説明

高調波抑制用オープンスタブを有するインピーダンス整合素子

【課題】品質のばらつきが小さく、高調波抑制機能及び大電流耐性を有する、小型インピーダンス整合素子を提供する。
【解決手段】第1の誘電体材料D1の内部に埋設若しくは表面に形成された配線用導体パターンの配線部と、第1の誘電体材料D1の内部に埋設若しくは表面に形成されたインダクタ用導体パターンのインダクタ部L4及びL5と、少なくとも一対のコンデンサ用導体パターンCC1間に、第1の誘電体材料D1よりも高い誘電率を有する第2の誘電体材料D2を介在させたコンデンサ部C1と、抑制しようとする高調波信号を抑制できるように調整された線路長を有する高調波抑制用導体パターンの高調波抑制部S2、S3、及びS4と、を備えるインピーダンス整合素子であって、配線用導体パターン及びインダクタ用導体パターンの厚みが20μm以上である、インピーダンス整合素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス整合素子に関する。具体的には、本発明は、高調波抑制機能を有する小型インピーダンス整合素子に関する。より具体的には、本発明は、高調波抑制用オープンスタブを有する小型インピーダンス整合素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、携帯電話の基地局や工業用高周波加熱装置などにおいて使用される高出力増幅装置に対して要求される出力は益々増大しており、かかる高出力増幅装置において使用されるマイクロ波用トランジスタもまた、高周波化、高出力化が進んでいる。また、かかる高出力増幅装置において使用される電界効果トランジスタ(FET)においては、高出力化への対処としてゲート幅の拡大が行われているが、かかるゲート幅の拡大に伴い、FETの入出力インピーダンスが低下する傾向にある。
【0003】
上記のように低い入出力インピーダンスを有する半導体装置と外部回路との間での信号の入出力を円滑に行うためには、上述のような半導体装置と外部回路との間にインピーダンス整合用の回路を設けて、上述のような半導体装置の入出力インピーダンスと外部回路の特性インピーダンスとを整合させることが一般に行われている。
【0004】
しかしながら、半導体装置の入出力インピーダンスの低下傾向は続いており、従前のように半導体装置の外部のインピーダンス整合回路のみではインピーダンスの整合を十分に図ることが難しくなってきている。そこで、昨今では、上述のような半導体装置の内部にもインピーダンス整合回路を設けて、外部のインピーダンス整合回路と併用する構成が広く採用されているが、半導体装置の入出力インピーダンスの更なる低下傾向を受け、上述のような半導体装置の内部に設けられるインピーダンス整合回路のインピーダンス変換機能の更なる向上が求められている。
【0005】
ところで、インピーダンス整合回路は、コンデンサ素子と、そのコンデンサ素子と上記のような半導体装置とを接続する導体の細線(例えば、金属ワイヤ)などからなるインダクタ素子とで構成されることが多い。かかる構成を有するインピーダンス整合回路においてインピーダンス変換機能を向上させようとすると、インピーダンス整合回路を構成する部品(即ち、コンデンサ素子やインダクタ素子)の数や大きさが増大し、インピーダンス整合回路が大型になりがちである。
【0006】
一方、半導体装置内部に収容可能なインピーダンス整合回路の大きさにも限界がある。従って、半導体装置の内部に設けられるインピーダンス整合回路の大型化は避けなければならず、結果として、更に小型で高性能なインピーダンス整合回路が求められている。
【0007】
また、利得の直線性が要求されない工業用増幅器や、E級、F級などの高効率増幅器においては、高調波の抑制や高調波帯域における負荷インピーダンスの調整を目的として、高調波周波数でインピーダンスが低くなるオープンスタブが必要となる。具体的には、回路基板の線路上に高調波成分の1/4波長に相当するオープンスタブを設ける方法などが検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
しかしながら、かかる構成においては、半導体装置とオープンスタブとの相対的な位置関係の僅かなズレでさえ高調波成分の抑制能に悪影響を及ぼすため、増幅器などの半導体装置の組み立て後に、半導体装置とオープンスタブとの相対的な位置関係のばらつきを調整する作業を行う必要がある。言うまでもなく、このような調整作業は、製造プロセスの複雑化や製造コストの増大を招く要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−115732号公報
【特許文献2】国際公開第2009/016698号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、インピーダンス整合回路に関連する前述のような問題を解消すべく創作されたものである。即ち、本発明は、品質のばらつきが小さく、高調波抑制機能及び大電流耐性を有する、小型インピーダンス整合素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、
第1の誘電体材料の内部に埋設若しくは表面に形成された配線用導体パターンを含んでなる配線部と、
前記第1の誘電体材料の内部に埋設若しくは表面に形成されたインダクタ用導体パターンを含んでなるインダクタ部、又は
少なくとも一対のコンデンサ用導体パターンと、当該コンデンサ用導体パターンの対の間に介在する、第1の誘電体材料よりも高い誘電率を有する第2の誘電体材料とを含んでなるコンデンサ部、
のいずれか一方あるいは両方と、
抑制しようとする高調波信号を抑制できるように調整された線路長を有する高調波抑制用導体パターンを含んでなる高調波抑制部と、
を備えるインピーダンス整合素子であって、
前記配線用導体パターン及びインダクタ用導体パターンの厚みが20μm以上である、
インピーダンス整合素子によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、品質のばらつきが小さく、高調波抑制機能及び大電流耐性を有する、小型インピーダンス整合素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1つの実施態様に係るインピーダンス整合素子の構成を示す等価回路図である。
【図2】本発明の1つの実施態様に係るインピーダンス整合素子の構成の概略を示す断面図である。
【図3】本発明の1つの実施態様に係るインピーダンス整合素子の構成の概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述のように、本発明は、品質のばらつきが小さく、高調波抑制機能及び大電流耐性を有する、小型インピーダンス整合素子を提供することを目的とする。
【0015】
即ち、本発明の第1態様は、
第1の誘電体材料の内部に埋設若しくは表面に形成された配線用導体パターンを含んでなる配線部と、
前記第1の誘電体材料の内部に埋設若しくは表面に形成されたインダクタ用導体パターンを含んでなるインダクタ部、又は
少なくとも一対のコンデンサ用導体パターンと、当該コンデンサ用導体パターンの対の間に介在する、第1の誘電体材料よりも高い誘電率を有する第2の誘電体材料とを含んでなるコンデンサ部、
のいずれか一方あるいは両方と、
抑制しようとする高調波信号を抑制できるように調整された線路長を有する高調波抑制用導体パターンを含んでなる高調波抑制部と、
を備えるインピーダンス整合素子であって、
前記配線用導体パターン及びインダクタ用導体パターンの厚みが20μm以上である、
インピーダンス整合素子である。
【0016】
上記のように、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子は、配線用導体パターン、コンデンサ用導体パターン及び/又はインダクタ用導体パターン、高調波抑制用導体パターン、並びに第1及び第2の誘電体材料を含んでなる、一体型のインピーダンス整合素子である。本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子は、かかる構成により、コンデンサ素子と、そのコンデンサ素子と半導体素子とを接続する導体の細線(例えば、金属ワイヤ)などからなるインダクタ素子と、高調波抑制用素子とで構成される従前の高調波抑制機能付きインピーダンス整合回路と比較して、顕著な小型化を達成している。更に、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子は、一体型のパッケージとして成形されることから、上記のような従前のインピーダンス整合回路と比較して、個々の構成要素のインタクダンスや静電容量、高調波成分抑制能などのばらつきが小さく、安定した品質を達成することができるので、前述のような組み立て後の位置調整が不要となる。
【0017】
本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子においては、上記インダクタ部又はコンデンサ部のいずれか一方あるいは両方を備えることができる。即ち、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子には、上記配線部及び高調波抑制部に加えて、上記インダクタ部のみが含まれていてもよく、上記コンデンサ部のみが含まれていてもよく、あるいは上記インダクタ部及びコンデンサ部の両方が含まれていてもよい。また、当然のことながら、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子には、上記配線部、インダクタ部及び/又はコンデンサ部、並びに高調波抑制部が、それぞれ必要に応じて複数含まれていてもよい。即ち、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子は、接続される他の素子の特性や使用環境などに応じて、様々な構成とすることが可能である。
【0018】
尚、インピーダンス整合素子は、主として高周波用途において使用されるものであるので、寄生容量を抑制することが必要である。従って、上記インダクタ部や配線部は、低い誘電率を有する誘電体材料と導体パターンとで形成し、寄生容量を抑制するのが望ましい。換言すれば、上記第1の誘電体材料の誘電率は、上記第2の誘電体材料と比べて、相対的に低い誘電率を有することが望ましい。
【0019】
一方、上記高調波抑制部は、寄生容量を抑制するという観点からは、低い誘電率を有する誘電体材料に高調波抑制部を形成することが望ましいが、即ち線路長の短縮による回路の小型化という観点からは、高い誘電率を有する誘電体材料に高調波抑制部を形成してもよい。実際には、使用周波数が高い場合は、波長が短く、且つ寄生容量による影響が顕著となるため、低い誘電率を有する誘電体材料に高調波抑制部を形成することが望ましい。逆に、使用周波数が低い場合は、波長が長く、且つ寄生容量による影響が小さくなるため、高い誘電率を有する誘電体材料に高調波抑制部を形成して、高調波抑制用導体パターンの線路長を短くすることが望ましい。
【0020】
上記コンデンサ部は、素子としての大きさは小さく、静電容量は大きいことが望ましい。従って、上記コンデンサ部は、高い誘電率を有する誘電体材料と導体パターンとで形成し、静電容量を大きくするのが望ましい。換言すれば、上記第2の誘電体材料の誘電率は、上記第1の誘電体材料と比べて、相対的に高い誘電率を有することが望ましい。
【0021】
上記のように構成されたインピーダンス整合素子は、配線用導体パターン、コンデンサ用導体パターン及び/又はインダクタ用導体パターン、高調波抑制用導体パターン、並びに第1及び第2の誘電体材料を含んでなる一体型のインピーダンス整合素子であり、従前の高調波抑制機能付きインピーダンス整合回路と比較して、より小さいサイズに製造することができる。尚、小型化のためには、これらの導体パターンは誘電体材料の内部に形成されることが望ましい。但し、他の素子などとの接続などを目的として、導体パターンの少なくとも一部が誘電体材料の表面に露出していてもよいことは言うまでもない。
【0022】
上記誘電体材料としては、上記のように高い誘電率を有する材料を上記コンデンサ部において使用するのが望ましいことから、プラスチックなどの樹脂よりも、セラミック材料の方が望ましい。
【0023】
また、上記各種導体パターンを構成する導体としては、低い電気抵抗を有する金属が望ましく、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などの金属を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、複数種の金属を組み合わせて使用してもよい。ところで、これらの金属は、いずれも低い融点を有するので、上記セラミック材料としては、これらの金属材料と同時に焼成することができる、所謂「低温焼成セラミック材料(LTCC材料)」が好ましい。
【0024】
上記コンデンサ部において使用される、高い誘電率を有するLTCC材料としては、例えば、BaO−TiO−Nd組成系のものやBi−Nb組成系のものなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、上記インダクタ部や配線部において使用される誘電体材料としては、前述のように相対的に低い誘電率を有する誘電体材料が望ましいが、製造工程上の観点からは、上記コンデンサ部において使用される、高い誘電率を有するLTCC材料と同時に焼成することができる材料が望ましい。具体的には、上記インダクタ部や配線部において使用される、低い誘電率を有するLTCC材料としては、例えば、ガラスを主体にした材料やBaO−Al−SiO組成系のものなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
上記低誘電率材料の内部に埋設若しくは表面に形成されるインダクタ用導体パターンとしては、例えばコイル状の集中定数タイプのものや、分布定数タイプのものを挙げることができるが、使用される信号の周波数や必要とされるインダクタンス値に応じて、適切なものを適宜選択することができる。
【0026】
また、上記低誘電率材料の内部に埋設若しくは表面に形成される高調波抑制用導体パターンは、原理的には、抑制しようとする高調波信号の波長の1/4の線路長を有する場合に、もっとも望ましい高調波抑圧特性を発揮する。即ち、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子における高調波抑制用導体パターンは、所謂「1/4波長オープンスタブ回路」を形成する。但し、実際には、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子に接続される他の素子のタイプや、寄生容量、寄生抵抗、寄生インダクタンスなどの影響を考慮して、高調波抑制用導体パターンの線路長を適宜調整する必要が生ずる場合もある。具体的には、高調波抑制用導体パターンの線路長を1/4波長から意図的にずらして、例えば0.9/4波長や1.1/4波長などの線路長に調整した方が、より好適な高調波抑圧特性を得られることもある。かかる高調波抑制用導体パターンの形状は、直線状、曲線状、ミアンダ状など、種々の形状とすることができ、抑制しようとする高調波信号の波長(周波数)やインピーダンス整合素子の構成などに応じて、適切な形状とすることができる。更に、上記低誘電率材料の内部に埋設若しくは表面に形成される高調波抑制用導体パターンは、抑制しようとする高調波信号の波長に対応して、異なる長さを有する複数の導体パターンを含んでいてもよい。
【0027】
ところで、上記低誘電率材料の内部に埋設若しくは表面に形成される配線用導体パターンやインダクタ用導体パターンや高調波抑制用導体パターンには、例えば、携帯電話の基地局や工業用高周波加熱装置などの高周波電力増幅アンプに用いられる半導体増幅素子によって増幅された大電流が流れる。従って、これらの導体パターンは低抵抗かつ低損失であることが望ましく、導体の厚みを大きくすることによって抵抗値を下げることが好ましい。
【0028】
具体的には、本発明の第1態様に係るインピーダンス整合素子において、上記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンの厚みは20μm以上であることが望ましい。より好ましくは、上記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンの厚みは30μm以上であることが望ましい。上記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンの厚みが20μm未満であると、上述のような大電力高周波素子と接続した場合に、これらの導体パターンの抵抗値が高くなり、損失も大きくなるので望ましくない。尚、ここで言う「厚み」とは、配線用導体パターンやインダクタ用導体パターンや高調波抑制用導体パターンの長さ方向(電流が流れる方向)と直交する断面の高さ又は幅のうち短い方を指すものとする。
【0029】
次に、本発明の第2態様は、前述の第1態様に係るインピーダンス整合素子であって、
前記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンの少なくとも一部において、その長手方向と直交する断面が矩形の形状を有する、インピーダンス整合素子である。
【0030】
前述のように、セラミック材料などの誘電体材料の内部又は表面に導体が埋設された素子を製造する方法としては、例えば、セラミック材料からなるグリーンシート上に導体パターンをスクリーン印刷したものを積層し、得られた積層体を焼成することが知られている。しかしながら、かかる方法によると、導体パターンが印刷されたグリーンシートを積層する際に、導体パターンの潰れや変形を生じ易く、十分な厚みを有する導体パターンを形成して、大電流耐性を達成することが困難である。また、積層時の潰れや変形によって導体パターンの断面形状において鋭角をなすエッヂ部分が生じ、電界集中による電流集中を招く危険性が高まる。更に、導体パターンの厚みが大きい場合には特に、導体パターンの直近部分においてグリーンシート間に隙間が生じ、応力集中に起因する機械的強度の低下などを招く虞もある。
【0031】
つまり、上記のような素子を前述のような大電力高周波素子と接続した場合に、上記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンが低抵抗かつ低損失であることが望ましく、上記のような導体パターンの潰れや変形を生じないことが重要である。従って、本発明の第2態様に係るインピーダンス整合素子においては、上記配線用導体パターン及びインダクタ用導体パターンが、例えばスクリーン印刷などの手法によって形成された際の、意図された形状を維持していることが望ましい。換言すれば、本発明の第2態様に係るインピーダンス整合素子においては、上記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンの少なくとも一部において、その長手方向と直交する断面が矩形の形状を有することが望ましい。
【0032】
本発明の第2態様に係るインピーダンス整合素子においては、上記のように、配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンが矩形の断面形状を有することにより、十分な厚みを維持すると共に、鋭いエッヂ部分を排除することができる。その結果、本発明に係るインピーダンス整合素子を前述のような大電力高周波素子と接続した場合にも、低抵抗かつ低損失とすることができる。
【0033】
一方、配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンが矩形の断面形状を有する場合でも、セラミック材料などの誘電体材料とこれらの導体パターンとの間に隙間が生じ、応力集中に起因する機械的強度の低下や剥がれの発生などの問題を回避することが望ましいことは言うまでもない。
【0034】
上記のように、誘電体材料と導体パターンとの間での隙間の発生を抑制しつつ、矩形の断面形状を有する配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンを形成・維持させるのに好適な方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0035】
先ず、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などの金属の少なくとも1種類の粉末と樹脂とを含む導体ペーストをフィルム上に形成する第1工程と、前記導体ペーストを形成した前記フィルムを鋳込み型内に設置する第2工程と、熱硬化性樹脂の前駆体とセラミック粉末と溶媒とを含むスラリーを前記鋳込み型内に鋳込んで硬化させる第3工程とを有し、導体粉末成形体を埋設したセラミック粉末成形体を製造することを特徴とするセラミック粉末成形体の製造方法によって製造されたセラミック粉末成形体を乾燥し、その後、焼成することによって、本発明の第2態様に係るインピーダンス整合素子として好適なセラミック焼成体を得ることができる(例えば、国際公開第2009/016698号を参照。尚、当該公開公報の内容は、引用により本明細書中に取り込まれる)。また、上記のようなセラミック粉末成形体を複数積層することによって、更に複雑な構成のものを製造することもできる。但し、上記方法は例示に過ぎず、本発明の第2態様に係るインピーダンス整合素子の製造方法は、上記方法に限定されるものではない。
【0036】
次に、本発明の第3態様は、前述の第2態様に係るインピーダンス整合素子であって、
前記断面の少なくとも1つの角が丸まっている、インピーダンス整合素子である。
【0037】
前述の第2態様において述べられているように、導体パターンの潰れや変形によって導体パターンの断面形状において鋭いエッヂ部分が生ずると、電界集中による電流集中を招く危険性が高まる。従って、前述の第2態様に係るインピーダンス整合素子における導体パターンのように、矩形の断面形状を有する導体パターンが望ましいが、より好ましくは、導体パターンの矩形の断面形状の少なくとも1つの角が丸まっていることが望ましい。
【0038】
上記のように角が丸まっていることによって、インピーダンス整合素子としての使用時に、電界集中による電流集中を招く危険性を抑えることができる。また、前述の製造方法によって得られるセラミック粉末成形体を乾燥させる際に、前記スラリーの収縮に伴って前記導体成形体と前記スラリーとの界面において隙間やクラックが発生する危険性があるが、上記のように角が丸まっていることによって、導体パターンの断面の角の部分における応力集中を抑制し、前記スラリーの乾燥に伴う隙間やクラックの発生を抑制することもできる。
【0039】
尚、上記「角が丸まっている」という語は、矩形において本来2つの辺が角を形成する部分が鈍っている状況を指し、当該部分が厳密に円弧を呈していることを要求するものではない。例えば、当該部分が複数の辺とそれらの辺が形成する複数の鈍角からなる多角形の形状を呈していてもよい。かかる多角形状のものを含め、矩形の角の部分が概して円弧を呈していると見なした場合の曲率半径についても特に限定されるものではないが、前記矩形の断面の角に相当する部分の曲率半径は、好ましくは当該断面の厚みの1/20以上、より好ましくは当該断面の厚みの1/10以上、更に好ましくは当該断面の厚みの1/5以上であるのが望ましい。
【0040】
次に、本発明の第4態様は、前述の第1態様乃至第3態様のいずれかに係るインピーダンス整合素子であって、
導体部品をボンディングして当該インピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続するための、ボンディング用電極を更に備える、インピーダンス整合素子である。
【0041】
本発明に係るインピーダンス整合素子と他の素子との接続には、金属ワイヤや金属リボンなどが使用されることが多いので、これらのワイヤやリボンをボンディングするためのボンディング用電極が、本発明に係るインピーダンス整合素子に形成されることが望ましい。
【0042】
また、本発明の第5態様は、前述の第4態様に係るインピーダンス整合素子であって、
前記ボンディング用電極が当該インピーダンス整合素子に埋設されており、且つ
前記ボンディング用電極の少なくとも1つの表面が、当該インピーダンス整合素子の表面において、当該インピーダンス整合素子の表面と同一表面内で露出している、
インピーダンス整合素子である。
【0043】
前述の第4態様において述べられているように、前記ボンディング用電極は、本発明に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを接続することを目的とするものであり、当該接続に使用される金属ワイヤや金属リボンなどが確実かつ容易に接続されることが望ましい。具体的には、ボンディング時の有効面積を高めるために、前記ボンディング用電極の表面は平滑であることが望ましい。また、実装時のボンディングを容易とするには、前記ボンディング用電極は、本発明に係るインピーダンス整合素子の、当該電極が形成される表面から突き出していたり、逆に引っ込んでいたりしないことが望ましい。換言すれば、前記ボンディング用電極は、本発明に係るインピーダンス整合素子の、当該電極が形成される表面と同一表面内で露出していることが望ましい。
【0044】
本発明の第6態様は、前述の第4態様又は第5態様に係るインピーダンス整合素子であって、
少なくとも1つの前記インダクタ部を備え、
前記ボンディング用電極が第1の誘電体材料の表面に形成されており、
前記ボンディング用電極が前記インダクタ部の一方の端子と接続されており、且つ
前記ボンディング用電極と他の素子との間に導体の細線を設けて当該インピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続する際に、前記細線と前記ボンディング用電極との接続位置を変化させることによって、前記ボンディング用電極と前記インダクタ部とからなる部分のインダクタンスを調整することができるように、前記ボンディング用電極の大きさ及び形状が構成されている、
インピーダンス整合素子である。
【0045】
上記のように、本発明の第6態様に係るインピーダンス整合素子においては、前記インダクタ部の一端に接続された前記ボンディング用電極が第1の誘電体材料の表面に形成されている。当該ボンディング用電極は、当該インピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続する際に前記細線を接続するための電極である。従って、当該ボンディング用電極は、前記細線をボンディングするのに必要な最小面積を有していることが必須であるが、例えば、前記インダクタ部の一端に接続された側の端部と他方の端部とを有する線状を呈していてもよい。また、当該ボンディング用電極は直線状であっても曲線状であってもよい。尚、ここではボンディング用電極の形状として線状のものを例示したが、本実施態様に係るインピーダンス整合素子において使用されるボンディング用電極の大きさや形状は、当該素子の設計や接続される他の素子の特性などの諸条件に応じて適宜調整することができる。
【0046】
この際、当該ボンディング用電極のどこに当該細線をボンディングするかによって、このボンディング位置から前記インダクタ部と当該ボンディング用電極との接続位置までの経路の長さが変化する。即ち、当該ボンディング用電極のどこに当該細線をボンディングするかによって、当該ボンディング用電極において電流が流れる経路の長さが変化し、当該ボンディング用電極のインダクタンスが変化する。結果として、当該ボンディング用電極のどこに当該細線をボンディングするかによって、前記インダクタ部と前記ボンディング用電極とを併せた部分全体のインダクタンスを調整することができる。
【0047】
また、本発明の第7態様は、前述の第6態様に係るインピーダンス整合素子であって、
前記ボンディング用電極が、前記細線を接続するための複数の広幅部分と、各広幅部分を接続する狭幅部分とが、交互に連続して形成された形状を有する、
インピーダンス整合素子である。
【0048】
前述の第6態様において述べられているように、ボンディング用電極の形状としては、直線状、曲線状などの線状のものに限られず、本実施態様に係るインピーダンス整合素子の設計や接続される他の素子の特性などの諸条件に応じて適宜調整することができる。しかしばがら、例えば製造工程上の理由などから、前記インダクタ部と前記ボンディング用電極とを併せた部分全体のインダクタンスを連続的に調整するのではなく、段階的に調整することが望ましい場合も想定される。
【0049】
かかる場合には、前記細線を前記ボンディング用電極にボンディングする位置もまた連続的に調整されるのではなく、段階的に調整されるべきである。従って、前記ボンディング用電極上に前記細線がボンディングされるべき複数の場所が予め定められており、その他の場所には前記細線はボンディングされない。その結果、前記ボンディング用電極上に前記細線がボンディングされるべき複数の場所は、前記細線をボンディングするのに必要な最小面積を有する必要があるものの、その他の場所は、前記「複数の場所」を電気的に問題なく接続し、ボンディング位置に応じたインダクタンスを発揮するのに必要な最小限の幅さえあればよい。かかる理由から、本実施態様においては、前記ボンディング用電極が、前記細線を接続するための複数の広幅部分と、各広幅部分を接続する狭幅部分とが、交互に連続して形成された形状を有するのである。
【0050】
上記のような構成により、当該ボンディング用電極が備える前記複数の広幅部分のうちのどの広幅部分に前記細線をボンディングするかによって、前記ボンディング用電極のインダクタンスが段階的に変化する。結果として、当該ボンディング用電極が備える前記複数の広幅部分のうちのどの広幅部分に前記細線をボンディングするかによって、前記インダクタ部と前記ボンディング用電極とを併せた部分全体のインダクタンスを段階的に調整することができる。
【0051】
更に、本発明の第8態様は、前述の第6態様に係るインピーダンス整合素子であって、
前記ボンディング用電極が複数のパッドと1つ以上の調整用インダクタ部から形成されており、
前記調整用インダクタ部は、前記第1の誘電体材料の内部に形成された調整用インダクタ用導線パターンを含んでなり、
前記複数のパッドの各々は前記調整用インダクタ部によって接続されており、
前記ボンディング用電極と他の素子との間に導体の細線を設けて当該インピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続する際に、前記細線を前記複数のパッドのうちの何れと接続するかによって、前記ボンディング用電極と前記調整用インダクタ部と前記インダクタ部とからなる部分のインダクタンスを調整することができる、
インピーダンス整合素子である。
【0052】
本実施態様における「パッド」は前述の第7態様における「広幅部分」のそれぞれに対応し、本実施態様における「調整用インダクタ部」は前述の第7態様における「狭幅部分」のそれぞれに対応する。尚、上記のように、第7態様における「狭幅部分」に代えて、「調整用インダクタ部」を設けることにより、前記細線を前記複数のパッドのうちの何れと接続するかによって変更することが可能なインダクタンスの調整量を大きくすることができる。尚、寄生容量抑制の観点から、調整用インダクタ部についても、前記第1の誘電体材料の内部に形成されることが望ましい。
【0053】
上記のような構成により、複数のパッドのうちのどのパッドに前記細線をボンディングするかによって、前記ボンディング用電極のインダクタンスが段階的に変化する。結果として、複数のパッドのうちのどのパッドに前記細線をボンディングするかによって、前記インダクタ部と前記ボンディング用電極とを併せた部分全体のインダクタンスを段階的に調整することができる。
【0054】
前述のように、本発明に係るインピーダンス整合素子は、インダクタ部又はコンデンサ部のいずれか一方あるいは両方を備えることができる。即ち、本発明に係るインピーダンス整合素子には、配線部及び高調波抑制部に加えて、インダクタ部のみが含まれていてもよく、コンデンサ部のみが含まれていてもよく、あるいはインダクタ部及びコンデンサ部の両方が含まれていてもよい。また、当然のことながら、本発明に係るインピーダンス整合素子には、配線部、インダクタ部及び/又はコンデンサ部、並びに高調波抑制部が、それぞれ必要に応じて複数含まれていてもよい。即ち、本発明に係るインピーダンス整合素子は、接続される他の素子の特性や使用環境などに応じて、様々な構成とすることが可能である。
【0055】
従って、本発明の第9態様は、前述の第6態様乃至第8態様のいずれかに係るインピーダンス整合素子であって、
少なくとも1つの前記コンデンサ部を備え、
当該インピーダンス整合素子の内部又は表面に形成されたグラウンド電極を更に備え、
前記コンデンサ部の一方の端子が、前記グラウンド電極に接続されており、
前記コンデンサ部の他方の端子が、前記インダクタ部のいずれか一方の端子に接続されている、
インピーダンス整合素子である。
【0056】
また、本発明の第10態様は、前述の第9態様に係るインピーダンス整合素子であって、
少なくとも2つの前記インダクタ部を備え、
第1のインダクタ部の一方の端子が前記ボンディング用電極と接続されており、
第1のインダクタ部の他方の端子が第2のインダクタ部と接続されており、
前記コンデンサ部のグラウンド電極に接続されていない端子が、前記第1のインダクタ部と前記第2のインダクタ部とが接続されている部分に接続されている、
インピーダンス整合素子である。
【0057】
ところで、本発明に係るインピーダンス整合素子における各種インダクタ用導体パターンは、インピーダンス整合素子の形状や大きさ、接続される他の素子の特性などに応じて、様々な形状とすることができる。具体的には、直線状、曲線状、コイル状、ミアンダ状などの様々な形状を有する導体パターンを、本発明に係るインピーダンス整合素子における各種インダクタ部として使用することができる。また、かかる形状の導体パターンも、前述のセラミック粉末成形体の製造方法を始めとする各種製造方法によって製造することができる。
【0058】
従って、本発明の第11態様は、前述の第1態様乃至第10態様のいずれかに係るインピーダンス整合素子であって、
前記インダクタ用導体パターン又は調整用インダクタ用導体パターンの少なくとも一部がコイル状の形状を有する、
インピーダンス整合素子である。
【0059】
また、本発明の第12態様は、前述の第1態様乃至第10態様のいずれかに係るインピーダンス整合素子であって、
前記インダクタ用導体パターン又は調整用インダクタ用導体パターンの少なくとも一部がミアンダ状の形状を有する、
インピーダンス整合素子である。
【0060】
更に、冒頭に述べたように、本発明に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続するための金属ワイヤや金属リボンなどの導体部品そのものもインダクタとなり得る。従って、かかる導体部品を介して、前述の各実施態様に係るインピーダンス整合素子を他の素子と接続する際に、当該導体部品のインダクタンスと、当該インピーダンス整合素子のボンディング用電極、配線部、インダクタ部、及び調整用インダクタ部(存在する場合)のインダクタンスとを併せて、所望のインダクタンス値となるように構成してもよい。
【0061】
また、複数の導体部品(例えば、金属ワイヤや金属リボンなど)を使用して、本発明に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを接続してもよい。具体的には、例えば、1本の金属ワイヤを使用するのでは、当該金属ワイヤの長さや曲率を調整しても、当該金属ワイヤが呈するインダクタンスを所望のレベルにまで下げることが難しい場合や、1本の金属ワイヤに通すには電力が大き過ぎる場合などに、複数の金属ワイヤを使用することが望ましい。
【0062】
以下に記載する実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
(1)等価回路による説明
図1は、本実施例に係るインピーダンス整合素子の構成を示す等価回路図である。図1において点線で描かれている四角形の枠の内部にある構成要素は、本実施例に係るインピーダンス整合素子に含まれる構成要素を表す。即ち、図1において、L1及びL6は、本実施例に係るインピーダンス整合素子に含まれない構成要素であり、具体的には、本実施例に係るインピーダンス整合素子と他の素子(例えば、高周波半導体増幅素子などの外部回路)とを接続するための金属ワイヤを表す。
【0064】
一方、L4及びL5は、本実施例に係るインピーダンス整合素子における第1の誘電体材料D1(図1には示されていない)の内部に埋設されたインダクタ部を表す。インダクタ部L4及びL5が接続されている部分には、コンデンサ部C1が接続されており、コンデンサ部C1の他端はグラウンド電極に接続されている。尚、コンデンサ部C1の構成要素である一対のコンデンサ用導体パターンCC1(図1には示されていない)の間には、第1の誘電体材料D1よりも高い誘電率を有する第2の誘電体材料D2(図1には示されていない)が介在している。
【0065】
また、インダクタ部L5の、インダクタ部L4とは反対側の端部には、高調波抑制部S2、S3、及びS4が接続されている。これらの高調波抑制部S2、S3、及びS4は、それぞれ、基本周波数の第2高調波、第3高調波、及び第4高調波を抑制するための高調波抑制用導体パターンである。従って、高調波抑制部S2、S3、及びS4は、それぞれ、基本周波数の第2高調波、第3高調波、及び第4高調波の波長の1/4の長さを有している。但し、前述のように、実際には、本実施例に係るインピーダンス整合素子に接続される他の素子のタイプや、寄生容量、寄生抵抗、寄生インダクタンスの影響を考慮して、これらの高調波抑制部の線路長を1/4波長から意図的にずらし、例えば0.9/4波長や1.1/4波長などの線路長に調整した方が、より好適な高調波抑圧特性を得られることもある。尚、高調波抑制部S2、S3、及びS4の線路長とは、例えば、図3における点Bから、各高調波抑制部の線路の端(開放端)までの経路の長さを指す。
【0066】
更に、L2及びL3は、本実施例に係るインピーダンス整合素子の1つのボンディング用電極E1(図1には示されていない)が呈するインダクタンスを模式的に示したものであり、前述の第6態様に係るインピーダンス整合素子の説明において述べたように、本実施例に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを接続するための金属ワイヤであるL1をボンディング用電極E1のどこに接続するかによって、ボンディング用電極E1が呈するインダクタンスが変化することを表している。
【0067】
尚、上記ボンディング用電極E1の一端は、インダクタ部L4の、インダクタ部L5とは反対側の端部に接続されている。また、インダクタ部L5と高調波抑制部S2、S3、及びS4とが接続されている部分には、もう1つのボンディング用電極E2(図1には示されていない)が接続されており、当該電極E2に金属ワイヤL6が接続されている。
【0068】
(2)構成図による説明
図2は、図3に示されている本実施例に係るインピーダンス整合素子の構成の概略を示す平面図に示されている線A−A’に沿った、本実施例に係るインピーダンス整合素子の断面図である。図2に示されているように、コイル状のインダクタ用導体パターンを含んでなるインダクタ部L4及びL5、並びに高調波抑制部S2、S3、及びS4が、第1の誘電体材料D1の内部に埋設されている。一方、一対のコンデンサ用導体パターンCC1が、上記第1の誘電体材料D1の下部に積層された第2の誘電体材料D2を挟むように形成されて、コンデンサ部C1を構成している。尚、第2の誘電体材料D2は、第1の誘電体材料D1よりも高い誘電率を有する。更に、第1の誘電体材料D1の上側表面には、ボンディング用電極E1及びE2が、第1の誘電体材料D1の上側表面と同一表面内で露出するように形成されている。
【0069】
第1の誘電体材料D1の内部に埋設された配線用導体パターン(符号は付与せず)によって、ボンディング用電極E1、インダクタ部L4、インダクタ部L5、及びボンディング用電極E2が、この順序で直列に接続されている。但し、インダクタ部L4とインダクタ部L5との間にはコンデンサ部C1に含まれる一対のコンデンサ用導体パターンCC1のうち上側のコンデンサ用導体パターンが接続されており、この上側のコンデンサ用導体パターンと第2の誘電体材料D2を挟んで対向する下側のコンデンサ用導体パターンは、グラウンド電極をも兼ねている。また、インダクタ部L5とボンディング電極E2とが接続されている部分には、高調波抑制部S2、S3、及びS4が接続されている。
【0070】
上記のように、本実施例に係るインピーダンス整合素子は、2つのインダクタ部と、1つのコンデンサ部と、更に3種の高調波抑制部(S2、S3、及びS4)とを備えているものの、これらの構成要素を第1及び第2の誘電体材料と共に、一体型の成形物として備えることにより、素子全体の大きさを小さくすることに成功している。また、このような一体成形物として製造することにより、所定の長さ及び曲率を有する金属細線などからなるインダクタとコンデンサとスタブとを接続して製造される従前の高調波抑制機能付きインピーダンス整合回路と比較して、インダクタンスや高調波抑制能などのばらつきを抑制することができる。
【0071】
また、前述のように、本発明に係るインピーダンス整合素子は、前述のような大電力高周波素子と接続した場合にも低抵抗かつ低損失であるべきであるので、前記配線用導体パターン、前記インダクタ部L4及びL5、並びに前記高調波抑制部(S2、S3、及びS4)を構成するインダクタ用導体パターンの厚みは20μm以上、より好ましくは30μm以上であることが望ましい。
【0072】
更に、ボンディング用電極E1は、前述のように、本実施例に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを接続するための金属ワイヤをボンディング用電極E1のどこに接続するかによって(図2における矢印によって示されている)、ボンディング用電極E1が呈するインダクタンスが変化する。これにより、コンデンサ部C1よりも左側にある、インダクタ部L4とボンディング用電極E1とを併せた部分のインダクタンスを調整することができる。
【0073】
ところで、前述したように、本発明に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続するための金属ワイヤや金属リボンなどの導体部品そのものもインダクタとなり得る。従って、図2においては、本実施例に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを接続するための金属ワイヤをインダクタ部L1及びL6として表している。本実施例に係るインピーダンス整合素子を他の素子と接続する際に、これらのインダクタ部L1及びL6のインダクタンスと、当該インピーダンス整合素子のボンディング用電極、配線部、インダクタ部、及び/又は調整用インダクタ部のインダクタンスとを併せて、所望のインダクタンス値となるように構成する必要がある場合も想定される。
【0074】
即ち、本実施例に係るインピーダンス整合素子の構成は、前述の第6態様及び第11態様に係るインピーダンス整合素子に対応するものである。かかる構成を有するインピーダンス整合素子は、前述のように、導体粉末成形体を埋設したセラミック粉末成形体を製造し、得られたセラミック粉末成形体を乾燥し、焼成することによって得ることができる。但し、上記方法は例示に過ぎず、本発明に係るインピーダンス整合素子の製造方法は、上記方法に限定されるものではない。加えて、本実施例においては、本実施例に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続するための金属ワイヤそのものもインダクタとして考慮されている。
【0075】
(3)まとめ
以上のように、本実施例に係るインピーダンス整合素子は、上述のような構成とすることによって、品質のばらつきが小さく、高調波抑制機能及び大電流耐性を有し、素子全体の大きさを小さくすることに成功している。
【0076】
尚、本実施例においては、本実施例に係るインピーダンス整合素子と他の素子とを電気的に接続するための金属ワイヤそのものもインダクタとして考慮しつつ、前述の第6態様及び第11態様に係るインピーダンス整合素子の特徴を有するものに着目して、その構成及び優位性を説明してきたが、本発明の範囲はこれに留まるものではなく、本明細書及び請求の範囲の記載に基づいて解釈されるべきである。
【0077】
前述のように、本発明に係るインピーダンス整合素子につき、種々の実施態様及び実施例を詳細に説明してきたが、これらはあくまでも例示であり、本発明の範囲はかかる例示に限定されるものではない。また、本発明は、例えば、利得の直線性が要求されない工業用増幅器や、E級、F級などの高効率増幅器、携帯電話の基地局や工業用高周波加熱装置などにおいて使用される高出力増幅装置等に好適に適用される。しかしながら、言うまでもなく、本発明は、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
L1 金属ワイヤ(等価インダクタンス考慮)
L2 ボンディング用電極E1の一部(等価インダクタンス考慮)
L3 ボンディング用電極E1の一部(等価インダクタンス考慮)
L4 インダクタ部
L5 インダクタ部
L6 金属ワイヤ(等価インダクタンス考慮)
C1 コンデンサ部
CC1 コンデンサ用導体パターン
E1 ボンディング用電極
E2 ボンディング用電極
D1 第1の誘電体材料
D2 第2の誘電体材料
S2 第2高調波抑制部
S3 第3高調波抑制部
S4 第4高調波抑制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電体材料の内部に埋設若しくは表面に形成された配線用導体パターンを含んでなる配線部と、
前記第1の誘電体材料の内部に埋設若しくは表面に形成されたインダクタ用導体パターンを含んでなるインダクタ部、又は
少なくとも一対のコンデンサ用導体パターンと、当該コンデンサ用導体パターンの対の間に介在する、第1の誘電体材料よりも高い誘電率を有する第2の誘電体材料とを含んでなるコンデンサ部、
のいずれか一方あるいは両方と、
抑制しようとする高調波信号を抑制できるように調整された線路長を有する高調波抑制用導体パターンを含んでなる高調波抑制部と、
を備えるインピーダンス整合素子であって、
前記配線用導体パターン、インダクタ用導体パターン、及び高調波抑制用導体パターンの厚みが20μm以上である、
インピーダンス整合素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−250402(P2011−250402A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106868(P2011−106868)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】