説明

鳥類ムネ肉から得られる機能性素材及びその製造方法

【課題】鳥類ムネ肉に含まれる様々な有用成分を高濃度化することにより得られる新たな機能性素材を提供する。
【解決手段】鳥類ムネ肉に対して、アルコールを抽出溶媒として用いて抽出処理することにより、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、リン脂質、カルニチン、コエンザイムQ10等の、鳥類ムネ肉に含まれる有用成分を天然由来比(鳥類ムネ肉中の存在比)に近い比率で抽出することができ、これらの有用成分が高濃度化された新規な機能性素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類ムネ肉から得られ、プラズマローゲン型リン脂質、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、カルニチン、コエンザイムQ10等の有用成分を、合成品ではなく、天然由来品として天然由来比(鳥類ムネ肉中の存在比)に近い比率で含む機能性素材に関する。更に、本発明は、当該機能性素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥類は、豊富な栄養素を含んでいることから、様々な食品素材として使用されている。鳥類の中でも、特に鶏は、永い食経験と全人類一人に一羽とも言われる程豊富に飼育されており、安心、安全、経済的な日常食として親しまれている。従来、採卵のために飼育されているレイヤーは、採卵期間が終了すると、鶏肉として提供されているが、レイヤーの肉質は硬く締まっており、食品価値としては低く、ミンチにして他の加工肉に混入させて使用されるに止まっている。
【0003】
一方、鳥類ムネ肉には、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン等のリン脂質が豊富に存在しており、とりわけその中には、プラズマローゲン型のリン脂質が、豊富に含まれている。更に、鳥類ムネ肉には、更にアンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、カルニチン、コエンザイムQ10等の有用成分も含まれている。プラズマローゲン型リン脂質は、アトピー性皮膚炎の改善、火傷皮膚の修復、血中コレステロールの降下、脂質の代謝促進等に有効であり(例えば、特許文献1参照)、その機能性が注目されている。また、アンセリン及びカルノシンは、生体pH平衡能、金属キレート作用、抗酸化作用等があり、疲労の軽減、生体内の必須微量金属の運搬等に有効であることが知られている。更に、アミノ酸は、生体に必須の成分であり、栄養素としてはもとより、様々な機能性が明らかにされている。そして更に、ビタミンEは酸化防止、老化防止等に有効であることも分かっている。また、カルニチンは、ミトコンドリア内への脂肪運搬を担っており、筋肉疲労の回復にも貢献していることが明らかにされている。またコエンザイムQ10は、抗酸化、肥満の改善、心機能の改善、アンチエイジング、疲労の回復等の効果があることも明らかにされている。
【0004】
このように、鳥類ムネ肉は、様々な有効成分が含まれており、栄養的価値が高い素材である。また、採卵終了後のレイヤーの食肉であっても、食肉用に飼育されるブローラーと同程度の栄養素を含んでおり、栄養的側面からは利用価値が高いといえる。しかしながら、鳥類ムネ肉には、これらの有用成分は微量にしか含まれておらず、これらの有用成分に基づく生理活性を有効に享受するには、多量のムネ肉の摂取が必要とされる。そのため、鳥類ムネ肉を食品として通常の量摂取するのでは、上記有用成分に基づく生理活性を有効に享受することは困難である。
【0005】
そこで、鳥類ムネ肉に含まれる様々な有用成分を高濃度化して提供することができれば、鳥類ムネ肉から得られる新たな機能性素材を提供することが可能になる。更に、このような機能性素材の提供は、採卵終了後のレイヤーの有効利用の新たな途を切り開くことにもなる。しかしながら、従来、鳥類ムネ肉に含まれる有用成分を抽出するための技術については報告されておらず、その開発が待たれている。
【特許文献1】特開2006-232967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、鳥類ムネ肉に含まれる様々な有用成分を高濃度化することにより得られる新たな機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、鳥類ムネ肉に対して、アルコールを抽出溶媒として用いて抽出処理することにより、プラズマローゲン型リン脂質のみならず、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE質等の有用成分を、鳥類ムネ肉に含まれる天然由来比(鳥類ムネ肉中の存在比)とほぼ同等の比率で抽出することができ、これらの有用成分が高濃度化された新規な機能性素材の提供が可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明である。
項1. 鳥類ムネ肉に対してアルコール抽出処理を行うことにより得られる抽出物を含むことを特徴とする、機能性素材。
項2. 前記アルコール抽出処理が、エタノール抽出処理である、項1に記載の機能性素材。
項3. 鳥類が鶏である、項1又は2に記載の機能性素材。
項4. 食品添加剤である、項1乃至3のいずれかに記載の機能性素材。
項5. 化粧料用添加剤である、項1乃至3のいずれかに記載の機能性素材。
項6. 医薬用添加剤である、項1乃至3のいずれかに記載の機能性素材。
項7. 鳥類ムネ肉に対してアルコールを抽出溶媒として抽出処理し、抽出液を回収する工程を含む、機能性素材の製造方法。
項8. 前記アルコールが、エタノールである、項7に記載の製造方法。
項9. 前記鳥類ムネ肉が、乾燥処理されてなるものである、項7又は8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鳥類ムネ肉から、プラズマローゲン型リン脂質と共に、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、カルニチン、コエンザイムQ10等の有用成分を合成品でなく天然品として、天然由来比(鳥類ムネ肉中の存在比)に近い比率で抽出できるので、鳥類ムネ肉由来の有用成分が高濃度化された機能性素材の提供が可能になる。本発明の機能性素材は、鳥類ムネ肉由来の有用成分が高濃度で含まれているので、食品はもとより医薬や化粧料に対して添加でき、これによって当該有効成分に基づく機能を付与することができる。
【0010】
また、本発明の機能性素材は、従来食品素材として利用価値の低かった採卵終了後のレイヤーからも製造することができるので、採卵終了後のレイヤーの有効利用という観点からも極めて価値が高いといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の機能性素材は、鳥類ムネ肉に対してアルコール抽出処理を行うことにより得られる抽出物を含むことを特徴とする。以下、本発明の機能性素材について詳細に説明する。
【0012】
本発明の機能性素材の原料として使用されるムネ肉の由来については、食用として使用可能な鳥類であれば特に制限されず、例えば、鶏(烏骨鶏を含む)、鶉、鳩、アヒル、鵞鳥、雀、駝鳥、雉、鴨等が例示される。
これらの中でも、鶏は、飼育数も多く安価に入手でき、しかもプラズマローゲン型リン脂質、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、カルニチン、コエンザイムQ10等の有用成分が比較的多く含まれるため、好適に使用される。鶏の中でも、とりわけレイヤー(特に採卵終了後のレイヤー)のムネ肉は、有効な利用価値が従来見出されていなかったが、本発明によればレイヤーのムネ肉からも有用成分が効率的に抽出された機能性素材が提供される。このようなレイヤーのムネ肉の有効利用という観点から、本発明において、使用される鳥類ムネ肉としてレイヤー由来のムネ肉が好適である。
【0013】
本発明の機能性素材において、原料として使用される鳥類ムネ肉は、生のままアルコール抽出処理に供してもよいが、アルコール抽出処理に先立って、加熱処理、乾燥処理、蒸煮処理等の前処理を1種又は2種以上組み合わせて行って行ってもよい。有用成分の効率的な抽出を行うために、乾燥処理された鳥類ムネ肉を使用することが好ましい。なお、有用成分の抽出効率を高めるために、鳥類ムネ肉は、裁断、細切、粉砕等の処理を行っておくことが望ましい。
【0014】
鳥類ムネ肉に対して行われるアルコール抽出処理は、アルコールを抽出溶媒として使用し、通常の抽出方法によって実施される。このように、アルコールを抽出溶媒として使用することにより、鳥類ムネ肉に含まれる脂溶性物質のみならず、水溶性物質をも同時に抽出することが可能になる。
【0015】
本発明において、抽出溶媒として使用されるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1〜5のアルコールが例示される。これらのアルコールの中でも、エタノールは、安全性が高く、しかも鳥類ムネ肉に含まれる有用成分を天然由来比に近い比率で効率的に抽出させることができるので、本発明に使用される抽出溶媒として好適である。
【0016】
また、本発明において、抽出溶媒として、アルコールをそのまま使用することが好ましいが、含水アルコールを使用することもできる。抽出溶媒として含水アルコールを使用する場合、含水アルコール中の水分含量としては、例えば0.1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%が挙げられる。
【0017】
上記アルコール抽出処理は、鳥類ムネ肉(乾燥重量換算)1kg当たり、抽出溶媒を例えば1〜10L、好ましくは1〜6L、更に好ましくは2〜4Lを用いて行うことができる。
【0018】
上記アルコール抽出処理における処理条件については、特に制限されないが、冷浸、温浸等の浸漬法、パーコレーション法等により行うことができる。好適な一例として、鳥類ムネ肉にアルコールを加え、常温で5時間以上、好ましくは常温で5〜48時間、静置又は撹拌を行う方法が例示される。
【0019】
斯くして抽出処理を行った後に、固形分を除去して抽出液を回収することによってエクオール含有抽出物を得ることができる。抽出液の回収は、具体的には、ろ過や遠心分離等の公知の方法が採用される。
【0020】
斯くして得られる抽出液には、プラズマローゲン型リン脂質、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、カルニチン、コエンザイムQ10等の有用成分が、合成品でなく天然品として、天然由来比(鳥類ムネ肉中の存在比)に近い比率で含まれている。斯くして得られる抽出液は、そのまま液状で又は抽出溶媒を除去して固形状にして、鳥類ムネ肉のアルコール抽出物として本発明の機能性素材に使用される。保存安定性、使用簡便性の観点から、上記アルコール抽出物は抽出溶媒が除去された固形状であることが望ましい。
【0021】
上記アルコール抽出物には、プラズマローゲン型リン脂質である、プラズマローゲン型ホスファチジルコリン(コリンプラズマローゲン)及びプラズマローゲン型ホスファチジルエタノールアミン(エタノールアミンプラズマローゲン)が含まれている。プラズマローゲン型リン脂質とは、グリセロール骨格のsn-1位にビニルエーテル結合を有するリン脂質であり、下記一般式(I)で示されるリン脂質である。
【0022】
【化1】

【0023】
式(I)中、R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって脂肪族炭化水素基を示す。Xは、コリンプラズマローゲンの場合であればトリメチルアミノエチル基を示し、エタノールアミンプラズマローゲンの場合であればアミノエチル基を示す。
【0024】
上記アルコール抽出物に含まれるプラズマローゲン型ホスファチジルコリン及びプラズマローゲン型ホスファチジルエタノールアミンの比率については、使用する鳥類の種類等によって異なるが、通常プラズマローゲン型ホスファチジルコリン100重量部に対して、プラズマローゲン型ホスファチジルエタノールアミンが40〜900重量部程度の比率で含まれている。
【0025】
更に、上記アルコール抽出物には、非プラズマローゲン型リン脂質である、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンも含まれている。上記アルコール抽出物に含まれるホスファチジルコリン及びプホスファチジルエタノールアミンの比率については、使用する鳥類の種類等によって異なるが、通常ホスファチジルコリン100重量部に対して、ホスファチジルエタノールアミンが5〜150重量部程度の比率で含まれている。
【0026】
また、上記アルコール抽出物には、アミノ酸として、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン等が含まれている。特に、アミノ酸の中でも、分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)が高い割合で含まれている。上記アルコール抽出物に含まれる全アミノ酸に対する分岐鎖アミノ酸の比率は、使用する鳥類の種類等によって異なるが、通常、は50〜70%程度を占めている。
【0027】
また、上記アルコール抽出物には、ビタミンEとして、α−トコフェロール及びγ−トコフェロールが含まれている。上記アルコール抽出物に含まれるα−トコフェロール及びγ−トコフェロールの比率については、使用する鳥類の種類等によって異なるが、通常、α−トコフェロール100重量部に対して、γ−トコフェロールが30〜60重量部程度の比率で含まれている。
【0028】
上記アルコール抽出物に含まれる上記有用成分の割合については、使用する鳥類の種類等によって異なるが、通常、上記アルコール抽出物1g(乾燥重量換算)当たり、プラズマローゲン型リン脂質3.4〜85mg、非プラズマローゲン型リン脂質4.6〜116mg、アンセリン0.2〜5mg、カルノシン0.03〜0.7mg、アミノ酸0.13〜3.4mg、ビタミンE0.06〜1.5mg、カルニチン0.15〜3.75mg、コエンザイムQ100.06〜1.5mg程度が含まれている。特に、抽出溶媒としてエタノールを使用する場合には、エタノール抽出物1g(乾燥重量換算)当たり、プラズマローゲン型リン脂質5〜50mg、非プラズマローゲン型リン脂質8〜70mg、アンセリン0.3〜3mg、カルノシン0.05〜0.5mg、アミノ酸0.2〜2mg、ビタミンE0.1〜1mg、カルニチン0.25〜2.5mg、コエンザイムQ100.1〜1mg程度が含まれている。
【0029】
本発明の機能性素材は、上記アルコール抽出物自体であってもよく、また、必要に応じて、食品衛生上、薬学的、或いは香粧学上許容される基剤や添加成分を含んでいてもよい。なお、本発明の機能性素材が、上記アルコール抽出物と他の基剤及び/又は担体とを含む場合には、機能性素材中の上記アルコール抽出物(乾燥重量換算)の配合割合が10〜50重量%程度であることが望ましい。
【0030】
本発明の機能性素材は、鳥類ムネ肉由来の有用成分が含まれており、栄養補助としての機能はもとより、様々な生理活性や薬理活性を発現することができる。具体的には、プラズマローゲン型リン脂質に基づいて、アトピー性皮膚炎の改善、認知症の予防又は改善、高血糖化の抑制、火傷皮膚の修復、血中コレステロールの降下、脂質の代謝促進等の機能が発揮される。また、アンセリン及びカルノシンに基づいて、抗疲労、生体内の必須微量金属の運搬促進、抗酸化等の機能が発揮される。更に、分岐鎖アミノ酸に基づいて、血中アルブミン量の維持、肝機能の回復、運動時の筋肉の低下の抑制等の機能が発揮される。従って、本発明の機能性素材は、上記機能の付与を目的として、食品添加剤、化粧料用添加剤、医薬添加剤等として使用することができる。
【0031】
本発明の機能性素材を食品添加剤として使用する場合には、通常の食品の他に、顆粒、細粒、カプセル、錠剤、粉末等のサプリメントタイプの食品にも添加することができる。また、本発明の機能性素材が配合された食品は、一般の食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等として提供することができる。とりわけ、本発明の機能性素材が配合された食品は、アトピー性皮膚炎の改善、認知症の予防又は改善、高血糖化の抑制、血中コレステロールの降下、脂質の代謝促進、抗疲労、血中アルブミン量の維持、肝機能の回復、運動時の筋肉の低下の抑制等の機能性が付与された食品として有用である。
【0032】
本発明の機能性素材の食品への配合割合については、食品の種類、機能性素材中の鳥類ムネ肉抽出物の量、食品の1日当たりの想定摂取量、摂取対象者の年齢や性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記食品の総量当たり、鳥類ムネ肉のアルコール抽出物(乾燥重量換算)が0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%が例示される。
【0033】
本発明の機能性素材を含有する食品の1日当たりの摂取量については、例えば、成人1日当たり鳥類ムネ肉のアルコール抽出物(乾燥重量換算)が100〜15000mgに相当する量が例示される。
【0034】
本発明の機能性素材を医薬添加剤として使用する場合には、本発明の機能性素材と共に、必要に応じて、他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤等を配合して、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤等の形態の医薬製剤に調製される。本発明の機能性素材が配合された医薬製剤は、アトピー性皮膚炎の改善、認知症の予防又は改善、火傷皮膚の修復、高血糖化の抑制、血中コレステロールの降下、脂質の代謝促進、抗疲労、血中アルブミン量の維持、肝機能の回復、運動時の筋肉の低下の抑制等の用途に好適に使用される。本発明の機能性素材を含有する医薬製剤は、内服形態で投与されるものであってもよく、また外用形態で投与されるものであってもよい。
【0035】
本発明の機能性素材を含有する医薬製剤の投与量については、機能性素材中の鳥類ムネ肉抽出物の量、投与対象者の年齢や体重、投与目的、投与回数等によって異なり一律に規定することはできないが、例えば、成人1日当たりの投与量として鳥類ムネ肉のアルコール抽出物(乾燥重量換算)が1000〜15000mgに相当する量が例示される。
【0036】
本発明の機能性素材を化粧料用添加剤として使用する場合には、本発明の機能性素材と共に、必要に応じて、他の活性成分、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤等を配合して、ペースト状、ムース状、ジェル状、液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状等の各種所望の形態の化粧料に調製される。このような化粧料は、乳液、クリーム、ローション、オイル、パック、洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の各種化粧料として有用である。本発明の機能性素材を含有する化粧料は、皺の改善や美白を目的とした皮膚老化防止用化粧料として有用である。
【0037】
本発明の機能性素材の食品への配合割合については、該化粧料の種類、機能性素材中の鳥類ムネ肉抽出物の量、等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記化粧料の総量当たり、鳥類ムネ肉のアルコール抽出物(乾燥重量換算)が0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%に相当する量が例示される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
レイヤーのムネ肉を8mmサイズにミンチ化したものを凍結乾燥し、更にフレーカーにて2〜5mm程度に細切した。斯くして処理されたムネ肉300gに対して、エタノール1000mLを添加し、37℃で約12時間攪拌を行って抽出処理を実施した。次いで、濾過にて固液分離を行い、抽出液(以下、抽出液1と表記する)を回収した。分離された残渣に対して、再度エタノール1000mLを添加し、上記と同条件で抽出処理を実施した後に、濾過にて固液分離を行い、抽出液(以下、抽出液2と表記する)を回収した。
【0039】
斯くして得られた抽出液1と2を混合し、ロータリーエバポレーターにて乾固させて、黄色半液状の抽出物(以下、エタノール抽出物と表記する)23.4gを得た。
【0040】
また、別途、上記抽出液1をHPLCに供して含有成分の分析を行った。表1に、上記抽出液1に含まれる有用成分の定量結果を示す。また、図1には上記抽出液1に含まれるアンセリン、カルノシン及びアミノ酸を分析したクロマトグラム;図2には上記抽出液1に含まれるビタミンEを分析したクロマトグラム;図3には上記抽出液1に含まれるリン脂質を分析したクロマトグラム;図4には上記抽出液1に含まれるL-カルニチンを分析したクロマトグラム;並びに;図5には上記抽出液1に含まれるコエンザイムQ10を分析したクロマトグラムをそれぞれ示す。
【0041】
【表1】

【0042】
以上の分析結果から、鶏ムネ肉から得られるエタノール抽出物には、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、リン脂質、L-カルニチン、コエンザイムQ10等が濃縮されて、有用成分の濃度が高められていることが明らかとなった。とりわけ、当該エタノール抽出物は、有用生理活性が認められているプラズマローゲン型リン脂質(コリンプラズマローゲン、エタノールアミンプラズマローゲン)の濃度が格段に高く、更に、アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)の濃度も高いという特徴があり、これらの成分に基づく有用機能を付与するのに有効であることも明らかとなった。
【0043】
従来の技術では、アンセリン、カルノシン、アミノ酸、ビタミンE、リン脂質、L-カルニチン、コエンザイムQ10等を含む機能性素材を開発するに当たり、全て天然由来のものから構成することは困難であったが、本発明によれば、これらの有用成分を全て天然由来成分で賄うことができるので、安全性に優れており、食品素材として極めて有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】鶏ムネ肉から得られたエタノール抽出液についてアンセリン(Ans)、カルノシン(Car)及びアミノ酸を分析したクロマトグラムである。
【図2】鶏ムネ肉から得られたエタノール抽出液についてビタミンE(α-Toc、γ-Toc)を分析したクロマトグラムである。
【図3】鶏ムネ肉から得られたエタノール抽出液についてリン脂質を分析したクロマトグラムである。図中、PAはホスファチジン酸、pIPEはエタノールアミンプラズマローゲン(プラズマローゲン型ホスファチジルエタノールアミン)、PEはホスファチジルエタノールアミン、pIPCはコリンプラズマローゲン(プラズマローゲン型ホスファチジルコリン)、PCはホスファチジルコリン、SM-1はリグノセリン酸結合型スフィンゴミエリン、SM-2はパルミチン酸結合型スフィンゴミエリン、PSはホスファチジルセリン、及びPIはホスファチジルイノシトールを示す。
【図4】鶏ムネ肉から得られたエタノール抽出液についてL−カルニチンを分析したクロマトグラムである。
【図5】鶏ムネ肉から得られたエタノール抽出液についてコエンザイムQ10を分析したクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類ムネ肉に対してアルコール抽出処理を行うことにより得られる抽出物を含むことを特徴とする、機能性素材。
【請求項2】
前記アルコール抽出処理が、エタノール抽出処理である、請求項1に記載の機能性素材。
【請求項3】
鳥類が鶏である、請求項1又は2に記載の機能性素材。
【請求項4】
食品添加剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の機能性素材。
【請求項5】
化粧料用添加剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の機能性素材。
【請求項6】
医薬用添加剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の機能性素材。
【請求項7】
鳥類ムネ肉に対してアルコールを抽出溶媒として抽出処理し、抽出液を回収する工程を含む、機能性素材の製造方法。
【請求項8】
前記アルコールが、エタノールである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記鳥類ムネ肉が、乾燥処理されてなるものである、請求項7又は8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−63406(P2010−63406A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232555(P2008−232555)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「民間実用化研究促進事業/親鶏由来の機能性リン脂質群の分離とその含有食品の製造」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591105801)丸大食品株式会社 (19)
【Fターム(参考)】