説明

10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンの精製組成物と腫瘍の治療への同化合物の使用方法

【課題】本発明の第1態様は10−プロパルギル−10dAMを含有する、高度に精製された組成物である。この組成物は本発明によって腫瘍の治療に、特にヒト乳房腫瘍及びヒト肺癌の治療に用いることができる。
【解決手段】10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンを含む薬剤組成物であって、該組成物が少なくとも98%の純度を有する10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリン及び薬剤学的に受容されるキャリヤーで製剤化されている、上記薬剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は化合物10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンの精製組成物と、この化合物を腫瘍の治療に用いる方法に関する。
【0002】
10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリン(“10−プロパルギル−10−dAMの合成と抗腫瘍活性”)は、今までに試験されて、幾つかの場合に腫瘍の治療に有用であると発見された大きな化合物クラスのメンバーである。図1に示した構造を有する、この化合物はDeGraw等,“10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンの合成および抗腫瘍活性”,J.Medical Chem.36:2228〜2231(1993)によって開示され、ネズミL1210細胞系統における成長阻害剤として、より軽度には、酵素デヒドロホレート還元酵素(“DHFR”)の阻害剤として作用することが判明している。さらに、E0771ネズミ乳房腫瘍モデルを用いた、この化合物の抗腫瘍性に関する幾つかの結果が提示されている。このデータは、試験に用いられたマウスが少数であること(投与量あたり3匹)と、データの信頼性を量化する標準偏差情報が無いことと、最高使用量が実際にはマウスに有害であったという事実とのために、あいまいである。それにも拘わらず、このデータがヒトの腫瘍の治療における薬物の効力を幾らか予言する価値を有するとしても、このデータはメトトレキセートに比べて、同等なレベルの耐性において、匹敵しうる又はやや良好な性質を有する薬物をせいぜい予言するに過ぎない。
【0003】
発明の概要
しかし、意外にも、より高度に精製された10−プロパルギル−10dAM組成物は、ヒト腫瘍に対するそれらの効力に関して異種移植片モデルで試験したときに、メトトレキセート(“MTX”)よりもはるかに優れており、さらに、より最近の臨床的候補であるエダトレキセテート(“ETX”)よりも優れていることが今回判明した。さらに、10−プロパルギル−10dAMは、治療の中断後の数週間、腫瘍増殖の徴候が無いように、腫瘍を治療する驚くべき能力を示した。したがって、本発明の第1態様は10−プロパルギル−10dAMを含有する、高度に精製された組成物である。この組成物は本発明によって腫瘍の治療に、特にヒト乳房腫瘍及びヒト肺癌の治療に用いることができる。
【0004】
発明の詳細な説明
本出願は“高度に精製された”10−プロパルギル−10dAMに関する。本明細書と本明細書の請求の範囲とに用いるかぎり、“高度に精製された”組成物は、10−プロパルギル−10dAMの抗腫瘍活性を妨害する可能性のある、他の葉酸誘導体、特に10−デアザアミノプテリンを実質的に含まない10−プロパルギル−10dAMを含有する。本発明の範囲内の組成物は、10−プロパルギル−10dAMを治療用の適当な投与単位形に製剤化するために、キャリヤー又は賦形剤を包含することができる。
【0005】
10−プロパルギル−10dAMはDeGrawの論文(上記文献)又は米国特許第5,354,751号(これは本明細書に援用される)の実施例7に開示された方法を用いて合成することができる。この方法によって製造された生成物のHPLC評価は、実質的な量(〜4.6%)の不純物Aの存在を示し(図2)、この不純物は10−デアザアミノプテリンと一致した保持時間を有する。したがって、この合成アプローチを用いるならば、DeGraw等の論文に開示された精製を越えるさらなる精製が必要である。このような精製は、存在する可能性がある、10−デアザアミノプテリンと他の葉酸誘導体とを除去するために付加的なHPLC又は結晶化によって行うことができる。
【0006】
図3は、本質的に、実施例1に述べた方法を用いて製造された本発明による10−プロパルギル−10dAMから成る、高度に精製された製剤のHPLCを示す。この場合に、10−プロパルギル−10dAMの量(HPLCピーク面積によって測定される)は98%に近く、10−デアザアミノプテリンに対応するピークはプロセシング・ソフトウェア(processing software)によって検出されないが、この面積には小さい基線の波(baseline ripple)が存在する。
【0007】
本発明による高度に精製された10−プロパルギル−10dAM製剤を、ヒト腫瘍細胞系統に対する細胞傷害性と抗腫瘍性とに関して、実施例2に述べるヌードマウスにおけるヒト腫瘍系統の異種移植片を用いて試験した。これらの試験の結果は表1と2に要約する。表に示すように、10−プロパルギル−10dAMはMTX(退化を生じなかった)又はEDXのいずれよりもはるかに大きい程度にヒトMX−1乳癌の完全な退化をもたらし、実際に、試験した20匹のマウスのうちの9匹に治癒を生じることができた。10−プロパルギル−10dAMはヒトLX−1肺癌の異種移植片に対してMTX又はEDXよりもはるかに有効であり、試験した10匹のマウスのうちの4匹に治癒をもたらした。同様な結果がヒトA549肺癌細胞に関して観察された。この効力レベルはDeGraw等の論文に記載されたE0771データに基づいて予測されることができた効力レベルをはるかに凌駕する。実際には、この研究では、低い非毒性用量レベル(24mg/kg)の10−プロパルギル−10dAMによって治療されたマウスは腫瘍の完全な退化を示さず、この化合物の平均的効果はMTXと同等程度にすぎなかった(no better than MTX)。これらの10−P−dAM治療マウスは3週間の終了時に腫瘍サイズの増加を示し、このことは治癒が達成されなかったことを示した。それ故、高度に精製された化合物が非常に低い用量レベル(3mg/kg)でヒト腫瘍に対して用いられることができ、非常に高いレベルの効力と多くの明白な治癒とを達成することができることは非常に意外である。
【0008】
この活性増強に関して特定の機構に縛られることを意図する訳ではないが、DeGraw等の論文における製造されたサンプル中に観察される、例えば4.6%の10−デアザアミノプテリンのような、他の葉酸誘導体の比較的少量の存在さえもが10−プロパルギル−10dAMに競合して、その活性を事実上阻害しうることが考えられる。このことはヒト腫瘍細胞中のホリルポリグルタメート・シンテターゼによって10−プロパルギル−10dAMのポリグルタミル化レベルにおいて起こりうる。この細胞傷害性決定因子の基質としての10−プロパルギル−10dAMの利点は、この酵素とより効果的に相互作用するが、不充分に代謝されるので、10−プロパルギル−10dAMと該酵素との相互作用を競合的に阻害する10−dAMの存在によって危くされる可能性がある。しかし、この機構にも拘わらず、本発明の高度に精製された組成物は、ヒト癌細胞に対して、DeGrawの論文に提示されたデータに基づいて予測されるよりも明らかに活性である。このことは、一貫して発見された、ヒト腫瘍細胞に対するEDXに比べて10−プロパルギル−10dAMの細胞傷害性の増強によっても示され、この細胞傷害性の増強はDeGraw等によって報告されたような、ネズミ腫瘍細胞系統に対するこれらの2化合物の相対的同等性(relative equivalence)と対照的である。ヒト腫瘍細胞に対するこの強化された活性を用いて、癌に罹患した、特に胸部癌又は肺癌に罹患したヒト患者に治療的利益を与えることができる。
【0009】
このために、この高度に精製された10−プロパルギル−10dAMは薬剤製剤の一部として有利に製剤化される。特定の投与形は投与方法に依存するが、錠剤、カプセル、経口液体、及び静脈内、筋肉内又は腹腔内投与のための注射可能な溶液を包含しうる。ヒト異種移植片腫瘍に対して10−デアザアミノプテリンを実質的に含まない、MTX、EDX及び10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンの相対的効果と、ヒト臨床試験において適当であると判明したMTXとEDXの投与量とに基づくと、40〜120mg/m2体表面積/日の範囲内の、10−デアザアミノプテリンを実質的に含まない10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンの投与量が、治療スケジュールに依存して、有効である筈である。これより高い投与量は、以下に報告する動物試験においてこのようなレベルで観察される毒性のために、禁忌であるように思われる。
【0010】
本発明による10−プロパルギル−10dAMは種々な他の細胞傷害性かつ抗腫瘍性化合物と組合せて製剤化することもでき、このような化合物は例えばビンブラスチン、ナベルビン(navelbine)及びビンデシン(vindesine)のようなビンカアルカロイド;5−フルオロウラシル;例えばシクロホスファミド又はイフォスファミド(ifosfamide)のようなアルキル化剤;シスプラチン又はカルボプラチン;ロイコボリン(leucovorin);例えばパクリタキセル(paclitaxel)又はドセタキセル(docetaxel)のようなタキソール(taxol);及び例えばドキソルビシン及びマイトマイシンのような抗生物質を包含する。10−プロパルギル−10dAMとこれらの他の抗腫瘍剤の幾つかとの組合せも用いることができる。
【実施例1】
【0011】
図4は本発明による10−プロパルギル−10dAMの製造に有用な合成スキームを示す。18mlのシーブ乾燥(sieve−dried)THF中の油分散液としての60%NaH(1.06g,26.5mmol)の混合物を0℃に冷却した。この低温混合物を乾燥THF(7ml)中のホモテレフタル酸ジメチルエステル(5.0g、24mmol、図4中の化合物1)の溶液によって処理し、この混合物を0℃において1時間撹拌した。臭化プロパルギル(26.4mmol)を加え、混合物を0℃においてさらに1時間、室温において16時間撹拌した。結果として生じた混合物を2.4mlの50%酢酸によって処理し、次に240mlの水中に注入した。混合物をエーテル(2X150ml)によって抽出した。エーテル抽出物を一緒にして、NaSO上で乾燥させ、橙黄色油状物になるまで濃縮した。シクロヘキサン−EtOAc(8:1)によって溶離させるシリカゲル(600mlの230〜400メッシュ)上でのクロマトグラフィーは生成物のα−プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステル(化合物2)を白色固体(4.66)として生成し、これはTLC(シクロヘキサン−EtOAc、3:1)によって均質であると思われた。しかし、この生成物に関する質量スペクトルデータは、これが目的生成物2と、ジプロパルギル化化合物との混合物であることを示した。出発物質1は検出されなかった。HPLCはモノプロパルギル化生成物のジプロパルギル化生成物に対する比率が約3:1であることを示す。ジプロパルギル化生成物は、化合物1とは異なり、次の工程の反応において好ましくない同時生成物(coproduct)を形成することがありえないので、この物質は化合物3への転化のために適切であった。合成において進行するために用いられる生成物中に出発化合物1が存在しないことが、最終生成物を生じるトランスフォーメーション中の10−dAMの順次形成を避けるために非常に重要である、この理由は10−プロパルギル−1−dAMから10−dAMを完全に除去することが非常に困難であるからである。
【0012】
油分散液としての0.36gの60%NaH(9mmol)を10mlの乾燥DMFと一緒にすることによって混合物を形成し、0〜5℃に冷却した。この低温混合物を10mlの乾燥DMF中の第1反応の生成物(化合物2)(2.94g、12mmol)の溶液を滴加して処理し、次に0℃において30分間撹拌した。−25℃に冷却した後に、温度を−25℃近くに維持しながら、10mlの乾燥DMF中の2,4−ジアミノ−6−(ブロモメチル)プテリジン・ヒドロブロミド・0.2 2−プロパノール(1.00g,2.9mmol)の溶液を滴加した。撹拌混合物の温度を−10℃に2時間の期間にわたって上昇させた。−10℃にさらに2時間維持した後に、温度を20℃に上昇させ、室温における撹拌を2時間以上(2 hours longer)続けた。次に、固体COの添加によって、反応をpH7に調節した。真空下で濃縮して溶媒を除去した後に、残渣にジエチルエーテルを加えて撹拌して、エーテル不溶物を回収して、水によって洗浄して、真空下で乾燥させて1.49gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムに供給するために、CHCl−MeOH(10:1)中に溶解した。同溶媒系による溶離は10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−4−アミノ−10−デアザプテロイン酸メチルエステル(化合物3)を与え、これは40%収率(485mg)でTLCに関して均質であった。
【0013】
2−メトキシエタノール(5ml)中の化合物3(400mg、0.95mmol)の撹拌懸濁液を水(5ml)によって処理し、次に10%水酸化ナトリウム溶液(3.9ml)によって処理した。混合物を室温において4時間撹拌し、この間に溶液が生じた。この溶液を酢酸によってpH8に調節し、高真空下で濃縮した。結果として生じた残渣を15mlの水に溶解して、pH5.5〜5.8に酸性化して、沈殿を形成させた。沈殿を回収して、水によって洗浄し、真空下で乾燥させて、340mgの化合物4(91%収率)を回収した。HPLC分析は90%の生成物純度を示した。
【0014】
化合物4(330mg)を15mlのDMSO中で115〜120℃において10分間加熱することによって脱炭酸した。10分間後のHPLCによる試験は、転化が本質的に完了したことを確証した。真空下で蒸留する(40℃における浴)ことによって、DMSOを除去した。残渣を0.5N NaOHと共に撹拌して、透明な溶液を得た。1N HClによってpH5.0に酸性化すると、10−プロパルギル−4−デオキシ−4−アミノ−10−デアザプテロイン酸(化合物5)が黄色固体として70%収率で得られた。HPLCはこの段階における生成物純度を90%として示した。
【0015】
化合物5(225mg、0.65mmol)は、トリエチルアミン(148mg、1.46mmol)を含有するDMF(10ml)中のBOP試薬(ベンゾトリアゾル−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(287mg、0.65mmol、Aldrich Chemical Co.)を用いて、ジメチル L−グルタメート・ヒドロクロリド(137mg、0.65mmol)とカップリングさせた。この混合物を20〜25℃において3時間撹拌して、次に蒸発乾固させた。残渣に水を加えて撹拌して、水に不溶な粗生成物を回収して、真空下で乾燥させた。この粗生成物(350mg)を、トリエチルアミン(0.25容量%)を含有するCHCl−MeOH(10:1)によって溶離させるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、165mgの10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンジメチルエステル(化合物6、50%収率)を回収した、これはTLC(CHCl:MeOH 5:1)に関して均質であった。
【0016】
化合物6(165mg、0.326mmol)を10mlの撹拌MeOH中に懸濁させて、これに0.72ml(0.72meq)の1N NaOHを加えた。室温における撹拌を、数時間後に溶液が生じるまで、続けた。この溶液を20〜25℃に8時間維持し、次に10mlの水で希釈した。減圧下での蒸発によってメタノールを除去し、濃縮した水溶液を20〜25℃にさらに24時間放置した。次に、HPLCはエステル加水分解が完成したことを示した。透明な水溶液を酢酸によってpH4.0に酸性化して、10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンを淡黄色固体として沈殿させた。回収し、水で洗浄し、真空下で乾燥させた生成物は122mg(79%収率)の重量であった。元素分析と、プロトンNMRと、質量分光測定とによるアッセイは、割り当てられた構造(assigned structure)に完全に一致した。HPLC分析は98%の純度を示し、生成物が10−デアザアミノプテリンを含まないことを立証した。
【実施例2】
【0017】
実施例1によって製造された、高度に精製された10−プロパルギル−10dAM製剤をヌードマウスにおけるヒト腫瘍系統の異種移植片を用いて抗腫瘍性に関して試験した。ヒトMX−1乳癌の異種移植片を標準方法によってヌードマウスに移植した。
【0018】
これらの腫瘍細胞に対する10−プロパルギル−10dAMの抗腫瘍性を試験するために、3mg/kgの化合物を、腫瘍移植後3日目から始めて全体で5日間にわたって、20匹のマウスの各々に1日1回投与した。比較のために、非処置対照(20匹マウス)、メトトレキセート処置マウス(10匹マウス;同じ処置スケジュールで投与量2mg/kg)及びエダトレキセート処置マウス(20匹マウス;同じ処置スケジュールで投与量1.5mg/kg)をも評価した。これらの投与量は全て“最大耐量”であるので、等毒性(equitoxicity)に基づく比較のために適当な根拠である。平均腫瘍直径を処置の開始後14日目、即ち、処置の停止後の7日目に測定した。この時点において測定可能な腫瘍を有さないマウスは完全な退化を生じたと考えられた。さらに、14日目に腫瘍を有さなかったマウスを治療停止後3週間目に腫瘍の再現に関して検査した。治療後3週間の終了時に腫瘍を有さないマウスは治癒したと見なされた。結果は表1に要約する。
【表1】


表から知ることができるように、10−プロパルギル−10dAMはMTX又はEDXのいずれよりも実質的に大きく有効であり、実質的な治癒数をもたらした。
【実施例3】
【0019】
ヌードマウスにヒトLX−1肺癌の異種移植片を用いて、実施例2を繰り返した。結果は表2に要約する。
【表2】


この場合にも、10−プロパルギル−10dAMはMTX又はEDXよりも実質的に大きく有効であることが判明し、実質的な治癒数をもたらした。
【実施例4】
【0020】
ヌードマウスにヒトA−549肺癌の異種移植片を用いて、実施例2を繰り返した。結果は表3に要約する。
【表3】


この場合にも、10−プロパルギル−10dAMはMTX又はEDXよりも実質的に大きく有効であることが判明し、実質的な治癒数をもたらした。
【実施例5】
【0021】
4種類のヒト腫瘍細胞系統に対して細胞傷害性研究を行って、各化合物への3時間パルス暴露を用いて、EDXの細胞傷害性を10−プロパルギル−10dAMの細胞傷害性と比較した。各化合物に関して各細胞系統の3回反復実験を検査した。結果は表4に要約する。
【表4】


各場合に、10−プロパルギル−10dAMはヒト腫瘍細胞系統に対してEDXよりも実質的に大きく細胞傷害性であった。
【実施例6】
【0022】
10−プロパルギル−10dAMの毒性をラット、マウス及びイヌにおいて評価した。雄CDラットと雄B6D2Fマウス(Charles River Breeding Laboratories、Wilmington、MA)と、ヤングアダルト雄ビーグルイヌ(Marshall Frams USA社、Northrose、NY)とを試験に用いた。全ての動物を12時間明/12時間暗の照明サイクルを備えた環境調節室(environmentally controlled room)に維持した。マウスとラットは生後5週間であるときに入手し、試験前の1〜2週間観察して、予備観察中のそれらの成長が体重増加に関する実験室基準に適合した場合にのみ用いた。イヌは使用前に少なくとも2〜3週間観察して、この期間中に良好な健康を保証するために規則的な間隔をおいて計量して、検査した。試験期間中に全ての動物を毎日計量して、食欲、糞便状態、全身外観及び毒性の徴候に関して観察した。イヌも毎日検査して、体温、心拍数及び呼吸数をモニターした。
【0023】
全ての処置のために、薬物投与量を計量し、等張性の静菌性生理食塩水中に約2モル当量の1N NaOHを添加することによって溶解した。この溶液のpHを、pH計を用いて測定しながら、NaOH溶液の添加によって7〜7.2に調節した。溶液は直ちに用いたか又は、−20℃において貯蔵されていた調合物(preparation)を解凍した後に用いた。マウス及びラットへの注入は0.01ml/g体重の一定量で行った。
【0024】
マウスにおける毒性
B6D2Fマウス(5匹/群)に10−プロパルギル−10dAMを週1回、3週間にわたって(1日目、8日目及び15日目)表5に要約するような種々な濃度でi.p.投与した。
【表5】


体重変化と致死率との結果を図5に要約する。100、200及び300mg/kgに示されるように、体重は初期に僅かに低下した(2gまで)が、その後の投与量ではもはや低下は生じなかった。これらの3つの投与量群における全てのマウスは3週間又は4週間中に体重を回復させ、生残した。400mg/kg、i.p.QWX3の投与量では、5匹のマウスのうちの4匹が19、20、23及び24日目に死亡し、600mg/kgでは、5匹のマウスのうちの4匹が9、18、19及び21日目に死亡した。高い2種類の投与量で治療された動物は20%より大きい体重低下、くしゃくしゃに乱れた毛皮及び下痢を有した。しかし、生存マウスは体重を増加させ、最後の処置後の2週間目に対照群に追いついた。大体のLD50は、用量効果関係とメジアン−効果プロット(median−effect plot)とによって推定したときに、約370mg/kg、i.p.QWX3であった(Chou等、Encyclopedia of Human Biology、R.Dalbecco編集、2巻、271〜279頁、Academic Press、1991)。
【0025】
ラットにおける毒性
CDラット(5匹/群)に10−プロパルギル−10dAMを週1回、3週間にわたって(1日目、8日目及び15日目)表6に要約するような種々な濃度でi.v.投与した。
【表6】


体重変化と致死率との結果を図6に要約する。50mg/kg、i.v.QWX3において、体重の明白な変化は観察されなかった;100mg/kgでは、第3回投与量において体重の約10gの低下が生じて、5匹の動物のうちの1匹は23日までに死亡した。残りの動物は体重を増加させたが、対照動物よりも低い速度においてであった。
【0026】
150mg/kg、i.v.QWX3においては、5匹のラットのうちの3匹が18、20及び23日目に死亡した。200mg/kg、i.v.QWX3では、5匹のラットの全てが12、14、15、20及び20日目にそれぞれ死亡した。300mg/kg、i.v.QWX3においても、5匹のラットの全てが、200mg/kg投与量におけるよりも多少迅速に、11、11、12、12及び14日目にそれぞれ死亡した。150〜300mg/kgの投与量では注入の直後のラットのいずれにおいても即時の毒性は観察されなかった。これらのラットは翌日から体重を失い始め、死亡前の1〜3日間に最高に達した下痢と脱水の徴候と共に、くしゃくしゃに乱れた毛皮を有した。これらの徴候は実験の過程を通して持続され、第2回及び第3回の注入によって悪化した。
【0027】
これらの実験からのデータはLD10又はLD50の正確な算出を可能にしなかった。用量効果関係とメジアン−効果プロットとによる、ラットにおけるLD10控えめの推定値(conservative estimate)は約75mg/kg、i.v.QWX3であり、LD50は約110mg/kg、i.v.QWX3である。
【0028】
イヌにおける毒性
8匹の雄ビーグルイヌ(体重9.4〜10.6ポンド)を4対に分けた。これらの対を10−プロパルギル−10dAMの静脈内注入によって週1回、3週間にわたって(1、8及び15日目)、0mg/kg(イヌAとB);3mg/kg(イヌCとD);8mg/kg(イヌEとF)及び12mg/kg(イヌGとH)において処置した。3mg/kgと8mg/kgでは、2〜3kgの最大体重低下が20日目に生じたが、その後、35日間の観察期間の終了時までに体重回復が生じた。12mg/kgでは、体重が着実に減少し、この減少は全体で3kgまで(又は20%より大きい減少)になり、動物は第3回投与量の前に12日と14日目に瀕死の状態になった。
【0029】
8mg/kg又は12mg/kgで処置されたイヌに関して嘔吐、下痢、水っぽい又は血の混じった糞便、嗜眠、食欲不振(anoreptic)及び全身衰弱を包含する、毒性の主要な徴候が観察された。3mg/kg、i.v.QWX3では、症状が明らかではなかった。推定LD50は約8mg/kg、i.v.QWX3であった。
【0030】
試験中に各イヌから血液サンプルを採取した。血液化学又は血液細胞数(bloodcell count)の明白な又は持続的な変化は、毒性の末期を除いて、観察されなかった。白血球数、リンパ球数及び好中球数の幾らかの低下と、ヘモグロビン、総タンパク質及びアルブミンの減少と、アミラーゼ及び単球の増加とが、特に高い2投与量において観察された。
【0031】
イヌGとHをそれぞれ12日目と14日目に安楽死させ、完全な剖検を行った。他の対の各々からの1匹の動物を実験の33日目(イヌE)又は34日目(イヌBとC)に組織病理学的検査のために安楽死させた。
【0032】
イヌGでは、器官の大部分は正常に見えた。小腸と大腸との粘膜は浮腫と出血とを示した。胃と大腸及び小腸とは空であった。イヌHは14日目には安楽死前に重度に抑うつ状態であり、表在呼吸と心拍数低下とを示した。安楽死させたときに、胃が胆汁の色を帯びた粘液で満たされていることが発見され、腸は水っぽい糞便で満たされていたが、血液の痕跡はなかった。胃、腸又は食道に潰瘍は観察されなかった。肝臓は青白く、斑点があった。脾臓は暗紫色であり、表面がざらざらしていた。
【0033】
8mg/kg、i.v.QWX3を投与されたイヌEでは、大抵の器官が正常に見えたが、肺の両面は若干の血液スポットを含むピンク色であった。大腸及び小腸と肝臓とはラベンダー色を示し、腎臓は浮腫と紫色とを示した。胃と腸は食物で充満され、膀胱は尿で充満されていた。
【0034】
3mg/kg、i.v.QWX3を投与されたイヌCは34日目に安楽死の前に正常に見えた。大抵の器官が正常に見えた。右肺はピンク色で、大きく、小腸は紫色であった。肝臓は暗紫色を示した。胃と腸は食物で充満され、膀胱は尿で充満されていた。
【0035】
0mg/kg及び3mg/kg、i.v.QWX3で処置されたイヌの組織の組織病理学的検査は、回収された器官標本における重大な病変を示さなかった。8mg/kg、i.v.QWX3では、大腸はマルチコカルな(multicocal)軽度な結腸炎を示した。12mg/kg、i.v.QWX3では、亜急性〜慢性潰瘍性食道炎と重度な壊死性小腸結腸炎が観察された。例えば脳、心臓、肝臓、肺、腎臓、唾液腺、睾丸及び脾臓のような、他の器官は重大な病変を示さなかった。
【実施例7】
【0036】
10−プロパルギル−10dAMの薬物動態をモニターするために、3mg/kgの単回量を2匹のイヌIとJの各々に静脈内投与した。血液サンプルを−5分間、5分間、10分間、20分間、30分間、45分間、60分間、90分間、3時間、4時間、6時間、24時間、30時間及び48時間目に回収した。血漿中の10−プロパルギル−10dAM濃度を蛍光測定による(fluorometric)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)方法によって、Econosphere C18カラム、15%アセトニトリル/KHPO50mm移動相、pH7.0を室温において1ml/分の流速度によって用いて、測定した。注入量は1μlであった。10−プロパルギル−10dAMの保持時間は18.5分間であった。
【0037】
イヌIの血漿半減期(t1/2)は動力学のα相、β相及びγ相に対して26.7分間、0.49時間及び37.4時間であった。イヌJでは、観察されたt1/2値は21.2分間、1.26時間及び16.3時間であった。種々な時点における平均血漿濃度を図7に示す。
【0038】
10−プロパルギル−10dAMの投与後30分間、1時間、2時間及び4時間目に各イヌから尿標本を回収して、HPLCによって分析した。10−プロパルギル−10dAMは主として無変化で排出された(保持時間18.5分間)。1時間目と4時間目に、それぞれ、総尿中10−プロパルギル−10dAMの<0.31%及び<3.5%を占める、6.3分間の保持時間を有する少量の代謝産物が存在した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】10−プロパルギル−10dAMの構造を示す;
【図2】先行技術によって製造された不純な10−プロパルギル−10dAM製剤のHPLCを示す;
【図3】本発明による、高度に精製された10−プロパルギル−10dAM製剤のHPLCを示す;
【図4】本発明による化合物の製造に有用な合成スキームを示す;
【図5】マウスにおける毒性試験の結果を要約する;
【図6】ラットにおける毒性試験の結果を要約する;
【図7】イヌにおける10−プロパルギル−10dAMの投与後の平均血漿濃度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンを含む薬剤組成物であって、該組成物が少なくとも98%の純度を有する10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリン及び薬剤学的に受容されるキャリヤーで製剤化されている、上記薬剤組成物。
【請求項2】
前記少なくとも98%純度の10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンが、2%未満の10−デアザアミノプテリンを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ホモテレフタル酸ジメチルエステルを臭化プロパルギルと反応させて、ホモテレフタル酸ジメチルエステルが検出されないα−プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステルを生成させるステップを含む方法により得られる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、α−プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステルを2,4−ジアミノ−6−(ブロモメチル)プテリジンと反応させて10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸メチルエステルを生成し;
酸性化して、10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ10−デアザプテロイン酸を生成し;
10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸を脱カルボキシル化して、10−プロパルギル−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸を生成し、
10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸とL−グルタミン酸ジメチルとをカップリングさせて10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンジメチルエステルを生成し、
及び10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンジメチルエステルを酸性化して、10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンを生成することにより得られる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ホモテレフタル酸ジメチルエステルを臭化プロパルギルと反応させて、ホモテレフタル酸ジメチルエステルが検出されないα−プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステルを生成させるステップを含む、請求項1に記載の組成物の調製方法。
【請求項6】
α−プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステルを2,4−ジアミノ−6−(ブロモメチル)プテリジンと反応させて10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸メチルエステルを生成し;
酸性化して、10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸を生成し;
10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸を脱カルボキシル化して、10−プロパルギル−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸を生成し、
10−プロパルギル−10−カルボメトキシ−4−デオキシ−アミノ−10−デアザプテロイン酸とL−グルタミン酸ジメチルとをカップリングさせて10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンジメチルエステルを生成し、
及び10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンジメチルエステルを酸性化して、10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンを生成するステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物の製剤化に使用される前記10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンが、図3で示されるスケールの高速液体クロマトグラフィーによって検出されるレベルの10−デアザアミノプテリンを含まない、請求項1〜4いずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1種類の付加的な細胞傷害性又は抗腫瘍性化合物をさらに含む、請求項1〜4又は7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種類の付加的な細胞傷害性又は抗腫瘍性化合物がビンカアルカロイド、5−フルオロウラシル、アルキル化剤、シスプラチン、カルボプラチン、ロイコボリン、タキソール及び抗生物質から選択される、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
腫瘍の治療用薬剤を製造するための請求項1〜4及び7〜9のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
前記10−プロパルギル−10−デアザアミノプテリンが、40〜120mg/m体表面積/日の量での投与用に製剤化されている、請求項10記載の使用。
【請求項12】
少なくとも1種類の付加的な細胞傷害性又は抗腫瘍性化合物を含む、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
前記少なくとも1種類の付加的な細胞傷害性又は抗腫瘍性化合物がビンカアルカロイド、5−フルオロウラシル、アルキル化剤、シスプラチン、カルボプラチン、ロイコボリン、タキソール及び抗生物質から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記腫瘍が乳房腫瘍又は肺腫瘍である、請求項10〜13のいずれか一項に記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−91361(P2009−91361A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295509(P2008−295509)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【分割の表示】特願平10−506133の分割
【原出願日】平成9年7月16日(1997.7.16)
【出願人】(500516056)スローン − ケッタリング インスティチュート フォー キャンサー リサーチ (14)
【出願人】(508313161)スリ インターナショナル (1)
【出願人】(508312991)
【Fターム(参考)】