説明

高膨張結晶性ガラス組成物

【課題】 封着に適した流動性と、熱処理後に高い熱膨張係数を示すと共に、長期間に亘って高温に晒されても、接着箇所の気密性や接着性の低下や、ガラス成分の揮発による燃料電池の発電特性の劣化が起こり難く、安定した耐熱性を有する材料を提供することである。
【解決手段】 本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、モル%で、SiO 30超〜50%未満、MgO 10〜50%、BaO 5〜40%、CaO 0〜20%、SrO 0〜10%、B 0〜15%、ZnO 0〜15%、Al 0〜6%、ZrO 0〜3%、SnO 0〜3%からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高膨張結晶性ガラス組成物に関し、より具体的にはSUSやFeといった金属や、フェライトやジルコニアといった高膨張セラミックスを接着する目的で用いられる高膨張結晶性ガラス組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池(Fuel Cell)はエネルギー効率が高く、COの排出を大きく削減できる有力な技術として注目されてきている。燃料電池のタイプは電解質に何を使うかで異なるが、工業用途で用いられるものに、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)、固体高分子型(PEFC)の4種類がある。中でも固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電池の内部抵抗も小さいので燃料電池の中では最も発電効率が高く、触媒に貴金属を使用する必要がないため、製造コストが抑えられるといった特徴を有しており、家庭用などの小規模用途から、発電所などの大規模用途まで幅広く適用可能なシステムであり、その将来性に期待が高まってきている。
【0003】
一般的な平板型SOFCの構造を図1に示す。図1に示すように、一般的な平板型SOFCは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等のセラミック材料からなる電解質1、Ni/YSZ等からなるアノード2、及び(La、Ca)CrO等からなるカソード3が積層一体化されたセルを有している。さらに燃料ガスの通り道(燃料チャネル4a)が形成され、アノードと接する第一の支持体基板4と、空気の通り道(空気チャネル5a)が形成され、カソードと接する第二の支持体基板5とがセルの上下に固着されている。なお第一の支持体基板4及び第二の支持体基板5は、ガスの通り道が互いに直交するようにセルに固着される。また支持体基板4、5はSUS等の金属で構成されている。
【0004】
上記構造を有する平板型SOFCは、第一の支持体基板4の燃料チャネル4aに水素(H)や、都市ガス、天然ガス、バイオガス、液体燃料といった様々なガスを流し、同時に第二の支持体基板5の空気チャネル5aに空気、又は酸素(O)を流す。このときカソードでは
1/2O+2e → O2−
の反応が生じ、アノードでは
+O− → HO + 2e
の反応が起こる。この電気化学的によって、化学エネルギーが直接電気エネルギーに変換されて発電することができる。なお高出力を得るために、実際の平板型SOFCは、図1の構造を何層も積層している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009−017173号公報
【特許文献2】特開2006−56769号公報
【特許文献3】特開2004−43297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記構造体を作製するに当たっては、支持体基板同士の気密シールや、固体電解質と支持体基板の接着、もしくは固体電解質同士の気密シールが必要になる。SOFCの場合、アノード側とカソード側に流すガスが交じり合わないように各構成部材を気密シールする必要がある。
【0007】
その目的で、マイカやバーミキュライト、アルミナといった無機質からなるシート形状のガスケットを挟み込んで気密シールする方法が提案されているが、圧着されているだけで接着していないことから微量のガスリークが発生しており燃料使用効率の低下が問題となっている。そのため、ガラス材料での融解接着が検討されている。
【0008】
ところで、ガラス材料からなる接着材料の場合、金属やセラミックといった高膨張材料同士の接着となることから、これらに適合する熱膨張係数を有する必要がある。また、SOFCは電気化学反応が生じる温度域(作動温度域)が600〜800℃と高温であり、しかも、この温度で長期間に亘って運転される。よってガラス材料には、長期間高温に晒されても、接着箇所の融解による気密性や接着性の低下や、ガラス成分の揮発による燃料電池の発電特性の劣化が起こらないように高い耐熱性が求められる。また、さらに、金属やセラミックといった高膨張材料同士の接着であるため、緩やかな昇温レートでのガラスの流動性、封着性も求められる。
【0009】
高膨張のガラス材料としては、特許文献1で示されるように、熱処理するとCaO−MgO−SiO系結晶が析出して、高い膨張係数を有するSiO−CaO−MgO系結晶性ガラス組成物が開示されている。
【0010】
また、特許文献2では、シール後の緻密性が良好で安定したガスシール特性が得られるSiO−B−SrO系非晶質ガラス組成物も開示されている。
【0011】
さらに、特許文献3では、熱処理するとMgO系結晶が析出して、高い膨張係数を有するMgOを多く含有する結晶性ガラス組成物が開示されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1で開示されているような結晶性ガラス組成物は、ガラスの高温粘性が高いため、高温で長時間に亘ってシールしなければ、緻密な結晶体が得られず、安定したシール性を得難いという問題がある。また、特許文献2で開示されているような非晶質ガラス組成物は、熱処理をしても結晶が析出せず、また、ガラス転移点が600℃付近であるため、600〜800℃の作業環境下では、接着箇所が融解し、接着箇所の気密性や接着性が低下しやすいという問題がある。さらに、特許文献3で開示されているような結晶性ガラス組成物は、長期間高温に晒されると、ガラス成分が揮発しやすく、ガラスからの揮発成分により、燃料電池の発電特性が劣化する虞があった。
【0013】
本発明の目的は、封着に適した流動性と、熱処理後に高い熱膨張係数を示すと共に、長期間に亘って高温に晒されても、接着箇所の気密性や接着性の低下や、ガラス成分の揮発による燃料電池の発電特性の劣化が起こり難く、安定した耐熱性を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は種々の実験を行った結果、MgO及びBaOを含有させ、これら成分の含有量を厳しく制限することにより、封着時には封着に適した流動性を有し、熱処理すると、結晶が析出し、高い熱膨張係数を示すと共に、高い耐熱性を有することを見いだし、本発明として提案するものである。
【0015】
即ち、本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、モル%で、SiO 30超〜50%未満、MgO 10〜45%、BaO 5〜40%、CaO 0〜20%、SrO 0〜10%、B 0〜15%、ZnO 0〜15%、Al 0〜6%、ZrO 0〜3%、SnO 0〜3%からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、封着に適した流動性と、熱処理後に高い熱膨張係数を示すと共に、長期間に亘って高温下に晒されても、結晶が析出し、ガラス成分が揮発し難くなり、高い耐熱性を得ることができる。それ故、高膨張材料の接着や被覆、特にSOFC等の燃料電池に用いられる接着材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】SOFCの基本構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、熱処理すると、結晶を析出させる成分であるMgOを10モル%以上、BaOを5モル%以上含有させている。そのため、長期間に亘って高温下で使用しても、接着箇所が融解し難くなり、接着箇所の気密性や接着性の低下を抑えることができる。
【0019】
また、本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、熱処理すると、2MgO・SiO、BaO・2MgO・2SiO、2MgO・Bといった高い熱膨張係数を示すMgO系結晶が析出しやすくなる。そのため、金属やセラミックといった高膨張材料同士の接着または被覆の用途に用いることができる。
【0020】
さらに、本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、ガラスの流動性を向上させるものの、高温下の使用で揮発しやすいBを含有させても、熱処理すると、2MgO・B結晶が析出するため、Bの揮発が起こり難くなり、安定した発電特性と高い耐熱性を得ることができる。
【0021】
尚、本発明において、「結晶性」とは、熱処理するとガラスマトリックス中から結晶を析出する性質を意味する。
【0022】
また、「熱処理する」とは、800℃以上の温度で10分間以上の条件で熱処理することを意味する。
【0023】
本発明の高膨張結晶性ガラス組成物において、ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に示す。
【0024】
SiOはガラス化範囲を広げてガラス化しやすくすると共に、ガラスの耐水性や耐熱性を向上させる成分であり、その含有量は30超〜50%未満である。SiOの含有量が少なすぎると、ガラス化範囲が狭くなりすぎて、ガラス化し難くなる。一方、SiOの含有量が多くなりすぎると、熱処理しても結晶が析出し難くなる。また、ガラスの溶融が難しくなる。SiOの好ましい範囲は31〜49%であり、より好ましい範囲は31〜45%である。
【0025】
MgOは熱処理することで結晶を析出させるための成分であり、その含有量は10〜45%である。MgOの含有量が少なすぎると、熱処理しても、ガラス組成物の結晶化が十分に進まず、耐熱性が低下しやすくなる。一方、MgOの含有量が多くなりすぎると、ガラス化範囲が狭くなる傾向にあり、均質なガラスが得難くなる。MgOの好ましい範囲は10〜44%であり、より好ましい範囲は15〜43%である。
【0026】
BaOはガラス化範囲を広げて、溶融中や封着時における失透を抑え、封着に適した流動性を得るための成分であり、その含有量は5〜40%である。BaOの含有量が少なすぎると、溶融中や封着時に失透しやすくなり、封着に適した流動性が得難くなる。一方、BaOの含有量が多くなりすぎると、結晶性が低下し、十分な結晶の析出が得られず、耐熱性が低下しやすくなる。BaOの好ましい範囲は6〜38%であり、より好ましい範囲は8〜35%である。
【0027】
CaOは熱膨張係数を高めるための成分であり、その含有量は0〜20%である。CaOの含有量が多くなりすぎると、相対的に、SiO、MgO、BaOの含有量が少なくなるため、所望の特性が得難くなる。CaOの好ましい範囲は0〜18%であり、より好ましい範囲は0〜16%である。
【0028】
SrOは熱膨張係数を高めるための成分であり、その含有量は0〜10%である。SrOの含有量が多くなりすぎると、SrO・SiOの結晶が析出しやすくなり、高膨張の結晶性ガラスが得難くなる。SrOの好ましい範囲は0〜5%であり、より好ましい範囲は0〜4%である。
【0029】
はガラスの流動性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜15%である。Bの含有量が多くなりすぎると、2MgO・B結晶が析出し難くなり、結晶化されなかったBにより、耐水性や耐熱性が低下したり、高温下の使用でBが揮発し、発電特性が劣化しやすくなる。Bの好ましい範囲は0〜13%であり、より好ましい範囲は0〜11%である。
【0030】
尚、Bを含有させる場合は、MgO/Bをモル比で2.0以上となるようにすることが好ましい。このようにすることで、長期間に亘る高温下での使用で、2MgO・B結晶を析出し、Bの揮発が抑えられ安定した発電特性と高い耐熱性が得やすくなる。MgO/Bのより好ましい範囲は2.1以上であり、さらに好ましい範囲は2.3以上である。
【0031】
ZnOはガラス化範囲を広げてガラス化しやすくすると共に、ガラスの軟化点を低下させて低温での接着を可能にするための成分であり、その含有量は0〜15%である。ZnOの含有量が多くなりすぎると、耐熱性が低下しやすくなる。ZnOの好ましい範囲は0〜13%であり、より好ましい範囲は0〜11%である。
【0032】
Alはガラスの粘性を調整するための成分であり、その含有量は0〜6%である。Alの含有量が多くなりすぎると、5SiO・2Al・2MgOの結晶が析出しやすくなり、高膨張の結晶性ガラスが得難くなる。Alの好ましい範囲は0〜5.5%であり、より好ましい範囲は0〜5%である。
【0033】
ZrOは耐水性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜3%である。ZrOの含有量が多くなりすぎると、溶融中や封着時に失透しやすくなり、封着に適した流動性が得難くなる。ZrOの好ましい範囲は0〜2.5%であり、より好ましい範囲は0〜2%である。
【0034】
SnOは耐水性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜3%である。ZrOの含有量が多くなりすぎると、溶融中や封着時に失透しやすくなり、封着に適した流動性が得難くなる。SnOの好ましい範囲は0〜2.5%であり、より好ましい範囲は0〜2%である。
【0035】
また、本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、上記以外の成分としてTiO、La、Y等をそれぞれ2モル%まで添加しても差し支えない。しかしながら、電気絶縁性を劣化させたり、高温下の使用で揮発しやすいRO(Rはアルカリ金属を示す)及びPは実質的な導入は避けることが好ましい。
【0036】
尚、本発明で言う「実質的な導入は避ける」とは、積極的に原料として用いず不純物として混入するレベルをいい、具体的には、含有量が0.1モル%以下であることを意味する。
【0037】
以上のような組成を有する結晶性ガラス組成物は、熱処理すると2MgO・SiO、BaO・2MgO・2SiO、2MgO・Bの結晶を析出し、30〜700℃の温度範囲において90×10−7/℃以上の熱膨張係数を示す。また熱処理後は高い結晶化度が得られるために耐熱性が高く、再度熱処理を行っても流動することはない。これにより長期に亘って耐熱性を維持することができる。
【0038】
なお上記ガラス組成物からなるガラス粉末材料は、流動性の調整のために、析出結晶の一部であるリン酸マグネシウム(3MgO・P)やマグネシア(MgO)、亜鉛華(ZnO)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、アルミナ(Al)等の粉末をフィラー粉末としてガラス粉末100重量部に対して10重量部まで、好ましくは8重量部まで添加してもよい。添加量を前記範囲に限定したのは、10重量部より多いと流動性の低下が大きくなりすぎるためである。なおフィラー粉末の粒径はd50で0.2〜20μm程度のものを使用することが好ましい。
【0039】
次に本発明の高膨張結晶性ガラス組成物を接着材料として使用する方法を説明する。尚、本発明のガラス組成物の使用方法は、以下の記載に制限されるものではない。
【0040】
まず、上記した組成を有するように調合したガラス原料を1400〜1500℃で0.5〜2時間溶融する。次いで溶融ガラスをフィルム状等に成形した後、粉砕し、分級してガラス粉末を作製する。なおガラス粉末の粒径(d50)は2〜20μm程度であることが好ましい。
【0041】
さらに必要に応じて上記ガラス粉末に各種フィラー粉末を添加する。
【0042】
次いでガラス粉末、或はガラス粉末とフィラー粉末との混合粉末を例えばガラスペーストに調製する。ガラスペーストで使用される場合、有機溶剤、樹脂、ガラス粉末のほか、可塑剤、分散剤等を含有できる。
【0043】
有機溶剤はガラス粉末をペースト化するための材料であり、例えばターピネオール(Ter)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BC)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート、ジヒドロターピネオール、等を単独または混合して使用することができる。その含有量は10〜40質量%であることが好ましい。
【0044】
樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は、0.1〜20質量%程度が一般的である。樹脂は熱可塑性樹脂、具体的にはポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0045】
可塑剤は、乾燥速度をコントロールすると共に、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜10質量%程度が一般的である。可塑剤としてはブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0046】
分散剤としては、イオン系、もしくはノニオン系の分散剤が使用可能であり、イオン系としてはカルボン酸、ジカルボン酸系等のポリカルボン酸系、アミン系、等、ノニオン系としてはポリエステル縮合型や多価アルコールエーテル型が使用可能である。その使用量としては0〜5質量%である。
【0047】
ペーストの作製は、上記の材料を所定の割合で混練することにより行うことができる。
【0048】
次いで、ペーストを金属やセラミックからなる第一の部材の接着箇所に塗布し、乾燥させる。さらに金属やセラミックからなる第二の部材をペースト乾燥膜に接触させた状態で固定して800〜900℃で熱処理する。この熱処理により、ガラス粉末が一旦軟化流動して第一及び第二の部材を固着させる。尚、結晶の析出は、ガラス粉末がある程度流動した段階で起こる。
【0049】
これらの結晶は融点が高く、また析出量も多いことから、材料の熱的安定性が高く、耐熱性に優れた接着接合体を得ることができる。
【0050】
尚、本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、接着以外にも被覆、充填等の目的で使用できる。またペースト以外の形態、具体的には粉末状態、グリーンシート、タブレット等の状態で使用することができる。例えば、金属やセラミックスで出来た円筒内にリード線とともにガラス粉末を充填して熱処理し、気密封止を行う形態が挙げられる。またグリーンシート成型されたプリフォームや、粉末プレス成型により作製されたタブレット等を金属やセラミック部材上に載置し、熱処理して被覆することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の高膨張結晶性ガラス組成物を実施例に基づいて説明する。
【0052】
表1及び2は、本発明の実施例(試料No.1〜8)及び比較例(試料No.9及び10)を示している。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表の各試料は、次のようにして調製した。
【0056】
表中の組成になるように調合したガラス原料を、表に示す温度で約1時間溶融した後、一対のローラー間を通してフィルム状に成形した。次いで得られたフィルム状成形物をボールミルにて粉砕し、分級して、粒度(d50)が約10μmの試料を得た。
【0057】
次に各試料について、成形時の失透物の有無、熱膨張係数、転移点、軟化点、流動性、析出結晶、結晶化温度及び結晶融点の評価を表に示す。
【0058】
表から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1〜8は、成形時に失透物が認められず、成形し易いものであった。また熱膨張係数が95〜140×10−7/℃と高膨張であった。さらに、MgO系結晶が析出し、高い耐熱性を有していた。
【0059】
一方、比較例である試料No.9は、失透しやすく、ガラス化が困難であり、流動性も悪かった。また、試料No.10は、結晶化が起こらず耐熱性が悪かった。
【0060】
尚、成形時の失透物の有無は、前記フィルム状成形物を顕微鏡(50倍)にて観察し、失透物が認められなかったものを「無」、認められたものを「有」とした。失透物がなければガラスの安定性が高いと判断することができる。
【0061】
ガラスの熱膨張係数については、各ガラス粉末試料を粉末プレス成型し、結晶化温度+10℃の温度を目安に850〜1000℃にて15分熱処理した後、直径4mm、長さ20mmの円柱状に研磨加工し、JIS R3102に基づいて測定し、30〜700℃の温度範囲における値を求めた。
【0062】
ガラスの転移点、軟化点、結晶化温度、結晶融点は、マクロ型示差熱分析計を用いて、各々のガラス粉末試料を1050℃まで測定したデータより、第一の変曲点の値を転移点、第四の変曲点の値を軟化点、強い発熱ピークを結晶化温度、結晶化後に得られた吸熱ピークを結晶融点とした。尚、結晶融点が高いほど、もしくは融点が確認されなければ、高温下においても結晶が安定に存在していることを意味することから、耐熱性が高いと判断することができる。
【0063】
流動性は次のようにして評価した。比重分のガラス粉末を直径20mmの金型に入れてプレスした後に、SUS430板上で850〜1000℃にて15分保持することにより熱処理を行い、焼結体の角が丸くなり18mm以上の流動径を有するものを「◎」、16〜18mm未満の流動径を有するものを「○」、流動径が16mm未満のものを「×」で表示した。
【0064】
析出結晶はXRD測定を行い、JCPDSカードとの対比にて同定した。このとき同定された析出結晶種として2MgO・2SiOを「A」、BaO・2MgO・2SiOを「B」、2MgO・Bを「C」として表中に示した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の高膨張結晶性ガラス組成物は、SUSやFeといった金属、フェライトやジルコニアといった高膨張セラミックスの接着材料として好適である。また、SOFCを作製する際に使用される支持体基板、電解質、電極等を気密封止するための接着材料として好適である。
【符号の説明】
【0066】
1 電解質
2 アノード
3 カソード
4 第一の支持体基板
4a 燃料チャネル4a
5 第二の支持体基板
5a 空気チャネル5a

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、SiO 30超〜50%未満、MgO 10〜45%、BaO 5〜40%、CaO 0〜20%、SrO 0〜10%、B 0〜15%、ZnO 0〜15%、Al 0〜6%、ZrO 0〜3%、SnO 0〜3%からなることを特徴とする高膨張結晶性ガラス組成物。
【請求項2】
実質的にRO(Rはアルカリ金属を示す)及びPを含有しないことを特徴とする請求項1に記載の高膨張結晶性ガラス組成物。
【請求項3】
モル%で、B 0.1〜15%であり、MgO/Bのモル比が2.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の高膨張結晶性ガラス組成物。
【請求項4】
熱処理するとMgO系結晶を析出することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高膨張結晶性ガラス組成物。
【請求項5】
熱処理すると2MgO・SiO、BaO・2MgO・2SiO、2MgO・Bの何れかから選択される一種以上の結晶を析出することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高膨張結晶性ガラス組成物。
【請求項6】
30〜700℃の温度範囲における熱膨張係数が90×10−7/℃以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高膨張結晶性ガラス組成物。
【請求項7】
接着用であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の高膨張結晶性ガラス組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162445(P2012−162445A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−267549(P2011−267549)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】