説明

(メタ)アクリル重合体の製造方法

【課題】耐熱分解性に優れる(メタ)アクリル重合体を生産性よく製造できる、(メタ)アクリル重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群をラジカル溶液重合する工程を含む(メタ)アクリル重合体の製造方法であって、前記工程において、前記重合の重合系に、当該重合系における前記重合の反応が進行中であって、前記反応による当該重合系の重合転化率が60重量%以上92重量%以下のときに、連鎖移動剤を加える方法とする。この製造方法によって、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を製造してもよい。環構造は、例えば、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体は、高い透明性、表面光沢、耐候性を有するとともに、機械的強度、成形加工性、表面硬度などの諸特性のバランスに優れるため、光学部材への使用に好適である。しかし、(メタ)アクリル重合体のガラス転移温度(Tg)は、一般に100℃前後であり、用途によっては耐熱性の向上が望まれる。
【0003】
主鎖への環構造の導入により、(メタ)アクリル重合体のTgが向上する、すなわち耐熱性が向上することが知られている。例えば、特許文献1(特開2010-215707号公報)および特許文献2(特開2010-215708号公報)には、ラクトン環構造を主鎖に導入することによって、110℃以上のTgを有する耐熱性に優れた(メタ)アクリル重合体が得られることが開示されている。また、特許文献1,2には、少量の、好ましくは含有率にして15重量%以下のラクトン環構造を(メタ)アクリル重合体の主鎖に導入するとともに、負の複屈折性を有する重合体をブレンドすることにより、耐熱性、透明性、低複屈折性および耐折り曲げ特性が並立した二軸延伸フィルムが得られることが記載されている。この二軸延伸フィルムは、偏光子保護フィルムに好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-215707号公報
【特許文献2】特開2010-215708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(メタ)アクリル重合体は、光学部材に使用される他の重合体に比べて、耐熱分解性が低く、熱により分解しやすい。主鎖への環構造の導入により、耐熱性とともに耐熱分解性の向上も期待されるが、その導入量が少ない場合(重合体における環構造の含有率が小さい場合)、耐熱分解性が向上する効果が十分に得られないことがある。重合体の耐熱分解性が低いと、例えば、当該重合体を含む樹脂を溶融成形する際に発泡が生じたり、得られた成形体に当該重合体の熱分解物が残留したりする。これらの発泡および残留は、とりわけ成形体が光学部材である場合に問題である。
【0006】
(メタ)アクリル重合体の重合時に連鎖移動剤を使用することによって、当該重合体の耐熱分解性が向上することが知られている。しかし、単に、(メタ)アクリル重合体の重合系に連鎖移動剤を加えるだけでは、当該重合系における重合の反応速度が低下して、(メタ)アクリル重合体の生産性が低下する。
【0007】
本発明は、これらの事情を鑑み、耐熱分解性に優れる(メタ)アクリル重合体を生産性よく製造できる、(メタ)アクリル重合体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群をラジカル溶液重合する工程を含む、(メタ)アクリル重合体の製造方法であって、前記工程において、前記重合の重合系に、当該重合系における前記重合の反応が進行中であって、前記反応による当該重合系の重合転化率が60重量%以上92重量%以下のときに、連鎖移動剤を加える方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法では、(メタ)アクリル重合体の重合反応が開始した後の特定のタイミングで、連鎖移動剤を重合系に添加する。これにより、耐熱分解性に優れる(メタ)アクリル重合体を生産性よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[重合工程]
本発明の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群をラジカル溶液重合する工程(重合工程)を含む。重合工程では、上記単量体群に含まれる単量体間の重合反応が進行して、(メタ)アクリル重合体が形成される。本発明の製造方法における重合工程では、連鎖移動剤が特定のタイミングで重合系(上記重合反応が進行する重合系)に加えられる。連鎖移動剤が加えられるタイミングは、重合系における上記重合反応が進行中であって、当該反応による重合系の重合転化率が60重量%以上92重量%以下の時点である。重合転化率は、(メタ)アクリル重合体が形成される上記重合反応の終了時までに重合系に加えた全ての単量体の重量を基準とする。
【0011】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位((メタ)アクリル酸エステル単位)を構成単位として有する重合体である。(メタ)アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上である。(メタ)アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率が大きいほど、当該重合体の耐熱分解性が低下するため、本発明の効果がより顕著となる。(メタ)アクリル重合体は主鎖に環構造を有していてもよい。当該環構造が(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体としての分子構造を有している場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および当該環構造の含有率の合計が50重量%以上であれば、(メタ)アクリル重合体である。
【0012】
重合工程では、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群をラジカル溶液重合する。(メタ)アクリル酸エステル単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルである。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有する単量体であってもよい。ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ブチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルである。
【0014】
単量体群が、ヒドロキシ基およびカルボキシル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む場合、当該単量体の種類および単量体群における当該単量体の含有率によっては、重合工程において重合反応以外に後述の環化縮合反応を進行させることによって、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を形成することも可能である。
【0015】
重合工程によって、単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位に有する(メタ)アクリル重合体が形成される。形成した(メタ)アクリル重合体における各(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、単量体群における各単量体の含有率、重合反応の終了時までに重合系に加えた単量体の種類および量、ならびに重合転化率から求めることができる。
【0016】
単量体群は、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体を含んでいてもよい。単量体群における(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有率の合計は、重合工程によって当該単量体群から(メタ)アクリル重合体が形成される限り、特に限定されない。当該合計は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上である。
【0017】
単量体群は、メタクリル酸メチル単量体(MMA)を含むことが好ましい。この場合、透明性などの光学特性に優れ、光学部材への使用に特に好適な(メタ)アクリル重合体が形成される。単量体群におけるMMAの含有率は、85重量%以上が好ましい。
【0018】
ラジカル溶液重合の方法は特に限定されず、公知の方法を適用すればよい。例えば、重合溶媒と単量体群とを含む混合溶液である重合系に重合開始剤を加えて、当該重合系における重合反応を進行させればよい。この重合は、通常、バッチ重合である。
【0019】
重合溶媒は、単量体群の組成に応じて適宜選択でき、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランである。重合溶媒は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。単量体群がMMAを含む場合、重合溶媒は、芳香族炭化水素およびケトン類が好ましく、特に、トルエン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0020】
重合開始剤は、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;である。重合開始剤は、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体群の組成および重合条件に応じて適宜設定できる。
【0021】
連鎖移動剤には、ラジカル重合に一般的に使用される連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤は、例えば、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、オクタン酸2−メルカプトエチルエステル、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、デカントリチオール、ドデシルメルカプタンなどの有機チオール化合物;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタンなどのハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、ターピノーレンなどの不飽和炭化水素化合物である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、炭素数3以上の炭化水素基を有する有機チオール化合物を用いることが好ましい。
【0022】
連鎖移動剤は、重合系における重合反応が進行中であって、当該反応による重合系の重合転化率が60重量%以上92重量%以下のときに、当該重合系に加える。「重合系における重合反応が進行中に」という条件は、重合系における重合反応が終了した後に連鎖移動剤を加えても、本発明の効果が得られないことを意味する。当業者であれば、この条件の必要性を容易に理解できる。重合系における重合反応が進行中であっても、重合転化率が60重量%未満および92重量%を超える場合、本発明の効果が得られない。重合転化率が60重量%未満のときに連鎖移動剤を加えた場合、連鎖移動剤を重合開始前に加える従来の方法と同様に、(メタ)アクリル重合体の生産性が低下する。一方、重合転化率が92重量%を超えた段階で連鎖移動剤を加えても、重合反応がほぼ終了していることから、連鎖移動剤の添加による本発明の効果が得られない。このような重合転化率に関する条件は、ある程度重合が進んだ後、重合反応が終了する間際でない段階で、重合系に連鎖移動剤を加えなければならないことを意味する。
【0023】
連鎖移動剤は、重合反応が進行中である条件および重合転化率に関する条件が満たされているときに、複数回に分けて、重合系に加えてもよい。
【0024】
本発明の製造方法では、重合反応が進行中である条件および重合転化率に関する条件が満たされているときに連鎖移動剤を重合系に加える限り、その他のタイミングで、さらに連鎖移動剤を重合系に加えてもよい。例えば、重合を開始する前の時点で重合系に連鎖移動剤を加えておき、上記2つの条件が満たされているときに連鎖移動剤をさらに重合系に加えてもよい。生産性の観点からは、重合反応が進行中である条件および重合転化率に関する条件が満たされているとき、およびそれ以降のみに、好ましくは、重合反応が進行中である条件および重合転化率に関する条件が満たされているときのみに、重合系に連鎖移動剤を加えることが好ましい。
【0025】
連鎖移動剤の添加量(重合終了時までに重合系に投入した全単量体の重量の合計に対する添加量)は、重合を開始する前の時点から重合終了時までの合計で、例えば、200〜1500ppmであり、500〜1000ppmが好ましい。なお、本明細書におけるppmは、重量基準である。
【0026】
重合系に連鎖移動剤を加える具体的な方法は特に限定されず、公知の方法を適用すればよい。
【0027】
重合工程により形成された(メタ)アクリル重合体は、重合工程で加えた連鎖移動剤を、例えば、70〜400ppm含み、重合条件によっては、150〜300ppm含む。
【0028】
単量体群は、本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体を含んでいてもよい。当該単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールである。当該単量体は、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有する単量体であってもよい。単量体群が、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有する単量体を含む場合、当該単量体の種類および単量体群における当該単量体の含有率によっては、重合工程において重合反応以外に後述の環化縮合反応を進行させることによって、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を形成することも可能である。ヒドロキシ基を有する当該単量体は、例えば、メタリルアルコール、アリルアルコールである。カルボキシル基を有する当該単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸である。
【0029】
単量体群は、本発明の効果が得られる限り、上述した単量体以外の材料を含んでいてもよく、また、重合工程において、上述した材料以外の材料を重合系に加えてもよい。当該材料は、例えば、酸化防止剤である。
【0030】
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、重合工程以外の任意の工程を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の製造方法により形成される(メタ)アクリル重合体の重量平均分子量は、好ましくは1万〜50万であり、より好ましくは5万〜30万である。このような(メタ)アクリル重合体は、光学部材としての使用に好適である。
【0032】
[環構造]
本発明の製造方法では、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を形成してもよい。この場合、環構造によりTgが向上した、耐熱性に優れる(メタ)アクリル重合体となる。また、環構造の種類によっては、その光学特性が向上し、光学部材にさらに好適な(メタ)アクリル重合体が得られる。
【0033】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を形成する場合、当該重合体における環構造の含有率は限定されないが、その含有率が少ない場合(例えば、15重量%以下である場合)に、本発明の効果がより顕著となる。主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体において、当該環構造の部分は耐熱分解性が高く、熱によって分解しにくい。当該重合体において熱分解しやすいのは、環構造以外の部分であるためである。また、環構造の含有率が15重量%以下であると、例えば、特許文献1,2に開示されているように、当該重合体から、耐熱性、透明性、低複屈折性および耐折り曲げ特性が並立した二軸延伸フィルムが得られる。
【0034】
(メタ)アクリル重合体への環構造の導入方法は、本発明の効果が得られる限り、限定されない。
【0035】
例えば、重合工程において、環構造を導入してもよい。
【0036】
具体的な一例は、環構造を有する単量体を含む単量体群を重合工程において重合して、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を形成する方法である。環構造を有する単量体は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体としての分子構造を有することが好ましい。
【0037】
具体的な別の一例は、重合工程において、重合反応の進行により(メタ)アクリル重合体を形成し、形成した(メタ)アクリル重合体に対して環化反応を進行させて、当該重合体の主鎖に環構造を導入し、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を得る方法である。具体的には、例えば、重合工程において、重合により、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基とエステル基(カルボン酸エステル基)とを分子鎖に有する重合体である(メタ)アクリル前駆体を形成し、形成した(メタ)アクリル前駆体におけるヒドロキシ基および/またはカルボキシル基とエステル基との間に環化縮合反応を進行させて、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を得る方法である。なお、重合により形成される(メタ)アクリル前駆体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体である。
【0038】
後者の一例では、重合工程において、重合反応および環化縮合反応を進行させる。環化縮合反応を進行させるためには、(メタ)アクリル前駆体が重合系に存在している必要があるため、一般に、環化縮合反応を重合反応に遅れてスタートさせることが好ましい。環化縮合反応のスタートは、例えば、環化縮合反応をスタートさせる触媒(環化触媒)を重合系に加えるタイミングにより制御できる。本発明の製造方法では、重合反応が進行中である上記条件および重合転化率に関する上記条件が満たされている限り、環化縮合反応が進行しているときに、連鎖移動剤を重合系に加えてもよい。
【0039】
具体的な環構造は、例えば、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。本発明の製造方法により形成した(メタ)アクリル重合体を光学部材として使用する場合、光学特性に優れる光学部材が得られることから、環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造が好ましい。光学特性の波長分散性に関する制御の自由度が高くなることから、ラクトン環構造が特に好ましい。
【0040】
ラクトン環構造は、通常、4〜8員環であり、構造の安定性の観点から5〜6員環が好ましく、6員環がより好ましい。6員環のラクトン環構造は、以下の式(1)に示す構造が好ましい。
【0041】
【化1】

【0042】
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0043】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0044】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、重合工程において、MMAと2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、環化工程において、得られた共重合体((メタ)アクリル前駆体)における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0045】
主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体およびその形成方法は、例えば、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報に記載されている。当業者であれば、これらの公報に記載されている方法と本発明の製造方法とを組み合わせて、本発明の効果を得ながら、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体を製造できる。
【0046】
主鎖に無水グルタル酸構造を有する(メタ)アクリル重合体およびその形成方法は、例えば、特開2006-283013号公報、特開2006-335902号公報、特開2006-274118号公報に記載されている。当業者であれば、これらの公報に記載されている方法と、本発明の製造方法とを組み合わせて、本発明の効果を得ながら、主鎖に無水グルタル酸構造を有する(メタ)アクリル重合体を製造できる。
【0047】
主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル重合体およびその形成方法は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328329号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報、特開2007-009182号公報に記載されている。当業者であれば、これらの公報に記載されている方法と、本発明の製造方法とを組み合わせて、本発明の効果を得ながら、主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル重合体を製造できる。
【0048】
本発明の製造方法により形成した(メタ)アクリル重合体は、光学部材をはじめとする任意の用途に使用可能である。光学部材は、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムである。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0050】
最初に、各実施例および比較例の重合系における重合転化率、ならびに各実施例および比較例において作製した(メタ)アクリル重合体の評価方法を示す。
【0051】
[重合転化率]
重合系の重合転化率は、重合系に存在する未反応の単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC17A)を用いて測定することにより、求めた。具体的には、以下のとおりである。まず、測定対象である重合溶液の一部を抜き取り、抜き取った重合溶液と、内部標準物質として炭酸ジフェニルとを、アセトンに溶解させた。次に、溶解により得られた溶液に残留する各単量体の量を、ガスクロマトグラフィーを用いて定量した。次に、抜き取った分を含め、重合溶液の全体に残留する各単量体の合計量を、定量した値から換算して求め、これを全残存単量体量とした。次に、以下の式を用いて、重合転化率を求めた。
[重合転化率(%)]=(重合反応終了までに重合系に加えた全単量体量−全残存単量体量)/(重合反応終了までに重合系に加えた全単量体量)
【0052】
ガスクロマトグラフィーの測定装置および測定条件は、以下のとおりである。
システム:島津製作所製ガスクロマトグラフィー GC17A
カラム:信和加工製、ULBON HR-1、長さ50m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
カラム昇温条件:60℃で5分保持した後、昇温速度5℃/分で235℃まで35分かけて昇温し、さらに昇温速度25℃/分で315℃まで3.2分かけて昇温し、そのまま10分間保持した。
気化室温度:250℃
検出器(FID)温度:320℃
キャリアーガス:ヘリウム(250kPa)
全流量:19.2mL/分
カラム流量:2.69mL/分
スプリット比:5.0
【0053】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
【0054】
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成
・ガードカラム:東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
・分離カラム:東ソー製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
リファレンス側カラム構成
・リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH-RC
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0055】
[ガラス転移温度(Tg)]
重合体のTgは、JIS K7121の規定に準拠して、始点法により求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0056】
[連鎖移動剤導入量]
重合体に導入された連鎖移動剤の量(連鎖移動剤導入量)は、ICP発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、iCAP6500)を用いて、重合体の硫黄含有率を評価することにより、求めた。具体的には、以下のとおりである。まず、測定対象の重合体が含まれる重合溶液1.2重量部をアセトン20重量部で希釈し、得られた希釈溶液を400重量部のメタノールに滴下して沈殿物を得た。次に、この沈殿物を濾過し、乾燥することによって得た粉体状の重合体を2−ブタノンに溶解し、得られた溶液に対してICP発光分光分析を実施して、重合体の硫黄含有率を評価した。
【0057】
[環構造の含有率]
重合体における主鎖の環構造(ラクトン環構造)の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めた。最初に、ラクトン環構造を主鎖に有する重合体に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とした。150℃は、重合体に残存する水酸基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、重合体の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体である重合体に含まれる全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とした。具体的には、理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。なお、前駆体の組成は、測定対象である重合体の組成から導いた。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)により、重合体の脱アルコール反応率を求めた。測定対象である重合体において、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、重合体におけるラクトン環構造の含有率とした。
【0058】
[熱分解温度]
重合体の熱分解温度は、差動型示差熱天秤装置(リガク製、Thermo Plus 2 TG-8120)を用いて、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温して、求めた。なお、このとき、150℃〜500℃の間で、重量減少速度値が0.05重量%/秒以下となるように階段状に等温制御した。
【0059】
[単量体残揮量]
重合体の単量体残揮量(MMA残揮量)は、各実施例および比較例において得られたペレットをアセトンに溶解して得た溶液に対して、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC17A)を用いて、メチルメタクリレート(MMA)単量体の含有率を評価することにより、求めた。MMA残揮量が少ないほど、重合体の耐熱分解性が高いといえる。
【0060】
[耐熱分解性(フィルム成形時の発泡性)]
重合体の耐熱分解性として、熱分解温度以外に、フィルム成形時の発泡を評価した。フィルム成形時に発泡が生じた場合、当該重合体の耐熱分解性は低いといえる。具体的には、各実施例および比較例において得られたペレットを、単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)およびコートハンガータイプTダイ(幅150mm)を用いて280℃で溶融押出成形し、厚さ130μmのフィルムを得た。次に、得られたフィルムの長さ10mの範囲における気泡を目視により確認し、気泡が確認できなかった場合を「○(良)」、気泡が確認された場合を「×(不可)」とした。なお、フィルムへの溶融押出成形は、溶融状態の重合体を上記Tダイから、温度110℃に保持した冷却ロール上に吐出することで行った。
【0061】
(実施例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)47.5重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。重合開始から2時間後、重合系内に、連鎖移動剤としてドデカンチオール0.05重量部(重合系に投入した全単量体の合計重量に対して1000ppmに相当)を添加して、さらに4時間重合を進行させた。
【0062】
次に、重合により形成したMMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MMAとMHMAとの共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0063】
ドデカンチオールを添加した時点における重合系の重合転化率、ならびに重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ77重量%および95重量%であった。
【0064】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μm、濾過面積1.5m2)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、13重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガノックス1010)と、失活剤として3重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン84重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0065】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(1A)を得た。ペレット(1A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は13.5万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は200ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0066】
(実施例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MMA47.5重量部、MHMA2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。さらに、2時間重合を進行させた後、重合系内に、連鎖移動剤としてドデカンチオール0.05重量部(重合系に投入した全単量体の合計重量に対して1000ppmに相当)を添加した。その後、2時間のさらなる重合を進行させた。
【0067】
次に、重合により形成したMMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MMAとMHMAとの共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0068】
ドデカンチオールを添加した時点(重合開始から4時間経過した時点)における重合系の重合転化率、ならびに重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ92重量%および96重量%であった。
【0069】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、実施例1で使用したものと同じベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、実施例1と同じ溶液を用いた。
【0070】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(2A)を得た。ペレット(2A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は13.5万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は100ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0071】
(実施例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、アクリル酸メチル(MA)1.0重量部、MMA46.5重量部、MHMA2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。重合開始から2時間後、重合系内に、連鎖移動剤としてドデカンチオール0.05重量部(重合系に投入した全単量体の合計重量に対して1000ppmに相当)を添加して、さらに4時間の重合を進行させた。
【0072】
次に、重合により形成したMA−MMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MA−MMA−MHMA共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0073】
ドデカンチオールを添加した時点における重合系の重合転化率、ならびに重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ76重量%および95重量%であった。
【0074】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、実施例1で使用したものと同じベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、実施例1と同じ溶液を用いた。
【0075】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(3A)を得た。ペレット(3A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは118℃、重量平均分子量は13.0万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は210ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0076】
(実施例4)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MMA47.5重量部、MHMA2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部、および連鎖移動剤としてドデカンチオール0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。さらに、2時間重合を進行させた後、重合系内に、連鎖移動剤としてドデカンチオール0.025重量部(重合系に投入した全単量体の合計重量に対して500ppmに相当、重合開始前に加えた連鎖移動剤の量を合算すると1000ppmに相当する)を添加した。その後、2時間のさらなる重合を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MMAとMHMAとの共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0077】
次に、重合により形成したMMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。
【0078】
重合進行中にドデカンチオールを添加した時点(重合開始から4時間経過した時点)における重合系の重合転化率、ならびに重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ90重量%および94重量%であった。
【0079】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、実施例1で使用したものと同じベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、実施例1と同じ溶液を用いた。
【0080】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(4A)を得た。ペレット(4A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は12.0万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は270ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0081】
(比較例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MMA47.5重量部、MHMA2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部、および連鎖移動剤としてドデカンチオール0.05重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた後、さらに4時間重合を進行させた。重合開始前に重合系に加えた連鎖移動剤の量は、重合系に投入した全単量体の合計重量に対して1000ppmに相当した。
【0082】
次に、重合により形成したMMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MMAとMHMAとの共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0083】
ドデカンチオールを添加した時点における重合系の重合転化率は、重合開始前であることから0重量%であった。重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、88重量%であった。
【0084】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、実施例1で使用したものと同じベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、実施例1と同じ溶液を用いた。
【0085】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(5A)を得た。ペレット(5A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は11.6万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は420ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0086】
(比較例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MMA47.5重量部、MHMA2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた後、さらに4時間の熟成を行った。
【0087】
次に、重合により形成したMMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MMAとMHMAとの共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0088】
比較例2の重合では、連鎖移動剤を重合系に加えなかった。重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、97重量%であった。
【0089】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、実施例1で使用したものと同じベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、実施例1と同じ溶液を用いた。
【0090】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(6A)を得た。ペレット(6A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は13.1万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は0ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0091】
(比較例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MMA47.5重量部、MHMA2.5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部、および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.10重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた後、さらに4時間の熟成を行った。
【0092】
次に、得られた重合溶液に、連鎖移動剤としてドデカンチオール0.05重量部を添加した後、重合により形成したMMA−MHMA共重合体に対して環化反応を進行させ、その主鎖にラクトン環構造を導入した。具体的には、得られた重合溶液に上記連鎖移動剤を添加した後、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.013重量部を当該溶液に加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。このとき、重合系における重合条件は満たされており、MMAとMHMAとの共重合体が形成する重合反応は、環化縮合反応が終了するまで当該反応とともに進行していた。
【0093】
重合進行中にドデカンチオールを添加した時点(重合開始から6時間経過した時点)における重合系の重合転化率、ならびに重合が終了した時点(重合開始から8時間経過した時点)における重合系の重合転化率を、重合溶液の一部を抜き取って評価したところ、それぞれ96重量%および97重量%であった。
【0094】
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液を、実施例1で使用したものと同じベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、100重量部/時(重合体量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.51重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.49重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、実施例1と同じ溶液を用いた。
【0095】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある重合体を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(7A)を得た。ペレット(7A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は12.4万であった。連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は検出限界以下であり、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0096】
(実施例5)
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を、13重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガノックス1010)と、失活剤として3重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)と、41重量部の紫外線吸収剤(ADEKA製、アデカスタブLA−70F)とを、トルエン43重量部に溶解させた溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体の透明なペレット(8A)を得た。ペレット(8A)を構成する(メタ)アクリル重合体のTgは119℃、重量平均分子量は13.5万、連鎖移動剤の導入量(重合系に投入した全単量体の合計重量に対する導入量)は200ppm、ラクトン環構造の含有率は7.2重量%であった。
【0097】
実施例1〜5および比較例1〜3の結果を、以下の表1および表2にまとめる。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
表1,2に示すように、重合系に連鎖移動剤を加えない比較例2に比べて、重合系に連鎖移動剤を加えた実施例1〜5ならびに重合開始前に全ての連鎖移動剤を加えた比較例1では、耐熱分解温度が上昇し、フィルム成形時の発泡も抑制された。すなわち、耐熱分解性に優れる(メタ)アクリル重合体が得られた。しかし、重合開始前に全ての連鎖移動剤を加えた比較例1では、重合進行中の特定のタイミングで連鎖移動剤を加えた実施例1〜5に比べて重合終了時における重合転化率が低く、(メタ)アクリル重合体の生産性に劣った。また、重合転化率が96重量%のときに全ての連鎖移動剤を加えた比較例3では、熱分解温度が低く、フィルム成形時に発泡が生じた。すなわち、耐熱分解性に優れる(メタ)アクリル重合体が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の製造方法により得た(メタ)アクリル重合体は、耐熱分解性に優れ、光学部材をはじめとする任意の用途に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群をラジカル溶液重合する工程を含む、(メタ)アクリル重合体の製造方法であって、
前記工程において、前記重合の重合系に、
当該重合系における前記重合の反応が進行中であって、前記反応による当該重合系の重合転化率が60重量%以上92重量%以下のときに、連鎖移動剤を加える、(メタ)アクリル重合体の製造方法。
【請求項2】
前記単量体群が、メタクリル酸メチル単量体を含む請求項1に記載の(メタ)アクリル重合体の製造方法。
【請求項3】
前記単量体群におけるメタクリル酸メチル単量体の含有率が、85重量%以上である請求項2に記載の(メタ)アクリル重合体の製造方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル重合体が、主鎖に環構造を有する請求項1に記載の(メタ)アクリル重合体の製造方法。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル重合体における前記環構造の含有率が、15重量%以下である請求項4に記載の(メタ)アクリル重合体の製造方法。
【請求項6】
前記工程において、
前記重合により、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基とエステル基とを分子鎖に有する重合体である(メタ)アクリル前駆体を形成し、
前記形成した(メタ)アクリル前駆体における前記ヒドロキシ基および/または前記カルボキシル基と前記エステル基との間に環化縮合反応を進行させて、主鎖に環構造を有する前記(メタ)アクリル重合体を得る、請求項4に記載の(メタ)アクリル重合体の製造方法。
【請求項7】
前記連鎖移動剤が、有機チオール化合物である請求項1に記載の(メタ)アクリル重合体の製造方法。


【公開番号】特開2012−211279(P2012−211279A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78609(P2011−78609)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】