説明

高調波生成方法、高調波生成装置、及び、プログラム

【課題】演算量が少なく、エイリアシングのない高調波を生成できる、簡易な構成をした高調波生成方法、高調波生成装置、及び、プログラムを提供する。
【解決手段】高調波生成回路100は、LPF10と、乗算器20,40と、減算器30と、から構成されている。高調波生成回路100にディジタルオーディオ信号が入力されると、LPF10は入力されたディジタルオーディオ信号をこのディジタルオーディオ信号のサンプリング周波数の1/4以下の周波数に帯域制限する。乗算器20は、この帯域制限されたディジタルオーディオ信号を2乗する。減算器30は、2乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する。乗算器40は直流成分を除かれたディジタルオーディオ信号の振幅を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高調波生成方法、高調波生成装置、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音声ファイルのサイズを削減するために、音声データをデータ圧縮して使用することが多くなっている。音声ファイルをデータ圧縮する方式には、可逆な圧縮方法と、MP3(MPEG audio layer3),AAC(Advanced Audio Coding)などの非可逆な圧縮方法がある。
非可逆な方法によって音声データを圧縮すると、一部の音が省略されてしまう。
【0003】
データ圧縮の際に省略される音として、例えば、楽器の音や人の声の高調波(倍音)がある。しかし、高調波が省略されてしまうと、その音の音色は変わってしまい、聴感上好ましくない場合がある。
このため、非可逆な方法によって圧縮されたディジタルオーディオ信号を再生する従来の信号処理装置では、再生された音声が聴感上好ましくないものとなることがある。
【0004】
この種の問題を解決するため、特許文献1には、圧縮記録された音声データを再生する際に、再生オーディオ信号を二乗することにより、高調波を生成して、再生オーディオ信号に加算することにより、原音に近い音を再現する再生システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−272057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、補完する高調波を再生するために、ディジタルオーディオ信号を2乗すると、エイリアシングが発生する可能性があり、また、生成した高調波に直流成分が載ってしまい、違和感のある音が再生される。
高調波(倍音)を生成する方法として、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)及びI(Inverse)FFTを利用することも考えられる。しかし、FFTやIFFTは多くの演算量を必要とし、ハードウエア及びソフトウエアの負担が大きい。また、生成した高調波の周波数がナイキスト周波数を超える場合がある。このため、FFT法等を用い生成した高調波を再生信号に補完した場合でも、違和感のある音が再生される場合がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、直流成分が少なくかつエイリアシングがない高調波を、少ない演算量で生成できる高調波生成方法、高調波生成装置、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第一の観点に係る高調波生成方法は、
入力されたディジタルオーディオ信号を、所定の周波数以下に帯域制限するステップと、
前記帯域制限されたディジタルオーディオ信号を偶数乗するステップと、
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算するステップと、
を備えることを特徴とする。
【0009】
例えば、前記直流成分を減算するステップは、
予め設定された所定の値を減算する。
【0010】
例えば、前記所定の周波数は、前記入力されたディジタルオーディオ信号のサンプリング周波数の前記偶数の2倍分の1の周波数である。
【0011】
例えば、前記偶数乗は2乗である。
【0012】
また、前記直流成分を除かれたディジタルオーディオ信号の振幅を調整するステップ、
を更に備えてもよい。
【0013】
また、前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号と、前記入力されたディジタルオーディオ信号と、を加算するステップ、
を更に備えてもよい。
【0014】
また、前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号を所定の周波数帯域のディジタルオーディオ信号に帯域制限するステップ、
を更に備えてもよい。
【0015】
また、前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号の振幅を調整するステップを更に備え、
前記直流成分を減算するステップは、前記偶数乗され、かつ、前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算してもよい。
【0016】
また、前記直流成分を減算されたディジタルオーディオ信号と、前記入力されたディジタルオーディオ信号と、を加算するステップ、
を更に備えてもよい。
【0017】
また、前記直流成分を減算されたディジタルオーディオ信号を所定の周波数帯域のディジタルオーディオ信号に帯域制限するステップ、
を更に備えてもよい。
【0018】
例えば、前記振幅を調整するステップは、前記直流成分を除かれたディジタルオーディオ信号の振幅を、前記入力されたディジタルオーディオ信号の振幅以下に調整する。
【0019】
例えば、前記帯域制限するステップは、前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号の低周波数帯域を制限して、高周波数帯域を通過させる。
【0020】
また、前記所定の周波数帯域に帯域制限されたディジタルオーディオ信号と、前記入力されたディジタルオーディオ信号と、を加算するステップ、
を更に備えてもよい。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の第二の観点に係る高調波生成装置は、
入力されたディジタルオーディオ信号を、所定の周波数以下に帯域制限する低域通過フィルタと、
前記帯域制限されたディジタルオーディオ信号を偶数乗する乗算器と、
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する減算器と、
を備えることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の第三の観点に係るプログラムは、
コンピュータに、
入力されたディジタルオーディオ信号を、所定の周波数以下に帯域制限する手順と、
前記帯域制限されたディジタルオーディオ信号を偶数乗する手順と、
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する手順と、
を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、演算量が少なく簡易な構成で、直流が載らず、エイリアシングの発生しない高調波を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る高調波生成回路の構成を示す回路図である。
【図2】図1の高調波生成回路に入力されたディジタルオーディオ信号と、出力されたディジタルオーディオ信号の関係を示す図である。
【図3】本発明に係るディジタルオーディオ信号処理装置を示す回路図である。
【図4】(a)は図1の高調波生成回路の応用例を示す回路図である。(b)は本発明に係る高調波生成処理のフローチャートを示す図である。
【図5】図1の高調波生成回路の応用例を示す回路図である。
【図6】図5の高調波生成回路の出力するディジタルオーディオ信号の例を示す図である。
【図7】図5の高調波生成回路に入力されたディジタルオーディオ信号と、出力されたディジタルオーディオ信号の関係を示す図である。
【図8】図3のディジタルオーディオ信号処理装置の応用例を示す回路図である。
【図9】図3のディジタルオーディオ信号処理装置の応用例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る高調波生成回路及び該高調波生成回路を用いて生成された高調波を原ディジタルオーディオ信号に補完することにより原音に近い音を再生するディジタル信号再生装置を、図面を参照して説明する。
本実施例に係る高調波生成回路は、入力されたディジタルオーディオ信号の偶数次の高調波(偶数倍音)を生成するものである。
【0026】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1に係る高調波生成回路100について説明する。この高調波生成回路100は、入力されたディジタルオーディオ信号の二次高調波(2倍音)を生成する。
【0027】
図1に示すように、高調波生成回路100は、LPF(Low Pass Filter)10と、乗算器20,40と、DC値記憶部25と、減算器30と、α値記憶部35と、から構成されている。
【0028】
LPF10には、ディジタルオーディオ信号Siが供給される。ディジタルオーディオ信号Siは、原信号をサンプリング周波数fsで標本化した振幅1の信号であるとする。LPF10は、高調波生成回路100に入力されたディジタルオーディオ信号Siを、このディジタルオーディオ信号Siのサンプリング周波数fsの1/4以下に帯域制限し、乗算器20に出力する。
【0029】
乗算器20は、LPF10によって帯域制限されたディジタルオーディオ信号SLを2乗することにより二次高調波信号(周波数が2倍の信号)を生成し、減算器30に出力する。
【0030】
DC値記憶部25は、所定の値DF、例えば、+1/2を予め記憶している。
減算器30は、乗算器20から出力されたディジタルオーディオ信号SSから、DC値記憶部25に記憶されている値DFを減算し、乗算器40に出力する。
【0031】
α値記憶部35は、所定の値α、例えば、2を予め記憶している。
乗算器40は、減算器30から出力されたディジタルオーディオ信号STと、α値記憶部35から出力された値αとを受け、ディジタルオーディオ信号STをα倍に増幅して、この高周波生成回路1の出力信号Soとして出力する。
【0032】
次に、上記構成をした高調波生成回路100の動作を説明する。
まず、LPF10は、入力ディジタルオーディオ信号Siを、このディジタルオーディオ信号のサンプリング周波数fsの1/4以下に帯域制限して出力する。サンプリング周波数の1/4以下に帯域制限することにより、この高調波生成回路100が出力する2倍音の周波数が、最大でもサンプリング周波数の1/2になり、エイリアシングの発生を抑えることができる。
【0033】
乗算器20は、LPF10によって帯域制限されたディジタルオーディオ信号SLを二乗することにより、2倍音を生成する。
ここで、理解を容易にするため、信号SLがA・sinθで表されるとすると、次式に示すように、この信号を2乗することにより、A/2の大きさの直流成分と、A/2の大きさを持った周波数2θの成分(2倍音)が生成される。なお、Aは振幅、θは周波数を表す。
(A・sinθ)=A/2−(A/2)・cos2θ
【0034】
DC値記憶部25に記憶されている値DFは、上述の例によれば、+1/2である。振幅Aは1なので、A/2の大きさの直流成分1/2に、値DFは一致する。
減算器30は、乗算器20から出力されたディジタルオーディオ信号SSから、DC値記憶部25に記憶されている値DFを減算することにより、DCオフセット補正を行う。即ち、直流成分をカットする。上述の例では、{(A/2−(A/2)・cos2θ}−(A/2)を求めることにより、直流成分がカットされた(−A/2)・cos2θを求める。
【0035】
乗算器40は、DCオフセット補正された信号STをα倍して出力する。
α値記憶部35に記憶されている値αは、上述の例によれば、2である。振幅は1なので、直流成分がカットされた(−A/2)・cos2θの振幅を2倍することで、振幅α・(−A/2)=2/(−1/2)=1となる。即ち、入力信号とほぼ同一振幅で、周波数が2倍のディジタルオーディオ信号Soを生成して出力することができる。
【0036】
次に、上記構成をした高調波生成回路100の出力するディジタルオーディオ信号について説明する。
【0037】
例えば、図2に符号Siで示す、振幅が1で周波数442Hzの正弦波を表す信号と、振幅が0.2で周波数12kHzの正弦波を表す信号の合成信号を44.1kHzのサンプリング周波数fsで標本化して作成されたディジタルオーディオ信号Siが高調波生成回路100に入力したとする。
【0038】
LPF10のカットオフ周波数fcは、サンプリング周波数fsの1/4の周波数、即ち、11.025kHzに設定されている。LPF10は、ディジタルオーディオ信号Siのうち、12kHzの信号を遮断し、図2に符号SLで示す様に、442Hzの信号を信号SLとして出力する。
【0039】
乗算器20は、この信号SLを2乗することにより、図2に符号SSで示す様に、0〜1の間で振動し、オフセット値が+1/2で、周波数が2倍の884Hzの信号を出力する。
【0040】
減算器30は、DC値記憶部25に記憶されている値+1/2を、信号SSから減算することにより、振幅が1/2で、±1/2の範囲で振動する周波数884Hzの信号STを出力する。
【0041】
α値記憶部35は、2/1、即ち、増福率2を記憶している。
乗算器40は、信号STに増幅率2を乗算することにより、図2に符号Soで示す振幅が1で、±1の範囲で振動する周波数884Hzの信号を出力する。
図2に示す信号の対比からも明らかなように、高調波生成回路100は、入力信号の二次高調波を生成して出力することができる。
しかも、LPF10によって、入力信号に含まれている周波数成分のうち、サンプリング周波数fsの1/4以上の周波数については、それをカットし、倍音を生成しないので、エイリアシングが発生しない。
また、乗算器20で2乗されることで生成された2倍音は、減算器30でDCオフセット補正されるため、直流成分が少なく、生成された倍音を高調波の補完に用いた場合には、原音に近い再生音を生成することができる。
また、入力信号Siの振幅に対し出力信号の振幅を抑えることができ、生成された倍音を高調波の補完に用いた場合には、原音に近い再生音を生成することができる。
また、図1からも明らかなように、回路構成は簡単であり、演算量も少なくて済み、DSP等を必要としない(使ってもよい)。
【0042】
(実施形態2)
従来の課題の欄で説明したように、非可逆な圧縮方法により圧縮されて、記録されたディジタルオーディオ信号を再生した際には、原音に含まれていた高調波成分が含まれなくなってしまう。
以下、第1実施形態の高周波生成回路を用いて、再生信号の二次高調波を生成し、これを再生信号に加算することにより、高調波を含み、より原音に近い音声を出力することが可能な、ディジタルオーディオ信号処理装置の実施形態を図3を参照して説明する。
なお、図3において、図1と同一部分には、同一符号を付して示す。
【0043】
本実施形態に係るディジタルオーディオ信号処理装置200は、図3に示すように、プレーヤ50と、図1に示す高調波生成回路100と、加算器60と、D/Aコンバータ70と、出力アンプ80と、放音部90と、スイッチSWから構成される。
【0044】
プレーヤ50は、ディジタルオーディオデータが記録された記録媒体、例えば、CD(Compact Disc),DAT(Digital Audio Tape),MD(MiniDisc),DVD(Digital Versatile Disc),BD(Blu−ray Disc)(商標)、HDD(Hard Disc Drive),フラッシュメモリ、等の記録媒体に記録されているディジタルオーディオ信号を再生して出力する。
記録媒体に記録されているディジタルオーディオ信号は、可逆性圧縮法又は非可逆性圧縮法により圧縮されている。非圧縮でもよい。
プレーヤ50は、非可逆性圧縮法により圧縮されたディジタルオーディオ信号を伸張して出力する際には、スイッチコントール信号Scをオンする。
【0045】
スイッチSWは、通常時は開いており、プレーヤ50からのスイッチコントロール信号Scがオンすると、閉じる。
高調波生成回路100は、スイッチSWが閉じた時に供給される、プレーヤ50の出力ディジタルオーディオ信号を、第1実施形態で説明したように処理し、二次高調波を生成して出力する。なお、乗算器40の倍率αは、信号Soの振幅が、信号Siの振幅より小さくなるように、1/10以下、望ましくは、1/50以下に予め設定されている。
【0046】
加算器60は、プレーヤ50の出力ディジタルオーディオ信号と、高調波生成回路100の出力する信号とを加算して出力する。
D/Aコンバータ70は、加算器60の出力するディジタルオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
出力アンプ80は、D/Aコンバータ70から出力されたアナログオーディオ信号を増幅して出力する。
放音部90は、スピーカ、ヘッドホン、等から構成され、出力アンプからのアナログオーディオ信号を空気振動に変換して出力する。
【0047】
次に、上記構成を有するディジタルオーディオ信号処理装置200の動作を説明する。
プレーヤ50が再生する信号が、非圧縮信号又は可逆性圧縮法により圧縮された信号である場合、プレーヤ50は、スイッチ制御信号SCをオフ状態に維持する。
これにより、スイッチSWは開状態を維持する。
【0048】
この状態では、プレーヤ50の再生信号は、加算器60のみに供給される。一方、高調波生成回路100は、値0に相当する信号を出力する。
加算器60は、プレーヤ50の再生信号と高調波生成回路100からの値0に相当する信号とを加算して出力する。即ち、プレーヤ50の再生信号をそのまま出力する。
この再生信号は、D/Aコンバータ70によりアナログ信号に変換され、出力アンプ80により増幅され、放音部90により空気信号に変換され、放音される。
この場合、プレーヤ50の再生信号は、原音に忠実な信号であるので、再生音の音質は高い。
【0049】
一方、プレーヤ50が再生する信号が、非可逆性圧縮法により圧縮された信号である場合、プレーヤ50は、スイッチコントロール信号SCをオン状態とする。これにより、スイッチSWは閉状態となる。
【0050】
この状態では、プレーヤ50の再生信号は、高調波生成回路100と加算器60とに供給される。
高調波生成回路100は、前述のように、供給された再生信号の二次高調波を生成し、加算器60に出力する。
加算器60は、プレーヤ50の再生信号と高調波生成回路100からの二次高調波信号とを加算して出力する。ここで、再生信号は、非可逆性圧縮法により圧縮された信号を伸張して得たものであり、原音のうち、高調波成分が省略されている信号である。これに、100で生成された二次高調波が加算されることにより、欠落している高調波の一部が補完されることとなる。
【0051】
この再生信号は、D/Aコンバータ70によりアナログ信号に変換され、出力アンプ80により増幅され、放音部90により空気信号に変換され、放音される。
【0052】
この再生音は、プレーヤ50の再生信号に含まれていない二次高調波を含むものであり、プレーヤ50の再生信号をそのまま放音した場合よりも、原音に近い音であり、音質が改善されたものとなる。
しかも、第1実施形態で説明したように、LPF10により帯域を制限するので、再生信号に比較的高い周波数の成分が含まれていても、エイリアシングが発生せず、高音質が維持される。また、減算器30により、DC成分がカットされているので、聴者に違和感を与えない。また、乗算器40の増幅率αが比較的小さい値に設定されているので、再生信号に含まれている各周波数成分のレベルと、生成された高調波成分のレベルとのバランスに優れ、聴者に違和感を与えない。
【0053】
この場合、二次高調波を補完された再生信号は、原音に近い信号であるので、その再生音は原音に近い。
また、ディジタルオーディオ信号処理装置200は、回路構成がシンプルで、演算量が少ない。
【0054】
(実施形態3)
上記実施形態1,2では、回路を各種半導体素子で構成する例を示したが、DSP,CPU等のデータ処理により、同様の機能を実現することも可能である。
【0055】
この場合、高調波生成回路100は、例えば、図4(a)に示すように、DSP300と、メモリ310と、から構成される。
ディジタルオーディオ信号が入力されると、DSP300は、メモリ310から、予め記憶された高調派生成処置を読み出し、これを実行する。
【0056】
次に、DSP300の行う高調波生成処理動作を、図4(b)のフローチャートを参照して説明する。
なお、DSPは、所定時間のディジタルデータについて、図4(b)に示す処理を順次実行すると共に、順次供給されるディジタルデータについて、同様の処理を行う。
【0057】
なお、理解を容易にするため、図4(b)では、1つのデータに対する処理を示す。
【0058】
ディジタルオーディオ信号が入力されると、DSP300は、まず、入力されたディジタルオーディオ信号を、このディジタルオーディオ信号のサンプリング周波数の1/4以下に帯域制限する(ステップS101)。次に、DSP300は、帯域制限されたディジタルオーディオ信号を2乗する(ステップS102)。
【0059】
次に、DSP300は、2乗されたディジタルオーディオ信号をDCオフセット補正して、2乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する(ステップS103)。
DSP300は、DCオフセット補正されたディジタルオーディオ信号の振幅を予め設定され、メモリ310に格納されている定数α倍して振幅を調整する(ステップS104)。
DSP300は、振幅を調整されたディジタルオーディオ信号と入力ディジタルオーディオ信号とを加算する(ステップS105)。
【0060】
かかるDSP300の処理によって、入力されたディジタルオーディオ信号を帯域制限した後に2乗し、直流成分を調整し、振幅を調整することで、直流成分の少なく、エイリアシングのない高調波を生成し、それを用いて、再生信号に欠落している倍音を補完することができる。
【0061】
(実施形態4)
上記実施形態1乃至3では、入力されたディジタルオーディオ信号を2乗して2倍音を生成する場合について説明した。この発明は、これに限定されず、実施形態1と同様の処理を行うことにより、2n(nは正の整数)倍音を生成することが可能である。
【0062】
以下、2n倍音を生成する2n倍音生成回路400の実施形態を、図5を参照して説明する。図示するように、2n倍音生成回路400は、LPF11と、2n乗回路21と、減算器30と、乗算器40とから構成される。
ただし、理解を容易にするために、具体的に、4倍音を生成する4倍音生成回路400について説明する。
【0063】
LPF11は、入力されたディジタルオーディオ信号をサンプリング周波数の1/4n,すなわち1/8の周波数に帯域制限する。
【0064】
2n乗回路21は、LPF11によって帯域制限されたディジタルオーディオ信号SLを四乗することにより、4倍音を生成する。
ここで、理解を容易にするため、信号SLがsinθで表されるとすると、次式に示すように、この信号SLを4乗することにより、3/8の大きさの直流成分と、1/2の大きさを持った周波数2θの成分(2倍音)と、1/8の大きさを持った周波数4θの成分(4倍音)と、が生成される。なお、θは周波数を表し、振幅1であるとしている。
(sinθ)=3/8−(1/2)・cos2θ+(1/8)・cos4θ
【0065】
DC値記憶部25は、値+3/8を記憶している。即ちディジタルオーディオ信号SQに含まれる直流成分、即ち、DCオフセット成分の値を記憶している。
減算器30は、2n乗回路21から出力されたディジタルオーディオ信号SSから、DC値記憶部25に記憶されている値+3/8を減算することにより、DCオフセット補正を行う。即ち、直流成分をカットする。上述の例では、{3/8−(1/2)・cos2θ+(1/8)・cos4θ}−(3/8)を求めることにより、直流成分がカットされた−(1/2)・cos2θ+(1/8)・cos4θを求める。
α値記憶部35は、値8/5を記憶している。即ち信号SLの振幅−(1/2)・cos2θ+(1/8)の最大値である8/5を記憶している。
【0066】
乗算器40は、DCオフセット補正された信号STをα倍して出力する。
上述の例では、信号SQ(−1/2)・cos2θ+(1/8)・cos4θを(8/5)倍することにより、−(4/5)・cos2θ+(1/5)・cos4θを出力する。即ち、周波数が4倍の信号を含む、最大値が1のディジタルオーディオ信号Soを生成して出力することができる。
【0067】
次に、上記構成をした4倍音生成回路400の出力するディジタルオーディオ信号について説明する。
【0068】
例えば、振幅が1で周波数442Hzの正弦波を表す信号と、振幅が0.2で周波数12kHzの正弦波を表す信号の合成信号を44.1kHzのサンプリング周波数fsで標本化して作成されたディジタルオーディオ信号Siが4倍音生成回路400に入力したとする。
【0069】
LPF11のカットオフ周波数fcは、サンプリング周波数fsの1/8の周波数、即ち、5.50125kHzに設定されている。LPF11は、ディジタルオーディオ信号Siのうち、12kHzの信号を遮断し、図6に符号SLで示す様に、442Hzの信号を信号SLとして出力する。
【0070】
2n乗回路21は、この信号SLを4乗することにより、図6に符号SQで示す信号を出力する。
【0071】
減算来30は、DC値記憶部25に記憶されている値+3/8を、信号SSから減算することにより、図6に符号SRで示す信号を出力する。
【0072】
乗算器40は、信号SRにα値記憶部35に記憶されている値8/5を乗算することにより、図6に符号Soで示す信号を出力する。
【0073】
図6の符号Soで示される信号を、周波数毎に分解したものを図7に示す。この符号Soで示す信号に含まれる周波数成分は、図7に示すように、原ディジタルオーディオ信号の2倍音と4倍音とからなる。
【0074】
図7に示す信号の対比からも明らかなように、4倍音生成回路400は、入力信号の四次高調波を含む信号を生成して出力することができる。
しかも、LPF11によって、入力信号に含まれている周波数成分のうち、サンプリング周波数fsの1/8以上の周波数については、それをカットし、倍音を生成しないので、エイリアシングが発生しない。
また、2n乗回路21で4乗されることで生成された信号SQは、減算器30でDCオフセット補正されるため、直流成分が少なく、生成された倍音を高調波の補完に用いた場合には、原音に近い再生音を生成することができる。
また、入力信号Siの振幅に対し出力信号の振幅を抑えることができ、生成された倍音を高調波の補完に用いた場合には、原音に近い再生音を生成することができる。
【0075】
このような構成により、簡単な構成で、直流成分が少なく、エイリアシングのない、2n倍音信号の生成が可能である。なお、回路をDSP等のプロセッサで構成することも可能である。
【0076】
さらに、2倍音生成回路、4倍音生成回路、・・・2n倍音生成回路を並列接続し、これらの複数の倍音を並列に生成して加算することにより、低次の倍音から高次の倍音までを生成することも可能である。また、これらの倍音を用いて、信号の補完も可能である。
【0077】
(実施形態5)
非可逆な圧縮において、高周波数帯域の音声は省略或いは抑圧される傾向にある。
このため、高調波のうちでも、比較的低周波域のものはカットされずに、高周波域のものがカットされるというようなことが起こりうる。
このような場合には、乗算器40の出力をHPF(High Pass Filter)に供給し、HPFのカットオフ周波数を、圧縮によりカットされる周波数域の下限値に設定し、カットされた周波数域の高調波のみを通過させ、これを加算器60に供給して原再生信号に加算するようにすればよい。
【0078】
図8に、上記ディジタルオーディオ信号処理装置200の乗算器40と加算器60との間に、HPF510を備えるディジタルオーディオ信号処理装置500を示す。
HPF510は、乗算器40から出力される信号Soのうち、高周波数帯域の高調波のみを通過させて、加算器60に供給する。
加算器60は、HPF510から供給された信号SoHと、入力されたディジタルオーディオ信号Siとを加算して出力する。
【0079】
この再生信号は、D/Aコンバータ70によりアナログ信号に変換され、出力アンプ80により増幅され、放音部90により空気信号に変換され、放音される。
【0080】
このような構成によれば、圧縮により失われた高調波のみを適切に補完することが可能となり、再生音の違和感を抑えることができる。
【0081】
本発明は、上記実施形態1乃至5に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
例えば、本発明の高調波生成回路の構成は、図1,3,4,5,及び8に示す構成に限定されない。
【0082】
例えば、上記実施形態では、減算器30は、ディジタルオーディオ信号から予め設定されている値DF(例えば、入力されたディジタルオーディオ信号Siあるいは信号SLの振幅の2分の1)を減算することで直流成分を除いた。しかし、値は上述の固定値に限定されない。また、ディジタルオーディオ信号SQの移動平均を取ることにより、ディジタルオーディオ信号SQに含まれる直流成分、即ち、DCオフセット成分の値DFを求めてもよい。
【0083】
また、上記実施形態1乃至5は、減算器30でDCオフセット補正された信号STを、乗算器40でα倍するとして説明した。しかし、減算器30の配置と乗算器40の配置とは逆でもよい。
例えば、図9に示すように、実施形態2のディジタルオーディオ信号処理装置200の、高調波生成回路100の減算器30と乗算器40の配置を置き換えてもよい。
図9に示す例では、乗算器20から出力された信号SSを乗算器40によってα倍し、乗算器40から出力される信号STからDC値記憶部25に記憶されている値DFを減算する。ただし、DC値記憶部25に記憶される値DFは、予めα倍されている。
【0084】
また、上記実施形態2では、HPF510によって、生成したディジタルオーディオ信号を高周波数域に帯域制限すると説明した。しかし、所定の周波数帯域の倍音成分を通過させるフィルタであってもよい。
【0085】
また、上記実施例では、純音(正弦波)を標本化したディジタルオーディオ信号を入力した場合について具体的に説明したが、入力されるディジタルオーディオ信号は、楽音や、打撃音・物が壊れる時の音などの振動に一定の規則性が認められにくい音や、これらの集合した音でもよい。
【0086】
なお、本発明に係る高調波生成回路は、回路や専用のDSPではなく、通常のコンピュータシステムを用いても実現可能である。例えば、コンピュータに、上記動作を実行するためのプログラムを、フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk Read−Only Memory)、DVD、MO(Magneto Optical disk)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶して配布し、これをコンピュータシステムにインストールすることにより、上述の処理をコンピュータに実行させても良い。
【0087】
さらに、インターネット上のサーバ装置が有するディスク装置等にプログラムを格納しておき、例えば、搬送波に重畳させて、コンピュータにダウンロード等するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
100,500 高調波生成回路
200 ディジタルオーディオ信号処理装置
300 DSP
400 4倍音生成回路
10,11 LPF
20 乗算器
21 2n乗回路
25 DC値記憶部
30 減算器
35 α値記憶部
40 乗算器
50 プレーヤ
60 加算器
70 D/Aコンバータ
80 増幅アンプ
90 放音器
SW スイッチ
510 HPF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたディジタルオーディオ信号を、所定の周波数以下に帯域制限するステップと、
前記帯域制限されたディジタルオーディオ信号を偶数乗するステップと、
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算するステップと、
を備えることを特徴とする高調波生成方法。
【請求項2】
前記直流成分を減算するステップは、
予め設定された所定の値を減算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の高調波生成方法。
【請求項3】
前記所定の周波数は、前記入力されたディジタルオーディオ信号のサンプリング周波数の前記偶数の2倍分の1の周波数である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高調波生成方法。
【請求項4】
前記偶数乗は2乗である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高調波生成方法。
【請求項5】
前記直流成分を除かれたディジタルオーディオ信号の振幅を調整するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高調波生成方法。
【請求項6】
前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号と、前記入力されたディジタルオーディオ信号と、を加算するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の高調波生成方法。
【請求項7】
前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号を所定の周波数帯域のディジタルオーディオ信号に帯域制限するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項5または6に記載の高調波生成方法。
【請求項8】
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号の振幅を調整するステップを更に備え、
前記直流成分を減算するステップは、前記偶数乗され、かつ、前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高調波生成方法。
【請求項9】
前記直流成分を減算されたディジタルオーディオ信号と、前記入力されたディジタルオーディオ信号と、を加算するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項8に記載の高調波生成方法。
【請求項10】
前記直流成分を減算されたディジタルオーディオ信号を所定の周波数帯域のディジタルオーディオ信号に帯域制限するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項8または9に記載の高調波生成方法。
【請求項11】
前記振幅を調整するステップは、前記直流成分を除かれたディジタルオーディオ信号の振幅を、前記入力されたディジタルオーディオ信号の振幅以下に調整する、
ことを特徴とする請求項5乃至9のいずれか1項に記載の高調波生成方法。
【請求項12】
前記帯域制限するステップは、前記振幅を調整されたディジタルオーディオ信号の低周波数帯域を制限して、高周波数帯域を通過させる、
ことを特徴とする請求項7または10に記載の高調波生成方法。
【請求項13】
前記所定の周波数帯域に帯域制限されたディジタルオーディオ信号と、前記入力されたディジタルオーディオ信号と、を加算するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項7、10及び12のいずれか1項に記載の高調波生成方法。
【請求項14】
入力されたディジタルオーディオ信号を、所定の周波数以下に帯域制限する低域通過フィルタと、
前記帯域制限されたディジタルオーディオ信号を偶数乗する乗算器と、
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する減算器と、
を備えることを特徴とする高調波生成装置。
【請求項15】
コンピュータに、
入力されたディジタルオーディオ信号を、所定の周波数以下に帯域制限する手順と、
前記帯域制限されたディジタルオーディオ信号を偶数乗する手順と、
前記偶数乗されたディジタルオーディオ信号から直流成分を減算する手順と、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate