低減を重視するときには、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。その理由は、分散粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による波長400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減されるからである。当該光の散乱が低減される結果、熱線遮蔽膜が曇りガラスのようになって鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。即ち、分散粒子の分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になるからである。当該レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し、透明性が向上するからである。さらに、分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0021】
上記複合酸化物微粒子は、一般式MWO(但し、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。ここで、M元素が、例えばCs、Rb、K、Tl、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種類以上を含むような複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。添加元素Mの添加量yは、0.1以上、0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33付近が好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるyの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。また、zの範囲については、2.2≦z≦3.0が好ましい。
【0022】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、上述の構成を有する複合タングステン酸化物微粒子が既に酸化物であるにも拘わらず、当該複合タングステン酸化物微粒子を、酸素含有雰囲気下で暴露による酸化処理して得られたものである。
当該暴露による酸化処理により、最終製品である高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体や積層体の耐熱性が向上する正確な機構は未だ不明である。しかし、本発明者らは、当該暴露による酸化処理により、上述の構成を有する複合タングステン酸化物微粒子の表面に、さらに、新たな酸化膜が形成され当該酸化膜が外部酸素のバリアー層となる結果、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の耐熱性が向上し、最終製品である高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体や積層体の耐熱性が向上したものと考えている。
【0023】
2)複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
本発明に係る一般式MWO(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表される複合タングステン酸化物微粒子の製造方法について説明する。
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン酸(H2WO4)とM元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、または、三酸化タングステン微粒子とM元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、または、タングステン酸(H2WO4)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、M元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、または、タングステン酸(H2WO4)および/または三酸化タングステン微粒子と、M元素の金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液のうちから選択される1種以上とを混合して乾燥した乾燥粉を、不活性ガスまたは不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成することにより、一般式MyWOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表される複合タングステン酸化物粒子を生成させた後、湿式粉砕して得た複合タングステン酸化物微粒子である。そして当該式粉砕して得た複合タングステン酸化物微粒子へ、再び、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理を行なって、本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用複合タングステン酸化物微粒子を得る。
【0024】
原料として用いるタングステン酸(H2WO4)は、焼成によって酸化物となるものであれば特に制限は無い。また、原料として用いる三酸化タングステンは、前記タングステン酸(H2WO4)を焼成して三酸化タングステン微粒子としたものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。ここで、製造される熱線遮蔽用複合タングステン酸化物微粒子の光学的特性の観点からは、原料として用いるタングステン酸(H2WO4)の焼成によって得られる酸化物を用いることが好ましいが、コスト、生産性の観点からは市販品等の三酸化タングステン微粒子を用いることもでき、同様の観点より、両者の混合物を使用しても良い。
【0025】
前記タングステン酸(H2WO4)を焼成して三酸化タングステン微粒子として用いる場合、焼成時の処理温度は、望まれる三酸化タングステン微粒子の性状および光学特性の観点から200℃以上が好ましい。一方、焼成時の処理温度が1000℃を越えると焼成の効果が飽和し、また、1000℃以下であれば光学特性の低下原因となる粒成長を回避できることから1000℃以下が好ましい。焼成時の処理時間は処理温度に応じて適宜選択すればよいが、10分間以上5時間以下でよい。
【0026】
添加するときの原料の種類は、酸化物または/および水酸化物が好ましい。このM元素の酸化物、水酸化物とタングステン酸(H2WO4)または/および三酸化タングステン微粒子とを混合する。混合工程は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェカー等で行えばよい。
【0027】
また、タングステン酸(H2WO4)または/および三酸化タングステン微粒子と、前記M元素の金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液のうちから選択される1種以上とを、混合して乾燥した乾燥粉を製造する場合、前記M元素と塩を形成するための相手方のイオンは特に限定されるものでなく、例えば硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオンなどが挙げられる。乾燥温度や時間は特に限定されるものでない。
【0028】
次に、上記混合物または乾燥粉は、酸素空孔を生成させるために、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する。この焼成の際の雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスと、水素、アルコール、アンモニアなどの還元性ガスとの混合ガスを用いることができる。前記のように、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する場合、不活性ガス中の還元性ガスの濃度は焼成温度に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されないが、例えば20vol%以下、好ましくは10vol%以下、より好ましくは7vol%以下である。還元性ガスの濃度が20vol%以下であれば、急速な還元による熱線遮蔽機能を有しないWO2の生成を回避できるからである。
【0029】
焼成の際の処理温度は、還元性ガス濃度に応じて適宜選択すればよいが、当該還元ガスの存在によりWO2が生成することのない温度を適宜選択すればよい。
また、上述したように当該焼成を1ステップの処理温度下で実施してもよいが、焼成途中で雰囲気や焼成温度を変化させる複数ステップとしてもよい。例えば、第1ステップにおいて、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下、100℃以上650℃以下で焼成し、第2ステップにおいて不活性ガス雰囲気下、650℃を超え1200℃以下で焼成することで、熱線遮蔽特性に優れた熱線遮蔽微粒子を得ることができ好ましい構成である。
【0030】
これらの焼成の処理時間は温度に応じて適宜選択すればよいが、5分間以上5時間以下でよい。このようにして得た複合タングステン酸化物粒子を、適宜な溶媒とともに、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどとともに湿式粉砕して複合タングステン酸化物粒子をより微粒子化する。
【0031】
次に、前記湿式粉砕された複合タングステン酸化物微粒子を回収し耐熱性機能を付与するために、当該複合タングステン酸化物微粒子を酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理する。尤も、当該酸素含有雰囲気の酸素濃度は、高過ぎると微粒子表面が過度に酸化されて酸化膜が厚膜化する。微粒子表面の酸化膜が過度に厚膜化すると、後工程においてフィラー使用量の増加を招きコストアップとなる。
一方、当該酸素含有雰囲気の酸素濃度が低過ぎると、微粒子表面の酸化膜が過度に薄くなり耐熱に対する効果が低くなる。
以上のことから、当該酸素含有雰囲気の酸素濃度は、0.1vol%以上25vol%以下が好ましい。従って、大気中(酸素濃度 約21体積%)で当該酸化暴露処理を行なっても、本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
処理温度は、酸素濃度に応じて適宜選択すればよいが、耐熱効果の観点から20℃以上400℃以下が好ましい。酸化暴露処理時間は、処理温度に応じて適宜選択すればよいが、具体的には、例えば、処理温度が50℃以上100℃未満であれば、処理時間は10時間以上72時間以下、100℃以上400℃以下であれば1時間以上72時間以下が好ましい。得られた複合タングステン酸化物微粒子は、十分な耐熱機能を発揮する。
【0032】
3)高耐熱性分散剤
従来、塗料用として一般的に使用されている分散剤は、様々な酸化物微粒子を有機溶剤中に均一に分散する目的で使用されている。しかし本発明者らの検討によれば、これらの分散剤は、200℃以上の高温で使用されることを想定されて設計されていない。具体的には、本実施形態において、熱線遮蔽微粒子と熱可塑性樹脂とを溶融混練する際に、耐熱性の低い分散剤を使用すると、当該分散剤中の官能基が熱により分解され、分散能が低下すると伴に黄〜茶色に変色する等の不具合を起こしていたのである。
【0033】
これに対し、本実施形態においては、高耐熱性分散剤として、TG−DTAで測定される熱分解温度が230℃以上、好ましくは250℃以上あるものを用いることとしている。当該高耐熱性分散剤の具体的な構造例としては、主鎖としてアクリル主鎖、官能基として水酸基またはエポキシ基とを有する分散剤がある。当該構造を有する分散剤は、耐熱性が高く好ましい。
【0034】
そして、分散剤の熱分解温度が230℃以上であれば、成形時に当該分散剤が熱分解することなく分散能を維持すると伴に、それ自体が黄〜茶色に変色することもない。この結果、製造される成形体において、熱線遮蔽微粒子が十分に分散される結果、可視光透過率が良好に確保されて本来の光学特性を得ることができると伴に、成形体が黄色に着色することもない。
具体的には、ポリカーボネートの一般的な混練設定温度(290℃)で上記本発明の分散剤とポリカーボネート樹脂とを混練する試験を行った場合、混練物はポリカーボネートのみを混練した場合とまったく同じ外観を呈し、無色透明で全く着色しないことが確認された。一方、例えば、後述する比較例1で説明する耐熱性の低い分散剤を用いて同様の試験を行った場合、混練物は茶色に着色してしまうことが確認された。
【0035】
上述したように、本実施形態に使用される高耐熱性分散剤はアクリル主鎖を有するが、同時に、水酸基またはエポキシ基を官能基として有する分散剤が好ましい。これらの官能基は,複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着して、これらの複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、成形体中で複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散させる効果を持つからである。
具体的には、エポキシ基を官能基として有するアクリル系分散剤、水酸基を官能基として有するアクリル系分散剤が好ましい例として挙げられる。このような分散剤は、市販の分散剤製品に対し、上述したTG−DTA測定を行い、適宜なものを選択すれば良い。
【0036】
特に、熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂など、溶融混練温度が高い樹脂を使用する場合には、熱分解温度が250℃以上であるアクリル主鎖と水酸基またはエポキシ基とを有する高耐熱性分散剤を使用することの効果が顕著に発揮される。
【0037】
上記高耐熱性分散剤と複合タングステン酸化物微粒子との重量比は、10≧[高耐熱性分散剤の重量/複合タングステン酸化物微粒子の重量]≧0.5の範囲であることが好ましい。当該重量比が0.5以上あれば、複合タングステン酸化物微粒子を十分に分散することが出来るので、微粒子同士の凝集が発生せず、十分な光学特性が得られるからである。また、当該重量比が10以下あれば、熱線遮蔽透明樹脂成形体自体の機械特性(曲げ強度、表面高度)が損なわれることがない。
【0038】
4)熱可塑性樹脂
次に、本実施形態に使用される熱可塑性樹脂としては、可視光領域の光線透過率が高い透明な熱可塑性樹脂であれば特に制限はない。例えば、3mm厚の板状成形体としたときのJIS R 3106記載の可視光透過率が50%以上で、JISK7105記載のヘイズが30%以下のものが好ましいものとして挙げられる。
具体的には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂およびポリオレフィン樹脂を挙げることができる。熱線遮蔽透明樹脂成形体を各種建築物や車両の窓材等に適用することを目的とした場合、透明性、耐衝撃性、耐侯性などを考慮すると、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素系樹脂がより好ましい。
【0039】
アクリル樹脂としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートを主原料とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として用いた重合体または共重合体が挙げられる。さらには、多段で重合したアクリル樹脂を用いることもできる。
【0040】
また、ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネートとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンに代表される二価のフェノール系化合物の一種以上と、ホスゲンまたはジフェニルカーボネート等で代表されるカーボネート前駆体とから、界面重合、溶融重合または固相重合等の公知の方法によって得られる重合体が挙げられる。
【0041】
また、フッ素系樹脂としては、ポリフッ化エチレン、ポリ2フッ化エチレン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−2フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体などが挙げられる。
【0042】
5)熱線遮蔽機能を有する微粒子の熱可塑性樹脂への分散方法
熱線遮蔽機能を有する微粒子である複合タングステン酸化物微粒子の熱可塑性樹脂への分散方法は、微粒子が均一に樹脂に分散できる方法であれば任意に選択できる。例としては、まず、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用い、上記複合タングステン酸化物微粒子を任意の溶剤に分散した分散液を調製する。次に、当該分散液と、分散剤と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、および、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して、当該分散液から溶剤を除去しながら均一に溶融混合して、熱可塑性樹脂に複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散した混合物を調製することができる。混錬時の温度は、使用する熱可塑性樹脂が分解しない温度に維持される。
【0043】
また、他の方法として、熱線遮蔽機能を有する複合タングステン酸化物微粒子の分散液に高耐熱性分散剤を添加し、溶剤を公知の方法で除去し、得られた粉末と熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に溶融混合して、熱可塑性樹脂に複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散した混合物を調整することもできる。
その他、分散処理をしていない複合タングステン酸化物微粒子の粉末と分散剤とを熱可塑性樹脂に直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。
分散方法は、熱可塑性樹脂中に複合タングステン酸化物微粒子が均一に分散されていればよく、これらの方法に限定されない。
【0044】
6)高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法
複合タングステン酸化物微粒子が均一に分散された熱可塑性樹脂を、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することにより、本実施形態に係る高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを得ることができる。
上記高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチのペレットは、最も一般的な溶融押出されたストランドをカットする方法により得ることができる。従って、その形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。当該ホットカット法を採る場合には、球状に近い形状をとることが一般的である。
【0045】
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチは、いずれの形態または形状を採り得るものである。尤も、熱線遮蔽透明樹脂成形体を成形するときに、当該高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの希釈に使用される熱可塑性樹脂成形材料と同一の形態および形状を有していることが好ましい。
【0046】
更に、本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチへ、さらに、一般的な添加剤を配合することも可能である。例えば、必要に応じて任意の色調を与えるため、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系染料、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料、顔料の、有効発現量を配合してもよい。また、ヒンダードフェノール系、リン系等の安定剤、離型剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等の有効発現量を配合してもよい。
【0047】
7)高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体は、上記高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを、当該マスターバッチの熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂成形材料、あるいは当該マスターバッチの熱可塑性樹脂と相溶性を有する異種の熱可塑性樹脂成形材料で希釈・混練し、所定の形状に成形することによって得られる。
【0048】
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体は、高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを用いて製造されていることから、成形時の熱劣化が非常に少ない。このため、複合タングステン酸化物微粒子である熱線遮蔽微粒子が、透明樹脂成形体中に、十分に分散される結果、可視光透過率が良好に確保される。
上記高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体の形状は、必要に応じて任意の形状に成形可能であり、平面状および曲面状に成形することが可能である。また、高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体の厚さは、板状からフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整することが可能である。さらに平面状に形成した樹脂シートは、後加工によって球面状等の任意の形状に成形することができる。
【0049】
上記高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形または回転成形等の任意の方法を挙げることができる。特に、射出成形により成形品を得る方法と、押出成形により成形品を得る方法が好適に採用される。押出成形により板状、フィルム状の成形品を得る方法として、Tダイなどの押出機を用いて押出した溶融熱可塑性樹脂を冷却ロールで冷却しながら引き取る方法により製造される。上記射出成形品は、自動車の窓ガラスやルーフ等の車体に好適に使用され、押出成形により得られた板状、フィルム状の成形品は、アーケードやカーポート等の建造物に好適に使用される。
【0050】
上記高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体は、それ自体のみを、窓ガラス、アーケード等の構造材に使用することができるほか、無機ガラス、樹脂ガラス、樹脂フィルムなどの他の透明成形体に任意の方法で積層し、一体化した高耐熱性熱線遮蔽透明積層体として、構造材に使用することもできる。例えば、予めフィルム状に成形した高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体を無機ガラスに熱ラミネート法により積層一体化することで、熱線遮蔽機能、飛散防止機能を有する高耐熱性熱線遮蔽透明積層体を得ることができる。
【0051】
また、熱ラミネート法、共押出法、プレス成形法、射出成形法等により、高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体の成形と同時に他の透明成形体に積層一体化することで、高耐熱性熱線遮蔽透明積層体を得ることも可能である。上記高耐熱性熱線遮蔽透明積層体は、相互の成形体の持つ利点を有効に発揮させつつ、相互の欠点を補完することで、より有用な構造材として使用することができる。
【0052】
以上、詳細に述べたように熱線遮蔽成分として複合タングステン酸化物微粒子を、分散剤を用いて熱可塑性樹脂に均一に分散させた本実施形態の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを用いることにより、高コストの物理成膜法や複雑な工程を用いることなく熱線遮蔽機能を有しかつ可視光域に高い透過性能を有し、さらには耐熱性の高い熱線遮蔽透明樹脂成形体並びに熱線遮蔽透明積層体を提供することが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例を参照しながら具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
各実施例において、熱線遮蔽透明樹脂成形体の可視光透過率並びに熱線透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。この熱線透過率は、熱線遮蔽性能を示す指標である。また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
【0054】
[実施例1]
タングステン酸(H2WO4)34.57kgへ、炭酸セシウム7.43kgを水6.70kgに溶解した水溶液を添加して混合した後、100℃で攪拌しながら水分を除去して乾燥粉を得た。次に、当該乾燥粉を、N2ガスをキャリアとした5%H2ガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間加熱処理することによってCs0.33WO粒子(a)を得た。
次に、当該Cs0.33WO粒子(a)5重量%、高耐熱性分散剤(S)5重量%、トルエン90重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで6時間粉砕・分散処理することによって複合タングステン酸化物微粒子分散液(A液)を調製した。そして、当該(A液)へ、さらに高耐熱性分散剤(b)を添加して、高耐熱性分散剤(S):複合タングステン酸化物微粒子=3:1(重量比)の割合とした。
(A液)を真空擂潰機に装填し、真空擂潰しながらトルエンを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散粉(A粉)を得た。
得られた(A粉)を、Nガスをキャリアとした5体積%Oガスの流通下において、100℃の温度で24時間酸化暴露処理して、実施例1に係る酸化暴露処理粉(処理A粉)を得た。
得られた(処理A粉)と、熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂ペレットとを、Cs0.33WO濃度が2.0重量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した。
当該混合物を二軸押出機で290℃で熔融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、熱線遮蔽透明樹脂成形体用の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチ(マスターバッチA)を得た。
得られた(マスターバッチA)を、ポリカーボネート樹脂ペレット(直径2.5mm、長さ3mm)で希釈し、Cs0.33WO濃度を0.03重量%とした。当該マスターバッチAのポリカーボネート樹脂希釈物をタンブラーで均一に混合した後、Tダイを用いて厚さ1mm、2mmおよび3mmに押出成形し、複合タングステン酸化物微粒子が樹脂全体に均一に分散した実施例1に係る各熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体A)を得た。
実施例1に係る(成形体A)の光学特性を測定し、3点プロットより可視光透過率75%のときの熱線透過率とヘイズ値を求めた。
【0055】
表1に示すように、(成形体A)の熱線透過率は38.7%で、ヘイズ値は1.1%であった。
次に、(成形体A)の耐熱性を調べるために以下のような加速試験を行った。
(成形体A)を120℃の温度下に72時間暴露し、当該暴露前後の可視光透過率の変化率(ΔVLTと記す)を調べた。その結果、168時間後における(ΔVLT)は0.95%であり、酸素含有雰囲気下で焼成処理しない場合(下記の比較例1参照)と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0056】
[実施例2]
実施例1において得られた(A粉)を大気雰囲気下で加熱し、100℃の温度で1時間酸化暴露処理して、実施例2に係る酸化暴露処理粉(処理B粉)を得た。
以降、(処理A粉)を(処理B粉)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体B)を得た。
【0057】
表1に示すように、(成形体B)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は38.8%で、ヘイズ値は0.9%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は1.30%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0058】
[実施例3]
熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体C)を得た。
【0059】
表1に示すように、(成形体C)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は39.3%で、ヘイズ値は2.1%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は0.98%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0060】
[実施例4]
熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体D)を得た。
【0061】
表1に示すように、(成形体D)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は38.6%で、ヘイズ値は0.55%であった。
また、120℃の温度下に72時間暴露後の(ΔVLT)は0.95%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0062】
[実施例5]
熱可塑性樹脂としてエチレン−4フッ化エチレン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体E)を得た。
【0063】
表1に示すように、(成形体E)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は39.5%で、ヘイズ値は22.7%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は0.98%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
尚、ヘイズ値が22.7%と高い値を示したが、これはエチレン−4フッ化エチレン樹脂自体が濁っているためヘイズが高くなったものである。
【0064】
[実施例6]
熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体F)を得た。
【0065】
表1に示すように、(成形体F)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は40.1%で、ヘイズ値は12.8%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は0.99%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
尚、ヘイズ値が12.8%と高い値を示したが、これはポリエチレン樹脂自体が濁っているためヘイズが高くなったものである。
【0066】
[実施例7]
炭酸セシウムを炭酸ルビジウムへ代替し、タングステン酸(HWO)と炭酸ルビジウムの水溶液とを、Rb/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてRb0.33WO微粒子(b)を得た。
以降、微粒子(a)を微粒子(b)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例7に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体G)を得た。
【0067】
表1に示すように、(成形体G)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は46.5%で、ヘイズ値は1.1%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は1.14%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0068】
[実施例8]
炭酸セシウムを硝酸インジウムへ代替し、タングステン酸(HWO)と硝酸インジウム水溶液とを、In/W=0.3(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてIn0.3WO微粒子(c)を得た。
以降、微粒子(a)を微粒子(c)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例8に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体H)を得た。
【0069】
表1に示すように、(成形体H)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は50.7%で、ヘイズ値は1.0%であった。
また、120℃の温度下に168時間酸化暴露後の(ΔVLT)は1.24%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0070】
[実施例9]
炭酸セシウムを蟻酸タリウムへ代替し、タングステン酸(HWO)と蟻酸タリウム水溶液とを、Tl/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてTl0.33WO微粒子(d)を得た。
以降、微粒子(a)を微粒子(d)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例9に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体I)を得た。
【0071】
表1に示すように、(成形体I)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は44.3%で、ヘイズ値は1.1%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は1.09%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0072】
[実施例10]
炭酸セシウムを塩化カリウムへ代替し、タングステン酸(HWO)と塩化カリウム水溶液とを、K/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてK0.33WO微粒子(e)を得た。
以降、微粒子(a)を微粒子(e)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例10に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体J)を得た。
【0073】
表1に示すように、(成形体J)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は47.4%で、ヘイズ値は1.1%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は1.16%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0074】
[実施例11]
炭酸セシウムを水酸化バリウム八水和物へ代替し、タングステン酸(HWO)と水酸化バリウム水溶液とを、Ba/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてBa0.33WO微粒子(f)を得た。
以降、微粒子(a)を微粒子(f)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例10に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体K)を得た。
【0075】
表1に示すように、(成形体K)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は53.5%で、ヘイズ値は1.1%であった。
また、120℃の温度下に168時間暴露後の(ΔVLT)は1.31%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0076】
[実施例12]
実施例1において得られた(A粉)を、酸素5体積%窒素95体積%の混合ガス雰囲気下において加熱し、200℃の温度で24時間酸化暴露処理して、実施例12に係る酸化暴露処理粉(処理C粉)を得た。
以降、(処理A粉)を(処理C粉)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例12に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体L)を得た。
【0077】
表1に示すように、(成形体L)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は38.5%で、ヘイズ値は1.1%であった。
また、120℃の温度下に72時間暴露後の(ΔVLT)は0.27%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0078】
[実施例13]
実施例1において得られた(A粉)を、酸素1体積%窒素99体積%の混合ガス雰囲気下において加熱し、100℃の温度で24時間酸化暴露処理して、実施例13に係る酸化暴露処理粉(処理D粉)を得た。
以降、(処理A粉)を(処理D粉)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例13に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体M)を得た。
【0079】
表1に示すように、(成形体M)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は38.6%で、ヘイズ値は1.0%であった。
また、120℃の温度下に72時間暴露後の(ΔVLT)は1.15%であり、酸素含有雰囲気下で処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0080】
[比較例1]
実施例1において得られた(A粉)を酸化暴露処理することなく、(処理A粉)を(A粉)に代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1に係る熱線遮蔽透明樹脂成形体(成形体N)を得た。
【0081】
表1に示すように、(成形体N)の可視光透過率75%のときの熱線透過率は38.8%で、ヘイズ値は1.0%であった。
また、120℃の温度下に72時間暴露後の(ΔVLT)は1.46%であり、上記実施例1〜13と比べて耐熱性が劣ることが確認された。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MWO(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示される六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であって、さらに、酸素含有雰囲気下において50℃以上400℃以下で酸化暴露処理された複合タングステン酸化物微粒子と、
アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリエステル樹脂から選択される1種以上の前記熱可塑性樹脂とを含み、
熱線遮蔽透明樹脂成形体を製造するために用いられることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチ。
【請求項2】
前記酸化暴露処理を施して得られた複合タングステン酸化物微粒子が、分散粒子径800nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチ。
【請求項3】
請求項1または2記載の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチが、このマスターバッチの上記熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂成形材料若しくは相溶性を有する異種の熱可塑性樹脂成形材料により希釈され、かつ、所定の形状に成形されたものであることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体。
【請求項4】
請求項3記載の高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体が、他の透明成形体に積層されたものであることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽透明積層体。
【請求項5】
熱線遮蔽透明樹脂成形体を製造するために用いられる高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法であって、
一般式MyWOz(但し、0.1≦Y≦0.5、2.2≦Z≦3.0)で示され且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を酸素含有雰囲気下において、50℃以上400℃以下で酸化暴露処理する工程と、
当該酸化暴露処理された複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、溶媒に加え粉砕・分散処理を行い、微粒子分散液を得る工程と、
当該微粒子分散液を得る工程の後、溶媒を除去して、当該微粒子分散粉を得る工程と、
当該微粒子分散粉と熱可塑性樹脂ペレットとを混合し、熔融混練し、成形する工程とを、具備することを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法。
【請求項6】
前記酸素含有雰囲気の酸素濃度が、0.1体積%以上25体積%以下であることを特徴とする請求項5に記載の高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチの製造方法。

【公開番号】特開2012−82326(P2012−82326A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229976(P2010−229976)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】