説明

高重合度ポリエステルの製造方法

【課題】 ポリエステルの固相重合速度を速めることにより、短時間で、高重合度のポリエステルを製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】 芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とを主体とするポリエステルプレポリマーのストランドをカッティングし、得られるペレットを、結晶化温度以上、融点以下の温度にて固相重合するポリエステルの重合方法において、カッティングする前のストランドに延伸処理を施すことを特徴とする高重合度ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相重合の反応速度を向上させ、迅速に高重合度のポリエステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートはその優れた機械的特性及び化学的特性のため、衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、写真用、コンデンサー用等のフイルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。
【0003】
ところで、タイヤコード、ベルト等の産業資材用繊維及び食品、化粧品等の包装、充填に使用されるフイルムや中空容器等に供するポリエステルは、製品の高強力化、溶融成形性の向上等を図るため、重合度を十分高くすることが必要である。
【0004】
高重合度ポリエステルを得る方法としては、溶融重合したポリエステル(プレポリマー)のペレットを減圧下又は不活性ガス流通下にポリエステルの融点以下の温度で加熱して固相重合し、高重合度化する方法が一般的である。
【0005】
固相重合速度に影響する因子として一般に知られているものには、プレポリマーの化学的性質及び結晶化度、ペレットの形状及び大きさ、反応温度、真空度又は不活性ガスの流量及び流速等がある。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合、ポリマー主鎖中のジエチレングリコール単位が少なく、末端カルボキシル基濃度の比較的高いプレポリマーを使用し、ペレットの粒径を小さくし、できるだけ融点に近い高温で、かつ高真空下で反応させると固相重合速度が速くなる。
【0006】
しかし、ペレットを溶融成形に供する場合に、その形状がある程度制限されるので、ペレットを微細化することはできない。また、ペレットが融着する場合があるので、固相重合時の反応温度を融点付近まで高く設定することはできない。さらに、固相重合時に高真空度にすると、設備コストや運転コストが嵩むという問題がある。
【0007】
特に、イソフタル酸等を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルのような融点の低いポリエステルは、反応温度を高くできないため、固相重合反応を長時間行わないと高重合度化しない。そのため、生産性が悪いばかりでなく、ポリエステルの色調が著しく悪化するという問題があった。
【0008】
これらの問題を解決する方法として、ポリエステルの重縮合反応時に熱安定剤であるスピロリン化合物を添加し、固相重合時の熱分解を抑制することにより反応速度を向上させるという方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、アンチモン化合物を触媒とするポリエステルでは、スピロリン化合物の添加量が多いと黒ずみが顕著になるため、その使用量が制限され、固相重合速度向上の効果が十分に得られない場合があるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−128370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリエステルの固相重合速度を速めることにより、短時間で、高重合度のポリエステルを製造することのできる方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の課題を解決するために検討した結果、ポリエステルプレポリマーの固相重合において、ペレットにカッティングする前のストランドに延伸処理を施すことにより、これより得られるペレットが固相重合速度が向上することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とを主体とするポリエステルプレポリマーのストランドをカッティングし、得られるペレットを、結晶化温度以上、融点以下の温度にて固相重合するポリエステルの重合方法において、カッティングする前のストランドに延伸処理を施すことを特徴とする高重合度ポリエステルの製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高重合度のポリエステルを迅速に、かつ操業性良く製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルは、エチレンテレフタレート単位を主体とするのが好ましく、芳香族ジカルボン酸成分として、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等を、またアルキレングリコール成分として、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ペンタエリスリトール等を、さらに4−ヒドロキシ安息香酸のようなオキシカルボン酸等を共重合成分として併用してもよい。
【0013】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料、酸化セリウムのような耐光性改良剤、難燃剤、制電剤、抗菌剤、セラミック等種々の改質剤や添加剤を含有していてもよい。
【0014】
本発明においては、ポリエステルプレポリマーのストランドをカッティングしてペレット化する前に、延伸処理する必要がある。延伸温度は、ガラス転移温度より5〜15℃低い温度が好ましく、延伸倍率は3倍以上が好ましい。延伸温度がガラス転移温度より高いとストランドが軟化し配向結晶化しにくくなり、逆に低すぎると延伸できずにストランドが切断してしまう場合がある。また、延伸倍率が3倍未満であると、ポリエステルの配向結晶化が不十分となり、目標とする効果が得られない場合がある。
【0015】
ストランドの延伸処理方法としては、例えば反応缶から払い出したポリエステルのストランドを冷却バスに通過させ、上述の温度と延伸倍率で、ローラー間にて延伸処理する方法が挙げられる。延伸処理したストランドは、常法どおりカッティングすることにより、ペレット化することができる。
【0016】
産業資材用繊維、食品、化粧品等の包装、充填用のフイルムや中空容器等に供するには、ポリエステルは、通常極限粘度0.75以上の高重合度のものであることが好ましい。そのため、極限粘度が0.42〜0.72であるプレポリマーのペレットを常法によって固相重合する。プレポリマーの極限粘度が0.42未満では固相重合に時間がかかり経済的でなく、また溶融重合で極限粘度が0.72を超えるプレポリマーを製造するには、高温で長時間重合しなければならず、色調の悪化が起こる場合がある。
【0017】
なお、イソフタル酸や1,4−シクロヘキサンジメタノール等を5〜20モル%共重合したポリエステルは、完全な非晶性ではないが結晶性が低く、後述の方法で測定した融解吸熱量が0.5〜25J/gと小さい。このようなポリエステルを固相重合する場合、通常の方法ではペレットのブロッキングが避けられないため、操業性が非常に悪いものとなる。
【0018】
しかし、低結晶性のポリエステルでも、本発明の方法にて、ストランドに延伸処理を施し、好ましくは融解吸熱量が30J/g以上となる水準まで配向結晶化すれば、固相重合工程でのペレットのブロッキングを完全に抑制することができる。
【0019】
本発明の方法で得られるポリエステルは、高強度の繊維を与えることから、タイヤコード、ベルト等の産業資材用繊維の製造に好適に用いられ、また、アセトアルデヒド含有量が少なく、溶融成形性が良好であることから、食品、化粧品等の包装、充填用のフイルムや中空容器等の製造に好適に用いられる。
【0020】
次に、本発明の高重合度ポリエステルの製造方法について、一例を用いて説明する。
【0021】
まず、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールをエステル化反応またはエステル交換反応させ、ここで得られたポリエステルオリゴマーと、重合触媒等を重合反応器に移し、減圧下で溶融重縮合反応を行う。
【0022】
触媒としては、通常アンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、コバルト等の金属化合物が用いられ、重縮合反応は0.12〜12hPa程度の減圧下、250〜290℃の温度で、所定の極限粘度のものが得られるまで行われる。
【0023】
重縮合反応終了後、反応缶から払い出したポリエステルのストランドを、冷却バスで室温程度まで冷却した後、まず第1ローラーを通過させ50〜80℃に加温し、続いて第1ローラーより回転速度が速い第2ローラーを通過させることにより、3倍〜10倍に延伸処理する。次に、このストランドをカッティングすることによってペレット化する。
【0024】
固相重合は、不活性ガス雰囲気下又は6.5hPa以下の減圧下で行い、固相重合温度はポリマーの融点より10℃以上低い温度とすることが必要であり、ポリエチレンテレフタレートの場合、180〜230℃で行うことが好ましい。これより高い温度で固相重合するとポリマーが融着し、好ましくない。
【0025】
本発明の方法によれば、ポリエステルの組成を問わず、固相重合速度が非常に速くなる。この理由としては、プレポリマーのストランドを延伸処理することにより、ポリマー中に細かなボイドが発生し、実質表面積が増大するためであると考えられる。
【0026】
また、結晶性が低いポリエステルを固相重合する場合、通常ペレットのブロッキングが問題となることが多いが、本発明の方法では、延伸処理によってポリエステルの配向結晶化が進行しているために、ブロッキングが抑制され、操業性良く固相重合製品を得ることができる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、実施例および比較例中のポリエステル特性値の測定法は、以下のとおりに行った。
(a)極限粘度(〔η〕):
フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した。
(b)ガラス転移点、融点、融解吸熱量:
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC−2型)を用いて、昇温速度10℃/minで測定した。
【0028】
実施例1
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
このPETオリゴマー60kgを重縮合反応缶に移送した後、三酸化アンチモンを17g(全酸成分1モルに対して2×10-4モルとなる量)添加し、反応器を徐々に減圧にして60分後に1.2hPa以下とし、温度280℃で攪拌しながら2時間重合反応を行った。
次に、反応缶から払い出したポリエステルプレポリマーのストランドを、冷却バスで室温程度まで冷却した後、まず第1ローラーを通過させ70℃に加温し、第1ローラーと第2ローラー間で、5倍に延伸処理した。続いて、このストランドをカッティングすることによりペレット化した。
次いで常法に従い、0.65hPa、230℃の条件で、8時間固相重合することにより極限粘度が1.07のポリエステルを得た。
【0029】
実施例2
実施例1と同様の方法で得たPETオリゴマー60kgを重縮合反応缶に移送した後、1,4−シクロヘキサンジメタノールを2.6kg(全グリコール成分に対して6モル%となる量)、二酸化ゲルマニウムを13g(全酸成分1モルに対して4×10-4モルとなる量)、それぞれ添加し、260℃で40分溶融保持した後、三酸化アンチモンを22g(全酸成分1モルに対して2.5×10-4モルとなる量)と、抗酸化剤として「イルガノックス1010」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、ヒンダードフェノール系抗酸化剤)を0.35kg(生成するポリマーに対して0.6質量%となる量)添加し、反応器を徐々に減圧にして60分後に1.2hPa以下とし、温度275℃で攪拌しながら4時間重合反応を行った。
次に、反応缶から払い出したポリエステルプレポリマーのストランドを、冷却バスで室温程度まで冷却した後、まず第1ローラーを通過させ70℃に加温し、第1ローラーと第2ローラー間で、3倍に延伸処理した。続いて、このストランドをカッティングすることによりペレット化した。
次いで常法に従い、0.65hPa、210℃の条件で、24時間固相重合することにより極限粘度が1.10のポリエステルを得た。
【0030】
実施例3
エステル化反応缶に、イソフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/3.1のスラリーを供給し、温度200℃で3時間エステル化反応を行い、イソフタル酸とエチレングリコールの反応溶液を得た。
実施例1と同様の方法で得たPETオリゴマー55kgを重縮合反応缶に移送した後、上記のイソフタル酸とエチレングリコールの反応溶液を7.7kg(全酸成分に対して8モル%となる量)、二酸化ゲルマニウムを7.8g(全酸成分1モルに対して2.5×10-4モルとなる量)、それぞれ添加し、反応器を徐々に減圧にして60分後に1.2hPa以下とし、温度280℃で攪拌しながら2時間30分重合反応を行った。
次に、反応缶から払い出したポリエステルプレポリマーのストランドを、冷却バスで室温程度まで冷却した後、まず第1ローラーを通過させ60℃に加温し、第1ローラーと第2ローラー間で、5倍に延伸処理した。続いて、このストランドをカッティングすることによりペレット化した。
次いで常法に従い、0.65hPa、210℃の条件で、18時間固相重合することにより極限粘度が0.88のポリエステルを得た。
【0031】
実施例4
実施例1と同様の方法で得たPETオリゴマー51kgを重縮合反応缶に移送した後、実施例3と同様の方法で得たイソフタル酸とエチレングリコールの反応溶液を15kg(全酸成分に対して16モル%となる量)、二酸化ゲルマニウムを7.8g(全酸成分1モルに対して2.5×10-4モルとなる量)、それぞれ添加し、反応器を徐々に減圧にして60分後に1.2hPa以下とし、温度280℃で攪拌しながら3時間重合反応を行った。
次に、反応缶から払い出したポリエステルプレポリマーのストランドを、冷却バスで室温程度まで冷却した後、まず第1ローラーを通過させ60℃に加温し、第1ローラーと第2ローラー間で、8倍に延伸処理した。続いて、このストランドをカッティングすることによりペレット化した。
次いで常法に従い、0.65hPa、180℃の条件で、44時間固相重合することにより極限粘度が1.00のポリエステルを得た。
【0032】
比較例1〜4
重縮合反応後、反応缶からポリエステルを常法により払い出し、延伸処理せずにペレット化した以外は実施例1〜4と同様に実施して、所定極限粘度を有する固相重合ポリエステルを得た。
【0033】
実施例及び比較例におけるプレポリマーの各特性値、延伸条件、固相重合条件、固相重合後の極限粘度、ペレットのブロッキング状況等を併せて表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、実施例1〜4では比較例1〜4と比べ、固相重合速度が速いため、短時間で高重合度のポリエステルを得ることが可能であり、また、ペレットのブロッキングが全く発生しないため、操業性良く固相重合製品を得ることができた。
【0036】
一方、比較例1〜4では、プレポリマーに延伸処理を施していないために、固相重合時間が長時間必要となった。また、プレポリマーが共重合ポリエステルである比較例2〜4では、固相重合装置内でペレットのブロッキングが認められた。特に、共重合割合が高くプレポリマーの結晶性が非常に低い比較例4では、装置内へのペレットの付着が著しいため、連続の運転が困難となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とを主体とするポリエステルプレポリマーのストランドをカッティングし、得られるペレットを、結晶化温度以上、融点以下の温度にて固相重合するポリエステルの重合方法において、カッティングする前のストランドに延伸処理を施すことを特徴とする高重合度ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
延伸処理後にストランドの融解吸熱量が30J/g以上になるように、ストランドに延伸処理を施すことを特徴とする請求項1記載の高重合度ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
融解吸熱量が0.5〜25J/gであるポリエステルプレポリマーのストランドに延伸処理を施すことを特徴とする請求項1または2記載の高重合度ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−28362(P2006−28362A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210011(P2004−210011)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】