3’−フルオロ−5’−ヒドロキシサリドマイドおよびその誘導体
【課題】新規な3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体並びにその光学活性体を提供する。
【解決手段】一般式[A]
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、シクロアルキル基等;R2は、水素原子等を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基等を;Xは、CH2またはC=Oを、それぞれ意味する。]で表される3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体並びにその光学活性体。該化合物は、ハンセン病の結節性紅斑、痒疹、リウマチ、クローン病、移植片対宿主病、ベーチェット病、アフタ性潰瘍、多発性骨髄腫、TNF−α関連疾患などの治療のための新規薬物として有望である。
【解決手段】一般式[A]
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、シクロアルキル基等;R2は、水素原子等を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基等を;Xは、CH2またはC=Oを、それぞれ意味する。]で表される3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体並びにその光学活性体。該化合物は、ハンセン病の結節性紅斑、痒疹、リウマチ、クローン病、移植片対宿主病、ベーチェット病、アフタ性潰瘍、多発性骨髄腫、TNF−α関連疾患などの治療のための新規薬物として有望である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド、その誘導体並びにそれらの光学活性体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サリドマイドは催眠鎮静薬として1957年に最初にドイツで発売されたが、胎児に対する催奇形性が判明したので、1961年にその販売が中止された。日本でも1958年に発売され、1962年に販売中止となったが、その後ハンセン病の結節性紅斑に有効なことが判明し、以来種々の痒疹、リウマチ、クローン病、移植片対宿主病、ベーチェット病、骨髄腫、アフタ性潰瘍等難治性疾患に対する有効性が次々に報告されている。米国食品医薬品局(FDA)はサリドマイドをハンセン病の結節性紅斑の治療薬として認可し、2006年5月にはデキサメタゾンとの併用による多発性骨髄腫に対する投薬を承認するに至っている。サリドマイドは不斉中心を一つ持ち、ラセミ体として販売されているが、その催奇形性はS体に由来するものであり、純粋なR体を用いることで催奇形性を回避できる可能性が示されている(非特許文献1)。しかしながら、R体のサリドマイドは生理的条件化で容易にラセミ化もしくはエピマー化を起こして、S体のサリドマイドを生成してしまうために(非特許文献2)、薬害を回避できるかどうかはさらに詳細な研究を待つところである(非特許文献3)。また、生理的条件下でのエピマー化を回避する目的でサリドマイドの3位水素をフッ素原子で置き換えた誘導体が提案されている(特許文献1)。
【0003】
サリドマイドの持つ多種多様な生物活性発現のメカニズムは明らかではないが、その活性本体はサリドマイド自体である場合と、その代謝物である可能性が示唆されている(非特許文献4)。また、サリドマイドの代謝経路として加水分解と肝臓によるヒドロキシ化が提唱されており(非特許文献4,5)、特にヒドロキシ化された代謝物としては5'−ヒドロキシサリドマイドが報告されている(非特許文献6)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−159761
【非特許文献1】Arzneim.‐Forsch. / Drug Res.,29巻10号1640−1642頁(1979年)
【非特許文献2】Biochem. Biophys. Res. Commun.,199巻2号455−460頁(1994年)
【非特許文献3】Lancet.,339巻8789号365頁(1992年)
【非特許文献4】Current Drug Metabolism,7巻6号677−685頁(2006年)
【非特許文献5】Biochem. Pharm.,55巻11号1827−1834頁(1998年)
【非特許文献6】Anal. Chem.,74巻15号3726−3735頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
5'−ヒドロキシサリドマイドにおいても生体内でエピマー化することが否定できず、光学異性体間の厳密な生物活性差を議論することは出来ない。これを解決するためには、類似構造でかつエピマー化し得ない5'−ヒドロキシサリドマイドに対応する誘導体の開発が不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、5'−ヒドロキシサリドマイドのエピマー化を防ぐためフッ素原子を導入し、4種の立体異性体の混合物である3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドを合成し、この混合物を分割して、優れた生物活性を有する光学的に純粋な立体異性体を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本明細書において、特に断らない限り、各用語は、次の意味を有する。ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を;アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシル基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐12アルキル基を;低級アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシル基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキル基を;低級アルケニル基とは、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルなどのC2‐6アルケニル基を;低級アルキニル基とは、エチニル、2−プロピニル、2−ブチニルなどのC2‐6アルキニル基を;シクロアルキル基とは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル基を;アルコキシ基とは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシおよびオクチルオキシ基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐12アルキルオキシ基を;低級アルコキシ基とは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシおよびヘキシルオキシ基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキルオキシ基を;低級アルキルチオ基とは、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオおよびヘキシルチオ基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキル−S−基を;低級アルコキシカルボニル基とは、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニルおよびヘキシルオキシカルボニル基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキル−O−CO−基を;アリール基とは、フェニル、ナフチル、インダニルおよびインデニル基を;アルアルキル基とは、ベンジル、ジフェニルメチル、トリチルおよびフェネチル基などのアルC1‐6アルキル基を;アシル基とは、ホルミル基、アルキルカルボニル基およびアロイル基を;アルキルカルボニル基とは、アセチルおよびプロピオニルなどのC2‐6アルキルカルボニル基を;アロイル基とは、ベンゾイルおよびナフチルカルボニル基などのアリールカルボニル基を;アシルオキシ基とは、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、フェニルアセチルオキシ、2−アミノ−3−メチルブタノイルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、ベンゾイルオキシおよび3−ピリジルカルボニルオキシなどのアシルオキシ基を;シリル基とは、tert−ブチルジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、tert−ブチルジフェニルシリルを;アルキルスルホン酸エステルとは、トリフルオロメタンスルホニル、メタンスルホニルなどC1‐6アルキルスルホニルを;アリールスルホン酸エステルとは、ベンゼンスルホニル、4−トルエンスルホニルを意味する。
【0008】
R1で表される置換基は、通常のヒドロキシ基の保護基として使用し得るすべての基を含むヒドロキシ保護基が挙げられ、例えば、ベンジルオキシカルボニル、4−ニトロベンジルオキシカルボニル、4−ブロモベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、1,1−ジメチルプロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、ジフェニルメトキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル、2,2,2−トリブロモエトキシカルボニル、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニル、2−(フェニルスルホニル)エトキシカルボニル、2−(トリフェニルホスホニオ)エトキシカルボニル、2−フルフリルオキシカルボニル、1−アダマンチルオキシカルボニル、ビニルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、S−ベンジルチオカルボニル、4−エトキシ−1−ナフチルオキシカルボニル、8−キノリルオキシカルボニル、アセチル、ホルミル、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチル、メトキシアセチル、フェノキシアセチル、ピバロイルおよびベンゾイルなどのアシル基;メチル、tert−ブチル、2,2,2−トリクロロエチルおよび2−トリメチルシリルエチルなどの低級アルキル基;アリルなどの低級アルケニル基;ベンジル、p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、ジフェニルメチルおよびトリチルなどのアル低級アルキル基;テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニルおよびテトラヒドロチオピラニルなどの含酸素および含硫黄複素環式基;メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル、1−エトキシエチルおよび1−メチル−1−メトキシエチルなどの低級アルコキシ−および低級アルキルチオ−低級アルキル基;メタンスルホニルおよびp−トルエンスルホニルなどの低級アルキル−およびアリールスルホニル基;並びにトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、ジエチルイソプロピルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル、ジフェニルメチルシリルおよびtert−ブチルメトキシフェニルシリルなどの置換シリル基などが挙げられる。
【0009】
R2で表される置換基は、通常のアミノ保護基として使用し得るすべての基を含むアミノ基の保護基が挙げられ、たとえば、トリクロロエトキシカルボニル、トリブロモエトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、p−ニトロベンジルオキシカルボニル、o−ブロモベンジルオキシカルボニル、(モノ−、ジ−、トリ−)クロロアセチル、トリフルオロアセチル、フェニルアセチル、ホルミル、アセチル、ベンゾイル、tert−アミルオキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、4−(フェニルアゾ)ベンジルオキシカルボニル、2−フルフリルオキシカルボニル、ジフェニルメトキシカルボニル、1,1−ジメチルプロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、フタロイル、スクシニル、アラニル、ロイシル、1−アダマンチルオキシカルボニルおよび8−キノリルオキシカルボニルなどのアシル基;ベンジル、ジフェニルメチルおよびトリチルなどのアル低級アルキル基;2−ニトロフェニルチオおよび2,4−ジニトロフェニルチオなどのアリールチオ基;メタンスルホニルおよびp−トルエンスルホニルなどのアルキル−もしくはアリールスルホニル基;N,N−ジメチルアミノメチレンなどのジ−低級アルキルアミノ−低級アルキリデン基;ベンジリデン、2−ヒドロキシベンジリデン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンジリデンおよび2−ヒドロキシ−1−ナフチルメチレンなどのアル−低級アルキリデン基;3−ヒドロキシ−4−ピリジルメチレンなどの含窒素複素環式アルキリデン基;シクロヘキシリデン、2−エトキシカルボニルシクロヘキシリデン、2−エトキシカルボニルシクロペンチリデン、2−アセチルシクロヘキシリデンおよび3,3−ジメチル−5−オキシシクロヘキシリデンなどのシクロアルキリデン基;ジフェニルホスホリルおよびジベンジルホスホリルなどのジアリールもしくはジアル−低級アルキルホスホリル基;5−メチル−2−オキソ−2H−1,3−ジオキソール−4−イル−メチルなどの含酸素複素環式アルキル基;並びにトリメチルシリルなどの置換シリル基などが挙げられる。
【0010】
本発明は、以下の一般式[A]
【化1】
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、アリールもしくはアシル基を;R2は、水素原子または置換されていてもよいヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシもしくはアルキル基を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、低級アルキルチオ基、低級アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、シアノ基、低級アルケニル基もしくは低級アルキニル基から選ばれる1〜4の原子または基を;Xは、CH2またはC=Oを、それぞれ意味する。]で表される3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体および光学的に純粋な形態の(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体および(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体を提供するものである。
光学活性体は通常75〜100%、好ましくは85〜100%、最も好ましくは95〜100%の範囲の純粋な光学異性体を含む。
【0011】
一般式[A]において、R1が水素原子または置換されていてもよいシリル基;R2が水素原子または置換されていてもよいアシル基;R3が水素原子である3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体およびその光学活性体が好ましく、さらにR2およびR3が水素原子、XがC=Oである3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体およびその光学活性体が好ましい。また、R1がヒドロキシ保護基、R2がアミノ保護基であってもよい。
【0012】
一般式[A]の化合物は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
以下の一般式[B]
【化2】
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、アリールもしくはアシル基を;R2は、水素原子または置換されていてもよいヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシもしくはアルキル基を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、低級アルキルチオ基、低級アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、シアノ基、低級アルケニル基もしくは低級アルキニル基から選ばれる1〜4の原子または基を、それぞれ意味する。]で表される3−フタルイミドピペリジン−2−オン誘導体を塩基および求電子的フッ素化試薬で処理した後、必要に応じて、R2がアミノ基の保護基である化合物をアミノ基の脱保護に付すか、さらに、酸化剤での処理またはR1がシリル基である化合物からシリル基を除去することにより製造することができる。
【0013】
この合成法で使用される求電子的フッ素化試薬として、N−フルオロベンゼンスルホンイミド類、分子状フッ素、梅本試薬に代表されるフルオロピリジニウム塩が挙げられるが、より好ましくは窒素あるいはアルゴン希釈フッ化過クロリルガスが挙げられる。
この合成法でフッ素化反応に用いられる溶媒は特に限定されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどエーテル系溶媒がより好ましい。塩基としては、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、水素化ナトリウム、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどが使用できる。
【0014】
この製造法で使用される酸化剤としては、例えば、共酸化剤と共に用いられる四酸化ルテニウムおよび二酸化ルテニウム、三塩化ルテニウムおよびその水和物などのルテニウム化合物が好ましい。また、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、マンガンアセチルアセトナートなどのマンガン塩、m−クロロ過安息香酸などを用いることもできる。共酸化剤としては、過ヨウ素酸ナトリウムなどの過ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸、過塩素酸ナトリウムなどの過塩素酸塩、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩、次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、フェリシアン化カリウム、四酢酸鉛、過酸化水素やtert−ブチルヒドロペルオキシドなどの過酸化物、過酢酸、m−クロロ過安息香酸、ヨードシルベンゼンなどの高原子価ヨウ素化合物、アミン−N−オキシド、酸素などを用いることができるが、より好ましくは、リン酸水素二ナトリウムなどリン酸塩、炭素水素ナトリウムなどの炭酸塩でpHを調整した条件で、過ヨウ素酸ナトリウムを共酸化剤として用い、二酸化ルテニウムで反応を行うことができる。この合成法で使用されるアミノ基の脱保護およびシリル基の除去は、通常知られた方法により行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
3'−ヒドロキシサリドマイドの合成
【化3】
【0017】
(5−ヒドロキシ−2−オキソピペリジン−3−イル)カルバミン酸tert−ブチルエステル[化合物1](727mg,cis:trans=3:1のジアステレオマー混合物)のジメチルホルムアミド(10.5mL)溶液に、tert−ブチルジメチルクロロシラン(714mg)、イミダゾール(645mg)を加え、室温で14時間撹拌し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/1)で精製することにより、無色固体の[5−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−2−オキソピペリジン−3−イル]カルバミン酸tert−ブチルエステル[化合物2]をジアステレオマーの混合物(cis:trans=3:1)として得た(1.034g、95%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)(major isomer)0.08(3H,s),0.11(3H,s),0.90(9H,s),1.45(9H,s),1.90(1H,ddd,J=1.7,12.4,12.8Hz),2.44(1H,m),3.24(1H,dddd,J=1.7,3.2,3.2,12.4Hz),3.48(1H,ddd,J=1.8,3.7,12.4Hz),4.22(1H,m),4.34(1H,m),5.29(1H,brs),6.01(1H,brs)
m.p.122−124℃
【0018】
化合物2(145mg)のジクロロメタン(4mL)溶液にトリフルオロ酢酸(0.25mL)を0℃で滴下し、室温まで徐々に温度を上げ、この混合物を8時間撹拌した後、減圧下濃縮し、残留したトリフルオロ酢酸をトルエンとの共沸混合物として完全に除去した。残渣をトルエン(3mL)に溶解した後トリエチルアミン(176mg)、無水フタル酸(93mg)、モレキュラーシーブス3A(150mg)を溶液に加え、混合物を6時間加熱還流し、室温まで冷却した。不溶物をセライトろ過し、ジクロロメタンで洗浄した。複合物のろ液を減圧下濃縮し、残渣はシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/1)で精製し無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−2'−オキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物3]をジアステレオマー混合物(5:1)として得た(147mg、93%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)(major isomer)0.12(3H,s),0.15(3H,s),2.12(1H,dddd,J=2.4,4.0,6.0,13.2Hz),2.59(1H,ddd,J=2.0,12.4,13.2Hz),3.34(1H,ddd,J=2.4,5.6,12.4Hz),3.69(1H,dd,2.8,12.4Hz),4.35(1H,m),5.24(1H,dd,J=6.0,12.4Hz),5.69(1H,brs),7.69−7.74(2H,m),7.83−7.87(2H,m)
m.p.215−232℃
【0019】
化合物3(750mg)をテトラヒドロフラン(20mL)とジメチルホルムアミド(0.5mL)の溶液に溶解し、−78℃で窒素雰囲気下にて1.5Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液(2.0mL)を滴下した。この混合物を−70℃まで昇温して20分間撹拌し、クロロギ酸ベンジル(343μL)を滴下し、−70℃で2時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした後、クロロホルム(100mL×2)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘキサン/酢酸エチル=5/4/1)で精製し無色固体の5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソインドール−2−イル)−2'−オキソピペリジン−1'−カルボン酸ベンジルエステル[化合物4]をジアステレオマーの混合物(5:1)として得た(955mg、94%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)(major isomer)0.10(1H,s),0.13(3H,s),0.91(9H,s),2.14(1H,dddd,J=2.0,4.0,6.4,12.8Hz),2.71(1H,ddd,J=2.4,12.8,12.8Hz),3.87(1H,dd,J=2.4,13.6Hz),3.98(1H,ddd,J=2.0,3.2,13.6Hz),4.38(1H,m),5.29(2H,s),5.36(1H,dd,J=6.4,12.8Hz),7.27−7.41(5H,m),7.71−7.75(2H,m),7.83−7.88(2H,m)
m.p.135−137℃
【0020】
化合物4(513mg)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に−78℃窒素雰囲気下で1.6Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液(0.694mL)を滴下し、−30℃で1時間撹拌後、フッ化過クロリルガス(80℃で過塩素酸カリウム(1.5g)のフルオロスルホン酸溶液(4.4mL)を撹拌して発生させ、窒素で希釈したもの)を−30℃から−10℃の間にて反応系中に2.5時間導入した。この混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチし、酢酸エチル(40mL×3)で抽出した。合わせた有機層は飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)にて精製し、無色固体の5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソインドール−2−イル)−3'−フルオロ−2'−オキソピペリジン−1'−カルボン酸ベンジルエステルの低極性異性体[化合物5](282mg、53%)および高極性異性体[化合物6](121mg、23%)をそれぞれ得た。低極性異性体[化合物5]は、3'位のフッ素と5'位の水素の位置関係がsynで、高極性異性体[化合物6]は3'位のフッ素と5'位の水素の位置関係がantiである。
【0021】
化合物5
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.06(3H,s),0.00(3H,s),0.68(9H,s),2.46(1H,ddd,J=6.6,8.1,14.7Hz),3.26(1H,dd,J=6.6,13.7Hz),3.57(1H,ddd,J=2.5,10.3,14.7Hz),4.38(1H,m),4.44(1H,dd,J=7.3,13.7Hz),5.37(1H,d,J=12.8Hz),5.40(1H,d,J=12.8Hz),7.31−7.40(3H,m),7.50−7.51(2H,m),7.77−7.81(2H,m),7.87−7.90(2H,m)
m.p.135−137℃
化合物6
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.04(3H,s),0.07(3H,s),0.84(9H,s),2.35(1H,ddd,J=6.4,10.5,14.7Hz),3.54(1H,dd,J=3.2,14.0Hz),3.89(1H,ddd,J=7.3,8.2,14.7Hz),4.18(1H,m),4.21(1H,dd,J=3.2,14.0Hz),5.39(2H,s),7.30−7.39(3H,m),7.49−7.51(2H,m),7.79−7.83(2H,m),7.89−7.92(2H,m)
m.p.110℃
【0022】
【化4】
【0023】
化合物5(319mg)のエタノール/テトラヒドロフラン(=4/3)混合溶液(7mL)に10%パラジウム炭素(32mg)を加え、水素雰囲気下室温で1時間激しく撹拌した。この混合物をセライトろ過し、減圧下濃縮し、無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2'−オキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのsyn体[化合物7]を得た(268mg、quant.)。この化合物は精製することなく次の反応に用いた。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.03(3H,s),−0.01(3H,s),0.73(9H,s),2.59(1H,ddd,J=4.4,12.0,14.4Hz),3.12(1H,ddd,J=6.4,14.4,18.8Hz),3.26(1H,m),3.58(1H,ddd,J=5.0,5.5,12.8Hz),4.37(1H,dddd,J=2.8,4.4,6.4,12.8Hz),6.21(1H,brs),7.73−7.78(2H,m),7.84−7.88(2H,m)
m.p.164℃
【0024】
化合物7(245mg)の1,2−ジクロロエタン(12mL)溶液にH2O(8mL)、過ヨウ素酸ナトリウム(2.59g)、リン酸水素二ナトリウム(1.72g)、二酸化ルテニウム水和物(20mg)を加え、激しく撹拌しながら6時間30分間加熱還流した(溶液の色が黄色くなった)。この混合物に少量のイソプロパノールを加え(反応溶液に黒色沈殿が生じた)、これを冷却して、不溶物をセライトろ過で除去し、ろ液をクロロホルム(20mL×3)で抽出した。合わせた有機層層を飽和食塩水(10mL)、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(5mL)の混合物で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/2→2/1)にて精製し、無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのsyn体[化合物9](152mg、62%)を得ると同時に、未反応の出発物質7を回収した(38mg、17%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.06(3H,s),0.00(3H,s),0.61(9H,s),2.56(1H,ddd,J=4.1,7.8,14.7Hz),3.64(1H,ddd,J=4.6,8.7,14.7Hz),4.54(1H,dd,4.1,8.7Hz),7.77−7.80(2H,m),7.87−7.90(2H,m),8.05(1H,brs)
m.p.199−202℃
【0025】
化合物6(161mg)のエタノール/テトラヒドロフラン(=4/3)混合溶液(3.5mL)に10%パラジウム炭素(16mg)を加え、水素雰囲気下室温で1時間激しく撹拌した。この混合物をセライトろ過し、減圧下濃縮し、無色固体2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2'−オキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのanti体[化合物8]を得た(105mg、88%)。この化合物は精製することなく次の反応に用いた。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.03(3H,s),0.06(3H,s),0.86(9H,s),2.51(1H,ddd,J=8.4,11.5,14.0Hz),3.30(1H,ddd,J=3.3,5.6,12.4Hz),3.36(1H,ddd,J=4.8,11.0,14.0Hz),3.53(1H,ddd,J=2.7,4.4,12.4Hz),4.17(1H,dddd,J=4.4,4.8,5.6,8.4Hz),6.06(1H,brs),7.77−7.80(2H,m),7.88−7.91(2H,m)
m.p.198−200℃
【0026】
化合物8(105mg)の1,2−ジクロロエタン(5.4mL)溶液にH2O(4mL)、過ヨウ素酸ナトリウム(1.14g)、リン酸水素二ナトリウム(760mg)、二酸化ルテニウム水和物(18mg)を加え、激しく撹拌しながら4時間加熱還流した(溶液の色が黄色くなる)。この混合物に少量のイソプロパノールを加え(反応溶液に黒色沈殿が生ずる)、これを冷却した。不溶物をセライトろ過で除去し、ろ液をクロロホルム(15mL×3)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水(10mL)、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(5mL)の混合物で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エーテル=5/2)にて精製し、無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのanti体[化合物10]を得た(55.5mg、51%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.08(3H,s),0.13(3H,s),0.89(9H,s),2.56(1H,ddd,J=5.5,12.4,13.7Hz),3.88(1H,ddd,J=3.5,5.2,13.7Hz),4.25(1H,ddd,J=1.5,5.2,12.4Hz),7.83−7.89(2H,m),7.93−7.96(2H,m),8.24(1H,brs)
m.p.212−215℃
【0027】
【化5】
【0028】
化合物9の光学分割
化合物9のラセミ混合物をHPLC(ダイセル化学工業 CHIRALPAK IA 1×25cm、ヘキサン/イソプロパノール(=1/1)、0.75mL/min)により分割した後、ヘキサンおよびジクロロメタンより再結晶し、光学的に純粋な形態の2−[(3'S,5'S)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体1]および2−[(3'R,5'R)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体2]を得た。
異性体1(保持時間66min)
[α]D−152.7°(c=0.1867,T=29.1,CHCl3)
m.p.201−204℃
異性体2(保持時間92min)
[α]D+154.4°(c=0.2000,T=29.1,CHCl3)
m.p.202−205℃
【0029】
化合物10の光学分割
化合物10のラセミ混合物をHPLC(ダイセル化学工業 CHIRALPAK IA 1×25cm、ヘキサン/イソプロパノール(=1/1)、0.75mL/min)により分割した後、ヘキサンおよびジクロロメタンより再結晶し、光学的に純粋な形態の2−[(3'R,5'S)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体1]および2−[(3'S,5'R)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体2]を得た。
異性体1(保持時間51min)
[α]D+109.8°(c=0.2000,T=28.7,CHCl3)
m.p.192−195℃
異性体2(保持時間66min)
[α]D−110.3°(c=0.2000,T=28.9,CHCl3)
m.p.192−194℃
得られた化合物9および10の各立体異性体に以下の一般操作を適用し、対応する3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドへと導いた。
【0030】
一般操作
化合物9または10のアセトニトリル(1mL)溶液に、0℃で46%フッ化水素酸水溶液(20滴、約0.15mL)を滴下し、室温で一昼夜(約20時間)撹拌した後、この反応混合物を酢酸エチル(3mL)で希釈し、飽和食塩水(2mL)で洗浄した。水層を酢酸エチル(3mL×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1mL)および飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥後に減圧下濃縮した。必要に応じ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した後、エタノール、ヘキサンからの再結晶により精製し、化合物9または10からそれぞれ化合物11または12の光学的に純粋な化合物を得た。
【0031】
[2−(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'S,5'S)−11][(化合物9の立体異性体に相当する10.2mgから)4.4mg、60%]
無色固体
[α]D−242.9°(c=0.1000,T=28.9,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.70(1H,ddd,J=4.1,7.8,14.2Hz),3.28(1H,ddd,J=4.6,9.2,14.2Hz),4.30(1H,m)6.24(1H,d,J=5.5Hz),7.90−7.97(4H,m),11.65(1H,brs)
m.p.250℃(decomp.),
[2−(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'R,5'R)−11][(化合物9の立体異性体に相当する10.8mgから)5.4mg、70%]
無色固体
[α]D+240.9°(c=0.1067,T=28.8,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.70(1H,ddd,J=4.1,7.8,14.2Hz),3.28(1H,ddd,J=4.6,9.2,14.2Hz),4.30(1H,m),6.24(1H,d,J=5.5Hz),7.90−7.97(4H,m),11.65(1H,brs)
m.p.248℃(decomp.)
[2−(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'R,5'S)−12][(化合物10の立体異性体に相当する6.8mgから)4.4mg、90%]
無色固体
[α]D+204.0°(c=0.1000,T=28.9,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.49(1H、m),3.51(1H,ddd,J=2.3,4.6,12.4Hz),4.49(1H,ddd,J=4.6,6.0,11.4Hz),5.94(1H,d,J=6.0Hz),7.88−7.97(4H,m),11.64(1H,s)
m.p.204℃(decomp.)
[2−(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'S,5'R)−12][(化合物10の立体異性体に相当する8.1mgから)4.2mg、72%]
無色固体
[α]D−195.9°(c=0.1000,T=29.2,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.49(1H、m),3.51(1H,ddd,J=2.3,4.6,12.4Hz),4.49(1H,ddd,J=4.6,6.0,11.4Hz),5.94(1H,d,J=6.0Hz)7.88−7.97(4H,m),11.64(1H,s)
m.p.203℃(decomp.)
【実施例2】
【0032】
3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドの絶対配置の決定
【0033】
【化6】
【0034】
HPLCの第1溶出成分である化合物9(8.5mg)のDMF(0.5mL)溶液に、0℃で4−ブロモベンジルブロミド(6.3mg)、炭酸カリウム(3.2mg)を加え、窒素雰囲気下室温で5時間撹拌した。反応混合物に1N硫酸水素カリウム水溶液を加え、この混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、無色油状物の2−[(3'S,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−(イソプロピルジメチルシラニルオキシ)−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物13]を得た(10.2mg、85%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.09(3H,s),−0.02(3H,s),0.59(9H,s),2.48(1H,ddd,J=4.1,7.3,15.1Hz),3.63(1H,ddd,J=3.2,6.9,15.1Hz),4.53(1H,dd,J=4.1,7.3Hz),5.03(2H,s),7.36(2H,d,J=8.7Hz),7.45(2H,d,J=8.7Hz),7.77−7.79(2H,m),7.84−7.88(2H,m)
【0035】
化合物13(10.2mg)のアセトニトリル(0.5mL)溶液に0℃で46%フッ化水素酸水溶液(0.1mL)を加え、室温に昇温し3時間撹拌した。この混合物に46%フッ化水素酸水溶液(0.1mL)をさらに加え、室温で6時間撹拌後、酢酸エチル(3mL)で希釈し、飽和食塩水(2mL)で洗浄した。水層を酢酸エチル(3mL×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1mL)および飽和食塩水(2mL)で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し無色固体の2−[(3'S,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物14]を得た(7.3mg、89%)。化合物14をエーテル、ヘキサンから再結晶し、X線結晶解析測定可能な結晶を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)2.92(1H,ddd,J=6.0,9.6,14.5Hz),3.13(1H,d,J=2.3Hz),3.25(1H,ddd,J=8.4,14.5,24.8Hz),4.59(1H,m),4.97(1H,d,J=14.0Hz),5.05(1H,d,J=14.0Hz),7.30−7.33(2H,m),7.46−7.47(2H,m),7.78−7.81(2H,m),7.87−7.90(2H,m)
m.p.159−161℃
【0036】
HPLCの第一溶出成分である化合物10(9.2mg)のDMF(0.5mL)溶液に、0℃で4−ブロモベンジルブロミド(7.4mg)および炭酸カリウム(3.4mg)を加え、窒素雰囲気下室温で4時間撹拌した。反応混合物に1N硫酸水素カリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、無色油状物の2−[(3'R,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−(イソプロピルジメチルシラニルオキシ)−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物15]を得た(13.2mg、quant.)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.06(3H,s),0.11(3H,s),0.86(9H,s),2.48(1H,ddd,J=6.0,11.9,13.3Hz),3.78(1H,ddd,J=4.1,5.0,13.3Hz),4.24(1H,ddd,J=1.4,5.0,11.9Hz),4.93(1H,d,J=14.0Hz),5.04(1H,d,J=14.0Hz),7.37−7.39(2H,m),7.44−7.47(2H,m),7.82−7.87(2H,m),7.90−7.93(2H,m)
【0037】
化合物15(10.2mg)のアセトニトリル(0.5mL)溶液に0℃で46%フッ化水素酸水溶液(0.2mL)を加え、室温で2時間撹拌した。この混合物を酢酸エチル(3mL)で希釈し、飽和食塩水(2mL)で洗浄した。水層を酢酸エチル(3mL×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し無色固体の2−[(3'R,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物16]を得た(10.5mg、quant.)。化合物16をクロロホルム、エタノールから再結晶し、X線結晶解析測定可能な結晶を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)2.42(1H,ddd,J=6.4,12.8,13.3Hz),3.32(1H,s),3.85(1H,ddd,J=1.4,5.0,13.3Hz),4.23(1H,ddd,J=1.4,5.0,12.8Hz),4.98(1H,d,J=13.7Hz),5.08(1H,d,J=13.7Hz),7.36−7.41(2H,m),7.45−7.51(2H,m),7.80−7.86(2H,m),7.88−7.93(2H,m)
m.p.206℃(decomp.)
【0038】
化合物14のX線結晶解析に基づき、(−)−11および(+)−11の絶対配置は、(3'S,5'S)−(−)−11および(3'R,5'R)−(+)−11であることが明確に決定された。
化合物16のX線結晶解析に基づき、(−)−12および(+)−12の絶対配置は(3'S,5'R)−(−)−12および(3'R,5'S)−(+)−12であるとことが明確に決定された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドの4種の立体異性体全てが光学的に純粋な形態として得られる。サリドマイドの類似体として、3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体はハンセン病性結節性紅斑、痒疹、リウマチ、クローン病、移植片対宿主病、ベーチェット病、アフタ性潰瘍、多発性骨髄腫、TNF−α関連疾患などの治療に、サリドマイドの副作用である催奇形性を生じない新しい治療薬として有望である。更に、各異性体に基づく厳密な評価を可能とするため、サリドマイドの生物活性発現機構の研究に用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド、その誘導体並びにそれらの光学活性体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サリドマイドは催眠鎮静薬として1957年に最初にドイツで発売されたが、胎児に対する催奇形性が判明したので、1961年にその販売が中止された。日本でも1958年に発売され、1962年に販売中止となったが、その後ハンセン病の結節性紅斑に有効なことが判明し、以来種々の痒疹、リウマチ、クローン病、移植片対宿主病、ベーチェット病、骨髄腫、アフタ性潰瘍等難治性疾患に対する有効性が次々に報告されている。米国食品医薬品局(FDA)はサリドマイドをハンセン病の結節性紅斑の治療薬として認可し、2006年5月にはデキサメタゾンとの併用による多発性骨髄腫に対する投薬を承認するに至っている。サリドマイドは不斉中心を一つ持ち、ラセミ体として販売されているが、その催奇形性はS体に由来するものであり、純粋なR体を用いることで催奇形性を回避できる可能性が示されている(非特許文献1)。しかしながら、R体のサリドマイドは生理的条件化で容易にラセミ化もしくはエピマー化を起こして、S体のサリドマイドを生成してしまうために(非特許文献2)、薬害を回避できるかどうかはさらに詳細な研究を待つところである(非特許文献3)。また、生理的条件下でのエピマー化を回避する目的でサリドマイドの3位水素をフッ素原子で置き換えた誘導体が提案されている(特許文献1)。
【0003】
サリドマイドの持つ多種多様な生物活性発現のメカニズムは明らかではないが、その活性本体はサリドマイド自体である場合と、その代謝物である可能性が示唆されている(非特許文献4)。また、サリドマイドの代謝経路として加水分解と肝臓によるヒドロキシ化が提唱されており(非特許文献4,5)、特にヒドロキシ化された代謝物としては5'−ヒドロキシサリドマイドが報告されている(非特許文献6)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−159761
【非特許文献1】Arzneim.‐Forsch. / Drug Res.,29巻10号1640−1642頁(1979年)
【非特許文献2】Biochem. Biophys. Res. Commun.,199巻2号455−460頁(1994年)
【非特許文献3】Lancet.,339巻8789号365頁(1992年)
【非特許文献4】Current Drug Metabolism,7巻6号677−685頁(2006年)
【非特許文献5】Biochem. Pharm.,55巻11号1827−1834頁(1998年)
【非特許文献6】Anal. Chem.,74巻15号3726−3735頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
5'−ヒドロキシサリドマイドにおいても生体内でエピマー化することが否定できず、光学異性体間の厳密な生物活性差を議論することは出来ない。これを解決するためには、類似構造でかつエピマー化し得ない5'−ヒドロキシサリドマイドに対応する誘導体の開発が不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、5'−ヒドロキシサリドマイドのエピマー化を防ぐためフッ素原子を導入し、4種の立体異性体の混合物である3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドを合成し、この混合物を分割して、優れた生物活性を有する光学的に純粋な立体異性体を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本明細書において、特に断らない限り、各用語は、次の意味を有する。ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を;アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシル基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐12アルキル基を;低級アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシル基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキル基を;低級アルケニル基とは、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルなどのC2‐6アルケニル基を;低級アルキニル基とは、エチニル、2−プロピニル、2−ブチニルなどのC2‐6アルキニル基を;シクロアルキル基とは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル基を;アルコキシ基とは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシおよびオクチルオキシ基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐12アルキルオキシ基を;低級アルコキシ基とは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシおよびヘキシルオキシ基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキルオキシ基を;低級アルキルチオ基とは、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオおよびヘキシルチオ基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキル−S−基を;低級アルコキシカルボニル基とは、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニルおよびヘキシルオキシカルボニル基などの直鎖状または分岐鎖状のC1‐6アルキル−O−CO−基を;アリール基とは、フェニル、ナフチル、インダニルおよびインデニル基を;アルアルキル基とは、ベンジル、ジフェニルメチル、トリチルおよびフェネチル基などのアルC1‐6アルキル基を;アシル基とは、ホルミル基、アルキルカルボニル基およびアロイル基を;アルキルカルボニル基とは、アセチルおよびプロピオニルなどのC2‐6アルキルカルボニル基を;アロイル基とは、ベンゾイルおよびナフチルカルボニル基などのアリールカルボニル基を;アシルオキシ基とは、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、フェニルアセチルオキシ、2−アミノ−3−メチルブタノイルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、ベンゾイルオキシおよび3−ピリジルカルボニルオキシなどのアシルオキシ基を;シリル基とは、tert−ブチルジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、tert−ブチルジフェニルシリルを;アルキルスルホン酸エステルとは、トリフルオロメタンスルホニル、メタンスルホニルなどC1‐6アルキルスルホニルを;アリールスルホン酸エステルとは、ベンゼンスルホニル、4−トルエンスルホニルを意味する。
【0008】
R1で表される置換基は、通常のヒドロキシ基の保護基として使用し得るすべての基を含むヒドロキシ保護基が挙げられ、例えば、ベンジルオキシカルボニル、4−ニトロベンジルオキシカルボニル、4−ブロモベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、1,1−ジメチルプロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、ジフェニルメトキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル、2,2,2−トリブロモエトキシカルボニル、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニル、2−(フェニルスルホニル)エトキシカルボニル、2−(トリフェニルホスホニオ)エトキシカルボニル、2−フルフリルオキシカルボニル、1−アダマンチルオキシカルボニル、ビニルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、S−ベンジルチオカルボニル、4−エトキシ−1−ナフチルオキシカルボニル、8−キノリルオキシカルボニル、アセチル、ホルミル、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチル、メトキシアセチル、フェノキシアセチル、ピバロイルおよびベンゾイルなどのアシル基;メチル、tert−ブチル、2,2,2−トリクロロエチルおよび2−トリメチルシリルエチルなどの低級アルキル基;アリルなどの低級アルケニル基;ベンジル、p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、ジフェニルメチルおよびトリチルなどのアル低級アルキル基;テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニルおよびテトラヒドロチオピラニルなどの含酸素および含硫黄複素環式基;メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル、1−エトキシエチルおよび1−メチル−1−メトキシエチルなどの低級アルコキシ−および低級アルキルチオ−低級アルキル基;メタンスルホニルおよびp−トルエンスルホニルなどの低級アルキル−およびアリールスルホニル基;並びにトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、ジエチルイソプロピルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル、ジフェニルメチルシリルおよびtert−ブチルメトキシフェニルシリルなどの置換シリル基などが挙げられる。
【0009】
R2で表される置換基は、通常のアミノ保護基として使用し得るすべての基を含むアミノ基の保護基が挙げられ、たとえば、トリクロロエトキシカルボニル、トリブロモエトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、p−ニトロベンジルオキシカルボニル、o−ブロモベンジルオキシカルボニル、(モノ−、ジ−、トリ−)クロロアセチル、トリフルオロアセチル、フェニルアセチル、ホルミル、アセチル、ベンゾイル、tert−アミルオキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、4−(フェニルアゾ)ベンジルオキシカルボニル、2−フルフリルオキシカルボニル、ジフェニルメトキシカルボニル、1,1−ジメチルプロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、フタロイル、スクシニル、アラニル、ロイシル、1−アダマンチルオキシカルボニルおよび8−キノリルオキシカルボニルなどのアシル基;ベンジル、ジフェニルメチルおよびトリチルなどのアル低級アルキル基;2−ニトロフェニルチオおよび2,4−ジニトロフェニルチオなどのアリールチオ基;メタンスルホニルおよびp−トルエンスルホニルなどのアルキル−もしくはアリールスルホニル基;N,N−ジメチルアミノメチレンなどのジ−低級アルキルアミノ−低級アルキリデン基;ベンジリデン、2−ヒドロキシベンジリデン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンジリデンおよび2−ヒドロキシ−1−ナフチルメチレンなどのアル−低級アルキリデン基;3−ヒドロキシ−4−ピリジルメチレンなどの含窒素複素環式アルキリデン基;シクロヘキシリデン、2−エトキシカルボニルシクロヘキシリデン、2−エトキシカルボニルシクロペンチリデン、2−アセチルシクロヘキシリデンおよび3,3−ジメチル−5−オキシシクロヘキシリデンなどのシクロアルキリデン基;ジフェニルホスホリルおよびジベンジルホスホリルなどのジアリールもしくはジアル−低級アルキルホスホリル基;5−メチル−2−オキソ−2H−1,3−ジオキソール−4−イル−メチルなどの含酸素複素環式アルキル基;並びにトリメチルシリルなどの置換シリル基などが挙げられる。
【0010】
本発明は、以下の一般式[A]
【化1】
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、アリールもしくはアシル基を;R2は、水素原子または置換されていてもよいヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシもしくはアルキル基を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、低級アルキルチオ基、低級アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、シアノ基、低級アルケニル基もしくは低級アルキニル基から選ばれる1〜4の原子または基を;Xは、CH2またはC=Oを、それぞれ意味する。]で表される3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体および光学的に純粋な形態の(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体および(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体を提供するものである。
光学活性体は通常75〜100%、好ましくは85〜100%、最も好ましくは95〜100%の範囲の純粋な光学異性体を含む。
【0011】
一般式[A]において、R1が水素原子または置換されていてもよいシリル基;R2が水素原子または置換されていてもよいアシル基;R3が水素原子である3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体およびその光学活性体が好ましく、さらにR2およびR3が水素原子、XがC=Oである3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体およびその光学活性体が好ましい。また、R1がヒドロキシ保護基、R2がアミノ保護基であってもよい。
【0012】
一般式[A]の化合物は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
以下の一般式[B]
【化2】
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、アリールもしくはアシル基を;R2は、水素原子または置換されていてもよいヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシもしくはアルキル基を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、低級アルキルチオ基、低級アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、シアノ基、低級アルケニル基もしくは低級アルキニル基から選ばれる1〜4の原子または基を、それぞれ意味する。]で表される3−フタルイミドピペリジン−2−オン誘導体を塩基および求電子的フッ素化試薬で処理した後、必要に応じて、R2がアミノ基の保護基である化合物をアミノ基の脱保護に付すか、さらに、酸化剤での処理またはR1がシリル基である化合物からシリル基を除去することにより製造することができる。
【0013】
この合成法で使用される求電子的フッ素化試薬として、N−フルオロベンゼンスルホンイミド類、分子状フッ素、梅本試薬に代表されるフルオロピリジニウム塩が挙げられるが、より好ましくは窒素あるいはアルゴン希釈フッ化過クロリルガスが挙げられる。
この合成法でフッ素化反応に用いられる溶媒は特に限定されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどエーテル系溶媒がより好ましい。塩基としては、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、水素化ナトリウム、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどが使用できる。
【0014】
この製造法で使用される酸化剤としては、例えば、共酸化剤と共に用いられる四酸化ルテニウムおよび二酸化ルテニウム、三塩化ルテニウムおよびその水和物などのルテニウム化合物が好ましい。また、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、マンガンアセチルアセトナートなどのマンガン塩、m−クロロ過安息香酸などを用いることもできる。共酸化剤としては、過ヨウ素酸ナトリウムなどの過ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸、過塩素酸ナトリウムなどの過塩素酸塩、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩、次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、フェリシアン化カリウム、四酢酸鉛、過酸化水素やtert−ブチルヒドロペルオキシドなどの過酸化物、過酢酸、m−クロロ過安息香酸、ヨードシルベンゼンなどの高原子価ヨウ素化合物、アミン−N−オキシド、酸素などを用いることができるが、より好ましくは、リン酸水素二ナトリウムなどリン酸塩、炭素水素ナトリウムなどの炭酸塩でpHを調整した条件で、過ヨウ素酸ナトリウムを共酸化剤として用い、二酸化ルテニウムで反応を行うことができる。この合成法で使用されるアミノ基の脱保護およびシリル基の除去は、通常知られた方法により行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
3'−ヒドロキシサリドマイドの合成
【化3】
【0017】
(5−ヒドロキシ−2−オキソピペリジン−3−イル)カルバミン酸tert−ブチルエステル[化合物1](727mg,cis:trans=3:1のジアステレオマー混合物)のジメチルホルムアミド(10.5mL)溶液に、tert−ブチルジメチルクロロシラン(714mg)、イミダゾール(645mg)を加え、室温で14時間撹拌し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/1)で精製することにより、無色固体の[5−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−2−オキソピペリジン−3−イル]カルバミン酸tert−ブチルエステル[化合物2]をジアステレオマーの混合物(cis:trans=3:1)として得た(1.034g、95%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)(major isomer)0.08(3H,s),0.11(3H,s),0.90(9H,s),1.45(9H,s),1.90(1H,ddd,J=1.7,12.4,12.8Hz),2.44(1H,m),3.24(1H,dddd,J=1.7,3.2,3.2,12.4Hz),3.48(1H,ddd,J=1.8,3.7,12.4Hz),4.22(1H,m),4.34(1H,m),5.29(1H,brs),6.01(1H,brs)
m.p.122−124℃
【0018】
化合物2(145mg)のジクロロメタン(4mL)溶液にトリフルオロ酢酸(0.25mL)を0℃で滴下し、室温まで徐々に温度を上げ、この混合物を8時間撹拌した後、減圧下濃縮し、残留したトリフルオロ酢酸をトルエンとの共沸混合物として完全に除去した。残渣をトルエン(3mL)に溶解した後トリエチルアミン(176mg)、無水フタル酸(93mg)、モレキュラーシーブス3A(150mg)を溶液に加え、混合物を6時間加熱還流し、室温まで冷却した。不溶物をセライトろ過し、ジクロロメタンで洗浄した。複合物のろ液を減圧下濃縮し、残渣はシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/1)で精製し無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−2'−オキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物3]をジアステレオマー混合物(5:1)として得た(147mg、93%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)(major isomer)0.12(3H,s),0.15(3H,s),2.12(1H,dddd,J=2.4,4.0,6.0,13.2Hz),2.59(1H,ddd,J=2.0,12.4,13.2Hz),3.34(1H,ddd,J=2.4,5.6,12.4Hz),3.69(1H,dd,2.8,12.4Hz),4.35(1H,m),5.24(1H,dd,J=6.0,12.4Hz),5.69(1H,brs),7.69−7.74(2H,m),7.83−7.87(2H,m)
m.p.215−232℃
【0019】
化合物3(750mg)をテトラヒドロフラン(20mL)とジメチルホルムアミド(0.5mL)の溶液に溶解し、−78℃で窒素雰囲気下にて1.5Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液(2.0mL)を滴下した。この混合物を−70℃まで昇温して20分間撹拌し、クロロギ酸ベンジル(343μL)を滴下し、−70℃で2時間撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした後、クロロホルム(100mL×2)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘキサン/酢酸エチル=5/4/1)で精製し無色固体の5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソインドール−2−イル)−2'−オキソピペリジン−1'−カルボン酸ベンジルエステル[化合物4]をジアステレオマーの混合物(5:1)として得た(955mg、94%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)(major isomer)0.10(1H,s),0.13(3H,s),0.91(9H,s),2.14(1H,dddd,J=2.0,4.0,6.4,12.8Hz),2.71(1H,ddd,J=2.4,12.8,12.8Hz),3.87(1H,dd,J=2.4,13.6Hz),3.98(1H,ddd,J=2.0,3.2,13.6Hz),4.38(1H,m),5.29(2H,s),5.36(1H,dd,J=6.4,12.8Hz),7.27−7.41(5H,m),7.71−7.75(2H,m),7.83−7.88(2H,m)
m.p.135−137℃
【0020】
化合物4(513mg)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に−78℃窒素雰囲気下で1.6Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液(0.694mL)を滴下し、−30℃で1時間撹拌後、フッ化過クロリルガス(80℃で過塩素酸カリウム(1.5g)のフルオロスルホン酸溶液(4.4mL)を撹拌して発生させ、窒素で希釈したもの)を−30℃から−10℃の間にて反応系中に2.5時間導入した。この混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチし、酢酸エチル(40mL×3)で抽出した。合わせた有機層は飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)にて精製し、無色固体の5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロイソインドール−2−イル)−3'−フルオロ−2'−オキソピペリジン−1'−カルボン酸ベンジルエステルの低極性異性体[化合物5](282mg、53%)および高極性異性体[化合物6](121mg、23%)をそれぞれ得た。低極性異性体[化合物5]は、3'位のフッ素と5'位の水素の位置関係がsynで、高極性異性体[化合物6]は3'位のフッ素と5'位の水素の位置関係がantiである。
【0021】
化合物5
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.06(3H,s),0.00(3H,s),0.68(9H,s),2.46(1H,ddd,J=6.6,8.1,14.7Hz),3.26(1H,dd,J=6.6,13.7Hz),3.57(1H,ddd,J=2.5,10.3,14.7Hz),4.38(1H,m),4.44(1H,dd,J=7.3,13.7Hz),5.37(1H,d,J=12.8Hz),5.40(1H,d,J=12.8Hz),7.31−7.40(3H,m),7.50−7.51(2H,m),7.77−7.81(2H,m),7.87−7.90(2H,m)
m.p.135−137℃
化合物6
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.04(3H,s),0.07(3H,s),0.84(9H,s),2.35(1H,ddd,J=6.4,10.5,14.7Hz),3.54(1H,dd,J=3.2,14.0Hz),3.89(1H,ddd,J=7.3,8.2,14.7Hz),4.18(1H,m),4.21(1H,dd,J=3.2,14.0Hz),5.39(2H,s),7.30−7.39(3H,m),7.49−7.51(2H,m),7.79−7.83(2H,m),7.89−7.92(2H,m)
m.p.110℃
【0022】
【化4】
【0023】
化合物5(319mg)のエタノール/テトラヒドロフラン(=4/3)混合溶液(7mL)に10%パラジウム炭素(32mg)を加え、水素雰囲気下室温で1時間激しく撹拌した。この混合物をセライトろ過し、減圧下濃縮し、無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2'−オキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのsyn体[化合物7]を得た(268mg、quant.)。この化合物は精製することなく次の反応に用いた。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.03(3H,s),−0.01(3H,s),0.73(9H,s),2.59(1H,ddd,J=4.4,12.0,14.4Hz),3.12(1H,ddd,J=6.4,14.4,18.8Hz),3.26(1H,m),3.58(1H,ddd,J=5.0,5.5,12.8Hz),4.37(1H,dddd,J=2.8,4.4,6.4,12.8Hz),6.21(1H,brs),7.73−7.78(2H,m),7.84−7.88(2H,m)
m.p.164℃
【0024】
化合物7(245mg)の1,2−ジクロロエタン(12mL)溶液にH2O(8mL)、過ヨウ素酸ナトリウム(2.59g)、リン酸水素二ナトリウム(1.72g)、二酸化ルテニウム水和物(20mg)を加え、激しく撹拌しながら6時間30分間加熱還流した(溶液の色が黄色くなった)。この混合物に少量のイソプロパノールを加え(反応溶液に黒色沈殿が生じた)、これを冷却して、不溶物をセライトろ過で除去し、ろ液をクロロホルム(20mL×3)で抽出した。合わせた有機層層を飽和食塩水(10mL)、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(5mL)の混合物で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/2→2/1)にて精製し、無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのsyn体[化合物9](152mg、62%)を得ると同時に、未反応の出発物質7を回収した(38mg、17%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.06(3H,s),0.00(3H,s),0.61(9H,s),2.56(1H,ddd,J=4.1,7.8,14.7Hz),3.64(1H,ddd,J=4.6,8.7,14.7Hz),4.54(1H,dd,4.1,8.7Hz),7.77−7.80(2H,m),7.87−7.90(2H,m),8.05(1H,brs)
m.p.199−202℃
【0025】
化合物6(161mg)のエタノール/テトラヒドロフラン(=4/3)混合溶液(3.5mL)に10%パラジウム炭素(16mg)を加え、水素雰囲気下室温で1時間激しく撹拌した。この混合物をセライトろ過し、減圧下濃縮し、無色固体2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2'−オキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのanti体[化合物8]を得た(105mg、88%)。この化合物は精製することなく次の反応に用いた。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.03(3H,s),0.06(3H,s),0.86(9H,s),2.51(1H,ddd,J=8.4,11.5,14.0Hz),3.30(1H,ddd,J=3.3,5.6,12.4Hz),3.36(1H,ddd,J=4.8,11.0,14.0Hz),3.53(1H,ddd,J=2.7,4.4,12.4Hz),4.17(1H,dddd,J=4.4,4.8,5.6,8.4Hz),6.06(1H,brs),7.77−7.80(2H,m),7.88−7.91(2H,m)
m.p.198−200℃
【0026】
化合物8(105mg)の1,2−ジクロロエタン(5.4mL)溶液にH2O(4mL)、過ヨウ素酸ナトリウム(1.14g)、リン酸水素二ナトリウム(760mg)、二酸化ルテニウム水和物(18mg)を加え、激しく撹拌しながら4時間加熱還流した(溶液の色が黄色くなる)。この混合物に少量のイソプロパノールを加え(反応溶液に黒色沈殿が生ずる)、これを冷却した。不溶物をセライトろ過で除去し、ろ液をクロロホルム(15mL×3)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水(10mL)、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(5mL)の混合物で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エーテル=5/2)にて精製し、無色固体の2−[5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオンのanti体[化合物10]を得た(55.5mg、51%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.08(3H,s),0.13(3H,s),0.89(9H,s),2.56(1H,ddd,J=5.5,12.4,13.7Hz),3.88(1H,ddd,J=3.5,5.2,13.7Hz),4.25(1H,ddd,J=1.5,5.2,12.4Hz),7.83−7.89(2H,m),7.93−7.96(2H,m),8.24(1H,brs)
m.p.212−215℃
【0027】
【化5】
【0028】
化合物9の光学分割
化合物9のラセミ混合物をHPLC(ダイセル化学工業 CHIRALPAK IA 1×25cm、ヘキサン/イソプロパノール(=1/1)、0.75mL/min)により分割した後、ヘキサンおよびジクロロメタンより再結晶し、光学的に純粋な形態の2−[(3'S,5'S)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体1]および2−[(3'R,5'R)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体2]を得た。
異性体1(保持時間66min)
[α]D−152.7°(c=0.1867,T=29.1,CHCl3)
m.p.201−204℃
異性体2(保持時間92min)
[α]D+154.4°(c=0.2000,T=29.1,CHCl3)
m.p.202−205℃
【0029】
化合物10の光学分割
化合物10のラセミ混合物をHPLC(ダイセル化学工業 CHIRALPAK IA 1×25cm、ヘキサン/イソプロパノール(=1/1)、0.75mL/min)により分割した後、ヘキサンおよびジクロロメタンより再結晶し、光学的に純粋な形態の2−[(3'R,5'S)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体1]および2−[(3'S,5'R)−5'−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)−3'−フルオロ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[異性体2]を得た。
異性体1(保持時間51min)
[α]D+109.8°(c=0.2000,T=28.7,CHCl3)
m.p.192−195℃
異性体2(保持時間66min)
[α]D−110.3°(c=0.2000,T=28.9,CHCl3)
m.p.192−194℃
得られた化合物9および10の各立体異性体に以下の一般操作を適用し、対応する3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドへと導いた。
【0030】
一般操作
化合物9または10のアセトニトリル(1mL)溶液に、0℃で46%フッ化水素酸水溶液(20滴、約0.15mL)を滴下し、室温で一昼夜(約20時間)撹拌した後、この反応混合物を酢酸エチル(3mL)で希釈し、飽和食塩水(2mL)で洗浄した。水層を酢酸エチル(3mL×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1mL)および飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥後に減圧下濃縮した。必要に応じ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した後、エタノール、ヘキサンからの再結晶により精製し、化合物9または10からそれぞれ化合物11または12の光学的に純粋な化合物を得た。
【0031】
[2−(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'S,5'S)−11][(化合物9の立体異性体に相当する10.2mgから)4.4mg、60%]
無色固体
[α]D−242.9°(c=0.1000,T=28.9,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.70(1H,ddd,J=4.1,7.8,14.2Hz),3.28(1H,ddd,J=4.6,9.2,14.2Hz),4.30(1H,m)6.24(1H,d,J=5.5Hz),7.90−7.97(4H,m),11.65(1H,brs)
m.p.250℃(decomp.),
[2−(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'R,5'R)−11][(化合物9の立体異性体に相当する10.8mgから)5.4mg、70%]
無色固体
[α]D+240.9°(c=0.1067,T=28.8,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.70(1H,ddd,J=4.1,7.8,14.2Hz),3.28(1H,ddd,J=4.6,9.2,14.2Hz),4.30(1H,m),6.24(1H,d,J=5.5Hz),7.90−7.97(4H,m),11.65(1H,brs)
m.p.248℃(decomp.)
[2−(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'R,5'S)−12][(化合物10の立体異性体に相当する6.8mgから)4.4mg、90%]
無色固体
[α]D+204.0°(c=0.1000,T=28.9,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.49(1H、m),3.51(1H,ddd,J=2.3,4.6,12.4Hz),4.49(1H,ddd,J=4.6,6.0,11.4Hz),5.94(1H,d,J=6.0Hz),7.88−7.97(4H,m),11.64(1H,s)
m.p.204℃(decomp.)
[2−(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[(3'S,5'R)−12][(化合物10の立体異性体に相当する8.1mgから)4.2mg、72%]
無色固体
[α]D−195.9°(c=0.1000,T=29.2,DMF)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)2.49(1H、m),3.51(1H,ddd,J=2.3,4.6,12.4Hz),4.49(1H,ddd,J=4.6,6.0,11.4Hz),5.94(1H,d,J=6.0Hz)7.88−7.97(4H,m),11.64(1H,s)
m.p.203℃(decomp.)
【実施例2】
【0032】
3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドの絶対配置の決定
【0033】
【化6】
【0034】
HPLCの第1溶出成分である化合物9(8.5mg)のDMF(0.5mL)溶液に、0℃で4−ブロモベンジルブロミド(6.3mg)、炭酸カリウム(3.2mg)を加え、窒素雰囲気下室温で5時間撹拌した。反応混合物に1N硫酸水素カリウム水溶液を加え、この混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、無色油状物の2−[(3'S,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−(イソプロピルジメチルシラニルオキシ)−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物13]を得た(10.2mg、85%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)−0.09(3H,s),−0.02(3H,s),0.59(9H,s),2.48(1H,ddd,J=4.1,7.3,15.1Hz),3.63(1H,ddd,J=3.2,6.9,15.1Hz),4.53(1H,dd,J=4.1,7.3Hz),5.03(2H,s),7.36(2H,d,J=8.7Hz),7.45(2H,d,J=8.7Hz),7.77−7.79(2H,m),7.84−7.88(2H,m)
【0035】
化合物13(10.2mg)のアセトニトリル(0.5mL)溶液に0℃で46%フッ化水素酸水溶液(0.1mL)を加え、室温に昇温し3時間撹拌した。この混合物に46%フッ化水素酸水溶液(0.1mL)をさらに加え、室温で6時間撹拌後、酢酸エチル(3mL)で希釈し、飽和食塩水(2mL)で洗浄した。水層を酢酸エチル(3mL×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1mL)および飽和食塩水(2mL)で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し無色固体の2−[(3'S,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物14]を得た(7.3mg、89%)。化合物14をエーテル、ヘキサンから再結晶し、X線結晶解析測定可能な結晶を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)2.92(1H,ddd,J=6.0,9.6,14.5Hz),3.13(1H,d,J=2.3Hz),3.25(1H,ddd,J=8.4,14.5,24.8Hz),4.59(1H,m),4.97(1H,d,J=14.0Hz),5.05(1H,d,J=14.0Hz),7.30−7.33(2H,m),7.46−7.47(2H,m),7.78−7.81(2H,m),7.87−7.90(2H,m)
m.p.159−161℃
【0036】
HPLCの第一溶出成分である化合物10(9.2mg)のDMF(0.5mL)溶液に、0℃で4−ブロモベンジルブロミド(7.4mg)および炭酸カリウム(3.4mg)を加え、窒素雰囲気下室温で4時間撹拌した。反応混合物に1N硫酸水素カリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、無色油状物の2−[(3'R,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−(イソプロピルジメチルシラニルオキシ)−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物15]を得た(13.2mg、quant.)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.06(3H,s),0.11(3H,s),0.86(9H,s),2.48(1H,ddd,J=6.0,11.9,13.3Hz),3.78(1H,ddd,J=4.1,5.0,13.3Hz),4.24(1H,ddd,J=1.4,5.0,11.9Hz),4.93(1H,d,J=14.0Hz),5.04(1H,d,J=14.0Hz),7.37−7.39(2H,m),7.44−7.47(2H,m),7.82−7.87(2H,m),7.90−7.93(2H,m)
【0037】
化合物15(10.2mg)のアセトニトリル(0.5mL)溶液に0℃で46%フッ化水素酸水溶液(0.2mL)を加え、室温で2時間撹拌した。この混合物を酢酸エチル(3mL)で希釈し、飽和食塩水(2mL)で洗浄した。水層を酢酸エチル(3mL×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し無色固体の2−[(3'R,5'S)−1'−(4''−ブロモベンジル)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシ−2',6'−ジオキソピペリジン−3'−イル]イソインドール−1,3−ジオン[化合物16]を得た(10.5mg、quant.)。化合物16をクロロホルム、エタノールから再結晶し、X線結晶解析測定可能な結晶を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)2.42(1H,ddd,J=6.4,12.8,13.3Hz),3.32(1H,s),3.85(1H,ddd,J=1.4,5.0,13.3Hz),4.23(1H,ddd,J=1.4,5.0,12.8Hz),4.98(1H,d,J=13.7Hz),5.08(1H,d,J=13.7Hz),7.36−7.41(2H,m),7.45−7.51(2H,m),7.80−7.86(2H,m),7.88−7.93(2H,m)
m.p.206℃(decomp.)
【0038】
化合物14のX線結晶解析に基づき、(−)−11および(+)−11の絶対配置は、(3'S,5'S)−(−)−11および(3'R,5'R)−(+)−11であることが明確に決定された。
化合物16のX線結晶解析に基づき、(−)−12および(+)−12の絶対配置は(3'S,5'R)−(−)−12および(3'R,5'S)−(+)−12であるとことが明確に決定された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイドの4種の立体異性体全てが光学的に純粋な形態として得られる。サリドマイドの類似体として、3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体はハンセン病性結節性紅斑、痒疹、リウマチ、クローン病、移植片対宿主病、ベーチェット病、アフタ性潰瘍、多発性骨髄腫、TNF−α関連疾患などの治療に、サリドマイドの副作用である催奇形性を生じない新しい治療薬として有望である。更に、各異性体に基づく厳密な評価を可能とするため、サリドマイドの生物活性発現機構の研究に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、シクロアルキル、アルアルキル、アリールもしくはアシル基を;R2は、水素原子または置換されていてもよいヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシもしくはアルキル基を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、低級アルキルチオ基、低級アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、シアノ基、低級アルケニル基もしくは低級アルキニル基から選ばれる1〜4の原子または基を;Xは、CH2またはC=Oを、それぞれ意味する。]で表される3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項2】
R1が、水素原子または置換されていてもよいシリル基;R2が、水素原子または置換されていてもよいアシル基;R3が、水素原子である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項3】
R1が水素原子;R2が水素原子;R3が水素原子である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項4】
光学活性な(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体または光学活性な(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項5】
R1が水素原子;R2が水素原子;R3が水素原子であって、光学活性な(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体または光学活性な(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項1】
一般式
【化1】
[式中、R1は、水素原子または置換されていてもよいシリル、アルキル、シクロアルキル、アルアルキル、アリールもしくはアシル基を;R2は、水素原子または置換されていてもよいヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシもしくはアルキル基を;R3は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、低級アルキルチオ基、低級アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、シアノ基、低級アルケニル基もしくは低級アルキニル基から選ばれる1〜4の原子または基を;Xは、CH2またはC=Oを、それぞれ意味する。]で表される3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項2】
R1が、水素原子または置換されていてもよいシリル基;R2が、水素原子または置換されていてもよいアシル基;R3が、水素原子である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項3】
R1が水素原子;R2が水素原子;R3が水素原子である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項4】
光学活性な(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体または光学活性な(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【請求項5】
R1が水素原子;R2が水素原子;R3が水素原子であって、光学活性な(3'S,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'R,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体、光学活性な(3'S,5'S)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体または光学活性な(3'R,5'R)−3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体である請求項1記載の3'−フルオロ−5'−ヒドロキシサリドマイド誘導体。
【公開番号】特開2009−173636(P2009−173636A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321710(P2008−321710)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月1日 PROUS SCIENCE発行の「Drugs of the Future 第32巻、Supplement A、2007年」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月3日 INSTUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY PRAGUE発行の「15TH EUROPEAN SYMPOSIUM ON FLUORINE CHEMISTRY BOOK OF ABSTRACTS 2007年」に発表
【出願人】(501228129)株式会社フジモト・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月1日 PROUS SCIENCE発行の「Drugs of the Future 第32巻、Supplement A、2007年」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月3日 INSTUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY PRAGUE発行の「15TH EUROPEAN SYMPOSIUM ON FLUORINE CHEMISTRY BOOK OF ABSTRACTS 2007年」に発表
【出願人】(501228129)株式会社フジモト・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】
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