説明

1,3−ブタジエンのヒドロシアン化による3−ペンテンニトリルの製造方法

1,3−ブタジエンのヒドロシアン化による3−ペンテンニトリルの製造方法であって、以下の処理工程:
(b’)水と1−及び2−ブテンと安定剤とを含む1,3−ブタジエンを蒸留装置K4中で蒸留して、塔底生成物として乾燥した1,3−ブタジエンと1−及び2−ブテンと安定剤を含む流体15を得るとともに、塔頂生成物として共沸1,3−ブタジエン/水混合物を含む流体16を得て、流体16を凝縮器W中で凝縮させ、得られる凝縮液(流体17)を相分離装置に移動させ、1,3−ブタジエンからなる上相液(流体18)を蒸留装置K4に還流として再利用し、下相液の水相(流体19)を排出する工程、
(a)反応器R1中で流体15とシアン化水素とを少なくとも1種の触媒上(流体6d)で反応させ、3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、上記の少なくとも1種の触媒、未変換の1,3−ブタジエン、1−及び2−ブテン、さらに場合によっては未変換のシアン化水素の残渣を含む流体1を得る工程、
(b)流体1を蒸留装置K1で蒸留して、流体1から主に1,3−ブタジエンを含む流体2を塔頂生成物として得るとともに、流体2中に除かれなかった流体1から、3−ペンテンニトリルと、上記の少なくとも1種の触媒、2−メチル−3−ブテンニトリル、1−及び2−ブテン、さらに1,3−ブタジエンの残留分を含む流体3を塔底生成物として得る工程、
(c)蒸留装置K2で流体3を蒸留して、塔の抜出孔より3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体5を得るとともに、塔底生成物として、上記少なくとも1種の触媒を含む流体6と、塔頂生成物として流体4とを得る工程、
(d)圧縮機V1内で流体4を圧縮し、1−及び2−ブテンを含むガス状の分岐流体4bを排出し、圧縮流体4aを凝縮器W1に移動させ、この流体とb)からの流体2をともに凝縮させ、この凝縮液を流体9として、一部を蒸留装置K1に還流させ(流体9b)、一部の流体を反応器R1(流体9a)に循環させる工程、
(e)流体5を蒸留的に分離して、3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルとを得る工程、を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン配位子を持つニッケル(0)錯体の存在下で1,3−ブタジエンをシアン化水素でハイドロシアン化して3−ペンテンニトリルを製造する改良方法に関する。この方法では、安定剤を含み、共沸蒸留により乾燥された1,3−ブタジエンが用いられる。
【背景技術】
【0002】
アジポニトリルは、ナイロンの生産のための重要な出発原料であり、1,3−ブタジエンの二重ヒドロシアン化で得られている。第一のヒドロシアン化では、1,3−ブタジエンがハイドロシアン化されて3−ペンテンニトリルとなるが、その際に副生成物として、主として2−メチル−3−ブテンニトリルや、4−ペンテンニトリル、2−ペンテンニトリル、2−メチル−2−ブテンニトリル、C9ニトリル類、メチルグルタロニトリルが発生する。続く第二のヒドロシアン化では、3−ペンテンニトリルがシアン化水素と反応してアジポニトリルを与える。両方のヒドロシアン化が、ニッケル(0)−リン錯体で触媒される。
【0003】
ニッケル触媒によるオレフィンのヒドロシアン化の一般的な総説が、Tolman et al., Adv. Cat. 33, 1−46 (1985)に記載されている。
【0004】
式Ni[P(OR)34のニッケル触媒を用いる1,3−ブタジエンのヒドロシアン化がUS3,496,215に記載されている。このプロセスの欠点は、1,3−ブタジエンや触媒の完全回収のための適当な方法が定められていないことである。
【0005】
1台以上の反応器中でのヒドロシアン化の効率及びこれらの連結方法が、US4,810,815に記載されており、また複数の攪拌槽または一連の攪拌槽での連続運転の可能性が言及されているが、実施例には半回分式の方法のみが記載されており、これから当業界の熟練者がこの方法を連続攪拌槽で行う条件を識別することは難しい。
【0006】
オレフィンのヒドロシアン化中において有機ニトリルから有機リン化合物とその金属錯体を除去する方法が、DE102004004671に記載されている。この除去は、生成物をシクロパラフィンまたはパラフィン炭化水素に接触させて行う。この結果、液体の多相系が生成する。
【0007】
1,3−ブタジエンが重合することもある。このため、安定剤、例えばtertブチルピロカテコール(TBC)が、1,3−ブタジエンに添加される。
【0008】
1,3−ブタジエンのヒドロシアン化に用いられるこのニッケル(0)錯体は、水と反応する。したがって、含水1,3−ブタジエンは、ヒドロシアン化に先立って乾燥させる必要がある。
【0009】
DE−A−10200404684には、微多孔性固体を用いる、水と安定剤とを含む3−ブタジエンの乾燥が開示されている。これは、この固体から水ばかりか少なくとも部分的にその安定剤を吸着する。好適な微多孔性固体は、酸化アルミニウムとモレキュラーシーブである。
【0010】
不均一乾燥剤では、安定剤の吸着の結果、少なくとも一時的に1,3−ブタジエンが不安定化されることとなり、安全上の問題が出てくる。不安定化された1,3−ブタジエンは、例えば15℃未満の温度でしか使用できない。また、もう一つの欠点は、微多孔吸着剤を繰返し再生する必要があることである。
【0011】
また、1,3−ブタジエンとヒドロシアン化触媒流の両方が回収される統合型の3−ペンテンニトリル製造方法では、シアン化水素に対して過剰量で使用される1,3−ブタジエンを効率よく再循環させることが極めて重要である。
【0012】
DE−A−10200404724には、ニッケル(0)触媒の存在下で、微多孔性固体を用いて乾燥された安定化1,3−ブタジエンと青酸とから3−ペンテンニトリルを得る反応が開示されている。3本の蒸留塔により、未変換の1,3−ブタジエンとニッケル(0)触媒の除去及び再利用を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US4,810,815
【特許文献2】DE10 2004 004671
【特許文献3】DE−A−10 2004 04684
【特許文献4】DE−A−10 2004 04724
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Tolman et al., Adv. Cat. 33, 1−46 (1985)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、上記の欠点を克服する、1,3−ブタジエンをハイドロシアン化して3−ペンテンニトリルを製造する方法であって、1,3−ブタジエン回収収率が最大となる統合的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、1,3−ブタジエンのハイドロシアン化により3−ペンテンニトリルの製造方法であって、次の工程(図1):
(b’)水と1−及び2−ブテンと安定剤とを含む1,3−ブタジエンを蒸留装置K4(カラムK4とも言う)中で蒸留して、塔底生成物として乾燥した1,3−ブタジエンと1−及び2−ブテンと安定剤を含む流体15を得るとともに塔頂生成物として共沸1,3−ブタジエン/水混合物を含む流体16を得て、流体16を凝縮器W中で凝縮させ、得られる凝縮液(流体17)を相分離装置に移動させ、1,3−ブタジエンからなる上相液(流体18)をカラムK4に還流として再利用し、下相液の水相(流体19)を排出する工程、
(a)反応器R1中で流体15とシアン化水素とを少なくとも1種の触媒上(流体6d)で反応させ、3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、上記の少なくとも1種の触媒、未変換の1,3−ブタジエン、1−及び2−ブテン、さらに場合によっては未変換のシアン化水素の残渣を含む流体1を得る工程、
(b)流体1を蒸留装置K1(カラムK1とも言う)で蒸留して、流体1から主に1,3−ブタジエンを含む流体2を塔頂生成物として得るとともに、流体2中に除かれなかった流体1から、3−ペンテンニトリルと、上記の少なくとも1種の触媒、2−メチル−3−ブテンニトリル、1−及び2−ブテン、さらに1,3−ブタジエンの残留分を含む流体3を塔底生成物として得る工程、
(c)蒸留装置K2で流体3を蒸留して、塔の抜出孔より3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体5を得るとともに、塔底生成物として、上記少なくとも1種の触媒を含む流体6と、塔頂生成物として流体4とを得る工程、
(d)圧縮機V1内で流体4を圧縮し、1−及び2−ブテンを含むガス状の分岐流体4bを排出し、圧縮流体4aを凝縮器W1に移動させ、この流体とb)からの流体2をともに凝縮させ、この凝縮液を流体9として、一部をカラムK1に還流させ(流体9b)、一部の流体を反応器R1(流体9a)に循環させる工程、
(e)流体5を蒸留的に分離して、3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルとを得る工程、
を含む方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る製造方法の代表的な一例を説明するためのフロー図である。
【図2】本発明に係る製造方法の別の例を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ある好ましい実施様態においては、工程c)で得られた流体6が、リサイクル流体6bと排出流体6aに分けられる。特に好ましい実施様態においては、新鮮な触媒と、適当なら流体6aから再生された触媒を含む流体6とcを、流体6bに添加する。このようにして得られた流体6は、処理工程a)で触媒供給液として使用される。
【0019】
上述の流体1からの1,3−ブタジエンの大部分で流体2とともに除かれる留分とは、流体1中に存在する1,3−ブタジエンの好ましくは50%を超える、より好ましくは60%を超える、特に70%を超える留分である。したがって残存する流体1からの1,3−ブタジエンは、流体3を経由して処理工程(c)に送られる。
【0020】
処理工程(b’)は、1−および2−ブテンと安定剤とを含む1,3−ブタジエンを脱水させる役割を持つ。この脱水は、ブタジエンと水とが、凝縮するとブタジエンの多い相と水の多い相に分離する異相共沸混合物を形成するという事実に基づいている。これら二相は、それぞれ他の成分を極わずかに含んでいるのみである。
【0021】
用いる安定剤は、例えばtert−ブチルピロカテコール(TBC)または2,6−ジ−tert−ブチル−パラクレゾールがあげられる(ウルマン工業薬品辞典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)、第6版、2000、電子版、「ブタジエンの安定化と貯蔵と輸送」の章)。本文書においてはいずれの場合も、この安定剤を、簡単にTBCまたは安定剤と呼ぶこととする。
【0022】
1,3−ブタジエンは脱水のために蒸留装置K4に送られる。この蒸留装置において蒸留を行い、塔頂生成物としてブタジエン/水共沸混合物を含む流体16を、塔底生成物として、脱水された1,3−ブタジエンと、1−および2−ブテン、安定剤を含む流体15を得る。
【0023】
本発明の方法の処理工程(b’)は、当業界の熟練者には公知のいずれかの適当な装置中で行なうことができる。蒸留に適当な装置としては、例えば、Kirk−Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 4th Ed., Vol. 8, John Wiley & Sons, New York, 1996, 334−348頁に記載のようなものが、具体的には、多孔板トレーカラムや、泡鐘トレーカラム、構造充填物カラム、ランダム充填物カラムの他に、流下液膜式蒸発器、薄膜蒸発機、フラッシュ蒸発器、多相らせんチューブ蒸発器、自然循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器などの単一段蒸発器があげられる。蒸留は、複数の装置、例えば二三台の装置で行ってもよく、好ましくは単一の装置で行う。
【0024】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、蒸留装置中には、構造充填物の塔内材料が収められて、2〜60の理論段を、より好ましくは3〜40、特に4〜20の理論段を形成している。
【0025】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態においては、塔頂流出物の一部が凝縮器内部にフラッシュされるように、蒸留装置頂部の凝縮が行われる。
【0026】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態において、この蒸留をダイレクト凝縮器で行い、凝縮が、構造カラム充填物と、この充填物の下部に捕集用カップと、捕集用カップからの液抜出口と、ポンプを用いるポンプ循環システムと、液体抜出口に連結された熱交換器と捕集用カップの上の充填物を液体が循環するように供給する少なくとも1種の装置を備えた塔の一区画で行われる。
【0027】
蒸留は、0.001〜100barの圧力、好ましくは0.01〜10bar、特に0.5〜5barの圧力で実施される。
【0028】
処理工程(b’)においては、カラムK4から得られる塔頂生成物が、ブタジエンと水を含む流体16である。この流体16は、その特定の蒸留圧力における1,3−ブタジエンと水の平衡組成物である。
【0029】
流体16は、凝縮器Wで凝縮させられる。凝縮液(流体17)中の存在する1,3−ブタジエンを安定化するために、安定剤をこの凝縮器(流体20)に供給してもよい。安定剤の量を低く抑えるために、15℃未満の温度で凝縮させることが好ましい。
【0030】
凝縮器Wからの凝縮液は、相分離装置に送られる。ここで、液状有機相が液状水相から分離される。この有機相(流体18)は、カラムK4の頂部に還流として戻る。水相(流体19)はこの系から排出される。水相中に存在する少量の1,3−ブタジエンは、例えばストリッピングや加熱により取り出して凝縮器に循環させる。
【0031】
カラムK4から得られた塔底生成物は、乾燥した1,3−ブタジエンと、1−および2−ブテン、安定剤を含む流体15である。この流体の水の残存量は、全流体に対して好ましくは<1000重量ppm、好ましくは<100重量ppmで、より好ましくは< 50重量ppmである。
【0032】
処理工程(a)は、少なくとも1種の安定剤の存在下で少なくとも1種の触媒(流体6d)上における、共沸蒸留で乾燥させた1,3−ブタジエン(流体15)と無水シアン化水素との反応を含んでいる。用いる触媒は、均一に溶解したニッケル錯体である。この「触媒」は、ニッケル(0)錯体とリン配位子の混合物を意味するものとする。
【0033】
リン配位子をもつNi(0)錯体は、好ましくは均一に溶解したニッケル(0)錯体である。
【0034】
このニッケル(0)錯体のリン配位子および遊離のリン配位子は、好ましくは一座または二座のホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイトから選ばれる。
【0035】
これらのリン配位子は、好ましくは式Iで表される。
【0036】
【化1】

【0037】
本発明において、化合物Iは、上記の式の単一化合物であるか、上記の式の化合物の混合物である。
【0038】
本発明によれば、X1とX2とX3は、それぞれ独立して酸素または単結合である。X1とX2とX3のすべてが単結合の場合、化合物Iは、式P(R123)のホスフィンであり、R1とR2とR3は、この明細書の定義どおりである。
【0039】
1基とX2基とX3基のうち二つが単結合で一つが酸素の場合、化合物Iは、式P(OR1)(R2)(R3)またはP(R1)(OR2)(R3)またはP(R1)(R2)(OR3)のホスフィナイトであり、R1とR2とR3は、この明細書の定義どおりである。
【0040】
1基とX2基とX3基のうち一つが単結合で二つが酸素の場合、化合物Iは式P(OR1)(OR2)(R3)またはP(R1)(OR2)(OR3)またはP(OR1)(R2)(OR3)で表されるホスホナイトであり、R1とR2とR3は、この明細書の定義どおりである。
【0041】
ある好ましい実施様態においては、すべてのX1基、X2基、X3基が酸素であり、化合物Iが、好ましくは、式P(OR1)(OR2)(OR3)で表されるホスファイトであり、R1とR2とR3は、この明細書の定義どおりである。
【0042】
本発明によれば、R1とR2とR3は、それぞれ独立して、同一であるか異なる有機基である。R1とR2とR3は、それぞれ独立してメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルなどの好ましくは炭素原子数が1〜10であるアルキル基、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、1−ナフチル、2−ナフチルなどのアリール基、または1,1’−ビフェノール、1,1’−ビナフトールなどの好ましくは炭素原子数が1〜20であるハイドロカルビル基である。R1基とR2基とR3基は、相互に直接結合していても、即ち中心リン原子経由のみでなくてもよい。R1基とR2基とR3基は、相互に直接結合していないことが好ましい。
【0043】
ある好ましい実施様態においては、R1基とR2基とR3基は、フェニル、o−トリル、m−トリル、及びp−トリルからなる群から選ばれる基である。特に好ましい実施様態においては、R1基とR2基とR3基のうち多くても二つがフェニル基である。
【0044】
もう一つの好ましい実施様態においては、R1基とR2基とR3基のうち多くても二つがo−トリル基である。
【0045】
特に使用が好ましい化合物類Iは、式Iaで表されるものである;
【0046】
【化2】

【0047】
但し、w、x、y、zは、それぞれ自然数であり、w+x+y+z=3であり、z<2である。
【0048】
化合物類Iaの例としては、(p−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(m−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(o−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(p−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニルl−O−)P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(p−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)3P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)2(m−トリル−O−)P、およびこれらの化合物の混合物があげられる。
【0049】
例えば、(m−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、及び(p−トリル−O−)3Pからなる混合物を、原油を蒸留精製して得たm−クレゾールとp−クレゾールの混合物、特にモル比が2:1である混合物を、三塩化リンなどの三ハロゲン化リンと反応させて得てもよい。
【0050】
もう一つの同様に好ましい実施様態においては、これらのリン配位子が、DE−A19953058に詳細に記載のように、式Ib:ホスファイトである。
【0051】
【化3】

【0052】
式中、
1は、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo−位にC1〜C18−アルキル置換基を有する、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo−位に芳香族の置換基を有する、またはリン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo−位に縮合芳香族環を有する芳香族基であり、
2は、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のm−位にC1〜C18−アルキル置換基を有する、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のm−位に芳香族の置換基を有する、またはリン原子と結合する芳香族環の酸素原子のm−位に縮合芳香族環を有する芳香族基であって、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo−位には水素原子を有しているものであり、
3は、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のp−位にC1〜C18−アルキル置換基を有する、またはリン原子と結合する芳香族環の酸素原子のp−位に芳香族置換基を有する芳香族基であって、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo−位に水素原子を有しているものであり、
4は、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo、m、及びp位にR1、R2、及びR3に定義したもの以外の置換基を有する芳香族基であって、リン原子と結合する芳香族環の酸素原子のo−位に水素原子を有しているものであり、
xは1または2であり、
yとzとpは、それぞれ独立して0、1または2、ただし、x+y+z+p=3である。
【0053】
式Ibで表される好ましいホスファイトは、DE−A19953058に記載されている。R1基は、好ましくは、トリル、o−エチルフェニル、o−n−プロピルフェニル、o−イソプロピルフェニル、o−n−ブチルフェニル、o−sec−ブチルフェニル、o−tert−ブチルフェニル、(o−フェニル)フェニル、または1−ナフチル基である。
【0054】
好ましいR2基としては、m−トリル、m−エチルフェニル、m−n−プロピルフェニル、m−イソプロピルフェニル、m−n−ブチルフェニル、m−sec−ブチルフェニル、m−tert−ブチルフェニル、(m−フェニル)フェニルまたは2−ナフチル基があげられる。
【0055】
好ましいR3基としては、トリル、p−エチルフェニル、p−n−プロピルフェニル、p−イソプロピルフェニル、p−n−ブチルフェニル、p−sec−ブチルフェニル、p−tert−ブチルフェニル、または(p−フェニル)フェニル基があげられる。
【0056】
4基は、好ましくはフェニルであり、pは好ましくは0である。化合物Ibの添字x、y、z、pについては、次の可能性がある。
【0057】
【表1】

【0058】
好ましい式Iのホスファイトは、が0で、R1とR2とR3が、それぞれ独立してo−イソプロピルフェニル、m−トリル、およびp−トリルから選ばれ、R4がフェニルであるものである。
【0059】
特に好ましい式Ibのホスファイトは、R1がo−イソプロピルフェニル基であり、R2がm−トリル基で、R3がp−トリル基であり、添字が表に記載のもの;R1がo−トリル基であり、R2がm−トリル基で、R3がp−トリル基であり、添字が表に記載のもの;R1が1−ナフチル基であり、R2がm−トリル基で、R3がp−トリル基であり、添字が表に記載のもの;R1がo−トリル基であり、R2が2−ナフチル基、R3がp−トリル基であり、添字が表に記載のもの;さらにR1がo−イソプロピルフェニル基であり、R2が2−ナフチル基、R3がp−トリル基であり、添え字が表に記載のもの;およびこれらのホスファイトの混合物である。
【0060】
式Ibのホスファイトは、
a)三ハロゲン化リンを、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OHからなる群から選ばれるアルコールまたはこれらの混合物と反応させて、ジハロリンモノエステルを得て、
b)このジハロリンモノエステルをR1OH、R2OH、R3OH、及びR4OHからなる群から選ばれるアルコールまたはこれらの混合物と反応させて、モノハロリンジエステルを得て、
c)このモノハロリンジエステルを、R1OH、R2OH、R3OH、およびR4OHからなる群から選ばれるアルコールまたはこれらの混合物と反応させて得られる。
この反応は、別々の三工程で行ってもよい。同様に、三工程のうちの二つを、即ちa)とb)またはb)とc)を、同時に行ってもよい。また、すべての工程a)、b)、c)を、一緒に行ってもよい。
【0061】
1OH、R2OH、R3OH、およびR4OHからなる群から選ばれるアルコールまたはこれらの混合物の好適な種類や量は、数回の簡単な予備試験で容易に決定することができる。
【0062】
好適な三ハロゲン化リンは、原則的には、すべての三ハロゲン化リンであり、好ましくはハライドがCl、Br、Iであるもの、特に塩化物であるか、これらの混合物である。また、同種または異種のハロゲンで置換されたホスフィンの混合物を、この三ハロゲン化リンとして用いることもできる。PCl3が特に好ましい。ホスファイトIbの生産における反応条件や後処理が、DE−A19953058にさらに詳細に述べられている。
【0063】
これらのホスファイトIbは、異なるホスファイトIbの混合物として配位子に用いることもできる。このような混合物が、例えばこれらのホスファイトIbの製造の際に得られる。
【0064】
しかしながら、多座のリン配位子、特に二座のリン配位子が好ましい。したがって、用いる配位子は、好ましくは式IIで表される。
【0065】
【化4】

【0066】
式中、
11と、X12、X13、X21、X22、X23は、それぞれ独立して酸素または単結合であり、
11とR12は、それぞれ独立して同一であっても異なっていてもよく、別個のあるいは架橋した有機基であり、
21とR22は、それぞれ独立して同一であっても異なっていてもよく、別個のあるいは架橋した有機基であり、
Yは架橋基である。
本発明において、化合物IIは、上記の式で表わされる単一化合物または異なる化合物の混合物である。
【0067】
ある好ましい実施様態においては、X11と、X12、X13、X21、X22、X23が、それぞれ酸素である。このような場合には、架橋基Yは、ホスファイト基に結合している。
【0068】
もう一つの好ましい実施様態においては、X11とX12がそれぞれ酸素でX13が単結合、またはX11とX13がそれぞれ酸素でX12が単結合であり、X11とX12とX13で囲まれるリン原子が、ホスホナイトの中心原子である。このような場合には、X21とX22とX23がそれぞれ酸素であり、あるいはX21とX22がそれぞれ酸素でX23が単結合、またはX21とX23がそれぞれ酸素でX22が単結合、またはX23が酸素でX21とX22がそれぞれ単結合、またはX21が酸素でX22とX23がそれぞれ単結合、またはX21とX22とX23がそれぞれ単結合であってもよく、X21とX22とX23で囲まれるリン原子が、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイトまたはホスフィンの中心原子、好ましくはホスホナイトの中心原子となっている。
【0069】
もう一つの好ましい実施様態においては、X13が酸素でX11とX12がそれぞれ単結合であり、あるいはX11が酸素でX12とX13がそれぞれ単結合であってもよく、その場合、X11とX12とX13で囲まれるリン原子がホスホナイトの中心原子となる。このような場合には、X21とX22とX23がそれぞれ酸素であってもよく、あるいはX23が酸素でX21とX22がそれぞれ単結合、またはX21が酸素でX22とX23がそれぞれ単結合、またはX21とX22とX23がそれぞれ単結合であってもよく、その場合、X21とX22とX23で囲まれるリン原子が、ホスファイト、ホスフィナイトまたはホスフィンの中心原子、好ましくはホスフィナイトの中心元素となる。
【0070】
もう一つの好ましい実施様態においては、X11とX12とX13がそれぞれ単結合であり、X11とX12とX13で囲まれるリン原子ホスフィンが中心原子となっていてもよい。このような場合には、X21とX22とX23がそれぞれ酸素であり、またはX21とX22とX23がそれぞれ単結合であり、X21とX22とX23で囲まれるリン原子がホスファイトまたはホスフィンの中心原子、好ましくはホスフィンの中心元素となっていてもよい。
架橋基Yは、好ましくは無置換のアリール基、または例えばC1〜C4−アルキルで、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン、トリフルオロメチルハロゲン化アルキル、フェニルなどのアリールで置換されたアリール基であり、好ましくは、炭素原子数が6〜20である芳香族環基、特にピロカテコール、ビス(フェノール)またはビス(ナフトール)の基である。
【0071】
11基とR12基は、それぞれ独立して、同一または異なる有機基である。R11基とR12基はアリール基であることが有利であり、好ましくは炭素原子数が6〜10であるアリール基で、無置換のものまたは特にC1〜C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン、トリフルオロメチルなどのハロゲン化アルキル、フェニルなどのアリール基で一個以上置換されたものである。
【0072】
21基とR22基は、それぞれ独立して同一または異なる有機基である。R21基とR22基は、アリール基であることが有利であり、好ましくは炭素原子数が6〜10であるアリール基で、無置換のものまたは特にC1〜C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン、トリフルオロメチルなどのハロゲン化アルキル、フェニルなどのアリール基で一個以上置換されたものである。
【0073】
11基とR12基は、それぞれ別個であるか架橋している。R21基とR22基も、それぞれ別個であるか架橋している。R11基と、R12、R21、R22基は、上述のように、それぞれ別個でもよく、二つが架橋し二つが別個でもよく、またすべて四個が架橋していてもよい。
【0074】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,723,641に規定される式I、II、III、IV、Vの化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物が、US5,512,696に規定される式I、II、III、IV、V、VI、VIIの化合物であり、特にその実施例1〜31で用いられる化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,821,378に規定される式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、及びXVの化合物であり、特にその実施例1〜73で用いられる化合物である。
【0075】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,512,695に規定される式I、II、III、IV、V、VIの化合物であり、特にその実施例1〜6で用いられる化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,981,772に規定される式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIVの化合物であり、特にその実施例1〜66で用いられる化合物である。
【0076】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US6,127,567に規定された化合物であり、特にその実施例1〜29で用いられる化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US6,020,516に規定される式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、Xの化合物であり、特にその実施例1〜33で用いられる化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,959,135に規定されるものであり、特にその実施例1〜13で用いられる化合物である。
【0077】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,847,191に規定される式I、II、IIIの化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、US5,523,453に規定される化合物であり、特に式1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21で表される化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、WO01/14392に規定される化合物であり、好ましくは式V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XXI、XXII、XXIIIで表される化合物である。
【0078】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、WO98/27054に規定される化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、WO99/13983に規定される化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、WO99/64155に規定される化合物である。
【0079】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10038037に規定される化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10046025に規定される化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10150285に規定される化合物である。
【0080】
特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10150286に規定される化合物である。特に好ましい実施様態においては、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10207165に規定される化合物である。極めて好ましい本発明の実施様態においては、有用なリンキレート配位子は、US2003/0100442A1に規定される化合物である。
【0081】
さらに特に好ましい本発明の実施様態においては、有用なリンキレート配位子は、ドイツ特許出願DE10350999に規定される化合物である。なお、この出願特許は、より早い優先日を持つが、本出願の優先日の工程では公開されていなかったものである。
【0082】
上記の化合物I、Ia、Ib、II、およびその製造は公知である。用いるリン配位子も、少なくとも二種の化合物I、Ia、Ib、IIを含む混合物であってよい。
【0083】
本発明の特に好ましい実施様態においては、上記のニッケル(0)錯体のリン配位子及び/又は遊離のリン配位子は、トリトリルホスファイト、2座リンキレート配位子、及び式Ibのホスファイトまたはこれらの混合物から選ばれる。
【0084】
【化5】

【0085】
式中、R1とR2とR3は、それぞれ独立してイソプロピルフェニル、m−トリル、p−トリリから選ばれ、R4はフェニルであり;xは1または2であり;yとzとpは、それぞれ独立して1または2である(ただしx+y+z+p=3)。
【0086】
本発明の方法の処理工程(a)は、当業界の熟練者には公知のいずれかの適当な装置を用いて実施できる。したがって、反応に有用な装置は、通常の装置であり、その例としては、例えば、Kirk−Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 4th Ed., Vol. 20, John Wiley & Sons, New York, 1996, 1040〜1055頁に記載のような、攪拌槽反応器、ループ反応器、ガス循環反応器、泡カラム反応器または管状反応器があげられ、いずれの装置も、必要なら反応熱除去用の装置を備えている。複数の装置、例えば2台または3台の装置を用いて反応を行うことができる。
【0087】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、1台以上の逆混合性反応器が有用であった。特に有利な反応器は、ループ反応器であった(DE102004004673参照)。
【0088】
このヒドロシアン化は、溶媒の存在下で行っても、溶媒の非存在下で行ってもよい。溶媒を用いる場合、この溶媒は、その反応温度と反応圧力で液体であり、用いる不飽和化合物と少なくとも1種の触媒に対して不活性でなければならない。一般に、用いる溶媒は炭化水素類であり、例えばベンゼンまたはキシレン、または、アセトニトリルやベンゾニトリル、またはペンテンニトリル(2−、3−、および4−ペンテンニトリ)などのニトリルである。
【0089】
反応は、回分的に行ってもよいし、連続的に、あるいは半回分的に行ってもよい。
【0090】
一回以上の攪拌処理工程で連続的にヒドロシアン化を行うことが好ましい。処理を多段で行う場合、これらの処理工程を連続的に行うことが好ましい。この場合、生成物はある処理工程から次の処理工程に直接送られる。シアン化水素を直接、第一の処理工程に供給してもよいし、個々のヒドロシアン化反応(a)処理工程の間に供給してもよい。
【0091】
反応の絶対圧力は、好ましくは0.1〜100MPaで、より好ましくは0.5〜50MPa、特に1〜5MPaである。反応温度は、好ましくは273〜473Kであり、好ましくは313〜423K、特に333〜393Kである。反応器液相の平均滞留時間は、それぞれの反応器において、0.001〜100時間であり、好ましく0.05〜20時間、より好ましくは0.1〜5時間である。
【0092】
ある実施様態においては、気相の存在下で、また適当なら固体懸濁相の存在下で、反応を液相で行うことができる。出発原料のシアン化水素と1,3−ブタジエンは、いずれも液状またはガス状で投入する。
【0093】
他の実施様態においては、この反応を液相で行い、すべての供給原料、1,3−ブタジエンとシアン化水素と少なくとも1種の触媒、が液状であり、反応混合物中で液相で存在するように反応器内の圧力を維持することができる。固体懸濁相が反応混合物に存在していてもよく、その場合、これを、少なくとも1種の触媒、例えば特にニッケル(ll)化合物を含む触媒系の分解生成物からなるものとともに投入してもよい。
【0094】
処理工程(a)では、3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、少なくとも1種の触媒、安定剤と未変換の1,3−ブタジエン、1−および2−ブテン、及び未変換のシアン化水素の残留物を含む流体1が得られる。この流体1は、好ましくは、次の組成をもっている。総重量に対して、1〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%の少なくとも1種の触媒、0.1〜50重量%、より好ましくは1〜25重量%の1,3−ブタジエン、1〜80重量%、より好ましくは10〜50重量%のトランス3−ペンテンニトリルや2−メチル−3−ブテンニトリル、他のペンテンニトリル異性体などのペンテンニトリル類、および0.1重量ppm〜10重量%、より好ましくは1重量ppm〜1重量%のシアン化水素。
【0095】
3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、少なくとも1種の触媒、安定剤と未変換の1,3−ブタジエン、1−および2−ブテンとを含む流体1は、次いで処理工程(b)で蒸留装置K1に移送される。この蒸留装置内で、流体1は蒸留されて、1,3−ブタジエンと1−および2−ブテンを多く含む流体2を塔頂生成物として、また1,3−ブタジエンが少なく、3−ペンテンニトリルと少なくとも1種の触媒、安定剤と2−メチル−3−ブテンニトリルとを含む流体3を塔底生成物として与える。
【0096】
本発明の方法の処理工程(b)は、当業界の熟練者には公知のいずれかの適当な装置内で実施される。蒸留に適当な装置としては、例えば、Kirk−Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 4th Ed., Vol. 8, John Wiley & Sons, New York, 1996, 334−348頁に記載のようなものが、具体的には、多孔板トレーカラムや、泡鐘トレーカラム、構造性充填材カラム、ランダム充填材カラムの他に、流下液膜式蒸発器、薄膜蒸発機、フラッシュ蒸発器、多相らせんチューブ蒸発器、自然循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器などの単一段蒸発器があげられる。蒸留は、複数の、例えば二台または三台の装置で行ってもよいが、好ましくは単一の装置で行う。
【0097】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、蒸留装置の中には、構造充填物が収められて、2〜60の理論段を、より好ましくは3〜40、特に4〜20の理論段を形成している。
【0098】
本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、処理工程(b)の蒸留装置に属す少なくとも一段の蒸発器は、例えば流下液膜式蒸発器、多相らせんチューブ蒸発器、薄膜蒸発機または短経路蒸発器のように、蒸発器表面上での材料の接触時間が短く、蒸発器表面が最小の温度となるようにして、気化される材料の熱分解が最小レベルとなるように設計されている。
【0099】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、この処理工程(b)の蒸留装置は、分割された塔底を用いて、流体3と較べて通常数倍量となる流体を、その蒸留塔の第一の塔底から蒸発器に循環させながら実施されるが、蒸発器からの液体流出物流体は、直接第一の塔底にもどさず、第一の塔底から分離された第二の塔底に捕集し、流体3は第二の塔底から得られ、蒸発器循環流体からの過剰の残留分は、第一の塔底にオーバーフローさせる。このようにして、第一の塔底から抜き出される蒸発器循環流体と較べて低沸点物が除かれた混合物が、流体3として第二の塔底から得られる。用いる蒸発器は、好ましくは流下液膜式蒸発器である。
【0100】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態においては、上記の処理工程(b)の一個以上の蒸留装置の底部における液相の平均滞留時間の総計が、10時間未満、より好ましくは5時間未満、特に1時間未満となるように蒸留が行われる。
【0101】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態においては、蒸留装置の塔頂での凝縮は塔頂流出物からの一部が凝縮器にフラッシュされるように実施される。
【0102】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態において、この蒸留をダイレクト凝縮器で行い、凝縮が、構造カラム充填物と、この充填物の下部に捕集用カップと、捕集用カップからの液抜出口と、ポンプを用いるポンプ循環システムと、液体抜出口に連結された熱交換器と捕集用カップの上の充填物を液体が循環するように供給する少なくとも1種の装置を備えた塔の一区画で行われる。
【0103】
処理工程(b)で用いる蒸留装置K1は、ストリッピング部を持つ蒸留塔で行われ、その蒸留塔の理論段数は、好ましくは2〜60、より好ましくは3〜40、特に4〜20である。
【0104】
工程(a)における部分反応に関わらず1,3−ブタジエン当たりの最大の処理収率を達成するためには、1,3−ブタジエンの多い流体2を処理工程(a)に循環させることが好ましい。しかしながら、この循環は反応器R1に直接行わない。また、流体2のすべてを処理工程(a)に循環するのではない。
【0105】
処理工程(d)では、流体2は、まず凝縮器W1で凝縮し、好ましくは工程d)からの流体4aとともに凝縮する。この凝縮器から、液体流体9が排出される。その、ほとんどすべてが1,3−ブタジエンであり、一部はカラムK1(流体9b)へ還流され、一部は反応器R1(流体9a)に送られる。本発明の方法による1,3−ブタジエンの循環では、再循環の効率によって1−および2−ブテンが蓄積する。より完全に1,3−ブタジエンが循環されると、蓄積がより早くなる。
【0106】
流体2は、好ましくは、トランス−2−ブテンとシス−2−ブテンと1−ブテンの総量として、50重量%未満の量で、より好ましくは25重量%未満、特に15重量%未満で含み、好ましくは1重量%より多く、より好ましくは2.5重量%より、特に5重量%より多く含むようにして得られる。残りは、実質的に1,3−ブタジエンである。
【0107】
ブテン異性体の蓄積を目標値以下に抑える手段の一つは、凝縮器W1からガスの一部を流体13として排出することである。この結果、1,3−ブタジエンの損失が起こりうる。これは、一つには循環流体2中のシス−2−ブテン含量が過剰に高くなってはいけないこと、またこの排出が不可避的に常に1,3−ブタジエンを排出することとなるためである。流体13は、好ましくはガス状で抜き出される。
【0108】
本発明によれば、ブタジエン循環流からブテン異性体を除くもう一つの手段は、流体1を供給しながら流体3中のシス−2−ブテンを1,3−ブタジエンに較べて濃縮させる有効な分離段ができるように、蒸留装置K1を運転することである。先にある好ましい実施様態において述べたように、流体2から排出する代わりに、処理工程(d)において流体3(図1)から得られた流体4bの形で、排出を行ってもよい。
【0109】
この排出は、好ましくはガス状で行われる。
【0110】
処理工程(b)の絶対圧力は、好ましくは0.001〜100barであり、より好ましくは0.01〜10bar、特に0.5〜5barである。この蒸留は、蒸留装置の塔底の温度が、好ましくは30〜140℃、より好ましくは50〜130℃、特に60〜120℃となるように行われる。この蒸留は、蒸留装置の塔頂の凝縮温度が、好ましくは−50〜140℃、より好ましくは−15〜60℃、特に5〜45℃となるように行われる。本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、蒸留装置の塔頂と塔底の両方で、上記の温度範囲が維持される。
【0111】
蒸留装置の塔頂の還流比は、好ましくは流体2が1〜1000ppmの2−メチル−3−ブテンニトリルを含むように、より好ましくは5〜500ppm、特に10〜200ppmの2−メチル−3−ブテンニトリルを含むように調整される。
【0112】
処理工程(b)において、1,3−ブタジエンの多い流体2が塔頂生成物として得られ、1,3−ブタジエン含量の低い流体3が塔底生成物として得られる。1,3−ブタジエンの多い流体や低い1,3−ブタジエンの流体などの名称は、処理工程(b)中で用いる流体1中の1,3−ブタジエン含量に基づいている。
【0113】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、この1,3−ブタジエンの多い流体2は、合計50〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%、特に85〜99重量%の1,3−ブタジエンとブテン異性体と、合計0〜50重量%、より好ましくは0〜20重量%、特に10重量ppm〜1重量%の、実質的に2−メチル−3−ブテンニトリルとトランス3−ペンテンニトリルとからなるペンテンニトリル異性体とを流体2中に含んでいる。
【0114】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、低1,3−ブタジエン含量の流体3は、流体3の総量に対して合計0〜50重量%の、より好ましくは1〜30重量%、特に2〜20重量%の1,3−ブタジエンとブテン異性体、及び1重量ppm〜10重量%の、より好ましくは10重量ppm〜5重量%、特に100重量ppm〜2重量%の安定剤を含んでいる。本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、上記の仕様が、1,3−ブタジエンに対する上記の仕様が、流体2と流体3の両方において達成される。
【0115】
処理工程(b)から得られ、3−ペンテンニトリルと少なくとも1種の触媒と少なくとも1種の安定剤と2−メチル−3−ブテンニトリルとを含むこの低1,3−ブタジエン流体3を、次いで処理工程(c)の蒸留装置K2に送る。この蒸留装置では、流体3が蒸留され、塔頂生成物として1,3−ブタジエンを含む流体4が、塔の抜出孔では3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルとを含む流体5が、また塔底生成物として少なくとも1種の触媒と少なくとも1種の安定剤を含む流体6が得られる。
【0116】
本発明の方法の処理工程(c)は、当業界の熟練者には公知のいずれか適当な装置で実施される。蒸留に適当な装置としては、例えば、Kirk−Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 4th Ed., Vol. 8, John Wiley & Sons, New York, 1996, 334−348頁に記載のようなものが、具体的には、多孔板トレーカラムや、泡鐘トレーカラム、構造性充填材カラム、ランダム充填材カラムの他に、流下液膜式蒸発器、薄膜蒸発機、フラッシュ蒸発器、多相らせんチューブ蒸発器、自然循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器などの単一段蒸発器があげられる。蒸留は、複数の、例えば二台または三台の装置で行ってもよいが、好ましくは単一の装置で行う。
【0117】
特に好ましい実施様態においては、処理工程(c)で選ばれる蒸留装置が、ストリッピング部を有する少なくとも1種の蒸留塔であり、より好ましくは1種のみのストリッピング部を有する1種のみの蒸留塔である。
【0118】
この蒸留装置は、好ましくは構造充填物を備えており、2〜50の理論段数を、より好ましくは3〜40の、特に4〜30の理論段数を有する。
【0119】
本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、処理工程(c)の蒸留装置に属す少なくとも一段の蒸発器は、例えば流下液膜式蒸発器、多相らせんチューブ蒸発器、薄膜蒸発機または短経路蒸発器のように、蒸発器表面上での材料の接触時間が短く、蒸発器表面が最小の温度となるようにして、気化される材料の熱分解が最小レベルとなるように設計されている。
【0120】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態において、上記の処理工程(c)の蒸留装置の底部における液相の平均滞留時間の総計が、10時間未満、より好ましくは5時間未満、特に1時間未満となるように蒸留が行われる。
【0121】
本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、蒸留装置の底部での液相の平均滞留時間が処理工程(b)と(c)の合計で、10時間未満、より好ましくは5時間未満、特に1時間未満となるように、蒸留が行われる。
【0122】
処理工程(c)での絶対圧力は、好ましくは0.001〜10bar、より好ましくは0.010〜1bar、特に0.020〜0.5barである。この蒸留は、蒸留装置塔底の温度が、好ましくは30〜140℃、より好ましくは40〜130℃、特に50〜120℃となるように実施される。この蒸留は、蒸留装置塔頂の凝縮温度が、好ましくは−20〜140℃、より好ましくは−10〜80℃、特に−5〜60℃となるように実施される。本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、蒸留装置の塔頂と塔底の両方で、上記の温度範囲が維持される。
【0123】
処理工程(c)の蒸留では、流体4が塔頂生成物として得られる。この流体4は、好ましくは合計で50〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%、特に90〜99.9重量%の1,3−ブタジエンとブテン異性体、及び合計で0〜50重量%、より好ましくは0〜20重量%、特に10重量ppm〜10重量%の、実質的に2−メチル−3−ブテンニトリルとトランス3−ペンテンニトリルトからなるペンテンニトリル異性体とを含んでいる。
【0124】
流体4または4aの総量中のトランス2−ブテンとシス−2−ブテンと1−ブテンの含量は、好ましくは2重量%より多く、より好ましくは10重量%より、特に15重量%より多く、また、好ましくは80重量%未満、より好ましくは70重量%未満である。
【0125】
処理工程(c)の蒸留装置K2内で得られた流体4は、好ましくはいろいろな状態で抜き出され、圧縮装置V1中、加圧下で圧縮される。この結果、圧縮流体4aが得られる。
【0126】
流体4から、1−および2−ブテンと1,3−ブタジエンからなる液状またはガス状の一部4bが抜き出される。
【0127】
1,3−ブタジエンを主に含むこの圧縮主流体4aを凝縮器W1中で凝縮させる。
【0128】
処理工程(c)で得られた塔底生成物は、少なくとも1種の触媒と少なくとも1種の安定剤、および3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体6である。流体6中のペンテンニトリル異性体の含量は、流体6に対して、合計で好ましくは0.1〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%、特に10〜40重量%である。
【0129】
また、流体6を少なくとも部分的にヒドロシアン化処理工程(a)に循環させる(流体6b)ことが特に好ましい。例えばドイツ特許出願DE10351002、[共沸乾燥によるニッケル(ll)ハロゲン化物](BASF社)に記載のように、再循環した触媒を部分的に再生させることもできる。
【0130】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、この回収流体6中の2−メチル−3−ブテンニトリルの含量は、10重量%未満であり、より好ましくは5重量%未満、特に1重量%未満である。流体5用の抜出点と流体6用の抜出点の間に、十分な蒸留分離段数を取り付けることでこれを行うことができる。
【0131】
ある好ましい実施様態においては、適当な圧力条件により140℃以下の塔底温度とすることで、触媒の熱ストレスを低く抑えることができる。
【0132】
また、処理工程(c)からの流体6を、完全にまたは部分的に他のヒドロシアン化用の、例えば3−ペンテンニトリルのヒドロシアン化用の触媒流体として用いることができる。触媒流体6を3−ペンテンニトリルのヒドロシアン化に使用する場合でも、この触媒流体6中の2−メチル−3−ブテンニトリル含量を最小限に押さえ、上記の値を超えないようにすることが好ましい。
【0133】
他の好ましい実施様態においては、処理工程(a)への全体の触媒流体のペンテンニトリル含量を上に規定した範囲内にコントロールするために、新鮮な触媒流体が、処理工程(c)の蒸留装置に供給される。
【0134】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態においては、触媒の排出、したがってまた新鮮な触媒の必要追加は、触媒循環流体中のメチルグルタロニトリルの含量が、触媒循環流体に対して50重量%を超えない、より好ましくは20重量%、特に10重量%を超えないようにする。このようにして、それぞれ排出される触媒流体について、再生時にニッケル(0)の取り込みに対するメチルグルタロニトリルの阻害効果を最小レベルとすることができる。
【0135】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態においては、触媒の排出量、またしたがって新鮮な触媒の追加量は、触媒循環液中のニッケル(0)錯体含量が、触媒循環液に対して、金属性のニッケル(0)として0.05重量%未満とならないように、より好ましくは0.1重量%未満、特に0.2重量%未満とならないようにする。このようにして、工程(a)の反応中または工程(b)と(c)の蒸留工程中に、特に工程(a)の反応中に、ニッケル(0)錯体の損失にもかかわらずヒドロシアン化触媒活性を維持することができる。
【0136】
本発明の方法のさらに好ましい実施様態においては、処理工程(a)で得られた流体1を、処理工程(b)なしに、直接処理工程(c)に導くことができる。
【0137】
特に好ましい方法の一例では、処理工程(b’)で用いるカラムK4(図1)を省くことができる。この代わりに、1,3−ブタジエンの乾燥が、処理工程(b)に移動している(カラムK1の塔頂)ことが、図2に示されている。
【0138】
この方法は、次の処理工程(図2):
(a)少なくとも1種の触媒上で、シアン化水素と、流体14としてカラムK1の側面孔から反応器R1に送られる乾燥した1,3−ブタジエンと反応させて、3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、上記の少なくとも1種の触媒、未変換の1,3−ブタジエン、1−及び2−ブテン、さらに場合によっては未変換のシアン化水素の残渣を含む流体1を得る工程、
(b)蒸留装置K1の塔頂と塔の側面抜出孔との間の領域において、水と1−及び2−ブテンと安定剤とを含む1,3−ブタジエンを供給しながら流体1を蒸留し、塔頂生成物として流体2を、側面抜出液として流体14を、また流体2中に除かれなかった流体1から、3−ペンテンニトリルと上記の少なくとも1種の触媒と2−メチル−3−ブテンニトリルと1−及び2−ブテン、さらに1,3−ブタジエンの残留分を含む流体3を塔底生成物として得る工程、
(c)蒸留装置K2で流体3を蒸留して、塔頂生成物として、1,3−ブタジエンと1−および2−ブテンを含む流体4と、塔の抜出孔から3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体5と、塔底生成物として、少なくとも1種の触媒を含む流体6とを得る工程、
(d)蒸留装置K1からの流体2と蒸留装置K2からきて1台以上の圧縮機V1内で圧縮された流体4aとを1台以上の凝縮器W1内で凝縮させ、得られる凝縮液を流体9として相分離装置に供給し、1,3−ブタジエンからなる上相液を流体11として蒸留装置の塔頂K1に供給し、下相液の水相を流体12として排出する工程、
(e)流体5を蒸留的に分離して、3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルとを得る工程、
を含む。
【0139】
処理工程(e)においては、流体5はもう一つの蒸留装置K3に供給される。この蒸留装置で流体5は蒸留され、2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体7と、3−ペンテンニトリルを含む流体8を与える。流体7は蒸留装置の塔頂から得られ、流体8は、蒸留装置の塔底から得られる。この方法は、例えばDE10200404724に記載の方法で実施される。
【0140】
本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、ガス状の側面抜出物として得られた流体5は、ガス状で処理工程(e)の蒸留装置K3に送られる。その際の、処理工程(e)の蒸留装置中の流体5供給点位置の圧力は、処理工程(c)の蒸留装置中の流体5の側面抜出箇所の圧力以下である。
【0141】
本明細書の範囲は、工程(e)の圧力が自由に選択され、工程(e)に供給するのに、適当ならガス流5を(c)での引抜点の圧力より高くまで圧縮してまたは適当なら凝縮して液化させた後にポンプ輸送する方法を排除するものではない。
【0142】
本発明の方法の処理工程(e)は、当業界の熟練者には公知のいずれかの適当な装置で実施される。蒸留に適当な装置としては、例えば、Kirk−Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 4th Ed., Vol. 8, John Wiley & Sons, New York, 1996, 334−348頁に記載のようなものが、具体的には、多孔板トレーカラムや、泡鐘トレーカラム、構造性充填材カラム、ランダム充填材カラムの他に、流下液膜式蒸発器、薄膜蒸発機、フラッシュ蒸発器、多相らせんチューブ蒸発器、自然循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器などの単一段蒸発器があげられる。蒸留は、複数の、例えば二台または三台の装置で行ってもよいが、好ましくは単一の装置で行う。
【0143】
この塔は、好ましくは構造充填物を有している。この構造充填物により、好ましくは理論段数が5〜100、より好ましくは10〜80、特に15〜50となる。
【0144】
処理工程(e)の圧力は、好ましくは0.001〜100barであり、より好ましくは0.01〜20bar、特に0.05〜2barである。蒸留は、蒸留装置の塔底温度が好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃、特に60〜180℃となるように実施する。蒸留は、蒸留装置塔頂での凝縮温度が好ましくは−50〜250℃、より好ましくは0〜180℃、特に15〜160℃となるように実施する。本発明の方法の特に好ましい実施様態においては、蒸留装置の塔頂と塔底の両方が上記温度範囲に維持される。本発明の方法のある実施様態においては、工程(e)で得られる流体7を、DE−A−102004004671記載の異性化に用いる。
【0145】
本発明の方法のある実施様態においては、処理工程(e)で得られた流体7は、処理工程(a)及び/又は処理工程(b)へ循環可能で、その場合、処理工程(a)の反応条件または処理工程(b)の塔底の液層の滞留時間は、2−メチル−3−ブテンニトリルが少なくとも部分的にトランス3−ペンテンニトリルに異性化するように選択される。
【0146】
本発明の方法の他の実施様態においては、流体7が、処理工程(e)の蒸留装置で側面抜出流体として得られる。なお、この蒸留塔から得られた塔頂生成物は、2−メチル−3−ブテンニトリル以外にも、実質的に(Z)−2−メチル−2−ブテンニトリルを含み、また場合よれば1,3−ブタジエンとブテン異性体、さらにビニルシクロヘキサンとエチリデンシクロヘキセンを含んでいる。この実施様態は、流体7中の2−メチル−3−ブテンニトリル濃度が塔頂流体より高くなるため有利である。
【0147】
流体7中のトランス3−ペンテンニトリルの含量は、好ましくは0〜50重量%であり、より好ましくは100重量ppm〜20重量%、特に1〜15重量%である。流体8中の2−メチル−3−ブテンニトリルの含量は0〜10重量%であることが好ましい。
【0148】
本発明の方法は、3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリル製造の統合プロセスであって、その1,3−ブタジエン流体と触媒流体とを実質的に完全にまで再利用できるため供給原料の加工収率が高いものを可能とする。触媒含有流体から1,3−ブタジエンとペンテンニトリル異性体を蒸留的に除去するのに必要な温度や圧力の条件は、まず本方法が技術的に可能な滞留時間で工業規模で実施された場合に、その塔底蒸発器の温度が触媒を損傷しない程度に低くなるように、また特定の蒸留工程の塔頂生成物の凝縮が、好ましくは経済的に満足できるコストと手間で工業規模での熱除去が可能な温度で行えるように選択される。
【0149】
共沸蒸留で乾燥させた安定剤含有ブタジエンを使用することも、新規なことであり発明の要件たるべきことである。工程(d)で1台以上の圧縮機及び/又は1台以上の凝縮器中に安定剤の水溶液(流体10)を追加供給する場合、本プロセスのいずれの箇所においてもブタジエンが重合する恐れがない。
【0150】
安定剤の蓄積は起こらない。これは、US3,773,809に記載のように、触媒抽出用のパージ流として送られ、相分離して下相(ADN相)とともに排出されるためである。
【0151】
反応器R1の送られるシアン化水素が完全に反応しない場合でも、これが後処理工程に混入してNi(CN)2を含む固体付着物を引き起こす恐れがない。この代わりに、ブタジエン/青酸の低沸点共沸混合物が生成する。この青酸はカラムK1の塔頂抜出口に入り、凝縮器W1を経て相分離装置に送られる。これは、液体水相とともに系外に排出される。
【符号の説明】
【0152】
A1 水性の新鮮ブタジエン+TBC
B1 乾燥ブタジエン+TBC
C1 新鮮な触媒の補給
D1 低レベルのブタジエンを含む廃ガス
A2 水性の新鮮ブタジエン+TBC
B2 新鮮な触媒の補給
C2 低レベルのブタジエンを含む廃ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ブタジエンのハイドロシアン化により3−ペンテンニトリルを製造する方法であって、以下の処理工程:
(b’)水と1−及び2−ブテンと安定剤とを含む1,3−ブタジエンを蒸留装置K4中で蒸留して、塔底生成物として乾燥した1,3−ブタジエンと1−及び2−ブテンと安定剤を含む流体15を得るとともに、塔頂生成物として共沸1,3−ブタジエン/水混合物を含む流体16を得て、流体16を凝縮器W中で凝縮させ、得られる凝縮液(流体17)を相分離装置に移動させ、1,3−ブタジエンからなる上相液(流体18)を蒸留装置K4に還流として再利用し、下相液の水相(流体19)を排出する工程、
(a)反応器R1中で流体15とシアン化水素とを少なくとも1種の触媒上(流体6d)で反応させ、3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、上記の少なくとも1種の触媒、未変換の1,3−ブタジエン、1−及び2−ブテン、さらに場合によっては未変換のシアン化水素の残渣を含む流体1を得る工程、
(b)流体1を蒸留装置K1で蒸留して、流体1から主に1,3−ブタジエンを含む流体2を塔頂生成物として得るとともに、流体2中に除かれなかった流体1から、3−ペンテンニトリルと、上記の少なくとも1種の触媒、2−メチル−3−ブテンニトリル、1−及び2−ブテン、さらに1,3−ブタジエンの残留分を含む流体3を塔底生成物として得る工程、
(c)蒸留装置K2で流体3を蒸留して、塔の抜出孔より3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体5を得るとともに、塔底生成物として、上記の少なくとも1種の触媒を含む流体6と、塔頂生成物として流体4とを得る工程、
(d)圧縮機V1内で流体4を圧縮し、1−及び2−ブテンを含むガス状の分岐流体4bを排出し、圧縮流体4aを凝縮器W1に移動させ、この流体とb)からの流体2をともに凝縮させ、この凝縮液を流体9として、一部を蒸留装置K1に還流させ(流体9b)、一部の流体を反応器R1(流体9a)に循環させる工程、
(e)流体5を蒸留的に分離して、3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルとを得る工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
1,3−ブタジエンのハイドロシアン化により3−ペンテンニトリルを製造する方法であって、以下の処理工程:
(a)少なくとも1種の触媒上で、シアン化水素と、流体14として蒸留装置K1の側面孔から反応器R1に送られる乾燥した1,3−ブタジエンと反応させて、3−ペンテンニトリルと、2−メチル−3−ブテンニトリル、上記の少なくとも1種の触媒、未変換の1,3−ブタジエン、1−及び2−ブテン、さらに場合によっては未変換のシアン化水素の残渣を含む流体1を得る工程、
(b)蒸留装置K1の塔頂と塔の側面抜出孔との間の領域において、水と1−及び2−ブテンと安定剤とを含む1,3−ブタジエンを供給しながら流体1を蒸留し、塔頂生成物として流体2を、側面抜出液として流体14を、また流体2中に除かれなかった流体1から、3−ペンテンニトリルと上記の少なくとも1種の触媒と2−メチル−3−ブテンニトリルと1−及び2−ブテン、さらに1,3−ブタジエンの残留分を含む流体3を塔底生成物として得る工程、
(c)蒸留装置K2で流体3を蒸留して、塔頂生成物として、1,3−ブタジエンと1−および2−ブテンを含む流体4と、塔の抜出孔から3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルを含む流体5と、塔底生成物として、少なくとも1種の触媒を含む流体6とを得る工程、
(d)蒸留装置K1からの流体2と蒸留装置K2からきて1台以上の圧縮機V1内で圧縮された流体4aとを1台以上の凝縮器W1内で凝縮させ、得られる凝縮液を流体9として相分離装置に供給し、1,3−ブタジエンからなる上相液を流体11として蒸留装置K1の塔頂に供給し、下相液の水相を流体12として排出する工程、
(e)流体5を蒸留的に分離して、3−ペンテンニトリルと2−メチル−3−ブテンニトリルとを得る工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
処理工程(d)において、少なくとも1種のブタジエン安定剤の水溶液を1台以上の圧縮機及び/又は1台以上の凝縮器に供給する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の触媒と少なくとも1種のブタジエン安定剤とを含む一部の流体6aを流体6から排出する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
未変換のシアン化水素を、相分離装置から、流体12(請求項1の場合)または流体19(請求項2の場合)とともに排出する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−500317(P2010−500317A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523246(P2009−523246)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057926
【国際公開番号】WO2008/017626
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】