説明

2,6−ナフタレンジカルボン酸の製造工程における酢酸および触媒の回収用装置および方法

【課題】
2,6−ナフタレンジカルボン酸の製造工程における酢酸および触媒の回収用装置および方法を提供する。
【解決手段】
ジメチルナフタレンを含酸素気体および酢酸溶媒下で、コバルト、マンガンのような遷移金属と臭素系化合物を用いて製造された触媒系によって酸化反応させ、ナフタレンジカルボン酸を製造する連続工程において、酸化工程と結晶化工程、そして固液分離工程を経て排出される母液中、酢酸および触媒を効果的に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルナフタレンを含酸素気体および酢酸溶媒下でコバルト、マンガンのような遷移金属と臭素系化合物を用いて製造された触媒系を利用して、酸化反応させ、ナフタレンジカルボン酸を製造する連続工程において、酸化工程と結晶化工程、そして固液分離工程を経て排出される母液中、酢酸および触媒を効果的に回収するための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工程で用いられた酢酸および触媒を回収するために、多様な分離工程を用いることができる。
【0003】
通常、酢酸回収工程では、酢酸回収方法として蒸留法を用いているが、経済的な面で不利であり、また、濾過法および吸収法は酢酸と触媒を分離するのに適していないといえる。したがって、酢酸および触媒を回収するための様々な他の方法が提案されていた。特許文献1は、金属性物質が含まれている酢酸溶液から第3アミンと有機稀釈剤を酢酸の抽出用溶剤として用いた抽出方法による酢酸の回収工程を示している。しかし、このような方法は、ナフタレンジカルボン酸の製造工程における酢酸と触媒を回収する方法としては適していない。これは、抽出を用いる方法では、酢酸の分離回収後、後処理工程が行われるべきで、抽出用溶剤と酸化反応触媒の反応性を考慮しなければならないためである。
【0004】
触媒の回収方法としては、焼却法、真空濾過法、電気化学法などがあるが、まだ商用化されていない状態である。
【特許文献1】米国特許第4,883,912号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した先行技術の問題点および短所を解決するために、ナフタレンジカルボン酸の製造工程において排出される母液中、酢酸と触媒を最も経済的で、かつ効率的に回収する装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するために、ナフタレンジカルボン酸の製造工程において排出される母液中、酢酸および触媒を回収するための装置および方法を提供する。
【0007】
本発明の適切な実施形態によると、ナフタレンジカルボン酸の製造工程において排出される酢酸、触媒およびその他有機物を含む母液から酢酸および触媒回収用装置であって、母液または苛性ソーダを投入するための投入口、酢酸排出口、および触媒および有機物排出口を備える母液受容部と、前記母液受容部を加熱するための加熱手段と、前記触媒および有機物排出口に連結して、触媒を有機物から分離するための下部の濾過膜と、前記母液受容部の内部を攪拌するための攪拌機を含む酢酸および触媒回収用装置が提供されている。
【0008】
本発明の他の適切な実施形態によると、前記加熱手段は、母液受容部の外壁に装着された蒸気投入口および凝縮水放出口を備えるジャケットであることを特徴とする。
【0009】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、前記母液受容部は苛性ソーダ投入口をさらに含むことができる。
【0010】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、前記酢酸および触媒回収用装置は、円錐形または円錐台形であることを特徴とする。
【0011】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、前記下部の濾過膜は真空度50〜150mmHg、総濾過面積0.3〜0.7m、および濾過膜のふるい目の開き20〜80μmであることを特徴とする。
【0012】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、ナフタレンジカルボン酸の分離工程において排出される母液から酢酸および触媒の回収方法であって、ナフタレンジカルボン酸の分離工程後に排出される母液を受容するステップと、前記受容された母液を加熱して、酢酸を気体状態として回収するステップと、酢酸を回収して残った残余物に苛性ソーダを投入し、沈殿した触媒を分離して回収するステップとからなるナフタレンジカルボン酸の分離工程後に排出される母液から酢酸および触媒を回収する方法が提供されている。
【0013】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、前記苛性ソーダは残余酢酸に対して2〜3倍重量%で投入することができる。
【0014】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、前記触媒回収のために、真空濾過法を用いることを特徴とする。
【0015】
本発明のまた他の適切な実施形態によると、本発明の方法は、上記で提示した酢酸および触媒回収用装置を用いて、全体が一体化された一つの工程からなる。ここで、一体化された一つの工程とは、酢酸および触媒を回収する一連の工程が別途の分離された装置を用いず、一つの装置で行われることをいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明による酢酸および触媒の回収装置は、酢酸および触媒を、従来と異なり、一連の工程が一つの装置を用いて行われることができるため、工程上で便利であるという長所がある。また、別途の精製工程なしに、リサイクル可能な酢酸および触媒を回収でき、非常に経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例の概略図である図1に基づき、本発明を詳細に説明する。
【0018】
母液受容部Aの上部には母液投入口1が備えられており、ナフタレンジカルボン酸の製造工程において排出される母液を受容する。前記受容された母液は、外部加熱手段によって加熱され、この時、酢酸は気化して酢酸排出口3に排出される。酢酸が排出して残った残余物は触媒およびその他有機物からなり、前記残余物に苛性ソーダを投入して触媒を沈殿させる。前記苛性ソーダは、別途の投入口6で投入されることもできるが、母液投入口1で投入されることもできる。前記沈殿した触媒は、触媒および有機物排出口2を介して排出された後、下部の濾過膜7を介して有機物と分離・回収される。
【0019】
母液受容部には母液および触媒含有残余物などの攪拌のための攪拌機Bを備え、前記攪拌機は好ましくはアンカー型(Anchor)である。
【0020】
前記母液加熱手段として、例えば熱量供給口の役割をする蒸気投入口4に170〜190℃の蒸気を投入し、母液受容部内の母液を加熱し、投入された蒸気は凝縮されて下部凝縮水排出口5で放出される。
【0021】
ジメチルナフタレンをナフタレンジカルボン酸に酸化させるのに使われる触媒として、コバルト成分、マンガン成分および臭素成分の組合からなる複合触媒系を用いるが、ここでコバルト成分として用いることができる化合物は、コバルトアセテート、コバルトナフタレートおよびコバルトカーボネートなどで、前記コバルト成分の量は、ジメチルナフタレンに対するコバルト原子の比率で0.02〜0.15、好ましくは0.04〜0.12で、より好ましくは0.06〜0.1である。
【0022】
マンガン成分として用いることができる化合物は、マンガンアセテート、マンガンナフタレート、マンガンカーボネートおよびマンガン臭化物であり、マンガン成分の量は、コバルト原子を基準として0.05〜1.0、好ましくは0.15〜0.4である。総金属触媒の量、すなわちコバルトとマンガン成分の和が原子を基準としてジメチルナフタレンに対し0.03〜0.25、好ましくは0.05〜0.2である。前記範囲を外れるようになると、所望の高純度のナフタレンジカルボン酸を得ることができないが、コバルト成分とマンガン成分をあまりにも少なく用いた場合、酸化反応の中間物質である2,6−ホルミルナフトエ酸の転換がなされず、最終目的生産物の収率が落ちるようになり、あまりにもたくさん用いた場合、不純物であるトリメリット酸と錯体を形成してナフタレンジカルボン酸の純度が下がる。
【0023】
臭素成分の提供のために、臭化マンガン、臭化コバルト、臭化ナトリウム、臭化アンモニウムおよびテトラブロモエタンからなる群から選択された1種以上の化合物を用いることができ、臭素成分の比率は、コバルト原子を基準として0.8〜2.0、好ましくは1.0〜1.5である。前記範囲を超える臭素成分を用いる場合、最終的に誘導されるナフタレンジカルボン酸の遷移金属錯体の量は減少するが、臭素化合物の量が増加し、精製工程の負荷が増加して、色を帯びる不純物が増加するため好ましくない。また、臭素成分を再使用する工程を採用する場合、回収工程の必要のため、付加的な経済的損失が発生する。一方、上記範囲未満の臭素成分を用いる場合、ナフタレンジカルボン酸中の遷移金属錯体の量が増加するようになる。
【0024】
反応物、すなわちジメチルナフタレンを酢酸に1:5〜1:15の比率で溶解させ、好ましくは1:10〜1:12の比率内で溶解させて、酸化反応機に投入する。
【0025】
前記酸化反応工程を経た生成物は、結晶化工程を通過しながら、一定の大きさの結晶を有する固相分と酢酸のスラリ状で固液分離工程に移送され、分離工程装置によって、固相分の生成物と母液、すなわち触媒および有機物が含まれている酢酸溶液に分離する。本発明は、固液分離工程を経た母液中、酢酸と触媒を効果的な方法で分離することを特徴とする。
【0026】
本発明の酢酸および触媒の回収装置により、酢酸は熱量媒体である蒸気を投入して蒸発により回収し、蒸発されていない溶液中の触媒は苛性ソーダを投入して触媒を沈殿させた後、真空濾過法を用いて回収する。
【0027】
本発明の酢酸および触媒回収用装置は、酢酸蒸発のための母液加熱手段として熱量媒体を用いるために、外壁にジャケットを装着することが好ましい。
【0028】
また、苛性ソーダは、残っている酢酸と有機物を中和させるのに適するように、残余酢酸に対し2〜3倍重量%を投入することが望ましい。
【0029】
また、真空濾過法に用いられる濾過膜の総濾過面積は、0.3〜0.7m、ふるい目の開きは20〜80μmとし、真空度は50〜150mmHgを保持させることが好適である。
【実施例】
【0030】
以下では、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、この実施例が本発明を限定しているものではない。
【0031】
[実施例1]
冷却機、加熱機、攪拌機および再循環酢酸ドラムを備える300Lのチタニウム酸化反応機に、表1のような組成比の触媒と反応物を共に投入する。
【0032】
【表1】

【0033】
反応温度は200℃で、反応圧力は20kg/cmに調節した後、攪拌機を700rpmに設定し、投入される反応気体が適切に分散されるようにする。酢酸に対するジメチルナフタレンの重量比が10%である反応溶液を、触媒と共に93kg/hrの速度で供給しながら連続的に反応を進行させる。
【0034】
反応後、結晶化工程および分離工程を経て排出された母液を酢酸および触媒の回収装置に注入する。酢酸および触媒の回収装置は、内部容積が107Lであるステンレス材で、外壁には熱量を供給する媒体が移動するジャケットからなり、内部はアンカー型の攪拌機が設置されている。熱量を供給する媒体としては、10気圧の蒸気を用いて、酢酸が70%以上蒸発するまで供給する。酢酸蒸発後、温度を60℃で維持しながら、苛性ソーダ50Lを投入する。2時間ぐらい経過した後、触媒および有機物排出口に濾過機および真空ポンプを連結して有機物と溶液を濾過させ、残った触媒を回収する。
【0035】
コバルト触媒金属回収率は95%、マンガン触媒金属回収率は90%、臭素回収率は10%、そして酢酸回収率は65%の結果を得た。
【0036】
上記の実施例によると、本発明の装置によって、酢酸および触媒を回収する場合、経済的に非常に有利であるということを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例において、2,6−ナフタレンジカルボン酸の製造工程において排出される母液中、酢酸および触媒を回収するための装置に関する概略図である。
【符号の説明】
【0038】
A 母液受容部
B 攪拌機
1 母液投入口
2 触媒および有機物排出口
3 酢酸排出口
4 蒸気投入口
5 凝縮水排出口
6 苛性ソーダ投入口
7 下部の濾過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6−ナフタレンジカルボン酸の製造工程において排出される酢酸、触媒およびその他有機物を含む母液から酢酸および触媒回収用装置であって、
母液または苛性ソーダを投入するための投入口、酢酸排出口、および触媒および有機物排出口を備える母液受容部と、
前記母液受容部を加熱するための加熱手段と、
前記触媒および有機物排出口に連結して、触媒を有機物から分離するための下部の濾過膜と、
前記母液受容部の内部を攪拌するための攪拌機とを含む酢酸および触媒回収用装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、母液受容部の外壁に装着された蒸気投入口および凝縮水放出口を備えるジャケットであることを特徴とする請求項1に記載の酢酸および触媒回収用装置。
【請求項3】
前記母液受容部は、苛性ソーダ投入口をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の酢酸および触媒回収用装置。
【請求項4】
前記酢酸および触媒回収用装置は、円錐形または円錐台形であることを特徴とする請求項1に記載の酢酸および触媒回収用装置。
【請求項5】
前記下部の濾過膜は、真空度50〜150mmHg、総濾過面積0.3〜0.7m、および濾過膜のふるい目の開き20〜80μmであることを特徴とする請求項1に記載の酢酸および触媒回収用装置。
【請求項6】
2,6−ナフタレンジカルボン酸の分離工程において排出される母液から酢酸および触媒の回収方法であって、
2,6−ナフタレンジカルボン酸の分離工程後、排出される母液を受容するステップと、
前記受容された母液を加熱して、酢酸を気体状態に回収するステップと、
酢酸を回収して残った残余物に苛性ソーダを投入し、沈殿した触媒を分離して回収するステップとからなる2,6−ナフタレンジカルボン酸の分離工程後に排出される母液から酢酸および触媒の回収方法。
【請求項7】
前記苛性ソーダは、残余酢酸に対して2〜3倍重量%で注入することを特徴とする請求項6に記載の酢酸および触媒の回収方法。
【請求項8】
前記触媒回収のために、真空濾過法を用いることを特徴とする請求項6に記載の酢酸および触媒の回収方法。
【請求項9】
請求項1に記載の酢酸および触媒回収用装置を用いて、全体が一体化された一つの工程からなることを特徴とする請求項6に記載の酢酸および触媒の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−308420(P2007−308420A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139298(P2006−139298)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(503434298)ヒョスング コーポレーション (22)
【Fターム(参考)】