説明

黒米からのC3Gを含む組成物およびその製造方法

【課題】黒米からアントシアニンおよびその他の栄養成分を多く含む組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】搗精黒米と糠とに分離し、搗精黒米より得た麹糖化液を用いて糠よりシアニジン−3−グルコシドを抽出する工程を含む、黒米からアントシアニンおよびその他の栄養成分を多く含む組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒米からシアニジン−3−グルコシドおよびその他の栄養成分を多く含む組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒米(Oryza sativa L.)は、赤紫色の色素層を有し、黒色の外観を呈する米をいい、例えば古代米、紫黒米、紫米とも呼ばれる。黒米は、古くからタイ北部、ミャンマー北部、中国等で栽培されてきた。日本では、主に九州や東北地方において栽培されている。黒米玄米の表面は黒くて、中は白く、玄米種皮の部分(表層約10%いわゆる糠の部分)に赤紫色系色素であるアントシアニンを含んでいる。また、糠の部分にはタンパク質やミネラルも含まれていることが分かっている。
【0003】
アントシアニンは、「花の青色成分」ともいわれ、植物の花、果実、茎、葉、根などに含まれ、青色のみならず橙黄色から赤色、紫色まで幅広い色調をもつ色素配糖体であり、広義にはフラボノイドに属する。前記アントシアニンはアグリコンをアントシアニジンといい、天然では18種類見出されており、主に見られるものはシアニジン、ペラルゴニジン、デルフィニジン、ペオニジン、マルビジン、ペチュニジンの6種類である。結合糖の種類はD−グルコース、D−ガラクトース、L−ラムノース、ルチノースなどがある。さらに、糖部にはp−クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸などの有機酸がエステル結合したものがあり、現在では400種類以上のアントシアニンが報告されている。
【0004】
黒米はアントシアニンの中でも、シアニジンの配糖体であるシアニジン−3−O−β―グルコシド(以下、C3G)が多く含まれており、その他の赤色系の色を有する植物などよりもC3Gが含まれる割合が多いことが知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0005】
アントシアニンは赤、青、紫色の植物にはたいてい含まれており、その色の良さから赤紫蘇のように食品の着色料や、紅花や藍のように衣服の染料として使用されてきた。一方、アントシアニンには、視覚機能改善効果や抗酸化、血流改善、肥満抑制、血清脂質の改善、糖尿病予防、肝障害の軽減、抗炎症などの効果が知られており、C3Gでも同様な機能が報告されている(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)。
【0006】
上記のような利点から、黒米を直接使用して、色が良い食品や機能性のある食品などが作られてきた(特許文献2や特許文献3)。しかし、原料から色素や機能性の成分を維持して製造することが重要にもかかわらず、原料中の成分が最終製品まで残る割合はあまり考慮されていなかった。
【0007】
黒米において色素やC3Gを多く含む糠から抽出する発明もなされている。例えば、特許文献4が知られており、抽出した色素を食品へ添加するものである。黒米の糠から色素やC3Gを抽出しているため、色素やC3Gを使用するためには一見効率良い方法のように見えるが、逆に糠以外の部分を有効に利用できず、原料の全体として有効利用できるものではなかった。
【0008】
原料から色素を維持して製造するため、抽出しようとする液から色素が吸着されやすい固形分を濾過しておくという技術がある(特許文献5)。しかしながら上記の特許文献4と同様にこの技術は糠以外の部分を有効に利用するものではなく原料の全体として有効利用できるものではなかった。
【0009】
糠の色素を抽出した色素水溶液を、その他の部分と蒸煮したもち米や麦芽と合わせて糖化した搾汁液に添加し、糖化液を着色するという発明がなされ、原料の全体として有効利用が考慮されているものもある(特許文献6)。しかしながら、この技術は色素にのみ着目しているため、C3Gや糠のその他の成分を考慮しているものではなかった。すなわち、色素成分のC3Gが徐々に分解してしまう55℃、pH3.5、10時間という抽出条件であるということである。また仮にC3Gが抽出で残ったとしても、0.2%クエン酸抽出液200mlと具体的に量は判断できないが白米と麦芽で1.15kgであることから数Lと考えられる糖化液とを混合した時点でpHは酸性から中性に近づき、酸性で安定であるC3Gの分解は免れないということである。
【0010】
黒米を粉砕し、焼酎用麹菌を接種して培養後、糖化して飲用クエン酸酢とし、原料の全体として有効利用が考慮されているものもある(特許文献7)。しかしながら、この技術はアントシアニンを515nmの吸光をもつ色素として捉えているため、C3Gそのものの残存量が考慮されていない。すなわち、水で吸水させてC3Gが不安定な高温、中性条件下で1時間も蒸きょうしているため、C3Gを大幅に損失していると考えられる。さらに糖化工程ではC3Gと糖化残渣が共存するため、C3Gの回収率は低くなっていると考えられる。黒米にはC3G以外の色素も存在するため、従来の吸光度のみに着目した検討では、機能性成分であるC3Gの損失を見落としてしまう。
【0011】
このように、今まで、原料全体を考慮しつつ、黒米の糠に含まれる他の栄養成分と共にC3Gを高効率回収し有効に利用する黒米食品、飲料組成物を製造する技術がなかった。この技術を達成するにはC3Gを分解しないように最適化した抽出の条件や糖化液をつくる麹の調製条件を決定することが重要であった。また、糠のその他の栄養成分アミノ酸やミネラル分として利用するにあたって糖化液に麹の酵素が含まれていることが適当であった。したがって、本発明は、黒米糠から機能性を持つ色素を有機溶媒によって抽出する従来技術とは異なり、黒米全体を原料として色素の損失を抑えながら機能性食品・飲料素材を開発するという新しい技術であり、容易に想到できるものではなかった。
【0012】
【特許文献1】特開2008−239612号公報
【特許文献2】特開平2−150268号公報
【特許文献3】特開2000−069936号公報
【特許文献4】特表2005−527539号公報
【特許文献5】特開平4−58878号公報
【特許文献6】特開平7−250647号公報
【特許文献7】特開2006−262799号公報
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem. 2006, 54, 4696-4704
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem. 2004, 52, 7846-7856
【非特許文献3】J. Agric. Food Chem. 2008, 56, 4457-4462
【非特許文献4】J. Agric. Food Chem. 2003, 51, 3560-3563
【非特許文献5】Experimental Eye Res. 2005,80,313-322
【非特許文献6】J. Agric. Food Chem. 1994, 42, 2407-2410
【非特許文献7】J. Nutr. 132: 20-26, 2002.
【非特許文献8】J. Nutr. 136: 2220-2225, 2006
【非特許文献9】Arch Biochem Biophys. 1999 368(2):361-6.
【非特許文献10】J. Nutr. 133: 2125-2130, 2003
【非特許文献11】Biochem. Pharmacol. 2007, 74,1619-1627
【非特許文献12】J. Nat. Prod. 1999, 62, 294-296
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、黒米の機能性成分であるC3Gを温存しながら、黒米全体を原料として利用し、有機溶媒を用いることなくそのまま食品・飲料素材を提供する技術を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、C3G存在下で蒸きょうのような加熱する工程および水溶液中で糖化残渣等の固形物とC3Gを共存させる工程が従来技術の最大の問題点であることを見出した。さらに、従来技術では黒米などから色素を高効率で回収するには有機溶媒を用いることが常識であったが、黒米を精米して搗精黒米と黒米糠に分離し、搗精黒米を原料として製麹および糖化させ、固液分離した麹糖化液を用いて黒米糠からC3G抽出すれば、C3Gのみならず、黒米糠の糖やアミノ酸、ミネラル等までも多く含む組成物を製造できることを思いがけず発見し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下[1]〜[17]の特徴を包含する。
[1] 搗精黒米から麹を作製して糖化し、その糖化液に黒米の糠を加えて抽出処理し、これによりアントシアニンに富む黒米糖化液を得ることを含む、黒米由来のアントシアニンを含む組成物を製造する方法。
[2] 以下の工程を包含する、[1]の方法:
(1)黒米を精米して、搗精黒米と糠とに分離する工程;
(2)搗精黒米を蒸きょうし、麹菌を加えて培養して、麹を製造する工程;
(3)麹から麹糖化液を製造して、それを濾過する工程;
(4)濾過した糖化液に工程(1)で得た糠を加えて抽出処理し、これによりアントシアニンを含む糖化液を得る工程;および
(5)得られた糖化液を濾過して、黒米糖化液を得る工程。
[3] アントシアニンが、シアニジン−3−O−β―グルコシド(C3G)である、[1]または[2]の方法。
[4] 工程(1)において、黒米を80〜95%の精米歩合で精米する、[2]または[3]の方法。
[5] 工程(2)において、麹菌が、焼酎用麹菌である、[2]〜[4]のいずれかの方法。
【0016】
[6] 麹菌が、クエン酸高生産性、かつβ−グルコシダーゼ(Bgl)低活性性である、[5]の方法。
[7] 工程(2)において、麹菌を接種して、28〜40℃にて40〜72時間培養を行う、[2]〜[6]のいずれかの方法。
[8] 工程(3)において製造される糖化液が、10〜30%(W/V)のグルコースおよび、0.5〜3.0%(W/V)のクエン酸を含有する、[2]〜[7]のいずれかの方法。
[9] 工程(3)において、糖化液を濾過して不水溶性の物質を除去する、[2]〜[8]のいずれかの方法。
[10] 不水溶性の物質が、デンプン、糠固形分、麹菌の菌体および胞子、またはそれらの混合物を含む、[9]の方法。
[11] 工程(4)において、pH2.0〜5.0、25〜60℃にて、1〜10時間、抽出処理する、[2]〜[10]のいずれかの方法。
[12] 工程(5)にて得られる黒米糖化液がまた、糠由来の糖、アミノ酸、ミネラルを含有する、[2]〜[11]のいずれかの方法。
[13] さらに、(6)黒米糖化液を加熱して、酵素失活および/または殺菌を行う工程、を含む、[2]〜[12]のいずれかの方法。
[14] [1]〜[13]のいずれかの方法により製造された、アントシアニンに富む黒米糖化液を含む組成物。
【0017】
[15] 組成物が飲食品である、[14]の組成物。
[16] 飲食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した飲食品である、[15]の組成物。
[17] 栄養補助成分をさらに含む、[14]〜[16]のいずれかの組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機溶剤を使用することなく、黒米全体を利用しつつC3Gおよびその他の栄養成分を多く含む組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る組成物及び製造方法について説明する。
【0020】
本発明は、以下(1)〜(5)の工程を包含する、黒米からアントシアニンを含む組成物を製造する方法に関する。本発明においては、上記課題を解決するために、C3G存在下で蒸きょうのような加熱する工程、および水溶液中で糖化残渣等の固形物とC3Gを共存させる工程を回避して、黒米より高収率でC3Gを回収することが可能である。
【0021】
(1)黒米を精米して、搗精黒米と糠とに分離する工程
原料
本発明に使用する原料は、黒米である。さらに好ましく朝紫品種である。黒米はその他の食品素材と比較してアントシアニン含量が高いだけではなく、アントシアニン中のC3Gの割合が大きいためである。また、黒米の中でも朝紫品種、朝紫品種の中でも東北地方のものの方がC3G含量は高い傾向がある。
【0022】
精米
本発明の組成物の素材となる黒米は精米により搗精黒米と黒米糠に分離して使用することができる。例えば精米歩合は80〜95%、好ましくは80〜90%、さらに好ましくは85〜90%である。C3Gが黒米の表層約10%に集中して分布するからである。
【0023】
(2)搗精黒米を蒸きょうし、麹菌を加えて培養して、麹を製造する工程
蒸きょう
本工程において、搗精黒米を蒸きょうする。以下の実施例にて詳細に記載するように、C3G回収率を上げるためには、蒸きょう工程にC3Gが含まれないことが好ましい。蒸きょうは当業者が行う通常行う方法で実施することが可能であり、90〜120℃、好ましくは100℃にて、0.5〜2時間、好ましくは50分間行う。
【0024】
麹菌
製麹に用いられる麹菌は、クエン酸を生産する焼酎用麹菌であればよく、白麹菌Aspergillus kawachi、黒麹菌A. awamori、黒麹菌A.saitoiであれば良く、好ましくはA.kawachiである。このA. kawachiは(株)樋口松之助商店(ヒグチモヤシ)の白麹菌(本格焼酎菌米用)使用することができる。ヒグチモヤシの白麹(米用)は、他の焼酎用麹菌を用いた麹と比べ、クエン酸生産がよく、C3G分解活性をもつβ−グルコシダーゼ(Bgl)活性が低く、糖化液へのC3G回収量が高いためである(実施例に示す)。
【0025】
接種する麹菌の量は、製麹に通常用いられる量であり、蒸きょうした搗精黒米に対して、例えば、0.01〜0.2%(W/W)、好ましくは0.1%(W/W)である。
【0026】
培養
本工程において、培養は当業者が行う通常の温度や時間で行うことができる。例えば搗精黒米の吸水条件は通常の白米と同様、培養温度は28〜40℃、好ましくは初発温度が35〜40℃で後半は30〜35℃、さらに好ましくは初発温度が35〜37℃で後半は30〜33℃である。また、培養時間は40〜72時間、好ましくは40〜64時間、さらに好ましくは42〜48時間である。培養時間は、麹におけるクエン酸を増加させるなどの目的で最適範囲を64〜72時間程度に延長することもできる。人件費やランニングコストがかかるため、必要最低限のクエン酸と糖化酵素が生産されれば3日間程度の培養で止めておくのがよいと考えられる。麹はそのまま糖化に使用することもできるが、保管や輸送のため、麹を乾燥することもできる。出麹後、通風等で水分量を10%以下にし、低温で貯蔵するのがよい。
【0027】
(3)麹から麹糖化液を製造して、それを濾過する工程
麹糖化液の製造
糖化に用いる麹は、搗精黒米麹以外に白米麹をブレンドすることができる。比率は搗精黒米麹:白米麹が1:0〜1:10、好ましくは1:0〜1:4、さらに好ましくは1:0〜1:2である。必要な糖化液の量や黒米糠の過不足を考慮して適宜決めることができる。
【0028】
乾燥させた麹に水を加え、糖化を開始することができる。比率は麹:水が1:1〜1:10、好ましくは1:2〜1:8、さらに好ましくは1:4〜1:6である。糖化温度は25〜60℃、好ましくは45〜60℃、さらに好ましくは50〜60℃である。保持時間は6〜50時間、好ましくは6〜24時間、さらに好ましくは10〜20時間である。糖化時間によるC3G回収率、グルコースおよびクエン酸含量の差は小さいため、操作性を重視して一晩保持すればよい。例えば、麹:水が1:5の比率で糖化した場合、グルコースは10〜15%(W/V)、クエン酸は、0.5〜3.0%(W/V)程度となる。また、麹:水が1:1や1:2.5のように麹の比率を上げれば、グルコースは〜30%(W/V)と高くすることができる。
【0029】
濾過
麹糖化液は、不水溶性の固形物を含んでいる。以下の実施例に詳細に記載されるように、麹糖化液に含まれる不水溶性の固形物に、C3Gが吸着され、C3Gの回収率を著しく低減させる。そこでC3G回収率を上げるために、濾過を行いこれら固形物を除去する。不水溶性の固形物としては、デンプン、糠固形分、麹菌の菌体および胞子、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。濾過は、当業者が通常行う固液分離の手法を用いることが可能であり、例えば、濾布、振動篩、珪藻土によって行うことができる。好ましくは濾布である。本工程においては、C3Gが吸着されてしまう不水溶性の固形物を取り除けばよく、酵素を取り除く必要はない。
【0030】
(4)濾過した糖化液に工程(1)で得た糠を加えて抽出処理し、これによりアントシアニンを含む糖化液を得る工程
本工程において、糠より糖化液を用いて、C3Gを抽出する。以下の実施例に詳細に記載するように、麹菌の有するBglは、C3Gを分解しC3Gの回収率を低減させる。しかし、Bglは麹糖化液中に含まれるグルコースによりその活性が阻害されるために、麹糖化液を用いてC3Gを抽出することにより、C3Gの回収率を高めることが可能である。
【0031】
本工程において、糖化液に加える糠の割合は、糖化液に対して1〜10%(w/v)、好ましくは1〜5%(w/v)、さらに好ましくは1〜2.5%(w/v)、より好ましくは1%(w/v)である。
【0032】
本工程において、抽出は当業者が行う通常の温度や時間で行うことができる。例えば抽出温度は25〜60℃、好ましくは45〜60℃、さらに好ましくは50〜60℃である。また、抽出時間は1〜10時間、好ましくは1〜6時間、さらに好ましくは1〜3時間である。pHは2.0〜5.0、好ましくは2.5〜4.5、さらに好ましくは2.8〜3.8である。C3Gは中性水溶液中では半減期89分ときわめて不安定(アントシアニン、2000年5月10日、(株)建帛社、大庭理一郎、津久井亜紀夫、五十嵐善治)であるが、酸性では比較的安定である。
【0033】
(5)工程(4)より得られた糖化液を濾過して、黒米糖化液を得る工程
工程(4)より得られた糖化液を上記と同様な条件で濾過を行い、黒米糖化液が得られる。黒米糖化液はアントシアニンに富み、アントシアニンを10〜85mg/100ml含む。黒米糖化液は、高濃度のC3Gを含有するだけでなく、糠に由来するグルコース、アミノ酸、ミネラルなども多量に含有する。pHが高い場合は、必要に応じて食品や飲料に使用可能なクエン酸や乳酸等を用いて調整することもできる。
【0034】
本発明方法はさらに、(6)黒米糖化液を加熱して、酵素失活および/または殺菌を行う工程を含むことができる。
【0035】
本工程において、工程(5)にて得られた黒米糖化液を加熱して酵素失活および殺菌をすることができる。例えば加熱温度は80〜100℃、好ましくは80〜90℃、さらに好ましくは80〜85℃である。
【0036】
本発明は、本発明方法により製造された黒米由来のアントシアニンを含む組成物に関する。当該組成物は、黒米由来のアントシアニン、特にC3G、ならびにグルコース、アミノ酸、ミネラルなども多量に含有する。
【0037】
一実施形態において、本発明の組成物は、飲食品であり得る。
【0038】
飲食品の形態は、特に制限されず、本発明における組成物を各種飲料、食品、例えば、これらに限定されるものではないが、健康酢、スポーツドリンク、栄養剤、茶、酒類などの飲料、ヨーグルトなどの乳製品、クッキーなどの焼き菓子類、ジャムなどの加工食品、調味料、香辛料などに加工、添加又は配合することによって製造することが可能である。
【0039】
また、本発明において、飲食品は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した飲食品であり得る。
【0040】
また、本発明の飲食品は、本発明の組成物の他、栄養補助成分などの他の成分を含むことができる。かかる成分には、ビタミン類(例えばビタミンA、ビタミンB群、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ナイアシン、パントテン酸、葉酸等)、カロチノイド(例えばβカロチン、リコピン、フコキサンチン等)、ミネラル類(例えば海藻成分、CCM、ヘム鉄、鉄塩系、乳清カルシウム、発酵乳酸カルシウム、牛骨カルシウム、珊瑚カルシウム、卵殻カルシウム等)、各種植物体並びにその抽出物、精製物及び分画物(例えばオオバコ、クロレラ、スピルリナ、にんにく、いちょう葉、ギムネマ、杜仲の葉、しその葉、ハトムギ、大豆グロブリン、ルチン、緑茶抽出物、テアニン、ポリフェノール類、甘草、ユッカ、大豆サポニン、カフェイン、ホワトルベリーエキス、シャンピニオンエキス、ガルシニア・カンボジアエキス等)、微生物並びにその増殖因子及び微生物生産物(例えば乳酸菌、酵母、乳酸菌増殖因子等)、食物繊維及びその酵素分解物(例えばアップルファイバー、コーンファイバー、澱粉由来の食物繊維、難消化性デキストリン、グアガム酵素分解物、サツマイモ繊維、大豆繊維、海藻繊維、きのこ繊維、茶繊維、酸性多糖類、植物粘質物、小麦フスマ等)、動物体並びにその抽出物、精製物、分解物及び生産物(例えばローヤルゼリー、プロポリス、牡蠣エキス、キチン、キトサン、タウリン、コラーゲン、ゼラチン等)、各種オリゴ糖(例えばガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等)、脂質(例えば不飽和脂肪酸(DHA、EPA等)、リン脂質、サラトリム等)、各種蛋白質及び蛋白分解物(例えばとうもろこし蛋白、大豆蛋白、TMP(トータルミルクプロテイン)、ラクトアルブミン、カゼイン、ホエー、グルタチオン、大豆ペプチド、卵白ペプチド、グルタミンペプチド等)、脱脂胚芽等の小麦胚芽などが挙げられる。
【0041】
本発明の組成物を飲食品として摂取する場合には、飲食品中の有効成分としての本発明のC3Gの含有量は、成人1人につき、1日当たり1〜250mg、好ましくは1〜100mgさらに好ましくは5〜50mgの摂取量となるように摂取すればよい。
【0042】
以下、本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0043】
黒米のC3Gは、総アントシアニン量として520nm付近の吸光度で測定される場合もあるが、黒米抽出液の吸光度(520nm)とC3G含量は必ずしも一致しないため、HPLCによって分離定量する必要がある。また、発酵により産生するクエン酸またはpHはC3Gの安定性に影響するため、把握する必要がある。各工程におけるC3G回収率の影響は未解明であるため、以下の実施例では課題となる工程を抽出し、その解決法について検討する。さらに、本発明による製法と従来製法の比較検討を行う。
【0044】
実施例1:黒米エキスからのC3G精製
従来技術では黒米の色素はアントシアニンであり、アントシアニンは520nm付近の吸光度で測定されていたが、黒米の520nmの吸光をもつ色素成分のうち、C3Gが主であることを確認するため、以下の検討を実施した。
【0045】
黒米の含水エタノール抽出物「黒米エキス」(オリザ油化(株))40gを0.2N HCl800mlにて55℃で1時間抽出し、遠心分離後の上清をエバポレーターで減圧濃縮し、240mlの抽出液を得た。
【0046】
これを陽イオン交換カラムに供し、AKTA(旧アマシャム社)を用いて精製した。陽イオン交換カラムは、陽イオン交換樹脂Amberlite 200CT Na 0.60−0.85 mm(Rohm and Haas, Philadelphia,orugano(株))500mlを、内径5cm、高さ20cmのカラムに充填して用いた。洗浄には0.2N HCl、溶出には50%エタノール(含0.2N HCl)を用い、流速は15ml/minとし、約50mlずつ分取した。全ての操作は4℃冷蔵庫内で行った。
【0047】
各フラクションについて520nmの吸光度およびC3G含量を測定した。C3GはHPLC−PDA((株)島津製作所)で分離定量した。カラムはCOSMOSIL 5C18−AR−II;4.6×150mm(ナカライテスク(株))、移動相はA:10%ギ酸、B:80%メタノールおよび20%移動相A(10%ギ酸)を用い、流速1ml/min、0→20minでB濃度5→70%のリニアグラジェントで、520nmの吸光度をモニターして分析した。520nmの吸光度のうちC3Gが占める割合は、HPLCで検出されたピークエリアを元に算出し、図1に示す。意外なことに、C3G以外にも520nmの吸光度をもつ物質がかなり存在することが見出され、黒米のC3Gを温存するためには常にHPLCで分離定量する必要があると考えられた。従って、以下の実施例のC3Gの分析は全てHPLC法で行った。
【0048】
実施例2:各種麹菌と糖化液C3G含量
粉砕黒米を120℃で20分間オートレーブにて蒸きょう、菌株保存機関および市販種麹メーカーから入手した焼酎用麹菌17株(A. kawachi、A. awamori)を0.1%の割合で接種し、品温35℃、湿度80%以上で46時間培養した。得られた麹30gに水60mlを加え、55℃で6時間糖化し、固液分離後の上清を85℃で10分間酵素失活させ、糖化液を得た。
【0049】
麹については5倍量の100mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で菌体外酵素を抽出し、β―グルコシダーゼ(Bgl)活性をp−ニトロフェニル‐α‐グルコシド(pNPG)法で測定した。1mM pNPG基質、50mM 酢酸緩衝液(pH5.0)にて50℃で15分間反応させ、410nmの吸光度を測定した。結果を図2に示す。
【0050】
糖化液についてはC3G、グルコースおよびクエン酸含量を測定した。C3Gは実施例1に示す方法で測定した。グルコースはグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業(株))を用いて測定した。クエン酸はHPLC−電気伝導度検出器((株)島津製作所)で分離定量した。カラムはShim−pack SPR−H((株)島津製作所)、移動相は5mM p−トルエンスルホン酸、反応混合物は5mM p−トルエンスルホン酸および80μM EDTAを含む20mM Bis−Tris、カラム温度は40℃で測定した。結果を図3〜5に示す。
【0051】
グルコース含量には大きな差は見られなかったため、いずれの株でも糖化反応は問題なく進んだと考えられる。実施例4以下では、C3G分解活性を持つBgl活性が比較的低く、C3Gおよびクエン酸含量が最も高かったNo.13株、すなわちヒグチモヤシの白麹菌(本格焼酎菌米用)を選抜して用いた。また、No.8株、すなわち(株)秋田今野商店の黒麹菌(マイルド)のC3G含量は中程度であるが、クエン酸含量およびBgl活性はNo.13と同程度であり、焼酎用麹菌であれば白麹菌でも黒麹菌でも利用可能であると考えられる。
【0052】
実施例3:従来の製造工程の課題抽出と改善に向けた検討
従来の製造工程は、粉砕黒米の吸水工程、蒸きょう工程、製麹工程、糖化工程に分けることができる。黒米100gに36mlの水を添加し、4時間吸水させ、120℃で20分間蒸きょう、黒麹菌(No.8)を0.1%接種し、35℃で46時間培養した。麹に2倍量の水を添加し、55℃で6時間糖化、固液分離後、90℃で20分間酵素失活させ、糖化液を得た。粉砕黒米、蒸きょう黒米および黒米麹のC3Gは、20倍量の1N 塩酸を含む60%含水エタノールで抽出してからHPLCで分離定量した。結果を図6に示す。吸水工程ではC3Gの損失は見られなかったが、蒸きょう工程では約9割、製麹工程では約1割のC3Gの損失が見られた。また、糖化工程では麹中のC3Gのうち、約3割しか回収できていないことが判明した。従って、蒸きょう工程および糖化工程が改善すべき重要な工程であると考えられる。
【0053】
蒸きょう工程の問題点として、C3Gを中性pH条件化において高温で長時間保持していることが考えられる。「最良の形態」でも述べたとおり、C3Gは中性水溶液中では不安定であるが、酸性水溶液中では比較的安定であることが知られている。そこで、本検討では蒸きょうの際、通常は水を吸水させる替わりにクエン酸水溶液を吸水させたところ、C3G残存率を大幅に上げられることを見出した。すなわち、黒米糠1gに対し、1%量(V/W)の0,1,5,20%クエン酸水溶液を吸水後、100℃で20分間オートクレーブ内にて保持した結果、C3G残存率は、クエン酸濃度0%では0.78%であったが、クエン酸濃度依存的に増加し、クエン酸濃度20%では35.0%のC3Gが残存し、約45倍も向上した(図7)。しかしながら、さらにC3G回収率を上げるには、蒸きょう工程にC3Gが存在することは不利であると考えられる。
【0054】
従来の糖化工程における問題点として、一つ目に、特開平4−58878からも推定されるように、C3Gを含有する黒米糠以外に麹由来の固形物が多量に共存し、糖化残渣にC3Gが吸着してしまうことが考えられる。まず、麹に含まれる主な固形物としては、米由来のデンプン、麹菌の菌体および胞子が挙げられる。そこで、黒米2.4gに対し、2%クエン酸水溶液32ml加え、デンプン、胞子および菌体の有無によるC3G回収量の変化について検討した。その結果、デンプン、胞子および菌体いずれもC3Gの回収率を低下させた(図8〜10)。一方、可溶性のデンプンではC3Gの回収率は低下しなかったため、C3Gは麹の固形物に吸着してしまうことが推測され、固液分離の有効性が示唆された。次に、実際の麹に含まれると推定される量のデンプン、胞子および菌体のうち、どれが最もC3G回収の妨げになっているか検討した。黒米4g、デンプン源の粉砕搗精黒米7.2g、胞子源の種麹111mgおよび菌体40mgに対し、黒米麹から調製した水麹(菌体外酵素抽出液)96mlを加え、55℃で6時間保持した。このとき、粉砕搗精黒米を除いたもの、種麹を除いたもの、菌体を除いたものを比較した。対照として、黒米4gに対して2%クエン酸水溶液96mlを加えて55℃、6時間保持したものを用いた。その結果、粉砕搗精黒米を除いたものでC3G回収率の低下が大幅に改善された(図11)。したがって、実際の糖化では菌体および胞子の影響が小さいこと、麹に多量に存在するデンプンを十分に分解するため、糖化力が高い麹が必要であることが考えられた。さらに、それでも残存する糖化残渣とC3Gが存在することは不利であると考えられた。
【0055】
従来の糖化工程における問題点として、二つ目に、麹菌が生産するBglによりC3Gが酵素分解を受けていることが考えられる。まず、A. niger由来のBgl(Megazyme)のC3G分解活性を確認した(図12)。続いて、pNPG基質を用い、グルコースによるBgl活性の阻害効果を調べた。その結果、グルコース濃度依存的にBgl活性は減少し、グルコース濃度5.4%では、Bgl活性は2%以下に減少した(図13)。従って、グルコース濃度が10%以上に達する糖化液において、Bglはほとんど活性がなく、BglによるC3G分解の影響はきわめて小さくなると考えられる。
【0056】
以上のことから、糖化工程において、糖化残渣を固液分離により除いてからC3G添加することが有効と考えられた。また、このときのC3G供給源は、蒸きょう工程の前に黒米を精米し、その黒米糠を固液分離後の糖化液に添加することで、黒米全体を利用しつつもC3Gを最も効率良く回収可能と考えられた。
【0057】
実施例4:搗精黒米麹糖化液による黒米糠C3G抽出と糖化
実施例3の結果を踏まえ、本発明では原料黒米の精米工程、搗精黒米の製麹工程、糖化工程、固液分離後の糖化液による黒米糠の抽出工程から成り、C3Gおよび黒米のその他栄養成分を効率回収する製造方法を提供する。
【0058】
まず、黒米(朝紫品種)9.46kgを精米機で精米し、搗精黒米8.26kgと黒米糠1.17kgを得た。精米歩合は87.31%であった。得られた搗精黒米を水に30分間浸漬、100℃で50分間蒸きょう、40〜50℃まで放冷後、白麹菌(No.13)を接種して、24時間37℃、さらに19時間33℃で培養して搗精黒米麹を製造した。搗精黒米麹はクエン酸と糖化酵素を多量に含んでいた。麹は乾燥させてから保存した。
【0059】
次に、この搗精黒米麹に5.7倍量の水を加え、55℃で6時間糖化した。その後遠心分離および濾紙ろ過により固液分離して糖化液を得た。
【0060】
糖化液に精米工程で得た黒米糠を1.67%(W/V)添加し、55℃で2時間保持し、遠心分離および濾紙ろ過により固液分離して黒米のC3G(アントシアニン)を多量に含む黒米糖化液を得た。このとき、C3Gの回収率は67.33%であった。さらに、糖化液中の酵素活性が残存しているため、従来技術の有機溶媒による抽出と異なり、黒米糠のデンプンやタンパク質が分解され、グルコースおよびアミノ酸含量が増加した(図14,15)。pHは3.6であった。
【0061】
続いて、糖化液に対する黒米糠の添加量(W/V)とC3G回収率の関係を調べた。添加量を1,2.5,5,10%として55℃で1時間抽出したところ、添加量依存的にC3G回収率は減少したが、添加量1%のときは約71%のC3Gを回収することができた(図16)。
【0062】
さらに、黒米糠の抽出時間とC3G回収率の関係を調べたところ、C3G回収率は1時間抽出で60%程度、2時間抽出で65%程度となった。2時間以降は徐々に減少していき、4時間抽出で60%程度になった(図17)。したがって、抽出時間が長すぎるとC3Gが損失する可能性が示唆された。また、アミノ態窒素は3時間程度まで増加したが、2時間までの増加に比べるとわずかであった(図18)。グルコースおよびクエン酸濃度はほとんど変わらなかった。以上より、黒米糠からの抽出は55℃で2時間程度が最良と考えられた。
【0063】
酵素反応の停止および殺菌目的で得られた黒米糖化液を加熱することができる。C3G濃度5.97mg/100ml、pH3.8の黒米糖化液を用い、70,80,90,99.9℃で10,20,30,60分間加熱後、C3G濃度を再度測定した。その結果、70℃で30分間、80℃で20分間、90℃で10分間の加熱では、C3Gの損失は10%未満であった(図19)。本黒米糖化液においてC3Gは比較的安定であると考えられる。また、pHが4.0以下であるため、本発明ではC3Gを損失することなく必要な加熱殺菌が可能であると考えられる。
【0064】
比較例1:本発明と従来製法の比較
精米歩合が87.31%の搗精黒米500gを洗米し、15分間浸漬、水分測定後、不足した水を添加して2時間吸水させ、水分量を約33%に調整した。精米を行っていない同じロットの黒米200gを粗粉砕し、水を66ml添加して2時間吸水させた。搗精黒米および粉砕黒米を121℃で15分間オートクレーブにて蒸きょう、40〜50℃まで放冷後、白麹菌(No.13)を接種して37℃で24時間、33℃で19時間、シャーレ内で培養した。手入れは3回行い、乾燥させて保存した。
【0065】
乾燥させた搗精黒米麹および粉砕黒米麹それぞれ25gに対し、5倍量(V/W)加え、55℃で6時間保持し、遠心分離および濾紙ろ過により固液分離して糖化液を得た。
【0066】
搗精黒米糖化液には精米工程で生じた4.4%(W/V)の黒米糠を添加し、55℃で2時間保持し、遠心分離および濾紙ろ過により固液分離して搗精黒米黒米糖化液を得た。pHは3.5であった。
【0067】
搗精黒米および粉砕黒米糖化液を80℃で20分間保持して酵素失活後、0.22μmフィルター濾過後、成分分析に供した。
【0068】
本発明(搗精黒米糖化液)と従来製法(粉砕黒米糖化液)を比較すると、グルコース、アミノ酸、クエン酸ついては大きな差は見られなかったが、C3G回収率については、本発明の方が、従来製法に比べて10.4倍高く、本発明の有効性が確認された(以下の表1および図20)。
【0069】
【表1】

【0070】
本比較例では糠添加率が4.4%(W/V)と高いためC3G回収率は45%に止まったが、実施例4に示したように、黒米糠を添加する糖化液量を増やすことで、さらなるC3G回収率の向上が可能である。糖化液量を増やすには、搗精黒米麹に市販の白米麹をブレンドして糖化のスケールを大きくしても良いし、単純に食品、飲料用のクエン酸水溶液等を加水して用いても良い。
【0071】
実施例5:30Lパイロットプラントスケールでの製造
黒米(朝紫品種)19.68kgを精米し、搗精黒米16.78kgと糠2.53kgとが得た。精米歩合は85.26%であった。得られた搗精黒米を水に60分間浸漬、無圧で50分間蒸きょう、40〜50℃まで放冷後、小型円形自動製麹機に盛り込み、焼酎用白麹菌(本格焼酎米用)を接種して、24時間37℃、さらに19時間33℃で培養して搗精黒米麹を製造した。搗精黒米麹のクエン酸と糖化酵素は若干少なかった。麹は乾燥させてから保存した。
【0072】
乾燥させた搗精黒米麹6kgに対し、30Lの水を加え、50Lジャーファーメンターにて55℃で18時間保持した。
【0073】
糖化液の約半分を振動篩法により濾過を行ったところ、液量回収率は93.5%であった。残りの約半分を濾布法により濾過を行ったところ、液量回収率は93.8%であった。合計で31.1Lの糖化液を回収した。いずれの方法でも濾過は可能であった。
【0074】
31.1Lの糖化液に対し、黒米糠を600g(1.93%、W/V)添加、55℃で2時間保持後、糖化液と同様に濾過を行った。振動篩法および濾布法の液量回収率は、それぞれ94.0%および95.7%であり、合計29.6Lの黒米糖化液を回収した。黒米糠の濾過についても、いずれの方法でも濾過は可能であった。
【0075】
黒米糖化液を50Lジャーファーメンターにて80℃で20分間保持した。その後成分分析を行うまで凍結保存した。
【0076】
濾過前の黒米糖化液のC3G濃度は14.65mg/100mlであった。振動篩濾過後は14.42mg/100ml、濾布濾過後は15.24mg/100mlであり、濾過による損失はみられなかった。このとき、黒米糠からのC3G回収率は64.1%であった。殺菌工程においては8.3%のC3Gの損失がみられた。グルコース濃度は14.21g/100ml、クエン酸濃度は0.41g/100ml、アミノ酸含量は470mg/100mlであった。
【0077】
以上より、本発明は30Lパイロットプラントスケールでも有効な製造方法であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明方法により、黒米に由来するアントシアニン、特にC3G、ならびにその他の栄養成分を多く含む組成物を製造することが可能であり、機能性食品・飲料素材の製造に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、Amberlite 200CT(陽イオン交換)を用いて精製した,各フラクションについて520nmの吸光度およびC3G含量の測定結果を示す。
【図2】図2は、各焼酎用麹菌株におけるBgl活性の測定結果を示す。
【図3】図3は、各焼酎用麹菌株を用いて作製した糖化液中のC3G含量の測定結果を示す。
【図4】図4は、各焼酎用麹菌株を用いて作製した糖化液中のグルコース含量の測定結果を示す。
【図5】図5は、各焼酎用麹菌株を用いて作製した糖化液中のクエン酸含量の測定結果を示す。
【図6】図6は、従来技術の各工程におけるC3G残存率の測定結果を示す。
【図7】図7は、蒸きょう工程における、クエン酸の存在によるC3G残存率への影響を測定した結果を示す。
【図8】図8は、糖化工程における、デンプンの存在によるC3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図9】図9は、糖化工程における、胞子の存在によるC3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図10】図10は、糖化工程における、菌体の存在によるC3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図11】図11は、糖化工程における、各麹構成物の存在によるC3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図12】図12は、糖化工程における、BglによるC3G分解による、C3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図13】図13は、糖化工程における、グルコースの存在によるBgl活性への影響を測定した結果を示す。
【図14】図14は、黒米糠の添加の前後における、糖化液中のグルコース含量の測定結果を示す。
【図15】図15は、黒米糠の添加の前後における、糖化液中のアミノ酸含量の測定結果を示す。
【図16】図16は、糖化液に対する黒米糠の添加量による、C3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図17】図17は、黒米糠の抽出時間による、C3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図18】図18は、黒米糠の抽出時間による、糖化液中のアミノ態窒素含量への影響を測定した結果を示す。
【図19】図19は、黒米糖化液の加熱温度による、C3G回収率への影響を測定した結果を示す。
【図20】図20は、本発明方法と従来法による、C3G回収率の比較結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搗精黒米から麹を作製して糖化し、その糖化液に黒米の糠を加えて抽出処理し、これによりアントシアニンに富む黒米糖化液を得ることを含む、黒米由来のアントシアニンを含む組成物を製造する方法。
【請求項2】
以下の工程を包含する、請求項1記載の方法:
(1)黒米を精米して、搗精黒米と糠とに分離する工程;
(2)搗精黒米を蒸きょうし、麹菌を加えて培養して、麹を製造する工程;
(3)麹から麹糖化液を製造して、それを濾過する工程;
(4)濾過した糖化液に工程(1)で得た糠を加えて抽出処理し、これによりアントシアニンを含む糖化液を得る工程;および
(5)得られた糖化液を濾過して、黒米糖化液を得る工程。
【請求項3】
アントシアニンが、シアニジン−3−O−β―グルコシド(C3G)である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(1)において、黒米を80〜95%の精米歩合で精米する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
工程(2)において、麹菌が、焼酎用麹菌である、請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
麹菌が、クエン酸高生産性、かつβ−グルコシダーゼ(Bgl)低活性性である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程(2)において、麹菌を接種して、28〜40℃にて40〜72時間培養を行う、請求項2〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(3)において製造される糖化液が、10〜30%(W/V)のグルコースおよび、0.5〜3.0%(W/V)のクエン酸を含有する、請求項2〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(3)において、糖化液を濾過して不水溶性の物質を除去する、請求項2〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
不水溶性の物質が、デンプン、糠固形分、麹菌の菌体および胞子、またはそれらの混合物を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
工程(4)において、pH2.0〜5.0、25〜60℃にて、1〜10時間、抽出処理する、請求項2〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
工程(5)にて得られる黒米糖化液がまた、糠由来の糖、アミノ酸、ミネラルを含有する、請求項2〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
さらに、(6)黒米糖化液を加熱して、酵素失活および/または殺菌を行う工程、を含む、請求項2〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載の方法により製造された、アントシアニンに富む黒米糖化液を含む組成物。
【請求項15】
組成物が飲食品である、請求項14項記載の組成物。
【請求項16】
飲食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した飲食品である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
栄養補助成分をさらに含む、請求項14〜16のいずれか1項記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−154768(P2010−154768A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333611(P2008−333611)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】