説明

2−ナフトール誘導体の製造方法

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、液晶材料等の製造中間体として有用なフッ素置換2-ナフトール誘導体の工業的に容易で安価な製造方法を提供することにある。
【解決手段】 フッ素置換フェニル酢酸誘導体をハロゲン化剤を用いて酸ハロゲン化物に誘導した後、洗滌したルイス酸存在下、シリルアセチレン誘導体を作用させ、次に酸を作用させることにより2-ナフトール誘導体を製造する方法を提供する。本願発明の製造方法は反応における副生成物が少なく効率的にフッ素置換2-ナフトール誘導体を製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶化合物等の製造中間体として有用な2-ナフトール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、各種測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられるようになっている。
【0003】
現在汎用のTN型やSTN型液晶表示素子において用いられる液晶化合物は、極性基としてフッ素原子を有するものが多く通常分子末端のフェニル基に直結する構造で導入されている。そのため、化合物としては分子の片方の末端に4-フルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基または3,4,5-ジフルオロフェニル基を有する化合物にほぼ限定されており、その化学構造の変化の幅が非常に小さい。
【0004】
一方、IPS型、ECB型、VA型、あるいはCSH型等の表示方式においては、誘電率異方性が負の、いわゆるn型の液晶材料を用いる。n型の液晶材料としては分子内に2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基を有する化合物を用いた液晶組成物にほぼ限定されているのが実情でありベンゼン環にフッ素原子が置換した液晶化合物のみでは年々高度化する液晶組成物に対する要求特性には充分応えきれなくなってきているのが実情である。
【0005】
フルオロベンゼン誘導体以外の基本骨格を有する液晶化合物として、6-フルオロナフタレン-2-イル基を有する化合物(特許文献1及び2参照。)または、1,7,8-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル基を有する化合物(特許文献3参照。)が報告されている。これらの化合物は広い温度範囲で液晶相を示し、また高速応答が可能である液晶組成物の成分として適していることが報告されている。
【0006】
上述のフッ素置換ナフタレン-2,6-ジイル基を有する化合物は従来次に記載するような方法で製造されていた。すなわち、フェニル酢酸誘導体を原料として、塩化チオニルを用いて酸塩化物に誘導した後、塩化アルミニウム存在下、エチレンガスを作用させることにより、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン誘導体を得た後、これを酸化することにより得られた2-ナフトール誘導体を合成中間体として用いて合成することが報告されている(特許文献4参照。)。
【0007】
【化1】

【0008】
しかしながら、上記の製造方法は工程数が長いことから全収率が低く、反応により様々な副生物を生じることから精製により更に収率が悪い問題があった。2-ナフトール誘導体の効率的な製造が困難であることから、フルオロナフタレン誘導体の効率的な製造も困難であり、フルオロナフタレン系化合物の液晶組成物への応用の妨げとなっていた。
【0009】
一方、シリルアセチレン誘導体を用いた、3-シリル-2-ナフトール誘導体の製造方法は既に開示されている(非特許文献1)。
【0010】
【化2】

【0011】
しかしながら、当該引用文献に開示された方法は脱シリル化の方法についての記載が無いことからナフトール誘導体の製造に関する示唆が無く、反応収率も十分なものではなかった。
そのため、より簡便な2-ナフトール誘導体の工業的に容易で安価な製造方法が求められている。
【0012】
【特許文献1】特開2001−19649号公報
【特許文献2】特開2006−36719号公報
【特許文献3】特開2001−31597号公報
【特許文献4】特開2004−137258号公報
【非特許文献1】ヘレーヌ・ジュトー(Helene Juteau)著,「テトラヘドロン レタース(Tetrahedron Letters)」,(米国),エルゼビア(ELSEVIER),46巻,2005年, p.4547−4549
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、副生物の少ない効率的なな2-ナフトール誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、一般式(I)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、保護された水酸基、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいアルキル基、または1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいアルコキシル基を表すが、X1、X2、X3およびX4のうち少なくとも1個または2個以上はフッ素原子を表す。)で表されるフェニル酢酸誘導体をハロゲン化剤を用いて酸ハロゲン化物に誘導した後、溶媒で洗滌したルイス酸存在下、シリルアセチレン誘導体(II)
【0017】
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立的に炭素数1~6の分岐していてもよいアルキル基またはフェニル基を表す。) を作用させることにより、一般式(III)
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、X1、X2、X3およびX4は、一般式(I)におけると同じ意味を表し、R1、R2およびR3は、一般式(II)におけると同じ意味を表す。)で表される2-ナフトール誘導体に誘導した後、これに酸を作用させることによる、一般式(IV)
【0020】
【化5】

(式中、X1、X2、X3およびX4は、一般式(I)におけると同じ意味を表す。)で表される2-ナフトール誘導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係わる2-ナフトール誘導体の製造方法は、工業的に容易に適用可能であり、本製造方法によって製造された2-ナフトール誘導体は、副生物が少なく、例えば液晶材料であるフッ素置換ナフタレン-2,6-ジイル基を有する化合物の合成中間体として適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本製造法におけるハロゲン化剤としては、塩化チオニル、塩化ホスホリル、五塩化リン、三塩化リン、二塩化オキサリル、ホスゲン、ホスゲンダイマー、トリホスゲンなどの塩素化剤、あるいは臭化チオニル、三臭化リン、臭化オキサリルなどの臭素化剤、あるいは三フッ化ジアルキルアミノ硫黄、2-クロロ-1,2,2-トリフルオロトリエチルアミン、α,α-ジフルオロトリメチルアミン=トリヒドロフルオリド、フッ化シアヌル酸などのフッ素化剤を用いることができるが、操作の簡便性や収率などの観点から、塩化チオニル、塩化ホスホリル、二塩化オキサリルなどの塩素化剤が好ましい。
【0023】
本製造法における化合物(I)とハロゲン化剤との反応において、無溶媒で反応することも溶媒を用いて反応することもでき、その溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどの塩素化炭化水素、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカヒドロナフタレンなどの飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族化合物などを単独でまたは混合して用いることができるが、なかでも塩素化炭化水素が好ましい。
【0024】
反応温度は溶媒の凝固点から溶媒還流温度で行うことができるが、操作の簡便性や反応時間などの経済性から0℃から80℃が好ましい。
本製造法におけるルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化ジルコニウム、四塩化スズ、四塩化チタンが好ましく、塩化アルミニウムがより好ましい。
【0025】
本製造法におけるルイス酸の洗滌に用いる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどの塩素化炭化水素、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカヒドロナフタレンなどの飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族化合物などを単独でまたは混合して用いることができるが、なかでも次の反応に用いる溶媒と同一であって簡便であることから、塩素化炭化水素が好ましい。
【0026】
本製造法におけるシリルアセチレン誘導体としては、トリメチルシリルアセチレン、トリエチルアセチレン、トリプロピルアセチレン、トリイソプロピルアセチレン、t-ブチルジメチルシリルアセチレンなどのトリアルキルシリルアセチレン、ジメチルフェニルシリルアセチレンなどのジアルキルフェニルシリルアセチレン、メチルジフェニルシリルアセチレンなどのアルキルジフェニルシリルアセチレン、トリフェニルアセチレンなどが挙げられるが、トリメチルシリルアセチレン、トリエチルアセチレン、トリイソプロピルアセチレンなどのトリアルキルシリルアセチレンが好ましい。
【0027】
本製造法におけるルイス酸存在下、酸ハロゲン化物とシリルアセチレン誘導体との反応において、溶媒を用いて反応することが好ましく、その溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等の塩素化炭化水素が好ましい。
【0028】
反応温度は溶媒の凝固点から溶媒還流温度で行うことができるが、操作の簡便性や収率などの観点から-60℃から100℃が好ましく、-40℃から60℃がより好ましく、-20℃から40℃が特に好ましい。
【0029】
本製造法における脱シリル化工程における酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機スルホン酸など、様々な酸を用いることができるが、操作の簡便性や収率などの観点から、ギ酸やトリフルオロ酢酸などの有機酸またはp-トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸類が好ましい。
【0030】
本製造法における脱シリル化工程において、無溶媒で反応することも溶媒を用いて反応することもでき、その溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどの塩素化炭化水素、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカヒドロナフタレンなどの飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族化合物などを単独でまたは混合して用いることができるが、なかでも塩素化炭化水素または芳香族化合物が好ましい。
【0031】
反応温度は溶媒の凝固点から溶媒還流温度で行うことができるが、操作の簡便性や収率などの観点から-20℃から200℃が好ましく、20℃から160℃がより好ましい。
【0032】
本願発明においては、一般式(IV)で表される2-ナフトール誘導体を製造することが可能であるが、一般式(IV)において、X1、X2、X3およびX4が、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子を表す化合物の製造に最適である。この場合、一般式(I)および一般式(III)においても、X1、X2、X3およびX4が、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子を表す化合物を使用する。
【0033】
更に、一般式(IV)において、X3がフッ素原子を表す化合物の製造に好適であり、この場合一般式(I)および一般式(III)においてもX3がフッ素原子を表す化合物を使用する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)及び赤外吸収スペクトル(IR)により確認した。
【0035】
(実施例1) 5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1)の合成
【0036】
【化6】

【0037】
(1-1) 3,4,5-トリフルオロフェニル酢酸クロリドの合成
3,4,5-トリフルオロフェニル酢酸 19.0 gのジクロロメタン 40 mL中で懸濁している中に、塩化チオニル 15.0 mLを滴下して加えた後、2時間加熱還流した。溶媒と過剰の塩化チオニルを常圧で留去した後、減圧蒸留(105-108℃、2.4-2.7KPa)することにより、薄黄色液体の3,4,5-トリフルオロフェニル酢酸クロリド 20.4 gを得た。
MS m/z 208, 210 (M+)
【0038】
(1-2) 5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1)の合成
塩化アルミニウム 12.8 gにジクロロメタン 50 mL懸濁液を室温で激しく5分間攪拌させた後、傾斜濾過によって溶媒を除去した。この操作をさらに2回繰り返し、塩化アルミニウムを洗滌した。
洗滌した塩化アルミニウム 12.8 gをジクロロメタン 150 mL中、氷水浴中で激しく攪拌している中に、3,4,5-トリフルオロフェニル酢酸クロリド 10.0 gのジクロロメタン 20 mL溶液を加えた。同じ温度を保ちながら10分間攪拌し続けた後、トリメチルシリルアセチレン 9.4 gのジクロロメタン 50 mL溶液を30分間かけて滴下して加えた。同じ温度を保ちながらさらに1時間激しく攪拌し続けた後、氷水に滴下して加えて反応を停止させた。2 M酒石酸ナトリウムカリウム水溶液 100 mLを加えて0.5時間攪拌を続けた。不溶物が溶解するまで6 M塩酸を加えた後、有機層を分離した。水層からジクロロメタンで抽出した後、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、黒色タール状物 13.7 gを得た。
【0039】
得られたタール状物をトルエン 150 mLに溶解し攪拌している中に、p-トルエンスルホン酸一水和物 1.4 gを加えた。4時間加熱還流した後、水150 mlを加えて、さらに2時間加熱還流した。不溶物をセライトを用いて濾別した後、有機層を分離した。水層からトルエンで抽出した後(2回)、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)を用いて精製し、褐色の5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1) 6.0 gを得た。
GC分析により、目的物(IV-1、97%)の他に、6-クロロ-5,7-ジフルオロ-2-ナフトール(V-1、1%以下)が含まれていた。
MS m/z 198 (M+, IV-1)、214, 216 (M+, V-1)
IR (neat) νmax 3622 (OH) cm-1
1H NMR(CDCl3,TMS)δ 1.0-5.0 (1 H, broad, OH), 7.07 (1H, s, ArH), 7.1-7.3 (2H,m, ArH), 7.94 (1H, d, J = 9.0 Hz, ArH)
(実施例2) 7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2)の合成
【0040】
【化7】

【0041】
(2-1) 2,3-ジフルオロフェニル酢酸クロリドの合成
2,3-ジフルオロフェニル酢酸 17.2 gのジクロロメタン 70 mL中で懸濁している中に、塩化チオニル 14.5 mLを滴下して加えた後、1時間加熱還流した。溶媒と過剰の塩化チオニルを常圧で留去した後、減圧蒸留(105-108℃、2.4-2.7KPa)することにより、薄黄色液体の2,3-ジフルオロフェニル酢酸クロリド 17.3 gを得た。
MS m/z 190, 192 (M+)
【0042】
(2-2) 7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2)の合成
塩化アルミニウム 14.0 gにジクロロメタン 50 mL懸濁液を室温で激しく5分間攪拌させた後、傾斜濾過によって溶媒を除去した。この操作をさらに2回繰り返し、塩化アルミニウムを洗滌した。
洗滌した塩化アルミニウム 14.0 gをジクロロメタン 150 mL中、氷水浴中で激しく攪拌している中に、2,3-ジフルオロフェニル酢酸クロリド 10.0 gのジクロロメタン 20 mL溶液を加えた。同じ温度を保ちながら10分間攪拌し続けた後、トリメチルシリルアセチレン 10.3 gのジクロロメタン 50 mL溶液を30分間かけて滴下して加えた。同じ温度を保ちながらさらに1時間激しく攪拌し続けた後、氷水に滴下して加えて反応を停止させた。2 M酒石酸ナトリウムカリウム水溶液 100 mLを加えて0.5時間攪拌を続けた。不溶物が溶解するまで6 M塩酸を加えた後、有機層を分離した。水層からジクロロメタンで抽出した後、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、黒色タール状物 14.6 gを得た。
【0043】
得られたタール状物をトルエン 150 mLに溶解し攪拌している中に、p-トルエンスルホン酸一水和物 1.5 gを加えた。4時間加熱還流した後、水150 mlを加えて、さらに2時間加熱還流した。不溶物をセライトを用いて濾別した後、有機層を分離した。水層からトルエンで抽出した後(2回)、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)を用いて精製し、褐色の7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2) 6.2 gを得た。
GC分析により、目的物(IV-2、97%)の他に、8-クロロ-7-フルオロ-2-ナフトール(V-2、1%以下)が含まれていた。
MS m/z 180 (M+, IV-2)、196, 198 (M+, V-2)
IR (neat) νmax 3620 (OH) cm-1
(比較例1) 5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1)の合成
【0044】
【化8】

【0045】
塩化アルミニウム 12.8 gをジクロロメタン 150 mL中、氷水浴中で激しく攪拌している中に、3,4,5-トリフルオロフェニル酢酸クロリド 10.0 gのジクロロメタン 20 mL溶液を加えた。同じ温度を保ちながら10分間攪拌し続けた後、トリメチルシリルアセチレン 9.4 gのジクロロメタン 50 mL溶液を30分間かけて滴下して加えた。同じ温度を保ちながらさらに1時間激しく攪拌し続けた後、氷水に滴下して加えて反応を停止させた。2 M酒石酸ナトリウムカリウム水溶液 100 mLを加えて0.5時間攪拌を続けた。不溶物が溶解するまで6 M塩酸を加えた後、有機層を分離した。水層からジクロロメタンで抽出した後、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、黒色タール状物 13.5 gを得た。
【0046】
得られたタール状物をトルエン 150 mLに溶解し攪拌している中に、p-トルエンスルホン酸一水和物 1.2 gを加えた。4時間加熱還流した後、水150 mlを加えて、さらに2時間加熱還流した。不溶物をセライトを用いて濾別した後、有機層を分離した。水層からトルエンで抽出した後(2回)、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)を用いて精製し、褐色の5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1) 5.9 gを得た。
GC分析により、目的物(IV-1、96%)の他に、6-クロロ-5,7-ジフルオロ-2-ナフトール(V-1、1%以下)が含まれていた。
【0047】
MS m/z 198 (M+, IV-1)、214, 216 (M+, V-1)
得られた2-ナフトール誘導体(IV-1)は、実施例1と比較してGC純度が低く(97%に対して96%)、塩素置換体V-1は同等であり(1%以下に対して1%以下)、実施例1のIV-1より劣る結果となった。
本発明の製造方法は、副生物が少なく、目的物の精製が容易であった。
(比較例2) 7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2)の合成
【0048】
【化9】

【0049】
塩化アルミニウム 14.0 gをジクロロメタン 150 mL中、氷水浴中で激しく攪拌している中に、2,3-ジフルオロフェニル酢酸クロリド 10.0 gのジクロロメタン 20 mL溶液を加えた。同じ温度を保ちながら10分間攪拌し続けた後、トリメチルシリルアセチレン 10.3 gのジクロロメタン 50 mL溶液を30分間かけて滴下して加えた。同じ温度を保ちながらさらに1時間激しく攪拌し続けた後、氷水に滴下して加えて反応を停止させた。2 M酒石酸ナトリウムカリウム水溶液 100 mLを加えて0.5時間攪拌を続けた。不溶物が溶解するまで6 M塩酸を加えた後、有機層を分離した。水層からジクロロメタンで抽出した後、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、黒色タール状物 14.5 gを得た。
【0050】
得られたタール状物をトルエン 150 mLに溶解し攪拌している中に、p-トルエンスルホン酸一水和物 1.5 gを加えた。4時間加熱還流した後、水150 mlを加えて、さらに2時間加熱還流した。不溶物をセライトを用いて濾別した後、有機層を分離した。水層からトルエンで抽出した後(2回)、有機層を集めて水、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)を用いて精製し、褐色の7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2) 6.0 gを得た。
GC分析により、目的物(IV-2、95%)の他に、8-クロロ-7-フルオロ-2-ナフトール(V-2、2%)が含まれていた。
【0051】
MS m/z 180 (M+, IV-2)、196, 198 (M+, V-2)
得られた2-ナフトール誘導体(IV-2)は、実施例2と比較してGC純度が低く(97%に対して95%)、塩素置換体V-2が多く(2%に対して1%以下)、実施例2のIV-2より劣る結果となった。
本発明の製造方法は、副生物が少なく、目的物の精製が容易であった。
(比較例3) 5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1)の合成
【0052】
【化10】

【0053】
(比3-1) 5,6,7-トリフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(VI-1)の合成
エチレンガス雰囲気下、塩化アルミニウム 13.4 gを1,2-ジクロロエタン 40 mL懸濁液を氷水浴中で激しく攪拌している中に、3,4,5-トリフルオロフェニル酢酸クロリド 20.4 gの1,2-ジクロロエタン 40 mL溶液を滴下して加えた後、そのままの温度で3時間激しく攪拌し続けた。反応液を氷水中に滴下して反応を停止させた後、析出した固体が溶解するまで3 M塩酸を加えた。有機層を分離し、水層からジクロロメタンで抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水で洗滌した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、褐色液体の5,6,7-トリフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(II-1) 20.5 gを得た。
GC分析により、目的物(VI-1、66%)の他に、6-クロロ-5,7-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(VII-1、3%)が含まれていた。
MS m/z 200 (M+, II-1)、216, 218 (M+, IV-1)
【0054】
(比3-2) 1-ブロモ-5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトールの合成
5,6,7-トリフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(II-1) 20.0 gのジクロロメタン 60 mL溶液を、氷水浴中で激しく攪拌している中に、臭素 11.0 mLのジクロロメタン 30 mL溶液を1時間かけて滴下して加えた後、そのままの温度で1時間攪拌し続けた。反応液を水にあけ、亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加えた後、有機層を分取し、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗滌した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、褐色固体の1-ブロモ-5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール 27.6 gを得た。
MS m/z 275, 277 (M+)
【0055】
(比3-3) 5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1)の合成
1-ブロモ-5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール 25.0 g、亜硫酸ナトリウム 45.0 g、メタノール 300 mLおよび水 200 mLの混合物を4時間加熱還流した。反応液に水 1,000 mLを加えた後、その混合物を氷冷した。析出した固体を濾取し、黄色固体の5,6,7-トリフルオロ-2-ナフトール(IV-1) 18.5 gを得た。
GC分析により、目的物(IV-1、92%)の他に、6-クロロ-5,7-ジフルオロ-2-ナフトール(V-1、5%)が含まれていた。
MS m/z 198 (M+, IV-1)、218, 220 (M+, V-1)
得られた2-ナフトール誘導体(IV-1)は、実施例1と比較してGC純度が低く(97%に対して92%)、塩素置換体V-1が多く(1%以下に対して5%)、実施例1のIV-1より劣る結果となった。
本発明の製造方法は、副生物が少なく、目的物の精製が容易であった。
【0056】
(比較例4) 7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2)の合成
【0057】
【化11】

【0058】
(比4-1) 7,8-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(VI-2)の合成
エチレンガス雰囲気下、塩化アルミニウム 13.0 gをジクロロメタン 40 mL懸濁液を氷水浴中で激しく攪拌している中に、2,3-ジフルオロフェニル酢酸クロリド 17.3 gのジクロロメタン 60 mL溶液を滴下して加えた後、そのままの温度で6時間激しく攪拌し続けた。反応液を氷水中に滴下して反応を停止させた後、析出した固体が溶解するまで3 M塩酸を加えた。有機層を分離し、水層からジクロロメタンで抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水で洗滌した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、褐色液体の7,8-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(II-2) 17.8 gを得た。
GC分析により、目的物(VI-2、70%)の他に、6-クロロ-5,7-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(VII-2、6%)が含まれていた。
MS m/z 182 (M+, VI-2)、198, 200 (M+, VII-2)
【0059】
(比4-2) 1-ブロモ-7,8-ジフルオロ-2-ナフトールの合成
7,8-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-オン(VI-2) 16.0 gのジクロロメタン 50 mL溶液を、氷水浴中で激しく攪拌している中に、臭素 10.0 mLのジクロロメタン 30 mL溶液を1時間かけて滴下して加えた後、そのままの温度で1時間攪拌し続けた。反応液を水にあけ、亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加えた後、有機層を分取し、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗滌した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、褐色固体の1-ブロモ-7,8-ジフルオロ-2-ナフトール 22.0 gを得た。
MS m/z 257, 259 (M+)
【0060】
(比4-3) 7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-2)の合成
1-ブロモ-7,8-ジフルオロ-2-ナフトール 15.0 g、亜硫酸ナトリウム 36.0 g、メタノール 200 mLおよび水 120 mLの混合物を4時間加熱還流した。反応液に水 400 mLを加えた後、その混合物を氷冷した。析出した固体を濾取し、黄色固体の7,8-ジフルオロ-2-ナフトール(IV-1) 9.8 gを得た。
GC分析により、目的物(IV-2、91%)の他に、8-クロロ-7-フルオロ-2-ナフトール(V-2、8%)が含まれていた。
MS m/z 180 (M+, IV-2)、196, 198 (M+, V-2)
得られた2-ナフトール誘導体(IV-2)は、実施例2と比較してGC純度が低く(97%に対して91%)、塩素置換体V-2が多く(1%以下に対して8%)、実施例2のIV-2より劣る結果となった。
本発明の製造方法は、副生物が少なく、目的物の精製が容易であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、保護された水酸基、1個以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基、または1個以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルコキシル基を表すが、X1、X2、X3およびX4のうち少なくとも1個または2個以上はフッ素原子を表す。)で表されるフェニル酢酸誘導体をハロゲン化剤を用いて酸ハロゲン化物に誘導した後、溶媒で洗滌したルイス酸存在下、シリルアセチレン誘導体(II)
【化2】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立的に炭素数1~6の分岐していてもよいアルキル基またはフェニル基を表す。)を作用させることにより、一般式(II)
【化3】

(式中、X1、X2、X3およびX4は、一般式(I)におけると同じ意味を表し、R1、R2およびR3は、一般式(II)におけると同じ意味を表す。)で表される2-ナフトール誘導体に誘導した後、これに酸を作用させることによる、一般式(IV)
【化4】

(式中、X1、X2、X3およびX4は、一般式(I)におけると同じ意味を表す。)で表される2-ナフトール誘導体の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化剤として塩素化剤を用い、一般式(I)で表されるフェニル酢酸誘導体を酸塩化物に誘導する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ルイス酸が塩化アルミニウムを表す請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(I)、一般式(III)および一般式(IV)において、X1、X2、X3およびX4が、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子を表す請求項1、請求項2または請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(I)、一般式(III)および一般式(IV)において、X3がフッ素原子を表す請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−50287(P2008−50287A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226519(P2006−226519)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】