説明

2軸式ガスタービン及びその制御装置

【課題】2軸式ガスタービンにおいてガス圧縮機をメカニカル・ドライブで起動する際の、ガス圧縮機の信頼性を改善する。
【解決手段】燃焼用空気を圧縮する高圧側圧縮機1と、高圧側圧縮機1で圧縮された燃焼用空気と燃料とを混合燃焼して高温ガスを生成する燃焼器2と、燃焼器2で生成された高温ガスを用いて高圧側圧縮機3を駆動する高圧側タービン3と、高圧側タービン3を駆動した高温ガスである排気ガスにより駆動される低圧側タービン5と、低圧側タービン5により駆動されるガス圧縮機であるプロパン圧縮機4とを備える2軸式ガスタービンであって、プロパン圧縮機4のガス吸入口に、ガス流量制御手段であるプロパン圧縮機入口案内翼8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機用タービンと、負荷タービンとを備えた2軸式ガスタービン、特に、負荷タービンを用いてガス圧縮機を駆動する2軸式ガスタービン及び前記ガス圧縮機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業施設や居住地から離れた地域、あるいは気候や地形・付近の治安などの諸要因により電力線の敷設が困難とされる地域でプラントを操業するための手段として、その地域で採掘・採取した燃料を用いて電力を発生し、得られた電力でプラントを稼動する運用形態(アイランド・オペレーション)が提案されている。
【0003】
アイランド・オペレーションは、発電機を既存の送電網(電力系統)に接続せず、プラント単独で電力を発生・消費する自家発電の一形態である。本運用では、プラント内で余剰・不足となった電力を送電網(電力系統)との間で融通することができない。そのため、発電設備においては、プラントの電力需要に応じた運転、たとえば急速起動停止運転や急速負荷運転,負荷遮断などといったより幅の広い運用が求められる。
【0004】
このような運用形態に適する発電設備のひとつに、ガスタービン・エンジン(以下ガスタービン)が挙げられる。ガスタービンは、天然ガス,石油,炭層ガスなど様々な燃料が利用可能な点、発電出力が大きく、大規模プラントへの電力供給に向くという点でアイランド・オペレーションに適する。プラントが圧縮機や大型モータなどの大容量の回転機を有している場合、ガスタービンにこれら回転機を直結し、直接駆動するメカニカル・ドライブの方式も有効である。特に、メカニカル・ドライブ方式は、大容量の回転機に直接駆動力を与えることが可能であり、エンジンで生じたエネルギー(電力・駆動力)を効率よく使用できる点でアイランド・オペレーションに適する。
【0005】
特許文献1ではメカニカル・ドライブ方式の一例としてガスタービンを用いて圧縮機を駆動するとともに、前記ガスタービンに直結した発電機から電力を得て、電力系統を介して他の設備へと電力を供給する方式を提案している。アイランド・オペレーションにおいて、プラント内に独自の電力系統を構築した場合には、他の設備も含め、プラント内で必要とする全ての電力を要求に応じて逐次供給する必要があることから、ガスタービンへの急速起動停止,負荷変化への要求は変わらないか、あるいはより厳しいものとなる。
【0006】
さらに、メカニカル・ドライブで大容量回転機を起動するケースにおいては、前述の回転機(たとえば圧縮機)の起動時間が、ガスタービンの起動時間に依存する。ガスタービンの起動計画は、急速な燃料投入・温度上昇によるタービン部品への影響,圧縮機におけるサージの発生回避,圧縮機中間段での旋回失速などの諸条件が考慮される。そのため、ガスタービンの起動時間がプラントの起動時間に比して長い場合、プラントの起動に渋滞を生じた結果、プラント操業に支障を与える可能性がある。
【0007】
さらに、メカニカル・ドライブの対象である大容量回転機の起動・運用に際しては、前記ガスタービンの圧縮機と同様に各回転機の運用条件を満たした起動・運用が必要である。以上の理由から、メカニカル・ドライブ用ガスタービンの制御装置に対しては、ガスタービンの運用条件のみならず、他の回転機の運用条件も考慮した運転制御が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−219571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、2軸式ガスタービンにおいてガス圧縮機をメカニカル・ドライブで起動する際の、ガス圧縮機の信頼性の改善にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するため、本発明の2軸式ガスタービンは、燃焼用空気を圧縮する高圧側圧縮機と、前記高圧側圧縮機で圧縮された燃焼用空気と燃料とを混合燃焼して高温ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された高温ガスを用いて前記高圧側圧縮機を駆動する高圧側タービンと、前記高圧側タービンを駆動した高温ガスの排気により駆動される低圧側タービンと、前記低圧側タービンにより駆動されるガス圧縮機とを備える2軸式ガスタービンにおいて、前記ガス圧縮機のガス吸入口に、ガス流量制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の2軸式ガスタービンの制御装置は、前記低圧側タービンの回転数計測値と、前記ガス圧縮機入口ガス温度の計測値と、前記ガス圧縮機入口ガス圧力の計測値と、前記ガス圧縮機吐出ガス圧力計の計測値から、前記ガス流量制御手段のガス流量制御指令値を演算する制御回路を備えたことを特徴とする。
【0012】
または、本発明の2軸式ガスタービンの制御装置は、前記ガス圧縮機の圧力比を計算し、前記圧力比からガスタービンの燃料流量指令に対する修正値を演算し、該修正値を用いてガスタービンの燃料流量指令を修正する制御回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、2軸式ガスタービンにおいてガス圧縮機をメカニカル・ドライブで起動する際の、ガス圧縮機の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例である2軸式ガスタービン・エンジン及び制御装置の概略図。
【図2】本発明の実施例である天然ガス液化プラントの概略図。
【図3】本発明の実施例である2軸式ガスタービン・エンジンの制御ブロック図。
【図4】本発明の実施例である2軸式ガスタービン・エンジンの制御ブロック図。
【図5】本発明の実施例であるプロパン圧縮機入口案内翼の角度指令値の設定例。
【図6】本発明の実施例である燃料流量修正値の設定例。
【図7】比較例の2軸式ガスタービン・エンジン及びプロパン圧縮機の運転特性。
【図8】本発明の実施例である2軸式ガスタービン・エンジン及びプロパン圧縮機の運転特性。
【図9】本発明の実施例である2軸式ガスタービン・エンジン及びプロパン圧縮機の運転特性。
【図10】本発明の実施例であるプロパン圧縮機の運転特性。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を用いて、本発明の実施例を説明する。図1は高圧側タービン3を用いて高圧側圧縮機1を、低圧側タービン5を用いてメカニカル・ドライブの対象であるガス圧縮機(本実施例では圧縮機4と称する)をそれぞれ駆動する2軸式ガスタービンに本発明を適用した例である。
【0016】
図1中の高圧側タービン3は、燃焼器2から発生した高温の燃焼ガスで駆動する。燃焼器2は燃料の燃焼用にバーナ9を供え、これらバーナへの燃料供給量を調整してタービン出力を制御する。燃料供給量の調整には燃料流量調整弁6を用いる。燃焼器2へと供給する燃焼用空気は、空気吸入口20から取り込み、高圧側圧縮機1にて加圧したものを用いる。高圧側タービン3通過後のガスは燃焼ガスダクト21を経て低圧側タービン5を駆動する。この回転力により、駆動軸18を介して圧縮機4を駆動する。低圧側タービン5を通過した後のガスは排気ガスダクト22を経てガスタービン外へと送られる。
【0017】
本ガスタービンを制御するための計測手段としては、高圧側駆動軸17に設置した回転数計測手段10,高圧側圧縮機出口に設置した燃焼用空気の圧力計測手段12及び温度計測手段13がある。また、駆動軸18には回転数計測手段11,低圧側タービン出口にはタービン出口ガス温度計測手段19,プロパン圧縮機入口にはプロパン冷媒圧力計測手段14及び温度計測手段16,プロパン圧縮機出口にプロパン冷媒圧力計測手段15を備える。制御手段としては、前述の燃料流量調整弁6のほか、高圧側圧縮機1の空気吸入口20に、高圧側圧縮機1への空気流入量を制御する入口案内翼7を備える。
【0018】
さらに、本発明のガスタービンでは、制御手段として圧縮機4のプロパン吸入口23に、圧縮機4へのガス流入量を制御するガス流量制御手段を備える。図1には、前記ガス流量制御手段の実装例として、プロパン圧縮機入口案内翼8を備える構成とした。なお、流量制御の手段として、入口案内翼ではなく流量調整弁を使用する構成としてもよい。ガスタービン制御装置100は、ガスタービン及び圧縮機4に設置したこれら計測手段からの計測値及び圧縮機4の負荷指令CDから上記制御手段への制御指令を計算し、燃料流量調整弁6を開閉、あるいは入口案内翼7およびプロパン圧縮機入口案内翼8の角度を調整する。
【0019】
なお、本実施例では、図1に示した圧縮機4を天然ガス液化プラントにおける冷媒の加圧に用いる。天然ガス液化プラントの概要を図2に示す。
【0020】
天然ガス液化プラント(以下プラント)は、ガス田から採掘・精留したガス52を液化して液化天然ガス53を製造する設備である。プラントは、主熱交換器40,混合冷媒(MCR)セパレータ46,プロパン冷却器41,プロパン冷媒コンデンサ42,MCR圧縮中間冷却器43,44,45,圧縮機4,MCR圧縮機50,51,熱交換器47,48及びこれら機器を接続する配管・バルブからなる。本図における圧縮機4はガスタービンの低圧側タービン5で、混合冷媒圧縮機50及び51はガスタービン49(ガスタービン5とは異なる)でそれぞれ駆動される。
【0021】
プラント内の各設備について説明する。主熱交換器40は、機器内部に散布される冷媒とガス52との熱交換により原料ガスを冷却・液化するための設備である。本図では、機器内部に散布する冷媒としてプロパン,ブタン,エタンなどを主成分とする混合冷媒を使用している。混合冷媒は、MCR圧縮機50及び51で圧縮・加圧された後、熱交換器47及び48,MCR圧縮中間冷却器43,44,45で冷却され、MCRセパレータ46で気液を分離したのちそれぞれ主熱交換器40に供給する。
【0022】
混合冷媒を冷却する手段として、本実施例ではプロパン冷媒を用いる。プロパン冷媒は、圧縮機4で圧縮・加圧された後、プロパン冷却器41で冷却・液化されてプロパン冷媒コンデンサ42に貯留される。液体のプロパンはそれぞれMCR圧縮中間冷却器43,44,45に供給され、前記冷却器内でプロパンを膨張・気化させることにより混合冷媒より気化熱を奪い、混合冷媒を冷却する。本実施例では、この圧縮機4の駆動にガスタービンを用いる。
【0023】
本プラントでは、ガスタービン及び圧縮機4により循環運転するプロパン冷媒の気化熱を用いて混合冷媒を冷却し、この混合冷媒を用いて原料ガスを冷却・液化するプロパン予冷式MCR方式を例にするが、天然ガスの液化方式には種々の方法が提案されており、本実施例に示す方式は、ガス冷却の一方法にすぎない。本発明のガスタービン及びその制御装置は、大型圧縮機を駆動するプラントならばどの方式でも適用可能であり、今回例示した冷却・液化方式に依存しない。
【0024】
ガスタービン制御装置(以下制御装置)100の概要を図3に示す。前記制御装置は、起動停止制御,負荷制御のほか、安全保護機能,補機制御機能などの複数の機能を備えるが、本実施例では起動停止及び負荷運転に必要とされる機能のみを説明する。
【0025】
制御装置100は、高圧側タービン回転数NHPTと、圧縮機負荷CDと、低圧側タービン回転数NLPTと、高圧側圧縮機出口空気圧力PC1と、高圧側圧縮機出口空気温度TC1と、タービン排気温度Txと、プロパン圧縮機入口ガス温度TCI2と、プロパン圧縮機入口ガス圧力PCI2と、プロパン圧縮機出口ガス圧力PC2を入力し、燃料流量調整弁開度指令CGCV1及びCGCV2を計算し、前記開度指令から燃料流量調整弁6を制御する。また、同様に入口案内翼角度指令AIGV1と、プロパン圧縮機入口案内翼角度指令AIGV2を計算し、入口案内翼7とプロパン圧縮機入口案内翼8を制御する。
【0026】
図において、起動制御手段30は、高圧側タービン回転数NHPTを入力とし、ガスタービンの暖機・点火時に投入する燃料流量を、起動時燃料流量指令FFD0として求める。
加速制御手段31は、ガスタービン点火後〜速度上昇時の燃料流量を、加速時燃料流量指令FFD1として求める。停止制御手段32は、ガスタービン停止時における燃料流量を、停止時燃料流量指令FFD2として求める。速度・負荷制御手段33は、プロパン圧縮機負荷運転時における燃料流量を速度・負荷制御時燃料流量指令FFD3′として求める。排気温度制御手段34は、高圧側圧縮機出口空気圧力PC1と、高圧側圧縮機出口空気温度TC1と、タービン排気温度Txを入力とし、タービン排気温度Txが排気温度制御手段34内で設定した排気温度設定値を超過しないよう、排気温度制御時燃料流量指令FFD4を計算する。
【0027】
本発明では、加算器38において前記流量指令FFD3′と制御手段200で計算した燃料流量修正値FFD3Bとの和を求め、この値を速度・負荷制御時燃料流量指令FFD3とする構成とした。燃料流量修正値FFD3Bの詳細については後に述べる。
【0028】
さらに、低値選択35において、先に求めたFFD0,FFD1,FFD2,FFD3、FFD4からもっとも低い値を選択し、燃料流量指令FFDとして出力する。燃料流量調整弁制御手段36a及び36bでは、燃料流量指令FFDから少なくともひとつ以上の燃料流量調整弁の開度CGCV1及びCGCV2を計算する。
【0029】
入口案内翼角度計算手段37は、ガスタービン起動計画時に決定したスケジュールに従い、高圧側タービン回転数の関数として入口案内翼の角度AIGV1を求める。
【0030】
なお、起動制御手段30,加速制御手段31,停止制御手段32,速度・負荷制御手段33,排気温度制御手段34、及び入口案内翼角度計算手段37は従来のガスタービンにおけるそれぞれの制御手段に対応することから、ここでは説明を省略する。
【0031】
本発明では、ガスタービンによるプロパン圧縮機の制御を目的に、低圧側タービン回転数NLPT,プロパン圧縮機入口ガス温度TCI2,プロパン圧縮機入口ガス圧力PCI2,プロパン圧縮機出口ガス圧力PC2を入力し、制御手段200において燃料流量修正値FFD3B及びプロパン圧縮機入口案内翼角度AIGV2を計算する。制御手段200の出力のひとつである燃料流量修正値FFD3Bは速度・負荷制御手段33の出力であるFFD3′の補正に用いる。制御手段200の処理概要を図4に示す。
【0032】
演算手段61では、低圧側タービン回転数NLPT,プロパン圧縮機入口ガス温度TCI2,プロパン圧縮機入口ガス温度の基準温度TCI2(0)から、プロパン圧縮機入口ガス圧力PCI2、プロパン圧縮機入口ガス圧力の基準圧力PCI2(0)から、低圧側タービン修正回転数NLPT′を式1を用いて求める。
【0033】
【数1】

【0034】
関数62では、修正回転数NLPT′に応じた案内翼角度指令値AIGV21を求める。AIGV21は起動時における案内翼角度指令値を折れ点関数で定義したものである。関数62の設定例を図5に示す。図5において、案内翼角度指令値AIGV21は修正回転数NLPT′が0%からN1(%)までの間は最大角度A21(%)でプログラム制御し、N1(%)から100%までの間を全開と設定する。AIGV21はプロパン圧縮機停止時から起動途中の回転数N1(%)までの運転状態で有効となる翼角度である。AIGV21の目的は、起動時における圧縮機4へのガス吸入量を抑制し、起動時のプロパン圧縮機負荷を低減させることにある。これにより、ガスタービンはより低い出力で圧縮機4を起動することが可能となる。また、ガス圧縮機負荷の低減によって、低圧側タービン及び圧縮機4はより少ない駆動力で、短時間に定格回転数付近まで上昇する。その結果、圧縮機4及びプラントの起動時間が短縮する。
【0035】
演算手段63では、プロパン圧縮機入口ガス圧力PCI2およびプロパン圧縮機出口ガス圧力PC2から、式2を用いて圧力比πを求める。
【0036】
【数2】

【0037】
関数64では、修正回転数NLPT′からガス圧縮機の圧力比上限設定πSを求め、圧力比πとの差から圧力比余裕度ΔπSを求める。関数64の目的は、プロパン圧縮機のサージ防止にある。制御器65では、圧力比余裕度ΔπSを確保するための案内翼角度指令値AIGV22を計算する。制御器65には比例積分制御,比例制御,積分制御などいずれの制御方式を用いてもよい。
【0038】
関数69では、ΔπSを入力として燃料流量修正値FFD3Bを求める。本関数の目的は、プロパン圧縮機がサージ状態へと近づく際、ガスタービンの出力を下げることによってプロパン圧縮機の圧力比を下げ、サージ状態への移行を防止することにある。関数69の設定例を図6に示す。図において、関数69は、ΔπSがΔπSmin以下となった場合に燃料流量を下げる(修正値FFD3Bを負数とする)設定とした。
【0039】
関数66では、修正回転数NLPT′からプロパン圧縮機運転時の目標圧力比πDを求め、圧力比πとの差から圧力比偏差Δπを求める。制御器67では、圧力比偏差Δπを0とするための案内翼角度指令値AIGV23を計算する。AIGV23の目的は、プロパン圧縮機起動完了から定格負荷におけるプロパン圧縮機の安定制御にある。本制御回路を用いてプロパン圧縮機が目標圧力比となるよう制御することにより、圧縮機4及びプラントを高効率かつ安定に制御することができる。
【0040】
低値選択68では、案内翼角度指令値AIGV21,AIGV22,AIGV23からもっとも低い値をプロパン圧縮機入口案内翼角度AIGV2として選択する。AIGV21はプロパン圧縮機起動時、AIGV23はプロパン圧縮機起動完了〜定格運転時、AIGV22は安全保護動作を目的とし、起動停止,負荷運転の各運転状態に応じてこれら指令値のうち低値が選択されることにより、プロパン圧縮機を最適な状態に制御する。
【0041】
次に、本発明のガスタービン制御装置によるガスタービン及びプロパン圧縮機の制御結果について図7ならびに図8を用いて説明する。
【0042】
図7に、本実施例のプロパン圧縮機入口案内翼8やガスタービン制御装置100を有しない比較例のガスタービン及びプロパン圧縮機の運転特性を示す。図7において、縦軸はそれぞれの計測値・指令値を0〜100%で正規化した値、横軸は時間を表す。
【0043】
図7において、時刻t0はガスタービンの起動時刻を表す。2軸式ガスタービンでは、高圧側タービンを起動した後、低圧側タービンの回転数が上昇を開始する。低圧側タービンに接続したプロパン圧縮機は、時刻t1より起動を開始する。時刻t2はガスタービンとプロパン圧縮機の双方が起動を完了する時間である。比較例のガスタービン制御装置は、圧縮機負荷CDに先行して燃料流量指令FFDを上昇させる。FFDの上昇に伴い、入口案内翼角度AIGV1は入口案内翼角度計算手段により閉から開へと移行する。また、燃料流量指令FFDの上昇により、高圧側タービン回転数NHPT及び低圧側タービン回転数NLPTは上昇するが、燃焼器で発生した燃焼ガスのエネルギーは、まず高圧側タービンの駆動力として用い、そののち、低圧側タービンの駆動に用いる。そのため、図7では高圧側タービン回転数NHPTが低圧側タービン回転数NLPTに先行する特性となる。高圧側タービンに比して低圧側タービン回転数の上昇率が低いのは、低圧側タービンの駆動力がプロパン圧縮機の起動及び負荷上昇に用いられたことが原因である。
【0044】
次に本実施例のガスタービン及び圧縮機4の運転特性を図8に示す。なお、図には比較のため、本実施例を適用しない場合の指令値及び計測値を点線で示す。本実施例のプロパン圧縮機入口案内翼8及びガスタービン制御装置100は、図中時刻t0(ガスタービン起動)から時刻t2(プロパン圧縮機起動完了)までのプラント起動時間を短縮する。
【0045】
図8には、プロパン圧縮機入口案内翼角度指令AIGV2を制御した場合のプロパン圧縮機入口ガス圧力PCI2,プロパン圧縮機出口ガス圧力PC2、及び低圧側タービン回転数NLPTを示す。
【0046】
図8中、プロパン圧縮機起動時(時刻t1〜t1′)において、ガスタービン制御装置100は、プロパン圧縮機入口案内翼角度指令AIGV2を低く設定(吸気量を制限)し、その後低圧側タービン回転数NLPTがN1に到達するt1′まで徐々に上昇させる。これにより、ガス圧縮機起動時のトルクを抑制して圧縮機を低負荷で起動することが可能となる。低圧側タービン回転数NLPTの上昇に応じて、プロパン圧縮機出口ガス圧力PC2及びプロパン圧縮機入口ガス圧力PCI2も上昇する。
【0047】
プロパン圧縮機起動完了時(時刻t1′〜t2′)において、ガスタービン制御装置100は、圧縮機4の圧力比を目標圧力比に一致するよう入口案内翼角度指令AIGV2を制御することにより、圧縮機を短時間で定格運転状態に移行し、起動時間の短縮を図ることが可能となる。すなわち本実施例のガスタービン制御装置100は、圧縮機4の圧力比からガスタービンへの燃料流量指令に対する修正値を演算し、この修正値を用いてガスタービンの燃料流量指令を修正する制御回路を備えているため、起動時間が短縮できる。
【0048】
本実施例によるガスタービン及びプロパン圧縮機運転時の燃料流量指令FFDおよび高圧タービン回転数NHPTの運転特性(実線)を本実施例を適用しない場合の運転特性(点線)と比較して図9に示す。図9において、時刻t1以降の燃料流量指令FFD(実線)は、本実施例を適用しない場合(点線)と比較して高く推移する。これは、本実施例のガスタービン制御装置100において、低圧側タービン回転数を圧縮機4のサージを回避しつつ、目標圧力比に制御したことに起因する。高圧タービン回転数NHPTの運転特性に関しても同様に、本実施例を適用した場合(実線)の運転特性は、本実施例を適用しない場合(点線)の特性と比較して高く推移する。これは本実施例によって、高圧タービンを含むガスタービンがより短い時間に起動を完了したことを意味する。
【0049】
図10に比較例のプロパン圧縮機起動特性(図中曲線B)と、本実施例のプロパン圧縮機起動特性(曲線A)の比較図を示す。
【0050】
図10は、圧縮機4に遠心圧縮機を適用した場合の起動特性である。図10において、縦軸は圧力比π、横軸は修正流量G′、一点鎖線は低圧側タービン修正回転数N′LPT=40%〜100%における運転特性を示す。また、曲線Sは圧縮機のサージライン(マージンを含む)、点Rはプロパン圧縮機定格状態における圧力比,修正流量,修正回転数のバランス点である。
【0051】
比較例の制御方式のプロパン圧縮機は、起動時に図中曲線Bに示すラインを通過しつつ、定格状態Rへと到達する。これは、起動時(始動時及び昇速時)におけるプロパン圧縮機の負荷が高く、回転数上昇に対して圧力比上昇が遅れるためである。これに対して、本実施例のガスタービン制御装置では、起動時に図中曲線Aに示すラインを通過しつつ、定格状態Rへと到達する。図10では、低圧側タービン修正回転数N1%以下において入口案内翼角度を指令値AIGV23に従い圧縮機を制御することにより、圧縮機起動時の負荷を抑制するとともに圧縮機を高速に起動する。また、回転数N1%以降では、入口案内翼角度を指令値AIGV23にて制御することにより、圧縮機を目標圧力比に追従させて、プロパン圧縮機を定格状態Rへと到達させることが可能となる。
【0052】
なお、各種運転状況によりプロパン圧縮機が図中曲線Sに示すサージライン(マージンを含む)へと近づいた場合には、指令値AIGV2を入口案内翼角度を圧力比が減少する方向(案内翼角度を開く)へと制御することによりで圧力比上昇を抑制するとともに燃料流量指令の修正値FFD3Bを出力し、燃料による回転数上昇を抑制する。これにより、プロパン圧縮機を4安全に起動することが可能である。
【0053】
なお、本実施例では圧縮機4のプロパン吸入口23に、圧縮機4へのガス流入量を制御するプロパン圧縮機入口案内翼8を備えたが、同様にMCR圧縮機50あるいは51の吸入口に圧縮機入口案内翼を備えても良い。この場合のMCR圧縮機の運転特性は、プロパン圧縮機の運転特性と同様となる。
【0054】
また、本実施例ではプロパン圧縮機入口案内翼をプロパン吸入口1箇所にのみ設けたが、MCR圧縮中間冷却器43,44の圧縮機側に案内翼に相当するバルブないしダンパを設置し、圧縮機を構成する各段において圧力比を制御しても良い。
【0055】
また、本実施例ではプロパン圧縮機として遠心圧縮機を使用したが、軸流圧縮機を用いた場合にも同様の効果が得られる。特に、軸集圧縮機の場合には圧縮機後段側での旋回失速が問題となるが、本発明によって起動時の圧縮機吸気流れを制御することで、圧縮機後段側での旋回失速を回避しつつ、圧縮機及びプラント全体を高速に起動することが可能である。
【0056】
以上説明した通り、本実施例の2軸式ガスタービンは、燃焼用空気を圧縮する高圧側圧縮機1と、高圧側圧縮機1で圧縮された燃焼用空気と燃料とを混合燃焼して高温ガスを生成する燃焼器2と、燃焼器2で生成された高温ガスを用いて高圧側圧縮機1を駆動する高圧側タービン3と、高圧側タービン3を駆動した高温ガスである排気ガスにより駆動される低圧側タービン5と、低圧側タービン5により駆動されるガス圧縮機である圧縮機4とを備える2軸式ガスタービンであって、圧縮機4のガス吸入口に、ガス流量制御手段であるプロパン圧縮機入口案内翼8を備えている。このような構成とすることで、起動時間短縮と、起動時におけるガス圧縮機の制御安定性を高めることができる。このようなガス流量制御手段は、ガスタービン起動時および負荷時におけるガス圧縮機のガス吸気量や圧力比、圧縮機翼列後段の流れ状態など、ガス圧縮機の運転諸状態を制御可能という利点がある。
【0057】
また、本実施例の2軸式ガスタービンの制御装置は、低圧側タービン5の回転数計測値と、圧縮機4の入口ガス温度の計測値と、圧縮機4の入口ガス圧力の計測値と、圧縮機4の吐出ガス圧力計の計測値から、前記ガス流量制御手段のガス流量を制御するための案内翼制御指令値を演算する制御回路を備えている。案内翼制御指令値を演算する制御回路は、ガスタービン起動時にガス圧縮機が必要とする駆動力を低減するとともに、前述の圧力比をフィードバック制御してガス圧縮機の運転状態を最適とする。そのため、ガスタービンを用いてガス圧縮機を直接駆動するメカニカル・ドライブ方式においては、ガス圧縮機を短時間に起動し、早期に定格・安定状態へと到達できるという利点がある。
【0058】
また、本実施例の2軸式ガスタービンの制御装置は、圧縮機4の圧力比を計算し、この圧力比からガスタービンの燃料流量指令に対する修正値を演算し、この修正値を用いてガスタービンの燃料流量指令を修正する制御回路を備えている。燃料流量指令を修正する制御回路を有することで、ガス圧縮機運転時における圧縮機の回転数変動・圧力比変動などに起因する圧縮機サージングのトラブルを防止し、ガス圧縮機を安全に起動停止・運用できるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0059】
ガス圧縮機などの大容量回転機を駆動する2軸式ガスタービンおよびその制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 高圧側圧縮機
2 燃焼器
3 高圧側タービン
4 圧縮機
5 低圧側タービン
6 燃料流量調整弁
7 入口案内翼
8 プロパン圧縮機入口案内翼
9 バーナ
10,11 回転数計測手段
12,14,15 圧力計測手段
13,16,19 温度計測手段
17 高圧側駆動軸
18 駆動軸
20 空気吸入口
21 燃焼ガスダクト
22 排気ガスダクト
23 プロパン吸入口
24 プロパン吐出口
30 起動制御手段
31 加速制御手段
32 停止制御手段
33 速度・負荷制御手段
34 排気温度制御手段
35,68 低値選択
36a,36b 燃料流量調整弁制御手段
37 入口案内翼角度計算手段
38 加算器
40 主熱交換器
41 プロパン冷却器
42 プロパン冷媒コンデンサ
43,44,45 MCR圧縮中間冷却器
46 MCRセパレータ
47,48 熱交換器
49 ガスタービン
50,51 MCR圧縮機
52 ガス
53 液化天然ガス
61,63 演算手段
62,64,66,69 関数
65,67 制御器
100 制御装置
200 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼用空気を圧縮する高圧側圧縮機と、前記高圧側圧縮機で圧縮された燃焼用空気と燃料とを混合燃焼して高温ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された高温ガスを用いて前記高圧側圧縮機を駆動する高圧側タービンと、前記高圧側タービンを駆動した高温ガスである排気ガスにより駆動される低圧側タービンと、前記低圧側タービンにより駆動されるガス圧縮機とを備える2軸式ガスタービンにおいて、
前記ガス圧縮機のガス吸入口に、ガス流量制御手段を備えることを特徴とする2軸式ガスタービン。
【請求項2】
請求項1に記載の2軸式ガスタービンを制御するガスタービンの制御装置であって、
前記低圧側タービンの回転数計測値と、前記ガス圧縮機入口ガス温度の計測値と、前記ガス圧縮機入口ガス圧力の計測値と、前記ガス圧縮機吐出ガス圧力計の計測値から、前記ガス流量制御手段を制御するためのガス流量制御指令値を演算する制御回路を備えたことを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の2軸式ガスタービンを制御するガスタービンの制御装置であって、
前記ガス圧縮機の圧力比を計算し、前記圧力比からガスタービンの燃料流量指令に対する修正値を演算し、該修正値を用いてガスタービンの燃料流量指令を修正する制御回路を備えたことを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項4】
燃焼用空気を圧縮する高圧側圧縮機と、前記高圧側圧縮機で圧縮された燃焼用空気と燃料とを混合燃焼して高温ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された高温ガスを用いて前記高圧側圧縮機を駆動する高圧側タービンと、前記高圧側タービンを駆動した高温ガスである排気ガスにより駆動される低圧側タービンと、前記低圧側タービンにより駆動されるガス圧縮機とを備える2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記ガス圧縮機のガス吸入口に備えたガス流量制御手段によって、前記ガス圧縮機へのガス流入量を調整することを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−27047(P2011−27047A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174882(P2009−174882)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】