説明

(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンの酒石酸塩

【課題】ヒトを含む動物の5HT2c受容体の活性化と結びつけられる疾患、たとえば、特に、統合失調症、統合失調症に関連する認知障害を含む認知傷害、不安、うつ病、強迫性障害、てんかん、肥満、性機能不全、および尿失禁の治療において有用な化合物の提供。
【解決手段】(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンの酒石酸塩。さらには、それの特定の結晶形。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5HT2c受容体作動薬である、(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンの酒石酸塩に関する。本発明はまた、ヒトを含む動物の5HT2c受容体の活性化と結び付けられる疾患の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Bishop,M.J.およびNilsson,B.M.、「New 5−HT2c Receptor Agonists」、Expert Opin.Ther.Patents、2003年、第13巻(11):1691〜1705ページでは、5−HT2c受容体でアゴニスト活性を有する化合物について述べている特許出願が総説されている。この総説は、特に、肥満、統合失調症、不安、うつ病、強迫性障害、性機能不全、てんかん、尿失禁などの、その治療への5−HT2c作動薬の使用を支持する証拠が存在する適応症も扱っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
様々な5−HT受容体のリガンドの毒性および非選択性は、努力目標のままとなっている。一部のリガンドの非選択性は、幻覚や心血管の合併症などの様々な有害な副作用の一因となることが推測される。したがって、5−HT2cに選択的な受容体リガンドが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、次式Iの酒石酸塩を提供する。
【0005】
【化1】

【0006】
式Iは、(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンとして知られている。本発明の式Iの酒石酸塩は、結晶性であり比較的非吸湿性であることが好ましい。式Iの結晶性の酒石酸塩は、多形A型で存在することがわかっている。
【0007】
本発明の式Iの酒石酸塩は、ヒトを含む動物の5HT2c受容体の活性化と結び付けられる疾患の治療、たとえば、特に、統合失調症、統合失調症に関連する認知障害を含む認知障害、不安、うつ病、強迫性障害、てんかん、肥満、性機能不全、および尿失禁の治療において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
5HT2c作動薬は、参照によりその全体が本明細書に援用される、2006年3月31日出願の米国特許出願第11/395327号に記載されている。
【0009】
用語「治療」とは、本明細書では、この用語が適用される障害もしくは状態、またはそのような状態もしくは障害の1種または複数の症状を逆転させ、緩和し、その進行を抑制し、または予防することに関する。用語「治療」とは、本明細書では、治療する行為を指し、「治療する」は直前で定義してあるとおりである。
【0010】
式Iの酒石酸塩は、異なる多形で存在する場合もあり、そのすべてが本発明に含まれる。式Iの酒石酸塩は、結晶多形A型で存在することがわかっている。
【0011】
本発明の式Iの酒石酸塩は、その溶媒和物または水和物を含む。この塩は、その限りでないが、水、アセトン、およびエタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールなどのアルコールといった溶媒と溶媒和物または水和物を形成していてもよい。
【0012】
本発明の実施形態では、酒石酸塩は、銅放射線で測定したとき、2θ±0.2°が3.5°、7.0°、15.6°、18.1°、および20.7°となる特徴的なX線粉末回折ピークを有する。
【0013】
好ましい実施形態では、酒石酸塩は、図1の特徴的なX線粉末回折パターンを有する。
【0014】
別の実施形態では、酒石酸塩は、融解開始温度は186±3℃である。
【0015】
別の実施形態では、酒石酸塩は、約1%〜90%(±2%)の湿度で行われる等温(24.9±0.1℃)水分吸着試験において、90±2%の相対湿度で重量が0.5%未満しか増加しない。
【0016】
吸湿性の原体は、空気中の水分に対するその親和性のために湿っぽくなる。高度に吸湿性または潮解性の化合物は、粉末としては満足に調製することができない。固体単位剤形を調製するには非吸湿性の原体が好ましい。
【0017】
本明細書では、「結晶性の」とは、規則正しい、長い範囲の分子構造を有する材料を意味する。結晶形の結晶化度は、たとえば、粉末X線回折、水分吸着、示差走査熱量測定、溶液熱量測定、および溶解特性を含む多くの技術によって決定することができる。
【0018】
結晶性の有機化合物は、三次元の空間に周期的な配列で並んだ多数の原子からなる。この構造的な周期現象は、通常は、ほとんどの分光学的な探測(たとえば、X線回折、赤外線、および固体NMR)による鋭い明確なスペクトル特色などの、異なる物理的性質を表す。X線回折(XRD)は、固体の結晶化度を測定するための最も高感度の方法の1つであることが認められている。結晶は、ブラッグの法則によって推定される格子面間隔と一致した特定の角で生じる明確な回折最高点をもたらす。それとは反対に、無定形の材料は、長い範囲の規則正しい配列をもたない。無定型材料はしばしば、液体状態でのように分子間に追加の体積を保持している。無定形の固体では通常、繰り返す結晶格子からなる長い範囲の規則正しい配列がないので、広い拡散したハローを伴う特色のないXRDパターンが明らかになる。
【0019】
PXRDは、報告によれば、有機化合物の異なる結晶形(たとえば、医薬組成物に有用な化合物)を特徴付けるのに使用されている。たとえば、米国特許第5504216号(Holohanら)、同第5721359号(Dunnら)、同第5910588号(Wangnickら)、同第6066647号(Douglasら)、同第6225474号(Matsumotoら)、同第6239141号(Allenら)、同第6251355号(Murataら)、同第6288057号(Harkness)、同第6316672号(Stowellら)、および同第6329364号(Groleau)を参照されたい。
【0020】
多くの医薬品用途では結晶性の材料が好ましい。結晶形態は一般に、同じ物質の無定形の形態よりも熱力学的に安定である。この熱力学的な安定性は、好ましいことに結晶形態のより低い溶解性および改善された物理的安定性に反映される。結晶固体中の分子の規則的な充填は、好ましいことに化学的な不純物の混入を拒む。したがって、結晶性材料は一般に、その無定形の対応物よりも高い化学純度を有する。結晶固体の充填は、一般に、分子を十分に限定された格子位置に拘束し、化学反応に必須の分子の可動性を低減する。したがって、結晶固体は、同じ分子組成の無定形の固体よりも化学的に安定であり、注目すべき例外はごくわずかしかない。
【0021】
本発明の式Iの酒石酸塩A型の結晶多形の結晶形態は、図1に示す異なる粉末X線回折プロフィールを有する。特徴的な回折ピークとは、本明細書では、観察された回折パターンの最も強烈なピークから選択されるピークである。特徴的なピークは、回折パターンの約20の最も強烈なピーク、より好ましくは約10の最も強烈なピーク、最も好ましくは約5の最も強烈なピークから選択されることが好ましい。
【0022】
粉末X線回折パターン
銅放射線源、固定スリット(発散1.0mm、散乱防止1.0mm、および受光0.6mm)、およびKevex固体状態検出器を備え付けたBruker D5000回折計(Madison Wisconsin)を使用して、(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンの酒石酸塩A型の粉末X線回折パターンを収集した。平らなプレート試料保持器からθ−2θ(theta−two theta)ゴニオメーターの配置で、3.0〜40.0度2θの銅波長Kα=1.54056およびKα=1.54439で、0.040度のステップサイズおよび1秒のステップ時間を使用してデータを収集した。X線管電位およびアンペア数は、それぞれ40kVおよび40mAで設定した。データを収集し、Bruker DIFFRAC Plusソフトウェアを使用して分析した。試料は、石英保持器に入れて調製した。(Bruker D5000回折計は、SiemansモデルD5000と操作が同様であることを留意されたい。)結果を表1にまとめて示し、0.30の補整幅および1.0の閾値を使用する、9%以上の相対強度を有する反射(線)すべての2θ値および相対強度を提供する。
【0023】
【表1】

【0024】
示差走査熱量測定(DSC)
Mettler Toledo DSC822を使用して、熱相転移データを収集した。ふたに針穴を開けた圧着アルミニウム試料受皿に、1〜3ミリグラムの試料を載せ、次いで室温から300℃にて5℃/分で走査した。開始温度は、基線接線−ピーク接線法によって決定した。開始温度は、粒径、試料サイズ、試料受皿配置、および加熱速度に応じて様々でよい。
【0025】
(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンの酒石酸塩A型の熱分析(DSCおよびホットステージ偏光顕微鏡観察)では、高融点であることが示される。融解開始=186±3℃。
【0026】
吸湿性
正確に秤量した試料を段々に変化する水蒸気圧にさらし、同時に重量変化を記録する、動的な蒸気吸着技術を使用して、吸湿性を評価した。実験は、25℃の等温で実施した。
【0027】
約1%〜90%(±2%)の湿度で行った等温(25.1±0.1℃)水分吸着分析の間、90±2%の相対湿度で0.5%未満の重量の増加が検出された。生成された動的な吸湿性データは、(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジンの酒石酸塩A型が非吸湿性であることを示唆している。水蒸気吸着の量は、試料の粒径および表面積に応じて様々となり得る。
【実施例1】
【0028】
(S)−7−(5−フルオロ−2−メチル−ベンジルオキシ)−2−((R)−2−メチル−ピペラジン−1−イル)−6,7−ジヒドロ−5H−[1]ピリンジンL(+)−酒石酸塩
L−酒石酸41.8mg(0.279ミリモル)を2mLの熱イソプロピルアルコールに溶解させ、次いで25℃に冷却した。参照によりその全体が本明細書に援用される2006年3月31日出願の米国特許出願第11/395327号の実施例2A−9による(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジン(式I)(100mg、0.281ミリモル)を3mLのイソプロピルアルコールに溶かした溶液を、25℃でL−酒石酸溶液にシリンジで滴下した。別の1mLのイソプロピルアルコールを使用して、式Iを含むバイアルをすすぎ、次いでL−酒石酸溶液に加えた。得られる混合物を2時間激しく攪拌し、次いで濾過し、氷冷イソプロピルアルコールで洗浄した。白色固体(113.3mg)を収集し、次いで2.5mLの無水エタノールと混合し、80℃で72時間攪拌した。得られる沈殿を室温に冷却し、濾過し、氷冷無水エタノールで洗浄して、減圧下で乾燥させた後に90mgの表題化合物を白色結晶として得た。
【0029】
式Iの塩の一般的な調製
約20℃〜50℃の対イオン(酸)の溶液を適切な溶媒に溶解させ、約20℃〜約50℃の式Iの遊離塩基を適切な溶媒に溶かした溶液に加えた。混合物を室温に冷却しながら攪拌した後、濾過した。式Iの様々な塩を調製した。
【0030】
式IのL−(+)−酒石酸塩は、完全に結晶性であることが認められた。
【0031】
本発明の式Iの酒石酸塩は、選択的な5−HT2c作動薬である。この塩は、5−HT2c受容体のアゴニズムによって効果的に治療される疾患または状態を治療するのに使用することができる。この塩は、5−HT受容体が関与する疾患を治療するのに使用することができる。
【0032】
本発明の実施形態は、治療有効量の本発明の酒石酸塩と薬学的に許容できる担体、さらに場合により薬学的に許容できる賦形剤もしくは希釈剤とを含む医薬組成物である。好ましくは、医薬組成物の酒石酸塩は、結晶性であることが好ましい。この医薬組成物は、5−HT受容体が関与する疾患を治療するのに使用することができる。
【0033】
典型的な製剤は、本発明の酒石酸塩と担体、場合により希釈剤または賦形剤とを混合して調製する。適切な担体、希釈剤、および賦形剤は、当業界でよく知られており、炭水化物、ろう、水溶性および/または膨張性のポリマー、親水性または疎水性の材料、ゼラチン、油、溶媒、水などの材料がこれに含まれる。使用する特定の担体、希釈剤、または賦形剤は、本発明の化合物を適用する手段および目的に応じて決まる。溶媒は、当業者によって哺乳動物に投与することが安全であると認められた溶媒(GRAS)に基づいて一般に選択される。一般に、安全な溶媒は、水や、水に可溶性または混和性の他の非毒性の溶媒などの非毒性の水性溶媒である。適切な水性溶媒には、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(たとえば、PEG400、PEG300)など、およびこれらの混合物が含まれる。製剤は、1種または複数の緩衝剤、安定剤、界面活性剤、湿潤剤、滑沢剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、抗酸化剤、不透明化剤(opaquing agent)、滑剤、加工助剤、着色剤、甘味剤、着香剤、香味剤、ならびに洗練された薬物(すなわち本発明の酒石酸塩またはその医薬組成物)の体裁を提供し、または医薬品(すなわち、医薬)製造の助けとなる他の既知の添加剤も含んでよい。
【0034】
製剤は、従来の溶解および混合手順を使用して調製することができる。たとえば、大量の原体(すなわち、本発明の酒石酸塩または安定化型の形態(たとえば、シクロデキストリン誘導体または他の既知の複合体形成物質との複合体))を、上述の賦形剤の1種または複数の存在下で適切な溶媒に溶解させる。本発明の酒石酸塩は、通常は、容易に制御可能な薬物投与量を提供し、患者に洗練されかつ取り扱いやすい製品を与えるために、医薬品剤形に製剤する。
【0035】
本発明の医薬組成物は、任意の従来の経口、直腸、経皮、非経口(たとえば、静脈内、筋肉内、または皮下)、槽内、膣内、腹腔内、膀胱内、局所(たとえば、粉末、軟膏、または液滴)、頬側、または経鼻剤形で患者に投与することができる。
【0036】
本発明はさらに、その治療を必要とする動物において5−HT受容体が関与する疾患、状態、または障害を治療する方法であって、その動物(好ましくはヒト)に、治療有効量の本発明の酒石酸塩、または有効量の本発明の酒石酸塩と薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0037】
本発明の式Iは、5−HT2c受容体では強力な高親和性作動薬として、5−HT2a受容体では拮抗薬または弱い部分作動薬として、5−HT2b受容体では拮抗薬として働く。本発明の式Iは、5−HT2aおよび/または5−HT2bで認められるものよりも5−HT2cに対するアゴニスト効力がはるかに強く(EC50がより低い)、あるいは5−HT2aおよび/または5−HT2bでのアゴニスト活性が欠如しているために、機能に関しては5−HT2aおよび5−HT2bでなく5−HT2cに選択的である。
【0038】
米国特許出願第11/395327号で提供されているヒト受容体での結合実験手順に従って、式Iの無定形の塩を試験し、その式Iの化合物について以下の受容体結合データを得た。
5HT2cでのK−1.5nM、
5HT2aでのK−4.5nM、
5HT2bでのK−7.7nM。
【0039】
受容体結合データまたは結合選択性データは、必ずしも機能上のデータまたは機能上の選択性データに相関し、またはそれを反映していなくてもよい。たとえば、化合物は、機能アッセイを分析したときに5−HT2c受容体に選択的となり得るが、結合実験ではその化合物が他の5−HT受容体でも同じ効力を有する場合がある。したがって、本明細書では、用語「選択的」とは、治療方法に関する本発明に関して、「機能上選択的」を意味する。
【0040】
したがって、本発明の式Iの酒石酸塩は、5−HT受容体が関与する疾患、状態、または障害の治療に有用である。したがって、本発明の酒石酸塩は、本明細書に記載の治療用途のための医薬の製造において使用することができる。
【0041】
5HT受容体リガンドによってモジュレートされる疾患、状態、および/または障害には、摂食障害(たとえば、大食摂食障害、食欲不振症、および過食症)、体重減少または体重コントロール(たとえば、カロリー摂取もしくは食物摂取の減少、および/または食欲抑制)、肥満、うつ病、非定型うつ病、双極性障害、精神病、統合失調症、行為嗜癖、報酬関連行動の抑制(たとえば、コカインおよびモルヒネによって誘発される条件付け場所嗜好性の抑制などの、条件付け場所の回避)、物質乱用、嗜癖障害、衝動性、アルコール中毒(たとえば、アルコール摂取の禁断、欲求低下、および再発予防のための治療を含めて、アルコール乱用、中毒、および/または依存症)、タバコ乱用(たとえば、喫煙の欲求低下および再発予防のための治療を含めて、喫煙中毒、休止、および/または依存症)、月経前症候群または黄体期遅発症候群、偏頭痛、パニック障害、不安、外傷後症候群、(記憶喪失、アルツハイマー病、老化の認知症、脳血管性痴呆、軽度認知障害、年齢関連性の認知機能低下、および軽度の神経認知(neurocognitive)障害を含む)認知症、発作性疾患、てんかん、消化器疾患(たとえば、消化管運動または腸の推進力の機能不全)、注意欠陥障害または注意多動性障害(ADD/ADHD)、破壊的な行動異常、衝動制御障害、境界性人格障害、強迫性障害、慢性疲労症候群、拒食症、睡眠障害(たとえば、睡眠時無呼吸)、自閉症、てんかん、無言症、脊椎損傷、中枢神経系の損傷(たとえば、外傷、発作、神経変性疾患、または毒もしくは感染によるCNS疾患(たとえば、脳炎または髄膜炎))、心臓血管障害(たとえば、血栓症)、パーキンソン病、尿崩症、ならびにII型糖尿病が含まれる。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、統合失調症、妄想性障害、薬物によって誘発される精神病などの精神病性の障害および状態;パニックや強迫性障害などの不安障害;ならびにパーキンソン病およびハンチントン病を含む運動異常症を治療する方法であって、前記障害または状態を治療するのに有効な量の式Iの酒石酸塩を含む方法に関する。
【0043】
本発明に従って治療することのできる精神病性障害の例には、その限りでないが、たとえば妄想型、解体型、緊張型、鑑別不能型、または残遺型の統合失調症;統合失調症様障害;たとえば妄想型またはうつ病型の分裂感情障害;妄想性障害;物質誘発性精神病性障害、たとえば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚発現物質、吸入剤、オピオイド、またはフェンシクリジンによって誘発される精神病;妄想型の人格障害;ならびに統合失調質型の人格障害が含まれる。
【0044】
統合失調性の型の精神病性障害を治療するための使用では、この酒石酸塩は、精神病患者において不安、激昂、過剰な攻撃性、緊張、社会的または感情的な引きこもりなどの症状を除去または寛解させるのに有用なはずである。さらに、この酒石酸塩は、セロトニンによって誘発される、気管支組織および血管、すなわち動脈だけでなく静脈の収縮をブロックするのにも有用となり得る。本発明の酒石酸塩は、鎮静、抗不安、抗攻撃性、抗ストレス、筋肉保護、および循環器保護の薬剤としても有用となり得るものであり、したがって、たとえばストレス状況、たとえば輸送期間中および同様の状況にある温血動物を保護するのにも有用なはずである。
【0045】
本発明に従って治療することのできる運動障害の例には、その限りでないが、ドーパミン作動薬療法に関連するハンチントン病およびジスキネジア、パーキンソン病、不隠下肢症候群、および本態性振戦から選択されるものが含まれる。
【0046】
本発明に従って治療することのできる他の障害は、強迫性障害、トゥーレット症候群、および他のチック障害である。
【0047】
本発明は、哺乳動物における不安障害または状態の治療方法であって、前記哺乳動物に、前記障害または状態の治療に有効な量の式Iの酒石酸塩を投与することを含む方法も提供する。本発明に従って治療することのできる不安障害の例には、その限りでないが、パニック障害、広場恐怖、特定恐怖症、対人恐怖、強迫性障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、および全般性不安障害が含まれる。
【0048】
本発明はさらに、ヒトを含む哺乳動物における、薬物嗜癖、たとえば、アルコール、アンフェタミン、コカイン、またはアヘン中毒の治療方法であって、前記哺乳動物に、薬物嗜癖の治療に有効な量の式Iの酒石酸塩を投与することを含む方法を提供する。「薬物嗜癖」とは、本明細書では、薬物に対する異常な欲求を意味し、一般に、所望の薬物を摂取しようとする強迫などの動機付けの障害、および強烈な薬物渇望のエピソードを特徴とする。
【0049】
本発明は、ヒトを含む哺乳動物における、注意および/または認知の欠陥を症状として含む障害または状態の治療方法であって、前記哺乳動物に、前記障害または状態の治療に有効な量の式Iの化合物を投与することを含む方法も提供する。「注意および/または認知の欠陥」の「認知障害」という表現は、本明細書では、ある特定の個体における記憶、知能、または学習および論理能力などの1種または複数の認知の側面が同じ一般的な年齢集団内の他の個体と比較して正常以下にしか機能しないことを指す。「認知障害」または「注意および/または認知の欠陥」は、たとえば、加齢関連認知機能低下で起こるような、任意の特定の個体の、1種または複数の認知の側面の機能の低下も指す。
【0050】
本発明に従って治療することのできる、注意および/または認知の欠陥を症状として含む障害の例は、認知症、たとえば、アルツハイマー病、多発梗塞性痴呆、アルコール依存性の認知症もしくは他の薬物に関連した認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に関連する認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に関連する認知症、またはAIDSに関連した認知症;せん妄;健忘性障害;外傷後ストレス障害;知能障害;学習障害、たとえば、読書障害、数学障害、または筆記表現障害;注意欠陥/多動性障害;加齢関連認知機能低下;精神病に関連する認知障害、ならびに統合失調症に関連する認知障害である。
【0051】
本発明は、ヒトを含む哺乳動物における気分障害または気分エピソードの治療方法であって、前記哺乳動物に、前記障害またはエピソードの治療に有効な量の式Iの酒石酸塩を投与することを含む方法も提供する。本発明に従って治療することのできる気分障害および気分エピソードの例には、その限りでないが、軽度、中等度、または重度の型の大うつ病エピソード、躁病または混合性気分エピソード、軽躁病気分エピソード;非定型の特徴を伴ううつ病エピソード;メランコリー型の特徴を伴ううつ病エピソード;緊張病性の特徴を伴ううつ病エピソード;産後の発症を伴う気分エピソード;脳卒中後うつ病;大うつ病性障害;気分変調障害;軽度うつ病性障害;月経前不快気分障害;統合失調症の精神病後うつ病性障害;妄想性障害や統合失調症などの精神病性障害との混合型の大うつ病性障害;双極性障害、たとえば双極I型障害、双極II型障害、および気分循環性障害が含まれる。
【0052】
本発明はさらに、ヒトを含む哺乳動物における神経変性の障害または状態の治療方法であって、前記哺乳動物に、前記障害または状態の治療に有効な量の式Iの酒石酸塩を投与することを含む方法を提供する。本明細書では、別段の指定がない限り、「神経変性の障害または状態」とは、中枢神経系のニューロンの機能不全および/または死によって引き起こされる障害または状態を指す。これらの障害および状態の治療は、これらの障害もしくは状態になるリスクのあるニューロンの機能不全もしくは死を妨げ、かつ/またはリスクのあるニューロンの機能不全もしくは死によって引き起こされる機能喪失の埋め合わせをするようにして、損傷を受けたニューロンまたは健常なニューロンの機能を強化する薬剤の投与によって促進することができる。用語「神経栄養剤」とは、本明細書では、これらの特性の一部またはすべてを有する物質または薬剤を指す。
【0053】
本発明に従って治療することのできる神経変性障害および状態の例には、その限りでないが、パーキンソン病;ハンチントン病;認知症、たとえば、アルツハイマー病、多発梗塞性痴呆、AIDSに関連した認知症、および前頭側頭型認知症;脳外傷に関連する神経変性;脳卒中に関連する神経変性、脳梗塞に関連する神経変性;低血糖によって誘発される神経変性;てんかん性痙攣に関連する神経変性;神経毒中毒に関連する神経変性;ならびに多系統萎縮症が含まれる。
【0054】
本発明の一実施形態では、神経変性の障害または状態は、ヒトを含む哺乳動物における線条体中型有棘ニューロンの神経変性を含む。本発明の別の実施形態では、神経変性の障害または状態はハンチントン病である。
【0055】
本発明の別の実施形態では、本発明の酒石酸塩は、性機能不全の予防および/または治療に使用することができる。性機能不全(SD)は、男性および女性の両方に影響を及ぼし得る重大な臨床上の問題である。SDの原因は、器質的なものであるだけでなく心理的なものである場合もある。SDの器質的な側面は、通常は、高血圧や真性糖尿病に関連するものなどの根底にある血管性疾患、処方薬投与、および/またはうつ病などの精神医学疾患によって引き起こされる。生理的な要因には、恐怖、遂行不安、および対人関係での葛藤が含まれる。SDは、性的な能力を損ない、自尊心をおとしめ、個人的な関係を混乱させ、それによって個人的な苦悩を引き起こす。臨床の現場では、SD障害は、女性性機能不全(FSD)障害と男性性機能不全(MSD)障害に分けられている(Melmanら、1999年)。FSDには、女性性的興奮障害(FSAD)、性的機能低下障害(性への興味の欠如)などの欲求障害、および無オルガスム症(オルガスムを得ることができない)などのオルガスム障害が含まれる。男性性機能不全(MSD)には、男性勃起不全(MED)、ならびに無オルガスム症(オルガスムを得ることができない)などの射精障害または性的欲求低下障害(性への興味の欠如)などの欲求障害が含まれる。
【0056】
本発明の酒石酸塩は、男性の性機能不全(たとえば、男性勃起不全−MED)および女性の性機能不全−女性性機能不全(FSD)、たとえば女性性的興奮障害(FSAD)の予防および/または治療に有益である。
【0057】
別の態様では、本発明は、哺乳動物にその障害の治療に有効な量の式Iの酒石酸塩を投与することによる、下部尿路機能不全の治療方法を提供する。下部尿路機能不全の状態には、過活動膀胱、日中の頻尿、夜尿症、尿意ひっ迫、ストレス性尿失禁、切迫尿失禁および混合型尿失禁を含む尿失禁(不随意の尿もれのある任意の状態)、尿失禁を伴う過活動膀胱、遺尿症、夜尿症、持続性の尿失禁、性交中の失禁などの状況による尿失禁、ならびに前立腺肥大(BPH)に関連する下部尿路症状(LUTS)が含まれる。
【0058】
本発明の式Iの酒石酸塩は、1日約0.1mg〜約1,000mg(好ましくは1日約1mg〜約500mg、より好ましくは1日約2.5mg〜約250mg、さらにより好ましくは1日約5mg〜約150mg、最も好ましくは1日約60mg〜約100mg)の範囲の投与量レベルで患者に投与することができる。体重が約70kgである正常な成人では、体重1キログラムあたり約0.01mg〜約2mgの範囲の投与量で通常は十分である。しかし、治療対象となる対象の年齢および体重、目的の投与経路、投与する特定の化合物などに応じて、一般的な投与量範囲に若干の変動性が必要となる場合もある。投与量範囲およびある特定の患者に最適な投与量の決定は、本開示の利益を受ける当業者の力量の範囲内である。本発明の酒石酸塩は、当業者にもよく知られている形態である、持続放出、制御放出、および遅延放出製剤にして使用できることも留意されたい。
【0059】
本発明の式Iの酒石酸塩は、本明細書に記載の疾患/状態を治療するための他の医薬品と共に使用してもよい。したがって、本発明の酒石酸塩を他の医薬品と組み合わせて投与する治療方法も提供する。本発明の化合物と組み合わせて使用することのできる適切な医薬品には、アポリポタンパク質B分泌/ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質(apo−B/MTP)阻害剤、11β−ヒドロキシステロイド脱水素酵素1(11β−HSD1型)阻害剤、PYY3−36およびその類似体、MCR−4作動薬、コレシストキニンA(CCK−A)作動薬、(シブトラミンなどの)モノアミン再取込み阻害剤、交感神経刺激薬、βアドレナリン受容体作動薬、(ブロモクリプチンなどの)ドーパミン作動薬、メラニン細胞刺激ホルモン受容体類似体、カンナビノイド1受容体拮抗薬(たとえばリモナバント)、メラニン濃縮ホルモン拮抗薬、レプチン(OBタンパク質)、レプチン類似体、レプチン受容体作動薬、ガラニン拮抗薬、(テトラヒドロリプスタチン、すなわちオーリスタットなどの)リパーゼ阻害剤、(ボンベシン作動薬などの)食欲低下薬、ニューロペプチドY受容体拮抗薬(たとえば、米国特許第6566367号、同第6649624号、同第6638942号、同第6605720号、同第6495559号、同第6462053号、同第6388077号、同第6335345号、および同第6326375号、米国特許公開第2002/0151456号および同第2003/036652号、ならびにPCT公開第WO03/010175号、同第WO03/082190号、および同第WO02/048152号に記載のスピロ化合物などのNPYY5受容体拮抗薬)、甲状腺模倣薬剤、デヒドロエピアンドロステロンまたはその類似体、グルココルチコイド受容体作動薬または拮抗薬、オレキシン受容体拮抗薬、ウロコルチン結合タンパク質拮抗薬、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬、(Regeneron Pharmaceuticals、Inc.、米ニューヨーク州タリータウン、およびProcter&Gamble Company、米オハイオ州シンシナティから入手可能なAxokine(商標)などの)繊毛様神経栄養因子、ヒトアグーチ関連タンパク質(AGRP)、グレリン受容体拮抗薬、ヒスタミン3受容体拮抗薬または逆作動薬、ならびにニューロメディンU受容体作動薬などの抗肥満薬が含まれる。以下で記載する好ましい薬剤を含む他の抗肥満薬は、よく知られており、またはこの開示に照らして当業者に容易に明らかとなろう。
【0060】
好ましい抗肥満薬は、オーリスタット、シブトラミン、ブロモクリプチン、エフェドリン、レプチン、リモナバント、プソイドエフェドリン、PYY3−36またはその類似体、ならびに2−オキソ−N−(5−フェニルピラジニル)スピロ−[イソベンゾフラン−1(3H),4’−ピペリジン]−1’−カルボキサミドからなる群から選択される。
【0061】
本発明の酒石酸塩と組み合わせて投与することのできる他の適切な医薬品には、タバコ乱用を治療するように設計された薬剤(たとえば、ニコチン受容体部分作動薬である(Zyban(商標)の商品名でも知られている)塩酸ブプロピオンおよびニコチン置換療法)、ADD/ADHD治療薬(たとえば、Ritalin(商標)、Strattera(商標)、Concerta(商標)、およびAdderall(商標))、ならびにオピオイド拮抗薬(たとえば、(ReVia(商標)の商品名でも知られている)ナルトレキソンおよびナルメフェン)、(Antabuse(商標)の商品名でも知られている)ジスルフィラム、およびアカンプロセート(Campral(商標)の商品名でも知られている))などの、アルコール中毒を治療するための薬剤が含まれる。さらに、ベンゾジアゼピン、β遮断薬、クロニジン、カルバマゼピン、プレガバリン、およびギャバペンチン(Neurontin(商標))などの、アルコール禁断症状を軽減するための薬剤を併用投与してもよい。アルコール中毒の治療は、動機付け強化療法、認知行動療法、およびAlcohol Anonymous(AA)を含む自助集団への照会などの構成要素を含む行動療法と組み合わせて実施することが好ましい。Zybanに加え、他の有用なニコチン受容体部分作動薬が、米国特許第6235734号、同第6410550号、および同第6462035号に記載されており、これらすべてを参照により本明細書に援用する。
【0062】
組み合わせて使用することのできる他の医薬品には、抗うつ剤(たとえば、塩酸フルオキセチン(Prozac(商標)))および神経保護薬(たとえば、メマンチン)が含まれる。
【0063】
別の実施形態では、本発明の酒石酸塩は、塩酸ドネペジル(Aricept(商標))および他のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、カンナビノイド受容体1(CB1)拮抗薬、ならびにα7ニコチン性アセチルコリン受容体作動薬などの認知機能改善薬と組み合わせて使用する。代表的なα7作動薬化合物は、米国特許第6911543号、同第6809094号、および同第6881734号に列挙されており、これらすべてを参照により本明細書に援用する。
【0064】
さらに別の態様によれば、本発明はさらに、本発明の酒石酸塩と少なくとも1種の追加の医薬品の組合せを用いる治療によって男性性機能不全を治療および/または予防する方法を提供する。男性性機能不全(たとえば、男性勃起不全)の治療に使用する好ましい追加の医薬品には、(1)1種または複数のドーパミン作動性薬剤(たとえばD2、D3、またはD4作動薬、およびアポモルヒネ);(2)NPY(ニューロペプチドY)(好ましくはNPY−1および/またはNPY−5阻害剤)のうちの1種または複数;(3)メラノコルチン受容体の作動薬もしくはモジュレーターまたはメラノコルチン賦活薬のうちの1種または複数;(4)NEP阻害剤のうちの1種または複数;(5)PDE阻害剤(好ましくは、cGMPPDE−5阻害剤)のうちの1種または複数;ならびに(6)ボンベシン受容体の拮抗薬またはモジュレーターのうちの1種または複数が含まれる。
【0065】
本発明の別の態様によれば、女性性機能不全(FSD)を治療するための、本発明の式Iの酒石酸塩と1種または複数の追加の活性薬剤の使用が提供される。1種または複数の追加の活性薬剤は、エストロゲン受容体モジュレーター(たとえば、エストロゲン作動薬および/またはエストロゲン拮抗薬);テストステロン補充薬および/またはテストステロン(トステレル(Tostrelle))および/またはジヒドロテストステロンおよび/またはデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)および/またはテストステロン植込錠;エストロゲン、(組合せとしての)エストロゲンとメドロキシプロゲステロンもしくは酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)、またはエストロゲンとメチルテストステロンホルモン補充療法薬の組合せ;1種または複数のドーパミン作動性薬剤;1種または複数のNPY(ニューロペプチドY)阻害剤;1種または複数のメラノコルチン受容体モジュレーター、またはメラノコルチン賦活薬;1種または複数のNEP(中性エンドペプチダーゼ)阻害剤;1種または複数のPDE(ホスホジエステラーゼ)阻害剤;ならびに1種または複数のボンベシン受容体モジュレーターからなる群から選択されることが好ましい。
【0066】
別の態様では、本発明の化合物は、下部尿路機能不全治療のための他の薬剤と組み合わせて使用することができる。そのような他の薬剤には、トルテロジンなどのムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗薬;αアドレナリン受容体拮抗薬、特にα1アドレナリン受容体拮抗薬またはα2アドレナリン受容体拮抗薬;αアドレナリン受容体作動薬または部分作動薬、特にα1アドレナリン受容体作動薬もしくは部分作動薬、またはα2アドレナリン受容体作動薬もしくは部分作動薬;セロトニンおよびノルアドレナリン再取込み阻害剤(SNRI);そのラセミまたは(S,S)−鏡像異性体の形のレボキセチンなどのノルアドレナリン再取込み阻害剤(NRI);カプサイシンなどのバニロイド受容体(VR)拮抗薬;ギャバペンチンやプレガバリンなどのα2δリガンド;β3アドレナリン受容体作動薬;5HT1a受容体拮抗薬または5HT1a受容体逆作動薬;プロスタノイド受容体拮抗薬、たとえばEP1受容体拮抗薬が含まれる。
【0067】
追加の医薬品の投与量は、一般に、治療対象となる対象の健康、所望の治療の範囲、同時に行う療法があればその性質および種類、治療回数、ならびに所望の効果の性質を含むいくつかの要素に応じて決まる。投与量範囲およびある特定の患者に最適な投与量の決定はここでも、申し分なくこの開示の利益を受ける当業者の力量の範囲内である。
【0068】
本発明はまた、統合失調症または精神病の治療に有効な量の式Iの酒石酸塩と、抗精神病薬または薬学的に許容できるその塩を投与することを含む、統合失調症または精神病に罹患している哺乳動物の治療方法に関する。式Iの酒石酸塩と抗精神病薬は、一緒にまたは別々に、同時にまたは間隔を空けて投与することができる。本発明の一実施形態は、式Iの酒石酸塩と抗精神病薬または薬学的に許容できるその塩とを含む医薬組成物を提供する。
【0069】
抗精神病薬は、たとえば、クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ロキサピン、メソリダジン、モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、チオリダジン、チオチキセン、またはトリフルオペラジンでよい。これらの薬物はすべて、ドーパミン2受容体に対して親和性を有する。抗精神病薬は、たとえば、アセナピン、ジプラシドン、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、セルチンドール、クエチアピン、アリピプラゾール、またはアミスルプリドでもよい。
【0070】
組合せは、相乗作用をもたらし、より少量の非定型抗精神病薬を投与して、その非定型抗精神病薬の標準の用量で実現されるのと少なくとも同じ向精神効果を実現するのを可能にできることがある。非定型抗精神病薬の投与量は、約25〜90%、たとえば約40〜80%、通常は約50〜70%減らすことができる。抗精神病薬の必要量の減少は、所与の式Iの酒石酸塩の量に応じて決まる。
【0071】
それぞれの治療薬の投与量の選択は、患者に、患者の障害または状態に関連する症状の減少または寛解で測られる軽減をもたらし得るものとする。よく知られているように、それぞれの構成成分の投与量は、選択した特定の化合物の効力、投与方式、患者の年齢および体重、治療する状態の重症度などのいくつかの要素に応じて決まる。用量の決定は、当業者の技量の範囲内である。完璧にする必要があれば、組成物の構成成分の合成および投与量は、上で挙げた特許、また特に参照により本明細書に援用されるPhysicians’Desk Reference、第57版、Thompson、2003年に記載のとおりである。ジプラシドンが活性薬剤として選択されるとき、1日量は、約5mg〜約460mgを含有することが望ましい。より好ましくは、第1の構成成分の各用量は、約20mg〜約320mgのジプラシドンを含有し、さらにより好ましくは、各用量は、約20mg〜約160mgのジプラシドンを含有する。小児投与量は、たとえば、1日約0.5mg〜約40mgの範囲などのより少ないものでよい。この剤形は、たとえば、1回または2回の経口的な服用で十分な1日投与量の投与を可能にする。
【0072】
非定型抗精神病薬の投与量の一般的な概要、およびいくつかの好ましい投与量を、本明細書で示す。この一覧は、完全なものではなく、本発明の所望の組合せのいずれかの指針にすぎない。
【0073】
オランザピン:1日1回約0.25〜約100mg、好ましくは1日1回約1〜約30mg、最も好ましくは1日1回約1〜約25mg;クロザピン:1日約12.5〜約900mg、好ましくは1日約150〜約450mg;リスペリドン:1日約0.25〜約16mg、好ましくは1日約2〜8mg;セルチンドール:1日約0.0001〜約1.0mg/kg;クエチアピン:1日1回または数回に分けて与えて約1.0〜約40mg/kg;アセナピン:一用量としてまたは数回に分けて与えて1日合計約0.005〜約60mg;パリペリドン:約0.01mg/kg〜約4mg/kg体重、より好ましくは約0.04〜約2mg/kg体重;
ビフェプルノックス。
【0074】
本発明に従って使用する好ましい非定型抗精神病薬はジプラシドンである。ジプラシドン、すなわち(5−[2−[4−(1,2−ベンズイソチアゾール−3−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−6−クロロインドリン−2−オン)は、5−HT1A受容体作動薬ならびにセロトニンおよびノルエピネフリン再取込みの阻害剤としてのin vitro活性を有するベンズイソチアゾリルピペラジン非定型抗精神病薬である(米国特許第4831031号)。シナプス後5−HT1A受容体は、抑うつ障害および不安障害の両方との関連が示唆されている(NM Barnes、T Sharp、第38巻Neuropharmacology、1083〜152ページ、1999年)。食品と一緒に服用したジプラシドンの経口での生体利用度は約60%であり、半減期は約6〜7時間であり、タンパク質結合は広範囲にわたる。
【0075】
ジプラシドンは、統合失調症および統合失調気分障害、難治性統合失調症、統合失調症における認知障害、分裂感情障害に関連する情動性の症状および不安症状、ならびに双極性障害の患者の治療に効果的である。この薬物は、安全で効果的な非定型抗精神病薬であるとみなされている(Charles CaleyおよびChandra Cooper、第36巻Ann.Pharmacother.、839〜51ページ(2002年)。
【0076】
本発明は、その治療がジプラシドンの投与によって促進される精神疾患および状態を治療するのに有用である。したがって、本発明は、たとえば、すべてが参照により本明細書に援用される、米国特許第6245766号、同第6245765号、同第6387904号、同第5312925号、同第4831031号、および1999年3月17日に公開されたヨーロッパのEP0901789にあるように、ジプラシドンの使用が指摘される場合に用途を有する。
【0077】
使用することができる他の非定型抗精神病薬には、その限りでないが、以下のものが含まれる。
オランザピン、すなわち2−メチル−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)−10H−チエノ[2,3−b][1,5]−ベンゾジアゼピン。オランザピンは、既知の化合物であり、統合失調症、統合失調症様障害、急性の躁病、軽度の不安状態、および精神病の治療に有用であるとして米国特許第5229382に記載されている。米国特許第5229382号は、ここでその全体が参照により本明細書に援用される。
クロザピン、すなわち8−クロロ−11−(4−メチル−1−ピペラジニル)−5H−ジベンゾ[b,e][1,4]ジアゼピン。クロザピンは、その全体が参照により本明細書に援用される米国特許第3539573号に記載されている。統合失調症の治療における臨床的有効性が記載されている(Hanesら、Psychopharmacol.Bull.、第24巻、62ページ(1988年))。
リスペリドン、すなわち3−[2−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)ピペリジノ]エチル]−2−メチル−6,7,8,9−テトラヒドロ−4H−ピリド−[1,2−a]ピリミジン−4−オン。リスペリドンおよび精神病性疾患の治療におけるその使用は、その全体が参照により本明細書に援用される米国特許第4804663号に記載されている。
セルチンドール、すなわち1−[2−[4−[5−クロロ−1−(4−フルオロフェニル)−1H−インドール−3−イル]−1−ピペリジニル]エチル]−イミダゾリジン−2−オン。セルチンドールは、米国特許第4710500号に記載されている。統合失調症の治療におけるその使用は、米国特許第5112838号および同第5238945号に記載されている。米国特許第4710500号、同第5112838号、および同第5238945号は、その全体が参照により本明細書に援用される。
クエチアピン、すなわち5−[2−(4−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピン−11−イル−1−ピペラジニル)エトキシ]エタノール。クエチアピンおよび統合失調症の治療における有用性を実証するアッセイでのその活性は、その全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第4879288号に記載されている。クエチアピンは、通常はその(E)−2−ブテン二酸塩(2:1)として投与される。
アリピプラゾール、すなわち7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]−ブトキシ}−3−,4−ジヒドロカルボスチリルまたは7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]−ブトキシ}−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キノリノン。アリピプラゾールは、統合失調症の治療に使用される非定型抗精神病薬であり、その全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第4734416号および米国特許第5006528号に記載されている。
アミスルプリドは、米国特許第4401822号に記載されている。米国特許第4401822号は、その全体が本明細書に援用される。
アセナピン、すなわちトランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ[2,3:6,7]−オキセピノ[4,5−c]ピロール。アセナピンの調製および使用は、全体の内容が参照により本明細書に援用される、米国特許第4145434号および同第5763476号に記載されている。
パリペリドン、すなわち3−[2−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]エチル]−6,7,8,9−テトラヒドロ−9−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン。パリペリドンの調製および使用は、たとえば、全体の内容が参照により本明細書に援用される、米国特許第6320048号、同第5158952号、および同第5254556号に記載されている。
ビフェプルノックス、すなわち2−[4−[4−(5−フルオロ−1H−インドール−3−イル)−3,6−ジヒドロ−1(2H)−ピリジニル]ブチル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン。ビフェプルノックスの調製および使用は、その全体が本明細書に援用される、米国特許第6225312号に記載されている。
【0078】
好ましい組合せは、ジプラシドンと本発明の式Iの酒石酸塩である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(7S)−7−[(5−フルオロ−2−メチル−ベンジル)オキシ]−2−[(2R)−2−メチルピペラジン−1−イル]−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[b]ピリジン酒石酸塩A型のX線粉末回折パターンを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式Iの酒石酸塩。
【化1】

【請求項2】
銅放射線で測定したとき、2θ±0.2°が3.5°、7.0°、15.6°、18.1°、および20.7°となる特徴的なX線粉末回折ピークを有する、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
図1の特徴的なX線粉末回折パターンを有する、請求項1に記載の塩。
【請求項4】
請求項1に記載の塩と薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物。
【請求項5】
哺乳動物において5−HT2c受容体が関与する疾患、状態、または障害を治療する方法であって、前記哺乳動物に治療有効量の請求項1に記載の塩を投与することを含む方法。
【請求項6】
疾患、状態、または障害が、摂食障害(たとえば、大食摂食障害、食欲不振症、および過食症)、体重減少または体重コントロール(たとえば、カロリーもしくは食物摂取の減少、および/または食欲抑制)、肥満、尿崩症、II型糖尿病、うつ病、非定型うつ病、双極性障害、精神病、統合失調症、行為嗜癖、報酬関連行動の抑制(たとえば、コカインおよびモルヒネによって誘発される条件付け場所嗜好性の抑制などの、条件付け場所の回避)、物質乱用、嗜癖障害、衝動性、アルコール中毒(たとえば、アルコール摂取の禁断、欲求低下、および再燃予防のための治療を含めて、アルコール乱用、中毒、および/または依存症)、タバコ乱用(たとえば、喫煙の欲求低下および再燃予防のための治療を含めて、喫煙中毒、休止、および/または依存症)、月経前症候群または黄体期遅発症候群、偏頭痛、パニック障害、(広場恐怖、特定恐怖症、対人恐怖、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、および全般性不安障害を含む)不安、外傷後症候群、(記憶喪失、アルツハイマー病、老化による認知症、脳血管性痴呆、軽度認知障害、加齢関連認知機能低下、および軽度の神経認知障害を含む)認知症、発作性疾患、てんかん、消化器疾患(たとえば、消化管運動または腸の推進力の機能不全)、注意欠陥障害または注意多動性障害(ADD/ADHD)、破壊的な行動異常、衝動制御障害、境界性人格障害、強迫性障害、慢性疲労症候群、拒食症、睡眠障害(たとえば、睡眠時無呼吸)、自閉症、てんかん、無言症、脊椎損傷、中枢神経系の損傷(たとえば、外傷、発作、神経変性疾患、または毒もしくは感染によるCNS疾患(たとえば、脳炎または髄膜炎)、心臓血管障害(たとえば、血栓症)、パーキンソン病、ハンチントン病、ドーパミン作動薬療法に関連するジスキネジア、不隠下肢症候群、本態性振戦、注意および/または認知の欠陥を症状として含む障害、(うつ病性障害を含む)気分障害または気分エピソード、神経変性の障害または状態、トゥーレット症候群、チック障害、男性性機能不全(MSD)、女性性機能不全(FSD)、ならびに(尿失禁を含む)下部尿路機能不全からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
疾患、状態、または障害が、精神病、(たとえば、妄想型、解体型、緊張型、鑑別不能型、または残遺型の)統合失調症、統合失調症様障害、(たとえば、妄想型またはうつ病型の)分裂感情障害、妄想性障害、物質誘発性精神病性障害(たとえば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚発現物質、吸入剤、オピオイド、またはフェンシクリジンによって誘発される精神病)、妄想型の人格障害、ならびに統合失調質型の人格障害からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
疾患、状態、または障害が、不安、パニック障害、広場恐怖、特定恐怖症、対人恐怖、強迫性障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、および全般性不安障害からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
疾患、状態、または障害が、認知症;アルツハイマー病の認知障害症状;アルツハイマー病の注意欠陥症状;多発梗塞性痴呆、アルコール依存性の認知症もしくは他の薬物関連認知症、頭蓋内腫瘍もしくは脳外傷に関連する認知症、ハンチントン病もしくはパーキンソン病に関連する認知症、またはAIDSに関連した認知症;せん妄;健忘性障害;外傷後ストレス障害;知能障害;学習障害(たとえば、読書障害、数学障害、または筆記表現の障害);注意欠陥/多動性障害;加齢関連認知機能低下;精神病に関連する認知障害;ならびに統合失調症に関連する認知障害からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
疾患、状態、または障害が、統合失調症に関連する認知障害である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
疾患、状態、または障害が、気分障害、気分エピソード、軽度、中等度、または重度の型の大うつ病エピソード、躁病または混合性気分エピソード、軽躁病気分エピソード、非定型の特徴を伴ううつ病エピソード、メランコリー型の特徴を伴ううつ病エピソード、緊張病性の特徴を伴ううつ病エピソード、産後の発症を伴う気分エピソード、脳卒中後うつ病、大うつ病性障害、気分変調障害、軽度うつ病性障害、月経前不快気分障害、統合失調症の精神病後うつ病性障害、妄想性障害や統合失調症などの精神病性障害との混合型の大うつ病性障害、双極性障害、たとえば双極I型障害、双極II型障害、および気分循環性障害からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
疾患、状態、または障害が、パーキンソン病;ハンチントン病;アルツハイマー病、多発梗塞性痴呆、AIDSに関連した認知症、および前頭側頭型(Fronto temperal)痴呆に関連する神経変性;脳外傷に関連する神経変性;発作に関連する神経変性、脳梗塞に関連する神経変性;低血糖によって誘発される神経変性;てんかん性痙攣に関連する神経変性;神経毒中毒に関連する神経変性;ならびに多系統萎縮症からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
疾患、状態、または障害が、摂食障害(たとえば、大食摂食障害、食欲不振症、および過食症)、体重減少または体重コントロール(たとえば、カロリー摂取もしくは食物摂取の減少、および/または食欲抑制)、または肥満からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の塩、抗精神病薬、および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
哺乳動物において5−HT2c受容体が関与する疾患、状態、または障害を治療する方法であって、前記哺乳動物に、治療有効量の請求項1に記載の塩と抗精神病薬を投与することを含む方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−44931(P2008−44931A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−182717(P2007−182717)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】