説明

2種以上の架橋性基を形成し得るゴム組成物

【課題】水素結合架橋性基と共有結合架橋性基の2種以上の架橋性基を形成し得るゴム組成物であって、共有結合架橋性基を有機過酸化物架橋および硫黄加硫の少なくとも一種によって架橋した熱硬化ゴムを形成し得る熱硬化性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ポリマー分子中に水素結合性基を形成させたポリマーに、有機過酸化物および硫黄の少なくとも一種を含有せしめしてなる、水素結合基形成ポリマー中に水素結合架橋性基を含め2種または3種の架橋性基を形成し得るゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の架橋性基を形成し得るゴム組成物に関する。さらに詳しくは、水素結合架橋性基と共有結合架橋性基の2種以上の架橋性基を形成し得るゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人の出願に係る発明を記載した特許文献1には、カルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖と、共有結合性架橋部位を含有する他の側鎖とを有するガラス転移点Tgが25℃以下のエラストマー性ポリマーからなり、共有結合性架橋部位において、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンまたはチオエーテルからなる結合により架橋することができ、エラストマー性ポリマーの主鎖がジエン系ゴム、オレフィン系ゴムまたは(水添)ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系もしくはポリアミド系エラストマー性ポリマーで構成され、含窒素複素環を導入し得る化合物を、環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーの環状酸無水物基の一部に反応させて得られ、かつ該反応により導入される含窒素複素環および該反応により開環する環状酸無水物基由来のカルボニル含有基が水素結合性架橋部位となり、未反応の環状酸無水物基が共有結合性架橋部位となる熱可塑性エラストマーが開示されており、この熱可塑性エラストマーはすぐれたリサイクル性を保持し、また機械的強度にもすぐれていると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4011057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水素結合架橋性基と共有結合架橋性基の2種以上の架橋性基を形成し得るゴム組成物であって、共有結合架橋性基を有機過酸化物架橋および硫黄加硫の少なくとも一種によって架橋した熱硬化ゴムを形成し得る熱硬化性ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、ポリマー分子中に水素結合性基を形成させたポリマーに、有機過酸化物および硫黄の少なくとも一種を含有せしめしてなる、水素結合基形成ポリマー中に水素結合架橋性基を含め2種または3種の架橋性基を形成し得るゴム組成物、好ましくはポリマー分子中に水素結合性基を形成させたポリマーが、ポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこのカルボニル基と反応し得る官能性基を含有する含窒素複素環化合物を順次反応させて得られたポリマーであるゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るゴム組成物を有機過酸化物架橋および/または硫黄加硫して得られた架橋ゴムは、水素結合架橋性基および共有結合架橋性基の2種または3種の架橋性基で架橋されているので、水素結合架橋性基単独のものや共有結合架橋性基単独のものよりもモジュラス、破断強度、引裂き強度が高く、共有結合架橋性単独のものよりも破断伸びが高く、また耐圧縮永久歪特性は同等の値を示している。
【0007】
このような特性は、タイトな有機過酸化物架橋および/または硫黄加硫に緩やかな水素結合架橋が併有されることにより、応力が増大すると共に応力集中が抑えられて、伸び、引張強度、引裂き強度が増加したためと考えられる。かかる特性を有する本発明の架橋ゴムは、空気入りタイヤやホース等の用途に有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
水素結合性基を形成させるポリマーとしては、ポリオレフィン系ポリマー、ジエン系ゴム等が用いられる。
【0009】
ポリオレフィン系ポリマーとしては、エチレン・プロピレン系共重合ゴムであるエチレン・プロピレン系共重合ゴム(EPM)またはエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)のいずれをも用いることができるが、ポリマーの主鎖となり得るエラストマーとしては、例えばジエン系ゴム;ポリオレフィン系ゴム、主鎖に不飽和炭素結合を有するゴム[例えば、ブチルゴム(IIR)]、主鎖に炭素原子以外の原子を有するゴムのような非ジエン系ゴム;熱可塑性エラストマー(TPE)等が挙げられる。
【0010】
ポリマーの主鎖となり得るエラストマーとしてのジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)およびこれらの水素添加物等が挙げられる。
【0011】
ポリマーの主鎖となり得るエラストマーとしてのポリオレフィン系ゴムはポリメチレン型の飽和主鎖を有するものであれば特に制限されない。例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-オクテンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴム、ジエン系ゴムの完全水素添加物のような炭化水素のみからなるポリオレフィン系ゴム;エチレン-ビニルアルコールゴム(EVA)、塩素化ポリエチレン(CM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)のような官能基を有するポリオレフィン系ゴム等が挙げられる。
【0012】
ポリマーの主鎖となり得るエラストマーとしての、主鎖に炭素原子以外の原子を有する非ジエン系ゴムとしては、例えばエピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、多硫化ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0013】
ポリマーの主鎖となり得るエラストマーとしての熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えばスチレン系TPE(例えばSBS、SIS、SEBS、SEPSまたはこれらの水素添加物等)、オレフィン系TPE、ジエン系TPE(例えば1,2-BR、トランスIR系)、塩化ビニル系TPE、ウレタン系TPE、エステル系TPE、アミド系TPE、フッ素系TPE等が挙げられる。
【0014】
ポリマーの主鎖は、得られる架橋ゴム組成物が引張強度に優れ、二重結合が存在しないため組成物の劣化を抑制することができるという観点から、ポリオレフィン系ゴムであることが好ましく、炭化水素のみからなるポリオレフィン系ゴムがより好ましく、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-オクテンゴムであるのがさらに好ましい。
【0015】
ポリマーの主鎖として、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、エチレン-オクテンゴムを用いる場合、そのエチレン含有量は、得られる架橋ゴム組成物の耐圧縮永久歪特性、機械的強度に優れるという観点から、10〜90モル%であるのが好ましく、40〜90モル%であるのがより好ましい。
【0016】
ポリマーは、液状または固体状であってもよい。ポリマーの分子量は、特に限定されず、本発明のゴム組成物が用いられる用途、これらに要求される物性等に応じて適宜選択することができる。ポリマーは、本発明の架橋ゴム組成物の強度に優れるという観点から、室温において固体であることが好ましく、室温において固体であるポリマーの主鎖がポリオレフィン系ゴムである場合、その重量平均分子量Mwは100,000以上であることが好ましく、150,000〜1,500,000程度であることが特に好ましい。なお、本発明において、重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算)である。測定にはテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いるのが好ましい。
【0017】
好ましい態様である主鎖がポリオレフィン系ポリマー分子からなり、そのポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこのカルボニル基と反応し得る官能性基を含有する含窒素複素環化合物と順次反応させて得られた水素結合性ポリオレフィン系ポリマーの合成に際しては、まずポリオレフィン系ポリマー分子に無水マレイン酸、マレイン酸等のカルボニル基含有不飽和化合物、好ましくは無水マレイン酸を付加反応させることが行われる。無水マレイン酸の付加反応は、ポリオレフィン系ポリマーの場合には、有機過酸化物の存在下などの反応条件下で行われるが、実際には市販品をそのまま用いることができる。また、ジエン系ポリマーの場合には、有機過酸化物を用いることなく、エン反応によって行われる。無水マレイン酸の変性率は、一般に変性されるポリオレフィン系ポリマー分子重量に対して約0.1〜10重量%程度に設定される。
【0018】
1つの側鎖内に含窒素複素環とカルボニル基とを含有する側鎖としては、例えば、下記式(1)で表される構造を含有するものが挙げられる。

式中、Aは含窒素複素環であり、Bは結合基であって、単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、R′は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である。
【0019】
ポリマーは、圧縮永久歪、機械的強度に優れるという観点から、側鎖のうちの少なくとも一部または全部が1つの側鎖内にカルボニル基と含窒素複素環とを含有する、側鎖として式(1)で表される構造を有するのが好ましい。
【0020】
含窒素複素環Aは、複素環内に窒素原子を含むものであれば特に制限されず、複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えばイオウ原子、酸素原子、リン原子等を有することができる。
【0021】
含窒素複素環Aは、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であるハロゲン原子からなる基;シアノ基;アミノ基;芳香族炭化水素基;エステル基;エーテル基;アシル基;チオエーテル基等が挙げられる。置換基は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができ、その数も限定されない。
【0022】
含窒素複素環Aは、芳香族性を有することができる。含窒素複素環Aが芳香族性を有している場合、組成物を水素結合等によって架橋して得られる架橋ゴム組成物の引張強度、機械的強度などに優れるので好ましい。
【0023】
含窒素複素環は、五員環または六員環であることが好ましい。このような含窒素複素環としては、例えばピロリジン、ピロリドン、オキシインドール(2-オキシインドール)、インドキシル(3-オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β-イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、イソシアヌル酸およびこれらの誘導体等が挙げられる。また、含窒素複素環は例えば前記と同様の置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0024】
含窒素複素環の結合位置について説明する。なお、含窒素複素環を便宜上「含窒素n員環化合物(n≧3)」とする。以下に説明する結合位置(「1〜n位」)は、IUPAC命名法に基づくものである。例えば、非共有電子対を有する窒素原子を3個有する化合物の場合、IUPAC命名法に基づく順位によって結合位置を決定する。具体的には、以下に例示する五員環、六員環および縮合環の含窒素複素環に結合位置を記する。ポリマーにおいて、含窒素複素環が直接または有機基を介して主鎖としてのエラストマーと結合する際、含窒素n員環化合物の結合位置は特に限定されず、いずれの結合位置(1位〜n位)でもよい。好ましくは、その1位または3位〜n位である。
【0025】
含窒素n員環化合物に含まれる窒素原子が1個(例えば、ピリジン環等)の場合は、分子内でキレートが形成されやすく組成物としたときの引張強度等の物性に優れるため、3位〜(n-1)位が好ましい。
【0026】
含窒素五員環は、圧縮永久歪、機械的特性に優れるという観点から、下記の一群の化合物、下記式(2)で表されるトリアゾール誘導体、下記式(3)で表されるイミダゾール誘導体が好ましい。
【0027】

【0028】

【0029】
式中、置換基Xは、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数7〜20アラルキル基または炭素数6〜20のアリール基であれば特に限定されない。置換基Xとしては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、ステアリル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、1-メチルブチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基等の分岐状のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基(o-、m-、p-)、ジメチルフェニル基、メシチル基等のアリール基が挙げられる。
【0030】
含窒素六員環としては、例えば、下記の一群の化合物、イソシアヌル酸(例えばイソシアネート基含有化合物の3量体)が挙げられる。含窒素六員環は上記した置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0031】

【0032】
また、含窒素複素環は、含窒素複素環を有する縮合環であってもよく、例えばベンゼン環と縮合したもの、含窒素複素環同士が縮合したもの等が挙げられる。具体的には、例えば、下記の一群の縮合環が挙げられる。縮合環は上記した置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0033】

【0034】
イソシアヌル酸としては、例えば下記の式で表されるものが挙げられる。

式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等のヒドロキシル基含有基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;シアノ基;アミノ基;エステル基;エーテル基である。R1、R2、R3は、それぞれ異なっていてもよく、同一でもよい。イソシアヌル酸としては、例えば1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸が挙げられる。
【0035】
含窒素複素環のうち、得られる架橋ゴム組成物が、耐圧縮永久歪特性、機械的強度および硬度に優れるという観点から、トリアゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、チアゾール環、イミダゾール環、ヒダントイン環、イソシアヌル酸が好ましい。含窒素複素環含有基は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
結合基Bは、単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、R′は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましい。この有機基は、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含むことができる炭化水素基であり、炭化水素基としては、例えば炭素数1〜20のアルキレン基(例えば-CH2CH2-)が挙げられる。また、有機基が酸素原子、イオウ原子およびアミノ基NR′からなる群から選ばれる少なくとも一種を末端または側鎖に有する場合としては、例えば炭素数1〜20のアルキレンエーテル基(アルキレンオキシ基、例えば-O-CH2CH2-)、アルキレンアミノ基(例えば-NH-CH2CH2-)、アルキレンチオエーテル基(アルキレンチオ基、例えば-S-CH2CH2-)が挙げられる。アミノ基NR′中のR′(炭素数1〜10のアルキル基)としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、異性体を含む。
【0037】
このように単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種である結合基Bは、機械的強度に優れるという観点から、式(1)中のカルボニル基と隣接して、エステル基、アミド基、イミド基、チオエステル基等を形成することが好ましい。中でも、結合基Bは、式(1)中のカルボニル基と隣接して共役系を形成する、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種を末端に有する、炭素数1〜20のアルキレンエーテル基、アルキレンアミノ基またはアルキレンチオエーテル基であることが好ましく、アミノ基(NH)、アルキレンアミノ基(-NH-CH2-、-NH-CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2-)、アルキレンエーテル基(-O-CH2-、-O-CH2CH2-、-O-CH2CH2CH2-)であることがより好ましい。結合基Bは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
前記式(1)で表される構造を含有する側鎖としては、例えば、下記式(4)、式(5)で表される構造が挙げられる。
【0039】

式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDは、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、R′は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、α-位またはβ-位において直接または有機基を介して前記ポリマーの主鎖に結合する。
【0040】
含窒素複素環Aは、具体的には、式(1)の含窒素複素環Aと基本的に同様である。また、結合基BおよびDは式(1)の結合基Bと基本的に同様である。ただし、式(5)における置換基Dは、圧縮永久歪、機械的強度に優れるという観点から、単結合、酸素原子、イオウ原子もしくはアミノ基NR′を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレン基またはアラルキレン基であって、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′がイミド窒素と共役系を形成するものが好ましく、単結合であるのがより好ましい。置換基Dは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
無水マレイン酸等に対して反応性を有する官能性基で置換された含窒素複素環化合物の反応は、前記特許文献1の各実施例に示される如く、反応溶媒の不存在下ニーダで約170〜200℃で30分間混練するなどの反応条件下でも行うことができるが、クロロホルム等の反応溶媒を用い、室温条件下で1〜3時間程度混練することによっても行われる。
【0042】
無水マレイン酸等に反応する含窒素複素環化合物の官能性基は、当量またはそれ以上で用いられ、後記反応式に示される如く、まず一方のカルボキシル基との間にアミド結合が形成されたアミック酸が形成されるが、脱水反応がさらに進行することによってイミド結合が形成されるようになる。
【0043】
カルボニル基含有不飽和化合物に由来するカルボニル基とこれと反応した含窒素複素環化合物との間で、O-H…O、N-H…O、O-H…N、N-H…Nで示されるようなドナー-H-アクセプターよりなる水素結合がそこに形成され、自己架橋を可能とさせる。
【0044】
このようにして得られる水素結合性ポリオレフィン系ポリマーは、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物でパーオキサイド架橋され、あるいは硫黄加硫され、ポリオレフィン系ポリマー同士が共有結合性架橋される。これら一連の反応は、次のような反応式によって例示される。

【0045】
共有結合性架橋を実現させるパーオキサイド架橋に用いられる有機過酸化物としては、EPMを架橋し得る有機過酸化物であれば任意のものを用いることができ、例えばジクミルパーオキサイド、第3ブチルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が挙げられ、好ましくはジクミルパーオキサイドが用いられる。
【0046】
これらの有機過酸化物は、ポリマー主鎖のモノマー重合単位に対し、0.1〜10モル%、好ましくは0.3〜5モル%形成される水素結合架橋性基と共に、0.1〜5モル%、好ましくは0.3〜3モル%の共有結合架橋性基を形成させるような割合で用いられる。より具体的には、水素結合架橋性基を形成される前のポリオレフィン系ポリマー100重量部当り0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の割合で用いられる。
【0047】
また、共有結合性架橋を実現させる硫黄加硫に際しては、加硫促進剤を併用することが好ましく、加硫促進剤としてはチアゾール系(MBT、MBTS、ZnMBT等)、スルフェンアミド系(CBS、DCBS、BBS等)、グアニジン系(DPG、DOTG、OTBG等)、チウラム系(TMTD、TMTM、TBzTD、TETD、TBTD等)、ジチオカルバミン酸塩系(ZTC、NaBDC等)、キサントゲン酸塩系(ZnBX等)等が用いられる。
【0048】
これらの硫黄加硫系は、ポリマー主鎖のモノマー重合単位に対し、0.1〜10モル%、好ましくは0.1〜5モル%形成される水素結合架橋性基と共に、0.1〜5モル%、好ましくは0.1〜3モル%の共有結合架橋性基を形成させるような割合で用いられる。より具体的には、水素結合架橋性基を形成される前のポリマー100重量部当り硫黄が0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で、また加硫促進剤が0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
【0049】
以上の各成分を必須成分とするゴム組成物には、さらにゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばカーボンブラック、シリカ、タルク、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸等の加工助剤、酸化亜鉛等の受酸剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0050】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機または混合機およびオープンオール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、有機過酸化物または硫黄、加硫促進剤の混合はオープンロールによって行われる。得られたゴム組成物は、用いられた有機過酸化物の分解温度などに応じた架橋温度または硫黄加硫温度、例えば約150〜200℃で1〜30分間程度行われ、そこにパーオキサイド架橋性基または硫黄架橋性基よりなる共有結合架橋性基を形成させる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0052】
実施例1
200℃に加熱した加圧ニーダに、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(エチレン:プロピレンモル比=30:70、マレイン化率:1.5重量%(0.584モル%)、重量平均分子量Mw 20万、以下「マレイン化EPM」と略称)を100重量部入れ、4分間の素練りの後、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(日本カーバイト製品ATA)を1.29重量部加えて、マレイン化EPMに含窒素複素環を導入し、さらに5分間混練後、老化防止剤(住友化学製品アンチゲン6C)1.0重量部を加え、さらに3分間混練し、放出する。次に、100℃に加熱した加圧ニーダに、この混練品を再投入し、3分間混練した後、ジクミルパーオキサイド(日油製品パークミルD)を1重量部添加し、さらに1分30秒間混練した後、放出する。得られた組成物を、各種試験片モールドで180℃、15分プレス成形して試験片(水素結合架橋性基と共有結合架橋性基(有機過酸化物架橋)の2種の架橋性基で架橋されたEPM架橋物)を作成し、各種測定が行われた。
【0053】
実施例2
実施例1の組成物調製時において、ジクミルパーオキサイド(パークミルD)量が1.5重量部に変更され、同様にプレス成形により架橋(水素結合架橋性基と有機過酸化物架橋による共有結合架橋性基の2種の架橋性基で架橋されたEPM架橋物)および測定が行われた。
【0054】
比較例1
実施例1の組成物調製時において、ジクミルパーオキサイドが用いられず、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール1.29重量部および老化防止剤(アンチゲン6C)1.0重量部と共に組成物が調製され、同様にプレス成形により架橋(水素結合架橋EPM架橋物)および測定が行われた。
【0055】
比較例2
実施例1において、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾールを反応させないマレイン化EPM 100重量部が用いられ、ジクミルパーオキサイド(パークミルD)1.0重量部および老化防止剤(アンチゲン6C)1.0重量部と共に組成物を調製し、同様にプレス成形により架橋(共有結合架橋EPM架橋物)および測定が行われた。
【0056】
比較例3
実施例2において、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾールを反応させないマレイン化EPM 100重量部が用いられ、ジクミルパーオキサイド(パークミルD)1.5重量部および老化防止剤(アンチゲン6C)1.0重量部と共に組成物を調製し、同様にプレス成形により架橋(共有結合架橋EPM架橋物)および測定が行われた。
【0057】
得られた試験片について、次の各項目の測定を行った。
硬度(JIS A):JIS K6253準拠(厚さ12.5cmのリュプケ試験サンプルについて測定)
引張特性:JIS K6251準拠
厚さ2mmのシートから3号ダンベル状試験片を打ち抜き、25℃、500mm/分
での引張試験を行い、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュ
ラス、破断強度および破断伸びを測定
圧縮永久歪:JIS K6262準拠(25%圧縮、70℃、22時間)
引裂き強度:JIS K6252準拠
【0058】
測定結果は、組成物を構成する各成分量(単位:重量部)と共に、次の表1に示される。
表1
実施例 比較例

〔組成物成分〕
マレイン化EPM (部) 100 100 100 100 100
3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(部) 1.29 1.29 1.29 − −
ジクミルパーオキサイド (部) 1.0 1.5 − 1.0 1.5
老化防止剤 (部) 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0
〔測定結果〕
硬度 (JIS A) 59 58 61 63 56
100%モジュラス (MPa) 1.51 1.60 1.60 1.45 1.43
200%モジュラス (MPa) 1.92 2.41 2.01 1.91 1.78
300%モジュラス (MPa) 2.52 3.56 2.45 2.53 2.30
破断強度 (MPa) 8.21 11.08 7.37 6.71 5.60
破断伸び (%) 773 631 1023 593 550
圧縮永久歪 (%) 59 45 75 49 40
引裂き強度 (N/mm) 31.8 34.9 31.9 29.7 29.1
【0059】
実施例3、比較例4〜5
前記各実施例および比較例において、マレイン化EPMの代わりにマレイン化天然ゴム(水素結合基が1.5モル%、マレイン化率2.17重量%)が用いられた。用いられた組成物各成分量(単位:重量部)および測定結果は、次の表2に示される。
表2
実施例3 比較例4 比較例5
〔組成物成分〕
マレイン化天然ゴム (部) 100 100 100
3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(部) 1.86 1.86 −
ジクミルパーオキサイド (部) 1.50 − 1.50
老化防止剤 (部) 1.0 1.0 −
〔測定結果〕
硬度 (JIS A) 43 44 42
100%モジュラス (MPa) 1.7 1.0 1.2
200%モジュラス (MPa) 2.1 1.2 1.4
300%モジュラス (MPa) 2.4 1.6 1.8
破断強度 (MPa) 20.3 16.3 18.5
破断伸び (%) 750 980 780
圧縮永久歪 (%) 37 56 36
引裂き強度 (N/mm) 58.0 46.0 51.0
【0060】
実施例4
前記マレイン化EPM 100重量部
4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(ATA) 1.29 〃
老化防止剤(アンチゲン6C) 1.0 〃
亜鉛華(正同化学工業製品亜鉛華3号) 3.0 〃
ステアリン酸(日油製品ビーズステアリン酸) 2.0 〃
硫黄(軽井沢精錬所製品油処理硫黄) 0.6 〃
加硫促進剤(三新化学製品サンセラーCM-PO) 3.0 〃
以上の各成分からなる組成物を、160℃で15分間加硫反応させて、水素結合架橋性基と硫黄加硫による共有結合架橋性基の2種の架橋性基で架橋されたEPM架橋物を得た。
【0061】
実施例5
実施例4において、マレイン化EPMの代わりにマレイン化EPDM(マレイン化率:1.5重量%)が同量(100重量部)用いられ、水素結合架橋性基と硫黄加硫による共有結合架橋性基の2種の架橋性基で架橋されたEPDM架橋物を得た。
【0062】
比較例6
実施例4において、マレイン化EPMの代わりにEPM(三井化学製品タフマーP-0775)が同量(100重量部)用いられ、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(ATA)を用いずに、硫黄加硫による共有結合架橋EPM架橋物を得た。
【0063】
比較例7
実施例4において、マレイン化EPMの代わりにEPDM(三井化学製品ENB-EPDM3085)が同量(100重量部)用いられ、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(ATA)を用いずに、硫黄加硫による共有結合架橋EPDM架橋物を得た。
【0064】
比較例8
実施例4において、亜鉛華、ステアリン酸、硫黄および加硫促進剤(サンセラーCM-PO)が用いられず、水素結合架橋性基で架橋された水素結合架橋EPDM架橋物を得た。
【0065】
以上の実施例4〜5および比較例6〜8で得られた結果は、ポリマー成分および4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(ATA)成分の各成分量(単位:重量部)と共に、次の表3に示される。
表3
実施例 比較例

〔組成物成分〕
マレイン化EPM (部) 100 100
マレイン化EPDM (部) 100
EPM (部) 100
EPDM (部) 100
3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(部) 1.29 1.29 1.29
〔測定結果〕
硬度 (JIS A) 58 51 49 49 50
100%モジュラス (MPa) 1.56 1.24 1.30 0.93 0.46
200%モジュラス (MPa) 1.86 1.91 1.40 1.24 1.02
300%モジュラス (MPa) 2.35 2.65 1.53 1.61 1.38
破断強度 (MPa) 6.01 6.55 3.17 3.50 5.67
破断伸び (%) 657 521 1168 494 786
圧縮永久歪 (%) 94 53 100 47 85


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー分子中に水素結合性基を形成させたポリマーに、有機過酸化物および硫黄の少なくとも一種を含有せしめてなる、水素結合基形成ポリマー中に水素結合架橋性基を含め2種または3種以上の架橋性基を形成し得るゴム組成物。
【請求項2】
ポリマー分子中に水素結合性基を形成させたポリマーの主鎖がポリオレフィン系ゴムまたはジエン系ゴムである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
ポリマー分子中にカルボニル基含有不飽和化合物由来の水素結合基を形成させたポリマーが用いられた請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
ポリマー分子中に含窒素複素環化合物由来の水素結合基を形成させたポリマーが用いられた請求項1から3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
含窒素複素環が五員環である複素環化合物が用いられた請求項4記載のゴム組成物。
【請求項6】
ポリマー分子中に水素結合性基を形成させたポリマーが、ポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこのカルボニル基と反応し得る官能性基を含有する含窒素複素環化合物を順次反応させて得られたポリマーである請求項3から5のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
カルボニル基含有不飽和化合物として無水マレイン酸を反応させて得られた水素結合性基形成ポリマーが用いられた請求項6記載のゴム組成物。
【請求項8】
官能性基含有含窒素複素環化合物としてのアミノ基含有または水酸基含有含窒素複素環化合物を反応させて得られた水素結合性ポリマーが用いられた請求項3から7のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のゴム組成物をパーオキサイド架橋して得られた、水素結合架橋性基および共有結合架橋性基の2種の架橋性基で架橋された架橋ゴム。
【請求項10】
ポリマー主鎖のモノマー重合単位に対し、水素結合架橋性基を0.1〜10モル%の割合で、また共有結合架橋性基を0.1〜5モル%の割合で形成させた請求項9記載の架橋ゴム。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載のゴム組成物を硫黄加硫して得られた、水素結合架橋性基および共有結合架橋性基の2種の架橋性基で架橋された架橋ゴム。
【請求項12】
ポリマー主鎖のモノマー重合単位に対し、水素結合架橋性基を0.1〜10モル%の割合で、また共有結合架橋性基を0.1〜5モル%の割合で形成させた請求項8記載の架橋ゴム。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載のゴム組成物をパーオキサイド架橋および硫黄加硫して得られた、水素結合架橋性基および2種の共有結合架橋性基の3種の架橋性基で架橋された架橋ゴム。
【請求項14】
ポリマー主鎖のモノマー重合単位に対し、水素結合架橋性基を0.1〜10モル%の割合で、また2種の共有結合架橋性基を合計して0.1〜5モル%の割合で形成させた請求項13記載の架橋ゴム。

【公開番号】特開2010−202784(P2010−202784A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50345(P2009−50345)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】