説明

11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オン及びその生産方法

本発明は、11‐フルオロ置換ステロイドの調製に好適な中間体である11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オン及びその調製方法に関する。この目的のため、有機非プロトン溶媒中、−40〜−20℃で11α‐ヒドロキシエストラ‐4‐エン‐3,17‐ジオンを1〜3当量のn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド及び3〜5当量のジアザビシクロウンデセン(DBU)と反応させ、水系後処理後、5〜10当量の無水酢酸及び0.01〜1当量の強酸と反応させる。反応液から所望の生成物が自然に析出し、濾過により非常に高純度で得られる。この方法の顕著な点として、非常に高収率で、生成物をクロマトグラフィー精製する必要がなく、廃棄物を少なくし、かつ顕著に処理量を増大することが挙げられる。よって、本発明による方法は、11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンを産業的に大規模で調製するのに特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンに関する(式1)。11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オン(式1)は、
【化1】

原薬として用いられることが見出された11‐フルオロ置換ステロイドを調製するための中間体として好適である。本発明は更に、その調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
11β‐フルオロ‐7α‐置換ステロイドは、顕著なアンドロゲン性又は抗エストロゲン性作用を有する、薬理学的に極めて強力な化合物である。例として、国際公開第2004/011663号パンフレット及び国際公開第2002/059139号パンフレットに記載されたアンドロゲンや、国際公開第03/045972号パンフレット、国際公開第99/33855号パンフレット及び国際公開第98/07740号パンフレットに記載された抗エストロゲンが挙げられる。
【0003】
これらの化合物の合成における重要な工程は、11α‐ヒドロキシ置換前駆体の脱酸素フッ素化反応によって、11β‐フルオロ置換基を導入することである(国際公開第2002/059139号パンフレット)。対応するヒドロキシステロイドから対応するフッ化物に変換する脱酸素フッ素化など、第一アルコールと第2アルコールを直接変換する確立した方法が文献に記載されている(例えば、H.Vorbruggenら,Tetrahedron Letters,1995,2611;J.Yinら,Organic Letters 2004,1465;Ch.Marsonら,Synthetic Communications 2002,2125;米国特許第5,760,255号,米国特許第6,248,889号)。この方法において、好適な有機溶媒中(例えば、トルエン、キシレン、ジグリム、ジクロロメタン、ヘキサン等)で、対応するアルコールを市販のn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド及び強有機塩基(好ましくは、ジアザビシクロウンデセン(DBU))と反応させ、水系後処理(aqeous workup)、抽出及びクロマトグラフィーを行った後、対応するフッ素誘導体が単離される。
【0004】
米国特許第6,248,889号において、必要量より少し多め又は必要量以上に塩基を用いないことが有利であると記載されている脱酸素フッ素化処理について記載されている。
【0005】
Vorbruggenら(Tetrahedron Letters,1995,2611)は、トルエン中、24〜30℃で1.5当量のn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド及び3当量のDBUと反応させることにより、11α‐ヒドロキシ‐19‐ノルアンドロスタ‐4‐エン‐3,17‐ジオン(A)から対応する11β‐フルオロ化合物に変換することについて詳細に記載している。クロマトグラフィー精製後、理論値の66%の収率で11β‐フルオロ‐19‐ノルアンドロスタ‐4‐エン‐3,17‐ジオンが得られる(国際公開第2002/059139号パンフレットのB;実施例1b)、c)。
【化2】

【0006】
ドイツ特許第10104327号において、0℃で1.5当量のn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド及び2.8当量のDBUを用いた同様の反応(クロマトグラフィー後の収率74%)について記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反応及び後処理中の複数回にわたる抽出の両方において多量の溶媒が必要とされるため、これらの方法の欠点は中程度の収率だけではなく、処理量が少ないことにもある。一般的に、反応後処理後に粗生成物が得られ、その量は使用される出発物質の量より3倍大きい。粗混合物から生成物を単離するには、クロマトグラフィー精製が不可欠である。そのため、このような処理は、数キログラム単位で11β‐フルオロステロイドを調製するのに好適でない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、生成物の簡便な回収を可能とし、良好な収率及び良好な処理量が顕著である、11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オン(式1)の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここで、本発明によれば、少なくとも3.3当量超のDBUの存在下において、11β‐ヒドロキシエストラ‐4‐エン‐3,17‐ジオン(A)を1.5〜2当量のn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリドと、−40〜−20℃で恒温反応させ、pH制御された水系後処理を行い、中間体のアセチル化を行った後、11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンが意外にも反応混合物から自然と結晶化し、反応混合物を単純に濾過することにより、非常に高い収率(理論値の79〜86%)で得られることが見出された。
【0010】
例えば、塩化メチレン、トルエン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル又はベンゾトリフルオリド等の非プロトン溶媒を、脱酸素フッ素化反応に用いる溶媒としてもよい。酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0011】
第2の処理工程(アセチル化反応)において、無水酢酸又は酢酸イソプロペニルが用いられ、例えば、p‐トルエンスルホン酸(p−TsOH)、メタンスルホン酸又は硫酸、あるいは臭化水素(HBr)等の強酸存在下で酢酸ビニルが用いられる。
【0012】
p-TsOHの触媒量存在下で無水酢酸が用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
これにより良好な収率及び純度で得られた11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンを、当業者に知られている臭素化/脱水素臭素化処理における加水分解で、対応する11β‐フルオロ‐19‐ノルアンドロスタ‐4,6‐ジエン‐3,17‐ジオンに変換することができる(国際公開第2002/059139パンフレット;実施例1c)。
【0014】
これに代わって後者は、従来の処理で、更にアンドロゲン又は抗エストロゲンに変換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施例は本発明の詳細について説明するものである。他に明記がない限り、全ての温度はセルシウス度であり(未修正)、全ての量は重量パーセントで記載されている。
【実施例】
【0016】
11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オン
1. 250mlの酢酸エチル中の50gの11α‐ヒドロキシエストラ‐4‐エン‐3,17‐ジオン及び85.6mlのDBU(3.3当量)の混合物を、−35℃〜−40℃まで冷却する。そこに、100mlの酢酸エチル中の50mlのn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド(1.6当量)溶液を、激しく撹拌しながらゆっくりと−35℃で滴加する。HPLCにしたがって、11α‐ヒドロキシエストラ‐4‐エン‐3,17‐ジオン含有量が1%未満になるまで、この反応液を−35℃で15時間撹拌する。その後、−10℃になるまで加温し、更に60分間撹拌し、反応物を20mlの水と混合させる。
【0017】
冷却を除去し、反応混合物を100mlの2N硫酸と混合させる。その混合物を10℃で更に90分間撹拌する。相分離が起こり、pHを2にするために有機相を22mlの2N硫酸と混合させる。相分離が再度起こり、有機相を50mlの飽和NaHCO3溶液及び50molの飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、約160mlになるまで減圧下で濃縮する。混合物を200mlの酢酸エチルと2回混合させ、約160mlになるまで減圧下60℃で濃縮する。これにより、撹拌可能な結晶スラリーがその都度得られる。
【0018】
147.1mlの無水酢酸(9当量)を、撹拌可能な結晶スラリーに20℃で加える。その混合物を0℃まで冷却する。4時間以内に、合計で2.24mlのメタンスルホン酸(0.4当量)を3回に分けて加える。混合物を0℃で更に44時間撹拌し、そして、析出反応生成物を吸引濾過し、40mlの氷冷した酢酸イソプロピルで4回洗浄し、減圧下40℃で乾燥させる。
【0019】
これにより、薄いベージュ色の結晶質固体として、11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンが49.6g(理論値の86.1%)得られる。
【0020】
融点:175〜177℃;[α]D=CHCl中−32.3°;H NMR(CHCl中のδ):5.82[1H,d,J=2Hz],5.50[1H,m],5.08[1H,d(br),J=49Hz],2.15[3H,s],1.04 [3H,d,J=1.5Hz][ppm]。
【0021】
2. 0.5kgの11α‐ヒドロキシエストラ‐4‐エン‐3,17‐ジオン及び856mlのDBU(3当量)を3.25Lの酢酸エチルに懸濁させ、−35〜−40℃まで冷却する。そこに、250mlの酢酸エチル中の500mlのn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド(1.6当量)の溶液を120分以内に加える。
【0022】
添加し終えた後、反応液を−35℃で6時間撹拌する。その後、30分以内に−10℃まで加温する。混合物を更に120分間−10℃で撹拌放置し、反応物を600mlの2N硫酸と混合させる。その混合物を更に60分間撹拌しながら、30℃まで加温する。
【0023】
相分離が起こり、pHを3にするために有機相を600mlの2N硫酸と混合させる。相分離が再度起こり、有機相を800mlの飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、120mbar下60℃で約1.8Lになるまで濃縮する。混合物をそれぞれ1.5Lの酢酸エチルと2回混合し、120mbar下60℃で約1.8Lになるまで濃縮する。これにより、撹拌可能な結晶スラリーがその都度形成され、その後1.471Lの無水酢酸(9当量)と混合させる。混合物を0℃まで冷却し、132gのp‐トルエンスルホン酸(0.4当量)を加えた後、0℃で24時間撹拌する。析出反応生成物を吸引濾過し、500mlの氷冷した酢酸エチルで5回洗浄し、減圧下40℃で乾燥させる。
【0024】
これにより、薄いベージュ色の結晶質固体として、11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンが475g(理論値の82.5%)得られる。
【0025】
11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンから11β‐フルオロ‐19‐ノルアンドロスタ‐4‐エン‐3,17‐ジオンへの加水分解による変換
950gの11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンを10Lのメタノールに溶解させる。そこに、2.0Lの飽和炭酸カリウム溶液を50℃で加える。5時間後に反応混合物を室温まで冷却し、減圧下で約3Lになるまで濃縮する。析出生成物を濾過し、水で洗浄して、乾燥させる。これにより、白い固体で融点が171〜173℃である11β‐フルオロ‐19‐ノルアンドロスタ‐4‐エン‐3,17‐ジオンが755g(理論値の91%)得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オン。
【請求項2】
有機非プロトン溶媒中、−40〜−20℃で11α‐ヒドロキシエストラ‐4‐エン‐3,17‐ジオンを1〜3当量のn‐ノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド及び3〜5当量のジアザビシクロウンデセン(DBU)と反応させ、水系中間体後処理後、0.01〜1当量の強酸存在下で5〜10当量のアセチル化剤と反応させ、反応混合物を濾過することにより析出生成物を得ることを特徴とする11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンの調製方法。
【請求項3】
3当量超のDBUが用いられることを特徴とする請求項2記載の11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンの調製方法。
【請求項4】
前記溶媒として酢酸エチルが用いられることを特徴とする請求項2記載の11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンの調製方法。
【請求項5】
アセチル化剤として無水酢酸を用いることにより反応が生じることを特徴とする請求項2記載の11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンの調製方法。
【請求項6】
前記強酸としてp‐トルエンスルホン酸(p‐TsOH)を用いることにより反応が生じることを特徴とする請求項2記載の11β‐フルオロ‐3‐アセトキシエストラ‐3,5‐ジエン‐17‐オンの調製方法。

【公表番号】特表2011−500740(P2011−500740A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530316(P2010−530316)
【出願日】平成20年10月18日(2008.10.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008833
【国際公開番号】WO2009/053008
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】