説明

13C標識ベンゼンの製造方法及び13C標識ベンゼン誘導体

【課題】炭素安定同位体の含量比率を天然存在比率と異なるよう濃縮した13CH4又は13CO2を出発原料として、13C標識ベンゼンなどの芳香族化合物を合成する方法を確立すること。13C標識ベンゼン誘導体を提供すること。
【解決手段】金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む、[13C6]-ベンゼンの製造方法。[13C2]-アセチレンは、[13C]-メタン中で非平衡放電を行って生成させるとよい。あるいは、13CO2と金属リチウムを反応させて、Li213C2を生成した後、Li213C2と水を反応させて、[13C2]-アセチレンを生成させてもよい。13CO2は、酸素雰囲気下で[13C]-メタンを燃焼させることにより得られる。[13C6]-ベンゼンから、1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオール類を製造する方法及び[13C6]-ベンゼン誘導体も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、13C標識ベンゼンの製造方法及び13C標識ベンゼン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
安定同位体(13C)はNMR、MS等で特異的に検出できるため医薬品探索や生体代謝の解明に応用される事が期待される(非特許文献1)。しかしながら、現在のところ13Cを含む化合物は非常に市場価格が高く、これらを用いる研究開発には安定同位体導入化合物の入手法などに限りがある。
【0003】
【非特許文献1】Steroids 55:440-442, 1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、炭素安定同位体の含量比率を天然存在比率と異なるよう濃縮した13CH4又は13CO2を出発原料として、13C標識ベンゼンなどの芳香族化合物を合成する方法を確立することを目的とする。
また、本発明は、13C標識ベンゼン誘導体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、13CO2を高温で溶かしたLiと反応させ生成したlithium carbideを加水分解して[13C2]-acetyleneを生成し、続いてV2O5で三量化させることで全ての炭素がラベルされた[13C6]-benzeneを合成した。得られた[13C6]-benzeneを用いてニトロ化、ブロモ化等を行い様々な多置換[13C6]-benzeneを合成した。これらは様々な芳香環を含む有機化合物の合成に有用な中間体である。さらに、本発明者らは、[13C6]-benzeneの合成法を活用し、A環をすべて13C6でラベル化したエストラジオールを合成した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
(1)金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む、[13C6]-ベンゼンの製造方法。
(2)[13C]-メタン中で非平衡放電を行って、[13C2]-アセチレンを生成させる工程、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む(1)記載の方法。
(3)13CO2と金属リチウムを反応させて、Li213C2を生成する工程、Li213C2と水を反応させて、[13C2]-アセチレンを生成させる工程、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む(1)記載の方法。
【0007】
(4)酸素雰囲気下で[13C]-メタンを燃焼させて、13CO2を発生させる工程、13CO2と金属リチウムを反応させて、Li213C2を生成する工程、Li213C2と水を反応させて、[13C2]-アセチレンを生成させる工程、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む(3)記載の方法。
(5)[13C6]-ベンゼンから、下記の式(I)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオール類を製造する方法。
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよい。)
【化1】

(6)下記の式(17)で表される化合物を脱保護することにより、下記の式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールを生成する工程を含む(5)記載の方法。
(式中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよい。)
【化2】

【化3】

(7)下記のいずれかの工程を含む(5)記載の方法。
【化4】

スキーム中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよく、
式(5)の化合物から式(6)の化合物への変換は、式(5)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行い、
式(6)の化合物から式(7)の化合物への変換は脱シリル化反応により行い、
式(7)の化合物と式(8)の化合物の反応は金属触媒存在下で行い、
式(8)の化合物から式(9)の化合物への変換は、金属触媒存在下で、式(8)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行い、
式(9)の化合物から式(10)の化合物への変換は脱シリル化反応により行い、
式(10)の化合物と式(5)の化合物の反応は金属触媒の存在下で行い、
式(11)の化合物から式(12)の化合物への変換は、酸化剤又は水素受容体を用いる酸化反応により行い、
式(12)の化合物から式(13)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行い、
式(13)の化合物から式(14)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行い、
式(14)の化合物から式(15)の化合物への変換は、酸触媒、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩又は金属スルホン酸塩を利用して行い、
式(15)の化合物から式(16)の化合物への変換は還元剤を利用して行うか、あるいは接触水素化により行い、
式(16)の化合物から式(17)の化合物への変換は、R2と酸素原子との結合を切断する反応により行い、
式(17)の化合物から式(1)の化合物への変換は脱保護により行う。
【0008】
(8)下記のいずれかの式で表される[13C6]-ベンゼン誘導体。
(式中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよい。)
【化5】

【0009】
(9)[13C6]-ベンゼン誘導体が、下記の式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールである(8)記載の[13C6]-ベンゼン誘導体。
(式中、●は13C原子である。)
【化6】

【発明の効果】
【0010】
本発明により、13C標識ベンゼン及びその誘導体が得られた。これらの化合物は、様々な芳香環を含む有機化合物の合成に有用な中間体である。また、生体代謝において重要な意義をもつステロイドであるエストラジオールの13C(天然存在比が1.1%である)を濃縮、つまりラベル化することで追跡が容易となり、代謝過程の詳細な解析ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む、[13C6]-ベンゼンの製造方法を提供する。
金属触媒としては、バナジウム、クロム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウムなどの遷移金属及びそれらの化合物のうち一つ以上を含むものを例示することができ、ゼオライト触媒としては、MCM22、ZSM5、ベータ、モルデナイト、エリオナイト、ファージャサイトX、ファージャサイトYのうち一つ以上を含むものを例示することができ、これらの触媒のうち、五酸化バナジウム(V2O5)、三価クロムなどが好ましい。
【0012】
触媒の量は、[13C2]-アセチレン1 gに対して、1〜300gとするとよく、好ましくは20〜80gである。
金属触媒及び/又はゼオライト触媒(特に、バナジウム含有触媒)の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する反応は、常温、常圧で進行するが、反応初期には[13C2]-アセチレンの圧力を10〜40kPaとするとよい。触媒を反応容器に入れ、低温で[13C2]-アセチレンを触媒に吸着させて反応を行い、反応後は、200℃に加熱して触媒から生成物の脱離を行うとよく、この反応容器にはベンゼンを捕集するためのトラップを接続しておくとよい。反応開始から30分間は急速に反応が進行するが、後は徐々に進行する。この反応は発熱反応であるので、触媒の入ったカラムを冷却しながら行う。
【0013】
反応時間は、0.2〜12時間とするとよく、好ましくは1〜3時間である。
反応終了後、触媒カラムを100〜200℃に2〜3時間位加熱し、液体窒素で冷却したトラップにベンゼンを凍結凝固させるとよい。ベンゼンを捕集した後、液体窒素をトラップから外し、トラップを放置して、凍結ベンゼンを自然溶解させる。合成したベンゼンは冷凍して保存するとよい。
[13C2]-アセチレンは、例えば、非平衡放電を用いて[13C]-メタンを直接改質することで得られる。この反応は、常温、常圧、無触媒条件で行うことができ、高転化率、高選択率で[13C2]-アセチレンを得ることができる。
【0014】
非平衡放電としては、低エネルギーパルス放電(LEP放電)、常圧グロー放電、誘電体バリア放電(DBD)、スパーク放電、グリッドアーク放電などを例示することができ、このうち、低エネルギーパルス放電(LEP放電)やスパーク放電が好ましい。
【0015】
低エネルギーパルス放電(LEP放電)で[13C]-メタンを直接改質するには、図1に示すような流通式反応器を用いるとよい。反応器には、電極を設置する。原料ガス([13C]-メタン)は、He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、N2、O2、H2、CO2、水蒸気で希釈するとよい。原料ガスで反応器内を十分に置換した後、電流を流して放電を起こすとよい。Gap Distanceは、0.5〜15mmが適当であり、2.5〜7.5mmが好ましい。Total flowは3〜300 cc min-1が適当であり、10〜50 cc min-1が好ましい。パルス周波数は、10〜5000Hzが適当であり、50〜250Hzが好ましい。[13C]-メタンの濃度は、10〜100%が適当であり、10〜70%が好ましい。圧力は常圧、温度は常温とするとよい。図1に示すサンプリングポート(B)から生成ガスを採取し、ガスクロマトグラフィーで分析するとよい。
【0016】
[13C2]-アセチレンの合成の別法として、例えば、13CO2と金属リチウムの反応によりLi213C2を生成し、Li213C2を加水分解して、[13C2]-アセチレンを生成することができる。
13CO2は、酸素雰囲気下で[13C]-メタンを燃焼させて、13CO2を発生させることにより得られる(特開平6-16408号公報を参照のこと)。13CO2は液体窒素でトラップしておくとよい。
13CO2と金属リチウムの反応及びLi213C2の加水分解は以下のようにして行うとよい。反応釜に金属リチウムを入れ、180〜700℃好ましくは、550〜650℃に加熱し、液体窒素でトラップした13CO2を昇華させ、反応釜に導入し、0.5〜6時間、好ましくは、1.5〜3時間反応させる。13CO2と金属リチウムのモル比は、5〜20が適当であり、7〜10が好ましい。上記の反応で生成したLi213C2に水を滴下すると、[13C2]-アセチレンが生成する。Li213C2に対する水の量は、モル比で200〜1000とするとよい。
【0017】
本発明は、[13C6]-ベンゼンから、下記の式(I)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオール類を製造する方法も提供する。
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよい。)
【化7】

[13C6]-ベンゼンは、上記の方法で製造することができる。
【0018】
およびRのアルキル基としては、置換又は非置換の炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基、2-シリルエチル基、ターシャリーブチル基、アリル基、1-アルコキシメチル基)などを例示することができ、このうち、メチル基、ターシャリーブチル基などが好ましい。なお、アルキル基の置換基としては、炭素数6〜14の芳香族基(フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルなど)、シリル基、炭素数2〜6のアルケニル基(ビニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニルなど)、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec.−ブトキシ、t.−ブトキシなど)などを挙げることができる。
【0019】
およびRのアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,プロポキシカルボニル基,ブトキシカルボニル基などの炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基)、カルバモイル基などを例示することができ、このうち、ピバロイル基、ベンゾイル基などが好ましい。
【0020】
およびRのシリル基としては、置換又は非置換のシリル基(例えば、トリメチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基、ジフェニル‐メチルシリル基)などを例示することができ、このうち、ターシャリーブチルジメチルシリル基が好ましい。シリル基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ターシャリーブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などの炭素数6〜14の芳香族基などを例示することができる。
およびRの他の置換基としては、テトラヒドロピラニル基、フェニル基、2−ピリジルなどを例示することができ、このうち、テトラヒドロピラニルなどが好ましい。
【0021】
上記のアルキル基、アシル基、他の置換基の中には、(化合物5または)化合物8から化合物16までの合成反応経路の各反応段階およびその後処理中で除去されるものもあり、この場合は脱保護されたものを、適宜、上記に示された置換基により再保護してその後の合成反応を行うことができる。このような脱保護‐再保護を避けるためには、R1としてメチル基、R2としてピバロイル基を利用することが最も望ましい。
【0022】
式(I)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオール類としては、下記の式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールやその合成中間体などを例示することができる。
【化8】

式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールは、下記の式(17)で表される化合物を脱保護することにより得られる。
(式中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよい。)
【化9】

式(17)で表される化合物の脱保護は、脱保護剤(例えば、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、ヨウ化トリメチルシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルフォナートなどのエーテル結合切断反応剤)を用いて、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサンなどのジアルキル系エーテルなどの溶媒中、−78℃〜40℃で0.5〜24時間反応させて行うとよい。
【0023】
式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールの製造方法の一例を以下に示す。本発明の1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオール類の製造方法は下記のいずれかの工程を含むものであるとよい。
【化10】

【0024】
スキーム中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよく、
式(5)の化合物から式(6)の化合物への変換は、式(5)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行い、
式(6)の化合物から式(7)の化合物への変換は脱シリル化反応により行い、
式(7)の化合物と式(8)の化合物の反応は金属触媒存在下で行い、
式(8)の化合物から式(9)の化合物への変換は、金属触媒存在下で、式(8)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行い、
式(9)の化合物から式(10)の化合物への変換は脱シリル化反応により行い、
式(10)の化合物と式(5)の化合物の反応は金属触媒の存在下で行い、
式(11)の化合物から式(12)の化合物への変換は、酸化剤又は水素受容体を用いる酸化反応により行い、
式(12)の化合物から式(13)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行い、
式(13)の化合物から式(14)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行い、
式(14)の化合物から式(15)の化合物への変換は、酸触媒、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩又は金属スルホン酸塩を利用して行い、
式(15)の化合物から式(16)の化合物への変換は還元剤を利用して行うか、あるいは接触水素化により行い、
式(16)の化合物から式(17)の化合物への変換は、R2と酸素原子との結合を切断する反応により行い、
式(17)の化合物から式(1)の化合物への変換は脱保護により行う。
【0025】
のアルキル基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、メチル基、ターシャリーブチル基、アリル基、ベンジル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
R1のアシル基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基が好ましく、ピバロイル基がより好ましい。
のシリル基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、ターシャリーブチルジメチルシリル基、トリメチルシリル基、ジフェニルメチル基が好ましく、ターシャリーブチルジメチルシリル基がより好ましい。
のアルキル基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、メチル基、ターシャリーブチル基、アリル基、ベンジル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0026】
のアシル基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基が好ましく、ピバロイル基がより好ましい。
のシリル基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、ターシャリーブチルジメチルシリル基、トリメチルシリル基、ジフェニルメチル基が好ましく、ターシャリーブチルジメチルシリル基がより好ましい。
及びRの他の置換基は上記の通りであるが、上記のスキームにおいては、テトラヒドロピラニル、フェニル、メトキシメチルが好ましく、メトキシメチルがより好ましい。
式(5)の化合物は、後述の実施例3〜7に記載のようにして、[13C6]-ベンゼンから製造することができる。
【0027】
式(5)の化合物から式(6)の化合物への変換は、式(5)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行う。例えば、式(5)の化合物の0.005当量から1当量の塩化パラジウムジトリフェニルホスフィン錯体存在下でジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン極性溶媒、THF、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエンなどの炭化水素溶媒、ジクロロメタンなどのハロゲン系炭化水素溶媒などの溶媒中で0℃〜150℃反応で0.5から12時間、式(5)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行うとよい。
【0028】
式(6)の化合物から式(7)の化合物への変換はシリルアセチレン類の脱シリル化反応であり、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、または酸やその塩を含む水溶液、または酸やその塩を含む有機溶媒(THF、ジオキサン、ジエチルエーテル、メチルシクロプロピルエーテルなどのジアルキル系エーテルや環状エーテル、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、アセトン、アセトニトリル中で行うことができる。最適な方法として塩としてフッ化テトラブチルアンモニウム(脱シリル化剤)をTHF溶媒中で混ぜて行うとよい。
【0029】
式(7)の化合物と式(8)の化合物の反応は金属触媒存在下で行う。この反応は、式(7)の化合物と式(8)の化合物を金属触媒存在下で混ぜて行うことができる。最適な金属触媒としてパラジウム金属またはパラジウムを含む化合物を用いることができる。また、Grdson G. NwokoguがJ. Org. Chem1985、50、3900−3908に報告している記載の方法を参考に、金属触媒とともにトリフェニルホスフィン配位子および塩基を存在させて反応を行うこともできる。式(7)の化合物と式(8)の化合物の反応は、(7)の化合物の0.005当量から1当量の塩化パラジウムジトリフェニルホスフィン錯体触媒存在下でジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン極性溶媒、THF,、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエンなどの炭化水素溶媒、ジクロロメタンなどのハロゲン系炭化水素溶媒などの溶媒中で0℃〜150℃反応で0.5から12時間反応させることにより行うとよい。式(7)の化合物と式(8)の化合物のモル比は、02:1〜5:1が適当であり、1:1.5〜1.5:1が好ましい。
【0030】
式(8)の化合物から式(9)の化合物への変換は、金属触媒存在下で、式(8)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行う。この反応は、金属触媒存在下で、式(8)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを混ぜて行うことができる。最適な金属触媒としてパラジウム金属またはパラジウムを含む化合物を用いることができる。また、Grdson G. NwokoguがJ. Org. Chem1985、50、3900−3908に報告している記載の方法を参考に、金属触媒とともにトリフェニルホスフィン配位子および塩基を存在下反応を行うこともできる。式(8)の化合物から式(9)の化合物への変換は、化合物(8)と0.005当量から1当量の酢酸パラジウム、パラジウムに対して0.1当量から10当量のトリフェニルホスフィン存在下で、トリメチルシリルアセチレンおよびピロリジンを加え、二時間、溶媒を加熱還流して行うとよい。
【0031】
式(9)の化合物から式(10)の化合物への変換はシリルアセチレン類の脱シリル化反応であり、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、または酸やその塩を含む水溶液、または酸やその塩を含む有機溶媒(THF、ジオキサン、ジエチルエーテル、メチルシクロプロピルエーテルなどのジアルキル系エーテルや環状エーテル、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、アセトン、アセトニトリル)中で行うことができる。最適な方法として塩としてフッ化テトラブチルアンモニウム(脱シリル化剤)を有機溶媒中で混ぜて行う。具体的には、化合物(9)をフッ化テトラブチルアンモニウムを含むTHF溶液で、室温で0.5〜18時間攪拌しながら、変換を行うとよい。
【0032】
式(10)の化合物と式(5)の化合物の反応は金属触媒の存在下で行う。この反応は、金属触媒存在下で、式(10)の化合物と式(5)の化合物を混ぜて行うことができる。最適な金属触媒としてパラジウム金属またはパラジウムを含む化合物を用いることができる。また、金属触媒とともにトリフェニルホスフィン配位子や銅塩、塩基を存在させて行うことができる。具体的には、式(10)の化合物と式(5)の化合物の反応は金属触媒の存在下で、(5)の化合物の0.005当量から1当量の塩化パラジウムジトリフェニルホスフィン錯体存在下でジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン極性溶媒、THF,、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエンなどの炭化水素溶媒、ジクロロメタンなどのハロゲン系炭化水素溶媒などの溶媒中で0℃〜150℃反応で0.5から12時間行うとよい。金属触媒としては、塩化パラジウム(II)ビストリフェニルホスフィン錯体、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ヨウ化銅及びそれらの組み合わせなどを例示することができ、このうち、塩化パラジウム(II)ビストリフェニルホスフィン錯体とヨウ化銅の組み合わせ、酢酸パラジウムなどのパラジウム塩と三価のリン化合物との組み合わせなどが好ましい。式(10)の化合物と式(5)の化合物のモル比は、0.2:1〜5:1が適当であり、1:1.5〜1.5:1が好ましい。
【0033】
式(11)の化合物から式(12)の化合物への変換は、酸化剤又は水素受容体を用いる酸化反応により行う。最適な酸化剤としてヨウ素化合物を用いるデス‐マーチン酸化により行うことができる。式(11)の化合物から式(12)の化合物への変換は、ジクロロメタンなどの有機溶媒に化合物(11)をに溶かし、1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンズヨードキソール-3(1H)-オン(通称デス・マーティン試薬)で、0℃〜50℃で10分〜3時間攪拌して行うとよい。
【0034】
式(12)の化合物から式(13)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行う。触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、イリジウム、ルテニウム金属及びそれらの化合物や担持触媒を例示することができ、溶媒としてはアルコール、酢酸エチル、酢酸などの溶媒を例示することができ、このうち、パラジウムを硫酸バリウムに担持した触媒を用いて、メタノール溶媒中1気圧から50気圧の水素圧下、室温で30分から6時間反応させることが望ましい。
【0035】
式(13)の化合物から式(14)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応によりおこなう。触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、イリジウム、ルテニウム金属及びそれらの化合物や担持触媒を例示することができ、反応はアルコール、酢酸エチル、酢酸などの溶媒中で、1気圧から50気圧の水素を用いておこなうことができる。このうち、パラジウム炭素を用いて、1気圧から20気圧の水素化で、エタノール溶媒中で30分から5時間反応させることでおこなうことが望ましい。
化合物(14)から化合物(16)への変換は、Kunio Ogasawaraらが報告した(Chem. Pharm. Bull, 2003, 51, (1)104−106)に記載の類似化合物25から28への合成方法に基づき行う。
【0036】
式(14)の化合物から式(15)の化合物への変換は、酸触媒、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩又は金属スルホン酸塩を利用して行う。例えば、酸触媒、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩又は金属スルホン酸塩を利用して、ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、エタノールやエチレングリコールなどのアルコール溶媒、エーテル、THF、ジオキサンなどのエーテル系溶媒中で0℃〜150℃、30分〜12時間で式(14)の化合物から式(15)の化合物への変換を行うとよい。酸触媒としては、パラ−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、塩酸などを例示することができ、このうち、パラ−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが好ましい。金属ハロゲン化物としては、三塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズなどを例示することができる。金属カルボン酸としては、トリフルオロ酢酸銅(II)、トリフルオロ酢酸水銀、金属スルホン酸としてトリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸を例示することができる。
【0037】
式(15)の化合物から式(16)の化合物への変換は接触水素化または還元剤を利用して行う。そのうち接触水素化では、アルコール、酢酸エチル、酢酸などの溶媒中でパラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、イリジウム、ルテニウム金属及びそれらの化合物や担持触媒を用い、1気圧から50気圧の水素圧下反応を行うとよい。還元剤としては、ボランなどのホウ素化合物やアルキルシランなどのケイ素化合物などを例示することができ、このうち、トリエチルシランを用いてトリフルオロ酢酸などの酸の存在下トルエン溶媒中、0℃から30℃で0.5時間〜20時間攪拌して行うことが望ましい。
【0038】
式(16)の化合物から式(17)の化合物への変換は、R2と酸素原子との結合を切断する反応により行う。例としては、酸またはアルカリによる加水分解法あるいはヒドリド化合物、有機金属化合物によるエステルの反応によりおこなう。式(16)の化合物から式(17)の化合物への変換は脱保護剤を用いて行うことができる。R2の保護にピバロイル基を利用した場合は、ピバリン酸エステルを酸やアルカリで加水分解やアルコールを用いるエステル交換反応が可能であるが、さらに望ましくは、ヘキサンやトルエンなどの炭化水素溶媒やジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒中でヒドリド試薬と−78℃〜50℃で反応させ、還元的にピバロイル基の除去を行うとよい。脱保護剤としては、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、水素化アルミニウムヒドリドなどを例示することができ、このうち、ヘキサン-ジクロロメタン中でジイソブチルアルミニウムハイドライドを用いて、-23℃〜30℃で15分〜3時間攪拌して除去することが望ましい。
【0039】
式(17)の化合物から式(1)の化合物への変換は脱保護により行う(上記の通り)。R1にメチル基で保護したメチルエーテルでは、ジクロロメタン中で、化合物(17)を三臭化ホウ素で−78℃〜50℃で30分から5時間反応させて行うことが望ましい。
また、本発明は、下記のいずれかの式で表される[13C6]-ベンゼン誘導体を提供する。
(式中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよい。)
【化11】

およびRは、上記の通りである。
【0040】
本発明の[13C6]-ベンゼン誘導体のうち、下記の式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールは、ラベル化することで追跡が容易となり、代謝過程の詳細な解析ができると思われる。安定同位体(13C)はNMR、MS等で特異的に検出できるため、薬物動態研究・診断薬開発への応用が期待できる。本発明の他の[13C6]-ベンゼン誘導体は、1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールを合成するための中間体として利用できる。
(式中、●は13C原子である。)
【化12】

【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕[13C6]ベンゼンの合成(1)
本実施例においては、非平衡放電の一つである低エネルギーパルス放電(LEP放電)を用いた12CH4からの12C2H2の合成について検討を行い、また13CH4を用いた場合でも同様に反応が進むかどうかについても検討した。
【0043】
実験方法
本実験では図1に示すような流通式反応器を用いた。石英製の管型反応器(外径8 mm、 内径6 mm)内に両側から先端を尖らせたSUS304の棒状電極(外径2.0 mm)をさしこみ、Teflon製のジョイント内に設けたシリコン栓によって固定した。本実験は全て常温・常圧・無触媒条件下で行った。原料ガスとしては、12CH4及び13CH4を用いArで希釈した。原料ガスで充分に反応器内が置換された後、電流を流して放電を起こし、放電開始から120秒後にサンプリングポートから生成ガスを採取しGC-FID(島津製作所製GC-14B、充填カラム:Porapak N)、GC-TCD(島津製作所製GC-14B、充填カラム:Molecular Sieve 5A)により定性、定量を行った。また、パルス周波数及び放電波形は放電開始30秒後にDigital phosphor oscilloscope(Tektronix製)により計測した。本研究における実験条件を表1に示す。また、GCの測定条件を表2 に示す。
【表1】

【表2】

【0044】
実験結果及び考察
1. 12CH4を原料とした実験
まずは本反応系におけるCH4の挙動、及びC2H2の生成に関する知見を得るため、12CH4を原料として実験を行った。
【0045】
1-1. 電極間距離に関する検討
まず流量を30 cc min-1, パルス周波数を100 Hz, CH4濃度を30%に固定し、電極間距離を変化させて実験を行った。実験結果を表3に示す。
【表3】

また、電極間距離とCH4転化率、生成ガスの選択率、及びC2化合物の選択率(carbon base)の関係を図2, 図3, 図4に示す。この結果、電極間距離を増加させると転化率はそれぞれ33.4%,57.1%,64.5%と増加した。これは、電極間距離が増加することで放電場が拡大し、その結果CH4と電子との衝突頻度が大きくなり、解離が進行したためだと考えられる。また、選択率は電極間距離に関わらず一定であり、C2H2の選択率はcarbon base で95%以上であった。このことから、電極間距離を増加させることでC2H2を選択的に生成可能であることが確認された。
【0046】
1-2. 流量に関する検討
次に電極間距離を5.0 mm, パルス周波数を100 Hz, CH4濃度を30%に固定し、流量を変化させて実験を行った。実験結果を表4に示す。
【表4】

また、流量とCH4転化率、生成ガスの選択率、及びC2化合物の選択率(carbon base)の関係を図5, 図6, 図7 に示す。この結果、流量を減少させると転化率はそれぞれ 38.3%, 57.1%, 59.6% と増加した。これは、流量が減少することでCH4の放電場での滞留時間が増加し、その結果、電子との衝突頻度が大きくなり解離が進行したためであると考えられる。また、選択率は流量に関わらず一定であり、C2H2の選択率はcarbon base で95%以上であった。このことから、流量を減少させることでC2H2を選択的に生成可能であることが確認された。
【0047】
1-3. パルス周波数に関する検討
続いて電極間距離を5.0 mm, 流量を30 cc min-1, CH4濃度を30%に固定し、パルス周波数を変化させて実験を行った。実験結果を表5 に示す。
【表5】

また、パルス周波数とCH4転化率、生成ガスの選択率、及びC2化合物の選択率(carbon base)の関係を図8, 図9, 図10に示す。この結果、パルス周波数を増加させると転化率はそれぞれ 45.6 %, 62.1%, 81.5% と増加した。パルス周波数を増加するということは電流値、すなわち投入電力を増加させるということであり、その結果、加速電子を増加させることができる。そのため、電子とCH4との衝突頻度が大きくなり転化率が増加したものと考えられる。また、選択率はパルス周波数に関わらず一定であり、C2H2の選択率はcarbon base で95%以上であった。このことからパルス周波数を増加させることでC2H2を選択的に生成可能であることが確認された。
【0048】
1-4. 原料ガス中のCH濃度に関する検討
電極間距離を7.5 mm, 流量を30 cc min-1, パルス周波数を100 Hzに固定し、CH4濃度を変化させて実験を行った。実験結果を表6 に示す。
【表6】

また、CH4濃度とCH4転化率、生成ガスの選択率、及びC2化合物の選択率(carbon base)の関係を図11, 図12, 図13 に示す。この結果、CH4濃度の増加に対して転化率はそれぞれ65.9%, 65.0%, 64.4%, 52.8% となり、CH4濃度が70 %程度まで増加させると転化率が大きく減少することがわかった。これは、電子と衝突し改質されるCH4の分子数には上限があり、CH4濃度が大きくなったため放電場に導入されるCH4分子数の増加がその数の増加と比較して大きくなってしまったためであると考えられる。さらには、CH4濃度が低い場合は、励起されたAr*がCH4の解離を促進した可能性や、気相が十分に混合されていることで、電子とCH4との衝突頻度の低下が、全体のメタン分子数の低下に比べ、比較的小さかった可能性も考えられる。また、選択率はCH4濃度に関わらずほぼ一定であり、C2H2の選択率はcarbon base で95%以上であったが、CH4濃度が10 %の点でのみC2H2の選択率が93.1%と若干の低下が見られた。これは、気相の大部分がArであるために、電子とArが衝突し、電子のエネルギーが低下したこと、また励起されたAr*とCH4との衝突によりCH3ラジカルの数が増加したことが考えられる。なお、このC2H2生成メカニズムについては次項で述べる。これらより、原料ガスにある程度のArを共存させることで転化率が向上し、C2H2をより高収率で得ることができることが示唆された。
【0049】
1-5. 炭素析出量に関する検討
前項での結果を受け、管壁に析出する炭素量に関する検討を行った。実験は、電極間距離7.5 mm, 流量30 cc min-1, CH4濃度30%, パルス周波数100 Hz を基本パラメータとし、このうち3つを固定、1つを変化させて行った。また、炭素析出量は原料ガスの流量、及び生成ガスの生成速度から化学量論式を求め、式中のCの係数から見積もった。なお、ここで言う化学量論式の係数とは、CH4の係数を2としたときのものである。各パラメータと炭素析出量の関係を表7 及び図14, 図15, 図16, 図17 に示す。この結果、炭素析出量は流量、及びパルス周波数にはほぼ依存しないが、電極間距離、及びCH4濃度には依存する傾向を示した。
【表7】

電極間距離については、増加させることで炭素析出量が減少した。炭素析出は、主にCラジカル及び気体のC2のクエンチと、C2H2の分解によって起こると思われるが、電極付近以外の比較的クエンチされにくい部分では、Cラジカル、及びC2は反応場のCHxラジカルやH2と反応し、CHxラジカルまたはC2H2になるものと思われる。よって、電極間距離が増加することで放電場全体に対して、ラジカル種がクエンチされる電極付近の割合が小さくなるため、炭素析出が抑えられると考えられる。
また、CH4濃度に関しては、減少させることで炭素析出量が減少した。これは全体のCHxラジカル数にくらべ、Arの比率が高くなることから、Arが電子と衝突し、電子のエネルギーを低下させることによってCラジカルの生成及び、C2H2と電子との衝突による分解を防いだものと考えられる。
【0050】
1-6. GC-MSによる生成ガスの定性
生成ガスの主成分はGC-FID, GC-TCDでの測定結果から、H2およびC2化合物であることが確認されたが、より詳細な検討を行うため、GC-MS(島津精製所製,GCMS-QP2010)を用いて生成ガスの定性を行った。測定条件を表8に、GC-MSのスペクトルを図18に、Massのフラグメントを図19に示す。
【表8】

この結果、ごく少量のC3H4, C4H4, C4H2も生成していることが示唆された。これらのC3、C4炭化水素はいずれも三重結合を有しており、上述した反応メカニズムの観点からも、生成する可能性があると考えられ、反応メカニズムの裏づけとなった。
【0051】
2. 13CH4での検証
上記の結果より、各種パラメータを設定することでCH4から選択率を高く保ったまま高転化率でC2H2が得られることが確認できた。同位体を用いても結合エネルギーに違いがないと考えられることから、本反応系においては13CH4でも同様に反応が進むと考えられるが、前例がないため、検証を行った。
【0052】
2-1. パルス周波数に関する検討
電極間距離を7.5 mm, 流量を30 cc min-1, CH4濃度を50%に固定し、パルス周波数を50, 75, 100, 150 Hz と変化させて実験を行った。実験結果を表9に示す。
【表9】

また、パルス周波数とCH4転化率、生成ガスの選択率、及びC2化合物の選択率(carbon base)の関係を図20, 図21, 図22に示す。この結果、パルス周波数を増加させると転化率はそれぞれ、50.6%, 64.9%, 68.0%, 80.3%と増加した。このことにより、本反応において13CH4はパルス周波数の増加に伴い、選択率は一定のまま転化率が向上するという、12CH4を原料としたときと同様の傾向を示すことが確認された。このことから、本反応系においては、13CH4を原料としても、各種パラメータの変化に対し、転化率、選択率ともに12CH4を原料としたときと同様の挙動を示すことが示唆された。
【0053】
2-2. 原料ガスの違いによる検討
続いて、比較のために同条件において12CH413CH4を原料とした実験を行った。実験条件としては電極間距離を7.5 mm, 流量を30 cc min-1, CH4濃度を50%に固定し、パルス周波数を変化させて検討を行った。実験結果を表10に示す。
【表10】

また、両者を比較したグラフを図23, 図24, 図25に示す。この結果より、転化率、選択率ともに同様の挙動、及び同程度の値を示すことが確認された。これは、放電を用いた改質が分子と電子との衝突により進行することから、結合エネルギーに大きく寄与していること、また同位体を用いても結合エネルギーに違いが出ないと考えられることから、反応が同様に進んだものと考えられる。このことにより、本反応系においては13CH4を原料としても12CH4を原料としたときと同様に反応が進行することが示唆された。
【0054】
2-3. GC-MSによる生成ガスの定性
本実験では13C同位体を用いていることから、より詳細な検討を行うため、GC-MSを用いて生成ガスの定性を試みた。測定条件は、12CH4を原料としたときと同様である。また、GC-MSのスペクトルを図26に、Massのフラグメントを図27に示す。この結果、12CH4を用いたときと同様に、ごく少量のC3炭化水素、C4炭化水素も生成している可能性が示唆されたが、C2以下の炭化水素の分離はできず、正確な定性はできなかった。しかし、GC-FIDで定性した際に同条件で12CH4を原料として用いたときとピーク位置、エリア値ともに同様に出ていること、また前述したように同位体を用いても結合エネルギーに違いはないと考えられることから生成物や反応メカニズムが同じである可能性は極めて高いと言える。
【0055】
結論
・電極間距離、及びパルス周波数を増加させると、選択率は一定のまま転化率が向上し、C2H2を選択的に生成可能であることが確認された。
・流量を減少させると、選択率は一定のまま転化率が向上し、C2H2を選択的に生成可能であることが確認された。
・CH4濃度を上昇させると、50%程度までは転化率、選択率に影響がなかったが、70%になると転化率が低下した。また、選択率はCH4濃度に関わらずほぼ一定であったが、10%程度まで低下させるとC2H2の選択率がわずかに減少した。このことから、CH4をArで適度に希釈することによって、C2H2を選択的に生成可能であることが確認された。
【0056】
・管壁に析出する炭素量はパルス周波数、及び流量には依存しないことが確認された。
・CH4濃度を減少させると、炭素析出量は減少する傾向を示した。このことから、CH4濃度を減少させることで、転化率、選択率をほぼ一定に保ったまま、炭素析出量を抑えられ、効率よくC2H2を生成可能であることが示唆された。
・電極間距離を増加させると、炭素析出量は減少する傾向を示した。このことから、電極間距離を増加させることで、転化率を高くしつつ炭素析出を抑えられることが確認され、効率よくC2H2を得ることが可能であるという知見が得られた。
・GC-MSを用いて生成ガスの定性を行った結果、C2炭化水素以外にもごく少量のC3、C4炭化水素も生成していることが示唆された。
【0057】
13CH4を原料としてパルス周波数の変化に対する検討を行ったところ、パルス周波数の増加に伴い、転化率は向上する傾向を示した。このことから、本反応系においては13CH4を原料とした場合においてもパラメータの変化に対し、12CH4を原料とした場合と同様の挙動を示すことが示唆された。
・原料として12CH4を用いた場合と13CH4を用いた場合とで、電極間距離を7.5 mm, 流量を30 cc min-1, CH4濃度を50%に固定し、パルス周波数を変化させて検討したところ、どちらを原料として用いた場合でも、転化率、選択率共に、ほぼ同じ値を示すことが確認された。このことから、本反応系においては、13CH4を原料として用いても12CH4を原料として用いたときと同様に反応が進むことが示唆された。
【0058】
・GC-MSを用いて、13CH4を原料とした際の生成ガスの定性を試みたところ、12CH4を用いたときと同様にC3、及びC4炭化水素が生成していることが示唆されたが、C2以下の分離は出来ず、正確な定性は出来なかった。
【0059】
展望
本研究によりLEP放電を用いたCH4を原料としたC2H2の合成は、常温・常圧・無触媒条件下において高収率で得られるということが確認できた。また、本反応系においては、原料を13CH4とした場合においても同様に反応が進行するという知見を得た。この結果を基に、13C2H2からの13C6H6の合成プロセスを確立する。
【0060】
〔実施例2〕 [13C6]ベンゼンの合成(2)
反応釜にLi(10 g)をいれ、610℃に加熱した。液体窒素でトラップした13CO2(炭素13二酸化炭素)(3.567 L, 75.99 kPa, 109 mmol)(東京ガスケミカス株式会社から供与)を昇華させ、反応釜に導入し、3時間反応させた。その後、放冷し、生成したリチウムカーバイドに水を滴下した。発生するアセチレンと水素および水蒸気の混合気体中の水蒸気をドライアイストラップで除去し、つづいてアセチレンを液体窒素でトラップした(28.48 kPa, 41.01 mmol, 75% yield)。精製したアセチレンを酸化バナジウム触媒に吸着させ、マントルヒーターにより200℃に加熱し、生成したベンゼンを液体窒素によりトラップした(0.9786 g, 11.65 mmol, 85% yield)。得られた13C6-ベンゼンの13C-NMRおよびH- NMRスペクトルはそれぞれ図28及び図29の様であった。
【0061】
〔実施例3〕 13C6-ニトロベンゼン
【化13】

100 ml 2口ナスフラスコに発煙硝酸(10 ml)を入れ、氷浴で冷却した。13C6-ベンゼン(0.936 g, 11.4 mmol)を滴下し、20分後、氷水を加えた。エーテルで有機物を抽出後、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。エバポレーターで溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、13C6-ニトロベンゼン1.14 g, 8.83 mmol)の黄色い液体を得た。得られた13C6-ニトロベンゼン13C-NMRおよびH- NMRスペクトルはそれぞれ図30及び図31の様であった。
【0062】
〔実施例4〕 13C6-3-ヨードニトロベンゼン(2)
【化14】

100 mlの2口ナスフラスコに13C6-ニトロベンゼン(0.938 g, 7.27 mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(5 ml)入れ、氷浴で冷却した。この混合物にN-ヨウ化コハク酸イミド(NIS)(3.32 g, 14.7 mmol)を加え、室温で撹拌した。7時間後、反応溶液に水をくわえ、ジクロロメタンで有機物を抽出した。有機層を亜硫酸水素ナトリウム飽和水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を除去した後、カラムクロマトグラフィーにより精製して、13C6-3-ヨウ化ニトロベンゼン(0.836 g, 3.27 mmol, 45 % yield)を黄色の固体として得た。得られた13C6-3-ヨードニトロベンゼン(2)のH- NMRおよび13C-NMRスペクトルはそれぞれ図32及び図33の様であった。
【0063】
〔実施例5〕 13C6-3-ヨードアニリン(3)
【化15】

100 mlの2口ナスフラスコに13C6-3-ヨードニトロベンゼン(2)(0.512 g, 2.0 mmol)、スズ(0.472 g, 4.0 mmol)加えて、メタノール(3 ml)に溶解させた。氷浴中で冷却しながら、塩酸(2 ml)を滴下し、2時間還流させた。その後、放冷し、減圧下でメタノールを除去し、ジクロロメタンで有機物を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下で溶媒を除去した後、カラムクロマトグラフィーにより13C6-3-ヨードアニリンを精製した(0.334 g, 1.48 mmol, 74 % yield)。得られた13C6-3-ヨードアニリン(3)のH- NMRおよび13C-NMRスペクトルはそれぞれ図34及び図35の様であった。
【0064】
〔実施例6〕 13C6-3-ヨードフェノール(4)
【化16】

500 mlナスフラスコに13C6-3-ヨードアニリン(3)(0.334 g, 1.48 mmol)、1M H2SO4(15 ml)および1,4-ジオキサンを入れ、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム0.150 gと水 0.2 ml,から調整した亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し、その後、得られた混合物を5分間撹拌した。濃硫酸(0.3ml)を加え、さらに10分間撹拌した。1M希硫酸水溶液(285 ml)滴下し、50 ℃に加熱し、18時間反応させた。その後、有機物をジクロロメタンで抽出、硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下で溶媒を除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィにより精製し、13C6-3-ヨードフェノール (0.300 g, 1.28 mmol, 87 % yield) を得た。得られた13C6-3-ヨードフェノール(4)のHおよび13C-NMR - NMRスペクトルはそれぞれ図36及び図37の様であった。
【0065】
〔実施例7〕 13C6-3-ヨードアニソール(5)
【化17】

50 mlの2口ナスフラスコに13C6-3-ヨードフェノール(4)(0.215 g, 0.951 mmol)を入れ、アセトン(2 ml)に溶解させた。K2CO3(0.394 g, 2.85 mmol)を加え、還流させながらヨウ化メチル(0.810 g, 5.71 mmol)をゆっくりと滴下した。3時間後放冷し、減圧下で溶媒および低沸点成分を除去した。残渣に水を加え、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、13C6-3-ヨードアニソール(5)(0.180 g, 0.750 mmol)をえた(収率79 % yield)。得られた13C6-ヨードアニソール(5)のNMRスペクトルは図38及び図39の様であった。
【0066】
〔実施例8〕 化合物(8)(式(8)のR1=H、R2=Piv(ピバロイル基))
【化18】

ピバリン酸 (3aS)-7-ブロモ-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-3a-メチル-6-オキソ-1H-インデン-3-イル (18) (1.24 g, 3.76 mmol) をエタノール66.7mlに溶かし、塩化セリウム・七水和物2.51 g (6.73 mmol) を加え、室温で20分攪拌した。その後、-78℃に冷やし、13.3 mlのエタノールに溶かした水素化ホウ素ナトリウム 255 mg (6.73 mmol) を滴下し、20分攪拌した。塩化アンモニウム飽和水溶液を加え、反応生成物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/19)の流分により、化合物(8)1.26 gを得た。
本化合物のH-NMRスペクトルは以下の通りであった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d = 1.13 (s, 3H, CH3), 1.21(s, 9H, Piv), 1.69 − 1.95 (m, 3H), 2.12−2.50 (m,5H), 4.28 (t, 1H), 4.68(dd, J = 7.88, 10.45 Hz, 1H).
【0067】
〔実施例9〕 トリメチルシリルアセチレンと化合物(8)のカップリング反応及び化合物(7)と化合物(8)のカップリング反応
【化19】

化合物(8)124 mg(0.373 mmol)と酢酸パラジウム3.40 mg (0.00151 mmol)、トリフェニルホスフィン7.83 mg (0.0298 mmol)、トリメチルシリルアセチレン91.6 mg (0.933 mmol)およびピロリジン0.329 mlを加え、二時間100~108℃で溶媒を加熱還流した。反応混合物をセライトでろ過した後、ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/99)の流分により、カップリング生成体、OTMS体(19)89.5 mg(0.213 mmol)とOH体40.3mg(20)(0.116mmol)を得た。
本化合物のH-NMRスペクトルは以下の通りであった。
化合物(19):1H NMR (300 MHz, CDCl3) d = 0.165(s,9H,TMS),0.174(s,9H,TMS),
1.09 (s, 3H, CH3), 1.19(s, 9H, Piv), 1.37 − 1.49 (m, 1H),1.60−1.80(m,3H),1.85−1.95(m,1H), 2.09−2.21(m,1H), 2.42−2.59(m,2H),4.24 (t, 1H), 4.60(dd, J = 8.07, 9.71 Hz, 1H).
化合物(20):1H NMR (300 MHz, CDCl3) d =0.194(s,9H,TMS),1.09 (s, 3H, CH3), 1.19(s, 9H, Piv), 1.58 − 1.81 (m, 3H),2.02−2.24(m,3H),2.41−2.64(m,2H),4.20 (t, 1H), 4.61(dd, J = 8.25, 9.53 Hz, 1H).
トリメチルシリルアセチレンと化合物(8)のカップリング反応で、トリメチルシリルアセチレンの代わりに、化合物(7)(後述の実施例10参照)を利用することで化合物(11)(式(11)のR1=H、R2=Piv)が合成された。
化合物(11)の物性データは実施例11参照。
【0068】
〔実施例10〕 化合物(10)(式(10)のR1=H、R2=Piv(ピバロイル基))と化合物(7)(式(7)の化合物)の合成
【化20】

化合物(19)89.5 mg (0.213 mmol)をテトラヒドロフラン2.57 mlに溶かし、0℃に冷やした後、フッ化テトラブチルアンモニウムの1MのTHF溶液0.514 ml (0.514 mmol) を滴下した。室温で12.5時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/11.5)の流分により、化合物(10)42.3mg (収率72%) を得た。
本化合物のH-NMRスペクトルは以下の通りであった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d =1.09 (s, 3H, CH3), 1.19(s, 9H, Piv), 1.58 − 1.82 (m, 3H)2.02−2.33(m,3H),2.42−2.62(m,2H), 3.16 (s, 1H, CH), 4.22(t, 1H), 4.61(dd, J = 8.25, 9.90 Hz, 1H).
同様な方法で、化合物(20)(40.3mg)から化合物(10)18.7mgを得た。
【化21】

化合物(10)を得る方法で化合物(19)又は(20)の代わりに化合物(6)(式(6)の化合物、後述の実施例11参照)を利用することにより、化合物(7)(式(7)の化合物)が合成された。
【0069】
〔実施例11〕 化合物(11)(式(11)のR1=H、R2=Piv(ピバロイル基))と化合物(6)の合成
【化22】

化合物(10)248 mg ( mmol)に塩化パラジウム(II)ビストリフェニルホスフィン錯体31.2 mg (0.0445 mmol)、ヨウ化銅21.1 mg (0.111 mmol)、ジメチルホルムアミド0.45 ml、13C6-3-ヨウ化アニソール194 mg (0.808 mmol)、トリエチルアミン1.70 mlを混ぜ、125℃で30分攪拌した。反応混合物をセライトでろ過した後、ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/11.5)の流分により,化合物(11)281 mg(収率90%)を得た。
化合物(11)の物性は以下の通りであった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d =1.15 (s, 3H, CH3), 1.22(s, 9H, Piv), 1.67−1.85(m, 3H),2.10−2.27(m,3H) , 2.52−2.72(m,2H), 3.81 (d, J = 4.15Hz,3H, ), 4.32(t, 1H), 4.67(dd, J = 8.54, 9.51 Hz, 1H), 6.63−7.47(m,4H),
IR νmax 2360cm-1 2339cm-1 1727cm-1
化合物(11)を得る反応で化合物(10)の代わりにトリメチルシリルアセチレンを利用することにより、化合物(6)が合成された。
【0070】
〔実施例12〕 化合物(12)(式(12)のR2=Piv(ピバロイル基))
【化23】

化合物(11)281 mgをジクロロメタン7.80 mlに溶かし、0℃に冷却した後、1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンズヨードキソール-3(1H)-オン(通称デス・マーティン試薬)998 mgをくわえ、室温で40分間攪拌した。反応混合物に炭酸水素ナトリウム飽和水溶液:チオ硫酸ナトリウム飽和水溶液(1:1)を加え、ジクロロメタンで生成物を抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/13.3)の流分により、化合物(12) 207.9mg (収率74%)を得た。
化合物(12)の物性は以下の通りであった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d =1.24(s, 9H, Piv), 1.26 (s, 3H, CH3),1.85−2.08(m, 3H),2.29−2.39(m,1H) , 2.49−2.68(m,2H) , 2.74−2.97(m,2H), 3.80 (d, J = 3.90Hz, 3H, ), 4.86(dd, J = 7.56, 9.76 Hz, 1H), 6.64−7.46(m,4H),
IR νmax 2362cm-1 2329cm-1 1733cm-1
【0071】
〔実施例13〕 化合物(13)(式(13)のR2=Piv(ピバロイル基))
【化24】

化合物(12)207 mg (0.536 mmol) をメタノール73.1 mlに溶かし、パラジウム/硫酸バリウム74.0 mg (0.695 mmol) を加え、1気圧の水素下で室温にて反応溶液を1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過した後、ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/24)の流分により,化合物ピバリン酸 (3aS)-7-(3-メトキシフェニル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-3a-メチル-6-オキソ-1H-インデン-3-イル(13)188mg(収率90%)を得た。
化合物(13)の物性は以下の通りであった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d =1.11 (s, 3H, CH3),1.21(s, 9H, Piv),1.62−1.70(m, 1H),1.81−1.97(m,2H) , 2.03−2.19(m,3H) , 2.37−2.67(m,6H), 3.79 (d, J = 4.15Hz, 3H, ), 4.65(dd, J = 7.07, 10.2 Hz, 1H), 6.43−7.40(m,4H),
IR νmax 2364 cm-1 2321 cm-1 1733 cm-1
【0072】
〔実施例14〕 化合物(14)(式(14)のR2=Piv(ピバロイル基))の合成
【化25】

ピバリン酸 (3aS)-7-(3-メトキシフェニル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-3a-メチル-6-オキソ-1H-インデン-3-イル(13)186mg(0.476mmol)をエタノール19.1mlに溶かし、パラジウム炭素64 mg (0.601 mmol) を加え、1気圧の水素下で室温にて反応溶液を2.5時間攪拌した。セライトでろ過した後、残留物をメタノール5.07 mlに溶かし、ナトリウムメトキシド76 mg (1.41 mmol) を加えた。20時間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応性生物をジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/32.3)の流分により、化合物(14)60.9 mg (収率33%)を得た。
本化合物の物性は以下の通りであった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d =1.10 (s, 3H, CH3),1.21(s, 9H, Piv),1.59−1.95(m, 8H),2.22−2.57(m,6H),3.80 (d, J = 4.15Hz, 3H, ), 4.65(dd, J = 7.81, 9.02 Hz, 1H), 6.50−6.620(m,2H), 6.89−7.02(m,2H)
IR νmax 2366cm-1 2329cm-1 1725cm-1
【0073】
〔実施例15〕 化合物(15)(式(15)のR2=Piv(ピバロイル基))の合成
【化26】

化合物(14)60.9 mg(0.155 mmol)をトルエン1.55 mlに溶かし、エチレングリコール0.0104 ml (0.186 mmol)とパラ-トルエンスルホン酸2.95 mg(0.0155 mmol)を加えた。4.5時間溶媒を加熱還流後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサンの流分により、化合物(15)の粗生成物を得た。
【0074】
〔実施例16〕 化合物(16)(式(16)のR2=Piv(ピバロイル基))の合成
【化27】

上記の化合物(15)の粗生成物42.4 mg (0.113 mmol)をトルエン3.84 mlに溶かし、トリフルオロ酢酸0.169m l(2.19 mmol)とトリエチルシラン0.180 ml(1.13 mmol)を加え、室温で13.5時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和食塩で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/199)の流分により、化合物(16)を得た。
化合物(16)の物性は以下の通りであった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d =0.85 (s, 3H, CH3),1.22(s, 9H, Piv),1.30−2.90(m, 15H),3.78 (d, J = 4.15Hz, 3H, ), 4.67(dd, J = 7.32, 8.78 Hz, 1H), 6.40−6.56(m,1H), 6.80−7.06(m,2H)
IR νmax 2360cm-1 2325cm-1 1724cm-1
【0075】
〔実施例17〕 化合物(17)の合成
【化28】

実施例11で得られた化合物(17)36.8 mgをジクロロメタン4.89mlで溶かし、0℃でジイソブチルアルミニウムハイドライド(DIBAL-H)のヘキサン溶液0.504 ml(0.489 mmol)を加え、0℃で1時間攪拌した。ロッシェル塩水溶液を加え、35分間攪拌し、反応生成物をジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和食塩で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、セライトろ過後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/11.5)の流分により,化合物(17)24.4 mg(収率85%)を得た。本化合物の物性は以下の通りであった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d =0.78 (s, 3H, CH3),1.15−2.92(m, 15H),3.72 (d, J = 8.43Hz, 1H, ), 3.78 (d, J = 4.22Hz, 3H, ), 6.34−6.51(m,1H), 6.85−7.04(m,2H)
IR νmax 3392cm-1 2360cm-1 2341cm-1 1733cm-1
【0076】
〔実施例18〕 1,2,3,4,5,10-13C6-エストラジオール(1)の合成
【化29】

化合物(17)9.8ml(0.0335mmol)をジクロロメタン0.355mlに溶かし、−78℃に冷却した。この溶液に三臭化ホウ素の1Mジクロロメタン溶液0.168mlを滴下した。−78℃で2時間攪拌し、その後0℃で1時間攪拌してから、1N−塩酸を加えた。反応生成物をジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル/ヘキサン(1/2.33)の流分により、1,2,3,4,5,10-13C6-エストラジオール(1)5.1 mg (収率52%) を得た。本化合物の物性は以下の通りであった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d =0.78 (s, 3H, CH3),1.12−2.88 (m, 15H),3.72 (t, J = 8.25Hz, 1H, ), 3.78 (d, J = 4.22Hz, 3H, ), 6.26−6.41(m,1H), 6.77−6.95(m,2H)
IR νmax 3351 cm-1 2373 cm-1 2346 cm-1 2321 cm-1
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の製造方法により得られた13C標識ベンゼン及びその誘導体は、様々な芳香環を含む13C標識有機化合物の合成に有用な中間体である。これらの13C標識有機化合物は、NMR、MS等で特異的に検出できるため、薬物動態研究・診断薬開発への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1で用いた実験器具を示す。
【図2】電極間距離とCH4転化率の関係を示す。
【図3】電極間距離と生成ガスの選択率の関係を示す。
【図4】電極間距離とC2化合物の選択率の関係を示す。
【図5】CH4の流量とCH4転化率の関係を示す。
【図6】CH4の流量と生成ガスの選択率の関係を示す。
【図7】CH4の流量とC2化合物の選択率の関係を示す。
【図8】パルス周波数とCH4転化率の関係を示す。
【図9】パルス周波数と生成ガスの選択率の関係を示す。
【図10】パルス周波数とC2化合物の選択率の関係を示す。
【図11】CH4濃度とCH4転化率の関係を示す。
【図12】CH4濃度と生成ガスの選択率の関係を示す。
【図13】CH4濃度とC2化合物の選択率の関係を示す。
【図14】電極間距離と炭素析出量の関係を示す。
【図15】CH4流量と炭素析出量の関係を示す。
【図16】パルス周波数と炭素析出量の関係を示す。
【図17】CH4濃度と炭素析出量の関係を示す。
【図18】12CH4を原料としたときの生成ガスのGC-MSのスペクトルを示す。
【図19】12CH4を原料としたときの生成ガスのMassのフラグメントを示す。
【図20】パルス周波数とCH4転化率の関係を示す(13Cメタン)。
【図21】パルス周波数と生成ガスの選択率の関係を示す(13Cメタン)。
【図22】パルス周波数とC2化合物の選択率(carbon base)の関係を示す(13Cメタン)。
【図23】パルス周波数とCH4転化率の関係を示す(12Cメタンと13Cメタン)。
【図24】パルス周波数と生成ガスの選択率の関係を示す(12Cメタンと13Cメタン)。
【図25】パルス周波数とC2化合物の選択率(carbon base)の関係を示す(12Cメタンと13Cメタン)。
【図26】13CH4を原料としたときの生成ガスのGC-MSのスペクトルを示す。
【図27】13CH4を原料としたときの生成ガスのMassのフラグメントを示す。
【図28】13C-NMR 13C6-Benzeneを示す。
【図29】1H-NMR 13C6-Benzeneを示す。
【図30】13C-NMR 13C6-Nitrobenzeneを示す。
【図31】1H-NMR 13C6-Nitrobenzeneを示す。
【図32】1H-NMR 13C6-Iodonitrobenzeneを示す。
【図33】13C-NMR 13C6-Iodonitrobenzeneを示す。
【図34】1H-NMR 13C6-Iodoaniline in CDCl3を示す。
【図35】13C-NMR 13C6-Iodoaniline 13C in CDCl3を示す。
【図36】1H-NMR 13C6-Iodoaniline CD3ODを示す。
【図37】13C-NMR 13C6-Iodophenolを示す。
【図38】1H-NMR 13C6- Iodoanisolを示す。
【図39】13C-NMR 13C6-Iodoanisolを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む、[13C6]-ベンゼンの製造方法。
【請求項2】
[13C]-メタン中で非平衡放電を行って、[13C2]-アセチレンを生成させる工程、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
13CO2と金属リチウムを反応させて、Li213C2を生成する工程、Li213C2と水を反応させて、[13C2]-アセチレンを生成させる工程、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
酸素雰囲気下で[13C]-メタンを燃焼させて、13CO2を発生させる工程、13CO2と金属リチウムを反応させて、Li213C2を生成する工程、Li213C2と水を反応させて、[13C2]-アセチレンを生成させる工程、金属触媒及び/又はゼオライト触媒の存在下で[13C2]-アセチレンを三量化する工程を含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
[13C6]-ベンゼンから、下記の式(I)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオール類を製造する方法。
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよい。)
【化1】

【請求項6】
下記の式(17)で表される化合物を脱保護することにより、下記の式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールを生成する工程を含む請求項5記載の方法。
(式中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよい。)
【化2】

【化3】

【請求項7】
下記のいずれかの工程を含む請求項5記載の方法。
【化4】

スキーム中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよく、
式(5)の化合物から式(6)の化合物への変換は、式(5)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行い、
式(6)の化合物から式(7)の化合物への変換は脱シリル化反応により行い、
式(7)の化合物と式(8)の化合物の反応は金属触媒存在下で行い、
式(8)の化合物から式(9)の化合物への変換は、金属触媒存在下で、式(8)の化合物とトリメチルシリルアセチレンを反応させることにより行い、
式(9)の化合物から式(10)の化合物への変換は脱シリル化反応により行い、
式(10)の化合物と式(5)の化合物の反応は金属触媒の存在下で行い、
式(11)の化合物から式(12)の化合物への変換は、酸化剤又は水素受容体を用いる酸化反応により行い、
式(12)の化合物から式(13)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行い、
式(13)の化合物から式(14)の化合物への変換は金属触媒を用いる水素化反応により行い、
式(14)の化合物から式(15)の化合物への変換は、酸触媒、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩又は金属スルホン酸塩を利用して行い、
式(15)の化合物から式(16)の化合物への変換は還元剤を利用して行うか、あるいは接触水素化により行い、
式(16)の化合物から式(17)の化合物への変換は、R2と酸素原子との結合を切断する反応により行い、
式(17)の化合物から式(1)の化合物への変換は脱保護により行う。
【請求項8】
下記のいずれかの式で表される[13C6]-ベンゼン誘導体。
(式中、●は13C原子であり、Meはメチル基であるが、この基は他の置換基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基又はシリル基であるが、これらの基は他の置換基であってもよい。)
【化5】

【請求項9】
[13C6]-ベンゼン誘導体が、下記の式(1)で表される1,2,3,4,5,10-[13C6]-エストラジオールである請求項8記載の[13C6]-ベンゼン誘導体。
(式中、●は13C原子である。)
【化6】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2008−266149(P2008−266149A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107901(P2007−107901)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第87春季年会 2007年 講演予稿集II」に発表、平成19年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会 第87春季年会(2007年)講演予稿集CD−ROM」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(390024914)東京ガスケミカル株式会社 (13)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】