説明

2次電池の検査装置及び検査方法

【課題】 簡単かつ短時間で2次電池を精度よく検査する。
【解決手段】 通電信号供給回路65及び通電回路66は、所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池(リチウムイオン2次電池)BAの電極間に印加して2次電池BAに電流を流す。この交流成分の重畳される直流電圧は、2次電池BAの動作電圧範囲内にある。磁気センサ10が、X方向スライド機構20及びY方向スライド機構30によって駆動され、2次電池BAの下面近傍を走査して、2次電池BAの各部分に流れる電流によって発生する磁界を検出する。磁界の検出信号は、センサ信号取出回路68を介してロックインアンプ69に供給される。ロックインアンプ69は、通電信号供給回路65からの所定周波数に等しい信号を用いて、検出信号から所定周波数の信号成分を取出して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電して何度も再利用可能な2次電池の検査装置及び検査方法に係り、特に2次電池に電流を流し、2次電池内に流れる電流により発生する磁界を複数の箇所で検出して、2次電池の異常及び欠陥を検査する2次電池の検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2次電池の検査方法としては、例えば下記特許文献1に示されているように、第1の電圧(4.2V)を長時間(2週間)印加し、その後に第2の電圧(3.9V)で長時間(10時間)充電して放置し、電圧降下率が大きな2次電池を不良品と判別する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−36887号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、検査結果がでるまでに長時間を要し、2次電池の検査効率がよくないという問題がある。本発明は、この問題を解決するためになされたもので、簡単かつ短時間で2次電池を検査することができる2次電池の検査装置を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、2次電池の動作電圧範囲内にある直流電圧に所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池の電極間に印加して2次電池に電流を流す通電手段(65,66)と、2次電池の複数の部分に対向して位置し、複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出して、検出磁界を表す信号を出力する磁界検出手段(10)と、磁界検出手段から出力される検出磁界を表す信号から、所定周波数に等しい周波数の信号成分を取出す周波数成分取出し手段(69)とを備えたことにある。この場合、さらに、周波数成分取出し手段から取出された信号成分から、複数の部分に対向した位置の磁界の強さの分布又は複数の部分における電流の大きさの分布を計算する計算手段(70,S10〜S80,S100〜S116,S124〜S130)を備えるとよい。なお、2次電池の動作電圧範囲とは、2次電圧の放電電圧の下限値以上、かつ2次電池の充電電圧の上限値以下の電圧の範囲である。
【0006】
本願発明者は、2次電池の電極、電解質部分などに異常が発生すると、2次電池の電極及び電解質すなわち2次電池の複数の部分に流れる電流の分布が正常時に比べて変化し、かつこの電流の分布の変化により2次電池の複数の部分に対向する部分の磁界の分布も変化することを発見した。したがって、前記本願発明の特徴によれば、通電手段が2次電池に電流を流し、磁界検出手段が複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出することで、この検出した磁界により、電池の異常を簡単かつ短時間で検出できる。特に、この場合、通電手段は、2次電池の動作電圧範囲内にある直流電圧に所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池の電極間に印加して2次電池に電流を流すので、2次電池は充放電を繰り返し、検査後の2次電池が過充電状態及び過放電状態になることはないので、2次電池に悪影響を与えることがない。また、通電手段及び周波数成分取出し手段の作用により、所定周波数の交流成分に関係して発生される磁界を表す信号のみが取出されるので、比較的簡単な構成で、外部磁界の影響を受けない磁界を検出できる。その結果、検査装置のコストを抑えたうえで、外部磁界が一様になるようにする必要もなく、2次電池の複数の部分を流れる電流によって発生される磁界を精度よく検出できるので、ひいては2次電池の異常を精度よく検出できるようになる。
【0007】
また、本発明の他の特徴は、前記通電手段によって交流成分の重畳される直流電圧が、検査前の2次電池の出力電圧であることにある。これによれば、通電手段によって2次電池の電極間に印加される電圧は、検査前の2次電池の出力電圧を中心に上下に変化して充放電が繰り返されるので、検査後の2次電池の出力電圧は検査前の出力電圧と同じになる。その結果、2次電池の状態を、検査前と検査中とでほとんど同じ状態に保つことができるとともに、検査後においても検査前と同じ状態に保つことができ、検査前の状態における2次電池の異常を検出できるとともに、同状態を保ったまま他の検査及び作動を実現できる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記通電手段によって2次電池に印加される直流電圧は、2次電池の動作電圧範囲内で変化するものであることにある。これによれば、検査中においても、2次電池の電極間に印加される電圧の最大値及び最小値は、必ず2次電池の動作電圧範囲内に維持されるので、充電及び放電による2次電池への悪影響が全くなく、2次電池の検査が良好に行われる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、さらに、前記計算手段によって計算された磁界の強さの分布又は電流の大きさの分布と、予め用意した基準情報とを比較して、2次電池の異常を判定する判定手段(70,S118〜S122)を備えたことにある。これによれば、2次電池の種類、大きさ、形状などが同一であり、磁界検出手段に対して電池を常に同じようにセットすることができる場合は、予め用意した基準情報との比較により、2次電池の異常を容易に検出できる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、さらに、前記計算手段によって計算された磁界の強さの分布又は電流の大きさの分布を表示する表示手段(70,S134)を備えたことにある。これによれば、視覚的に2次電池の異常を判断することができる。
【0011】
さらに、本発明の実施にあたっては、本発明は、2次電池の検査装置の発明に限定されることなく、2次電池の検査方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る2次電池の検査装置の全体構成図である。
【図2】図1のステージ及び磁気センサの移動機構の具体例を示す概略斜視図である。
【図3】前記ステージにセットする電池セット用テーブルの概略斜視図である。
【図4】図1の磁気センサ及びセンサ信号取出回路の詳細回路ブロック図である。
【図5】図1のロックインアンプの詳細回路ブロック図である。
【図6A】図1のコントローラによって実行されるデータ取得プログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図6B】前記データ取得プログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【図7A】図1のコントローラによって実行される評価プログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図7B】前記評価プログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【図8】2次電池の電極に印加される通電電圧の波形図である。
【図9】検出される2次電池に流れる電流の波形図である。
【図10】磁気センサによる2次電池に対する走査態様の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る2次電池の検査装置について図面を用いて説明する。図1は、この2次電池の検査装置の全体概略図である。この2次電池の検査装置は、本実施形態に係る複数の2次電池(リチウムイオン2次電池BA)を一度に検査できるようにする構造を有しているが、電池の形状、種類などに応じて種々の構造が採用され得る。
【0014】
この2次電池の検査装置は、磁気センサ10を支持固定するセンサ支持台11を有し、センサ支持台11は、X方向スライド機構20によってX方向(紙面左右方向)に移動するとともに、Y方向スライド機構30によってY方向(紙面垂直方向)に移動する。センサ支持台11は、図2に詳細に示すように、方形状の平板で構成されて、上面にて磁気センサ10を支持固定する。このセンサ支持台11は、X方向スライド機構20の一部を構成する方形状の移動部材21により支持されている。この移動部材21には、センサ支持台11を上下に変位させて磁気センサ10の上下方向位置を調整する調整機構(図示しない)が設けられており、調整つまみ22の操作によりセンサ支持台11が上下方向に位置調整されるようになっている。
【0015】
移動部材21の下面には、Y方向に所定の幅を有する凸部21aが設けられている。この凸部21aは、X方向に延設された支持部材23の上面に設けた溝23aに侵入して、溝23a内をX方向にスライドするようになっている。支持部材23の溝23a内には、X方向に延設されて移動部材21の凸部を貫通する雄ねじ24が収容されている。移動部材21の凸部21a内には、雄ねじ24に螺合した図示しないナットが組み込まれており、雄ねじ24の回転により、移動部材21がX方向に移動するようになっている。すなわち、雄ねじ24と移動部材21に組み込まれたナットにより、ボールねじ機構が構成されている。雄ねじ24の一端は、支持部材23の一端に組み付けたX方向モータ25の回転軸に連結され、雄ねじ24の他端は支持部材23の他端に回転可能に支持されている。これにより、X方向モータ25の回転により雄ねじ24が軸線周りに回転して、移動部材21、センサ支持台11及び磁気センサ10がX方向に移動する。
【0016】
支持部材23のX方向の両端近傍部の下面には、X方向に所定の幅を有する凸部23b,23cがそれぞれ設けられている。これらの凸部23b、23cは、Y方向にそれぞれ延設された支持部材31,32の上面に設けた溝31a,32aに侵入して、溝31a,32a内をY方向にスライドするようになっている。支持部材31の溝31a内には、Y方向に延設されて支持部材23の凸部23bを貫通する雄ねじ33が収容されている。支持部材23の凸部23b内には、雄ねじ33に螺合した図示しないナットが組み込まれており、雄ねじ33の回転により、支持部材23がY方向に移動するようになっている。すなわち、雄ねじ33と支持部材23に組み込まれたナットにより、ボールねじ機構が構成されている。雄ねじ33の一端は、支持部材31の一端に組み付けたY方向モータ34の回転軸に連結され、雄ねじ33の他端は支持部材31の他端に回転可能に支持されている。これにより、Y方向モータ34の回転により雄ねじ33が軸線周りに回転して、支持部材23が移動部材21、センサ支持台11及び磁気センサ10と共にY方向に移動する。
【0017】
また、この2次電池の検査装置は、リチウムイオン2次電池BAを載置するための、ステージ40を備えている。ステージ40は、支持部材31,32の各端部から上方に延設された連結部41a,41b,41c,41dを介して、支持部材31,32の上方に配置された枠42を有している。枠42は、支持部材31,32の上方にそれぞれ位置する外枠42a,42bと、両外枠42a,42bの両端部をそれぞれ連結する外枠42c,42dとを備えている。これらの外枠42a,42b,42c,42dには、外枠42a,42b,42c,42dをそれぞれ連結して方形状の窓を形成する内枠42eが一体的に設けられている。これらの外枠42a,42b,42c,42d及び内枠42eによって形成される窓には段差が設けられており、これらの窓には電池セット用テーブル50がそれぞれ組み付けられるようになっている。
【0018】
電池セット用テーブル50は、図3に示すように、端部を下方に突出させて方形状に形成され、ステージ40の方形状の窓に載置されて組み付けられる寸法の支持板51を有する。この支持板51には、リチウムイオン2次電池BAがセットされる複数の方形状の凹部(本実施形態では4つの凹部)51aが設けられている。凹部51aの内側面にはリチウムイオン2次電池BAの電極(正極及び負極)が接続されるコネクタ52が設けられており、リチウムイオン2次電池BAの電極をコネクタ52に接続して、リチウムイオン2次電池BAを凹部51a上に載置することにより、リチウムイオン2次電池BAが電池セット用テーブル50にセットされる。図3には、その右下位置の凹部51aに1つのリチウムイオン2次電池BAがセットされた状態が示されている。電池セット用テーブル50をステージ40の窓に組み付け、かつリチウムイオン2次電池BAを電池セット用テーブル50にセットした状態では、磁気センサ10がリチウムイオン2次電池BAの下方に位置するようになっている。各凹部51aに設けたコネクタ52には接続線(電線)がそれぞれ接続され、こられの接続線は束ねられて、電池セット用テーブル50毎に共通に上面に設けたコネクタ(図示省略)に接続されている。また、支持板51の上面には、電池セット用テーブル50を持ち運ぶための取手53,53も設けられている。
【0019】
図1の説明に戻ると、X方向モータ25内には、X方向モータ25の回転を検出して、その回転を表す回転信号を出力するエンコーダ25aが組み込まれている。この回転信号は、X方向モータ25が所定の微少角度だけ回転するたびにハイレベルとローレベルとを交互に切替えるパルス列信号であって、回転方向を識別するために互いにπ/2だけ位相のずれたA相信号とB相信号とで構成される。回転信号は、X方向位置検出回路61及びX方向フィードモータ制御回路62に出力される。X方向位置検出回路61は、前記回転信号のパルス数をX方向モータ25の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値からX方向モータ25によるステージ40に対するセンサ支持台11のX方向位置(すなわち磁気センサ10のX方向位置)を検出し、検出したX方向位置をX方向フィードモータ制御回路62及び後述するコントローラ70に出力する。X方向フィードモータ制御回路62は、コントローラ70の指示により、X方向モータ25の駆動及び停止を制御する。このX方向モータ25の駆動時においては、X方向フィードモータ制御回路62は、エンコーダ25aからの回転信号を用いてX方向モータ25を所定の回転速度で回転させる。
【0020】
X方向位置検出回路61におけるカウント値の初期設定は、電源投入時にコントローラ70の指示によって行われる。すなわち、コントローラ70は、電源投入時に、X方向フィードモータ制御回路62にセンサ支持台11の初期位置に対応したX方向限界位置への移動、及びX方向位置検出回路61に初期設定を指示する。この指示により、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25を駆動してセンサ支持台11を初期位置に対応したX方向限界位置まで移動させる。X方向位置検出回路61は、センサ支持台11のX方向への移動中、X方向モータ25内のエンコーダ25aからの回転信号を入力し続けている。そして、センサ支持台11が初期位置に対応したX方向限界位置まで達してX方向モータ25の回転が停止すると、X方向位置検出回路61はエンコーダ25aからの回転信号の入力停止を検出して、カウント値を「0」にリセットする。このとき、X方向位置検出回路61は、X方向フィードモータ制御回路62に出力停止のための信号を出力し、これにより、X方向フィードモータ制御回路62はX方向モータ25への駆動信号の出力を停止する。その後に、X方向モータ25が駆動された際には、X方向位置検出回路61は、回転信号のパルス数をX方向モータ25の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値に基づいてセンサ支持台11のX方向位置を計算し、計算したX方向位置をX方向フィードモータ制御回路62及びコントローラ70に出力し続ける。
【0021】
Y方向モータ34内には、Y方向モータ34の回転を検出して、前記X方向モータ25と同様に、その回転を表す回転信号を出力するエンコーダ34aが組み込まれている。この回転信号は、Y方向位置検出回路63及びY方向フィードモータ制御回路64に出力される。Y方向位置検出回路63は、前記回転信号のパルス数をY方向モータ34の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値からY方向モータ34によるセンサ支持台11のY方向位置(すなわち磁気センサ10のY方向位置)を検出し、検出したY方向位置をY方向フィードモータ制御回路64及びコントローラ70に出力する。Y方向フィードモータ制御回路64は、コントローラ70の指示により、前記X方向フィードモータ制御回路62の場合と同様に、Y方向モータ34の駆動及び停止を制御する。このY方向モータ34の駆動時においては、Y方向フィードモータ制御回路64は、エンコーダ34aからの回転信号を用いてY方向モータ34を所定の速度で回転させる。
【0022】
Y方向位置検出回路63におけるカウント値の初期設定は、電源投入時にコントローラ70の指示によって行われる。すなわち、コントローラ70は、電源投入時に、Y方向フィードモータ制御回路64にセンサ支持台11の初期位置に対応したY方向限界位置への移動、及びY方向位置検出回路63に初期設定を指示する。この指示により、Y方向フィードモータ制御回路64は、Y方向モータ34を駆動してセンサ支持台11を初期位置に対応したY方向限界位置まで移動させる。Y方向位置検出回路63は、センサ支持台11のY方向への移動中、Y方向モータ34内のエンコーダ34aからの回転信号を入力し続けている。そして、センサ支持台11が初期位置に対応したY方向限界位置まで達してY方向モータ34の回転が停止すると、Y方向位置検出回路63はエンコーダ34aからの回転信号の入力停止を検出して、カウント値を「0」にリセットする。このとき、Y方向位置検出回路63は、Y方向フィードモータ制御回路64に出力停止のための信号を出力し、これにより、Y方向フィードモータ制御回路64はY方向モータ34への駆動信号の出力を停止する。その後に、Y方向モータ34が駆動された際には、Y方向位置検出回路63は、回転信号のパルス数をY方向モータ34の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値に基づいてセンサ支持台11のY方向位置を計算し、計算したY方向位置をY方向フィードモータ制御回路64及びコントローラ70に出力し続ける。
【0023】
この2次電池の検査装置は、さらに、通電信号供給回路65、通電回路66、通電選択回路67、センサ信号取出回路68、ロックインアンプ69及びコントローラ70を備えている。通電信号供給回路65は、正弦波発振器及び矩形波変換回路を含み、コントローラ70によって作動制御されて、正弦波発振器によって発振される正弦波信号を通電信号として通電回路66に供給する。なお、通電信号は、「0」を基準に正負に変化する信号であり、その周波数は、例えば数10ヘルツから数100ヘルツ程度である。また、通電信号供給回路65は、前記正弦波信号からなる通電信号を矩形波変換回路による変換により、前記通電信号と同期して「0」を中心として正負に変化する矩形波信号を生成して、参照信号としてロックインアンプ69に出力する。
【0024】
通電回路66も、コントローラ70によって作動制御されて、通電選択回路67を介してリチウムイオン2次電池BAに通電する。この場合、通電回路66は、通電信号供給回路65から供給される「0」を基準に正負に変化する正弦波信号に正のオフセット電圧を加算して、前記オフセット電圧を中心に正弦波状に変化して常に正の範囲内で変化する通電信号に変換して、リチウムイオン2次電池BAの陽極に供給する。一方、通電回路66の接地側端子は、リチウムイオン2次電池BAの陰極に接続される。すなわち、所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧が、リチウムイオン2次電池BAの陽極及び陰極間に印加される。なお、この交流成分の重畳された直流電圧(通電電圧)は、リチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内で変動するものである。すなわち、通電電圧の最高電圧がリチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限値以下であり、かつ最低電圧がリチウムイオン2次電池BAの放電電圧の下限値以上である電圧である。
【0025】
具体的には、例えば、リチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限が4.1vであり、放電電圧の下限が2.9vであれば、これらの中間付近の電圧(例えば、3.5v)に交流信号が重畳される(図8参照)。なお、特に、前記中間付近の電圧に交流信号を重畳しなくても、交流信号の重畳された通電電圧が常にリチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限と放電電圧の下限との間にあれば、適当な電圧を利用できる。また、重畳される交流信号の振幅に関しても、前記重畳の結果としての通電電圧が常にリチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限と放電電圧の下限との間になるように設定される。
【0026】
この場合、リチウムイオン2次電池BAに現在の出力電圧より高い電圧が印加されると、通電電圧による電流の方向に電流を流す、すなわちリチウムイオン2次電池BAは充電される。また、リチウムイオン2次電池BAに現在の出力電圧より低い電圧が印加されると、通電電圧による電流の方向と反対方向に電流を流す、すなわちリチウムイオン2次電池BAは放電される。このため、前記通電電圧の印加により、リチウムイオン2次電池BAは充電と放電を繰り返す。このときの電流の強度変化を充電時の電流の方向で見ると、図9のようになる。そして、ロックインアンプ69により通電電圧と同じ周波数の磁界成分を検出し、それを電流成分に換算すると、矢印で示した箇所の値が正の値として検出される。これは、あたかも通電電圧により充電方向に流れる電流を検出したようになる。その結果、詳しくは後述するように、この検出した値を複数の位置で求めて得られる電流分布を基準のリチウムイオン2次電池BAのものと比較することで、リチウムイオン2次電池の良、不良を検出することができる。
【0027】
通電選択回路67は、通電回路66から供給された通電電圧を接続線L1を介して、リチウムイオン2次電池BAに供給する。すなわち、複数の接続線L1は、各電池セット用テーブル50の上面に設けたコネクタにそれぞれ接続される。この場合、通電選択回路67は、コントローラ70によって制御され、セットされた複数のリチウムイオン2次電池BAのうちでコントローラ70によって指定された一つのリチウムイオン2次電池BAに通電する。
【0028】
次に、磁気センサ10について説明しておく。磁気センサ10は、図4に示すように、X方向の磁界を検出するX方向磁気センサ10Aと、Y方向の磁界の変化を検出するY方向磁気センサ10Bとを備えている。X方向磁気センサ10Aは、抵抗r11,r12,r13及び磁気抵抗素子MR1からなるブリッジ回路で構成されており、抵抗r11,r13の接続点と、抵抗r12及び磁気抵抗素子MR1の接続点との間に、センサ信号取出回路68の後述する定電圧供給回路68aから電圧+V,−Vが印加されるようになっている。また、X方向磁気センサ10Aにおいては、抵抗r13及び磁気抵抗素子MR1の接続点と、抵抗r11,r12間の接続点との間の電圧をX方向磁気検出信号として出力する。抵抗r11,r12,r13の値は同じであり、磁界の強さが「0」であるときの磁気抵抗素子MR1の抵抗値に等しい。これにより、ほぼ「0」を基準としたX方向の磁界の正負の変化により、X方向磁気検出信号はほぼ「0」を基準にX方向の磁界の大きさに比例して正負に変化する電圧信号となる。
【0029】
Y方向磁気センサ10Bは、抵抗r21,r22,r23及び磁気抵抗素子MR2からなるブリッジ回路で構成されており、抵抗r21,r22の接続点と、抵抗r23及び磁気抵抗素子MR2の接続点との間に、センサ信号取出回路68の後述する定電圧供給回路68bから電圧+V,−Vが印加されるようになっている。また、Y方向磁気センサ10Bにおいては、抵抗r22及び磁気抵抗素子MR2の接続点と、抵抗r21,r23間の接続点との間の電圧をY方向磁気検出信号として出力する。抵抗r21,r22,r23の値は同じであり、磁界の強さが「0」であるときの磁気抵抗素子MR2の抵抗値に等しい。これにより、ほぼ「0」を基準としたY方向の磁界の正負の変化により、Y方向磁気検出信号はほぼ「0」を基準にY方向の磁界の大きさに比例して正負に変化する電圧信号となる。
【0030】
センサ信号取出回路68は、定電圧供給回路68a,68b及び増幅器68c,68dを備えている。定電圧供給回路68a,68bは、コントローラ70からの指示により、X方向磁気センサ10A及びY方向磁気センサ10Bに対して、定電圧+V,−Vを供給する。増幅器68c、68dは、X方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号をそれぞれ増幅してロックインアンプ69に出力する。
【0031】
ロックインアンプ69は、図5に詳細に示すように、X方向磁気センサ10Aから増幅器68cを介して供給されるX方向磁気検出信号を入力するハイパスフィルタ69aと、Y方向磁気センサ10Bから増幅器68dを介して供給されるY方向磁気検出信号を入力するハイパスフィルタ69bとを備えている。ハイパスフィルタ69a,69bは、X方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号に含まれる、磁界の強さに比例した信号成分以外の不要な成分を取り除くとともに、信号をグランドレベルを中心に変化するようにする。
【0032】
ハイパスフィルタ69aの出力は、増幅器69cを介して位相検波回路69d,69eに供給される。位相検波回路69d,69eは、それぞれ乗算器によって構成されている。位相検波回路69dは、ハイパスフィルタ69a及び増幅器69cを介して供給されるX方向磁気検出信号に、通電信号供給回路65からの参照信号を乗算してローパスフィルタ69fに出力する。位相検波回路69eは、ハイパスフィルタ69a及び増幅器69cを介して供給されるX方向磁気検出信号に、通電信号供給回路65からの参照信号を位相シフト回路69gで90度位相を遅らせた遅延参照信号を乗算してローパスフィルタ69hに出力する。これにより、ローパスフィルタ69fにはX方向磁気検出信号の通電信号(参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69fは供給された成分信号をローパスフィルタ処理してX方向磁気検出信号の通電信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。ローパスフィルタ69hにはX方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号(遅延参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69hは供給された成分信号をローパスフィルタ処理してX方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。
【0033】
ハイパスフィルタ69bの出力は、増幅器69iを介して位相検波回路69j,69kに供給される。位相検波回路69j,69kには、ローパスフィルタ69m,69nが接続されている。位相検波回路69j,69k及びローパスフィルタ69m,69nは、前述した位相検波回路69d,69e及びローパスフィルタ69f,69hと同様に構成されている。これにより、ローパスフィルタ69mにはY方向磁気検出信号の通電信号(参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69mは供給された成分信号をローパスフィルタ処理してY方向磁気検出信号の通電信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。ローパスフィルタ69nにはY方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号(遅延参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69nは供給された成分信号をローパス処理してY方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。ローパスフィルタ69f,69h,69m,69nは、A/D変換器69o,69p,69q,69rにそれぞれ接続されている。A/D変換器69o,69p,69q,69rは、所定の時間間隔ごとに、ローパスフィルタ69f,69h,69m,69nからの信号をそれぞれA/D変換してコントローラ70に供給する。
【0034】
ふたたび図1の説明に戻り、コントローラ70は、CPU、ROM、RAMを備えたマイクロコンピュータと、ハードディスクや不揮発性メモリなどの記憶装置と、入出力インタフェース等から構成される電子制御装置である。コントローラ70は、記憶装置に記憶された図6A及び図6Bのデータ取得プログラム及び図7A及び図7Bの評価プログラムを実行してこの2次電池の検査装置の動作を制御する。コントローラ70には、作業者が各種パラメータや処理等を指示するための入力装置71と、作業者に対して作動状況等を視覚的に知らせるための表示装置72とが接続されている。
【0035】
次に、上記のように構成した2次電池の検査装置の動作について説明する。作業者は、図1に示すように、複数の電池セット用テーブル50をステージ40の枠42に組み付けるとともに、検査対象である複数のリチウムイオン2次電池BAを電池セット用テーブル50にそれぞれセットする。この場合、リチウムイオン2次電池BAの電極(正極及び負極)が電池セット用テーブル50のコネクタ52に接続される。そして、複数の電池セット用テーブル50は、接続線L1を介して通電選択回路67に接続される。この状態で、2次電池の検査装置の電源が投入されると、上述したように、コントローラ70の指示により、X方向フィードモータ制御回路62及びY方向フィードモータ制御回路64はセンサ支持台11(すなわち磁気センサ10)をX方向及びY方向の限界位置に移動させるとともに、X方向位置検出回路61及びY方向位置検出回路63は検出されるX方向位置及びY方向位置を初期値に設定する。
【0036】
その後、作業者は、入力装置71を操作することにより、複数のリチウムイオン2次電池BAの検査開始をコントローラ70に指示する。この指示に応答して、コントローラ70は、図6AのステップS10にてデータ取得プログラムの実行を開始し、ステップS12にて変数sを「1」に設定する。この変数sは、電池セット用テーブル50を介してステージ40上にセットされたリチウムイオン2次電池BAのそれぞれを指定するものであり、全てのリチウムイオン2次電池BAに対して1,2,3・・smaxの順に変化する変数sが割り当てられている。この変数sのリチウムイオン2次電池BAに対する割当てに関してはどのような順でもよいが、本実施形態では、X,Y軸方向の原点位置からX軸方向正側及び負側に往復するとともに、Y軸方向正側に向かうように、変数sが複数のリチウムイオン2次電池BAに対して1,2,3・・smaxの順に割当てられている。
【0037】
前記ステップS12の処理後、コントローラ70は、ステップS14にて、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAを選定し、選定したリチウムイオン2次電池BAに通電するように通電選択回路67に指示信号を出力する。通電選択回路67は、接続L1を介して通電されるリチウムイオン2次電池BAを選択する。次に、コントローラ70は、ステップS16にて変数nを「0」に初期設定するとともに、変数m,aをそれぞれ「1」に初期設定する。変数n,mは、前記選定されたリチウムイオン電池BAに対する磁気センサ10のX方向及びY方向の走査位置を示す変数である。変数aは、「1」により磁気センサ10の中心位置がX軸方向正側に移動している状態を表し、「−1」により磁気センサ10の中心位置がX軸方向負側に移動している状態を表している。以降、この磁気センサ10の中心位置を検査位置という。
【0038】
この場合、磁気センサ10は、図10に示すように、リチウムイオン2次電池BAごとに、初期値Xs,Ysによって指定される初期位置から、X方向に終了値Xmaxによって表される終了位置を越えるまで所定の微小値ΔXずつ移動制御される。そして、X方向の終了位置に達すると、磁気センサ10はY方向に所定の微小値ΔYだけ移動制御され、その後に、X方向の終了位置からX方向の開始位置まで微小値ΔXずつ移動制御される。そして、ふたたび、磁気センサ10はY方向に微小値ΔYだけ移動制御されて、X方向の開始位置から終了位置まで微小値ΔXずつ移動制御される。このように、磁気センサ10は、X方向に往復運動しながらY方向に移動して、リチウムイオン2次電池BAを走査する。なお、これらの初期値Xs,Ys及び終了値Xmax,Ymaxは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAごとに、予め決められて記憶されている。また、微小値ΔX,ΔYは、リチウムイオン2次電池BAの縦横の長さ(Xmax−Xs,Ymax−Ysより若干小さな値)に比べて極めて小さく、予め決められて記憶されている値である。
【0039】
前記ステップS16の処理後、コントローラ70は、ステップS18にて、X方向フィードモータ制御回路62に対し、磁気センサ10をX軸方向に移動して検査位置が変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのX軸方向の初期値Xsによって表される初期位置になるように指示するとともに、Y方向フィードモータ制御回路64に対し、磁気センサ10をY軸方向に移動して検査位置が変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのY軸方向の初期値Ysによって表される初期位置になるように指示する。この指示に応答して、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向位置検出回路61からX方向検出位置(X軸方向の検査位置)を入力しながら、X方向検出位置が初期値Xsに一致するまでX方向モータ25を駆動制御する。Y方向フィードモータ制御回路64は、Y方向位置検出回路63からY方向検出位置(Y軸方向の検査位置)を入力しながら、Y方向検出位置が初期値Ysに一致するまでY方向モータ34を駆動制御する。
【0040】
ステップS18の処理後、コントローラ70は、ステップS20にて通電信号供給回路65の作動開始を指示する。この指示に応答して、通電信号供給回路65は、正弦波状の通電信号を通電回路66に供給するとともに、前記通電信号と同期した矩形波状の参照信号をロックインアンプ69に供給し始める。次に、コントローラ70は、ステップS22にて通電回路66の作動開始を指示する。この指示に応答して、通電回路66は、前記供給された通電信号をリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内で変化する通電信号(図8参照)に変換して通電選択回路67に出力する。通電選択回路67は、前記ステップS14の処理によって指定されたリチウムイオン2次電池BAに対して、前記通電回路66から供給された通電信号を供給する。これにより、前記指定されたリチウムイオン2次電池BAは、充放電を繰り返しながら、正極、負極及び電解質に通電信号を流し始める。次に、コントローラ70は、ステップS24にてセンサ信号取出回路68の作動開始を指示する。この指示に応答して、センサ信号取出回路68内の定電圧供給回路68a,68bは、X方向磁気センサ10A及びY方向磁気センサ10Bに定電圧信号+V,−Vを供給し始める。これにより、X方向磁気センサ10A及びY方向磁気センサ10BによるX方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号が、増幅器68c,68dを介してロックインアンプ69にそれぞれ供給され始める。
【0041】
このX方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号について説明する。前述した変数sによって指定されたリチウムイオン2次電池BAへの通電信号の供給によるリチウムイオン2次電池BAの充放電により、リチウムイオン2次電池BA内の陽極、陰極及び電解質には前記充放電に対応した電流が流れる(図9参照)。この電流により、リチウムイオン2次電池BAの表裏面近傍には前記電流に応じた磁界が発生する。そして、X方向磁気センサ10Aは、X方向の磁界Hxの大きさに比例した電圧をX方向磁気検出信号として出力し始める。また、Y方向磁気センサ10Bは、Y方向の磁界Hyの大きさに比例した電圧をY方向磁気検出信号として出力し始める。これらのX方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号は、前記電流が正弦波状に変化するので、正弦波状に変化する信号である。
【0042】
ロックインアンプ69においては、入力されたX方向磁気検出信号がハイパスフィルタ69a及び増幅器69cを介して位相検波回路(乗算器)69d,69eにそれぞれ供給されるとともに、入力されたY方向磁気検出信号がハイパスフィルタ69b及び増幅器69iを介して位相検波回路(乗算器)69j,69kにそれぞれ供給される。位相検波回路69d,69jには、通電信号供給回路65からの矩形波状の参照信号が供給されている。また、位相検波回路69e,69kには、前記参照信号の位相を位相シフト回路69gで90度遅らせた遅延参照信号が供給されている。そして、位相検波回路69d,69eは、増幅器69cを介して供給されたX方向磁気検出信号に参照信号及び遅延参照信号をそれぞれ乗算して、乗算した信号をローパスフィルタ69f,69hを介してA/D変換器69o,69pにそれぞれ供給する。位相検波回路69j,69kは、増幅器69iを介して供給されたY方向磁気検出信号に参照信号及び遅延参照信号をそれぞれ乗算して、乗算した信号をローパスフィルタ69m,69nを介してA/D変換器69q,69rにそれぞれ供給する。
【0043】
ここで、ローパスフィルタ69f,69h,69j,69kは供給された信号の成分の大きさを表す信号すなわち正弦波状の信号の振幅に比例した大きさを表す信号を出力するように機能する。したがって、A/D変換器69oには、X方向磁気検出信号の参照信号に同期した信号成分の大きさを表す信号が供給される。A/D変換器69pには、X方向磁気検出信号の参照信号から90度だけ位相の遅れた信号成分の大きさを表す信号が供給される。A/D変換器69qには、Y方向磁気検出信号の参照信号に同期した信号成分の大きさを表す信号が供給される。A/D変換器69rには、Y方向磁気検出信号の参照信号から90度だけ位相の遅れた信号成分の大きさを表す信号が供給される。そして、A/D変換器69o,69p,69q,69rは、それぞれ供給された信号を所定時間ごとにサンプリングしてA/D変換し、A/D変換したサンプリングデータをコントローラ70に供給する。したがって、コントローラ70には前記各信号成分の所定時間ごとの大きさを表すサンプリングデータが所定時間ごとに供給されるようになる。
【0044】
前記ステップS24の処理後、コントローラ70は、ステップS26にて変数nに変数aを加算する。この場合、ステップS26の処理前の変数nは「0」であり、変数aは「1」であるので、変数nは「1」に変更される。前記ステップS26の処理後、コントローラ70は、ステップS28にて、ロックインアンプ69のA/D変換器69o,69p,69q,69rから供給されるサンプリングデータを取込み、ステップS30にて取込んだ各サンプリングデータの数が所定数Kに達したか否かを判定する。この所定数Kは、例えば数個から数十個の各サンプリングデータの数を表す値に設定されている。各サンプリングデータの数が所定数Kに達していなければ、コントローラ70は、ステップS30にて「No」と判定して、ステップS28にてA/D変換器69o,69p,69q,69rから次に出力されるサンプリングデータを取込む。そして、A/D変換器69o,69p,69q,69rから取込んだ各サンプリングデータの数が所定数Kに達すると、コントローラ70は、ステップS30にて「Yes」と判定して、ステップS32以降の処理を実行する。ステップS28にて取込まれたサンプリングデータは、変数s及び変数n,mによって指定されるサンプリングデータ群として、RAMに記憶される。
【0045】
具体的には、A/D変換器69oから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちX方向磁気検出信号の参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m)としてRAMに記憶される。A/D変換器69pから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちX方向磁気検出信号の遅延参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、前記と同じリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx2(n,m)としてRAMに記憶される。A/D変換器69pから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちY方向磁気検出信号の参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、前記と同じリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sy1(n,m)としてRAMに記憶される。A/D変換器69rから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちY方向磁気検出信号の遅延参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、前記と同じリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sy2(n,m)としてRAMに記憶される。なお、この場合の変数n,mは、共に「1」である。
【0046】
前記ステップS28,S30の処理後、コントローラ70は、ステップS32にて変数aが「1」であるか否かを判定する。変数aは「1」に初期設定されているので、この場合、コントローラ70は、ステップS32にて「Yes」と判定して、ステップS34にて、値Xs+n・ΔXがX軸方向の終了値Xmaxよりも大ききか否かを判定する。なお、終了値Xmaxは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するX軸方向の予め記憶されている終了値である。値Xs+n・ΔXは、X軸方向の走査間隔を表す所定値ΔXに変数nを乗算して初期値Xsを加算した値であり、次のX軸方向の測定位置(X軸方向の走査位置)を表す値である(図10参照)。値Xs+n・ΔXが終了値Xmax以下であれば、コントローラ70は、ステップS34にて「No」と判定して、ステップS36にて、X方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10による測定位置をX軸方向正側に移動させるように指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25を作動させて磁気センサ10による測定位置をX軸方向正側に移動させ始める。
【0047】
次に、コントローラ70は、ステップS38にてX方向位置検出回路61からX方向位置を入力し、ステップS40にて入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達したか否か、すなわちX方向位置を示す値が値Xs+n・ΔX以上になったか否かを判定する。そして、X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達するまで、コントローラ70は、ステップS40にて「No」と判定し続けて、ステップS38,S40の処理を繰り返し実行する。X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達すると、コントローラ70は、ステップS40にて「Yes」と判定し、ステップS42にてX方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10の測定位置のX軸方向正側への移動を停止させることを指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25の作動を停止させて、磁気センサ10による測定位置のX軸方向正側への移動を停止させる。その結果、磁気センサ10は、値Xs+n・ΔXで表されたX軸方向位置、かつY軸方向初期値Ysにおける磁界を検出し始める。
【0048】
前記ステップS42の処理後、コントローラ70は、ステップS26に戻って、ステップS26の処理によって変数nに変数a(この場合、a=1)を加算して、前述のステップS28,S30のサンプリングデータの取込み処理を実行する。これらのステップS28,S30の処理により、値Xs+(n−1)・ΔXで表されたX軸方向位置(前記次の照射位置)、かつY軸方向初期値Ysの磁気センサ10による測定結果のサンプリングデータがRAMに新たに記憶される。具体的には、X方向磁気検出信号の参照信号及び遅延参照とそれぞれ同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのサンプリングデータが、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m)としてRAMに記憶される。また、Y方向磁気検出信号の参照信号及び遅延参照信号とそれぞれ同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのサンプリングデータが、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sy1(n,m),Sy2(n,m)としてRAMに記憶される。なお、この場合の変数nは「2」であり、変数mは「1」である。
【0049】
そして、コントローラ70は、次のX軸方向の測定位置(X軸方向の走査位置)を表す値Xs+n・ΔXが終了値Xmaxよりも大きくなるまで、ステップS26〜S42の処理により、測定位置をX軸方向正側に所定値ΔXずつ移動させるとともに、変数nを「1」ずつ増加させながら、サンプリングデータを取込む。そして、次のX軸方向の測定位置を表す値Xs+n・ΔXが終了値Xmaxよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS34にて「Yes」と判定して、プログラムを図6BのステップS54に進める。この状態では、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=1)がRAMに記憶される。なお、値Nは、終了値Xmax直前の測定位置によるサンプリングデータ群に関する変数nの値であって、X軸方向における測定位置の数を表している。
【0050】
コントローラ70は、ステップS54において、Y方向フィードモータ制御回路64に、磁気センサ10による測定位置をY軸方向正側に移動させるように指示する。これにより、Y方向フィードモータ制御回路64は、Y方向モータ34を作動させて磁気センサ10による測定位置をY軸方向正側に移動させ始める。次に、コントローラ70は、ステップS56にてY方向位置検出回路63からY方向位置を入力し、ステップS58にて入力したY方向位置が次のY軸方向の測定位置Ys+m・ΔYに達したか否かを判定する。この次のY軸方向の測定位置Ys+m・ΔYは、X軸方向の次の測定位置Xs+n・ΔXと同様に、Y軸方向の走査間隔を表す所定値ΔYに変数mを乗算して初期値Ysを加算した値である(図10参照)。そして、Y方向位置検出回路63から入力したY方向位置が次のY軸方向の測定位置に達するまで、コントローラ70は、ステップS58にて「No」と判定し続けて、ステップS56,S58の処理を繰り返し実行する。Y方向位置検出回路63から入力したY方向位置が次のY軸方向の測定位置に達すると、コントローラ70は、ステップS58にて「Yes」と判定し、ステップS60にてY方向フィードモータ制御回路64に、磁気センサ10による測定位置のY軸方向正側への移動を停止させることを指示する。これにより、Y方向フィードモータ制御回路62は、Y方向モータ34の作動を停止させて、磁気センサ10による測定射位置のY軸方向正側への移動を停止させる。その結果、磁気センサ10は、値Xs+(n-1)・ΔX(=Xs+(N-1)・ΔX)で表されたX軸方向位置、かつ値Ys+m・ΔY(=Ys+ΔY)で表されたY軸方向位置の磁界を測定し始める。
【0051】
前記ステップS60の処理後、コントローラ70は、ステップS62にて、Y方向位置検出回路63からY方向位置を入力して、入力したY方向位置が終了値Ymaxによって表されたY軸方向の走査終了位置を越えたか否かを判定する。なお、終了値Ymaxは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するY軸方向の予め記憶されている終了値である。Y方向位置が走査終了位置を越えていなければ、コントローラ70は、ステップS62にて「No」と判定して、ステップS64にて変数mに「1」を加算し、ステップS66にて変数aに「−1」を乗算する。この場合、ステップS64の処理によって変数mは「2」になり、ステップS66の処理によって変数aは「−1」になる。また、変数nは値Nに保たれている。前記ステップS66の処理後、コントローラ70は、図5AのステップS28に戻って、ステップS28,S30の処理より、K個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(N,2),Sx2(N,2),Sy1(N,2),Sy2(N,2)をロックインアンプ69からそれぞれ取込み記憶する。
【0052】
前記ステップS28,S30の処理後、コントローラ70は、ステップS32にて変数aは「1」であるか否かを判定する。この場合、前記ステップS66の処理によって変数aは「−1」に設定されているので、コントローラ70は、ステップS32にて「No」と判定して、ステップS44にて、値Xs+(n−2)・ΔXがX軸方向の初期値Xsよりも小さいか否かを判定する。この場合、変数nはNであり、値Xs+(n−2)・ΔXは、図10において右端から2番目の検出位置を表す値である。値Xs+(n−2)・ΔXが初期値Xsよりも小さくなければ、コントローラ70は、ステップS44にて「No」と判定して、ステップS46にて、X方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10による測定位置をX軸方向負側に移動させるように指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25を作動させて磁気センサ10による測定位置をX軸方向負側に移動させ始める。
【0053】
次に、コントローラ70は、ステップS48にてX方向位置検出回路61からX方向位置を入力し、ステップS50にて入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達したか否か、すなわちX方向位置を示す値が値Xs+(n−2)・ΔX以下になったか否かを判定する。そして、X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達するまで、コントローラ70は、ステップS50にて「No」と判定し続けて、ステップS48,S50の処理を繰り返し実行する。X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達すると、コントローラ70は、ステップS50にて「Yes」と判定し、ステップS52にてX方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10による測定位置のX軸方向負側への移動を停止させることを指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25の作動を停止させて、磁気センサ10による測定射位置のX軸方向負側への移動を停止させる。その結果、磁気センサ10は、値Xs+(n−2)・ΔX(=Xs+(N−2)・ΔX)で表されたX軸方向位置、かつ値Ys+(m−1)・ΔYs(=Ys+ΔYs)で表されたY軸方向位置の磁界を検出し始める。
【0054】
前記ステップS52の処理後、コントローラ70は、ステップS26に戻って、ステップS26の処理によって変数nに変数a(この場合、a=−1)を加算して、前述のステップS28,S30のサンプリングデータの取込み処理を実行する。これらのステップS28,S30の処理により、前記ステップS26の処理前の値Xs+(n−2)・ΔX(=Xs+(N−2)・ΔX)で表されたX軸方向位置、かつ値Ys+(m−1)・ΔYs(=Ys+ΔYs)で表されたY軸方向位置の磁界に関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)が取込み記憶される。なお、この取込み記憶されるサンプリングデータ群に関する変数nは値N−1であり、変数mは「2」である。
【0055】
そして、コントローラ70は、次のX軸方向の測定位置(X軸方向の走査位置)を表す値Xs+(n−2)・ΔXが初期値Xsよりも小さくなるまで、ステップS26〜S32,S44〜S52の処理により、測定位置をX軸方向負側に所定値ΔXずつ移動させるとともに、変数nを「1」ずつ減少させながら、サンプリングデータを取込む。そして、次のX軸方向の測定を表す値Xs+(n−2)・ΔXが初期値Xsよりも小さくなると、コントローラ70は、ステップS44にて「Yes」と判定して、図6BのステップS54に進む。なお、このときの変数nは「1」である。この状態では、前述したサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=1)に加えて、サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=2)がRAMに記憶される。
【0056】
コントローラ70は、前述したステップS54〜S60の処理により、Y方向モータ34を作動させて磁気センサ10による測定位置を次のY軸方向照射位置Ys+m・ΔYに移動させる。その結果、磁気センサ10は、初期値Xsで表されたX軸方向の初期位置、かつ値Ys+m・ΔY(=Ys+2・ΔY)で表されたY軸方向位置の磁界を検出し始める。次に、コントローラ70は、Y方向位置検出回路63によって検出されたY方向位置が終了位置を越えていないことを条件に、コントローラ70は、ステップS62にて「No」と判定して、ステップS64にて変数mに「1」を加算し、ステップS66にて変数aに「−1」を乗算する。この場合、ステップS64の処理によって変数mは「3」になり、ステップS66の処理によって変数aは「1」になる。また、変数nは「1」に保たれている。前記ステップS66の処理後、コントローラ70は、ステップS28に戻って、ステップS28,S30の処理より、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(1,3),Sx2(1,3),Sy1(1,3),Sy2(1,3)をロックインアンプ69からそれぞれ取込み記憶する。
【0057】
前記ステップS28,S30の処理後、コントローラ70は、ステップS32にて変数aは「1」であるか否かを判定する。この場合、前記ステップS66の処理によって変数aは「1」に設定されているので、コントローラ70は、ステップS32にて「Yes」と判定して、前述したステップS34〜S42,S26〜S32の処理を、値Xs+n・ΔXが終了値Xmaxよりも大きくなるまで繰り返し実行する。これにより、磁気センサ10の測定位置がX軸方向正側に走査されて、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=3)がRAMに新たに記憶される。
【0058】
そして、変数mを「3」に設定した状態で、磁気センサ10の測定位置のX軸方向正側への走査が終了すると、ステップS34の判定処理により、ステップS54〜S66の処理が実行されて、磁気センサ10の測定位置が次のY軸方向位置に変更されるとともに、変数m,aが変更される。そして、前述したステップS26〜S32,S44〜S52の処理により、磁気センサ10の測定位置がX軸方向負側へ走査され、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=4)がRAMに新たに記憶される。
【0059】
このようなステップS26〜S66の処理により、磁気センサ10の測定位置がX軸方向を往復するように走査されるとともにY軸方向正側に走査されて、Y方向位置検出回路63によって検出されるY方向位置が終了値Ymaxよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS62にて「Yes」と判定して、ステップS68に進む。ステップS68においては、コントローラ70は、次の検査対象であるリチウムイオン2次電池BAが存在するか否か、すなわち変数sがリチウムイオン2次電圧BAの数Smaxに達していないかを判定する。この場合、変数sは「1」であって、リチウムイオン2次電圧BAの数に達していないので、コントローラ70は、ステップS68にて「Yes」と判定して、ステップS70にて変数sに「1」を加算して、図6AのステップS14に戻る。この状態では、RAM内に、変数s(=1)によって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が記憶されている。なお、値Mは、終了値Ymax直前の測定位置によるサンプリングデータ群に関する変数mの値であって、Y軸方向における測定位置の数を表している。
【0060】
ステップS14においては、コントローラ70は、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAを選定し、選定したリチウムイオン2次電池BAに通電するように通電選択回路67に指示信号を出力する。通電選択回路67は、接続L1を介して通電されるリチウムイオン2次電池BAを選択する。次に、コントローラ70は、前述したステップS16の処理によって変数nを「0」に初期設定するとともに、変数m,aをそれぞれ「1」に初期設定し、前述したステップS18の処理により、磁気センサ10の測定位置を、変数s(=2)によって指定されるリチウムイオン2次電池BAの初期値Xs,Ysによって表されるX及びY軸方向の初期位置に位置させる。そして、前述したステップS20〜S24の処理により、通電信号供給回路65、通電回路66及びセンサ信号取出回路68の作動開始を指示する。しかし、この場合、通電信号供給回路65、通電回路66及びセンサ信号取出回路68は作動しているので、実際には、通電信号供給回路65、通電回路66及びセンサ信号取出回路68は作動し続けるだけである。
【0061】
前記ステップS24の処理後、コントローラ70は、前述した図6AのステップS26〜図6BのステップS66の処理を実行する。これにより、RAM内に、変数s(=2)によって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が記憶される。その後、次の検査対象であるリチウムイオン2次電池BAが存在しなくなるまで、すなわち変数sがリチウムイオン2次電圧BAの数smaxに達するまで、コントローラ70は、ステップS68にて「Yes」と判定して、ステップS70にて変数sを「1」ずつ増加させながら、図6AのステップS14〜図6BのステップS70の処理を繰返し実行する。そして、変数sがリチウムイオン2次電圧BAの数smaxに達すると、コントローラ70は、ステップS68にて「No」と判定して。ステップS72以降に進む。この状態では、RAM内に、変数s(1〜smax)によって指定される全てのリチウムイオン2次電池BAに対して、K個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が記憶されている。
【0062】
コントローラ70は、ステップS72にてセンサ信号取出回路68の作動停止を指示し、ステップS74にて通電回路66の作動停止を指示し、ステップS76にて通電信号供給回路65の作動停止を指示する。これらの作動停止の指示により、磁気センサ10、通電信号供給回路65、通電回路66、通電選択回路67、センサ信号取出回路68及びロックインアンプ69の作動が停止する。前記ステップS76の処理後、コントローラ70は、ステップS78にて、センサ支持台11(すなわち磁気センサ10)をX方向駆動限界位置まで移動させることをX方向位置検出回路61及びX方向フィードモータ制御回路62に指示するとともに、センサ支持台11をY方向駆動限界位置まで移動させることをY方向位置検出回路63及びY方向フィードモータ制御回路64に指示して、ステップS80にてデータ取得プログラムの実行を終了する。X方向フィードモータ制御回路62は、前述の初期設定のように、X方向位置検出回路61と協働して、センサ支持台11をX方向駆動限界位置まで移動させる。Y方向フィードモータ制御回路64は、前述のように、Y方向位置検出回路63と協働して、センサ支持台11をY方向駆動限界位置まで移動させる。
【0063】
次に、前記データ取得プログラムで取得した変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAごとの所定数Kずつのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)を用いて、リチウムイオン2次電池を評価する方法について説明する。この場合、作業者は、入力装置71を操作して、コントローラ70に図7A及び図7Bの評価プログラムを実行させる。この評価プログラムの実行はステップS100にて開始され、コントローラ70は、ステップS102にて変数sを「1」に設定する。この変数s(=1〜smax)は、上述したデータ取得プログラムの場合と同じであり、smax個のリチウムイオン2次電池BAのそれぞれを指定する。次に、コントローラ70は、ステップS104にて変数n,mをそれぞれ「1」に初期設定した後、ステップS106にて、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関し、変数n,mによって指定される所定数Kずつのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)の磁界の大きさの各平均値Sx1,Sx2,Sy1,Sy2を計算する。具体的には、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関する各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)ごとに、K個のサンプリングデータを加算して値Kで除算する。
【0064】
次に、コントローラ70は、ステップS108にて、前記計算した平均値Sx1,Sx2を用いた下記数1,2の演算の実行により、X方向磁気検出信号の極大値Hxと、X方向磁気検出信号の参照信号に対する位相シフト量θxとを計算する。
Hx=(Sx12+Sx22)1/2 …式1
θx=tan-1(Sx2/Sx1) …式2
これにより、X方向磁気検出信号としてHx・sin(2πft+θx)が検出されたことになる。なお、fは、通電信号供給回路65から出力される通電信号及び参照信号の周波数に等しい。
【0065】
次に、コントローラ70は、ステップS110にて、前記計算した平均値Sy1,Sy2を用いた下記数3,4の演算の実行により、Y方向磁気検出信号の極大値Hyと、Y方向磁気検出信号の参照信号に対する位相シフト量θyとを計算する。
Hy=(Sy12+Sy22)1/2 …式3
θy=tan-1(Sy2/Sy1) …式4
これにより、Y方向磁気検出信号としてHy・sin(2πft+θy)が検出されたことになる。
【0066】
次に、コントローラ70は、ステップS112にて、前記計算したHx,θx,Hy,θyを用いた下記数5,6の演算の実行により、通電電流量が最大となるタイミング(前記X方向磁気検出信号Hx・sin(2πft+θx)及び前記Y方向磁気検出信号Hy・sin(2πft+θy)における2πftがπ/2のタイミング)における、検査位置の磁界の強さHxy及び磁界の向きθxyを計算する。この場合、通電電流量が最大となるタイミングを採用した理由は、位相シフト量θx,θyは小さく、通電電流量が最大となるタイミング近傍で検査位置の磁界の強さHxyが最大値近傍の値になるためである。なお、位相シフト量θx,θyが小さくなく、通電電流量が最大となるタイミング近傍で検査位置の磁界の強さHxyが最大値近傍にならない場合には、磁界の強さHxyが最大値近傍になるようなタイミングの角度をπ/2に代えて用いればよい。
Hxy=[{Hx・sin(π/2+θx)}2+{Hy・sin(π/2+θy)}2]1/2 …式5
θxy=tan-1{Hy・sin(π/2+θy)}/{Hx・sin(π/2+θx)} …式6
【0067】
次に、コントローラ70は、ステップS114にて、リチウムイオン2次電池BA内の各部に流れる電流は前記磁界の強さHxyに比例し、かつ方向が磁界の方向θxyと−π/2異なることから、前記計算したHxy,θxyを用いた下記数7,8の演算の実行により、通電電流量が最大となるタイミングにおける、リチウムイオン2次電池BAの検査位置に流れる電流の大きさIxy及び方向θixyを計算する。ただし、値Kは、比例定数である。
Ixy=K・Hxy …式7
θixy=θixy−π/2 …式8
【0068】
そして、このステップS114にて、前記計算された電流の大きさIxy及び方向θixyは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するデータであって、リチウムイオン2次電池BAの検査位置を表す変数n,mを用いて、電流の大きさデータIxy(n,m)及び方向データθixy(n,m)としてRAM又は記憶装置に記憶される。
【0069】
次に、コントローラ70は、ステップS116にて、前記計算したIxy,θixyを用いた下記式9,10の演算の実行により、リチウムイオン2次電池BAの検査位置においてX方向及びY方向に流れる電流の大きさIx,Iyを計算する。
Ix=Ixy・cosθixy …式9
Iy=Ixy・sinθixy …式10
そして、このステップS116にて、前記計算された電流の大きさIx,Iyも、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するデータであって、リチウムイオン2次電池BAの検査位置を表す変数n,mを用いて、電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)としてRAM又は記憶装置に記憶される。
【0070】
前記ステップS116の処理後、コントローラ70は、ステップS118,S120の判定処理を実行する。ステップS118においては、前記計算したX方向に流れる電流の大きさIxと、X方向に流れる電流の大きさの基準値Ixref(n,m)との差の絶対値|Ix−Ixref(n,m)|が、比較値3・DEVix(n,m)以上であるか否かを判定する。ステップS120においては、前記計算したY方向に流れる電流の大きさIyと、Y方向に流れる電流の大きさの基準値Iyref(n,m)との差の絶対値|Iy−Iyref(n,m)|が、比較値3・DEViy(n,m)以上であるか否かを判定する。
【0071】
この場合、基準値Ixref(n,m),Iyref(n,m)及び比較値3・DEVix(n,m),3・DEViy(n,m)は、次のような方法で事前に用意されて記憶装置に予め記憶されているデータである。まず、良品である複数のリチウムイオン2次電池BAに係るサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)を図6A及び図6Bに示すようなデータ取得プログラムで取得する。そして、上述した図7Aの評価プログラムのステップS106〜S116と同様な処理により、検査位置ごとのX方向及びY方向に流れる電流の大きさIx(n,m),Iy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)をそれぞれ計算して記憶装置に記憶しておく。さらに、検査位置ごとに、前記複数のリチウムイオン2次電池BAのX方向及びY方向に流れる電流の大きさIx(n,m),Iy(n,m)の各平均値をそれぞれ計算して、これらの計算した各平均値を基準値Ixref(n,m),Iyref(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)として記憶装置に記憶しておく。また、検査位置ごとに、前記複数のリチウムイオン2次電池BAのX方向及びY方向に流れる電流の大きさIx(n,m),Iy(n,m)の標準偏差DEVix(n,m),DEViy(n,m)を計算して、計算した標準偏差DEVix(n,m),DEViy(n,m)を3倍した値を比較値3・DEVix(n,m),3・DEViy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)として記憶装置に記憶しておく。したがって、前記ステップS118,S120の判定は、検査対象のリチウムイオン2次電池BAの検査位置のX方向及びY方向に流れる電流の大きさIx(n,m),Iy(n,m)が、良品であるリチウムイオン2次電池BAの前記検査位置と同一位置のX方向及びY方向に流れる電流の大きさよりも許容値以上に大きく異なっているか否かを判定するものである。
【0072】
ふたたびステップS118,S120の処理の説明に戻ると、前記絶対値|Ix−Ixref(n,m)|が比較値3・DEVix(n,m)未満であり、かつ前記絶対値|Iy−Iyref(n,m)|が比較値3・DEViy(n,m)未満であれば、コントローラ70は、ステップS118,S120にて共に「No」と判定し、ステップS124に進む。一方、前記絶対値|Ix−Ixref(n,m)|が比較値3・DEVix(n,m)以上であれば、コントローラ70は、ステップS118にて「Yes」と判定して、ステップS122に進む。また、前記絶対値|Iy−Iyref(n,m)|が比較値3・DEViy(n,m)以上であれば、コントローラ70は、ステップS120にて「Yes」と判定して、ステップS122に進む。ステップS122においては、コントローラ70は、検査位置を特定する変数n,mにより指定されるエラーデータE(n,m)を異常を表す“1”に設定する。なお、エラーデータE(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)は、初期の状態では全て“0”に設定されている。このステップS122の処理後、ステップS124に進む。
【0073】
コントローラ70は、ステップS124にて変数nに「1」を加算し、ステップS126にて変数nがX軸方向の検出位置数を表す値Nよりも大きい否かを判定する。変数nが値N以下であれば、コントローラ70は、ステップS126にて「No」と判定して、ステップS106に戻って前述したステップS106〜S124の処理を繰り返し実行する。このようなステップS106〜S126の繰り返し処理中、変数nが値Nよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS126にて「Yes」と判定して、ステップS128にてY軸方向の検査位置を規定する変数mに「1」を加算して、ステップS130にて変数mがY軸方向の検出位置数を表す値Mよりも大きい否かを判定する。変数mが値M以下であれば、コントローラ70は、ステップS130にて「No」と判定して、ステップS132にて変数nを初期値「1」に戻した後、前述したステップS106〜S132の処理を繰り返し実行する。このようなステップS106〜S132の繰り返し処理中、変数mが値Mよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS130にて「Yes」と判定して、ステップS134に進む。
【0074】
この時点では、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAの検査位置ごとに、電流の大きさデータIxy(n,m)、電流の方向データθixy(n,m)、X方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m)及びY方向に流れる電流の大きさデータIy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が、RAM又は記憶装置に記憶されている。また、前記検査位置の異常の有無を表すエラーデータE(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)も、RAM又は記憶装置に記憶されている。
【0075】
ステップS134においては、コントローラ70は、前記電流の大きさデータIxy(n,m)及び方向データθixy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)、並びにX方向及びY方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)
(n=1〜N,m=1〜M)から表示用画像データを生成して、画像データによって表された画像を、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAを特定するための表示と共に表示装置72に表示する。この画像は、例えば、リチウムイオン2次電池BAの検査位置ごとに、電流の大きさデータIxy(n,m)に応じて矢印の長さを異ならせ、電流の方向データθixy(n,m)によって矢印の向きを異ならせて表示するとよい。また、電流の大きさデータIxy(n,m)に応じて、検査位置の明度、色彩などを異ならせる表示を含めてもよい。また、X方向及びY方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)に関しても、前記電流の大きさデータIxy(n,m)及び方向データθixy(n,m)と同様な矢印による表示を用いてもよいが、この場合、電流の向きが一定であるので、検査位置の明度、色彩などを電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)に応じて異ならせるだけでもよい。
【0076】
前記ステップS134の処理後、コントローラ70は、ステップS136にて、エラーデータ(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)の中に“1”を示すエラーデータが存在するかを調べる。“1”を示すエラーデータが存在しなければ、コントローラ70は、ステップS136にて「No」と判定して、ステップS138にて表示装置72に「合格」を表示し、ステップS144に進む。一方、“1”を示すエラーデータが存在すると、コントローラ70は、ステップS136にて「Yes」と判定して、ステップS140にて表示装置72に「不合格」を表示し、ステップS142にてエラーデータE(n,m)が“1”である変数n,mを取り出し、前記ステップS134の処理によって表示した画像中の変数n,mによって指定される位置に欠陥を表すマーク、色彩などを表示する。
【0077】
次に、コントローラ70は、ステップS144にて次のリチウムイオン2次電池BAの評価の指示があったか否かを判定する。この場合、作業者が次のリチウムイオン2次電池BAへの切換えを指示しなければ、コントローラ70は、ステップS144にて「No」と判定し続けて、ステップS144の判定処理を繰り返し実行する。一方、作業者が入力装置71を用いて次のリチウムイオン2次電池BAへの切換えを指示すると、コントローラ70は、ステップS144にて「Yes」と判定して、ステップS146に進む。ステップS146においては、コントローラ70は、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達したか否かを判定する。変数sが前記数smaxに未だ達していなければ、コントローラ70は、ステップS146にて「No」と判定して、ステップS148にて変数sに「1」を加算して、図7AのステップS104に戻る。
【0078】
そして、前述したステップS104〜S142の処理が実行されて、変数sによって指定される次のリチウムイオン2次電池BAに関する電流の大きさデータIxy(n,m)、電流の方向データθixy(n,m)、X方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m)及びY方向に流れる電流の大きさデータIy(n,m)が計算されるとともにRAM又は記憶装置に記憶され、さらに表示装置72に表示される。また、X方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m)及びY方向に流れる電流の大きさデータIy(n,m)を用いて、リチウムイオン2次電池BAの合格及び不合格が判定されるとともに、判定結果も表示装置72に表示される。そして、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達するまで、作業者による次のリチウムイオン2次電池BAの指定に応答して、ステップS144の「Yes」及びステップS146の「No」との判定のもとに、ステップS148にて変数sが順次繰り上げられ、繰り上げられた変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関してステップS104〜S142からなる処理が順次なされて、複数のリチウムイオン2次電池BAが次々に評価される。その結果、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達すると、コントローラ70は、ステップS146にて「Yes」と判定して、ステップS150にてこの評価プログラムの実行を終了する。
【0079】
上記のように動作する実施形態においては、通電信号供給回路65及び通電回路66が、所定周波数の交流成分を重畳した直流電圧をリチウムイオン2次電池BAの正極及び負極間に印加する。これにより、リチウムイオン2次電池BA内の陽極、陰極及び電解質中には前記交流成分に応じた電流が流れ、リチウムイオン2次電池BAに対向する部分には磁界が発生する。そして、この磁界が磁気センサ10によって検出され、検出された磁界に基づいて計算されたリチウムイオン2次電池BA内の各部に流れる電流によって、リチウムイオン2次電池BAが評価される。
【0080】
この場合、交流成分を重畳させた直流電圧はリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内で変化する直流電圧であり、リチウムイオン2次電池BAは充放電を繰り返し、リチウムイオン2次電池BAに電流が流される。その結果、検査後において過充電状態及び過放電状態になることもなく、また検査中においても、2次電池の電極間に印加される電圧の最大値及び最小値は、必ず2次電池の動作電圧範囲内に維持されるので、充電及び放電による2次電池への悪影響が全くなく、2次電池の検査が良好に行われる。また、ロックインアンプ69により、前記所定周波数の交流成分に関係して発生される磁界を表す信号のみが取出されるので、比較的簡単な構成で、外部磁界の影響を受けない磁界を検出できる。その結果、2次電池の検査装置のコストを抑えたうえで、外部磁界が一様になるようにする必要もなく、リチウムイオン2次電池BAの複数の部分を流れる電流によって発生される磁界を精度よく検出できるので、ひいてはリチウムイオン2次電池BAの異常を精度よく検出できるようになる。
【0081】
また、上記実施形態においては、ステップS26〜S66の処理によりリチウムイオン2次電池BAの各部に対向する位置の磁界が検出され、ステップS106〜S116の処理により電流の大きさIxy、電流の方向θixy、X方向に流れる電流の大きさIx及びY方向に流れる電流の大きさIyの分布が計算される。そして、ステップS118〜S122の処理により、これらの計算したX方向に流れる電流の大きさIx及びY方向に流れる電流の大きさIyと、予め用意した基準情報とを比較して、リチウムイオン2次電池BAの異常が判定されるので、リチウムイオン2次電池BAの異常が容易に検出される。また、ステップS134の処理により、前記計算した電流の大きさIxy、電流の方向θixy、X方向に流れる電流の大きさIx及びY方向に流れる電流の大きさIyの分布が表示装置72に表示されるので、視覚的にもリチウムイオン2次電池BAの異常を判断することができるようになる。
【0082】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0083】
上記実施形態においては、通電回路66によってリチウムイオン2次電池BAに印加される通電電圧は、常に、リチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲を超えることがないようにした。しかし、通電電圧の変動の中心電圧、すなわち交流信号が重畳される直流電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内、すなわちリチウムイオン2次電池BAの放電電圧の下限値以上かつ充電電圧の上限以下であれば大きな問題はない。この場合、交流信号が重畳される直流電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲(すなわち充電電圧)の上限に近ければ、検査中には、通電電圧(充電時の電圧)がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲の上限を上回る場合がある。また、交流信号が重畳される直流電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲(すなわち放電電圧)の下限に近ければ、検査中には、通電電圧(放電時の電圧)がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲の下限を下回る場合がある。しかしながら、検査後のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧は動作電圧範囲内にあり、検査後のリチウムイオン2次電池BAが過充電状態及び過放電状態になることはないので、リチウムイオン2次電池BAに与える影響はそれほど大きくない。
【0084】
また、上記実施形態では、通電信号供給回路65から供給される「0」を中心に変化する交流信号が通電回路66にて重畳される直流電圧は常に一定であるとした。しかし、これに代えて、前記交流信号が重畳される直流電圧を、検査前のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧と同じにするようにしてもよい。この場合、検査前にリチウムイオン2次電池BAの出力電圧を自動的に測定して、通電回路66が前記測定した出力電圧に前記交流信号を自動的に重畳させるようにしてもよい。また、作業者が検査前にリチウムイオン2次電池BAの出力電圧を測定し、測定した電圧を入力装置71を用いてコントローラ70に入力し、コントローラ70が通電回路66を制御して前記測定した電圧に前記交流信号を重畳するようにしてもよい。なお、この場合も、検査前のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲の上限又は下限に近ければ、前述のように、検査中には、通電電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲を超えることもある。しかしながら、この場合も、前述のように、リチウムイオン2次電池BAに与える問題はそれほど大きくない。
【0085】
一方、この変形例によれば、通電回路66によってリチウムイオン2次電池BAの陽極及び陰極間に印加される電圧は、検査前のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧を中心に上下に変化して充放電が繰り返されるので、検査後のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧は検査前の出力電圧と同じになる。その結果、リチウムイオン2次電池BAの状態を、検査前と検査中とでほとんど同じ状態に保つことができるとともに、検査後においても検査前と同じ状態に保つことができ、検査前の状態におけるリチウムイオン2次電池BAの異常を検出できるとともに、同状態を保ったまま他の検査及び作動を実現できる。
【0086】
また、上記実施形態においては、磁気センサ10で検出した磁界から電流の大きさIxy及び方向θixyと、X方向の電流の大きさIxとY方向の電流の大きさIyを計算して、ステップS134の処理により、それらの分布状態を表示装置72に表示するようにした。しかし、磁界の強さと電流の大きさは比例関係にあり、磁界の方向と電流の方向は90度異なっているだけであるので、電流の大きさIxy及び方向θixyと、X方向の電流の大きさIxとY方向の電流の大きさIyに代えて、磁界の強さHxy及び方向θxy、Y方向の磁界の強さHy及びX方向の磁界の強さHxの分布状態を表示装置72にて表示するようにしてもよい。この場合、ステップS112の処理によって計算される磁界の強さHxy及び方向θxyと、下記式11,12により計算されるX方向の磁界の強さHx及びY方向の磁界の強さとを用いればよい。
Hx=Hxy・cosθxy …式11
Hy=Hxy・sinθxy …式12
【0087】
また、上記実施形態においては、ステップS118,S120にてX方向に流れる電流の大きさIx及びY方向に流れる電流の大きさIyを用いて、リチウムイオン2次電池BAの異常を判定するようにした。しかし、前述のように、磁界の強さと電流の大きさは比例関係にあり、磁界の方向と電流の方向は90度異なっているだけであるので、前記電流の大きさIx,Iyに代えて、上記式11及び式12によって計算したX方向の磁界の強さHx及びY方向の磁界の強さHyを用いて、リチウムイオン2次電池BAの異常を判定するようにしてもよい。この場合、Y方向の磁界の強さHyと基準値Hyref(n,m)との差の絶対値|Hy−Hyref(n,m)|が比較値3・DEVhy(n,m)以上であるとき、又はX方向の磁界の強さHxと基準値Hxref(n,m)との差の絶対値|Hx−Hxref(n,m)|が比較値3・DEVhx(n,m)以上であるとき、リチウムイオン2次電池BAは異常と判定すればよい。なお、この場合も、基準値Hyref(n,m),Hxref(n,m)及び比較値3・DEVhy(n,m),3・DEVhx(n,m)は、正常なリチウムイオン2次電池BAを用いて予め測定して記憶装置に記憶しておいた値を用いる。
【0088】
また、上記実施形態では、ステップS116〜S120の処理により、測定によって得られたX方向及びY方向に流れる電流Ix,Iyの分布と、基準の電流分布とを比較してリチウムイオン2次電池の合否判定を行うようにした。しかし、X方向又はY方向の中心線に対して陽極と陰極が対称に配置されている場合には、電流の大きさの対称性からリチウムイオン2次電池BAの合否を判定するようにしてもよい。この場合、中心線に対してX方向(又はY方向)に対称位置のX方向の2つの電流の大きさIx(又はY方向の2つの電流の大きさIy)の差を積算して、積算値又は積算値を積算した数で除算した値が所定値よりも小さければ合格と判定して、所定値以上であれば不合格と判定するようにすればよい。また、この場合も、電流の大きさIx,Iyに代えて、磁界の強さHy,Hxを用いてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では複数のリチウムイオン2次電池BAをセットできるステージ40を使用して、複数のリチウムイオン2次電池を一度に検査するようにした。しかし、リチウムイオン2次電池BAを一つずつ検査する場合には、1つのリチウムイオン2次電池BAのみをセットできるステージ40を用意し、前記1つのリチウムイオン2次電池BAの対向位置及びその周囲を磁気センサ10で走査するようにすればよい。これによれば、複数のリチウムイオン2次電池を検査する場合には、検査時間は上記実施形態に比べて長くなるが、検査装置をコンパクトに構成できる。
【0090】
また、上記実施形態においては、1つの磁気センサ10をX方向及びY方向に移動させて、複数のリチウムイオン2次電池BAを検査するようにした。しかし、ステージ40の下方に多数の磁気センサをマトリクス状に配置して、多数の磁気センサを移動させることなく、複数のリチウムイオン2次電池BAを検査するようにしてもよい。また、X方向に沿って1列に複数の磁気センサを設けたり、Y方向に沿って1列に複数の磁気センサを設けたり、X方向及びY方向にマトリクス状に少数の磁気センサを設けたりして、これらの磁気センサ群を適宜移動させて、複数のリチウムイオン2次電池を走査することにより、複数のリチウムイオン電池を検査するようにしてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、磁気センサとして磁気抵抗素子(MR素子)を利用したが、これに代えて、ホール素子、磁気インピーダンス素子効果センサ、フラックスゲート、超伝導量子干渉素子などを利用するようにしてもよい。
【0092】
また、上記実施形態においては、本発明に係る検査装置をリチウムイオン2次電池BAの検査に利用したが、本発明に係る検査装置は、ニッケルカドミウム2次電池、ニッケル水素2次電池などのリチウムイオン2次電池BA以外の充電可能な2次電池にも適用できる。この場合、2次電池の形状、大きさなどに応じて、上記実施形態とは異なる電池セット用テーブル50を用意するようにすればよい。また、リチウムイオン2次電池であっても、上記実施形態の場合とは異なる形状及び大きさであれば、そのリチウムイオン2次電池に合った電池セットx用テーブル50を用意するようにすればよい。
【符号の説明】
【0093】
10点磁気センサ、20 …X方向スライド機構、25…X方向モータ、30…Y方向スライド機構、34…Y方向モータ、40…ステージ、50…電池セット用テーブル、61…X方向位置検出回路、62…X方向フィードモータ制御回路、63…Y方向位置検出回路、64…Y方向フィードモータ制御回路、65…通電信号供給回路、66…通電回路、67…通電選択回路、68…センサ信号取出回路、69…ロックインアンプ、70…コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次電池の動作電圧範囲内にある直流電圧に所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池の電極間に印加して2次電池に電流を流す通電手段と、
2次電池の複数の部分に対向して位置し、前記複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出して、検出磁界を表す信号を出力する磁界検出手段と、
前記磁界検出手段から出力される検出磁界を表す信号から、前記所定周波数に等しい周波数の信号成分を取出す周波数成分取出し手段と
を備えたことを特徴とする2次電池の検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載した2次電池の検査装置において、
前記通電手段によって交流成分の重畳される直流電圧は、検査前の2次電池の出力電圧であることを特徴とする2次電池の検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載した2次電池の検査装置において、
前記通電手段によって2次電池に印加される直流電圧は、2次電池の動作電圧範囲内で変化するものであることを特徴とする2次電池の検査装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載した2次電池の検査装置において、さらに、
前記周波数成分取出し手段から取出された信号成分から、前記複数の部分に対向した位置の磁界の強さの分布又は前記複数の部分における電流の大きさの分布を計算する計算手段を備えたことを特徴とする2次電池の検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載した2次電池の検査装置において、さらに、
前記計算手段によって計算された磁界の強さの分布又は電流の大きさの分布と、予め用意した基準情報とを比較して、2次電池の異常を判定する判定手段を備えたことを特徴とする2次電池の検査装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載した2次電池の検査装置において、さらに、
前記計算手段によって計算された磁界の強さの分布又は電流の大きさの分布を表示する表示手段を備えたことを特徴とする2次電池の検査装置。
【請求項7】
2次電池の動作電圧範囲内にある直流電圧に所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池の電極間に印加して2次電池に電流を流し、
2次電池の複数の部分に対向して磁気センサを位置させて、前記複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出し、
前記検出された磁界を表す信号から、前記所定周波数に等しい周波数の信号成分を取出して、
前記取出した信号成分を用いて2次電池を検査するようにしたことを特徴とする2次電池の検査方法。
【請求項8】
請求項7に記載した2次電池の検査方法において、
前記交流成分の重畳される直流電圧は、検査前の2次電池の出力電圧であることを特徴とする2次電池の検査方法。
【請求項9】
請求項7に記載した2次電池の検査方法において、
前記2次電池に印加される直流電圧は、2次電池の動作電圧範囲内で変化するものであることを特徴とする2次電池の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−242153(P2012−242153A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110250(P2011−110250)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000112004)パルステック工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】