説明

(i)ギ酸、(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸及び/又はそれらの誘導体及び(iii)無水カルボン酸を共通して製造するためのフレキシブルな方法

(a)ギ酸エステル(I)を少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)とエステル交換して、ギ酸(III)及び相応するカルボン酸エステル(IV)に変換し;(b)工程(a)において形成されたカルボン酸エステル(IV)の少なくとも一部を、相応する無水カルボン酸(V)へカルボニル化し;かつ(c)工程(b)において形成された無水カルボン酸(V)の少なくとも一部をカルボン酸(VI)と、無水カルボン酸(VII)及びカルボン酸(II)の形成下に無水物交換することによる、(i)ギ酸(III);(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)及び/又はそれらの誘導体;及び(iii)無水カルボン酸(VII)を共通して製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)ギ酸、(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸及び/又はそれらの誘導体、例えばカルボン酸エステル又は無水カルボン酸、及び(iii)さらに無水カルボン酸を共通して製造する方法に関する。
【0002】
ギ酸は重要で多方面に亘って使用可能な化合物である。ギ酸は例えば、飼料を製造する際に酸性化するために、防腐剤として、消毒剤として、繊維工業及び革工業における助剤として並びに化学工業における合成成分として使用される。
【0003】
以下に、ギ酸の最も重要な製造方法を挙げることができる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“FORMIC ACID - Production”参照)。
【0004】
ギ酸の工業的に最も重要な製造方法はギ酸メチルエステル(ギ酸メチル)の加水分解及び引き続き得られたギ酸水溶液の濃縮である。公知方法としてKemira-Leonard法及びBASF法を挙げることができる。これらの方法の大きな欠点は、加水分解工程のためにギ酸水溶液の形成であり、このことは多数のさらなる欠点を引き起こす。例えば、共沸剤の使用下での抽出精留によるギ酸溶液の費用のかかる濃縮が必要である。水の存在により、取り扱われるべき水性のもしくは濃縮されたギ酸溶液は極めて腐食攻撃的であり、かつ当該のプラント部材のためのより高価な建設資材の使用を必要とする。それゆえ挙げた方法は不利には、高い投資及び運転コスト、製造プラントの技術的に費用がかかりかつ大々的な構成、高いエネルギー消費並びに濃ギ酸中の少なからぬ残留水含量の存在により特徴付けられている。
【0005】
炭化水素類、例えばブタン類又はナフサの酸化の場合に、ギ酸も含有し、かつ費用のかかる方法で分離及び濃縮されることができる幅広い範囲の生成物が形成される。この方法の場合にも不利には共沸剤の使用下での粗ギ酸の抽出精留を必要とする。水分のために前記の欠点を指摘することができる。
【0006】
より古い方法によれば、ギ酸はホルムアミドの加水分解によっても取得され、このホルムアミドはアンモニアを用いるギ酸メチルエステルのアンモノリシスを通して入手可能である。加水分解は硫酸及び水を用いて行われる。この方法の場合に不利には副生物としての硫酸アンモニウムの望ましくない形成及び水の存在であり、このことは前記の欠点をまねく。
【0007】
カルボン酸類、例えば酢酸及びそのより高分子量の同族体及び相応する無水物類は重要で多方面に亘って使用可能な化合物である。これらは例えば、エステル類、無水カルボン酸類の製造のため、ポリマー分野における添加剤として、又は繊維薬品、染料、プラスチック、農薬及び医薬品を製造する際の中間生成物として使用される。低分子同族体である酢酸及びプロピオン酸が特に高い重要性を示す。
【0008】
以下に、酢酸及びそのより高分子量の同族体の最も重要な製造方法を挙げることができる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ACETIC ACID - Production”及び章“CARBOXYLIC ACIDS, ALIPHATIC - Production”参照)。
【0009】
酢酸の工業的に最も重要な製造方法は、適しているカルボニル化触媒、例えばコバルトカルボニル−、イリジウムカルボニル−又はロジウムカルボニル−化合物の存在でのメタノールのカルボニル化である。公知方法としてBASF法及びMonsanto法を挙げることができる。これらの方法の場合に不利であるのは反応媒体中の水の存在であり、この水は水及び一酸化炭素が水性ガスシフト反応して二酸化炭素及び水素を形成することにより、使用される一酸化炭素の収率を低下させる。さらに水分に基づき蒸留による後処理において高いエネルギー投入が必要である。挙げた方法はさらに高い投資及び運転コスト並びに製造プラントの技術的に費用がかかりかつ大々的な構成により特徴付けられている。
【0010】
炭化水素類、例えばエタン、ブタン類又はナフサの酸化の際に、酢酸及び場合により高級同族体を含有し、かつ費用のかかる方法で分離及び濃縮されることができる幅広い範囲の生成物が形成される。水分のために前記の欠点を指摘することができる。
【0011】
相応するアルデヒド類の酸化によるカルボン酸類の合成は、供給原料としての高価なオレフィンにさかのぼる。例えば、アセトアルデヒドは工業的にWacker法によるエテン酸化により並びにその高級同族体はエテン、プロペン等のヒドロホルミル化により取得される。故にこの方法は経済的に魅力のない原料ベースに基づいている。
【0012】
カルボン酸エステル類、特に酢酸メチルエステル(酢酸メチル)は重要な溶剤である。酢酸メチルエステルは例えばニトロセルロース又はアセチルセルロースを溶解させるのに使用される。酢酸ビニルエステルはポリマー及びコポリマーの製造において幅広く使用される。
【0013】
カルボン酸エステル類の製造方法は非常に多岐に亘っている(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ESTERS, ORGANIC - Production”参照)。アルコール類でのカルボン酸類のエステル化、カルボン酸塩化物類又は無水カルボン酸類とアルコール類との反応、カルボン酸エステル類のエステル交換、ケテン類とアルコール類との反応、一酸化炭素及びアルコール類を用いるオレフィン類のカルボニル化、アルデヒド類の縮合、ニトリル類のアルコーリシス及びオレフィン類の酸化的アシル化を挙げることができる。
【0014】
酢酸アルキルエステルはアルカノール類での酢酸又は無水酢酸のエステル化により主に取得される。酢酸メチルエステルはさらに、酢酸の合成の際に副生物として生じる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ACETIC ACID - Production”参照)。酢酸メチルエステルのためのさらなる合成の可能性はジメチルエーテルのカルボニル化である(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ACETIC ANHYDRIDE AND MIXED FATTY ACID ANHYDRIDES - Acetic Anhydride - Production”参照)。前記の最後の方法の欠点はより高価なジメチルエーテルの使用である。
【0015】
無水酢酸(Acetanhydrid)は化学工業における重要な合成成分であり、かつ例えばアセチルセルロース類、アセチルサリチル酸、アセトアニリド、スルホンアミド類又はビタミンB6の製造に使用される。
【0016】
以下に、無水酢酸の最も重要な製造方法を挙げることができる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ACETIC ANHYDRIDE AND MIXED FATTY ACID ANHYDRIDES - Acetic Anhydride - Production”参照)。
【0017】
無水酢酸の工業的に重要な1つの製造方法は酢酸とケテンとの反応であり、その際にケテンは前段階において酢酸から熱による水脱離により取得される。この方法の場合に不利であるのは、熱によるケテン製造による極めて高いエネルギー消費及び極度に有毒なケテンの扱いである。
【0018】
さらに無水酢酸の工業的に重要な製造方法において、第一段階においてカルボニル化及びエステル化によりメタノールは酢酸メチルエステルへ変換され、かつこのエステルは第二段階において無水酢酸へカルボニル化される。
【0019】
さらに無水酢酸の製造方法はアセトアルデヒドの液相酸化である。この方法の場合に不利であるのは、Wacker法によるエテン酸化により工業的に取得される高価なアセトアルデヒドの使用である。故にこの方法は経済的に魅力のない原料ベースに基づいている。
【0020】
さらに無水酢酸の製造方法として、遷移金属触媒の存在での酢酸メチルエステルのカルボニル化を挙げることができる。酢酸メチルエステルは通例、酢酸の合成の際の副生物として並びにメタノールでの酢酸のエステル化により取得される。
【0021】
EP-A 0 087 870には、メタノール及び一酸化炭素からの無水酢酸及び酢酸の統合された製造方法が教示されている。第一段階において酢酸はメタノールでエステル化されて酢酸メチルエステルが形成され、このエステルは第二段階において水の存在でカルボニル化されて無水酢酸及び酢酸を含有する混合物が形成される。取得された混合物は蒸留により後処理され、その際に必要な量の酢酸は第一段階に供給される。残りの量の酢酸及び無水酢酸は生成物として導出される。この方法の場合に不利であるのは、エステル化段階における水の化学量論的な量の形成及びそれと共に存在している含水の酢酸の扱い及びその後処理の際の問題点である。水分のために前記の欠点を指摘することができる。
【0022】
無水カルボン酸類は、他の酸誘導体のための重要な出発物質であり、さらに溶剤として及び脱水剤としても使用される。不飽和脂肪族カルボン酸類、特にアクリル酸及びメタクリル酸の無水カルボン酸類はそのうえ、他の製造経路で困難に入手可能であるに過ぎない興味深いモノマーを製造するための重要な出発化合物である。芳香族カルボン酸無水物類、例えば1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(ピロメリト酸無水物)又は3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物は、耐熱性樹脂、例えばポリアミド又はエポキシ樹脂を製造するための重要な出発物質である。
【0023】
無水カルボン酸類の製造のために多様な方法が公知である。3つの原則的な製造経路についての概観は例えばCD Roempp Chemie Lexikon, Version 1.0, Stuttgart/New York, Georg Thieme Verlag 1995において見出語“Saeureanhydride”のもとに見出される。第一の製造経路の場合に基礎となるカルボン酸類が使用され、かつ水を引き抜く薬剤、例えばP10の使用によるか又は加熱により水が引き抜かれ、その際に無水カルボン酸が形成される。この製造経路の場合に不利であるのは、エネルギー的に極めて値の高い出発物質(例えばP10)の使用及び望ましくない副生物(例えばP10の使用の場合のリン酸)の形成である。熱による水引き抜きにとって不利であるのは、熱分解による望ましくない副生物の形成の危険である。第二の製造経路の場合に酸塩化物類、例えば塩化アセチル又は塩化ベンゾイルは、相応するカルボン酸類のアルカリ金属塩類と反応される。相応する方法は例えばWO 95/32940にも記載されている。この製造経路の場合に不利であるのは、エネルギー的に値の高い出発物質である酸塩化物の使用及び望ましくない副生物としてのアルカリ金属塩化物及び使用された酸塩化物のアルカリ金属塩の形成である。第三の製造経路の場合に基礎となるカルボン酸類は無水酢酸又はケテンと無水物交換される。この製造経路の相応する説明は例えばDE-A 35 10 035、EP-A 0 231 689、DE-A 36 44 222及びEP-A 1 231 201に記載されている。この製造経路の場合に不利であるのは無水酢酸又はケテンの使用であり、これらはまず最初に一度、さらに上記で無水酢酸及びケテンのもとに記載されたエネルギー集約的な製造方法により取得されなければならない。
【0024】
故に、良好に入手可能で経済的に魅力のある原料ベースを基礎としており、単純で費用のかからないプラントの構成を可能にし(低い投資コスト)、同時製造(Koppelproduktion)のために望ましくない副生物を回避し、かつ低いエネルギー消費及び好都合な運転コストに傑出している、前記の欠点をもはや有しないカルボン酸類及び/又はそれらの誘導体の製造方法を見出すという課題が存在していた。さらに、必要に応じて水不含のカルボン酸類の製造も入手可能にし、ひいてはあまり腐食攻撃的ではない媒体の取扱い並びにより費用のかからない建設資材の使用を可能にし、かつより僅かな腐食攻撃性のためにより高い安全性も提供する方法を見出すという課題が存在していた。さらにまた、一般的に多種多様な無水カルボン酸類の製造及び特に不飽和カルボン酸無水物類、例えばアクリル酸無水物又はメタクリル酸無水物の製造も可能にする方法を見出すという課題が存在していた。
【0025】
それに応じて、
(i)ギ酸(III);
(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)及び/又はそれらの誘導体;及び
(iii)無水カルボン酸(VII)
を共通して製造する方法が見出され、前記方法は、
(a)ギ酸エステル(I)を少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)とエステル交換して、ギ酸(III)及び相応するカルボン酸エステル(IV)に変換し;
(b)工程(a)において形成されたカルボン酸エステル(IV)の少なくとも一部を、相応する無水カルボン酸(V)へカルボニル化し;かつ
(c)工程(b)において形成された無水カルボン酸(V)の少なくとも一部をカルボン酸(VI)と、無水カルボン酸(VII)及びカルボン酸(II)の形成下に無水物交換する(umanhydridisiert)ことにより特徴付けられる。
【0026】
工程(a)において、ギ酸エステル(I)は少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)と反応して、ギ酸(III)及び相応するカルボン酸エステル(IV)に変換される。
【0027】
使用すべきギ酸エステルは、一般式(I)
【0028】
【化1】

[式中、基Rは炭素を有する有機基を表す]を有する。炭素を有する有機基は好ましくは、1個又はそれ以上のへテロ原子、例えば酸素、窒素又は硫黄、例えば脂肪族系又は芳香族系中に−O−、−S−、−NR−、−CO−及び/又は−N=を有していてよい及び/又は例えば酸素、窒素、硫黄及び/又はハロゲンを有していてよい1つ又はそれ以上の官能基により、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素及び/又はシアノ基により置換されていてよい、炭素原子1〜12個を有しており、非置換又は置換された、脂肪族基、芳香族基又は芳香脂肪族基であると理解すべきである。
【0029】
ギ酸エステルは、相応するアルコール類の塩基触媒作用によるカルボニル化を通じて並びにギ酸での相応するアルコール類のエステル化を通じて一般的に入手可能である(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“FORMIC ACID - Derivatives”参照)。この化合物クラスの最も単純な代表例であるギ酸メチルエステルは、メタノールのカルボニル化により大工業的に取得される。
【0030】
少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)として、カルボキシ基上に少なくとも1つの炭素原子を有する基を有するカルボン酸であると理解すべきである。使用すべきカルボン酸類は、一般式(II)
【0031】
【化2】

[式中、基Rは炭素を有する有機基を表す]を有する。好ましい炭素を有する有機基Rは、Rの場合と同じように定義される。
【0032】
工程(a)において挙げられたエステル交換反応は、一般的に触媒の存在により触媒作用される平衡反応である。
【0033】
【化3】

【0034】
本発明による方法の場合に工程(a)において公知のエステル交換法が使用されることができる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ESTERS, ORGANIC - Chemical Properties”及び“ESTERS, ORGANIC - Production”及び後出の文献参照)。
【0035】
触媒として僅少量の酸性又は塩基性の物質が一般的に使用される。酸及び酸性固体の使用が好ましい。例として強プロトン酸、例えば硫酸、過塩素酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、モリブドリン酸及びタングストケイ酸;酸性イオン交換体、例えばペルフルオロ化スルホン酸基を有するイオン交換体(SU-A 1,432,048);並びに酸性酸化物、例えばゼオライト類(ドイツ連邦共和国特許出願公開(DE-OS)第35 06 632号明細書)、アルミノケイ酸塩類(US 3,328,439)又はSiO/TiO(DE 27 10 630)を挙げることができる。好ましい触媒として鉱酸、p−トルエンスルホン酸及びゼオライト類を挙げることができる。
【0036】
強プロトン酸が均一系触媒として使用される場合には、反応混合物中のそれらの濃度は一般的に0.01〜50質量%、好ましくは0.01〜2質量%である。
【0037】
前記の触媒に対する助触媒として、反応溶液に対して通例20質量%までの水又はメタノールの使用が可能である。しかしその際に、含水量の増大と共に反応媒体の腐食攻撃性も増大し、かつ生成物の後処理が困難になることが顧慮されるべきである。故に、場合により、エステル交換を助触媒としての水又はメタノールを添加せずに実施することが有利である。エステル交換が水又はメタノールの存在で実施される場合には、場合により、反応排出物に水の結合のために無水カルボン酸(V)を供給することが有利である。これは例えば直接に反応器出口で又は塔(例えば塔底)中で添加されることができる。この措置により水又はメタノールによる同時触媒作用によるエステル交換の場合にも水不含のギ酸及び水不含のカルボン酸エステル(IV)の製造が可能である。ギ酸エステル(I)としてのメタノール含有のギ酸メチルエステルの使用の場合にも、それゆえ水不含のギ酸及び水不含のカルボン酸エステル(IV)が問題なく製造可能である。ギ酸エステル(I)としてのギ酸メチルエステルの使用の場合にメタノール約2〜4質量%の典型的な残留含量が助触媒としてのその性質において有利であることが判明している。
【0038】
エステル交換は液相中で並びに気相中で実施されることができる。気相中のエステル交換の場合に、好ましくは不均一系触媒、例えば挙げたイオン交換体又は酸性酸化物が使用される。液相中でのエステル交換の場合に均一系触媒又は不均一系触媒が使用される。好ましくはエステル交換は液相中で実施される。
【0039】
一般的にエステル交換は20〜300℃及び好ましくは50〜180℃の温度で実施される。圧力は通例0.1〜5MPa(絶対)である。
【0040】
エステル交換は付加的な不活性極性溶剤の存在で行われることができる。不活性溶剤として、採用された反応条件下で、使用された化合物、すなわち出発物質、生成物並びに触媒と化学的に反応しない溶剤であることが理解されるべきである。適している溶剤として例えばポリエーテルを挙げることができる。溶剤は通例、所望の温度、所望の圧力及び出発物質及び生成物の所望の量比で溶剤不含の反応混合物中に不十分に可溶であるに過ぎない出発物質及び/又は生成物が存在しているエステル交換の場合に使用される。出発物質及び生成物が選択される条件下で溶剤不含の反応混合物中にも可溶である場合には、エステル交換は好ましくは溶剤を添加せずに実施される。
【0041】
出発物質であるギ酸エステル(I)及びカルボン酸(II)は一般的にその都度化学量論的な量で添加される。
【0042】
例えば反応を開始する前に装入物質として、双方の出発物質のうちの1つの付加的な添加により、反応混合物中で意図的に双方の出発物質の非化学量論比に調節されることができる。こうして例えば良好な溶解特性を有する出発物質は他の出発物質又は生成物の溶解度を改善することができる。同じように、双方の生成物のうちの1つの相応する過剰量を反応混合物中で保持することも可能である。
【0043】
エステル交換は不連続にか又は連続的に行われることができる。連続法が好ましい。
【0044】
エステル交換のためには本発明による方法の場合にエステル交換反応に公知の原則的に全ての反応装置が使用されることができる。液相中での反応に適している反応装置として例えば撹拌釜反応器、蒸留塔、反応塔及び膜反応器を挙げることができる。高い転化率を達成するために、双方の生成物のうちの少なくとも1つ、好ましくは双方とも全てを反応混合物から恒常的に除去することが有利である。撹拌釜反応器を使用する場合に、これは例えば、反応混合物を連続的に取り出し、その後に双方の生成物を分離し、かつ双方の未反応出発物質並びに場合により触媒を返送することにより達成される。蒸留塔を使用する場合にエステル交換反応は塔底で行われ、その際により低沸点の成分は蒸留により分離され、出発物質又は生成物であるかどうかに応じて、再び返送又は導出されることができる。反応塔を使用する場合に、好ましくは不均一系触媒は塔の分離領域中に存在する。より低沸点の成分はここで記載された蒸留塔に類似して蒸留により分離され、かつ返送もしくは導出される。
【0045】
気相中での反応に適している反応装置として例えば流通管又はシャフト反応器を挙げることができる。
【0046】
反応混合物の分離は多様な方法で行われることができる。この方法は通例、分離すべき出発物質及び生成物の性質により決定される。可能な分離方法の例として蒸留、結晶化及び抽出を挙げることができる。多様な分離方法の組合せも、またエステル交換のための蒸留塔又は反応塔の前接続の場合も可能であることを指摘することができる。場合により減圧下又は真空中での蒸留としても実施されることができる蒸留による分離が一般的に好ましい。蒸留による分離が不可能であるか又は大きな費用を伴い可能であるに過ぎない場合、例えばより高沸点の又は容易に分解性の成分の場合には、挙げた選択的方法が重要性を増す。存在している出発物質、生成物及び場合により触媒の知識で、適している後処理の構想を発展させることは当業者にとって簡単に可能である。
【0047】
ギ酸(III)はその良好な蒸留特性に基づいて通例蒸留により除去される。
【0048】
得られた反応混合物を好ましくは蒸留により分離する際に、4つの流れへの分離を得るために、3つの蒸留塔もしくはその同等物(例えば隔壁塔(Trennwandkolonne)及び蒸留塔)が通例使用される。ギ酸エステル(I)を含有する流れは一般的にエステル交換に返送され、カルボン酸エステル(IV)を含有する流れは部分的に又は完全にカルボニル化工程(b)に供給され、ギ酸(III)は生成物として系から導出され、かつ残っているカルボン酸(II)を含有する流れは一般的に同様にエステル交換へ返送される。
【0049】
カルボニル化触媒の存在での無水カルボン酸(V)へのカルボン酸エステル(IV)のその後のカルボニル化の際に場合により依然として存在しているギ酸エステル(I)は相応するカルボン酸R−COOHへ異性化されるので、蒸留塔の省力下での単純化された蒸留による後処理を用いる変法において、ギ酸エステル(I)を含有する流れ、ギ酸(III)を含有する流れ及びカルボン酸(II)を含有する流れに加えて、別の流れとしてギ酸エステル(I)及びカルボン酸エステル(IV)を含有する流れを取得し、かつこの流れをカルボニル化工程(b)に供給することは場合により可能である。この最後に挙げた流れは例えば第一の蒸留塔の側部取出しとして取得されることができる。
【0050】
本発明による方法の場合に、得られたカルボン酸エステル(IV)の全量又はその一部のみもカルボニル化工程(b)に供給されることができる。最後に挙げた変法の場合に、形成されたカルボン酸エステル(IV)の一部は最終生成物として得られることができる。カルボン酸エステル(IV)の残っている部分はカルボニル化工程(b)に供給される。
【0051】
工程(b)において、工程(a)において形成されたカルボン酸エステル(IV)の少なくとも一部、好ましくは少なくとも5%、特に好ましくは少なくとも10%及び極めて特に好ましくは少なくとも50%は触媒の存在で相応する無水カルボン酸(V)へカルボニル化される。
【0052】
【化4】

【0053】
本発明による方法の場合に、工程(b)においてカルボン酸エステルのカルボニル化のための公知方法が使用されることができる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版, 2000 electronic release, 章“ACETIC ANHYDRIDE AND MIXED FATTY ACID ANHYDRIDES - Acetic Anhydride - Production”及び後出の文献参照)。
【0054】
触媒として一般的に周期表の第8〜10族の金属並びにそれらの化合物をハロゲン化物並びに有機ハロゲン化合物の存在で使用されることができる。好ましい触媒金属としてロジウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル及びコバルト、特にロジウムを挙げることができる(EP-A 0 677 505)。ハロゲン化物もしくは有機ハロゲン化合物として通例ヨウ素化合物が使用される。アルカリ金属ヨウ化物及びアルカリ土類金属ヨウ化物(US 5,003,104、US 4,559,183)、ヨウ化水素酸、ヨウ素、ヨードアルカン類、特にヨードメタン(ヨウ化メチル)(GB-A 2,333,773、ドイツ連邦共和国特許出願公開(DE-OS)第24 41 502号明細書)又は置換されたヨウ化アゾリウム(Azoliumiodid)(EP-A 0 479 463)の添加が好ましい。触媒金属は通例配位子により安定化されている。適している配位子として好ましくは窒素化合物及びリン化合物、例えばN含有の複素環式化合物(ドイツ連邦共和国特許出願公開(DE-OS)第28 36 084号明細書)、アミン類、アミド類(ドイツ連邦共和国特許出願公開(DE-OS)第28 44 371号明細書)又はホスフィン類(US 5,003,104、EP-A 0 336 216)が使用される。触媒系はさらにまた助触媒金属、例えばニッケル/クロム系中のクロム(US 4,002,678)、イリジウム/ルテニウム系中のルテニウム(GB-A 2,333,773)又はルテニウム/コバルト系中のコバルト(US 4,519,956)を含有していてよい。好ましい触媒系としてロジウム及び/又はイリジウム、ヨウ化メチル、窒素及び/又はリン含有の配位子並びに場合により助触媒、例えばリチウム又はクロムを含有する系を挙げることができる。特に好ましくは三ヨウ化ロジウム、ヨウ化リチウム及びヨードメタンをベースとする触媒の使用であり、例えばUS 4,374,070に記載されている。
【0055】
触媒はいわゆる均一系触媒として担持されずにか又はいわゆる不均一系触媒として担持されて使用されることができる。適している担持材料として例示的に無機酸化物、例えば二酸化ケイ素又は酸化アルミニウム(EP-A 0 336 216)、又はポリマー、例えばイオン交換体(J6 2135 445)又は樹脂(JP 09 124 544)を挙げることができる。
【0056】
カルボニル化は水素の存在で(US 5,003,104、GB-A 2 333 773、US 4,333,885、WO 82/01704)又は水素の不在で(A.C. Marr他, Inorg. Chem. Comm. 3, 2000, 617〜619頁)実施されることができる。カルボニル化を水素の存在で実施することは一般的に有利であり、その際に通例、供給される気体状出発物質流に対して、ppm範囲から15体積%まで及び好ましくは1〜10体積%の水素濃度が選択される。
【0057】
カルボニル化は気相中で(EP-A 0 336 216)並びに液相中で実施されることができる。気相中で実施する場合に一般的に担持された触媒が使用される。本発明による方法の場合に液相中でのカルボニル化が好ましい。
【0058】
気相中でのカルボニル化は一般的に130〜400℃、好ましくは150〜280℃の温度及び0.1〜15MPa(絶対)、好ましくは0.5〜3MPa(絶対)の圧力で実施される。液相中でのカルボニル化は一般的に100〜300℃、好ましくは170〜200℃の温度及び0.1〜15MPa(絶対)、好ましくは1〜8MPa(絶対)の圧力で実施される。
【0059】
液相中での好ましいカルボニル化及び均一系触媒の使用の場合に、触媒濃度は通例反応溶液に対して0.01〜1質量%の範囲内で使用される。
【0060】
カルボニル化は付加的な不活性溶剤の存在で行われることができる。不活性溶剤として、採用された反応条件下で、使用される化合物、すなわち出発物質、生成物並びに触媒と化学的に反応しない溶剤であると理解されるべきである。適している不活性溶剤は例えば芳香族及び脂肪族の炭化水素類並びにカルボン酸類又はそれらのエステル類である。好ましくは溶剤は、出発物質及び/又は生成物が所望の温度及び/又は所望の圧力で溶剤不含の反応混合物中に不十分に可溶であるに過ぎないカルボニル化の場合に使用される。出発物質及び生成物が選択される条件下で溶剤不含の反応混合物中にも可溶である場合には、エステル交換は好ましくは溶剤を添加せずに実施される。
【0061】
カルボニル化は不連続に又は連続的に行われることができる。好ましくは連続法である。
【0062】
カルボニル化のためには、本発明による方法の場合に、カルボニル化反応に公知の原則的に全ての反応装置が使用されることができる。気相中のカルボニル化は一般的に流通管又はシャフト反応器中で実施される。液相中での好ましいカルボニル化の適している反応装置として例えば撹拌釜反応器、ジェットループ反応器及び気泡塔を挙げることができる。以下に、連続法におけるそれらの使用が短く記載されている。
【0063】
挙げた反応装置を使用する場合に、通例、所望の量のカルボン酸エステル(IV)及び一酸化炭素は、強力に混合しながら特に無水カルボン酸(V)、カルボニル化触媒及び場合により付加的な溶剤を含有する反応溶液に連続的に供給される。生成したカルボニル化熱は例えば内部にある熱交換器により、反応装置の壁の冷却により及び/又は熱い反応溶液の連続的な取り出し、外部にある冷却及び返送により取り除かれることができる。ジェットループ反応器又は気泡塔を使用する場合に混合を保証するために外部循環路が必要である。生成物導出は連続的な取り出し及び引き続き適している分離装置中でのカルボニル化触媒の分離により行われる。適している分離装置として、例えば、無水カルボン酸(V)を圧力緩和により蒸発させるいわゆるフラッシュ蒸発器を挙げることができる。カルボニル化触媒を含有する残っている溶液は反応装置に再び供給される。適している温度及び圧力管理により、形成された無水カルボン酸を蒸発により反応溶液から連続的に除去することも場合により可能である(ドイツ連邦共和国特許出願公開(DE-OS)第30 24 353号明細書)。蒸発された無水カルボン酸(V)は必要に応じて後処理段階又はさらなる反応のためのその後の段階に供給されることができる。記載されたフラッシュ蒸発がそれらの僅かな揮発性に基づいて不可能である、より高沸点の無水カルボン酸類(V)の場合に、反応排出物は他の措置により、例えば減圧下での蒸留により、結晶化又は抽出により後処理されうる。
【0064】
本発明による方法の場合に選択すべきプロセスパラメーター及び措置は、とりわけ使用されるカルボン酸エステル(IV)、形成された無水カルボン酸(V)の性質及び選択される触媒系に依存しており、かつ常用の専門技術を用いて算出されうる。
【0065】
選択される出発物質であるギ酸エステル(I)及びカルボン酸(II)に依存して、工程(b)におけるカルボニル化により、対称的な又は不斉な無水カルボン酸が形成される、すなわち基R及びRは同一であってよいか又は異なっていてよい。
【0066】
さらに、カルボニル化すべきカルボン酸エステル(IV)にアルコールR−OH又はR−OHを供給することが可能である。アルコールはその際に相応するカルボン酸R−COOHもしくはR−COOH(II)へ変換される。そのような供給により、カルボニル化生成物であるR−COOH(II)、無水カルボン酸(V)及びR−COOHとギ酸(I)との比を高めることが可能である。こうして例えば、酢酸メチルエステルのカルボニル化の際にメタノールの付加的な供給は、酢酸メチルエステルのカルボニル化からの無水酢酸に加えて酢酸の形成をもたらす。さらに、カルボニル化すべきカルボン酸エステル(IV)にさらなる成分として付加的に水、カルボン酸エステル(IV)、ギ酸エステル(I)又は一般式R−O−R、R−O−R又はR−O−Rのエーテルを供給することも可能である。
【0067】
本発明による方法の場合に、得られた無水カルボン酸(V)の全量又はその一部のみも無水物交換工程(c)に供給されることができる。最後に挙げた変法の場合に、形成された無水カルボン酸(V)の一部が最終生成物として得られることができる。無水カルボン酸(V)の残っている部分は無水物交換工程(c)に供給される。
【0068】
工程(c)において、工程(b)において形成された無水カルボン酸(V)の少なくとも一部、好ましくは少なくとも5%、特に好ましくは少なくとも10%及び極めて特に好ましくは少なくとも50%がカルボン酸(VI)との反応により無水物交換される。
【0069】
使用すべきカルボン酸は、一般式(VI)
【0070】
【化5】

[式中、基Rは炭素を有する有機基を表す]を有する。炭素を有する有機基は好ましくは、1つ又はそれ以上のへテロ原子、例えば酸素、窒素又は硫黄、例えば脂肪族又は芳香族の系中に−O−、−S−、−NR−、−CO−及び/又は−N=を有していてよい及び/又は例えば酸素、窒素、硫黄及び/又はハロゲンを含有していてよい1つ又はそれ以上の官能基により、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素及び/又はシアノ基により置換されていてよい、炭素原子1〜12個を有しており、非置換又は置換された、脂肪族基、芳香族基又は芳香脂肪族基であると理解されるべきである。
【0071】
挙げた工程(c)における無水物交換は平衡反応である。次の反応図式によれば、出発物質である無水カルボン酸(V)及びカルボン酸(VI)は生成物であるカルボン酸(II)、カルボン酸(IIa)及び無水カルボン酸(VII)へ変換される。
【0072】
【化6】

【0073】
本発明による方法の場合に、工程(c)において無水物交換のための公知方法が使用されることができる。適している方法は例えばDE-A 35 10 035、EP-A 0 231 689、DE-A 36 44 222及びEP-A 1 231 201に記載されている。
【0074】
反応速度を高めるために無水物交換を触媒の存在で実施することは一般的に有利である。触媒として特に酸性又は塩基性の物質並びに適している金属イオンが適している。
【0075】
酸性物質が触媒として使用される場合には、これらは反応条件下で原則的に固体状、液体状又は気体状で存在していてよい。適している固体の酸性又は塩基性触媒として例えば酸性又は塩基性のイオン交換体及び酸性又は塩基性の酸化物、例えばゼオライト類、アルミノケイ酸塩類、SiO/TiO又は遷移金属酸化物を挙げることができる。適している液体又は気体の酸性触媒として、カルボン酸(VI)及びカルボン酸(II)よりも低いpKa値を有する有機又は無機の酸を挙げることができる。有機又は無機の酸として好ましくは硫酸、脂肪族又は芳香族のスルホン酸類又はリン酸が使用される。有機又は無機の酸の量は好都合には、使用されるカルボン酸(VI)に対して、0.01〜2mol%、好ましくは0.1〜2mol%である。
【0076】
金属イオンが触媒として使用される場合には、好ましくは周期表の第1〜13族の金属イオンが当てはまる。好ましいものとしてコバルト、クロム、ニッケル、マンガン、鉄、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、チタン、ランタン、スカンジウム、タングステン、セリウム、モリブデン、トリウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、ハフニウム、レニウム、アルミニウム及びバナジウムの金属イオンを挙げることができる。反応バッチ中の金属イオン濃度は好都合には5〜1000質量ppm、好ましくは50〜500質量ppmである。
【0077】
無水物交換は液相中で並びに気相中で実施されることができる。気相中での無水物交換の場合に、好ましくは不均一系触媒、例えば挙げたイオン交換体又は酸性酸化物が使用される。液相中での無水物交換の場合に、触媒として好ましくは挙げた有機又は無機の酸又は金属イオンが使用される。好ましくは無水物交換は液相又は液相/気相中で実施される。
【0078】
一般的に無水物交換は20〜300℃及び好ましくは30〜200℃の温度で実施される。圧力は通例0.001〜5MPa(絶対)及び好ましくは0.01〜0.5MPa(絶対)である。
【0079】
無水物交換は付加的な不活性極性溶剤の存在で行われることができる。不活性溶剤として、採用された反応条件下で、使用される化合物、すなわち出発物質、生成物並びに触媒と化学的に反応しない溶剤であると理解されるべきである。適している溶剤として例えば芳香族炭化水素類又はポリエーテルを挙げることができる。溶剤は通例、所望の温度、所望の圧力及び出発物質及び生成物の所望の量比で溶剤不含の反応混合物中に不十分に可溶であるに過ぎない出発物質及び/又は生成物が存在している無水物交換の場合に使用される。出発物質及び生成物が、選択される条件下で溶剤不含の反応混合物中にも可溶である場合には、無水物交換は好ましくは溶剤を添加せずに実施される。
【0080】
出発物質である無水カルボン酸(V)及びカルボン酸(VI)は一般的にその都度化学量論的に要求される量で添加される。場合により、平衡を所望の無水カルボン酸(VII)の方向へシフトし、かつ使用されるカルボン酸(VI)の外に向けて完全な転化を達成するために、過剰量の無水カルボン酸(V)を使用することは有利である。この過剰量の無水カルボン酸(V)は有利にはカルボン酸(VI)1mol当たり0.5molまでである。
【0081】
無水物交換は不連続に又は連続的に行われることができる。出発物質である無水カルボン酸(V)及びカルボン酸(VI)の連続的な供給下で並びにさらなる後処理のための反応混合物の連続的な導出下であるいは所望の生成物である無水カルボン酸(VII)並びに形成されたカルボン酸(II)及び(IIa)及び場合により過剰の無水カルボン酸(V)の連続的な導出下での連続法が好ましい。
【0082】
無水物交換のために、本発明による方法の場合に、無水物交換反応に公知の原則的に全ての反応装置が使用されることができる。液相中での反応に適している反応装置として例えば撹拌釜反応器、蒸留塔、反応塔及び膜反応器を挙げることができる。高い転化率を達成するために、双方の生成物のうちの少なくとも1つ、好ましくは全ての生成物、すなわち無水カルボン酸(VII)及びカルボン酸(II)及び(IIa)を恒常的に反応系から除去することが有利である。
【0083】
撹拌釜反応器を使用する場合に、これは例えば、反応混合物の連続的な取り出し、生成物のその後の分離及び未反応出発物質並びに場合により触媒の返送により達成される。その後の分離は一般的に、1つ又はそれ以上の蒸留塔の使用により行われる。具体的な系に適している分離法を完成させることは常用の専門技術を用いて可能である。
【0084】
蒸留塔又は反応塔中での無水物交換反応の実施が好ましい。本発明による方法に適している方法は例えばDE-A 35 10 035に記載されている。蒸留塔又は反応塔中での無水物交換の場合に、反応は好ましくは塔の中央領域中で行われる。無水カルボン酸(V)及びカルボン酸(VI)は、その際に塔の中央部分中で側面に供給される。一般的に及び特に無水カルボン酸(V)としての無水酢酸の使用の場合に、形成されたカルボン酸(II)及び(IIa)は最も低い温度で沸騰する成分であり、無水酢酸の使用の場合に同一でありかつ酢酸である。故にこれは通例塔頂を経て連続的に導出される。形成された無水カルボン酸(VII)は一般的に最も高い温度で沸騰する成分であり、かつ通例塔底を経て連続的に取り出される。塔中で相応する反応帯域を可能にするために、無水カルボン酸(V)をカルボン酸(VI)の下方へ添加することは特に有利であるので、反応相手は向流原理で出会う。向流原理における添加はさらに転化率の増大ももたらす、それというのも、例えば塔の下部領域中で無水カルボン酸(V)の高い濃度が存在するからであり、この濃度は、むしろより低い濃度のカルボン酸(VI)と結びついて平衡を所望の生成物である無水カルボン酸(VII)の方向へシフトさせる。しかしまた、無水カルボン酸(V)及びカルボン酸(VI)を一緒に一箇所で塔中へ添加することもさらに可能である。このことは例えば、双方の出発物質が同一の又は極めて類似した沸点を有する場合に有利でありうる。不均一系触媒が使用される場合には、これは好ましくは固定された充填物又は塔領域の内部のコーティングの形で存在する。均一系触媒が使用される場合には、これらは別の成分として、通例同様に連続的に、塔に供給される。均一系触媒としての金属イオンは通例、塔の上部領域中で供給され、かつ塔底を経て排出され、缶出液から分離され、かつ通例返送される。こうして例えば、缶出液を経て導出される液状の酸は、好ましくは塔の上部領域中で供給される。金属イオンの使用についての記載に類似して、塔底で排出された有機又は無機の酸は同様に無水カルボン酸(VII)から分離され、かつ一般的に返送される。有機又は無機の酸は通例、取り出しのむしろ反対側の領域中で供給されるので、これらは塔中で分配されて存在する。こうして例えば、塔中で存在している条件に相応して塔底を経て取り出される、より高沸点の有機又は無機の酸は、好ましくは上部領域中で添加される。
【0085】
前記の説明に相応して、本発明による方法の場合に、工程(c)における無水物交換を連続的に運転される蒸留塔中で実施し、かつ形成された反応生成物であるカルボン酸(II)及び無水カルボン酸(VII)を連続的に導出することは特に有利である。
【0086】
気相中での反応に適している反応装置として例えば流通管又はシャフト反応器を挙げることができる。
【0087】
得られた生成物のさらなる及び場合により必要な精製は、出発物質、生成物及び場合により触媒の知識で常用の専門知識を用いて発展されることができる。
【0088】
図1は本発明による方法のブロック図を示す。ギ酸エステル(I)及びカルボン酸(II)はブロック“A”(エステル交換/分離)においてギ酸(III)及びカルボン酸エステル(IV)の形成下に反応される。分離されたギ酸(III)は最終生成物として導出される。分離されたカルボン酸エステル(IV)は、場合により形成されたカルボン酸エステル(IV)の一部が最終生成物として排出されることができる場合により存在しているブロック“B”(カルボン酸エステルの排出)を経て、ブロック“C”(カルボニル化)に供給される。一酸化炭素の供給下に無水カルボン酸(V)が形成される。無水カルボン酸(V)は、場合により形成された無水カルボン酸(V)の一部が最終生成物として排出されることができる場合により存在しているブロック“D”(無水カルボン酸の排出)を経て、ブロック“E”(無水物交換)に供給される。そこで、カルボン酸(VI)の供給下に無水カルボン酸(VII)及びカルボン酸(II)並びに不斉無水カルボン酸(V)の使用の場合にはカルボン酸(IIa)も形成され、かつ生成物として排出される。
【0089】
本発明による方法の好ましい一実施態様において、工程(c)において形成されたカルボン酸(II)の少なくとも一部は工程(a)へ戻される。本発明による方法のためにはその際に、そこで循環の維持に必要である全部でほぼ同じ量のカルボン酸(II)を工程に返送することが特に有利である。望ましくない副生物の蓄積を回避するために、場合により、必要であるよりもごく僅かに少ないカルボン酸(II)を工程(a)に返送し、かつ新鮮なカルボン酸(II)の供給により差をカバーすることが有利である。
【0090】
図2は本発明による好ましい方法のブロック図を示す。ブロック“A”〜“E”について図1のブロック図の記載を指摘することができる。この好ましい方法の場合に目下、ブロック“E”(無水物交換)に由来するカルボン酸(II)は、場合により形成されたカルボン酸(II)の一部が最終生成物として排出されることができる場合により存在しているブロック“F”(カルボン酸の排出)を経て、ブロック“A”(エステル交換/分離)に供給される。
【0091】
本発明による方法の場合に、好ましくはギ酸エステル(I)
【0092】
【化7】

が使用され、ここで基R
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式又は環式のC−〜C12−アルキル基、例えばメチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル、2−メチル−2−プロピル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、3−メチル−2−ブチル、2−メチル−2−ブチル、ヘキシル、ヘプチル、2−エチル−1−ペンチル、オクチル、2,4,4−トリメチル−1−ペンチル、ノニル、1,1−ジメチル−1−ヘプチル、デシル、ウンデシル、ドデシル、フェニルメチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、2−シクロペンチルエチル、3−シクロペンチルプロピル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル又は3−シクロヘキシルプロピル;又は
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式又は環式のC−〜C12−アルケニル基、例えばビニル(エテニル)、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチルビニル、3−ブテニル、シス−2−ブテニル、トランス−2−ブテニル、シス−1−ブテニル、トランス−1−ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、3−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニル、3−シクロヘキセニル又は2,5−シクロヘキサジエニル;
を表す。
【0093】
特に好ましくはギ酸エステル(I)が使用され、ここで基Rは非置換の、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式のC−〜C−アルキル基、具体的にはメチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル、2−メチル−2−プロピル、1−ペンチル及び1−ヘキシルを表す。極めて特に好ましくは、ギ酸メチルエステル、ギ酸エチルエステル、ギ酸プロピルエステル及びギ酸ブチルエステル及び特にギ酸メチルエステルが使用される。
【0094】
本発明による方法の場合に、好ましくはカルボン酸(II)
【0095】
【化8】

が使用され、ここで基R
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式又は環式のC−〜C12−アルキル基、例えばメチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル、2−メチル−2−プロピル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、3−メチル−2−ブチル、2−メチル−2−ブチル、ヘキシル、ヘプチル、2−エチル−1−ペンチル、オクチル、2,4,4−トリメチル−1−ペンチル、ノニル、1,1−ジメチル−1−ヘプチル、デシル、ウンデシル、ドデシル、フェニルメチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、2−シクロペンチルエチル、3−シクロペンチルプロピル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、3−シクロヘキシルプロピル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル;又は
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式又は環式のC−〜C12−アルケニル基、例えばビニル(エテニル)、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチルビニル、3−ブテニル、シス−2−ブテニル、トランス−2−ブテニル、シス−1−ブテニル、トランス−1−ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、3−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニル、3−シクロヘキセニル又は2,5−シクロヘキサジエニル;
を表す。
【0096】
特に好ましくはカルボン酸(II)が使用され、ここで基R
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式のC−〜C−アルキル基、具体的にはメチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル、2−メチル−2−プロピル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、3−メチル−2−ブチル、2−メチル−2−ブチル、ヘキシル、クロロメチル、ジクロロメチル又はトリクロロメチル;又は
・非置換の、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式のC−〜C−アルケニル基、例えばビニル(エテニル)、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチルビニル、3−ブテニル、シス−2−ブテニル、トランス−2−ブテニル、シス−1−ブテニル、トランス−1−ブテニル、ペンテニル又はヘキセニル;
を表す。極めて特に好ましくは酢酸及びプロピオン酸、特に酢酸が使用される。
【0097】
本発明による方法の場合に、好ましくはカルボン酸(VI)
【0098】
【化9】

が使用され、ここで基R
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式又は環式のC−〜C30−アルキル基、例えばエチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル、2−メチル−2−プロピル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、3−メチル−2−ブチル、2−メチル−2−ブチル、ヘキシル、ヘプチル、2−エチル−1−ペンチル、オクチル、2,4,4−トリメチル−1−ペンチル、ノニル、1,1−ジメチル−1−ヘプチル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、フェニルメチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、シクロペンチル、2−カルボキシ−シクロペンチル、シクロペンチルメチル、2−シクロペンチルエチル、3−シクロペンチルプロピル、シクロヘキシル、2−カルボキシ−シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、3−シクロヘキシルプロピル、クロロメチル、ジクロロメチル又はトリクロロメチル;
・非置換又は置換された、非分枝鎖状又は分枝鎖状で、非環式又は環式のC−〜C30−アルケニル基、C−〜C30−アルカジエニル基又はC−〜C30−アルカトリエニル基、例えばビニル(エテニル)、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチルビニル、3−ブテニル、シス−2−ブテニル、トランス−2−ブテニル、シス−1−ブテニル、トランス−1−ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、シス−8−ヘプタデセニル、トランス−8−ヘプタデセニル、シス,シス−8,11−ヘプタデカジエニル、シス,シス,シス−8,11,14−ヘプタデカトリエニル、3−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニル、3−シクロヘキセニル又は2,5−シクロヘキサジエニル;
・非置換又は1つ又はそれ以上のC−〜C−アルキル基で置換されたC−〜C20−アリール−又はC−〜C20−ヘテロアリール−基、例えばフェニル、2−カルボキシ−フェニル、2,4,5−トリカルボキシ−フェニル、2−メチルフェニル(o−トリル)、3−メチルフェニル(m−トリル)、4−メチルフェニル(p−トリル)、2,6−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2−メトキシフェニル、3−メトキシフェニル、4−メトキシフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、2−カルボキシ−1−ナフチル、3−カルボキシ−2−ナフチル、3,6,7−トリカルボキシ−2−ナフチル、8−カルボキシ−1−ナフチル、4,5,8−トリカルボキシ−1−ナフチル、2−カルボキシ−1−アントラセニル、3−カルボキシ−2−アントラセニル、3,6,7−トリカルボキシ−2−アントラセニル、4,9,10−トリカルボキシ−3−ペリレン又は4,3′,4′−トリカルボキシ−3−ベンゾフェノニル;
を表す。
【0099】
特に好ましくはカルボン酸(VI)としてプロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチル−ヘキサン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フタル酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリト酸)、ベンゾフェノン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸又はナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸が使用される。
【0100】
特に好ましくは本発明による方法の場合に無水カルボン酸(VII)としてプロピオン酸無水物、酪酸無水物、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物及び/又はベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリト酸)が製造される。
【0101】
特に好ましくは本発明による方法の場合に、
(i)ギ酸(III);
(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)及び/又はそれらの誘導体として酢酸、酢酸メチルエステル及び/又は無水酢酸;及び
(iii)無水カルボン酸(VII)としてプロピオン酸無水物、酪酸無水物、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物及び/又はベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリト酸)
が製造される。
【0102】
本発明による方法の場合に、工程(a)におけるエステル交換の際にギ酸エステル(I)及びカルボン酸(II)は一般的に1:1の比で使用され、その際に反応混合物中の相対濃度は場合によりそれとは相違していてよい。カルボン酸(II)はその際に出発物質として、工程(c)からの返送流又は双方の混合形として供給される。反応されたギ酸エステル(I)並びに反応されたカルボン酸(II)1mol当たり、反応方程式
【0103】
【化10】

に相応して、導出すべき生成物としてのギ酸(III)1mol並びにカルボン酸エステル(IV)1molが生じる。工程(a)において形成されたカルボン酸エステル(IV)の少なくとも一部は相応する無水カルボン酸(V)へカルボニル化されるので、反応方程式
【0104】
【化11】

に相応して、カルボン酸エステル(IV)1molから無水カルボン酸(V)1molが形成される。工程(b)において形成された無水カルボン酸(V)の少なくとも一部は無水物交換においてカルボン酸(VI)の供給下に使用されるので、反応方程式
【0105】
【化12】

に相応して、無水カルボン酸(V)1mol及びカルボン酸(VI)2molから無水カルボン酸(VII)1mol、カルボン酸(II)1mol及びカルボン酸(IIa)1molが形成され、その際に対称的な無水カルボン酸(V)の使用の場合には相応して、カルボン酸(II)及び(IIa)が同一であるカルボン酸(II)2molが形成される。形成されたカルボン酸(II)は生成物として導出されることができるか、又は工程(a)におけるエステル交換に再び供給されることができる。
【0106】
第1表は、化学量論比の考慮下での好ましい変法の概観を有し、その際に形成されたギ酸(III)は基準パラメーターとして使用された。最後の欄は必要なプロセスブロックを有し、その際に明瞭のために可能な中間生成物を排出するための場合によるブロックの言及が放棄された。
【0107】
実施態様1:ギ酸、無水カルボン酸(VII)及び酢酸の製造
単純化されたプロセスフロー図は図3に示されている。ギ酸メチルエステル(I)及び酢酸(II)は、例示的に撹拌釜として示されている反応器(A)に、管路(0)及び(1)を経て連続的に供給される。反応器(A)として、しかしながらまたこのために適している他の反応装置、例えば前記の工程(a)のもとでさらに記載されたようなものが使用されることができる。反応器(A)中で、使用される触媒の存在でギ酸(III)及び酢酸メチルエステル(IV)へのエステル交換が行われる。ギ酸メチルエステル(I)、酢酸(II)、ギ酸(III)、酢酸メチルエステル(IV)並びに使用される触媒を含有する反応混合物は連続的に反応器(A)から取り出され、かつ管路(2)を経て、塔(B)、(C)及び(D)の形で例示的に示されている蒸留による後処理に供給される。管路(3)を経て、未反応のギ酸メチルエステル(I)及び場合により形成された低沸成分は反応器(A)に返送される。ギ酸(III)は管路(7)を経て取り出される。管路(8)を経て、未反応の酢酸(II)、触媒及び場合により形成された高沸成分は反応器(A)に返送される。必要に応じて流れ(8)の一部が、高沸成分の蓄積を回避するために連続的に又は不連続に排出され、かつ場合によりさらに後処理されることができることは自明である。酢酸メチルエステル(IV)は、管路(5)を経てさらに導通される。一般的に双方の塔(B)及び(C)のために隔壁塔を使用することが有利である。流れ(3)がその際に塔頂流として、流れ(5)が側留として及び流れ(6)が塔底流として導出される。
【0108】
場合による管路(10)を経て、場合により酢酸メチルエステル(IV)の排出が可能である。
【0109】
酢酸メチルエステル(IV)は管路(9)を経て、例示的に撹拌釜として示されている反応器(E)にカルボニル化のために連続的に供給される。反応器(E)として、しかしながらまたこのために適している他の反応装置、例えば前記の工程(b)のもとでさらに記載されたようなものが使用されることができる。反応器(E)中で、使用される触媒の存在で、管路(11)を経ての一酸化炭素の供給下に無水酢酸(V)へのカルボニル化が行われる。未反応の酢酸メチルエステル(IV)、無水酢酸(V)並びに使用される触媒を含有する反応混合物は、連続的に反応器(E)から取り出され、例えばフラッシュ蒸発器(明瞭のために示されていない)中で一般的に触媒不含にされ、かつ管路(12)を経て、塔(F)の形で例示的に示されている蒸留による後処理に供給される。管路(13)を経て、未反応の酢酸メチルエステル(IV)及び場合により形成された低沸成分は反応器(E)に返送される。無水酢酸(V)並びに場合により形成された高沸成分を含有する塔(F)の缶出液は管路(14)を経て取り出され、かつ一般的に別の塔(明瞭のために示されていない)中で無水酢酸(V)及び高沸成分へ分離される。触媒を含有する流れは通例反応器(E)に再び返送される。必要に応じて高沸成分を含有する流れの一部は高沸成分の蓄積を回避するために連続的に又は不連続に排出され、かつ場合によりさらに後処理されることができることは自明である。
【0110】
場合による管路(15)を経て、場合により無水酢酸(V)の排出が可能である。
【0111】
無水酢酸(V)は管路(16)を経て、例示的に塔として示されている反応器(G)に無水物交換のために連続的に供給される。塔(G)中で、使用される触媒の存在で、管路(17)を経てのカルボン酸(VI)の供給下に無水カルボン酸(VII)及び酢酸(II)への無水物交換が行われる。酢酸(II)、未反応の無水酢酸(V)及び場合により形成された低沸成分を含有する塔(G)の留出液は管路(19)を経て取り出され、かつ一般的に別の塔(明瞭のために示されていない)中でさらに分離される。酢酸(II)は生成物として導出され、無水酢酸(V)は一般的に塔(G)に再び返送され、かつ低沸成分は排出される。選択的に、塔(G)の留出液中に場合により含まれている無水酢酸(V)を水で酢酸へ加水分解することももちろん可能である。無水カルボン酸(VII)並びに場合により触媒及び形成された高沸成分を含有する塔(G)の缶出液は管路(18)を経て取り出され、かつ一般的に別の塔(明瞭のために示されていない)中で無水カルボン酸(V)、触媒及び高沸成分へ分離される。触媒を含有する流れは通例塔(G)に再び返送され、かつ無水カルボン酸(V)は生成物として導出される。
【0112】
選択的に、無水物交換のための塔(G)の代わりに反応器、例えば撹拌釜の直列接続及び1つもしくは複数の直列接続された蒸留塔も反応混合物の後処理のために使用されることができる。
【0113】
実施態様2:ギ酸、無水カルボン酸(VII)及び酢酸の製造(酢酸循環路を有する)
単純化されたプロセスフロー図は図4に示されている。反応器(A)に管路(20)を経て供給される酢酸(II)は、大部分、好ましくは完全に、酢酸循環路に由来する。しかしながら必要に応じて管路(1)を経ての付加的な酢酸の添加も可能である。エステル交換、カルボニル化及び無水物交換は、実施態様1に記載されたように実施され、これを明確に参照することができる。
【0114】
無水物交換の際に形成された酢酸(II)を完全に管路(19)を経て生成物として導出する代わりに、この好ましい実施態様において、工程(a)におけるエステル交換に必要な酢酸(II)は管路(20)を経て反応器(A)に再び供給され、このために循環路は閉じる。過剰の酢酸(II)はもちろん管路(19)を経て生成物として取り出されることができる。
【0115】
実施態様3:ギ酸、無水カルボン酸(VII)及び無水酢酸の製造(酢酸循環路を有する)
同様に好ましい実施態様3は本質的には実施態様2に相応するが、しかしながら管路(15)を経て、形成された無水酢酸(V)の一部が生成物として導出され、かつ酢酸循環路を維持するために必要な含分のみが無水物交換にさらに導通されるという差異を有する。故にこの実施態様において無水物交換の際に形成される全酢酸は管路(20)を経てエステル交換に返送される。
【0116】
本発明による方法は、良好に入手可能で経済的に魅力のある原料ベースに基づいて、(i)ギ酸、(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸及び/又はそれらの誘導体、例えばカルボン酸エステル又は無水カルボン酸及び(iii)さらに無水カルボン酸の製造を可能にする。こうして、例えば特に好ましい生成物であるギ酸、酢酸メチルエステル、無水酢酸及び酢酸は、原料として合成ガス、ひいては天然ガスを完全にベースとしている。
【0117】
さらに本発明による方法は、プラントの単純で費用のかからない構成(低い投資コスト)、低いエネルギー消費及び低い運転コストを可能にする。ギ酸及び少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸及び/又はそれらの誘導体の製造の結合により、本発明による方法により運転するプラントは、技術水準による2つの別個のプラントよりも明らかに僅かな設備投資を有する。特に、無水酢酸の製造の際に、本発明による方法によって有毒で製造においてエネルギー集約的なケテンに関しての迂回がなくなる。
【0118】
本発明による方法は同時製造のために望ましくない副生物の形成を回避する。
【0119】
さらに本発明による方法は必要に応じて、含水の化合物よりも明らかに僅かな腐食攻撃性を有する水不含のギ酸及び水不含のカルボン酸の製造も可能にし、それゆえより高い安全性を提供し、かつより費用のかからない建設資材の使用を可能にする。技術水準に比較して単純で経済的に魅力のある、ほぼ水不含のギ酸への経路により、特に高いギ酸−品質が達成される。極めて僅かな残留水含量に基づいてそれゆえこうして製造されたギ酸の輸送及び貯蔵の際の利点も生じる。
【0120】
さらに本発明による方法は少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸及び/又はそれらの誘導体の面で高い範囲のフレキシビリティーを提供する、それというのも排出された化合物の相対量は必要に応じて幅広い範囲で変動しうるからである。カルボニル化段階へのアルコールの付加的な供給により、ギ酸に対するカルボニル化生成物の比は高められることができる。それゆえカルボニル化生成物及びその下流生成物のより多くの製造に関しても高い範囲のフレキシビリティーが存在する。
【0121】
酢酸及びそれらの誘導体の好ましい製造の場合に、本発明による方法は、酢酸メチルエステルのカルボニル化を水の不在で実施し、ひいてはメタノールの工業的に常用のカルボニル化に比較して水性ガスシフト反応の回避により、使用される一酸化炭素のより高い収率を達成するというさらなる利点を提供する。
【0122】
カルボン酸類、特にプロピオン酸、酪酸、アクリル酸及びメタクリル酸のための無水物形成試薬としての特に有利に製造される無水酢酸の使用及び酢酸循環路への形成された酢酸の返送により、基礎となるカルボン酸類からの多種多様な無水カルボン酸類の製造も特に有利である。
【0123】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明による方法を示すブロック図。
【図2】本発明による好ましい方法を示すブロック図。
【図3】ギ酸、無水カルボン酸(VII)及び酢酸の好ましい製造を示す、単純化されたプロセスフロー図(実施態様1)。
【図4】ギ酸、無水カルボン酸(VII)及び酢酸の好ましい製造(酢酸循環路を有する)を示す、単純化されたプロセスフロー図(実施態様2)。
【符号の説明】
【0125】
I ギ酸エステル、 II,IIa カルボン酸、 III ギ酸、 IV カルボン酸エステル、 V 無水カルボン酸、 VI カルボン酸、 VII 無水カルボン酸、 A エステル交換/分離、 B カルボン酸エステルの排出、 C カルボニル化、 D 無水カルボン酸の排出、 E 無水物交換、 F カルボン酸の排出、 G 反応器、 0,1,2,3,5,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ギ酸(III);
(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)及び/又はそれらの誘導体;及び
(iii)無水カルボン酸(VII)、
を共通して製造する方法において、
(a)ギ酸エステル(I)を少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)とエステル交換して、ギ酸(III)及び相応するカルボン酸エステル(IV)に変換し;
(b)工程(a)において形成されたカルボン酸エステル(IV)の少なくとも一部を、相応する無水カルボン酸(V)へカルボニル化し;かつ
(c)工程(b)において形成された無水カルボン酸(V)の少なくとも一部をカルボン酸(VI)と、無水カルボン酸(VII)及びカルボン酸(II)の形成下に無水物交換する
ことを特徴とする、共通の製造方法。
【請求項2】
(d)工程(c)において形成されたカルボン酸(II)の少なくとも一部を工程(a)に返送する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(c)における無水物交換を、酸性又は塩基性のイオン交換体又は酸性又は塩基性の酸化物の存在で実施する、請求項1から2までのいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
工程(c)における無水物交換を、カルボン酸(VI)及びカルボン酸(II)よりも低いpKa値を有する有機又は無機の酸の存在で実施する、請求項1から2までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程(c)における無水物交換を、周期表の第1〜13族からの金属イオンの存在で実施する、請求項1から2までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(c)における無水物交換を連続的に運転される蒸留塔中で実施し、かつ形成された反応生成物であるカルボン酸(II)及び無水カルボン酸(VII)を連続的に導出する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ギ酸エステル(I)としてギ酸メチルエステルを使用する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
カルボン酸(II)として酢酸を使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
無水カルボン酸(VII)としてプロピオン酸無水物、酪酸無水物、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物及び/又はベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸を製造する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
(i)ギ酸(III);
(ii)少なくとも2個の炭素原子を有するカルボン酸(II)及び/又はそれらの誘導体として酢酸、酢酸メチルエステル及び/又は無水酢酸;及び
(iii)無水カルボン酸(VII)としてプロピオン酸無水物、酪酸無水物、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物及び/又はベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸
を製造する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−503886(P2006−503886A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545904(P2004−545904)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011622
【国際公開番号】WO2004/037762
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【Fターム(参考)】