説明

高Si含有の方向性電磁鋼板の冷間圧延方法

【課題】Siを3.2質量%以上含む方向性電磁鋼板の製造における冷間圧延において、鋼板の破断を防ぐ冷間圧延方法を提供する。
【解決手段】質量%で、Siが3.2%以上、4.0%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延し、その後、熱処理を施し、続いて、デスケリーリングを施し、その後、一回以上の冷間圧延を施し、次いで、脱炭・一次再結晶焼鈍、焼鈍分離剤塗布、二次再結晶焼鈍、平坦化焼鈍を施す一連の工程を有する方向性電磁鋼板の製造における冷間圧延方法において、冷間圧延を可逆冷間圧延機で行い、かつ、一パス目の冷間圧延を、局部伸びが2.5%以上となる冷間圧延率で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の冷間圧延方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に変圧器の鉄芯として使用される方向性電磁鋼板の冷間圧延性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は、大きく、無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板に分類される。前者は、主に、モータ、発電機等の回転機器の鉄芯材料として使用され、後者は、主に、変圧器等の静止機器の鉄芯材料として使用されている。
【0003】
電磁鋼板の電磁気的特性は、機器のエネルギー損失を減じるためには“鉄損が低いこと”、機器の小型化のためには“磁束密度が高いこと”が求められる。近年の省エネルギーの要請に基づき、更なる低鉄損電磁鋼板が求められるようになっている。
【0004】
電磁鋼板の鉄損は、非特許文献1に記載されているように、渦電流損と履歴損とからなる。方向性電磁鋼板において、渦電流損を低減するためには、板厚を減じること及び固有抵抗を増すこと(具体的方法の一つとして高合金化、特に高Si化)が必要である。履歴損を低減するためには、Goss方位集積度の向上、不純物・内部歪の低減が有効である。
【0005】
一般に、鉄鋼材料において、Si含有量を増加して高合金化すれば、脆くなることが知られているが、金属材料(特に、鉄鋼材料)の工業生産において、延性(靭性)に影響する因子は、次のように分類することができる。
【0006】
(A)環境(外的)因子:試験温度、形状(サイズ)、加工(歪)速度等。
【0007】
(B)母相因子(純粋金属相の物性値、粒内強度):成分、相、及び/又は、析出物を含む格子欠陥等。
【0008】
(C)多結晶体としての組織因子(粒界強度):結晶粒径、粒界強度、集合組織等。
【0009】
方向性電磁鋼板の製造では、所要の磁気特性を確保するために、製造条件に係る因子は固定(規定)され、鉄損特性の向上のために、それとはほぼ独立に、Si含有量を増加することが行われている。したがって、高Si材の冷間圧延性を高めて、工業生産を確実に行うためには、上記(A)〜(C)の因子単独の影響を考慮するではなく、(A)〜(C)の因子が相互に影響し合って得られる効果を見出す必要がある。
【0010】
例えば、方向性電磁鋼板の製造においては、一次再結晶集合組織の観点から、脱炭焼鈍工程までは、Cを0.025〜0.09%程度含有せしめ、冷却速度を確保するので、熱間圧延鋼帯を焼鈍した後の金属組織は、パーライト、ベイナイト、及び、にフェライト相が混在し、その粒径は10〜50μm程度であるので、結晶粒径の微細化による延性向上効果は望めない。
【0011】
さらに、磁気特性は、製品の二次再結晶集合組織・粒径に大きく依存し、それらの適正化には、二次再結晶の二大要素であるインヒビターと一次再結晶集合組織の適正化が重要である。
【0012】
特に、一次再結晶集合組織は、成分組成等、色々な因子に依存するが、最近、例えば、一次再結晶焼鈍の加熱速度と冷延圧下率の相関関係が見出され、冷間圧延率を大きくすることが試みられている(特許文献1、参照)。それ故、熱間圧延鋼帯の厚みを厚くする傾向にあり、冷間圧延での破断頻度が、Si含有量の増大に伴って急増しているのが現実である。
【0013】
このような背景の下に、方向性電磁鋼板の分野では、従前、質量で約3%のSiを添加していたが、さらに、固有抵抗増加のためにSi含有量を増加する要請が増し、今や、3.2%を超えるようになっている。Si含有量が3.2%を超えると、鋼板は著しく脆くなり、冷間圧延性が悪化する。
【0014】
このため、工業生産においては、かなりの困難を省みず圧延を行っているのが現実である。それ故、この課題を解決するための技術開発が求められている。
【0015】
ところで、3.2%以上のSiを含む方向性電磁鋼板の冷間圧延性・生産性を改善するために、従前から、(a)鋼板の表面・端面の品位を向上させる、及び/又は、(b)圧延直前の鋼板の温度を上げる、ことが行われている。
【0016】
(a)については、トリミングの刃のメンテナンスを充分に行い、edgeクラック(耳割れ)を低減する方法、さらに、トリミングを高温度で、及び/又は、熱延鋼帯熱処理前に行う方法がある。また、スラブ段階での表面疵の手入れや、熱間圧延での飛込み疵対策で、表面欠陥を低減する方法がある。
【0017】
(b)については、例えば、冷間圧延前にコイルをホットバス(温水槽)に浸漬する方法等で温度を上げる方法、又は、熱処理後室温まで冷却せずに、比較的高い温度(望ましくは50℃超)のままで、直ちに冷間圧延を開始する方法等がある。
【0018】
しかし、これらの方法を完璧に行っても、鋼板特有の性質に起因して、破断・割れがしばしば生じる。特に、Siが3.2%を超えた場合、二パス目の圧延開始時に、破断・割れが多く発生する。
【0019】
さらに、特許文献2に開示されているように、熱間圧延鋼帯の焼鈍と冷間圧延の間で、鋼帯を温間に保持することは、磁気特性の点から好ましくないので、高Si含有の方向性電磁鋼板の製造において、冷間圧延性の向上策が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第3943837号公報
【特許文献2】特公昭50−026493号公報
【特許文献3】米国特許2599340号公報
【特許文献4】特公昭40−015644号公報
【特許文献5】特公昭51−013469号公報
【特許文献6】特公昭61−060896号公報
【特許文献7】特許第3481491号公報
【特許文献8】特公昭54−013846号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】金属Vol.72(2002)No.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、Siを3.2%以上、4.0%以下含有する方向性電磁鋼板の製造において、所要の磁気特性を確保するために、規定された成分組成、熱処理条件、冷延前厚みを前提に、冷間圧延性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、冷間圧延での鋼板の破断状況を鋭意調査した。その結果、一パス目の冷間圧延率が大きい場合、二パス目の圧延の開始時において鋼板をリールに巻き付ける際、鋼板に割れが発生し、この割れが起点となって破断が発生することを見出した。
【0024】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、次のとおりである。
【0025】
質量%で、Siが3.2%以上、4.0%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、その後、熱処理を施し、続いて、デスケリーリングを施し、その後、一回以上の冷間圧延を施し、次いで、脱炭・一次再結晶焼鈍、焼鈍分離剤塗布、二次再結晶焼鈍、平坦化焼鈍を施す一連の工程を有する方向性電磁鋼板の製造における冷間圧延方法において、冷間圧延を可逆冷間圧延機で行い、かつ、一パス目の冷間圧延を、局部伸びが2.5%以上となる冷間圧延率で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の冷間圧延方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、Si量が3.2%を超える方向性電磁鋼板を可逆冷間圧延機で圧延する際、一パス目の冷間圧延率を適正化するで、鋼板の冷間圧延性を著しく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】鋼帯厚み及び冷間圧延率と、脆化の程度の関係を概念的に示す図である。実線は、伸びと冷間圧延率の関係を示し、破線は、鋼帯の厚みと表面の張力の関係を示す。
【図2】Si含有量別に、冷間圧延率と局部伸びの関係を示す図である。
【図3】Si含有量別に、局部伸びと、冷間圧延時の巻付け割れ破断率(1000トン当たりの破断回数)の関係を示す図である。局部伸び2.5%が、破断率3回/1000トンに対応する。この破断率は、実生産では、40コイルに一回の破断になり、この値以下を良好とする。
【発明を実施するための形態】
【0028】
前述したように、本発明者らは、冷間圧延での鋼板の破断状況を鋭意調査した。その結果、一パス目の冷間圧延率が大きい場合、二パス目の圧延の開始時において鋼板をリールに巻き付ける際、鋼板に割れが発生し、この割れが起点となって破断が発生することを見出した。以下、詳細に説明する。
【0029】
(X) 本発明者らは、冷間圧延で発生する破断・割れの形態を鋭意調査した。冷間圧延工程は、材料力学的には、(1)円筒形リールへの巻き付け・解き、(2)ロールによる圧下、及び、(3)リールによる張力付与の3要素の有機的な連携で、鋼板を、所定の厚みに減厚する。
【0030】
まず、本発明の主題である“(1)円筒形リールへの巻き付け”に係る“曲げ加工”について説明する。
【0031】
一般に、厚みのある金属材料を曲げる場合、外表面では張力が働き、内表面では、圧縮力が働く。板厚をt、巻付けリールの直径をDとすると、鋼帯最表層での歪量ξは、ξ=t/(D+t)である。これは、近似的には、ξ≒t/D−(t/D)2であるが、一般に、リール径は、D=508mm(20インチ)の場合が多く、板厚は、t=1.8〜4.0mmであるので、t≪Dとなり、ξ≒t/Dとしてよい。
【0032】
即ち、鋼帯最表層での歪量ξは、板厚tに比例して大きくなる。このξの大きさが、材料の降伏歪以上であると、塑性変形が生じ、また、さらに伸び以上であると破断する。この現象は、内表面では、同様な力(歪)が対称的に圧縮として働く。
【0033】
ところで、可逆式冷間圧延機では、左右に夫々1つ以上の円筒形リールを配置し、そのリール間に、圧下スタンドを配置している。したがって、上述の如く、板厚を薄くするか、リール径を大きくすると、ξが小さくなり、破断の可能性が低下する。
【0034】
(Y) 次に、材料そのものの性質につき、通常の鋼材においては、冷間加工度が大きくなると、加工硬化して伸び(靭性・延性)が低下する。この現象は、加工度と硬化度は、単調減少関係にあり、加工の蓄積を考慮すると、指数関数的な関係になる。
【0035】
このように、材料の圧延性に関して総合的に勘案すると、鋼帯厚みと加工度は、トレードオフ(二律背反)の関係になる。本発明者らが、鋭意検討したところ、冷間圧延工程では、曲げ(鋼帯の厚み因子)のみではなく、鋼材の機械試験値に大きく依存することが判明した。
【0036】
次に、本発明者らが見出した知見、即ち、“破断は、一パス目の圧下率が大きい場合において、二パス目の開始時の巻付け割れを起因にして多く発生する”について考察する。
【0037】
板厚が影響する曲げによる脆化は、板厚に比例し、一方、加工硬化による脆化は、加工度(圧下率)と指数関数的な関係に従う。本発明者らは、この二つの単調現象を最適化する最適点があることを見出した。
【0038】
図1に、鋼帯厚み及び冷間圧延率と、脆化の程度の関係を概念的に示す。実線は、伸びと冷間圧延率の関係を示し、破線は、鋼帯の厚みと表面の張力の関係を示す。伸びは、冷間圧延率が高いと小さく(脆化)、冷間圧延率が低いと大きい。
【0039】
一方、鋼板表面の張力は、鋼帯の厚みに比例する。この二つの関係の合成で、二パス目の圧延性が規定される。本発明者らは、その合成関数は極小値を有し、その極小点を達成する条件が好ましい条件であることを見出した。
【0040】
そして、二パス目の圧延の開始時に割れが多いことに注目して検討した結果、二パス目の板厚がある程度厚いことが必要であることを見出した。そこで、Si含有量が異なる方向性電磁鋼板の熱間圧延焼鈍鋼帯について、冷間圧延率と局部伸びの関係を調査した。その結果を図2に示す。図2から、局部伸びが、その指標として重要であることが解る。
【0041】
ここで、Siの含有量について説明する。なお、以下、成分組成に係る%は、質量%を意味する。
【0042】
Si含有量は、質量で3.2%以上とする。3.2%未満では、本発明を適用しなくても、冷間圧延性に大きな問題は生じない。Si含有量が4.0%を超えると、冷間圧延以外の工程でも、鋼帯の通板性に課題が生じ、工業生産に適さない。Si含有量が3.6%以上、4.0%の場合、本発明を適用すれば、破断率は減少するが、工業生産では限界に近いので、Si含有量は、望ましくは3.6%以下である。
【0043】
本発明は、二次再結晶現象を活用する方向性電磁鋼板の冷間圧延性全般に関するものであるので、インヒビター形成元素(粒成長抑制剤)の種類は規定しない。インヒビター形成元素の量は、公知の技術に依ればよい。
【0044】
例えば、二次再結晶を良好ならしめるために、Al、N、Mn、S、Se、Sb、Sn、Bi、B等を、0.003〜0.040%程度、組み合せて添加する。さらに、インヒビターの造り込みは、完全固溶型、充分析出型のどちらでもよい。
【0045】
また、脱炭・一次再結晶後の窒化の有無も問わない。即ち、例えば、特許文献3〜7のいずれかの製造方法にも限定しない。本発明は、方向性電磁鋼板の冷間圧延全般に関して適用できるものでる。
【0046】
Si以外の成分を含有する場合は、下記の含有量範囲とすることが好ましい。
【0047】
Cは、0.025%より少ないと一次再結晶集合組織が適切でなくなり、0.09%を超えると脱炭が困難になり工業生産に適していない。
【0048】
Alを含有する場合は、酸可溶性AlがNと結合してAlNを形成し、主に、一次・二次インヒビターとして機能する。酸可溶性AlNは、窒化前に形成されるものと、窒化後、高温焼鈍時に形成されるものがある。この両方のAlNの量を確保するために、Alは、0.022〜0.033%が好ましい。0.033%を超えると、二次再結晶不良が生じ易くなり、0.022%より少ないと、Goss方位集積度が著しく劣化する場合がある。
【0049】
後工程での窒化を前提とする場合、インヒビターの造込み方で、N含有量は異なるが、完全固溶型では0.006%以下が望ましく、充分析出型では0.006%以上が望ましい。
【0050】
Mnが0.03%より少ないと、熱延鋼帯で割れが発生し易く、歩留まりが低下し、二次再結晶が安定しない。完全固溶型の場合、Mnが0.09%を超えると、MnS、MnSeが多くなり、固溶の程度が場所により不均一となって、実工業生産における安定生産に問題が生じる。一方、充分析出型の場合は、Mnが0.08%以上でないと、二次再結晶が安定しない。
【0051】
S及びSeは、Mnと結合して、インヒビターとして作用し、また、AlNの析出核としても有用である。完全固溶型の場合、Seq=S+0.406×Seで、0.010〜0.027%含有することが好ましい。充分析出型の場合、Seqは、0.010%以下が好ましい。Seqが規定の範囲外の場合は、二次再結晶が不良になる。
【0052】
Sn及びSbは、一次再結晶集合組織の改善に有効である。また、Sn及びSbは、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化ならしめ、二次再結晶粒径を小さくする効果がある。Sn及びSbが、合計で0.02%未満であると、添加効果が極めて小さい。一方、Sn及びSbが、合計で0.30%を超えると、脱炭焼鈍時に酸化され難くなり、脱炭を著しく阻害し、また、グラス皮膜形成が不十分となる。
【0053】
熱間圧延鋼帯の冷間圧延前の焼鈍は必須である。この焼鈍は、通常、950〜1170℃の間で30〜240秒程度行う。この焼鈍は、所定の磁気特性を得るために必須の焼鈍であり、鋼帯の組織・インヒビターの適正化・均一化が目的である。熱間圧延鋼帯の焼鈍条件は、インヒビターの種類、造込み方法により異なる。具体的には下記の条件である。
【0054】
(1) 完全固溶型で、AlNを主なインヒビターとする場合は、後工程の窒化の有無(特許文献4、7等、参照)にかかわらず、下記条件のどちらかである。均熱温度は、インヒビター元素の含有量で規定される。
【0055】
(1a) 一段サイクル:1050〜1170℃で30〜240秒均熱し、その後、15℃/秒以上の冷却速度で冷却する。
【0056】
(1b) 二段サイクル:一段目は、1050〜1170℃で15〜80秒均熱し、その後、870〜970℃で20〜180秒保定し、その後、15℃/秒以上の冷却速度で冷却する。
【0057】
(2) 完全固溶型で、AlNを主なインヒビターとしない場合(特許文献5等、参照)は、950〜1050℃で30〜180秒均熱そ、その後、10℃/秒以上の冷却速度で冷却する。
【0058】
(3) AlNを主なインヒビターとする充分析出窒化型の場合(特許文献6等、参照)は、上記(1a)の条件を適用する。
【0059】
このように、インヒビターの種類、造込みに拘わらず、熱間圧延鋼帯の焼鈍は、950℃以上の温度で行うので、焼鈍後の金属組織は、特に、鋼板表層部の金属組織は、再結晶して、大きくなり脆化する。
【0060】
本発明は、この組織の脆化を、インヒビターの種類に拘わらず、熱間圧延鋼帯の焼鈍を行って改善するものである。
【0061】
即ち、方向性電磁鋼板の熱間圧延においては、基本的に、低い巻取り温度で巻き取るので、熱間圧延鋼帯の組織は、圧延組織を残したままの金属組織(結晶組織)で、結晶粒径が小さい組織である。それ故、熱間圧延鋼帯を焼鈍せずに、そのまま、冷間圧延を施すことができる。この場合、Si含有量が3.2%を超えていても、特に大きな表面欠陥等が発生しなければ問題はないので、本発明には含まれない。
【0062】
なお、所謂、二回冷延法なる方向性電磁鋼板の製造方法があるが、これは、熱間圧延鋼帯の焼鈍を省き、熱間圧延、デスケリーング、冷間圧延、中間焼鈍、中間冷間圧延、一次再結晶・脱炭焼鈍、仕上げ焼鈍の工程からなるものである。
【0063】
この方法において、磁気特性の安定化のために、はじめの冷間圧延の前に熱間圧延鋼帯に焼鈍を施す場合があるが、この場合は、本発明に含まれ、熱間圧延鋼帯に焼鈍を施さない場合は、上述の理由で、本発明に含まれない。
【0064】
方向性電磁鋼板の製造においては、磁気特性を確保するために、冷間圧延時に、150℃以上に鋼帯を保定する、所謂、“温間圧延によるエージング(パス間時効)”(特許文献8、参照)が適用されている。このため、冷間圧延機は、可逆式冷間圧延機に限られる。上記のような高合金材は、基本的には、可逆式冷間圧延機でないと工業的に生産することができない。
【0065】
可逆式冷間圧延機としては、旧来の4hi、6hi、12hi、ゼンジミァ圧延機、CVC(クラウン可変制御式)圧延機等を使用することができ、圧延設備の種類に依らない。この場合、スタンド数は、2基までとするが、望ましくは1基である。
【0066】
圧延機の基数が増えても、冷間圧延自体に問題はないが、パス間における時効効果が少なくなり、また、オフゲージが長くなり歩留が低下するので、方向性電磁鋼板の製造におけるデメリットが大きい。さらに、一回冷間圧延法の場合は、通常、5パス以上で行われ、後半のパスは温間圧延により鋼帯の温度が上昇するので、脆性による圧延性の劣化は起こらない。
【0067】
次に、局部伸びについて説明する。鋼板の引張り試験での“全伸び”は、“弾性伸び”と“破断伸び(永久伸び)”に分けられ、さらに、“破断伸び(永久伸び)”は、ほぼ、“一様伸び”と“局部伸び”に分けられる。このうち、延性の指標となるのは、“局部伸び”であり、局部伸びが大きいほど延性が良い。
【0068】
既に説明したように、金属材料は、塑性加工を施すと加工硬化して全伸びが減少し、局部伸びも減少する。局部伸びが2.5%以上となる冷間圧延率を、一パス目の冷間圧延に適用すれば、二パス目の圧延における巻付け割れが著しく低減する。一パス目に適用する冷間圧延率は、主に、Si含有量で異なり、Si含有量が高いほど、一パス目の冷間圧延率を減少させる必要がある。
【0069】
図2に示すように、高Si材ほど局部伸びが低下するので、冷間圧延率を低減する。即ち、高Si材になれば、一パス目の冷間圧延率をより低減して、一パス目に適用する“局部伸びが2.5%以上となる冷間圧延率”を決定する。
【0070】
<実験例>
本発明に係る実験例について説明する。
【0071】
図3に、充分析出窒化型の方向性電磁鋼板につき、Si含有量別に、局部伸びと、冷間圧延時の巻付け割れ破断率(1000トン当たりの破断回数)の関係を示す。局部伸び2.5%が、破断率3回/1000トンに対応する。この破断率は、実生産では、40コイルに一回の破断になり、この値以下を良好とする。
【0072】
充分析出窒化型の方向性電磁鋼板は、次のように製造したものである。
【0073】
Si含有量を3.0〜3.7%の範囲で変更し、その他の元素は、C:0.065〜0.075%、Al:0.026〜0.0285%、N:0.0075〜0.0088%、Mn:0.097〜0.103%、S:0.0058〜0.0075%、Sn:0.054〜0.067%、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を溶製し、方向性電磁鋼板スラブとした。
【0074】
上記スラブを1200℃以下の温度で再加熱して熱間圧延し、2.6mmの熱間圧延鋼帯とした。その後、熱間圧延鋼帯を1120℃で20秒均熱し、その後、900℃で100秒保定して、次いで、30℃/秒の冷却速度で室温までウオータスプレイで冷却した。
【0075】
焼鈍後の熱間圧延鋼帯の表面のスケールを除去した後、可逆式冷間圧延機で圧延した。冷間圧延に際し、一パス目の冷間圧延圧下率を15〜45%の範囲で変化させ、局部伸びを1.5〜7.0%に変化させて冷間圧延を行い、最終製品厚みが0.220mmの方向性電磁鋼板とした。この場合、上記鋼帯に、冷間圧延前の予熱は施さなかった。
【0076】
図3から、Si含有量が3.6%未満の材料では、局伸びが2.5%以上であると、1000t当たりの二パス目の圧延時の巻付け割れ破断率が3回以下となり、良好な冷間圧延性を示すことが解る。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0078】
(実施例)
実験例と同様に、充分析出窒化型の方向性電磁鋼板に係る実施例について説明する。
【0079】
表1に示す成分組成の鋼スラブを1200℃以下の温度で再加熱して熱間圧延し、2.6mmの熱間圧延鋼帯とした。その後、熱間圧延鋼帯を1120℃で20秒の均熱し、その後、900℃で100秒保定し、次いで、30℃/秒の冷却速度で室温までウオータスプレイで冷却した。
【0080】
【表1】

【0081】
焼鈍後の熱間圧延鋼帯の表面のスケールを除去した後、可逆式冷間圧延機で圧延した。冷間圧延に際し、一パス目の冷間圧延圧下率を変化させ、局部伸びを変化させて冷間圧延を行い、最終製品厚みが0.220mmの方向性電磁鋼板とした。冷間圧延の際、2パス目に生じる1000トン当たりの破断頻度を評価した。その結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
冷間圧延1パス後の局部伸びが2.5%以上である発明例Y1〜Y5は、冷間圧延2パス目に生じる割れ破断頻度が1000トン当たり3回以下であるが、冷間圧延1パス後の局部伸びが2.5%未満である比較例Z1〜Z4は、割れ・破断頻度が1000トン当たり3回超である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
前述したように、本発明によれば、Si量が3.2%を超える方向性電磁鋼板を可逆冷間圧延機で圧延する際、一パス目の冷間圧延率を適正化するで、鋼板の冷間圧延性を著しく改善することができる。その結果、方向性電磁鋼板の製造において、冷間圧延での生産性を向上させることができるので、本発明は、電磁鋼板製造産業において利用可能性が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Siが3.2%以上、4.0%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、その後、熱処理を施し、続いて、デスケリーリングを施し、その後、一回以上の冷間圧延を施し、次いで、脱炭・一次再結晶焼鈍、焼鈍分離剤塗布、二次再結晶焼鈍、平坦化焼鈍を施す一連の工程を有する方向性電磁鋼板の製造における冷間圧延方法において、冷間圧延を可逆冷間圧延機で行ない、かつ、一パス目の冷間圧延を、局部伸びが2.5%以上となる冷間圧延率で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の冷間圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−143795(P2012−143795A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4612(P2011−4612)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】