説明

2次元走査型フェーズドアレイアンテナシステム

2次元走査のフェーズドアレイアンテナシステムは、直線に配置されたアンテナ素子A1,1からA12,12の2次元アレイAを含み、各々のラインは、アンテナ素子A1,1からA12,12のそれぞれに接続された出力171,1から1712,12、及び可変の相対位相入力信号のための入力を有する第1の階層の統合給電ネットワーク161から1612のそれぞれに関連している。これらの統合給電ネットワークの各々は、異なる第2の階層の統合給電ネットワーク16CD及び16EFの出力171CD/1712CDから171EF/1712EFのそれぞれに接続される第1及び第2の入力A1/B1からA12/B12を有する。統合給電ネットワーク161から16EFは、可変の相対位相の入力信号をこれよりも多数のフェーズドアレイの出力信号に変換する。システム30は、第2の階層の統合給電ネットワーク16CD又は16EFの各々に対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CD及び16EFに対する各入力信号の間の位相差を変更して、2次元のアンテナビーム方向の制御をもたらす位相変更回路40を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元走査型フェーズドアレイアンテナシステムに関する。これは、特に、レーダー、テレビ及びラジオ放送及び電気通信、携帯セル無線(携帯電話)等の走査型フェーズドアレイアンテナを利用する全ての技術分野での使用に適している。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイアンテナは公知であり、これは、例えばアンテナの分野ではよく知られている標準教科書「マイクロ波走査型アンテナ」、R.C. Hansen, Vol 3 Array Systems, Academic Press, NY, 1966に詳細に検討されている。このようなアンテナは、ダイポール又はパッチ等の個別のアンテナ素子(通常8つ又はそれ以上)のアレイを備える。アンテナは、主ローブ又はビーム、及びサイドローブを含む放射パターンを有する。主ローブの中心はアンテナの受信モードでの最大感度の方向、及び送信モードでの主たる出力放射ビームの方向である。
【0003】
アンテナ素子が受信した遅延信号によりアレイを横切る素子距離が変わり、結果的に主放射ビームは遅延が増大する方向に指向又は偏向されるフェーズドアレイアンテナの特性はよく知られている。遅延のゼロ変化と非ゼロ変化とに対応する主放射ビーム中心の間の角度、つまり偏向角は、アレイを横切る距離に関する遅延の変化率に依存する。遅延は、信号位相(従って、異なる周波数での異なる位相に対応する特定の遅延値ではあるが、表示フェーズドアレイ)を変えることによって等価的に与えることができる。従って、アンテナパターンの主ビーム方向は、アンテナ素子に供給される各信号の間の位相関係を調節することによって変えることができる(「ビームステアリング」と称する)。
【0004】
アンテナ素子に供給される各信号の間の位相関係を調節することによるビームステアリングに関する従来技術は、各々のアンテナ素子に関するそれぞれの可変移相器又は可変遅延器を備えている。これは各々のアンテナ素子信号の他のアンテナ素子信号とは独立した制御をもたらす。同様に、可変移相器のカスケード式配置を使用することができ、各々の可変移相器は、それぞれのアンテナ素子及びそれぞれの可変移相器への信号をもたらす。複数の可変移相器を使用する例は、特開平04−320122、米国特許第3,277,481号、米国特許第4,242,352号、及び米国特許第5,281,974号に開示されている。
【0005】
アンテナ素子と同程度の多数の可変移相器を使用することはアンテナ設計が非常に複雑で高価になるので望ましくない。可変移相器は固定位相器よりも非常に複雑である。この問題点は、両方向の走査を必要とする2次元フェーズドアレイアンテナの場合に特に関係するが、例えば、64×64のアンテナ素子アレイで構成されるフェーズドアレイアンテナは、4095の可変移相器及び関連の制御回路を必要とするであろう。
【0006】
過剰な数の可変移相器の問題点は、アレイ面の平面内を走査する一次元フェーズドアレイアンテナ(例えばダイポールライン)の場合に検討されており、国際公開公報WO03/036756、WO03/43127、WO2004/036785、WO2004/088790、WO2004/102739、及びWO2005/048401には、一次元の問題点の解決方法が開示されている。しかしながら、行列に配置された2次元アレイのアンテナ素子を得るために、一次元の行又は列を走査するが別の(直交)次元を走査しない前述の先行技術の行又は列ごとの解決策を用いて、単純に2次元に拡大することはできない。この走査型フェーズドアレイの問題点は、アンテナ分野の標準研究「Antena Engineering Handbook」Ed. Richard C. Johnson, McGraw Hill, 3rd Edition, 1993, ISBN 0−07−032381−Xの20−52頁に詳細に検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は2次元走査に適したフェーズドアレイアンテナシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2次元アレイのアンテナ素子及び複数の統合給電ネットワークを有するフェーズドアレイアンテナシステムを提供するものであって、
a)前記統合給電ネットワークは、第1及び第2の階層にグループ化されると共に、相互に位相が可変のネットワーク入力信号をフェーズドアレイのアンテナ素子に適するように位相合わせされたネットワーク出力信号に変換するように配置されており、前記ネットワーク出力信号は、第1及び第2の階層の内の少なくとも1つの統合給電ネットワークに関するネットワーク入力信号に比べて多数であり、
b)第1の階層の統合給電ネットワークは、アンテナ素子のラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
c)第2の階層の統合給電ネットワークは、第1の階層の統合給電ネットワークの入力ラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
d)前記システムは、第2の階層の統合給電ネットワークのネットワーク入力信号位相整合を変化させて2次元のアンテナビーム方向の制御をもたらす位相差制御手段を含む、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明は、2次元のアンテナビーム方向の制御を可能にするものであり、ネットワーク入力位相差制御とカスケード接続で配置された2つの階層の統合給電ネットワークを利用するアンテナアレイ入力を備える。これによりフェーズドアレイアンテナビーム方向の2次元制御を実現する場合の問題を解決できる。
【0010】
前記位相差制御手段は、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御し、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する、
ように配置されている。
【0011】
前記位相差制御手段は、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差が、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差に等しいこと、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する両方の入力信号との間の各位相差が等しいこと、
を維持するように配置されている。
【0012】
各々が2つの入力を備える統合給電ネットワークを有する本発明のシステムの1つの実施形態において、このように配置された位相差制御手段は、異なる次元の各走査制御の間のクロスカップリングを防止する。ここで、クロスカップリングは、他方の次元の方向角が走査制御により変化した場合に、一方の次元のアンテナビーム方向角が変わることを意味している。
【0013】
別の態様において、本発明は、直線に配置されたアンテナ素子の2次元アレイを含むフェーズドアレイアンテナシステムを提供するものであり、
a)各々のアンテナ素子のラインは、それぞれのアンテナ素子に信号を供給する出力、及び相互に位相が可変の信号を受信する入力を有する、それぞれの第1の階層の統合給電ネットワークに関連しており、
b)前記第1の階層の統合給電ネットワークが、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第1の入力と、
ii)他方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第2の入力と、
を有し、
c)前記統合給電ネットワークが、相互に位相が可変の入力信号をフェーズドアレイアンテナ素子の複数の出力信号に変換する手段を備え、出力信号の数が入力信号の数よりも多くなっており、
d)前記システムは、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御し、
ii)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する、
ための位相差変更手段を含む、
ことを特徴とする。
【0014】
各々の統合給電ネットワークは、ベクトルA及びBで表される入力信号を、pi及びqiが−1から1の範囲の数因子であるpiA+qiBの形式で表される別の信号ベクトルに変換する手段を備える。
【0015】
記位相差変更手段が、
a)スプリッタを経由して第2の可変移相器に接続される第1の可変移相器と、各々が一方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続される第1の固定位相器と、
b)スプリッタを経由して第3の可変移相器に接続される第2の固定位相器と、各々が他方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続される第3の固定位相器と、
c)第2及び第3の可変移相器の作動を連動させる手段と、
を備える。
アンテナ素子は、円筒面、球面、又はトロイダル面等の曲面を定めるように配置される。
【0016】
別の態様において、本発明は、2次元アレイのアンテナ素子及び複数の統合給電ネットワークを有するフェーズドアレイアンテナシステムを走査する方法を提供するものであり、
a)前記統合給電ネットワークは、第1及び第2の階層にグループ化されると共に、相互に位相が可変のネットワーク入力信号をフェーズドアレイのアンテナ素子に適するように位相合わせされたネットワーク出力信号に変換するように配置されており、前記ネットワーク出力信号は、第1及び第2の階層の内の少なくとも1つの統合給電ネットワークに関するネットワーク入力信号に比べて多数であり、
b)第1の階層の統合給電ネットワークは、アンテナ素子のラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
c)第2の階層の統合給電ネットワークは、第1の階層の統合給電ネットワークの入力ラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
d)前記方法は、第2の階層の統合給電ネットワークのネットワーク入力信号位相整合を変化させて2次元のアンテナビーム方向の制御をもたらすようになっている、
ことを特徴とする。
【0017】
ネットワーク入力信号位相整合を変化させる段階は、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
を含む。
【0018】
ネットワーク入力信号位相整合を変化させる段階は、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差とを、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する両方の入力信号との間の各位相差を、
等しく維持する段階を含む。
【0019】
更に別の態様において、本発明は、直線に配置されたアンテナ素子の2次元アレイを含むフェーズドアレイアンテナシステムを走査する方法を提供するものであり、
a)各々のアンテナ素子のラインは、それぞれのアンテナ素子に信号を供給する出力、及び相互に位相が可変の信号を受信する入力を有する、それぞれの第1の階層の統合給電ネットワークに関連しており、
b)前記第1の階層の統合給電ネットワークが、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第1の入力と、
ii)他方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第2の入力と、
を有し、
c)前記統合給電ネットワークが、相互に位相が可変の入力信号をフェーズドアレイアンテナ素子の複数の出力信号に変換する手段を備え、出力信号の数が入力信号の数よりも多くなっており、
前記方法は、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
ii)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
を含む。
【0020】
各々の統合給電ネットワークは、ベクトルA及びBで表される入力信号を、pi及びqiが−1から1の範囲の数因子であるpiA+qiBの形式で表される別の信号ベクトルに変換する手段を備える。
【0021】
位相差を変更する段階は、
a)第1の可変位相シフトを、スプリッタを経由して、各々が一方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続された第2の可変移相器及び第1の固定位相器に適用する段階と、
b)第2の固定位相シフトを、スプリッタを経由して、各々が他方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続された第3の可変移相器及び第3の固定位相器に適用する段階と、
c)前記第2及び第3の可変移相器の作動を連動させる段階と、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一次元のビーム走査に適した従来のアンテナシステムのブロック図を示す。
【図2】2次元のビーム走査に適した本発明のアンテナシステムの1つの実施形態をの機能図である。
【図3】図2のアンテナシステムの信号位相制御回路を示す。
【図4】可変の相対位相整合を備える2つの信号をもたらす、図2のアンテナシステムに利用できるの従来のアンテナ統合給電ネットワークのブロック図である。
【図5】図4の統合給電ネットワークを用いたアンテナ素子信号位相整合を示す。
【図6】可変の相対位相整合を備える3つの信号を提供する電気的偏向コントローラ、及びこのような信号の入力に対応して本発明のアンテナシステムに使用できる別の形態のアンテナ統合給電ネットワークのブロック図である。
【図7】図6のアンテナ統合給電ネットワークを組み込んだ本発明のアンテナシステムの別の実施形態の機能図である。
【図8】図2のアンテナシステムのための信号位相制御回路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を完全に理解できるように、以下に図面と共に例示目的の実施形態を説明する。
図1を参照すると、従来のフェーズドアレイアンテナの走査回路が、概略的に全体的には10で示されている。回路10はWO2004/102739に開示されている一般的なバージョンであり、これは可変遅延器又は可変移相器12、及び固定遅延器又は移相器14にそれぞれ接続されるI1及びI2を有し、次に、可変遅延器又は可変移相器12、及び固定遅延器又は移相器14は、出力端子171から17Nを有するスプリッタ及びベクトル合成ユニット16の入力A及びBのそれぞれに接続される。スプリッタ及びベクトル合成ユニット16は、フェーズドアレイアンテナの従来技術ではアンテナアレイの統合給電ネットワークと呼ばれている。回路10はアンテナ素子181から18Nのラインから構成される一次元アンテナアレイ18[1]を有する。アンテナ素子181から18Nは出力端子171から17Nのそれぞれに接続され、Nは、出力端子171等及びアンテナ素子181等の任意数であり、破線20及び22は、これらの出力及びアンテナ素子を必要に応じて複製できることを示す。
【0024】
回路10の作動時に、無線周波数(RF)の入力信号は入力A及びBに供給され、これらの信号は単一のRF信号を分割することで取得できる。入力信号は可変及び固定位相器12及び14のそれぞれを通過する。可変移相器12は、オペレータが選択可能な位相シフト又は時間遅延を与えるが、位相シフトの程度はアンテナ素子181から18Nのアレイ18[1]の電気的偏向角を制御する。固定位相器48は必須ではないが好都合なものであり、これは可変移相器46で適用できる最大位相シフトφMの半分の固定位相シフトを与える。これにより1つの入力信号を他方に対して−φM/2から+φM/2の範囲で可変にすることができる。
【0025】
相対的に位相シフトされた信号は、可変及び固定位相器12及び14からスプリッタ及びベクトル合成ユニット16に進み、このユニットは、相対的に位相シフトされた信号を各成分信号に分割するが、各成分信号から個別のアンテナ素子181から18Nの各々の駆動信号のそれぞれをもたらすための種々のベクトル合成を生じるようになっている。各駆動信号は相互に適切に位相整合しており、可変移相器12が導入する位相シフトの変更に応答して一次元方向に可動なアンテナビームを提供するようになっている。アンテナ素子181から18Nのアレイ18[1]が垂直面に位置する場合、アンテナビームはその面内で可動である。
【0026】
回路10は「少対多」の信号変換器又は統合給電ネットワークと見なすことができる。その理由は、これが入力A及びBからの可変の相対位相シフトを有する比較的少数の(例えば2つの)信号を、複数の可変の相対位相シフト、つまり、アンテナ素子18iから18i+1(i=1からN−1)の各々隣接する駆動信号対の間のそれぞれの可変の相対位相シフトを有する比較的多数の(例えば12の)アンテナ素子駆動信号に変換するからである。
【0027】
ここで図2を参照すると、本発明の実施形態を示す概括的ブロック図が示されており、フェーズドアレイアンテナシステム30は、2次元アンテナビーム走査を提供する。前述の部品には類似の参照番号が付与されているが、必要に応じて添字が異なっている。
【0028】
アンテナシステム30は、144のアンテナ素子181,1から1812,12(一部分のみを示す)の2次元平面アレイ18[2]を有し、縦列ごとに12のアンテナ素子(例えば、181,1)を備える12の縦列又は垂直ライン(例えば、最初の縦列又はライン181,1から1812,1)に配置されている。アレイ18[2]は、それぞれアンテナ素子の縦列に直交及び平行な双方向の矢印32及び34で示すX及びY走査方向を有する。第1の縦列のアンテナ素子181,1から1812,1は、12個のユニットの第1の階層161から1612の中の第1のスプリッタ及びベクトル合成ユニット161の出力171,1から1712,1のそれぞれに接続されている。同様に、別の縦列(例えば、第2の縦列181,2から1812,2)のアンテナ素子181,2から1812,12は、第1の階層の他の11個のスプリッタ及びベクトル合成ユニット162から1612それぞれに接続されている。つまり、J番目の縦列のアンテナ素子181,jから1812,jは、J番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16j(j=1から12)のそれぞれの出力端子171,jから1712,jに接続されている。第1の階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612のアンテナ素子縦列への接続は好都合に示されているが、システム30を90度だけ回転して縦列と横列を代えることもできる。
【0029】
第1の階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612は、それぞれA及びB入力、A1/B1からA12/B12を有する。アンテナシステム30は、それぞれ出力端子171CDから1712CD、及び171EFから1712EFを備える13番目及び14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CD及び16EFである第2の階層のユニットを形成する2つの別のスプリッタ及びベクトル合成ユニットを有する。2つの階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニットは以下のように接続される。第1の階層のベクトル合成ユニット161から1612のA1からA12のA入力、つまりこのユニットへの上側入力ラインは、13番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CDの出力端子171CDから1712CDのそれぞれに接続される。同様に、第1の階層のベクトルスプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612のB1からB12のB入力、つまりこれらのユニットの下側入力ラインは、14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16EFの出力端子171EFから1712EFのそれぞれに接続される。13番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CDは、図1を参照して説明した従来技術の入力A及びBに等しい入力C及びDを有し、同様に、14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16EFはやはり入力A及びBに等しい入力E及びFを有する。
【0030】
本発明の2次元アンテナアレイ18[2]の走査制御は、従来技術よりも複雑な信号位相整合装置を必要とするが、このことは図3を参照して以下に説明する。図3において前述の説明と同じ部品には同じ参照番号が付与されている。図3は、C、D、E、及びFで示す端子に信号を供給するための走査制御装置40を示すが、これらは、13番目及び14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CD及び16EFのそれぞれの入力C/D、E/Fでもある。
【0031】
装置40は、RF入力信号を第1の可変遅延器46及び第1の固定遅延器48にそれぞれ供給される2つの分割信号に分割する、第1のスプリッタ44に接続されたRF入力42を有する。各信号は、第1の可変遅延器46及び第1の固定遅延器48を通って第2及び第3のスプリッタ50及び52にそれぞれ進む。本明細書において遅延器(遅延デバイス)及び位相シフト器(移相器)は同義語である。
【0032】
第2のスプリッタ50は、第1の可変遅延器46からの信号を、それぞれ第2の可変遅延器54及び第2の固定遅延器56を通る2つの信号に分割する。同様に、第3のスプリッタ52は、第1の固定遅延器48からの信号を、それぞれ第3の可変遅延器58及び第3の固定遅延器60を通る2つの信号に分割する。第2及び第3の可変遅延器54及び58は破線62に示すように作動的に連動されるので、これらに到達する信号は、可変で相互に依然として等しい時間間隔だけ遅延される。
【0033】
第2の固定遅延器56及び第2の可変遅延器54からの信号は、13番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CDの入力C及びDのそれぞれに進む。同様に、第3の可変遅延器58及び第3の固定遅延器60からの信号は、14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16EFの入力F及びEのそれぞれに進む。
【0034】
第3の可変遅延器58及び第3の固定遅延器60から入力F及びEへの接続が入れ替わる場合、第2の固定遅延器56及び第2の可変遅延器54から入力C及びDへの接続は入れ替わることができる。
【0035】
図3を検討すると、第1の可変遅延器46の作動は、端子C及びDに到達する信号の同じ位相変化をもたらすが、この位相変化は、影響を受けない端子E及びFに到達する信号に対するものである。同様に、連動した第2及び第3の可変遅延器54及び58の作動は、端子D及びFに到達する信号の位相変化をもたらすが、この位相変化は影響を受けない端子C及びEに対するものである。このことは2次元のアンテナビーム走査に関連する、つまり、第1の可変遅延器46はフェーズドアレイアンテナシステム30に関するY方向34の走査制御をもたらし、連動した第2及び第3の可変遅延器54及び58は共同でX方向32の走査制御をもたらす。このことは以下に詳細に説明する。
【0036】
ここで図4を参照すると、縦軸に配置された12のアンテナ素子181から1812を備える一次元フェーズドアレイ18[1]での使用に適する、図1の従来技術のスプリッタ及びベクトル合成回路16の実施例を示す。前述の部品と同じ部品には同じ参照番号が付与されている。第1及び第2のスプリッタ701及び702のそれぞれは、ベクトルA及びBで示す入力信号を受信する。これらのベクトルは同じパワーであるが、相対位相は可変である。スプリッタ701及び702は、それぞれa1/a2/a3及びb1/b2/b3の3つの小部分への分割を行う。信号a1A、a2A、及びa3Aはスプリッタ701からの出力であり、信号b1B、b2B、及びb3Bはスプリッタ702からの出力である。小部分a1/a2/a3及びb1/b2/b3(同様に以下に説明する小部分c1/c2、d1/d2、e1/e2/e3、及びf1/f2/f3)の値は従来技術で与えられ、当業者であれば単純な回路及びアンテナ位相整合要件から計算することもできる。
【0037】
信号a1A及びb1Bは、それぞれ第1及び第2のφパディング移相器721及び722を通る。ここで「パディング」は他の信号から生じた位相シフトを補償するために導入される成分を示す。信号a2A及びb3Bは、「和分及び差分ハイブリッド」又は「ハイブリッド」と称する第1の180度ハイブリッド方向性結合器H1のI1及びI2入力を通る。このハイブリッドは、それぞれ2つの入力I1及びI2の信号の和分及び差分に等しい2つの出力S及びD信号をもたらす特性を有する。
【0038】
信号b2B及びa3Aは、第2のハイブリッドH2のI1及びI2入力を通る。ハイブリッドH1及びH2は、第3及び第4のスプリッタ703及び704の入力として接続される異なる出力Dを有する。第3及び第4のスプリッタ703及び704は、それぞれ小部分c1/c2及びd1/d2への二方向分割を引き起こす。また、ハイブリッドH1及びH2は、それぞれ第3及び第4のハイブリッドH3及びH4のI1入力に接続される和分出力Sを有する。
【0039】
第1及び第2の移相器721及び722からの出力信号は、それぞれ小部分e1/e2/e3及びf1/f2/f3への三方向分割を引き起こす第5及び第6のスプリッタ705及び706に進む。第3のスプリッタ703からの出力信号である小部分c1は第5のハイブリッドH5のI1入力に進み、小部分c2は第3のφパディング移相器723に進む。第4のスプリッタ704からの出力信号である小部分d1は第6のハイブリッドH6のI1入力に進み、小部分d2は第4のφパディング移相器724に進む。第5のスプリッタ705からの出力信号である小部分e1は第5のハイブリッドH5のI2入力に進み、小部分e2は第5のφパディング移相器725に進み、小部分e3は第4のハイブリッドH4のI2入力に進む。第6のスプリッタ706からの出力信号である小部分f1は第6のハイブリッドH6のI2入力に進み、小部分f2は第6のφパディング移相器726に進み、小部分f3は第3のハイブリッドH3のI2入力に進む。以下の信号増幅テーブルに示すように、それぞれの固定位相器741から7412及び端子171から1712により、アンテナ素子181から1812は、第3から第6のハイブリッドH3−H6、及び第3から第6の移相器723−726からの駆動信号を受信する。
【0040】
【表1】

【0041】
全ての項a1からf3は小部分なので、全ての信号パワーは第1及び第2のスプリッタ701及び702へのそれぞれの信号ベクトルA及びB入力に関連する。
【0042】
移相器721から726は、ハイブリッド(例えばH1)で生じる位相シフトを補正する。結果的に、1つ又はそれ以上のハイブリッドを通過しない信号成分は、アンテナ素子183及び189に到達する前に、2つの移相器(例えば721)を横切り、2φの位相シフトを受け入れる。更に、1つのハイブリッドを通過する信号成分は、アンテナ素子(例えば182)に到達する前に、1つの移相器(例えば724)を横切り、φの相対位相シフトを受け入れる。
【0043】
また図5を参照すると、入力信号ベクトルA及びBの位相差が60度の場合のアンテナ素子181から1812のアレイ18に関するベクトル図が示されており、この実施例において、60度はアンテナアレイ18が最適な位相面をもつ角度である。アンテナ素子181から1812のそれぞれの駆動信号は、共通の原点Oから延びて信号の小部分(例えばa1e2A)を示すように記号が付与された実線の半径ベクトルの矢印821から8212によって、大きさ及び位相で示されている。86等の双方向の矢印は隣接半径ベクトルの間の位相差を示している。
【0044】
成分(例えば0.707a1e1A)のような信号は一点鎖線又は破線ベクトルで示されている。アンテナ素子184及び189上のそれぞれの信号b1f2B及びa1e2Aは、入力信号ベクトルA及びBの小部分であり、入力信号ベクトルA及びBと同位相である。信号b1f2B及びa1e2Aは、各々が30度の角度マークのそれぞれに関連する2つの双方向矢印で示されるように、位相が60度だけ離れている。
【0045】
信号A及びBの間の位相差が可変移相器12の作動により変更された場合、個別のアンテナ素子181から1812上の信号の位相は変化する。これによりアンテナの主ローブ又はビームの方向が変わりフェーズドアレイビームステアリングがもたらされる。
【0046】
再度図4を参照して図2及び3と比較すると、スプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612、16CD及び16EFの入力A1からA12、C及びEは、上半分の第1のスプリッタ701へのA入力に相当する。同様に、スプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612、16CD及び16EFの入力B1からB12、D及びFは、下半分の第2のスプリッタ702へのB入力に相当する。
【0047】
図4及び信号増幅テーブルを検討すると、スプリッタ及びベクトル合成回路16はアンテナ統合給電ネットワークと呼ばれるものであり、この統合給電ネットワークは、入力信号ベクトルA及びBを以下の式で表される別の信号ベクトルに変換する。
iA+qiB (1)
ここで、pi及びqiは実数の場合−1から1の範囲の数因子であり、iはi番目の出力17iに供給される信号を示す。因子pi及びqiは、代わりに複素数とすることができ、この場合、これらの係数は0から1の範囲である。
【0048】
ここで再度図2を参照すると、信号ベクトルC、D、E、及びFは、ここではスプリッタ及びベクトル合成回路16CD及び16EFのそれぞれの入力C、D、E、及びFでの入力信号を表すのに使用される。全てのスプリッタ及びベクトル合成回路は、同じ値のpi及びqiを供給すると仮定する。信号ベクトルC、D、E、及びFに式(1)を適用して、スプリッタ及びベクトル合成回路の働きを表すと以下のようになる。
(a)13番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CDは、それ自体の12の出力171CDから1712CDにベクトル和(p1C+q1D)から(p12C+q12D)で表わされる信号を与える。つまり、i番目の出力17iCDは、信号(piC+qiD)、i=1から12を受け取る。
(b)同様に、14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16EFは、それ自体の12の出力171EFから1712EFにベクトル和(p1E+q1F)から(p12E+q12F)で表される信号を与える。つまり、i番目の出力17iEFは信号(piE+qiF)、i=1から12を受け取る。
【0049】
次に前記の式(1)は、第1のスプリッタ及びベクトル合成回路161の171CD及び171EFから入力A1及びB1への信号ベクトル(p1C+q1D)及び(p1E+q1F)入力のそれぞれに適用される。これにより、回路161は、以下の信号ベクトル{p1(p1C+q1D)+q1(p1E+q1F)}から{p12(p1C+q1D)+q12(p1E+q1F)}を生じるが、これはそれぞれ第1の縦列アンテナ素子181,1から1812,1に接続される出力171,1から1712,1の所に現れる。第1のスプリッタ及びベクトル合成回路161のi番目の出力、及び第1の縦列アンテナ素子18i,1(i=1から12)において、信号ベクトルは以下の式で与えられる。
i(p1C+q1D)+qi(p1E+q1F) (2)
【0050】
図3の第1の可変遅延器46が変化するとC及びDの両方の位相が、E及びFの両方に対して同じだけ変化するが、Dに対するC又はFに対するEのいずれの位相も変化しない。式(2)の丸括弧の項(p1C+q1D)及び(p1E+q1F)は、ベクトル加算で得られたベクトルであり、それぞれ式(1)のベクトルA及びBに相当する。従って、第1の可変遅延器46が変化すると、ベクトル(p1E+q1F)(ベクトルBに相当する)で表される信号に対する、ベクトル(p1C+q1D)(図1のベクトルAに相当)で表わされる信号の位相が変化するが、これらの信号には別の方法では影響しない。従って、式(2)は式(1)と等価である。従来のようにアンテナ素子181,1から1812,1の垂直線又は縦列に沿って変化するpi及びqiの適切な値により、式(1)は、A及びBに相当する2つの信号ベクトルの間の相対的な位相差又は遅延を変えることで、アンテナ出力ビームを垂直面(図のY方向34)において可動とすることができる。結果的に、第1の可変遅延器46が変化すると、アンテナ素子181,1から1812,1の第1の縦列と同じ方法で、垂直面におけるビームステアリングがもたらされる。
【0051】
アンテナ素子181,jから1812,j(j=2から12)の他の縦列に関する垂直面におけるビームステアリングに関連する第1の可変遅延器46の変化も同様であり、j番目の縦列において式(2)の丸括弧内の項は(pjC+qjD)及び(pjE+qjF)となる。しかしながら、異なる縦列の(pjC+qjD)及び(pjE+qjF)の異なる値は、ベクトルA又はBに相当する信号ベクトル合力のみに影響を与える。(pjC+qjD)及び(pjE+qjF)の間の位相差は第1の可変遅延器46によって導入され、異なる縦列の同等に配置されたアンテナ素子に供給される信号ベクトル合力に同等に影響を与える。従って、第1の可変遅延器46が変化すると、アンテナ素子181,jから1812,j(j=1から12)の全ての12の縦列に関して同様に、垂直面のビームステアリングがもたらされる。任意の12の縦列に関する式(2)と同等なものは添字1を添字jに置き換えることで与えられる。
i(pjC+qjD)+qi(pjE+qjF) (3)
ここで、pi及びqiは、数因子であり、1番目から12番目のスプリッタ及びベクトル合成回路161から1612によって課せられ、pj及びqjは、pi及びqiと同等のものであり、13番目及び14番目のスプリッタ及びベクトル合成回路16CD及び16EFによって課せられる。
【0052】
連動した第2及び第3の可変遅延器54及び58が変化することで生じる影響を考えるために、式(3)を以下のように添字i項が丸括弧内に現れ、添字j項が外側に現れるように並べ替える。
j(piC+qiE)+qj(piD+qiF) (4)
【0053】
連動した第2及び第3の可変遅延器54及び58が変化すると、D及びFの両方の位相がC及びEの両方に対して同じ大きさだけ変化するが、Eに対するC、又はFrに対するDのいずれの位相も変化しない。従って、これはベクトル(piD+qiF)(ベクトルBに相当)で表される信号に対するベクトル(piC+qiE)(式(1)のベクトルAに相当)で表される信号の位相を変化させるが、これらの信号には別の方法では影響しない。従って、式(3)と同様に、式(4)も式(1)と同等である。アンテナ素子18i,1から18i,12(i=1から12)のi番目の横列(水平ライン)に沿って変化するpj及びqjの適切な値により、式(4)は、ベクトルA及びBに相当する2つの信号ベクトルの間の相対位相差又は遅延を変えることで、アンテナ出力ビームを水平面(図のX方向32)においてその横列から可動とすることができる。アンテナ素子181,1から181,12、….18i,1から18i,12、…….1812,1から1812,12の全ての横列からのアンテナ出力ビームの水平方向のステアリングも同様である。
【0054】
結果的に、2次元フェーズドアレイアンテナシステム30は両次元のアンテナビーム方向の走査を可能にする。
本発明のアンテナビーム方向の2次元走査の理論的な詳細な処理は以下に説明する。最初に後で利用する補助定理又は結果を導き出す。
【数1】

(5)
【0055】
【数2】

で示される入力信号42に対して、図3を参照して説明する走査制御装置40は、端子C、D、E、及びFにおける信号VC、VD、VE、及びVFを提供するが、これらはそれぞれ13番目及び14番目のスプリッタ及びベクトル合成ユニット16CD及び16EFの入力でもある。信号VC、VD、VE、及びVFは以下のように与えられる。
【数3】

(6)
ここで、
V:定数
φ:Xで示す水平面のアンテナビーム走査を制御する可変位相差
【数4】

:Xで示す垂直面のアンテナビーム走査を制御する可変位相差
である。
【0056】
図6の数因子1/2×Vは、カスケード接続の2つのスプリッタを通る信号はそのパワーが1/4に低減する事実に起因する。
信号VC、VD、VE、及びVFは以下のように書き換えることができる。
【数5】

(7)
【0057】
ここでは、アンテナアレイの縦列は添字j、横列は添字iを付与する。
次に、12の第1の階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612の各々のA又は上側入力A1からA12への入力信号VAjは以下のように与えられる。
【数6】

(8)
【0058】
前述の補助定理を利用すると式(8)は以下のように書き換えることができる。
【数7】

(9)
【0059】
同様に、12の第1の階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニット161から1612の各々のB又は上側入力B1からB12への入力信号VBjは以下のように与えられる。
【数8】

(10)
【0060】
式(9)及び(10)の括弧内を書き直すと、
【数9】

(11)
となる。
【0061】
結果的に、i番目の横列及びj番目の縦列のアンテナ素子18i,jは、以下に示す信号Vijを受信する。
【数10】


(12)
【0062】
前述の補助定理を式(12)に適用すると以下の式が得られる。
【数11】

(13)
【0063】
θが小さい場合、



及び

であり、従って、
【数12】

(14)
となる。
【0064】
アンテナ素子18i,jの空間的座標がxij、yijであり、
【数13】

(つまり、座標がアンテナ素子181,1等の等間隔の矩形アレイ中央の中心に帰する)、スプリッタ比が、
【数14】

ここで
【数15】

はX方向のギアリングレシオであり、
【数16】

ここで
【数17】

はY方向のギアリングレシオである。
(15)
に設定される。
【0065】
次に、i番目の横列及びj番目の縦列のアンテナ素子18i,j上の入力信号位相は、
【数18】

(16)
であり、アンテナアレイ18はX及びY方向の両方に対して実質的に平面で傾斜した位相面を生成する。
【0066】
前述の解析によれば、2次元フェーズドアレイアンテナシステム30は、アンテナビーム方向の両次元の走査をもたらす。これは、2つのカスケード接続された「少対多」統合給電ネットワーク階層、つまりスプリッタ及びベクトル合成回路161から16EFを利用する実施例で実現される。(しかし、別の(第2又は第1の)階層の別のタイプの統合給電ネットワークに接続した、1つの(第1又は第2の)階層の「少対多」統合給電ネットワークを使用することも可能である。)第1の階層の「少対多」統合給電ネットワーク161から1612(縦列ごとに1つの給電ネットワーク)はアンテナ素子の縦列への入力をもたらし、「少対多」統合給電ネットワーク16CD及び16EFの第2の階層(2つ)は第1の階層への入力をもたらし、各々の第2の階層の統合給電ネットワーク16CD又は16EFは、各々の第1の階層の統合給電ネットワーク161から1612に1つの入力(つまり、Ai又はBi(i=1から12)の一方のみ)をもたらす。
【0067】
第1の階層の統合給電ネットワークに接続されたアンテナ素子が延びる次元での走査は以下のようにして行うことができる。
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CDに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワーク16EFに対する各入力信号の間の位相差の両方を一定にする。
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CD又は16EFに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワーク16EF又は16CDに対する両方の入力信号との間の位相差を変える。
【0068】
第1の階層の統合給電ネットワークに接続されたアンテナ素子が延びる次元に直交する次元での走査は以下のようにして行うことができる。
c)一方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CD又は16EFに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワーク16EF又は16CDに対するそれぞれの入力信号との間の位相差を一定にする。
d)一方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CDに対する各々の入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワーク16EFに対する各々の入力信号の間の位相差の両方を一定にする。
【0069】
前述のa)及びc)無しでb)及びd)を実行すると、アンテナアレイ30の横列及び縦列の両方に対して傾斜した角度での走査がもたらされる。前述の2つの異なる次元における走査制御の間のクロスカップリング(以下に定義する)は、所望であれば前述の位相制御を維持することで防止できる。
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CDに対する各入力信号の間の位相差を、他方の第2の階層の統合給電ネットワーク16EFに対する各入力信号の間の位相差と等しくする。
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワーク16CD又は16EFに対する各々の入力信号と、第2の階層の統合給電ネットワーク16EF又は16CDに対する両方の入力信号との間の位相差を等しくする。
【0070】
ここで、クロスカップリングは、一方の(X又はY)方向又は次元におけるアンテナビームの方向角θx又はθyが、他方の(Y又はX)方向又は次元における方向角θy又はθxの走査制御によって変更された場合に変わることを意味する。このことは式(16)で再び表すことができるが、これはθxがφに伴って変化し、θy
【数19】

に伴って変化することを示す。クロスカップリングを防止する必要がある場合、つまり、θx
【数20】

に伴って変化せず、θy
【数21】

に伴って変化しないことが要求される場合、位相差は前述のように等しくしておく必要がある。しかしながら、クロスカップリングは特定の環境では有用な機能である場合もある。
【0071】
本発明の前述の実施例は、例示目的で各々が12の出力を備えた統合給電ネットワーク1611から16EFを用いている。つまり、これらの統合給電ネットワークは、「2から12」の信号変換器として機能する。統合給電ネットワークは任意の好都合な数の出力をもつことができ、実際に、12の出力をもつ従来技術の統合給電ネットワークは、フェーズドアレイシステムに好都合な性能を与えるようになっており、前述のWO2004/102739を参照されたい。
【0072】
本発明はアンテナ素子の横列及び縦列が同数の「正方形」アンテナアレイ30に限定されるものではない。例えば、アンテナアレイは、N及びMが正の整数でN≠Mであり、横列につきN個のアンテナ素子及び縦列につきM個のアンテナ素子を有する矩形とすることができる。別のアンテナアレイ構造も可能である。矩形アンテナアレイは、水平方向よりも垂直方向に多くのアンテナ素子を必要とする用途には特に好都合であり、この例としては携帯電話用のマスト取り付け型アンテナアレイを挙げることができ、ここではビーム幅及び走査角度範囲が、水平方向(例えば方位角120度)に比べて垂直方向(例えばタワー取り付け型アンテナアレイから15度の仰角)において小さいことが要求される。
【0073】
アンテナアレイ30は平面アレイであるが、本発明は平面アレイに限定されるものではない。本発明は、個別のアンテナ素子が円筒面、球面、又はトロイダル面等の曲面上に位置するように又はその曲面を定めるように配置された中心を有するアンテナアレイを用いて実施できる。第1の階層の統合給電ネットワーク161から1612は、それぞれのアンテナ素子のラインに接続されるが、このラインは直線である必要はない。走査が実行される方向は前述のように直交することができるが、非直交とすることもでき、例えば、アンテナアレイ30の横列は、縦列に対して90度ではない任意の角度θだけ傾斜することができる。再度、このことは異なる方向又は次元におけるアンテナビームの偏角θx/θyの制御の間でクロスカップリングをもたらすことになる。しかしながら、このカップリングは移相器の適切なギアリングによって是正することができる。位相シフトを種々のギアリングと組み合わせることで、アンテナビームを回転及び傾斜させることができ、実際にビームを曲線掃引させることができる。
【0074】
図1から5を参照して説明した本発明の実施形態は、「少」が2である「少対多」信号変換器又は統合給電ネットワークを使用する。また、「少」が2より大きい「少対多」信号変換器又は統合給電ネットワークを使用することもできる。以下に説明するように、これにより複雑にはなるが、アンテナビームが移動できる角度範囲が広がるという利点がある。
【0075】
次に図6を参照すると、1つの信号を3つの信号に構成すると共に更に3つの信号を12の信号に構成するのに適したスプリッタ及びベクトル合成回路160が示されている。3つの信号の内の2つは可変的に遅延される。12の信号は、垂直ラインに配置された一次元フェーズドアレイ166のそれぞれにアンテナ素子E1UからE5U、Ec及びE1LからE5Lのための信号である。回路160は、Quintel Technology Ltdの2006年11月10日出願のGB0622411.7からのものである。これはアンテナ素子E1UからE5U、Ec及びE1LからE5Lに到達する信号から生じる位相シフトをその通過後に等化するための位相パディング部(図示せず)を組み込んでいる。このことは従来から公知であり、詳細には説明しない(例えばWO2004/102739を参照)。ハイブリッド結合器を組み込んだ入力からアンテナ素子への信号経路は、結合器ごとに180度の位相シフトを含むので、信号経路ごとの結合器の最大数はnであり、最小数は0である。i個の結合器を含む経路は180(n−i)度の位相パディングのための構成要素を必要とする。
【0076】
回路160には、電気的偏向コントローラ162及び統合給電部164の2つの構成要素が組み込まれている。統合給電部164はフェーズドアレイのアンテナ166に接続されている。フェーズドアレイアンテナ166は11のアンテナ素子を有し、これらは中央アンテナ素子Ec、上方向に連続して配置される5つの上側アンテナ素子E1UからE5U、及び下方向に連続して配置された5つの下側アンテナ素子E1LからE5Lである。
【0077】
ベクトルVで表すRF入力信号は偏向コントローラ162の入力168に供給され、電圧分割比c1及びc2をもたらす第1のスプリッタS1によって異なる大きさの2つの信号ベクトルc1.V及びc2.Vに分割される。信号ベクトルc2.Vはここでは偏向ベクトルCで示され、コントローラ出力162cに現れる。
【0078】
信号ベクトルc1.Vは、第2のスプリッタS2で更に分割されて、第1及び第2の信号ベクトルc1.d1.V及びc1.d2.Vがもたらされる。第1の信号ベクトルc1.d1.Vは第1の可変遅延器T1で遅延されて、偏向ベクトルAで示されコントローラ出力162aに現れる信号ベクトルを生じさせる。同様に、第2の信号ベクトルc1.d2.Vは第2の可変遅延器T2で遅延されて、偏向ベクトルBで示されコントローラ出力162bに現れる信号ベクトルを生じさせる。
【0079】
偏向コントローラ162は結果的に3つのアンテナ偏向制御信号をもたらし、これらの信号は偏向ベクトルA=c1.d1.V[T1]、B=c1.d2.V[T2]、及びC=c2.Vで示し、ここで、[T1]、[T2]はそれぞれ可変遅延器T1、T2を示す。破線170で示すように遅延器T1及びT2は連動しており、破線170は反対方向に変えることを示す−1の増幅器シンボル172を含んでいる。すなわち、T2がTから0に減少する場合にT1は0からTに増加する、又はその逆である。ここで、Tは、連動した可変遅延器T1及びT2の両者の予め定められた遅延の最大値である。遅延制御174が作動すると連動した可変遅延器T1及びT2が一緒に変化して、それぞれの遅延器は、同じ大きさでシンボル174により逆符号の、つまり一方が増加して他方が減少する遅延時間だけ変わる。これらの可変遅延器の変化に応答して、アンテナアレイ166の電気的偏向角も変わる。
【0080】
電圧分割比e1及びe2の第3のスプリッタS3は、偏向ベクトルCを信号e1.C及びe2.C、又は等価的にc1.e1.V及びc2.e1.Vに分割する。信号e1.Cは、Cc(C中央)で示され、駆動信号として中央アンテナ素子Ecに供給される(アンテナ素子駆動信号は、アンテナ素子から自由空間への信号の放射をもたらす)。信号e2.Cは、電圧分割比f1及びf2の第4のスプリッタS4によって更に分割され、Cu(C上側)で示す信号c2.e2.f1.V及びCl(C下側)で示す信号c2.e2.f2.Vを生じる。信号Ccが固定遅延器又は可変遅延器のいずれの遅延を被るかは本質的なことではないが、最小限の電気回路網を最小にすること及び設計の複雑性及びコストを低減することが好都合である。更に、本明細書のいずれかに記載したように、実際に信号Ccは、位相パディング目的で、他の信号が通過する構成要素により導入される遅延を補正するための図示しない手段によって遅延又は位相シフトされる。
【0081】
ベクトルA及びCuは、統合給電部164の上側部に接続部されたアンテナ素子E1UからE5Lに駆動信号を供給するために使用される。それぞれ電圧分割比a1、a2及びg1、g2の第5及び第6のスプリッタS5及びS6は、偏向ベクトルAを信号a1.A及びa2.Aに分割すると共に偏向ベクトルCuを信号g1.Cu及びg2.Cuに分割する。同様に、ベクトルB及びClは、統合給電部164の下側に接続されたアンテナ素子E1LからE5Lに駆動信号を供給するために使用される。それぞれ電圧分割比b1、b2及びh1、h2の第7及び第8スプリッタS7及びS8は、偏向ベクトルBを信号b1.B及びb2.Bに分割すると共に、偏向ベクトルClを信号h1.Cl及びh2.Clに分割する。
【0082】
電圧分割比i1及びi2の第9スプリッタS9は、第5のスプリッタS5からの信号a2.Aを信号i1.a2.A及びi2.a2.Aに分割するが、信号i1.a2.Aは上側の第3のアンテナ素子E3Uに接続され駆動信号を供給するようになっている。電圧分割比j1及びj2の第10のスプリッタS10は、第7のスプリッタS7からの信号b2.Bを信号j1.b2.B及びj2.b2.Bに分割するが、信号j1.b2.Bは、下側の第3のアンテナ素子E3Lに接続され駆動信号を供給するようになっている。
【0083】
統合給電部164には6個のベクトル合成デバイスHY1からHY6が組み込まれているが、各々は180度ハイブリッド(和分及び差分ハイブリッド)であり、1及び3で示す2つの入力端子、及び2及び4で示す2つの出力端子を有している。信号は各々の入力から両方の出力へ進み、180度の相対位相変化が一方の入力−出力ペアの間を流れる信号と他方の信号との間で現れ、各々のハイブリッド上の符号πの位置で示すように、これはハイブリッドHY1及びHY2の入力1と出力4との間、及びハイブリッドHY3からHY6の入力3と出力4との間で起こる。ハイブリッドHY1からHY6の各々は、その入力信号のベクトル和分及び差分である2つの出力信号を発生する。
【0084】
第1のハイブリッドHY1は、第5のスプリッタS5から入力信号a1.A、及び第6のスプリッタS6からg2.Cuを受信して、これらの信号を加算及び減算して第3のハイブリッドHY3への入力としてのそれらの信号の差分、及び第5のハイブリッドHY5への入力としてのそれらの信号の和分を与える。同様に、第2のハイブリッドHY2は、第7のスプリッタS7からの入力信号b1.B、及び第8のスプリッタS8からの入力信号h2.Clを受信して、第4のハイブリッドHY4への入力としてのそれらの信号の差分、及び第6のハイブリッドHY6への入力としてのそれらの信号の和分を与える。
【0085】
第3のハイブリッドHY3は、第1のハイブリッドHY1からの入力信号に加えて、第9のスプリッタS9からの別の入力信号i2.a2.Aを受信して、それぞれ上側の第4及び第5のアンテナ素子E4U及びE5Uの駆動信号としての和分及び差分信号出力を発生する。
【0086】
第5のハイブリッドHY5は、第1のハイブリッドHY1からの入力信号に加えて、第6のスプリッタS6からの別の入力信号g1.Cuを受信して、それぞれ上側の第1及び第2のアンテナ素子E1U及びE2Uの駆動信号としての和分及び差分信号出力を発生する。
【0087】
第4のハイブリッドHY4は、第2のハイブリッドHY2からの入力信号に加えて、第7のスプリッタS7からの別の入力信号j2.b2.Bを受信して、それぞれ下側の第4及び第5のアンテナ素子E4L及びE5Lの駆動信号としての和分及び差分信号出力を発生する。
【0088】
第6のハイブリッドHY6は、第2のハイブリッドHY2からの入力信号に加えて、第8のスプリッタS8からの別の入力信号h1.Clを受信して、それぞれ下側の第1及び第2のアンテナ素子E1L及びE2Lの駆動信号としての和分及び差分信号出力を発生する。
【0089】
第1、第3、及び第5のハイブリッドHY1、HY3、及びHY5は、ベクトル合成処理を実行してアンテナ素子E1U、E2U、E4U、及びE5Uへの信号を発生するようになっており、第2、第4、及び第6のハイブリッドHY2、HY4、及びHY6は、ベクトル合成処理を実行してアンテナ素子E1L、E2L、E4L、及びE5Lへの信号を発生するようになっている。アンテナ素子Ec、E3U、及びE3Lへの信号は、ハイブリッドではなくスプリッタが発生する。アンテナ素子E1UからE5U、Ec、及びE1LからE5Lに到達する信号の解析により、これらの相対位相整合は、相互に反対方向に連動した時間遅延T1及びT2を変更する偏向制御174に応答して可動であるアンテナビームを集合的に提供するのに適していることが分かった。
【0090】
アンテナ素子Ec、E1UからE5U、及びE1LからE5Lの信号ベクトル又は駆動信号の相互の位相整合は、偏向コントローラ162及び統合給電部164を組み合わせたものにより行われる。この相対位相整合は、ハイブリッドにおける分割比及びベクト合成のための信号の選択により予め決まる。これは、2つの可変遅延器T1及びT2の調整に応答して変化する、電気的偏向角を制御することによるフェーズドアレイビームステアリングに適している。
【0091】
パラメータテーブル スプリッタ及びハイブリッドパラメータ
【表2】

【0092】
スプリッタS1からS9、及びハイブリッドHY1からHY6は、パラメータテーブルに示す電圧分割比及び入力/出力分散パラメータを提供する。この中で、「DBQH」は、ダブルボックス直角位相(90度)ハイブリッド、及び「SDH」=和分−及び−差分(180度)ハイブリッドを意味する。ここでxは2又は4、yは1又は3である、sxy(例えばs21)は、各々のハイブリッドHY1からHY6の部分xとyとの間の分散パラメータである。
【0093】
スプリッタ及びベクトル合成回路160は、比較システムの4度に対して62.5%だけ改善された6.5度のアンテナビーム偏向範囲をもたらし、各々の場合の照準器に対して最大の−18dBのサイドローブレベルになる。アンテナビームの上側サイドローブ20を−15dBに増加させることができれば10度の偏向範囲を得ることができる。
【0094】
ここで図7を参照すると、本発明の別の実施形態を示す概略ブロック図が示されている。フェーズドアレイアンテナシステム200は2次元走査を可能にする。システム200は、図2を参照して説明したシステム30に相当するが、変更点として図6に示される3つの入力統合給電部(又はスプリッタ及びベクトル合成ユニット)164を備えている。以下に図2と7との間の相違点を中心に説明する。
【0095】
アンテナシステム200は、縦列ごとに11のアンテナ素子(例えばA1,1)を備える11の縦列又は垂直ライン(例えば、縦列A1,1からA11,1)に配置された、121のアンテナ素子A1,1からA11,11(全ては示されていない)の11x11の2次元平面アレイPA[2]を有する。アレイPA[2]は矢印202及び204で示される直交するX及びY走査方向を有する。
【0096】
アレイPA[2]の11の縦列は、第1の階層のCF1からCF11の11の給電部として配置されたそれぞれの統合給電部に接続されており、各々の給電部は、3つの入力統合給電部164に相当し、それぞれの縦列のアンテナ素子への駆動信号入力をもたらすが、例えば、統合給電部CF1は11の出力CF11からCF111を有し、1番目の縦列のそれぞれのアンテナ素子A1,1からA11,1への入力をもたらす。他の統合給電部CF2等及び縦列A1,2からA11,2等も同じ出力を有している(図示せず)。
【0097】
第1の階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニットCF1からCF11の各々は、図6に偏向ベクトルとして示す入力、又は下向きに連続するA、C、及びBで示す入力に相当する3つの入力を有している。説明を簡素化する目的で、これらの入力は、第1の縦列の入力AI1、CI1、及びBI1、及び第11の縦列の入力AI11、CI11、及びBI11として、第1及び第11の縦列のみが示されている。
【0098】
アンテナシステム200は、給電点の第2の階層として配置される別の3つの統合給電部を有する。つまり、12番目、13番目、及び14番目の統合給電部CF12、CF13、及びCF14の各々は第1の階層の統合給電部CF1からCF11の任意の1つに相当する。12番目の統合給電部CF12は、図6のベクトルA、C、及びBにそれぞれ相当する入力信号のための3つの入力端子D、E、及びFを有している。13番目及び14番目の統合給電部CF13及びCF14の各々は、このような信号のための3つの入力端子GからI、及びJからLのそれぞれを有している。
【0099】
2つの階層のスプリッタ及びベクトル合成ユニットCF1からCF11、及びCF12からCF14は、以下のようにカスケード接続されている。第1の階層の統合給電部CF1からCF11のAI1及びAI11等のA入力は(つまり、これらの給電点への上側入力ラインは)、12番目の統合給電部CF12のそれぞれの出力端子(図示せず)に接続されている。同様に、第1の階層の統合給電部CF1からCF11のCI1及びCI11等のC入力は(つまり、中央入力ラインは)、13番目の統合給電部CF13のそれぞれの出力端子(図示せず)に接続されている。同様に、第1の階層の統合給電部CF1からCF11のBI1及びBI11等のB入力は(つまり、下側入力ライン)は、14番目の統合給電部CF14のそれぞれの出力端子(図示せず)に接続されている。
【0100】
アンテナアレイA[2]の2次元走査制御は、前述の実施形態30よりも複雑な信号位相整合装置を必要とする。これに関連して、ここで図8を参照すると、信号を出力端子D、E、F、G、H、I、J、K、及びLに供給するための走査制御装置240が示されており、これらの出力端子は、同様に参照される第2の階層の12番目、13番目、及び14番目の統合給電部CF12、CF13、及びCF14の入力端子を示している。
【0101】
装置240は、同じ構成の第1、第2、第3、及び第4の偏向制御ユニットTC1からTC4から成り、各々は図6の偏向コントローラ162と同等の効果をもたらす。第1の偏向制御ユニットTC1は、3方向スプリッタSP1に接続される入力TC1inを有する。これはTCinでのRF入力信号を、第1及び第2の可変時間遅延VT11及びVT12と固定遅延FT1との3つの信号小部分に分割する。可変時間遅延VT11及びVT12は、鎖線LXで示すように連動しており、0からTの同じ範囲の遅延をもたらすが、これらの遅延時間は、可変矢印VA11及びVA12で示すように相互に直交方向を向いた反対方向に変化する。つまり、第2の可変時間遅延VT12がTから0に進むと、第1の可変時間遅延VT11は0からTに進む。連動した可変時間遅延VT11及びVT12は一緒になってアンテナシステム200のX方向走査制御をもたらす。
【0102】
第2、第3、及び第4の偏向制御ユニットTC2からTC4は、第1の偏向制御ユニットTC1と同等の構成部品を有し、最初の添字が1から2、3、又は4に偏向されている。
【0103】
第1の偏向制御ユニットTC1の第1及び第2の可変時間遅延VT11及びVT12、及び固定遅延FT1で遅延された3つの信号小部分は、それぞれの入力信号として第2、第3、及び第4の偏向制御ユニットTC2からTC4に進む。第2、第3、及び第4の偏向制御ユニットTC2からTC4の各々は、それぞれの入力信号を3つの信号小部分に分割し、それぞれの遅延器VTk1、VTk2、及びFTk(k=2、3、又は4)においてこれらの小部分を遅延させ、この中の2つは相互に反対方向に可変であり、残りは第3の固定遅延器である(第1の偏向制御ユニットTC1と同様)。
【0104】
第2の偏向制御ユニットTC2で遅延された信号小部分はそれぞれ出力端子D、E、及びFに進み、第3の偏向制御ユニットTC3で遅延された信号小部分はそれぞれ出力端子G、H、及びIに進み、第4の偏向制御ユニットTC4で遅延された信号小部分はそれぞれ出力端子J、K、及びLに進む。第2、第3、及び第4の偏向制御ユニットTC2からTC4の可変遅延器VT21、VT22、VT31、VT32、VT41、及びVT42は、鎖線LYに示すように連動しており、アンテナシステム200のY方向走査制御をもたらす。
【0105】
第1の偏向制御ユニットTC1への入力TC1inと、出力端子DからLとの間の信号経路の遅延は以下の遅延テーブルに示される。ここではFkは、固定遅延器FTqでの遅延を示し、+Tqは左側に傾いた矢印の可変遅延器VTq1(q=1、2、3、又は4)での遅延を示し、−Tqは反対方向の遅延変化を示す右側に傾いた矢印の可変遅延器VTq2での遅延を示す。
【0106】
前述のように、出力端子DからLは、第2の階層の12番目、13番目、及び14番目の統合給電部CF12、CF13、及びCF14への入力端子でもあるので、前述の遅延テーブルに基づいて遅延された3つの入力信号グループのそれぞれを受信する。図2から5を参照して説明した実施形態に関する前述のものと同じ解析により、X及びY方向の走査制御LX及びLYの作動により、X及びY(つまり直交)の両次元におけるアンテナシステム200のアンテナビーム方向の走査が可能になることが分かる。
【0107】
遅延テーブル
【表3】

【0108】
図6から8を参照して説明した本発明の実施形態は、「少対多」信号変換器又は統合給電ネットワークを使用するが、「少」は3であり「多」は11である。また、可変遅延信号を追加して「少」が3よりも大きい「少対多」信号変換器又は統合給電ネットワークを使用することもできる。つまり、図8のスプリッタSP1等は、より多くの信号に分割ように変更すること、及び前記(場合によっては)追加信号を可変的に遅延させることもできる。
【0109】
アンテナ素子(例えば、図7のA1,1からA11,11)は、図示のように正方形又は矩形格子に配置することもできるが、他の素子構成も可能である。例えば、アンテナ素子は六角形アレイとすることもできる。つまり、六角格子の頂点において、六角形アレイは所定の素子数及び所定のアンテナアレイ面積のための最小素子間結合をもたらす。六角形レイは、それぞれの隣接縦列に対して隣接素子間の間隔の半分だけ千鳥配置された、アンテナ素子の交互の縦列をもたらす。
【0110】
素子アレイは、完全に存在する必要はない。つまり、アレイは、散在するアレイとすることができ、素子は、周期的な位置に配置されて幾何学的アレイを形成するが、一部のアレイ位置にはアンテナ素子が存在しておらずアレイは穴を有している。これにより、素子の所要数が減るのでアンテナシステムは安価になり、また、これによりビーム形状が変わるので方位角及び仰角の別のビーム幅を形成するのに有用である。
【0111】
アンテナ素子アレイの周辺は、素子位置により示されるような同じ形状である必要はなく、例えば、方位角及び仰角において同じビーム幅を追求する場合、六角格子上に配置されたアンテナ素子、及び円内に又は円形に配置されたにアンテナ素子を利用できる。別の方法として、異なる方位角及び仰角のビーム幅を得るために、アンテナ素子の六角格子は楕円内に置くこともできる。もしくは、更に別の方法では、アンテナ素子の六角格子は伸びた六角形内に置くこともできる。
【0112】
前述の本発明の実施形態は、同様の第1の階層及び第2階層の統合給電部を使用する。第1の階層の統合給電部が類似していることは必須ではなく、異なる数の出力を有すること、及び異なる数のアンテナ素子に接続することもできる。また、異なる数のアンテナ素子からもたらされる異なる素子パターンを調節するために、異なる振幅及び位相重み付けとすることもできる。更に、第1の階層の統合給電部は、第2の階層の統合給電部とは異なる数の入力をもつこともできる。第1の階層の統合給電部が全く類似していない場合、第2の階層の統合給電部は異なるものになるであろう。
【0113】
本発明は、走査型フェーズドアレイアンテナシステム、例えば、レーダー、テレビ及びラジオ放送及び電気通信、携帯セル無線(携帯電話)等の走査型フェーズドアレイアンテナを利用する全ての技術分野での使用に適している。これは適切な構成部品(アンテナ素子、統合フィードネットワーク、移相器)が利用できる、無線、マイクロ波、ミリ波、近赤外線、遠赤外線、及び光周波数を含む任意の周波数で使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元アレイのアンテナ素子及び複数の統合給電ネットワークを有するフェーズドアレイアンテナシステムであって、
a)前記統合給電ネットワークは、第1及び第2の階層にグループ化されると共に、相互に位相が可変のネットワーク入力信号をフェーズドアレイのアンテナ素子に適するように位相合わせされたネットワーク出力信号に変換するように配置されており、前記ネットワーク出力信号は、第1及び第2の階層の内の少なくとも1つの統合給電ネットワークに関するネットワーク入力信号に比べて多数であり、
b)第1の階層の統合給電ネットワークは、アンテナ素子のラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
c)第2の階層の統合給電ネットワークは、第1の階層の統合給電ネットワークの入力ラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
d)前記システムは、第2の階層の統合給電ネットワークのネットワーク入力信号位相整合を変化させて2次元のアンテナビーム方向の制御をもたらす位相差制御手段を含む、
ことを特徴とするフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項2】
前記位相差制御手段が、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御し、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する、
ように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項3】
前記位相差制御手段が、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差が、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差に等しいこと、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する両方の入力信号との間の各位相差が等しいこと、
を維持するように配置されていることを特徴とする請求項2に記載のフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項4】
直線に配置されたアンテナ素子の2次元アレイを含むフェーズドアレイアンテナシステムであって、
a)各々のアンテナ素子のラインは、それぞれのアンテナ素子に信号を供給する出力、及び相互に位相が可変の信号を受信する入力を有する、それぞれの第1の階層の統合給電ネットワークに関連しており、
b)前記第1の階層の統合給電ネットワークが、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第1の入力と、
ii)他方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第2の入力と、
を有し、
c)前記統合給電ネットワークが、相互に位相が可変の入力信号をフェーズドアレイアンテナ素子の複数の出力信号に変換する手段を備え、出力信号の数が入力信号の数よりも多くなっており、
d)前記システムは、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御し、
ii)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する、
ための位相差変更手段を含む、
ことを特徴とするフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項5】
各々の統合給電ネットワークは、ベクトルA及びBで表される入力信号を、pi及びqiが−1から1の範囲の数因子であるpiA+qiBの形式で表される別の信号ベクトルに変換する手段を備えることを特徴とする請求項4に記載のフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項6】
前記位相差変更手段が、
a)スプリッタを経由して第2の可変移相器に接続される第1の可変移相器と、各々が一方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続される第1の固定位相器と、
b)スプリッタを経由して第3の可変移相器に接続される第2の固定位相器と、各々が他方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続される第3の固定位相器と、
c)第2及び第3の可変移相器の作動を連動させる手段と、
を備えることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項7】
アンテナ素子が、円筒面、球面、又はトロイダル面等の曲面を定めるように配置されることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項8】
2次元アレイのアンテナ素子及び複数の統合給電ネットワークを有するフェーズドアレイアンテナシステムを走査する方法であって、
a)前記統合給電ネットワークは、第1及び第2の階層にグループ化されると共に、相互に位相が可変のネットワーク入力信号をフェーズドアレイのアンテナ素子に適するように位相合わせされたネットワーク出力信号に変換するように配置されており、前記ネットワーク出力信号は、第1及び第2の階層の内の少なくとも1つの統合給電ネットワークに関するネットワーク入力信号に比べて多数であり、
b)第1の階層の統合給電ネットワークは、アンテナ素子のラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
c)第2の階層の統合給電ネットワークは、第1の階層の統合給電ネットワークの入力ラインのそれぞれに対する入力信号としてのネットワーク出力信号を提供するように配置されており、
d)前記方法は、第2の階層の統合給電ネットワークのネットワーク入力信号位相整合を変化させて2次元のアンテナビーム方向の制御をもたらすようになっている、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
ネットワーク入力信号位相整合を変化させる段階は、
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差とを、
b)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する両方の入力信号との間の各位相差を、
等しく維持する段階を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
直線に配置されたアンテナ素子の2次元アレイを含むフェーズドアレイアンテナシステムを走査する方法であって、
a)各々のアンテナ素子のラインは、それぞれのアンテナ素子に信号を供給する出力、及び相互に位相が可変の信号を受信する入力を有する、それぞれの第1の階層の統合給電ネットワークに関連しており、
b)前記第1の階層の統合給電ネットワークが、
i)一方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第1の入力と、
ii)他方の第2の階層の統合給電ネットワークの出力に接続された第2の入力と、
を有し、
c)前記統合給電ネットワークが、相互に位相が可変の入力信号をフェーズドアレイアンテナ素子の複数の出力信号に変換する手段を備え、出力信号の数が入力信号の数よりも多くなっており、
前記方法は、
d)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各々の入力信号と、他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する入力信号との間の位相差を変化させて、第1の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
e)一方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差、及び他方の第2の階層の統合給電ネットワークに対する各入力信号の間の位相差の両方を変化させて、第2の次元のアンテナビーム方向を制御する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
各々の統合給電ネットワークは、ベクトルA及びBで表される入力信号を、pi及びqiが−1から1の範囲の数因子であるpiA+qiBの形式で表される別の信号ベクトルに変換する手段を備えることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
位相差を変更する段階は、
a)第1の可変位相シフトを、スプリッタを経由して、各々が一方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続された第2の可変移相器及び第1の固定位相器に適用する段階と、
b)第2の固定位相シフトを、スプリッタを経由して、各々が他方の第2の階層の統合給電ネットワークのそれぞれの入力に接続された第3の可変移相器及び第3の固定位相器に適用する段階と、
c)前記第2及び第3の可変移相器の作動を連動させる段階と、
を含むことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
円筒面、球面、又はトロイダル面等の曲面を定めるようにアンテナ素子を配置する段階を含むことを特徴とする請求項11から請求項13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−540646(P2009−540646A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513748(P2009−513748)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002000
【国際公開番号】WO2007/141484
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(501297550)キネティック リミテッド (57)
【Fターム(参考)】