説明

高速架橋系

【課題】高速架橋系。この架橋系はポリマーに添加したときにポリマーを高い速度で架橋できる。この架橋系は太陽電池モジュールの封止に特に適している。この架橋系は太陽電池モジュールの製造プロセスの生産性を上げるために使用できる。
【解決手段】少なくとも下記(1)と(2)を含む架橋系:(1)80℃〜115℃の範囲内で選択される任意の温度で半減期が1時間である一つの有機過酸化物、(2)一つの共架橋剤。過酸化物の半減期はそれを0.2モル/lの濃度のn−ドデカン中に溶かして測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、有機過酸化物と共架橋剤とを含む架橋系にある。本発明は特に、ポリオレフィンと架橋系とを含む組成物と、この組成物の太陽電池の封止(encapsulant)材料としての使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
架橋性熱可塑性樹脂またはエラストマーには一般に有機過酸化物が用いられる。本明細書ではこの熱可塑性樹脂およびエラストマーを「ポリマー」という。このポリマーを架橋する時には一般に、最初に被架橋ポリマーと過酸化物とを混合し、次の第2段階でポリマーを形成し、第3段階で例えば熱処理して架橋をさせる。
【0003】
過酸化物は室温で液体または固体の形であり、ポリマーと過酸化物の混合は押出機または混練機等を用いて高温すなわちポリマーの軟化点より高い温度で行なわれる。この場合、一般に過酸化物は液体の形をしている。
【0004】
太陽電池モジュールは、光を電流に変換する「太陽電池」とよばれる光応答セルを備えている。この電池は下側保護層および上側保護層によって環境(湿気、酸素等)から保護されている。これらの層は一般にガラスまたはポリマーで作ることができる。電池と保護層は、大抵の場合フィルムの形をしている一層または複数層の封止組成物の層を用いて組み立てることができる。太陽電池モジュールの出力を悪くする空気が存在しないようにするためには、封止組成物がモジュールのセルと他の保護層との間の空間と完全に同じ形状でなければならない。
【0005】
封止組成物はさらに、太陽電池の高い出力を可能にするために可視光に対して十分に透明であるのが有利である。また、透明なガラスまたはプラスチックから成る上側保護層は封止組成物層の上側に配置されるが、現在ではこの保護層のフィルム上の重量が重くなっている。従って、層の厚さが経時的に維持されることが好ましく、そのためには組成物の耐クリープ性を良くして、モジュールを長持ちさせる必要がある。
【0006】
一般に、封止組成物は有機過酸化物によって架橋されるポリマー、一般にエチレンと酢酸ビニルとのコポリマーを含む組成物である。太陽電池パネルの各構成層(セル、1層または複数の過酸化物を含む封止材料層、保護層)を組み立て、組み立てた太陽電池パネルを硬化段階に送り、封止材料層を架橋する。太陽電池モジュールの操作および組成に関しては例えば非特許文献1が参照できる。
【0007】
太陽電池モジュールの製造メーカが直面している他の問題の一つは、硬化段階によってモジュール製造プロセスの収率が低下することである。さらに別の問題は硬化段階の温度を下げて、太陽電池モジュールの製造に必要なエネルギー消費量を減らすのが有利であるということにある。
【0008】
ポリマーを架橋させるためには過酸化物を含む組成物を加熱して過酸化物を活性化するが、この活性化中に気泡が生じることがある。この気泡が多数存在すると組成物の透明性が低下し、セルを良好に封止できないという欠点になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】太陽電池科学および工学の手引き、Wiley,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、太陽電池モジュールの製造プロセスの収率を高くきる新規な解決策を見つけ出す必要がある。本発明の目的の一つは特定の過酸化物の太陽電池モジュールでの使用にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は特に、少なくとも下記(1)と(2)を含むエチレンコポリマーと極性官能基を有するエチレン性モノマーとを架橋する系にある:
(1)80〜115℃の範囲内で選択される所定の温度で半減期が1時間である一つの有機過酸化物、
(2)一つの共架橋剤、
(過酸化物の半減期はそれをn−ドデカン中に0.2モル/lの濃度で溶かして測定する)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の架橋系を使用すると、極性コモノマーを含むポリオレフィンに添加した時にポリマーを急速に架橋できる点で特に有利である。本発明架橋系とポリマーと一緒に用いて太陽電池モジュール用封止材料として用いると、太陽電池モジュールの製造プロセスの収率が著しく良くなり、架橋されたポリマーの最終特性は太陽電池モジュールの封止に最適なものになる。
【0013】
過酸化物は例えば、tert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート、tert-アミル2−エチルペルヘキサノエート、1,1−ジ−(tert-ブチルぺルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビスデカノイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドの中から選択できる。過酸化物はtert-ブチル2−エチルペルヘキサノエートであるのが有利である。
【0014】
共架橋剤は、有機過酸化物とは異なり、少なくとも一種のカルバメート、マレイミド、アクリレート、メタクリレートまたはアリル官能基を有するのが有利である。カルボン酸アリルが使用できる。共架橋剤はアリル、ジアリルおよびトリアリルタイプの化合物にすることができる。共架橋剤はシアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、N,N'−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルトリメリテートおよびトリメチロールプロパン トリメタクリレート、好ましくはシアヌル酸トリアリルから選択するのが有利である。
【0015】
共架橋剤は本明細書ではポリマーの架橋を加速するためではなく、架橋度を上げるために用いる。さらに、共架橋剤は同じ過酸化物の分解中の残留ガス排出量を減らすことができ、最終的に得られる封止フィルム内の気泡の数を減らすことができる。
【0016】
有機過酸化物と共架橋剤との重量比は1:10〜10:1の範囲内であるのが好ましく、1:3〜3:1の範囲内であるのが最も好ましい。
本発明の架橋系はエチレンコポリマーと極性官能基を有するエチレンコモノマーとの架橋で使用できる。
本発明の別の対象は、少なくとも一種のポリマーと本発明の架橋系とを含む組成物にある。
【0017】
ポリマーはポリオレフィン、好ましくはエチレンと極性官能基を有するエチレン性モノマーとのコポリマーであり、このモノマーは好ましくは3〜20個の炭素原子、好ましくは4〜8個の原子を含む。エチレン性モノマーは酢酸ビニルおよびメチル、エチルまたはブチル(メタ)アクリレートの中から選択できる。本発明の組成物のエチレンコポリマーは、コポリマーの全重量に対して10〜60重量%、好ましくは25〜45重量%の極性官能基を有するエチレン性モノマーを含むのが好ましい。
【0018】
本発明の組成物は架橋系の量は組成物の全重量に対して0.1〜10%、好ましくは1〜5%の範囲内であるのが好ましい。
本発明のさらに別の対象は、本発明組成物を含むフィルムにある。
本発明のさらに別の対象は、本発明組成物または本発明フィルムの太陽電池モジュール内の封止材料としての使用にある。
本発明のさらに別の対象は、有機過酸化物、共架橋剤およびポリマーを混合する段階を含み、この段階は一つまたは複数の段階で行うことができる本発明の組成物の製造方法にある。
本発明の組成物の製造方法の極めて有利な変形例の製造方法は、有機過酸化物を含むマスターバッチを、ポリマーおよび共架橋剤と混合する段階を含む。
【0019】
本発明のさらに別の対象は、下記(1)と(2)を含むマスターバッチであって、過酸化物の量(重量)がマスターバッチの全重量に対して5〜30%、好ましくは7〜16%の範囲内であるマスターバッチにある:
(1)ポリマー、好ましくはエチレンと極性官能基を有するエチレン性モノマーとのコポリマー、
(2)n−ドデカン中に0.2モル/lの濃度で溶かして測定される半減期が、80〜115℃の範囲内で選択される任意の温度で1時間である有機過酸化物の中から選択される少なくとも一種の有機過酸化物。この過酸化物は好ましくはtert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート、tert-アミル2−エチルペルヘキサノエート、1,1−ジ−(tert-ブチルぺルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビスデカノイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドから選択される。
【0020】
本発明のマスターバッチは下記段階を含む製造方法によって製造するのが有利である:
(a)過酸化物を接触させる段階、
(b)上記過酸化物をポリマーで吸収してマスターバッチを形成する段階、
(c)このマスターバッチを単離する段階。
本発明の上記以外の利点は以下で詳細に説明する。
【0021】
本発明の対象は、少なくとも下記(1)と(2)とを含む架橋系にある:
(1)80〜115℃、好ましくは90〜105℃の範囲内で選択される所定の温度で半減期が1時間である一種の有機過酸化物、
(2)一種の共架橋剤、
(上記過酸化物の半減期(HL)はそれをn−ドデカン中に0.2モル/lの濃度で溶かして測定される)
【0022】
有機過酸化物の崩壊速度はその半減期によって求めることができる。半減期は所定の温度および時間で溶剤中の濃度に対して与えられる。
所定の半減期を有する過酸化物を用いることによって本発明が解決しようとする課題の少なくとも一つを解決できる高速架橋系が得られる。
【0023】
過酸化物はtert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート(94℃でHL=1h)、tert-アミル2−エチルペルヘキサノエート(92℃でHL=1h)、1,1−ジ−(tert-ブチルぺルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(115℃でHL=1h)、ビスデカノイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドの中から選択するのが好ましい。これらは共架橋剤と組み合わされて架橋速度および架橋度の点で特に効率的な架橋系を構成する。
【0024】
過酸化物は活性化時にポリマー上でフリーラジカルを形成し、それによってポリマー鎖に過酸化物を組み込まずにポリマー鎖を架橋することができる。共架橋剤は過酸化物とは異なる機能をする。共架橋剤はフリーラジカル、例えば有機過酸化物開始剤によって活性化される。すなわち、共架橋剤は過酸化物の分解中に活性化される。従って、共架橋剤は、過酸化物とは違って、ポリマーとの架橋を形成し、架橋ポリマー鎖に組み込まれる。
【0025】
共架橋剤は単官能性または多官能性にすることができる。共架橋剤は少なくとも一種のカルバメート、マレイミド、アクリレート、メタクリレートまたはアリル官能基を有するのが有利である。これらはモル質量が1000g/モル以下、好ましくは400g/モル以下であるのが有利である。カルボン酸アリルが使用できる。共架橋剤はアリル、ジアリルおよびトリアリルタイプの化合物にすることができる。共架橋剤はシアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、N,N'−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルトリメリテートおよびトリメチロールプロパン トリメタクリレート、好ましくはシアヌル酸トリアリルの中から選択するのが有利である。
【0026】
本発明架橋系は必要に応じて有機溶剤を含むことができる。任意タイプの溶剤が使用できる。例えばアルカン、芳香族、アルケン、ハロゲン化またはアルコールタイプの溶剤を使用できる。溶剤分子は1〜12個の炭素原子を含むのが好ましい。溶剤の例としてはデカン、n−ドデカン、2,4,4−トリメチルペンテン、α−メチルスチレン、トリクロロエチレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、(1−メチルエテニル)ベンゼン、2−エチルヘキサノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコールまたはアセトンが挙げられる。溶剤の混合物、例えば上に挙げた溶剤の混合物を用いることもできる。溶剤の量はこの系の全重量の25%以下、さらには10%以下であるのが好ましい。
【0027】
本発明架橋系はポリマーを架橋するのに使用できる。本発明のさらに別の対象は、本発明のポリマーおよび架橋系を含む組成物にある。架橋系が溶剤を含む場合は、ポリマー架橋用の溶剤を用いないのが好ましい。「コポリマー用溶剤」とは、溶剤1ml当たり1gのコポリマーと23℃で1時間接触させたときのポリマーの濃度が溶剤1ml当たり0.05g以上であることを意味する。
【0028】
本発明組成物中に含まれるポリマーは任意のタイプのポリマーにすることができる。このポリマーは例えばポリオレフィンすなわちオレフィンを含むポリマーである。このオレフィンは例えば2〜10個の炭素原子を有するα−オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1またはデセン−1である。
【0029】
ポリオレフィンはエチレンと極性官能基を有するエチレン性モノマーとのコポリマーであるのが好ましい。「エチレン性モノマー」とは、フリーラジカル経路によるプロセスでエチレンと反応しやすい不飽和を含むモノマーを意味する。「極性官能基」とは双極子モーメントを示す官能基、例えばアミン、アルコール、ウレタン、酸、エステルまたは酸または二酸無水物官能基を意味する。
極性官能基を有するエチレン性モノマーは3〜20個の炭素原子、好ましくは4〜8個の炭素原子を含むのが好ましい。
【0030】
コポリマーの例としてはエチレンとカルボン酸ビニルエステルとのコポリマー、エチレンと不飽和カルボン酸とのコポリマー、または、エチレンとアルキルアクリレートおよび/またはメタクリレート(本明細書ではまとめてアルキル(メタ)アクリレートとよぶ)とのコポリマーが挙げられる。エチレン性モノマーは酢酸ビニルおよびメチル、エチルまたはブチル(メタ)アクリレートの中から選択するのが有利である。
【0031】
コポリマー(a)の全重量に対するエチレン性モノマーの量(重量)は1〜70%、有利には10〜60%、好ましくは20〜45%にすることができる。
本発明では、コポリマー(a)中に存在する各種モノマーの量はISO8985(1998)規格を用いて赤外線分光法によって測定できる。
【0032】
ポリオレフィンを製造するために、通常200〜2500バールの圧力で運転するいわゆるフリーラジカル重合法を使用できる。この重合法は2つの主なタイプの反応器、すなわち、オートクレーブ反応器または管状反応器によって工業的に行うことができる。これらの重合方法は当業者に公知であり、例えば、下記文献に記載されている方法が挙げられる。
【特許文献1】フランス国特許第2498609号公報
【特許文献2】フランス国特許第2569411号公報
【特許文献3】フランス国特許第2569412号公報
【0033】
本発明で用いるコポリマー(a)を得るのに用いられる各モノマーの比率は当業者には周知である。
このコポリマーは商品名EVATANE(登録商標)およびLOTRYL(登録商標)で本出願人から市販されている。
【0034】
架橋ポリマーの架橋度は一般にゲル含有量を測定して定量化される。このゲル含有量はASTM規格D2765−01(2006)の方法Aを用いて測定できる。ポリマーのゲル含有量は10以上、好ましくは20以上、例えば50以上であるのが有利である。
【0035】
本発明組成物は添加剤または無機充填剤をさらに含むこともできる。添加剤の例としては可塑剤、抗酸化剤またはオゾン劣化防止剤、静電防止剤、染料、顔料、光学的光沢剤、熱安定剤、光安定剤および難燃剤が挙げられる。
【0036】
被架橋組成物(I)またはポリマーの別の基材に対する接着能をさらに高めるために、本発明組成物はカップリング剤をさらに含むことができる。このカップリング剤は有機、無機、好ましくは半無機および半有機にすることができる。これらの中では有機チタンまたは有機シラン酸塩、例えばモノアルキルチタネート、トリクロロシランおよびトリアルコキシシランが挙げられる。カップリング剤の量は組成物の0.05〜5重量%であるのが好ましい。
【0037】
充填剤としてはクレー、シリカ、タルク、炭酸塩、例えば炭酸カルシウムおよびケイ酸塩、例えばケイ酸ナトリウムが挙げられる。
【0038】
本発明の組成物はフィルムの形態をとることができる。本発明組成物を含む本発明のフィルムは厚さが50〜2000ミクロン、例えば100〜1000ミクロンであるのが好ましい。本発明フィルムはフィルム製造で周知な任意の方法で製造できる。フィルムは例えばフィルム押出、カレンダー加工またはプレスによって製造できる。
【0039】
本発明の組成物またはフィルムの一つの利点は、この組成物またはこのフィルムのポリマーを、従来技術の組成物より低い温度でおよび/またはより迅速なプロセスによって架橋できることにある。さらに、架橋されたポリマーは優れた外観を有し、特に気泡の数が少なく且つ良好な耐クリープ性を有する。
【0040】
これら全ての特性によって、本発明の組成物およびフィルムは太陽電池モジュール内の封止材料として極めて有利に使用できる。
【0041】
本発明のさらに別の対象は、各種成分を混合する段階を含む上記組成物の製造方法にある。本発明組成物は熱可塑性組成物の製造に適した任意の技術によって製造できる。特に、熱可塑性樹脂を混合する通常の技術、例えば混練または押出が挙げられる。混合はポリマーの軟化温度(ASTM規格E 28−99(2004)で測定)より高い温度で行うのが有利である。
【0042】
この温度はさらに、過酸化物の分解温度より低い温度であるのが好ましい。有機過酸化物、共架橋剤、任意成分の添加剤およびポリマーを混合する段階は一つまたは複数の段階で実施できる。すなわち、過酸化物、共架橋剤および任意成分の添加剤を同時にまたは続けて組成物のポリマーと混合できる。
【0043】
本発明組成物の好ましい製造方法では、有機過酸化物を含むマスターバッチ、ポリマーおよび共架橋剤を混合する段階を実施する。本発明のマスターバッチは下記(1)と(2)とを含むことができ、過酸化物の量(重量)がマスターバッチの全重量に対して5〜30%、好ましくは7〜16%の範囲内である:
(1)ポリマー、
(2)n−ドデカン中に0.2モル/lの濃度で溶かすことによって測定される半減期が、80〜115℃の範囲内で選択される任意の温度で1時間である有機過酸化物を有する過酸化物、好ましくはtert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート、tert-アミル2−エチルペルヘキサノエート、1,1−ジ−(tert-ブチルぺルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビスデカノイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドから選択される少なくとも一種の有機過酸化物。
【0044】
本発明のマスターバッチは特に重要である。すなわち、上記の過酸化物は特に不安定であるが、マスターバッチの形態で運搬、貯蔵および取り扱うことができ有利である。このマスターバッチによって、ポリマー、特にポリオレフィンの高速で且つ危険のない架橋が可能になる。
本発明のマスターバッチの製造に有用なポリマーとしては、本発明組成物の製造(その好ましい変形例も含めて)で用いられる既に述べたポリマーと同じポリマーを使用できる。
【0045】
本発明マスターバッチを製造するには、組成物の製造で用いられる既に述べた製造技術と同じ製造技術、すなわち、熱可塑性樹脂を混合する通常の技術が使用できる。
本発明のマスターバッチの製造方法の有利な形態では、本発明方法は下記の段階を含む:
(a)ポリマーの軟化温度(ASTM規格E 28−99(2004)で測定)より低い温度で過酸化物をポリマーと接触させる段階、
(b)過酸化物をポリマーに吸収させてマスターバッチを形成する段階、
(c)このマスターバッチを単離する段階。
【0046】
この方法の一つの利点は、溶融方法とは異なり、ポリマーの軟化温度より低い温度で実施できる点にある。上記この特定過酸化物を含むマスターバッチを、熱可塑性樹脂を混合する技術で製造した場合には、早期(premature)に架橋する現象が観察されるが、本発明の好ましい方法では温度がより低いため、マスターバッチの早期架橋現象が制限される。本発明の好ましい方法で得られたマスターバッチは、熱可塑性樹脂の通常の技術によって得られたマスターバッチより高い透明性を示す。従って、本発明のさらに別の対象は本発明方法で得られるマスターバッチにある。
【0047】
本発明のマスターバッチを使用することによって、既に述べたポリマーの高速架橋が可能になり、太陽電池の封止に最適な最終特性を有する組成物の製造が可能になる。さらに、マスターバッチによる有機過酸化物の導入は、封止ポリマーに液体または固体の過酸化物を直接導入するより容易である。
【0048】
本発明方法の有利な形態でマスターバッチの製造で用いるポリマーは、平均容積が1〜1000mm3、好ましくは3〜120mm3の粒子の形をしている。「粒子」とは任意の形状、例えば球状、回転楕円状または円筒状の形状を有するポリマーピースを意味する。この粒子の少なくとも90重量%はこの好ましい範囲内の容積を有するのが好ましい。
【0049】
この場合は、マスターバッチは粒子の形態で直接得られ。それをマスターバッチとして容易に使用できる。この特定容積を有する粒子を用いるとコポリマーによる過酸化物の吸収が極めて良くなり、粒子間での凝集がほとんど観察されない。
【0050】
本発明のマスターバッチの好ましい製造方法の一変形例では、過酸化物とポリマーとの間に複数回の接触があるか、連続的接触がある。すなわち、プロセス中に過酸化物溶液を複数回注入するか、連続注入する。
【0051】
接触させる(a)段階は任意タイプの容器内で実施できる。容器は接触した後に空けたままでも閉じてもよい。容器の密封は密封でも非密封でもよい。好ましくは容器を密封し、弁を付けるのが好ましい。
(b)段階は、過酸化物溶液を撹拌下にポリマーに吸収する段階である。これは完全吸収であるのが好ましい。「完全吸収」とは、吸収段階後に容器内に残った非吸収過酸化物の容積が5%以下、好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下であることを意味する。
【0052】
吸収時間は一般に10〜600分、好ましくは20〜240分にする。
吸収段階は撹拌せずに実施できる。撹拌する場合には任意の撹拌装置、例えばブレード、プロペラ、スクリューまたは超音波装置または回転またはドラム装置、例えば乾燥器で実施できる。
【0053】
本発明方法の第3段階ではマスターバッチを単離し、このマスターバッチを、過酸化物を含むコポリマーの粒子の形にすることができる。
任意段階として、第3段階で回収した粒子を例えばオーブン、その他の任意の乾燥器内で乾燥する段階を実施できる。この段階は組成物の過酸化物の分解温度より低い温度で実施するのが好ましい。
【0054】
マスターバッチは本発明組成物の製造に使用できる。
本発明の一実施例では、マスターバッチのポリマーはエチレンと酢酸ビニルとのコポリマーであり、被架橋組成物のポリマーはエチレンと酢酸ビニルとのコポリマーである。
【0055】
本発明組成物またはフィルムは太陽電池の封止に使用できる。封止できる太陽電池は全てのタイプである。この太陽電池は例えばアモルファスシリコン、テルル化カドミウム、二セレン化銅インジウムまたは有機材料から形成される薄膜内で、例えば単結晶または多結晶ドープシリコンをベースにすることができる。
【0056】
こうして形成された太陽電池モジュールは前方保護層と後方保護層とを含むのが好ましい。前方保護層は耐摩耗性および耐衝撃性を有し、透明で、太陽電池受光部を外部の湿気から保護するのが好ましい。この層はこれらの特徴を併せ持つガラス、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、その他のポリマー組成物で形成できる。後方保護層は基本的に太陽電池モジュールを湿気から保護する。後方保護層はガラスまたはフルオロポリマー、例えばポリフッ化ビニル(PVF)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むことができる。
【0057】
各種層を組み立てるために、任意タイプのプレス成形技術、例えばホットプレス、真空プレスまたは貼り合わせ、特に加熱貼り合わせを用いることができる。温度および圧力を組成物の流動温度に合わせることによって当業者は製造条件を容易に決定できる。
【0058】
本発明はさらに、下記(1)と(2)の段階を含む太陽電池モジュールの製造方法に関する:
(1)太陽電池の層、封止フィルム(一つまたは複数)および保護層を組み立てる段階(封止フィルムの少なくとも一つは本発明のフィルムである)、
(2)モジュールを硬化させる段階、好ましくは過酸化物の分解温度に等しいまたはそれ以上の温度で硬化させる段階。
【0059】
本発明の組成物またはフィルムを用いて太陽電池モジュールを製造する場合、当業者は例えば上記非特許文献1を参照できる。
【実施例】
【0060】
使用材料
本発明のマスターバッチの実施例を実行するために下記の化合物を用いた:
コポリマー:
その全重量に対して33重量%の酢酸ビニルを含むエチレンと酢酸ビニルとのコポリマー
過酸化物1:
tert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート
過酸化物2:
OO−tert−ブチルおよびO−(2−エチルヘキシル)ぺルオキシカーボネート
共架橋剤:
シアヌル酸トリアリル。
【0061】
マスターバッチの組成:
本発明のマスターバッチ(MB1)および比較例のマスターバッチ(MB2)はマスターバッチの全重量に対して下記組成を有する。
【表1】

【0062】
マスターバッチの製造:
各過酸化物溶液をコポリマー顆粒上へ吸収させた。有機過酸化物(2.2kg)をローラミキサー上でコポリマー(19.8kg)と接触させ、必要に応じて、任意成分のカップリング剤および共架橋剤を閉じた容器内で50℃で接触させた。ローラの回転軸線は水平であり、1分当たり10回転の速度で容器を回転させて混合する。
吸収の開始時に過酸化物溶液の半分を導入し、吸収の30分後に残りの半分を添加する。120分後にポリマー粒子を回収する。過酸化物溶液の粒子への吸収は完了している。n−ヘプタン中で1時間洗浄した後に粒子を分析した。コポリマー中の過酸化物の量はMB1およびMB2用の組成物の全重量の10%である。
【0063】
試験片の調製
本発明のマスターバッチを評価するために、上記成分の混合物すなわちコポリマーとマスターバッチMB1またはMB2および任意成分の共架橋剤との混合物のフィルムを調製する。各成分を押出機で混合する前にバッグ内で予備混合する。次いで、この予備混合物を、フィルムダイを備えた二軸逆回転押出機Haake 1に導入してフィルムを製造する。押出機の温度分布は以下の通り:ホッパ20℃−帯域1:75−帯域2:75−フィルムダイ:75℃、スクリュー速度80回転/分。8cm幅のフィルムが得られる。
【0064】
特性の測定
弾性率はAnton Paar ブランド、physica MCR301モデルの制御された応力プレート−プレートタイプの回転式レオメータによって測定する。厚さが約0.5mmで直径が25mmのフィルムサンプルを、伝導によって加熱された2つの平行板の間に配置する。縦方向軸線を中心に上側プレートを振動回転させることによって、2つのプレートの間に配置されたサンプルに変形を加える。後者はこの変形に、応力を与えることによって、応答する。次いで、変形を維持するために与えられるトルクを測定する。この実験は70℃で開始し、5℃.min-1で150℃まで温度を上げ、次いで、平坦温度を150℃で30分間適用する。全試験期間を通して、弾性変形率G’を、1Hz(6.28rad.s-1)の周波数で0.2%の変形を加えることによって測定する。この弾性率はコポリマー溶融中に減少し、次いで、その架橋中に増加する。
【0065】
G’の最終値の90%に達するのに要する時間を表す基準t90を定義する。すなわち、t90値を比較することによって、配合されたフィルムの架橋速度を定性的に分類できる。G’の最終値も記録する。
上記と同じ熱処理を、応力を加えずに前例と同様に再実施し、架橋中に生成した気泡の数/cm2(N)を記録する。
フィルムの組成および本発明のこれらの各種組成物(EX1〜EX7)または比較例の組成物(CP1〜CP3)で得られた結果は[表2]にまとめてある。
【0066】
【表2】

【0067】
この試験から、本発明の過酸化物(過酸化物1)は組成物のより高速な架橋を可能にすることがわかる。太陽電池モジュールの生産性を上げるために、太陽電池モジュール内の封止組成物として使用するのが特に有利である。この試験からさらに、組成物の架橋中に生成した気泡の数を減らすことができ、架橋された組成物の機械強度を上げることができる。これも太陽電池用封止材料として使用する上での利点である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(1)と(2)を含むエチレンコポリマーと極性官能基を有するエチレン性モノマーとを架橋する系:
(1)80〜115℃の範囲内で選択される任意の温度で半減期が1時間である一種の有機過酸化物、
(2)一種の共架橋剤、
(上記過酸化物の半減期はそれをn−ドデカン中に0.2モル/lの濃度で溶かし測定する)
【請求項2】
有機過酸化物が、tert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート、tert-アミル2−エチルペルヘキサノエート、1,1−ジ−(tert-ブチルぺルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビスデカノイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドの中から選択される請求項1に記載の架橋系。
【請求項3】
共架橋剤がシアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリアリルトリメリテートおよびトリメチロールプロパン トリメタクリレート、好ましくはシアヌル酸トリアリルの中から選択される請求項1または2に記載の架橋系。
【請求項4】
有機過酸化物と共架橋剤との重量比が1:10〜10:1、好ましくは1:3〜3:1の範囲内にある請求項1〜3のいずれか一項に記載の架橋系。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の架橋系の、エチレンコポリマーと極性官能基を有するエチレンコモノマーとの架橋での使用。
【請求項6】
少なくとも一種のポリマーと請求項1〜5のいずれか一項に記載の架橋系とを含む組成物。
【請求項7】
ポリマーがポリオレフィン、好ましくはエチレンと極性官能基を有する、好ましくは3〜20個の炭素原子、好ましくは4〜8個の原子を含むエチレン性モノマーとのコポリマーである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
エチレン性モノマーが酢酸ビニルおよびメチル、エチルまたはブチル(メタ)アクリレートの中から選択される請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
コポリマーが、コポリマーの全重量に対して10〜60重量%、好ましくは25〜45重量%の極性官能基を有するエチレン性モノマーを含む請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
架橋系の量が、組成物の全重量に対して0.1〜10%、好ましくは1〜5%の範囲内である請求項6〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の組成物を含むフィルム。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の組成物または請求項11に記載のフィルムの太陽電池モジュールの封止材料としての使用。
【請求項13】
有機過酸化物、共架橋剤およびポリマーを混合する段階を含み、この段階を一回または複数の段階で行う請求項6〜10のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項14】
有機過酸化物とポリマーを含むマスターバッチと共架橋剤とを混合する段階を含む請求項13に記載の組成物の製造方法。
【請求項15】
下記(1)と(2):
(1)エチレンと極性官能基を有するエチレン性モノマーとのコポリマーと、
(2)n−ドデカン中に0.2モル/lの濃度で溶かして測定した半減期が80〜115℃の範囲内で選択される任意の温度で1時間である有機過酸化物、好ましくはtert-ブチル2−エチルペルヘキサノエート、tert-アミル2−エチルペルヘキサノエート、1,1−ジ−(tert-ブチルぺルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビスデカノイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドから選択される少なくとも一種の有機過酸化物、
を含むマスターバッチであって、過酸化物の量がマスターバッチの全重量に対して5〜30重量%、好ましくは7〜16重量%の範囲内にあるマスターバッチ。
【請求項16】
請求項15に記載のマスターバッチの製造方法:
(a)過酸化物を接触させる段階、
(b)上記過酸化物をポリマーに吸収させてマスターバッチを形成する段階、
(c)得られたマスターバッチを単離する段階。

【公表番号】特表2013−512983(P2013−512983A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541553(P2012−541553)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052498
【国際公開番号】WO2011/067504
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】