説明

黒色ペースト組成物及び該組成物を用いた黒色膜の製造方法

【課題】従来技術よりも遮蔽率が高く、かつライン乱れのないパターンの黒色膜を形成できる。ペースト材料の利用効率を向上することができる。フォトリソグラフィ法を用いた従来の製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化できる。
【解決手段】PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法により黒色膜16b、24を作製するための黒色ペースト組成物であって、組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、組成物の粘度が0.5〜30Pa・sであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下、PDPという。)のフロントガラス基板上にバス電極用及びブラックストライプ用の黒色膜をオフセット印刷法により作製するのに好適な黒色ペースト組成物及び該組成物を用いた黒色膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPはガスを封入した密閉空間である放電セルの電極対に電圧を印加し、プラズマ放電を発生させ、ガスから発生する紫外線を放電セル内に塗布された蛍光体に照射し、蛍光体を励起させてこれを発光させることにより情報を表示する表示デバイスである。
【0003】
PDPの画像表示方法について以下、図1を参照しながら更に説明する。PDPはフロントガラス基板11とリアガラス基板12との間に放電の広がりを一定領域に抑え、表示を規定のセル内で行わせると同時に、かつ均一な放電空間を確保するために隔壁13が設けられる。フロントガラス基板11の内面にはバス電極16が設けられ、リアガラス基板12の内面には、バス電極16に対向してアドレス電極17が設けられる。両基板11及び12は隔壁13により区画される。区画された内部にはガスが封入され、放電空間14が形成される。PDPはこの放電空間14内で相対向するバス電極16とアドレス電極17との間にプラズマ放電を生じさせることにより、この放電空間14内に封入されているガスから発生する紫外線を放電空間14内に設けた蛍光体18G,18B,18Rに当てることにより表示を行うものである。
【0004】
近年、PDPの高画質化が求められ、その対策の一つとしてハイコントラスト化が挙げられる。従来、PDPのコントラストは、ブラウン管テレビと比べ低いものであったが、このコントラストを低下させる原因の1つが、室内光の反射輝度の高さである。
【0005】
室内光は可視光であるが、PDPを構成する放電セル内の蛍光体に対する可視光の反射率が高いため、蛍光体に当たって反射した室内光が視聴者の目に入り、蛍光体による発光の視認を弱める原因を引き起こしていた。
【0006】
そのため、最近のPDPでは、室内光の反射によるコントラスト低下を解決する対策として、フロント基板における室内光の遮蔽率を向上させることにより、室内光がPDPを構成する放電セル内に射し込むのを防止する方法が採用されている。第一の方法は、パネルの放電していない部分、即ち各放電空間を作り出す隔壁13の位置にブラックストライプ24を形成することにより、遮蔽して外光反射率を下げる方法である。第二の方法は、従来、銀などを主成分とする白色層1層のみで構成されていたバス電極を、先ず黒色ペーストを塗布して黒色層16bを形成し、その上に白色層16aを積層することで白黒2層16a,16bから構成されるバス電極16とする方法である。
【0007】
上記ブラックストライプやバス電極の黒色層のような黒色膜を形成するための材料として耐熱性黒顔料、有機バインダ、光重合性モノマー、光重合開始剤及び有機ビーズを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物、及び黒層とブラックマトリックス(ブラックストライプ)が上記光硬化性樹脂組成物により形成されることを特徴とするPDP用前面基板が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。前記特許文献1に示される光硬化性樹脂組成物によるバス電極を構成する黒層とブラックマトリックスを形成するためにフォトリソグラフィ法が使用されている。
【0008】
具体的には、先ず、透明電極が形成されたフロントガラス基板の全面に光硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥してタックフリーの黒層を形成する。形成した黒層に対し、バス電極とブラックマトリックスのパターンを有するフォトマスクを重ね合わせ、露光する。次に、黒層の全面にAg等の導電性粉末を含有する導電性の高い組成物を塗布し、乾燥してタックフリーの白層(導電性層)を形成する。これにバス電極の露光パターンを有するフォトマスクを重ね合わせ、露光する。次に、アルカリ水溶液により現像して非露光部分を除去し、焼成することにより、フロントガラス基板の透明電極の上に、黒層(下層)電極と
白層(上層)電極とからなるバス電極と、ブラックマトリックスとが形成される。
【特許文献1】特開2005ー8700号公報(請求項1及び4、明細書[0052]、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に示されるような、フォトリソグラフィ法では、黒層やブラックマトリックスの材料として、光硬化の性質を有する光硬化性モノマーなどを含んだ、いわゆる感光性の黒色ペーストが使用されている。フォトリソグラフィ法では感光性黒色ペーストを塗布して形成した塗膜層全体を露光し硬化する必要がある。しかし、感光性黒色ペーストに含まれる黒色顔料のような黒色粉末の粒子径を小さくし、より微細なパターンの黒層を形成しようとする場合、その粒子径を一定値以下にすると、粒子が密な状態に集まり、露光の光を遮ってしまうため、光硬化性モノマーなどの光硬化性組成物が十分な硬化を得られず、ファインなパターンの黒層を形成することができないという問題が生じる。一方、光硬化性組成物の十分な硬化を得るために、逆に黒色粉末の粒子径を大きくすると、粒子間の隙間が大きくなり、黒層の可視光に対する遮蔽としての効果が十分に得られないという問題が生じる。
【0010】
また、フォトリソグラフィ法では露光した部分以外は後工程で除去してしまうため、ペースト材料の利用効率が極めて悪く、除去するペースト材料に含まれる元素の種類によっては、処理方法やリサイクル等にコストがかかるという問題も生じていた。
【0011】
更に、前記特許文献1のようなフォトリソグラフィ法により黒層やブラックマトリックスを形成する場合には、塗布、乾燥、露光、現像、焼成といった煩雑な製造工程を踏まなければならない。
【0012】
そこで本発明は、このような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものである。
【0013】
本発明の目的は、遮蔽率が高く、かつファインなパターンの黒色膜を形成し得る黒色ペースト組成物及び該組成物を用いた黒色膜の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、ペースト材料の利用効率を向上し得る、黒色ペースト組成物を用いた黒色膜の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の更に別の目的は、フォトリソグラフィ法を用いた従来の製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化し得る、黒色ペースト組成物を用いた黒色膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法により黒色膜16b、24を作製するための黒色ペースト組成物である。その特徴ある構成は、組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、組成物の粘度が0.5〜30Pa・sであるところにある。
【0017】
オフセット印刷法ではペーストの粘度が重要であり、ペーストを印刷した際の転写性等に大きな影響を及ぼす。ペースト粘度が高すぎると、オフセット印刷にて所望のパターンを持つ金属の凹版に対してペーストが良好に充填せず、ブランケット又はフロントガラス基板への転写の際、パターンに斑が生じたりパターンに途切れが生じ易くなる。逆にペースト粘度が低すぎると、オフセット印刷にてパターンを凹版から転写する際に、ペースト形状が保てず、広がり易くなる。そのため請求項1に係る発明では、ペースト組成物をオフセット印刷に最適な範囲の粘度に限定することで、ライン乱れがなく、良好なペースト形状を保持し、ファインなパターンの黒色膜の形成を可能とする。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、組成物のタック値が5〜30である黒色ペースト組成物である。ここで、「タック」とは、粘着力の度合いを示す値で、JIS K 5701−2000に準処したインコメータにより測定される数値をいう。
【0019】
請求項2に係る発明では、黒色ペースト組成物のタック値を5〜30にすることで、ブランケットからガラス基板への転写の際、ブランケットに黒色ペースト組成物が残ることなく黒色ペースト組成物をガラス基板上に転写させるのに好適である。
【0020】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、有機系ビヒクルの粘度が0.01〜10Pa・sである黒色ペースト組成物である。
【0021】
請求項3に係る発明では、有機系ビヒクルの粘度を、0.01〜10Pa・sの範囲にすることで、黒色ペースト組成物の粘度をより調整し易くなる。黒色ペースト組成物の粘度は、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び有機系ビヒクルの配合割合や、黒色酸化物粉末の粒子径や比表面積にも関係するが、有機系ビヒクルの粘度の値が黒色ペースト組成物の粘度に最も影響を及ぼす。
【0022】
請求項4に係る発明は、図4及び図5に示すように、請求項1ないし3いずれか1項に記載の黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法により基板11上に黒色膜16b、24を作製することを特徴とする黒色膜の製造方法である。
【0023】
請求項4に係る発明では、高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成するべく、オフセット印刷法により、オフセット印刷性、つまりペーストをオフセット印刷機で印刷した際の転写性等に優れた粘度を有する黒色ペースト組成物を用いることで、ライン乱れがなく、良好なペースト形状を保持したファインなパターンの黒色膜を形成することができる。従来の製造工程で使用されていたフォトリソグラフィ法では、感光性ペーストを露光し硬化させるため、黒色粉末の粒子間にある程度の隙間を確保し、露光の光を通過させる必要がある。そのため、黒色粉末の粒径を必要以上に大きくせざるを得ず、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成するには限界が生じていたが、オフセット印刷法を用いることにより、粒径が小さい黒色粉末の使用を可能とすることで、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、粘度が0.5〜30Pa・sの範囲である黒色ペースト組成物であるため、この組成物を使用することで、従来の技術で使用されていたフォトリソグラフィ法に代わりオフセット印刷法によるファインなパターンの黒色膜の形成が可能となる。その結果、フォトリソグラフィ法で使用されていた黒色粉末よりも粒径の小さい黒色粉末の使用が可能となるため、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を作製することが可能となる。なお、有機系ビヒクルの粘度を0.01〜10Pa・sの範囲にすることにより、黒色ペースト組成物の粘度を0.5〜30Pa・sの範囲に調整し易くなる。
【0025】
従来の製造工程に使用されていたフォトリソグラフィ法では所望の面全体にペースト組成物を塗布してから露光し、不必要な部分を後工程で廃棄し除去していたが、本発明ではオフセット印刷法により黒色膜を形成するため、必要な部分にのみペースト組成物を塗布すればよいため、材料の利用効率向上の効果が得られる。また、フォトリソグラフィ法における塗布、露光、現像といった煩雑な工程を踏む必要がなく、製造工程を簡略化できる。更に、オフセット印刷法では黒色層形成後、この形成した未焼成の黒色層上に白色層を形成した後に、黒色層及び白色層の2層を同時に焼成することが可能であるため、製造工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
本発明の黒色ペースト組成物は、図1に示すように、PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法により黒色膜16b、24を作製するために使用される。本発明の黒色ペースト組成物は、10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含むように構成され、組成物の粘度が、0.5〜30Pa・sであることを特徴とする。
【0028】
従来の製造工程では、感光性ペーストをフォトリソグラフィ法により露光し硬化させていたため、露光の光を通過させるための隙間を確保するために、粒径がミクロンオーダー〜サブミクロンオーダーの黒色粉末を用いる必要があったが、本発明ではオフセット印刷法を用いるため、従来技術で使用されるものよりも粒径の小さい黒色粉末の使用が可能となり、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することができる。また、オフセット印刷法に適した粘度を有する本発明の黒色ペースト組成物13を用いることにより、オフセット印刷によるライン乱れのない、良好なペースト形状を保持したファインなパターンの黒色膜を形成することができる。本発明の黒色ペースト組成物は、10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含むように構成される。
【0029】
オフセット印刷法では図2(a)に示すように、まず版30と呼ばれる、溝30aを持つ金属の凹版に黒色ペースト組成物31を充填させる。次に、図2(b)に示すようにブランケット32と呼ばれる胴に一旦転写させる。そして、図2(c)に示すように一旦ブランケット32に転写した黒色ペースト組成物31を基板33に転写させることにより黒色ペースト組成物31による黒色膜34を形成する。本発明の黒色ペースト組成物の粘度を0.5〜30Pa・sの範囲としたのは、図2(a)の工程において、組成物の粘度の上限値である30Pa・sを越えると、版30の有する溝30aに黒色ペースト組成物31が良好に充填せず、図2(b)の工程におけるブランケット32への転写、又は図2(c)の工程における基板33への転写の際、パターンに斑が生じたり途切れが生じるといった原因を引き起こす。逆に組成物の粘度を下限値である0.5Pa・s未満にすると、図2(c)に示す工程における黒色ペースト組成物をブランケット32から基板33へ転写した後、基板33上でペースト形状が保てずに広がってしまい、良好なペースト形状を保持できないためである。このうち組成物の粘度は1〜20Pa・sが好ましい。
【0030】
本発明において、黒色ペースト組成物のタック値は5〜30であることが好ましい。具体的には、黒色ペースト組成物は、JIS K 5701−2000に準処したインコメータによって測定したタック値が上記範囲内となる粘着性を発現しているように構成される。タック値が大きいほど粘着力が強く、逆にタック値が小さいと粘着が弱いということになる。本発明における黒色ペースト組成物のタック値が下限値未満であると、粘着度が乏しくなって良好なオフセット印刷ができ難くなる。具体的には、印刷時の形状を全面転写することが難しくなる。逆に、本発明における黒色ペースト組成物のタック値が上限値を越えると、粘着性が非常に強く発現するので、印刷時の形状を全面転写することは可能であるが、逆にブランケットにも強く粘着してしまうため、フロントガラス基板へ印刷した後の形状が乱れやすい。具体的には、印刷時の形状に角が形成され、図3(a)及び図3(b)に示すように、基板11上に形成した組成物15の形状が山形などの形状になる等のパターン不良を起こしやすい。このうち、特に好ましいタック値は10〜25である。
【0031】
有機系ビヒクルは、黒色ペースト組成物に、図2に示すオフセット印刷法の印刷工程に適した粘着性を持たせるためのものである。アルカリ可溶性樹脂を有機溶剤に溶解させ、黒色酸化物粉末及びガラス粉末の分散性向上のための分散剤や、ペースト粘度調整のための粘度調整剤等を必要に応じて加える。黒色ペースト組成物の粘度を調整する際、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び有機系ビヒクルの配合割合、黒色酸化物粉末の粒子径、比表面積等が関係してくるが、有機系ビヒクルの粘度が最終的なペースト粘度の決定に最も関係してくる。このうち、有機系ビヒクルの粘度を0.01〜10Pa・sの範囲にすると黒色ペースト組成物の粘度を調整しやすいため好ましく、このうち0.05〜5Pa・sが特に好ましい。
【0032】
黒色酸化物粉末はCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属元素を含む金属酸化物又はこれらの複合酸化物であることが望ましい。このうち、Co34やFe,Mn,Cu複合酸化物、Cu,Cr,Mn複合酸化物が特に好ましい。また、黒色酸化物粉末の平均粒径は0.05〜0.3μmの範囲内が好ましい。0.05μm未満では、黒色酸化物粉末の比表面積が大きくなり、黒色ペースト組成物を最適な粘度に調節しても、チキソトロピー性が発現する。そのため黒色ペースト組成物は、流動性が悪くなり、印刷後の形状に角が生じる傾向がある。0.3μmを越えると、黒色酸化物粉末の粒径が大きいため、所望の膜厚の黒色膜を作製する際に、黒色酸化物粉末が密に集まらず、形成される黒色膜の遮蔽率が低くなりやすい。黒色酸化物粉末が上記範囲の平均粒径であれば、オフセット印刷法に適し、高密度の遮蔽率の高い黒色膜を作製するのに好適なペースト組成物とすることができる。
【0033】
ガラス粉末は、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物を含む400〜550℃の軟化点を有するフリットガラスであることが好適である。軟化点を上記範囲内としたのは、軟化点が下限値未満のフリットガラスでは、ガラス粉末がペースト組成物中の有機系ビヒクルを構成するバインダ樹脂の脱バインダを妨げてしまい、この黒色ペースト組成物を用いて作製した黒色膜は、抵抗値が上昇する傾向があるためである。また、軟化点が上限値を越えるフリットガラスでは、ガラス粉末がガラス基板との間の十分なアンカーを与え難くなるためである。このうち、フリットガラスの軟化点は450〜550℃が特に好ましい。また、ガラス粉末の平均粒径は0.05〜1.0μmであることが好ましい。0.05μm未満では、ガラス粉末の比表面積が大きくなり、黒色ペースト組成物を最適な粘度に調節しても、チキソトロピー性が発現する。そのため黒色ペースト組成物は、流動性が悪くなり、印刷後の形状に角が生じる傾向がある。一方、1.0μmを越えると、ガラス粉末が、焼成後、軟化してガラスフリットとしてマトリックス状に広がる際に、形成される黒色膜全体に均一に広がらず、遮蔽に斑がある黒色膜が形成されやすい。具体的には、PbO−B23−SiO2、ZnO−B23−SiO2、PbO−B23−SiO2−Al23、PbO−ZnO−B23−SiO2、PbO−B23−SiO2−Al23−ZnO、PbO−B23−SiO2−CaO、B23−ZnO−Bi23、B23−Bi23、B23−ZnO、Bi23−B23−SiO2、ZnO−P25−SiO2、P25−B23−Al23、ZnO−P25−TiO2などの組み合わせが挙げられる。
【0034】
本発明の黒色膜の製造方法は、上記黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法により基板上に黒色膜を作製することを特徴とする。従来の製造工程では、感光性ペーストをフォトリソグラフィ法により露光し硬化させていたため、露光の光を通過させるための隙間を確保するために、黒色粉末の粒径に必要以上の大きさを持たせる必要があったが、本発明ではオフセット印刷法を用いるため、従来技術で使用されるものよりも粒径の小さい黒色粉末の使用が可能となり、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することができる。また、オフセット印刷法に適した本発明の黒色ペースト組成物を用いることにより、オフセット印刷によるライン乱れのない、良好なペースト形状を保持したファインなパターンの黒色膜を形成することができる。更に、従来の製造工程に使用されていたフォトリソグラフィ法では所望の面全体にペースト組成物を塗布してから露光し、不必要な部分を後工程で廃棄し除去していたが、本発明ではオフセット印刷法により黒色膜を形成するため、必要な部分にのみペースト組成物を塗布すればよいため、材料の利用効率向上の効果が得られる。また、フォトリソグラフィ法における塗布、露光、現像といった煩雑な工程を踏む必要がない。更に、オフセット印刷法では黒色層形成後、この形成した未焼成の黒色層上に白色層を形成した後に、黒色層及び白色層の2層を同時に焼成することが可能であるため、製造工程を簡略化することができる。
【0035】
次に、本発明の黒色膜の製造方法を用いて、PDP用前面基板を作製する方法を説明する。
【0036】
先ず、図4(a)に示すような、フロントガラス基板11を用意し、図4(b)に示すように、フロントガラス基板11に透明電極23を形成する。ここで形成する透明電極23は、プラズマ放電に必要であり、かつ発光の妨げにならないように透明な材質で形成される。具体的には、透明電極23はITO(Indium Tin Oxide)やSnO2等の酸化膜が使用され、スパッタリング、蒸着等の真空成膜法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成される。
【0037】
次いで、図4(c)に示すように、形成した透明電極23上に、本発明の黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布、焼成することにより、黒色層16bを形成する。本発明の方法では、オフセット印刷法により塗布膜を形成するため、より小さい粒径の黒色粉末を用いることができ、高密度で遮蔽率が高い黒色膜を形成することができる。続いて、図4(d)に示すように、形成した黒色層16b上に、AgやAu、Pt、Pd等の導電性粉末を含有する導電性の高い白色系導電性ペーストを塗布、焼成することにより白色層16aを形成する。これにより黒色層16b及び白色層16aから構成されるバス電極16が形成される。
【0038】
なお、本発明の黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布して黒色層16bを形成し、続いて、白色系導電性ペーストをオフセット印刷法により塗布して黒色層16bの上に白色層16aを形成した後、この黒色層16bと白色層16aを同時に焼成することにより黒色層16b及び白色層16aから構成されるバス電極16を形成することもできる。このような方法では、重ねた2層の塗布膜を同時に焼成するため、工程の短縮化を図ることができる。
【0039】
次に、図4(e)に示すように、透明電極23及びバス電極16を覆うように、フロントガラス基板11の全面に透明誘電体層21を形成する。透明誘電体層21は電極の保護と放電時に誘電体層表面に壁電荷を形成してメモリ機能を持たせるために形成するものである。この透明誘電体層21は、バス電極16上に20〜40μmの厚みとなるように形成される。
【0040】
次に、図5(a)に示すように、形成した透明誘電体層21の上に、本発明の黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布、焼成することにより、ブラックストライプ24を形成する。ブラックストライプ24を形成することで、外光反射率が低下し、コントラストが改善される。本発明の方法では、オフセット印刷法により塗布膜を形成するため、より小さい粒径の黒色粉末を用いることができ、高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することができる。
【0041】
次に、図5(b)に示すように、透明誘電体層21の上に、ブラックストライプ24と同じ高さになるように、カラーフィルタ22を形成する。続いて、図5(c)に示すように、カラーフィルタ22及びブラックストライプ24の上に、透明誘電体層21を形成する。更に、図5(d)に示すように、透明誘電体層21の上に、保護膜19を形成する。
保護膜19を形成するのは、放電によるイオン衝撃で誘電体層がダメージを受け、パネル寿命が短くなるのと、プラズマ放電に必要な二次電子放出の効率が悪いため、放電電圧が高くなるのを防ぐためである。保護膜19はMgOが使用され、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングによって形成することができる。
【0042】
以上、図4(a)〜図5(d)の各工程を経ることにより、PDP用の前面基板が得られる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0044】
<実施例1〜6及び比較例1〜4>
次の表1,表2に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び有機系ビヒクルを用意し、次の表1,表2に示す含有割合となるように有機系ビヒクルに黒色酸化物粉末及びガラス粉末を混合して、黒色ペースト組成物を作製した。
【0045】
なお、有機系ビヒクルは、アルカリ可溶性樹脂を有機溶媒に溶解することにより調整した。この有機系ビヒクルには、作製する黒色ペースト組成物に応じて、適宜分散剤や粘度調整剤等の添加剤を加えている。分散剤は、黒色酸化物粉末及びガラス粉末の分散性向上のために、粘度調整剤は、ペーストの粘度調整のために適宜添加した。
【0046】
粘度については、レオメータ(TA Instruments製)を用いて、40mmAlコーンを使用し、有機系ビヒクルのみの時と、黒色ペースト組成物を作製した後の2回を測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

<比較試験>
実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた黒色ペースト組成物を用いて、以下のオフセット印刷性、最小線幅、保存安定性についての評価を行った。その結果を次の表3,表4に示す。
【0049】
(1) オフセット印刷性:黒色ペースト組成物をオフセット印刷機(日本電子精機社製)でガラス基板上に印刷した際の転写性等をオフセット印刷性として評価した。オフセット印刷性の具体的な評価は、黒色ペースト組成物がブランケットからガラス基板上に転写される際に、ライン形状に乱れが無く、100%転写され、ブランケットに残留ペーストがない状態を「良好」の評価とし、ライン形状に一部、にじみや乱れが確認されるも、ブランケット上には残留ペースト組成物が無く100%転写できた場合を「可」の評価として、大きな形状乱れや印刷斑、欠損箇所などが確認されたり、ブランケット上に転写できないペーストが残留した場合を「不可」の評価とした。
【0050】
(2) 最小線幅:オフセット印刷が可能な線幅を50μm、70μm、100μm及び150μmの4種の線幅で表し、この線幅を最小線幅とした。
【0051】
(3) 保存安定性:黒色ペースト組成物を15℃に保たれた低温保管庫に保管し、この保管した黒色ペースト組成物に変質や沈殿が生じるまでの時間を保管可能日数とし、この保管可能日数を保存安定性の指標とした。
【0052】
次に、実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた黒色ペースト組成物をスクリーン印刷法によりガラス基板上に塗布し、この塗布膜を580℃で30分間焼成して黒色膜を形成した。形成した黒色膜について、以下の黒色度及び密着性についての評価を行った。その結果を次の表3に示す。
【0053】
(4) 黒色度:形成した黒色膜について、カラーコンピュータ(スガ試験器社製)を用いて黒色度を測定した。具体的には、XYZ系色差を測定した際の黒色度を表すY値を求めた。なお、Y値が小さいほど黒色度が高いことを意味する。
【0054】
(5) 密着性:形成した黒色膜について、JIS−K5400に準拠した碁盤目テープテスト法により、黒色膜の密着性を評価した。密着性の具体的な評価は、碁盤の目テープテストを実施した際に、テープ側の黒色膜が転写されず、ガラス基板上に黒色膜が100%密着している場合を「良好」の評価とし、テープとガラス基板の両方に黒色膜が内部破壊を起こして付着した場合を「可」の評価とし、テープ側に多くの黒色膜が付着し、薄利後の界面にガラス基板が観察された際を「不可」の評価とした。
【0055】
【表3】

表3は、黒色ペースト組成物の粘度の違いによる評価結果を表したものである。表3より明らかなように、黒色ペースト組成物の粘度が高い比較例1では、保存安定性においては実施例3,4よりも優れた値を示し、黒色度についても実施例2,3と同程度の高い黒色度が得られたものの、粘度が高すぎるために、黒色ペースト組成物がブランケットに良好に転写せず、基板上に印刷されたペースト組成物には途切れや斑が生じてしまい最小線幅を確認できなかった。黒色ペースト組成物の粘度が低い比較例2では、黒色度については、ラインの膜厚に斑が出て、部分的に遮蔽率が不十分な箇所が発生したため、実施例1〜4に比べてY値が若干高い値を示し、黒色度は下がった。また、密着性は実施例3と同等の結果が得られた。しかし、比較例2における黒色ペースト組成物は、粘度が低すぎるために、転写した後にペースト形状が保てず線と線の間が、広がったペーストによってふさがってしまったため最小線幅を確認できなかった。一方、実施例1〜4では、最小線幅を確認でき、オフセット印刷性においても比較例1,2よりも優れた結果が得られた。
【0056】
【表4】

表4は、黒色ペースト組成物に含まれる黒色酸化物粉末とガラス粉末の含有割合の違いによる評価結果を表したものである。表4より明らかなように、黒色酸化物粉末の含有量が下限値である10質量%を満たさず、ガラス粉末が上限値である30質量%を越える比較例3では、良好な密着性は得られたものの、黒色度については、Y値が最も高い値を示し十分な黒色度が得られなかった。黒色酸化物粉末の割合に比べ、ガラス粉末の割合が多いため、黒色度は最も悪くなり、良好な密着性は得られるものの、遮蔽としての十分な効果が得られない黒色膜となった。また、黒色酸化物粉末の含有割合が上限値である50質量%を越え、ガラス粉末が下限値である5質量%に満たない比較例4では、遮蔽効果として十分な黒色度は得られたものの、密着性が不可となった。黒色酸化物粉末の含有割合に対し、ガラス粉末の含有割合が低すぎるため、ガラス粉末が、軟化した後、形成される黒色膜全体に広がらず、密着性の悪い黒色膜となった。一方、黒色酸化物粉末が10質量%で、ガラス粉末が30質量%である実施例5では、密着性は高く、遮蔽として十分な黒色度を示した。また、黒色酸化物粉末が50質量%で、ガラス粉末が5質量%である実施例6では、黒色度については、Y値が最も低い値を示し遮蔽に十分な黒色度が得られ、また密着性についても十分な結果が得られた。黒色酸化物粉末、ガラス粉末の上限値又は下限値いずれをも満たす実施例5,6においては、これらを満たさない比較例3,4よりもオフセット印刷に適した黒色ペースト組成物が得られる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】PDPの放電セルを示す図。
【図2】オフセット印刷法によるフロントガラス基板への印刷工程を示す図。
【図3】粘度が高すぎる場合における印刷後のペースト形状。
【図4】PDP用前面基板の製造工程の前段を示す図。
【図5】PDP用前面基板の製造工程の後段を示す図。
【符号の説明】
【0058】
10 PDP
11 フロントガラス基板
16b 黒色膜(バス電極の黒色層)
24 黒色膜(ブラックストライプ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマディスプレイパネルを構成するフロントガラス基板上にオフセット印刷法により黒色膜を作製するための黒色ペースト組成物であって、
前記組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、
前記組成物の粘度が0.5〜30Pa・sであることを特徴とする黒色ペースト組成物。
【請求項2】
組成物のタック値が5〜30である請求項1記載の黒色ペースト組成物。
【請求項3】
有機系ビヒクルの粘度が0.01〜10Pa・sである請求項1記載の黒色ペースト組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法により基板上に黒色膜を作製することを特徴とする黒色膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−144086(P2009−144086A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324298(P2007−324298)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】