説明

1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体

【課題】 製造容易で安定性や取り扱い性に優れ、モビリティーが優れている、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造式からなる群より選択された、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体である。


(Aは1,3−フェニレンジアミン基、Rは水素原子やアルキル基等、Yは2価アルコール残基、Zは2価のカルボン酸残基、BおよびB'は、基−O−(Y−O)n−Rまたは基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R')

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、電子写真用感光体、有機薄膜トランジスター、有機半導体レーザー等の様々な有機電子デバイスに利用可能な電荷輸送能や発光特性に優れた、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルカルバゾール(PVK)に代表される電荷輸送性ポリマーは、電子写真感光体の光導電材料や、公知の文献(例えば、非特許文献1等参照)などに記載されているように、有機電界発光素子材料として有望な材料である。また、有機薄膜トランジスター、有機半導体レーザー等のような種々の有機電子デバイスへの応用も期待できる。
【0003】
電子写真感光体や有機電界発光素子においては、これらの電荷輸送性ポリマーは層として形成され、電荷輸送材料として使用される。このような電荷輸送材料としては、PVKに代表される電荷輸送性ポリマーや、電荷輸送性の低分子化合物を樹脂中に分散させた低分子分散系電荷輸送材料がよく知られている。また、有機電界発光素子では低分子の電荷輸送材料を蒸着して用いるのが一般的である。
【0004】
このうち低分子分散系電荷輸送材料は、これを構成する材料の選択肢が多様であり、高機能のものが得られやすいことから、特に電子写真感光体で主として用いられている。電子写真感光体に関しては、近年、有機感光体の高性能化に伴い、高速の複写機やプリンターにも使用されるようになってきたが、必ずしも現在の性能では十分ではなく、一層の長寿命化が切望されている。
【0005】
このような有機感光体は感度や耐久性の点から、現在では、最表面に電荷輸送層を設けた積層型のものが主流となっている。この電荷輸送層は低分子分散系電荷輸送材料から構成されており、電気的な特性に関しては十分に満足できる性能のものが得られつつある。しかし、低分子の電荷輸送材料は、マトリックスを構成する樹脂成分との相溶性に劣り、また、低分子の電荷輸送材料が樹脂本来の機械的な強度を低下させてしまう。そのため、有機感光体表面に設けられる電荷輸送層は本質的には機械的な強度が劣り、磨耗に対して弱いという問題点があった。
【0006】
このような問題を解決するために、低分子の電荷輸送材料にアルキレンカルボン酸エステル基を導入することにより、樹脂成分との相溶性を向上させる技術(特許文献1,2参照)が提案されている。しかし、アルキレンカルボン酸エステル基を導入した低分子の電荷輸送材料は、樹脂との相溶性は改善されるものの、アルキレンカルボン酸エステル基自体の分子運動の自由度が高いために結晶化しにくい傾向にある。このため、アルキレンカルボン酸エステル基を導入した低分子の電荷輸送材料は、工業的に生産することが困難であり、且つ、高純度化しにくいため、クロマトグラフィー等の精製手段を必要とする問題があった。さらに、アルキレンカルボン酸エステル基は電子吸引性であるために、電荷の移動度が低下しやすいという問題もあった。
【0007】
一方、有機電界発光素子は、数mA/cm2という高い電流密度で駆動されるために、大量のジュール熱が発生する。有機電界発光素子に用いる電荷輸送材料として、低分子分散系電荷輸送材料を用いた場合には、このように大量に発生した熱により低分子の電荷輸送材料の結晶化等によるモルフォロジー変化が起こりやすく、発光輝度の低下や絶縁破壊が生じるといった現象が見られ、その結果、素子の寿命が低下するという欠点があった。
【0008】
また、従来の高分子材料では、電荷輸送能と発光性とを兼ね備えた材料に乏しく、効率、寿命の観点から問題があった。これに対して、電荷輸送性ポリマーは上記の欠点を大きく改善できる可能性があるため、現在盛んに研究されている。
【0009】
このような電荷輸送性ポリマーとしては、例えば、特定のジヒドロキシアリールアミンとビスクロロホルメートとの重合により合成されたポリカーボネート(特許文献3参照)や、特定のジヒドロキシアリールアミンとホスゲンとの重合により合成されたポリカーボネート(特許文献4参照)、ビスヒドロキシアルキルアリールアミンとビスクロロホルメート或いはホスゲンとの重合により合成されたポリカーボネート(特許文献5参照)、特定のジヒドロキシアリールアミン或いはビスヒドロキシアルキルアリールアミンとビスヒドロキシアルキルアミンとビスクロロホルメートとの重合によるポリカーボネート、或いは、ビスアシルハライドとの重合によるポリエステル(例えば、特許文献6,7参照)が挙げられる。
【0010】
これらに加えて更に、特定のフルオレン骨格を有するアリールアミンのポリカーボネート或いはポリエステル(例えば、特許文献8参照)や、ポリウレタン(例えば、特許文献9参照)、特定のビススチリルビスアリールアミンを主鎖としたポリエステル(例えば、特許文献10参照)、ヒドラゾンや、トリアリールアミン等の電荷輸送性の置換基をペンダントとしたポリマー及び感光体(例えば、特許文献11〜16参照)なども挙げられる。
【0011】
また、有機電界発光素子に応用した例としては、パラフェニレンビニレン(PPV)に代表されるπ共役系ポリマーを用いた有機電界発光素子(例えば、非特許文献2参照)や、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入したポリマーを用いた有機電界発光素子(例えば、非特許文献3参照)等が挙げられる。
【0012】
また、近年、シリコン、化合物半導体に続く第三の半導体技術として、有機半導体技術に大きな注目が寄せられている。この有機半導体技術を利用して作製される有機トランジスターはフレキシビリティを有するため、電子ペーパーやプリント可能な情報タグなどのローエンドモバイル情報端末への利用が可能であり、近年その研究開発が非常に活発になってきている。
【0013】
さらに、通信分野では、一般家庭への低価格大容量の情報伝達を可能にするファイバー・ツー・ザ・ホーム(FTTH)関連の技術が盛んに検討されている。これらの技術の一つとして、多種多様で安価なレーザー光源として有機半導体レーザーへの期待が高まっている。電荷輸送性ポリマーは、このような有機トランジスターや有機半導体レーザーへの応用も期待されている。
【0014】
このような電荷輸送性ポリマーには、その用途に応じて溶解性、成膜性、電荷移動度(モビリティー)、耐久性、酸化電位のマッチング等種々の特性が要求される。そして、これらの要求を満たすために、置換基を導入して物性を制御することが一般的に行われている。電荷輸送性ポリマーの物性は、原料である電荷輸送性モノマーの物性と相関性があるため、モノマーの分子設計が重要になってくる。
【0015】
例えば、先に示したトリアリールアミンポリマーの原料であるモノマーは、(1)ジヒドロキシアリールアミン、および、(2)ビスヒドロキシアルキルアリールアミンの2種に大別できるが、ジヒドロキシアリールアミンはアミノフェノール構造を有しているため酸化されやすく、精製が困難である。特にパラヒドロキシ置換構造にした場合には、一層不安定となる。また、芳香環に直接酸素が置換された構造を有するため、その電子吸引性により電荷分布に偏りを生じやすく、モビリティーが低下しやすいという問題点があった。
【0016】
一方、ビスヒドロキシアルキルアリールアミンは、メチレン基により酸素の電子吸引性の影響はなくなるものの、モノマーの合成が困難である。すなわち、ジアリールアミン或いはジアリールベンジジンと3−ブロモヨードベンゼンとの反応では、臭素とヨウ素の両者に反応性があるため、生成物が混合物となりやすく、収率の低下を招く。また、臭素をリチウム化する際に用いるアルキルリチウムやエチレンオキサイドは、危険性や毒性が高く、取り扱いに注意を要するという問題点があった。
【0017】
また、先に示したパラフェニレンビニレン(PPV)に代表されるπ共役系ポリマーや、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入した電荷輸送性ポリマーを利用した有機電界発光素子においては色調、発光強度、耐久性等に問題あった。
【0018】
以上説明したように、従来の電荷輸送性ポリマーは、合成容易性、材料としての安定性、毒性の有無、モビリティー等電荷輸送材料特有の物性の内、いずれかが満足したレベルまで達していないものが多い。すなわち、製造性、安定性、取り扱い性に加え、電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能(モビリティー、酸化電位のマッチング、量子効率、製膜性、耐久性等)を高いレベルで両立させるまでには至っていない。加えて、有機電界発光素子等の電荷輸送材料を利用する有機電子デバイスなどへの適用に際し、これらの用途に十分に対応できていない場合もあった。
【0019】
従って、優れた特性を有しかつ実用上問題を示さない有機電子デバイス(例えば、有機電界発光素子の場合、より大きな発光輝度を有し、繰り返し使用時での安定性に優れていることが条件である。また、有機トランジスターの場合、応答性に優れた特性を示すには高い電荷輸送能が求められる。)の開発のためには、合成が容易であり、電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能に優れた電荷輸送材料の開発が望まれている。
【特許文献1】特開昭63−113465号公報
【特許文献2】特開平5−80550号公報
【特許文献3】米国特許第4,806,443号明細書
【特許文献4】米国特許第4,806,444号明細書
【特許文献5】米国特許第4,801,517号明細書
【特許文献6】米国特許第4,937,165号明細書
【特許文献7】米国特許第4,959,228号明細書
【特許文献8】米国特許第5,034,296号明細書
【特許文献9】米国特許第4,983,482号明細書
【特許文献10】特公昭59−28903号公報
【特許文献11】特開昭61−20953号公報
【特許文献12】特開平1−134456号公報
【特許文献13】特開平1−134457号公報
【特許文献14】特開平1−134462号公報
【特許文献15】特開平4−133065号公報
【特許文献16】特開平4−133066号公報
【非特許文献1】第37回応用物理学関係連合講演会予稿集31P−G−12(1990)
【非特許文献2】Nature, Vol.357, 477(1992)
【非特許文献3】第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上から、本発明は、上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能、すなわち、モビリティー、酸化電位のマッチング、量子効率、製膜性、耐久性等に加え、製造性や安定性、そして取り扱い性等を高いレベルで両立させることが可能で、有機電界発光素子、電子写真用感光体、電界効果トランジスターおよび半導体レーザー等、種々の有機電子デバイスに利用可能な1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造より選択された新規な1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体が、製造容易で安定性や取り扱い性に優れ、なおかつ、電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能、特にモビリティーが優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造式からなる群より選択された、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体である。
【0023】
【化1】

【0024】
一般式(I−1)および(I−2)中、Aは下記一般式(II)で示される構造を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、BおよびB'は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)n−Rまたは基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R'(ここで、R、Y、Zは上記と同じ意味を有し、R'はアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)を表し、nは1〜5の整数を表し、pは5〜5000の整数を表す。
【0025】
【化2】

【0026】
一般式(II)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の1,3−フェニレン基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の2価の分枝状炭化水素基を表し、kとmはそれぞれ0または1の整数を表す。
【0027】
前記一般式(II)のXで示される部分は、下記構造式(III−1)、(III−2)および(III−3)で示される構造式からなる群より選択された2価の1,3−フェニレン基であることが好ましい。
【0028】
【化3】

【0029】
上記一般式(III−2)および(III−3)中、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能、すなわち、モビリティー、量子効率、製造性、安定性、取り扱い性等を高いレベルで両立させることが容易で、特にモビリティーに優れた特性を示し、種々の有機電子デバイスに利用可能な1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造式からなる群より選択された、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体である。
【0032】
【化4】

【0033】
上記化学式で、1,3−フェニレン基を有するようなジアミン化合物重合体は、種々の有機溶媒に対する溶解性や耐酸化性が良好であることから、製造容易で安定性や取り扱い性に優れる。また、分子内における電子密度の偏りが小さいことから(例えば、写真学会誌Vol.29,No.4,366(1990)参照)、電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能、特に、優れたモビリティーを発揮することができる。
【0034】
一般式(I−1)および(I−2)中、Aは下記一般式(II)で示される構造を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、BおよびB'は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)n−Rまたは基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R'(ここで、R、Y、Zは上記と同じ意味を有し、R'はアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)を表し、nは1〜5の整数を表し、pは5〜5000の整数を表す。
【0035】
以下に、一般式(I−1)および(I−2)式中のAを表わす好ましい構造式(一般式(II))を示す。
【0036】
【化5】

【0037】
一般式(II)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。具体的には、置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の1価の縮合環芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環、又は少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。
【0038】
ここで、一般式(II)中において、Arを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素を構成する芳香環数は特に限定されないが、芳香環数が2〜5のものが好ましく、縮合環芳香族炭化水素においては、全縮合環芳香族炭化水素が好ましい。なお、当該多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素とは、本発明においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
【0039】
すなわち、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、炭素−炭素の単結合によって結合している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
【0040】
また、「縮合環芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、1対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン等が挙げられる。
【0041】
さらに、一般式(II)中において、Arを表す構造の一つとして選択される芳香族複素環は、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。その環骨格を構成する原子数(Nr)は、Nr=5及び/又は6が好ましく用いられる。
【0042】
また、環骨格を構成するC以外の元素(異種元素)の種類及び数は特に限定されないが、例えば、S、N、O等が好ましく用いられ、前記環骨格中には2種類以上及び/又は2個以上の異種原子が含まれていてもよい。特に5員環構造を持つ複素環としては、チオフェン、チオフィン及びフランもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環、ピロールもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環が好ましく用いられ、6員環構造をもつ複素環として、ピリジンが好ましく用いられる。
【0043】
さらに、一般式(II)中において、Arを表す構造のひとつとして選択される芳香族複素環を含む芳香族基は、骨格を構成する原子団中に、少なくとも1種の前記芳香族複素環を含む結合基を表す。これらは、すべてが共役系で構成されたもの、或いは一部が非共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、すべてが共役系で構成されたものが好ましい。
【0044】
Arを表す構造として選択されるベンゼン環、多核芳香族炭化水素、縮合環芳香族炭化水素または複素環の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0045】
アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0046】
また、一般式(II)中、Xは置換もしくは未置換の2価の1,3−フェニレン基を表す。具体的には、下記構造式(III−1)、(III−2)および(III−3)で示される構造式からなる群より選択された2価の1,3−フェニレン基であることが好ましい。
【0047】
【化6】

【0048】
上記一般式(III−1)、(III−2)および(III−3)中、R1、R2、R3はそれぞれ水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、置換アリール基、置換アラルキル基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0049】
また、一般式(II)中、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素または炭素数2〜10の2価の分枝状炭化水素基を表し、kとmはそれぞれ0または1の整数を表す。Tの具体的な構造を以下に示す。
【0050】
【化7】

【0051】
一般式(I−1)または(I−2)式中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、置換アリール基、置換アラルキル基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0052】
また、一般式(I−1)または(I−2)式中、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表す。YおよびZは、具体的には下記の式(1)〜(7)から選択された基が挙げられる。
【0053】
【化8】

【0054】
式(1)〜(7)中、R11およびR12は、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換のアラルキル基、またはハロゲン原子を表し、a、b、cはそれぞれ1〜10の整数を意味し、dおよびeは、それぞれ0、1または2の整数を意味し、fはそれぞれ0または1を意味し、Vは下記の式(8)〜(18)から選択された基を表す。
【0055】
【化9】

【0056】
上記式(8)〜(18)中、gはそれぞれ1〜10の整数を意味し、hは、それぞれ0〜10の整数を意味する。なお、一般式(I−1)および一般式(I−2)中、重合度を表わすpは5〜5,000の範囲であるが、成膜性、安定性等の理由からより好ましくは10〜1,000の範囲である。また、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体の重量平均分子量Mwは5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、10,000〜300,000の範囲にあるのがより好ましい。
【0057】
下記表1〜9に、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体の具体例(例示化合物1〜59)を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
【表8】

【0066】
【表9】

【0067】
上記した表1〜9で、表1〜表7の例示化合物1〜48は、一般式(I−1)の具体例
である。また、表8および9の例示化合物49〜59は、一般式(I−2)の具体例であ
る。
【0068】
次に、本発明の重合体の合成方法について詳記する。なお、本発明は、当該合成方法に特に限定されるものではない、
【0069】
まず、重合体の原料となるモノマーの合成方法については、例えば、アリールアミンと、ハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼンまたはハロゲン化カルボアルコキシベンゼンとを反応させてジアリールアミンを合成し、次いでこのジアリールアミンとビスハロゲン化ベンジジン等とを反応させるか、アリールアミンあるいはジアリールベンジジン等とハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼンまたはハロゲン化カルボアルコキシベンゼンとを反応させる等の合成方法を挙げることができる。
【0070】
アルキレンカルボン酸エステル基を有する電荷輸送材料の合成については、特開平5−80550号公報にクロロメチル基を導入した後、マグネシウムでグリニャール試薬を形成し、二酸化炭素でカルボン酸に変換後、エステル化する方法が記載されている。
【0071】
しかしながら、この方法では、クロロメチル基の反応性が高いため、原料の初期の段階から導入することができない。したがって、トリアリールアミン、或いはテトラアリールベンジジン等の骨格を形成後、例えば、原料の初期の段階で導入しておいたメチル基をクロロメチル化するか、或いは、原料段階では無置換のものを使用し、テトラアリールベンジジン骨格を形成後、芳香環への置換反応によりホルミル基などの官能基を導入した後、還元してアルコールとし、さらに塩化チオニル等のハロゲン化試薬を用いて、クロロメチル基に導くか、或いはパラホルムアルデヒドと塩酸などにより直接クロロメチル化する必要がある。
【0072】
ところが、トリアリールアミン、或いは、テトラアリールベンジジン等の骨格を有する電荷輸送材は非常に反応性が高いため、導入しておいたメチル基をクロロメチル化する方法では、芳香環へのハロゲンの置換反応が起こりやすいため、メチル基のみを選択的にクロル化することは実質的に不可能である。
【0073】
また、原料段階では無置換のものを使用し、ホルミル基などの官能基を導入した後クロロメチル基へと導く方法や、直接クロロメチル化する方法では、クロロメチル基は窒素原子に対し、パラ位にしか導入できず、したがってアルキレンカルボン酸エステル基も窒素原子に対し、パラ位にしか導入できない。また、ホルミル基を導入した後、クロロメチル基に導く方法は、反応ステップが長い。
【0074】
これに対して、アリールアミン或いはジアリールベンジジン等とハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼンとを反応させ、モノマーを得る方法は、置換基の位置を変更し、イオン化ポテンシャル等をコントロールすることが容易であるという点で優れ、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体の物性のコントロールを可能にするものである。本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体の合成に使用するモノマーは、種々の置換基を任意の位置に容易に導入でき、化学的に安定であるため、取り扱いが容易なものであり、前述の問題点は改善される。
【0075】
このように、ジアミン化合物重合体の合成に使用するモノマーは下記一般式(IV)で示される構造として得られ、例えば第4版実験科学講座28巻などに記載された公知の方法で重合することにより重合体を合成することができる。
【0076】
【化10】

【0077】
なお、一般式(IV)中、A'は水酸基、ハロゲン、アルコキシル基[−OR13(ここでR13はアルキル基(例えばメチル基、エチル基等)を表す)]を表し、Ar、X、T、k、mは、前記一般式(II)におけるAr、X、T、k、mと同様である。
【0078】
(1)A'が水酸基の場合:
A'が水酸基の場合には、HO−(Y−O)n−H(Y、nは一般式(I−1)中のY
、nと同様で、以下の(2)および(3)の場合も同様)で示される2価アルコール類をほぼ当量混合し、酸触媒を用いて重合する。酸触媒としては硫酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、通常のエステル化反応に用いるものが使用でき、モノマー1重量部に対して、1/10000〜1/10重量部、好ましくは1/1000〜1/50重量部の範囲で用いられる。合成中に生成する水を除去するために、水と共沸可能な溶剤を用いることが好ましく、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。
【0079】
反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶剤の沸点で反応させることが好ましい。反応終了後、溶剤を用いなかった場合には、溶解可能な溶剤に溶解させる。溶剤を用いた場合には、反応溶液をそのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、ポリマーを析出させ、ポリマーを分離した後、水や有機溶剤で十分洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、ポリマーを析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく攪拌しながら行うことが好ましい。
【0080】
再沈殿処理の際にポリマーを溶解させる溶剤は、ポリマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる、また、貧溶剤はポリマー1重量部に対して、1〜1000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲で用いられる。
【0081】
(2)A'がハロゲンの場合:
A'がハロゲンの場合には、HO−(Y−O)n−Hで示される2価アルコール類をほぼ当量混合し、ピリジンやトリエチルアミン等の有機塩基性触媒を用いて重合する。有機塩基性触媒は、モノマー1重量部に対して、1〜10当量、好ましくは2〜5当量の範囲で用いられる。
【0082】
溶剤としては、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できる。重合後、前述のように再沈殿処理し、精製する。また、ビスフェノール等の酸性度の高い2価のアルコール類を用いる場合には、界面重合法も用いることができる。すなわち、2価のアルコール類に水を加え、当量の塩基を加えて、溶解させた後、激しく攪拌しながら2価のアルコール類と当量のモノマー溶液を加えることによって重合できる。この際、水は2価アルコール類1重量部に対して、1〜1000重量部、好ましくは2〜500重量部の範囲で用いられる。
【0083】
モノマーを溶解させる溶剤としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効である。反応温度は任意に設定でき、反応を促進するために、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の相間移動触媒を用いることが効果的である。相間移動触媒は、モノマー1重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部の範囲で用いられる。
【0084】
(3)A'がアルコキシル基[−OR13(ここでR13はアルキル基(例えばメチル基、エチル基等)を表す)]の場合:
A'がアルコキシル基の場合には、HO−(Y−O)n−Hで示される2価アルコール類を過剰に加え、硫酸、リン酸等の無機酸、チタンアルコキシド、カルシウムおよびコバルト等の酢酸塩或いは炭酸塩、亜鉛の酸化物を触媒に用いて加熱し、エステル交換により合成できる。
【0085】
2価アルコール類はモノマー1当量に対して、2〜100当量、好ましくは3〜50当量の範囲で用いられる。触媒は、モノマー1重量部に対して、1/1000〜1重量部、好ましくは1/100〜1/2重量部の範囲で用いられる。
【0086】
反応は、反応温度200〜300℃で行い、アルコキシル基から基−O−(Y−O)n−Hへのエステル交換終了後は2価アルコールHO−(Y−O)n−H脱離による重合反応を促進するため、減圧下で反応させることが好ましい。また、2価アルコールHO−(Y−O)n−Hと共沸可能な1−クロロナフタレン等の高沸点溶剤を用いて、減圧下で2価アルコールHO−(Y−O)n−Hを共沸で除きながら反応させることもできる。
【0087】
また、一般式(I−1)および(I−2)で示されるポリマーは、次のようにして合成することができる。すなわち、上記それぞれの場合において、2価アルコール類を過剰に加えて反応させることによって下記一般式(V)で示される化合物を生成した後、これをモノマーとして用いて、上記(2)と同様の方法で、2価カルボン酸または2価カルボン酸ハロゲン化物等と反応させればよく、それによってポリマーを得ることができる。
【0088】
【化11】

【0089】
なお、一般式(V)中、Yとnは前記一般式(I−1)および(I−2)におけるYとnと同様で、Ar、X、T、k、mは前記一般式(II)におけるAr、X、T、k、mと同様である。
【0090】
以上に説明したような合成方法を利用して本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を合成した場合、容易に合成することができ、また、高い収率を得ることができる。さらに、本発明の重合体は、上記に説明したような合成方法を利用して、分子構造や分子量を制御して合成することができる。
【0091】
本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体の物性は一概に規定できるものではないが、合成に際しその分子構造や分子量を制御することにより、例えば、モビリティーが10-7〜10-4cm2/Vs程度の範囲内、量子効率が0.1〜0.5程度の範囲内、ガラス転移温度が75〜200℃の範囲内で容易に所望の値に調整することができる。
【0092】
また、有機電子デバイスの作製に際しては、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を溶媒に溶解させて用いたり、樹脂等の他の材料と混合して用いたりすることが必要となる場合があるが、溶媒への溶解性や樹脂との相溶性を考慮して、分子構造や分子量を制御して作製合成することも可能である。それゆえ、有機電子デバイスの作製に際しては、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を必要に応じて他の樹脂材料等と溶媒に溶解させた状態で利用することができ、低コストな液相成膜法を利用することができる。また、分子構造を制御することにより、耐熱性、化学的安定性等を高いレベルで両立させることも容易である。
【0093】
このため、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体を種々の有機電子デバイスに適用する場合に、用途に応じて電荷輸送材料として求められる基本的な諸性能(モビリティー、酸化電位のマッチング、量子効率、製膜性、耐久性等)を最適化することが容易である。また、モビリティーや量子効率は、従来の電荷輸送性材料と比べて高い値まで選択する余地があるため、高性能の有機電子デバイスを作製することが可能となる。更に、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体は、ガラス転移温度が従来の低分子タイプの電荷輸送性材料と比べて高く熱的安定性に優れるため、有機電界発光素子のような耐熱性が要求される用途においても好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0094】
以下、実施例によって本発明を説明する。まず、実施例に用いた原料の電荷輸送性モノマーは、例えば以下のようにして得た。
【0095】
(合成例1)
「N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミン[下記化学式で表される化合物(VI−1)]の合成」
【0096】
N−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]アミン36.5g(0.11mol)、1,3−ジヨードベンゼン16.5g(0.05mol)、炭酸カリウム13.8g(0.1mol)、硫酸銅5水和物1.25g(0.005mol)およびo−ジクロロベンゼン100mlを500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、180℃で20時間加熱攪拌した。反応後、室温まで冷却し、トルエン400mlに溶解させ、不溶物をセライトろ過した。このろ液を濃縮し、トルエンと酢酸エチルの混合溶媒を展開溶媒に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。それにより、N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミンを得た。
【0097】
この化合物の融点は128〜129℃であった。また、この化合物のIRスペクトルを図1に示す。なお、図1に示すIRスペクトルにおいて、横軸は波長、縦軸は透過率であり、以下に示すIRスペクトル(図2〜図8)も同様である。
【0098】
【化12】

【0099】
(合成例2)
「N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−5−メチル−1,3−フェニレンジアミン[下記化学式で表される化合物(VI−2)]の合成」
【0100】
N−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]アミン36.5g(0.11mol)、3,5−ジブロモトルエン12.5g(0.05mol)、炭酸カリウム13.8g(0.1mol)、硫酸銅5水和物1.25g(0.005mol)およびn−トリデカン100mlを500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、230℃で25時間加熱攪拌した。反応後、室温まで冷却し、トルエン400mlに溶解させ、不溶物をセライトろ過した。このろ液を濃縮し、トルエンと酢酸エチルの混合溶媒を展開溶媒に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。それにより、N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−5−メチル−1,3−フェニレンジアミンを得た。この化合物のIRスペクトルを図2に示す。
【0101】
【化13】

【0102】
(合成例3)
「N,N'−ジ(2−フルオレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミン[下記化学式で表される化合物(VI−3)]の合成」
【0103】
N−ジ(2−フルオレニル)−N−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]アミン40.9g(0.11mol)、1,3−ジヨードベンゼン16.5g(0.05mol)、炭酸カリウム13.8g(0.1mol)、硫酸銅5水和物1.25g(0.005mol)およびn−トリデカン100mlを500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、230℃で10時間加熱攪拌した。反応後、室温まで冷却し、トルエン400mlに溶解させ、不溶物をセライトろ過した。このろ液を濃縮し、トルエンを展開溶媒に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。それにより、N,N'−ジ(2−フルオレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミンを得た。この化合物の融点は181〜182℃であった。また、この化合物のIRスペクトルを図3に示す。
【0104】
【化14】

【0105】
(合成例4)
「N,N'−ジ(1−ピレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミン[下記化学式で表される化合物(VI−4)]の合成」
【0106】
N−ジ(1−ピレニル)−N−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]アミン41.7g(0.11mol)、1,3−ジヨードベンゼン16.5g(0.05mol)、炭酸カリウム13.8g(0.1mol)、硫酸銅5水和物1.25g(0.005mol)およびn−トリデカン100mlを500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、230℃で14時間加熱攪拌した。反応後、室温まで冷却し、トルエン400mlに溶解させ、不溶物をセライトろ過した。このろ液を濃縮し、トルエンと酢酸エチルの混合溶媒を展開溶媒に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。それにより、N,N'−ジ(1−ピレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミンを得た。この化合物の融点は110℃であった。また、この化合物のIRスペクトルを図4に示す。
【0107】
【化15】

【0108】
次に、上記方法で得た電荷輸送性モノマーを使用し、以下のようにしてポリマー(1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体)を合成した。
【0109】
(実施例1)「ポリマー[例示化合物(10)]の合成」
N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミン1.0g、エチレングリコール5mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で5時間加熱攪拌した。N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミンが消費されたことを確認した後、50Paに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、4時間反応を続けた。
【0110】
その後、室温まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500ml中に撹拌しながら滴下し、ポリマーを析出させた。このポリマーをろ取して十分にメタノールで洗浄を行い、乾燥後1.0gのポリマー(10)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.2×105(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは約160であった。また、この化合物のIRスペクトルを図5に示す。
【0111】
(実施例2)「ポリマー[例示化合物(23)]の合成」
N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−5−メチル−1,3−フェニレンジアミン1.0g、エチレングリコール5mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で5時間加熱攪拌した。N,N'−ビス[(4−フェニル)フェニル]−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−5−メチル−1,3−フェニレンジアミンが消費されたことを確認した後、50Paに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、4時間反応を続けた。
【0112】
その後、室温まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500ml中に撹拌しながら滴下し、ポリマーを析出させた。このポリマーをろ取して十分にメタノールで洗浄を行い、乾燥後1.0gのポリマー(23)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.2×105(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは約160であった。また、この化合物のIRスペクトルを図6に示す。
【0113】
(実施例3)「ポリマー[例示化合物(16)]の合成」
N,N'−ジ(2−フルオレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミン1.0g、エチレングリコール5mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で5時間加熱攪拌した。N,N'−ジ(2−フルオレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミンが消費されたことを確認した後、50Paに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、4時間反応を続けた。
【0114】
その後、室温まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500ml中に撹拌しながら滴下し、ポリマーを析出させた。このポリマーをろ取して十分にメタノールで洗浄を行い、乾燥後1.0gのポリマー(16)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=8.5×104(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは約105であった。また、この化合物のIRスペクトルを図7に示す。
【0115】
(実施例4)「ポリマー[例示化合物(21)]の合成」
N,N'−ジ(1−ピレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミン1.0g、エチレングリコール5mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で7時間加熱攪拌した。N,N'−ジ(1−ピレニル)−N,N'−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−1,3−フェニレンジアミンが消費されたことを確認した後、50Paに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、4時間反応を続けた。
【0116】
その後、室温まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500ml中に撹拌しながら滴下し、ポリマーを析出させた。このポリマーをろ取して十分にメタノールで洗浄を行い、乾燥後1.0gのポリマー(21)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=3.6×104(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは約45であった。また、この化合物のIRスペクトルを図8に示す。
【0117】
(評価)
以上のような本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体(ポリマー)の移動度(モビリティー)をTime of Flight法により、ガラス転移温度を示差走査熱量測定(DSC)(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、DSC6200)により測定した。結果を表に示す。
【0118】
なお、下記表中に示す比較例1には、従来の有機系の電荷輸送性材料としてMHE−PPV(Poly(2−methoxy−5−(2'−ethylhexyoxy)−1,4−phenylenevinylene、重量平均分子量(Mw)=86,000)の物性値について示した。
【0119】
【表10】

【0120】
上記表の結果から、本発明の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体は、従来の電荷輸送材料と比べていずれも高いモビリティーを有し、またガラス転移温度も100℃以上と高いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】合成例1で得られた化合物のIRスペクトルである。
【図2】合成例2で得られた化合物のIRスペクトルである。
【図3】合成例3で得られた化合物のIRスペクトルである。
【図4】合成例4で得られた化合物のIRスペクトルである。
【図5】〔例示化合物10〕のIRスペクトルである。
【図6】〔例示化合物23〕のIRスペクトルである。
【図7】〔例示化合物16〕のIRスペクトルである。
【図8】〔例示化合物21〕のIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造式からなる群より選択された、1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体。
【化1】

(一般式(I−1)および(I−2)中、Aは下記一般式(II)で示される構造を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Yは2価アルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、BおよびB'は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)n−Rまたは基−O−(Y−O)n−CO−Z−CO−O−R'(ここで、R、Y、Zは上記と同じ意味を有し、R'はアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)を表し、nは1〜5の整数を表し、pは5〜5000の整数を表す。)
【化2】

(一般式(II)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の1,3−フェニレン基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の2価の分枝状炭化水素基を表し、kとmはそれぞれ0または1の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(II)のXで示される部分が、下記構造式(III−1)、(III−2)および(III−3)で示される構造式からなる群より選択された2価の1,3−フェニレン基であることを特徴とする請求項1に記載の1,3−フェニレン基を有するジアミン化合物重合体。
【化3】

(一般式(III−2)および(III−3)中、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−2200(P2007−2200A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187474(P2005−187474)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】