説明

3−ピロリジン−2−イル−プロピオン酸誘導体を製造するための新規な方法

本発明は、式(I)の化合物の製造法に関する。当該式(I)の化合物は、癌の治療に有用なドラスタチン10類縁体の製造における中間体として有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ピロリジン−2−イル−プロピオン酸の誘導体を製造するための新たな方法に関する。本発明によれば、同一の出発物質を用いた二つの異なる反応シークエンスA)及びB)により、当該誘導体を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る方法により得られる化合物は、ドラスタチン10類縁体の製造において、有用な中間体となる。ドラスタチン10は、海洋性軟体動物であるタツナミガイ(Dolabella auricularia)から単離された、強力な有糸分裂阻害ペプチドとして知られているものであって、チューブリン重合を阻害し、タキサンやビンカとは異なる化学分類に属する(Curr. Pharm. Des. 1999, 5: 139-162)。ドラスタチン10の前臨床試験では、細胞培養及び動物モデルにおいて、マウスやヒトの様々な腫瘍に対する活性が立証されている。Drugs of the future 1999, 24(4): 404-409には、ドラスタチン10と、2つの合成ドラスタチン誘導体、セマドチン(Cemadotin)及びTZT-1027が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
その後、ドラプロイン(dolaproine)部に様々なチオ基を有する特定のドラスタチン10誘導体が、ヒト癌異種移植モデルにおいて、極めて優れた抗腫瘍活性及び治療指数を示すことが見出されてきた(WO03/008378)。しかしながら、WO03/008378に開示されている合成法では、低い収率しか得られない。これは主に、β−付加反応(下記スキーム1参照)で得られるジアステレオ異性体混合物を、クロマトグラフィーで分離するという煩雑な作業のためである。従って、より優れた新たな方法の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はこの課題を解決するべく、一般式(I)の化合物を製造するための、より優れた新たな方法を提供するものである。この化合物は、上述のドラスタチン10誘導体の合成において、重要な断片となるものである。より正確に言えば、本発明の方法によって、意外にも、より優れたジアステレオ異性体比率及びより優れた収率で式(I)の化合物を得ることができ、これが引き続き当該ドラスタチン10誘導体の合成においても維持されることが、今回明らかになった。更に、本発明に係る方法によれば、ジアステレオ異性体混合物のクロマトグラフィーによる分離という煩雑な作業を回避することができる。
【0005】
具体的に、本発明は、式(I)の化合物
【化1】

の製造法であって、
A)式(II)の化合物
【化2】

を、式(III)の化合物
【化3】

と、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、好適な溶媒中で反応させ、ここで当該式(III)の化合物は、それ自体を使用してもよく、又は、式(III−A)の化合物
【化4】

を、カリウム塩基の存在下で反応させることにより、インサイツで生成させてもよく;
−COOR2エステル基のR2を開裂させ、次いで、得られたカルボン酸に式NHR45のアミンを加え、式(IV)のアンモニウム塩
【化5】

を生じさせ、得られた式(IV)の塩を分解することにより、式(I)の化合物を得るか;
或いは、
B)式(V)の化合物
【化6】

を、上記のカリウム塩基とともに、式(III)又は(III−A)の化合物と反応させ;
得られた反応生成物に塩酸を加え、式(VI)の化合物
【化7】

を形成し、次いで、tert−ブトキシカルボニル導入試薬と反応させ、N−原子を再保護することにより、式(I)の化合物を得るものであって;
1、R3、及びR6は、互いに独立に、アルキルを表わし;
2は、ベンジル又は置換ベンジルであり;
4及びR5は、シクロアルキル又はアルキルから独立に選択され、当該アルキルは、無置換でもよく、或いは、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アセトキシ、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキルカルバモイルオキシ、ハロゲン、シクロアルキル、又はフェニルで、1、2、又は3置換されていてもよい、方法に関する。
【0006】
一般式(IV)及び(VI)の化合物は新規であり、本発明の更なる実施形態である。
【0007】
ここで使用される「アルキル」という語は、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基であって、最大8、好ましくは最大5の炭素原子を有するもの、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、2−メチルプロピル(iso−ブチル)、1−メチルエチル(iso−プロピル)、n−ブチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル又はtert−ブチル)、又はt−ペンチルを意味し、より好ましくは最大4つの炭素原子を有するものを意味する。これらのアルキル基は、無置換でもよく、1又は2以上の置換基、好ましくは1から3の置換基、より好ましくは1の置換基で置換されていてもよい。この置換基は、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アセトキシ、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキルカルバモイルオキシ、ハロゲン、シクロアルキル、又はフェニルからなる群より選択される。
【0008】
「アルコキシ」という語は、−O−アルキルを意味する。ここで「アルキル」とは、上述した定義を表わす。
【0009】
「アセトキシ」という語は、基−O−C(O)−CH3を指す。
【0010】
ここで使用される「シクロアルキル」という語は、飽和の単環又は二環式の炭化水素基であって、3から10、好ましくは3から7、より好ましくは5又は6の炭素原子を有するものを意味する。このようなシクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、デカヒドロ−ナフタレンが挙げられる。
【0011】
「カルバモイル」という語は、基−CO−NH2を指し、「カルバモイルオキシ」という語は、基−O−C(O)−NHを指す。
【0012】
「アルキルカルバモイルオキシ」という語は、上記定義のアルキル基が、親構造に対してカルバモイルオキシラジカルを介して結合したもの、例えばアルキル−NH−C(O)−O−を指す。
【0013】
「アルキルカルボニルオキシ」という語は、上記定義のアルキル基が、親構造に対してカルボニルオキシラジカルを介して結合したもの、例えばアルキル−C(O)−O−を指す。
【0014】
「ハロゲン」という語は、フッ素、臭素、ヨウ素、及び塩素を指す。
【0015】
ここで使用される「置換されたベンジル」という語は、メチル、メトキシ、フェニル、ニトロ、ハロゲン、又はメチレン-ジオキシから独立に選択される1、2、又は3の置換基によって、フェニル環が置換されたベンジル基を意味する。とりわけ好ましいのは、以下に挙げる置換パターンである。即ち、2,4,6−トリメチル、3−メトキシ、4−メトキシ、2,4−ジメトキシ、3,4−ジメトキシ、3,5−ジメトキシ、2−ニトロ、4−ニトロ、2,4−ジニトロ、4−ブロモ、4−フェニル、及び、3,4−メチレン−ジオキシ。
【0016】
ここで使用される「カリウム塩基」という語は、塩基性のカリウム化合物を意味する。これらの化合物は当業者には周知である。このようなカリウム塩基としては、例えば、カリウムアミド、−アルコキシド、水酸化カリウムが挙げられる。本発明において特に好ましいのは、カリウムエトキシドの使用である。
【0017】
ここで使用される「tert−ブトキシカルボニル導入試薬」という語は、以下に説明するN−Boc基を導入するための試薬を意味する。このような「tert−ブトキシカルボニル導入試薬」は当業者には周知であり、例えば、「Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd. Edition; Eds. T. W. Greene, P.G.M-Wuts, John Wiley & Sons, Inc., New York (1999); p.518」に記載されている。本発明に係る「tert−ブトキシカルボニル導入試薬」として好ましいのは、ジ−tert−ブチルジカーボネートである。
【0018】
ここで使用される「好適な溶媒」という語は、異なる反応シークエンスA)及びB)、並びに各シークエンス内の異なる反応ステップに応じて、更に下のスキーム1に従い変更を加える必要がある。具体的に言えば、以下に挙げる溶媒は、各シークエンスの種々の反応ステップにおいて「好適な」ものである。
【0019】
シークエンスA)
β−付加は、好ましくは、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル中、−20℃から対応する溶媒の還流温度までの温度、最も好ましくは0℃から室温までの温度で行なう。
【0020】
エステル開裂は、エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル等のエステル;トルエン等の炭化水素;又は上記溶媒の混合物等の中での水素化分解により行なうことが好ましい。この反応が要する温度は、0℃から対応する溶媒の還流温度までの温度、好ましくは0℃から室温までの温度であるが、室温が最も好ましい。
【0021】
アンモニウム塩の形成は、式(I)、NHR45及び(IV)の化合物に対して好適な溶解性を示す溶媒中で行なわれることが好ましい。この点に関して、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル-テトラヒドロフラン, ジメチルエーテル, ジエチルエーテル等のエーテル;ヘキサン、シクロヘキセン、ヘプタン等のアルカン;又はトルエン、キシレン等の芳香族溶媒;又は上述の各溶媒の混合物がとりわけ好ましい。温度は−20℃から50℃までの間で変更し得るが、結晶化が好ましく生じるのは室温から−20℃までの間の温度である;最も好ましいのは、0℃から−20℃までの間の温度である。
【0022】
単離された塩の最終的な分解は、塩基性又は酸性条件下で行なうことができる。塩基性条件を使用する場合には、アルカリ−水酸化物、−炭酸水素塩、−炭酸塩等の無機塩基が特に好ましい。酸性条件を使用する場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸が特に好ましい。当該分解は、水と混和しない任意の不活性有機溶媒中、好ましくはtert−ブチルメチルエーテル、トルエン、又は酢酸エチル中、0℃から室温までの間の温度、最も好ましくは室温で行なわれる。
【0023】
シークエンスB)
β−付加用の溶媒は、シークエンスA)について上に定義した通りである。
【0024】
塩酸との反応は、式(VI)の化合物が結晶化するような溶媒、好ましくはエステル、エーテル、又はジクロロメタン等のハロアルカン中、より好ましくは酢酸エチル等のエステル中;50℃から−20℃までの温度、好ましくは室温から−20℃までの温度で行なう。この結晶化は、0℃から−20℃までの温度で行なうことが好ましい。
【0025】
続くN−ボシル化(N-bocylaction)は、上述したtert−ブトキシカルボニル導入試薬を用いて行なうことができる。N−Boc基を導入する方法としては、無機塩基、例えばアルカリ金属−水酸化物、−炭酸水素塩、−炭酸塩等;第3級アミン塩基、例えばトリエチルアミン等のトリアルキルアミン、等の塩基の存在下で、試薬としてジ−tert−ブチルジカーボネートを用いる方法が好ましい。本反応に好適な溶媒としては、極性溶媒、特に水;アルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ジクロロメタン等のハロアルカン;アセトニトリル等が挙げられる。温度は0℃から50℃までの間で選択されるが、中でも室温が特に好ましい。
【0026】
本発明の一実施形態は、式(I)の化合物を製造する方法であって、
式(II−A)の化合物
【化8】

を、上記のカリウム塩基とともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中、式(III)又は(III−A)の化合物と反応させ;
当該反応の生成物をベンジル−エステル開裂し、次いで、得られたカルボン酸に式NHR45のアミンを加え、更に塩基を加えた後、鉱酸を加えることにより、式(I)の化合物を得るとともに;
1、R4、及びR5が、上述した定義を表わすものである。
【0027】
本発明の別の実施形態によれば、上述した方法において、式NHR45のアミンが、ジシクロヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、(R)−α−フェニルエチルアミン、ベンジル−(R)−α−フェニルエチルアミン、及び(R)−α−シクロヘキシルエチルアミンから選択される。
【0028】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、
式(2)の化合物
【化9】

を、カリウムエトキシドとともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中、S−メチルチオアセテートと反応させ;
当該反応の生成物をベンジル−エステル開裂し、次いでジシクロヘキシルアミンを加え、更に炭酸ナトリウムを加えた後、硫酸を加えることにより、式(1a)の化合物
【化10】

を得る。
【0029】
本発明の更に別の実施形態は、式(I)の化合物を製造する方法であって、
式(V−A)の化合物
【化11】

を、上記のカリウム塩基とともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中、式(III)又は(III−A)の化合物と反応させ、
上記反応の生成物を、更に酢酸エチル中で乾燥塩酸と反応させ、次いで、炭酸ナトリウムを加えた後、ジ−tert−ブチルジカーボネートと反応させることにより、式(I)の化合物を得るものであり;
1が、上述した定義を表わすものである。
【0030】
本発明の更に別の実施形態は、上述した方法において、
式(4)の化合物
【化12】

を、カリウムエトキシドとともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中、S−メチルチオアセテートと反応させ、
上記反応の生成物を、更に酢酸エチル中で乾燥塩酸と反応させ、次いで、炭酸ナトリウムを加えた後、ジ−tert−ブチルジカーボネートと反応させることにより、式(1a)の化合物
【化13】

を得るものである。
【0031】
本発明の更に別の実施形態は、上述した方法において、
式(I)の化合物を更に反応させて、式(A)の化合物
【化14】

を得る方法であって、
a)式(I)の化合物を、アルコール又はアミンと反応させ、次いで、tert−ブトキシカルボニル基をピロリジンN−原子において開裂させることにより、式(B)の化合物
【化15】

を生成させ;
b)式(B)の化合物を、更に、式(C)の化合物
【化16】

と反応させることにより、式(A)の化合物を得るとともに;
1及びR3は、上述した定義を表わし;
8及びR9は、互いに独立に、アルキルを表わし;
7は、フェニルアルキル−、又はフェニルジアルキルアミノ、又はフェニルアルキロキシであり、ここで前記フェニル基は、ハロゲン、アルコキシカルボニル、スルファモイル、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、シアノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アルキル、アルコキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキルチオ、ヒドロキシ、アルキルカルボニルアミノ、1,3−ジオキソリル、1,4−ジオキソリル、アミノ、及びベンジルからなる群より選択される、1、2、又は3の置換基によって置換されていてもよいものである。
【0032】
また、所望であれば、WO03/008378の記載に従って、或いは当業者に周知のその他の方法を用いて、式(A)の化合物を、医薬的に許容し得るその塩に変換してもよい。
【0033】
本発明の更に別の実施形態は、上述した方法において、式(A−1)の化合物
【化17】

を製造するものであって、
a)式(1a)の化合物
【化18】

を3−(2−メチルアミノ−エチル)−フェノールと反応させ、次いで、tert−ブトキシカルボニル基をピロリジンN−原子において開裂し、式(B−1)の化合物
【化19】

を生成させ;
b)式(B−1)の化合物を、更に、式(C−1)の化合物
【化20】

と反応させ、式(A−1)の化合物を得るものである。
【0034】
本発明の更に別の実施形態は、上述した式(A)の化合物の製造における、本発明に係る方法の使用である。
【0035】
本発明の更に別の実施形態は、上述した式(A−1)の化合物の製造における、本発明に係る方法の使用である。
【0036】
本発明の別の実施形態によれば、式(IV)の化合物
【化21】

であって、
1及びR3は、互いに独立に、アルキルを表わし;
4及びR5は独立に、シクロアルキル又はアルキルを表わし、ここでアルキルは、無置換でもよく、或いは、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アセトキシ、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキルカルバモイルオキシ、ハロゲン、シクロアルキル、又はフェニルにより、1、2、又は3置換されていてもよい、化合物が提供される。
【0037】
本発明の更に別の実施形態によれば、上記定義の化合物において、
1及びR3が、メチルであり;
+NH245が、ジシクロヘキシルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、(R)−α−フェニルエチルアンモニウム、ベンジル−(R)−α−フェニルエチルアンモニウム、又は(R)−α−シクロヘキシルエチルアンモニウムから選択される、カチオンを表わす。
【0038】
本発明の更に別の実施形態によれば、式(VI)の化合物
【化22】

であって、
1及びR3が互いにアルキルを表わす、化合物が提供される。
【0039】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述の化合物において、
1及びR3がメチルである。
【0040】
本発明の更に別の実施形態は、化合物
(S)−2−((2R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(1a)
である。
【0041】
従って、本発明の更なる実施形態は、上述した式(IV)、(VI)、又は(1a)の化合物の、上述した方法における使用である。
【0042】
本発明の更に別の実施形態は、上述した式(IV)、(VI)、又は(1a)の化合物の、上述した式(A)の化合物の製造法における使用である。
【0043】
本発明の更に別の実施形態は、式(IV)においてR1及びR3がメチルである化合物、又は上述した式(1a)の化合物の、上述した式(A−1)の化合物の製造における使用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の方法は、以下の一般反応スキーム(スキーム1)に従って行なうことができる。ここで、特に明記してあるものを除き、R1、R3、R4及びR5は、上述と同様の意味を表わす。R10は、ベンジル、置換ベンジル、又はアルキル、好ましくはベンジル又はtert−ブチルを表わす。
【0045】
【化23】

【0046】
ステップ1:このステップは、市販のtert−ブトキシカルボニル保護L−プロリナール(Boc-L-prolinal:Boc−L−プロリナール)及びイリド(VII)を出発物質とし、当業者に知られた方法を用いたウィッティヒ(Wittig)反応を表わしている(例えば、Heterocycles, 36 (9), 1993, 2073-2080及びWO03/008378参照)。R1がメチルであり、R10がベンジルである当該イリドは、「Y. Ito, M. Okano, R.Oda, Tetrahedron, 23, 1967, 2137」に記載された合成法によって得ることができる。
【0047】
1がメチルであり、R10がtert−ブチルである当該イリドは、「Y. Guindon, L. Murtagh, V. Caron, S.R. Landry, G. Jung, M. Bencheqroun, A.-M. Faucher, B. Guerin, J. Org. Chem., 66, 2001, 5427」又は「P.L. Stotter, K.A. Hill, Tetrahedron Lett., 16, 1975, 1679」に記載された合成法によって得ることができる。
【0048】
ステップ2:この反応は、アルキル−メルカプタン、特にメチルメルカプタンのβ−付加である。ここで、式(III)のカリウム塩は、それ自体を使用してもよいが、カリウム塩基、特にカリウムエトキシドの存在下、式(III−A)の化合物を加えることにより、インサイツで生成させてもよい。本発明では、この付加反応におけるジアステレオ選択性の向上を達成するために、他に試験した一般的なプロトン源と比較の上、トリエチルアンモニウムクロリド(Et3N×HCl)をプロトン源として使用している(表1参照)。
【0049】
【表1】

【0050】
a)比率はGC分析により決定した。
【0051】
b)S−メチルチオアセテートの代わりにメチルメルカプタン(6当量)を使用(III−A、スキーム1);追加のプロトン源は使用せず。
【0052】
c)S−メチルチオアセテートの代わりにメチルメルカプタン(3当量)を使用(III−A、スキーム1);追加のプロトン源としてEt3N×HCl(1.0当量)を使用。
【0053】
ステップ3:反応シークエンスA)に関しては、粗製エステル(スキーム1のVIIIa、b、c、及びdの混合物であって、R10がベンジル又は置換ベンジル)を、好ましくはエタノール中20%Pd−C(30%w/w)の存在下、水素化分解する。本発明によれば、tert−ブチルメチルエーテル中、上述したアミン、特にジシクロヘキシルアミンを用いて更に処理することにより、対応するアンモニウム塩を、優れたジアステレオ異性体純度及び高い収率で得ることができる。
【0054】
反応シークエンスB)に関しては、粗製エステル(スキーム1のVIIIa、b、c、及びdの混合物であって、R10がアルキル、好ましくはtert−ブチル)を、酢酸エチル中、室温において、乾燥塩酸を用いて処理すればよい。所望のジアステレオ異性体の塩酸塩を反応混合物から直接沈殿させ、高いジアステレオ異性体純度及び収率で得ることができる。
【0055】
ステップ4:最終的に、式(I)の化合物は、標準的な方法によって、ステップ3a)で得られた塩を分解し、又はステップ3b)で得られた塩をN−ボシル化(N-bocylation)することにより、得ることができる。これらの分解及びボシル化の方法は、当業者には周知である。
【0056】
反応シークエンスA)のステップ3で得られる式(IV)の塩を分解するには、無機塩基、例えば、これらに制限されるものではないが、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素塩、又は炭酸塩、好ましくは炭酸ナトリウムを共存させ;次いで、有機溶媒で抽出することにより、アミン塩基を除去し;続いて鉱酸、好ましくは硫酸を、残存する水相に加え、式(I)の化合物を有機溶媒に抽出すればよい。或いは、式(IV)の化合物を含有する上記反応混合物に当該鉱酸を直接加え、次いで式(I)の化合物を有機溶媒中に抽出することによっても、当該分解を達成することができる。
【0057】
反応シークエンスB)のステップ3で得られる式(VI)の塩を更にN−ボシル化するには、当業者に周知の方法を用いればよい。好ましくは、無機塩基、例えば、これらに制限されるものではないが、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素塩、又は炭酸塩、好ましくは炭酸ナトリウムを共存させ、次いで、更にジ−tert−ブチルジカーボネートと反応させるか;或いは、ジクロロメタン中、及びトリエチルアミン等のアミン塩基の存在下、ジ−tert−ブチルジカーボネートと反応させればよい。
【0058】
上述した各手順の後、有機溶媒、好ましくはヘキサン又はヘプタンを用いて結晶化させることにより、最終的に式(I)の化合物を取得及び/又は精製することができる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提供するものである。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、変更を加えることができるものと介される。
【0060】
特に明記しない限り、以下の略語を用いる。
min 分(minute(s))
h 時間(hour(s))
rt 室温(room temperature)
NMR 核磁気共鳴法(nuclearmagnetic resonance)
GC ガスクロマトグラフィー(gas chromatography)
TLC 薄層クロマトグラフィー(thin layer chromatography)
HPLC 高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography)
dr ジアステレオ異性体比率(distereosiomer ratio)
er 鏡像異性体比率(enantiomer ratio)
ee 鏡像異性体過剰量(enantiomeric excess)
mp 融点(melting point)
【0061】
反応シークエンスA)
実施例1
(S)−2−(2−ベンジルオキシカルボニル−プロペニル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(2)の合成(予備合成ウィッティヒイリドを用いた合成)
【0062】
【化24】

【0063】
a)ウィッティヒイリド(ベンジル2−(トリフェニルホスホランイリデン)プロピオネート)は、「Y. Ito, M. Okano, R. Oda, Tetrahedron, 23, 1967, 2137」に記載の合成法に従って得ることができる。
【0064】
b)135.7gのベンジル2−(トリフェニルホスホランイリデン)プロピオネート(320mmol)を440mlのtet−ブチルメチルエーテル中に含む溶液に、rtで、45.5gのBoc−L−プロリナール(228.4mmol)を62mlのtert−ブチルメチルエーテル中に含む溶液を加えた。この黄色溶液を還流しながら1.5h加熱したところ、トリフェニルホスフィンオキシドの白色沈殿が形成された。この懸濁液を、ディーン・スターク・トラップを用いて蒸留することにより、230mlのtert−ブチルメチルエーテル溶媒を除去した。次いで、還流温度において、360mlのヘプタンを一滴ずつ加えることにより、トリフェニルホスフィンオキシドの沈殿形成を更に促進させた。懸濁液をrtに冷却し、rtで一晩攪拌し、続いて0〜5℃に冷却し、この温度で30min攪拌した。この懸濁液を、予備冷却した(0〜5℃)G3ガラスフィルター漏斗を用いて濾過し、濾過ケーキを少量ずつ、250mlの予備冷却した(0〜5℃)ヘプタンで洗浄した。黄色濾液を洗浄液と併せ、蒸発濃縮する(40℃/10mbar)ことにより、86.8gの黄色油状物を粗製物として得た。GC:4.67%Z−2、91.55%E−2、3.78%トリフェニルホスフィンオキシド;E/Z=95.15:4.85。得られた物質のうち86.6gを、434gのシリカゲルにより、約3lのヘキサン/酢酸エチル(2:1)を溶出液として用いて濾過し、その後に蒸発濃縮及び真空下で乾燥することにより、81.38g(103%w/w)の表題化合物(2)を薄黄色油状物として得た。得られた物質をGC分析したところ、4.59%のZ−2、90.58%のE−2、及び1.12%のトリフェニルホスフィンオキシドが含有されていた。E/Z=95.2:4.8であった。得られた物質をキラルHPLC分析したところ、4.19%のZ−2、0.31%のent−E−2、及び95.50%のE−2が含有されていた。er=99.7:0.3、E/Z=95.7:4.3であった。
【0065】
1H-NMR: (400 MHz, CDCl3): 7.4-7.3 (m, 5 arom. H); 6.65 (br. d, J = 7, vinyl. H of (E)-2); 5.9-5.8 (br., vinyl. H of (Z)-2); 5.3-5.1 (br. m, PhCH2O); 4.7-4.4 (br. m, 1H); 3.6-3.35 (br. m, 2H); 2.13 (m, 1H); 2.0-1.3 [m, in total 15H, with 1.43 (br. s, tBu)].
【0066】
実施例2
(S)−2−(2−ベンジルオキシカルボニル−プロペニル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(2)の合成;(インサイツでのウィッティヒイリド形成を用いた合成)
【0067】
【化25】

【0068】
378gの(1−ベンジルオキシカルボニル−エチル)−トリフェニルホスホニウムブロミド(82.9%、619.9mmol)を1.45lのジクロロメタン中に含む溶液を共沸により蒸留し、その間、1.20lのジクロロメタンを加えて容量を一定に保った。この溶液に対し、内温10〜12.5℃で、71.0gのカリウムtert−ブトキシド(98%、620mmol)を640mlのテトラヒドロフラン中に含む溶液をゆっくりと加えた。黄色がかった濁溶液をrtにした後、rtで75min攪拌した。次いで、127.4gのBoc−L−プロリナール(97%、620.3mmol)を640mlテトラヒドロフラン中に含む溶液を加え、反応温度を25℃に上昇させた。得られた黄色溶液を還流下で18h加熱したところ、トリフェニルホスフィンオキシドの白色沈殿が形成された。テトラヒドロフラン/ジクロロメタン混合溶媒を3.6lのヘプタンに交換した。次いで、得られた懸濁液を0℃に冷却し、0℃で1h攪拌し、トリフェニルホスフィンオキシドを濾過し、(0℃に予備冷却した)1lのヘプタンで洗浄した。黄色濾液と洗浄液とを併せ、2×2.5l、計5lの水で洗浄し、蒸発濃縮する(40℃/100mbar)ことにより、233.9gの表題化合物(2)の粗製物を黄色油状物として得た。得られた物質をHPLC分析したところ、89.6%のE−2及び5.4%のZ−2が含有されていた。E/Z=94.3:5.7であった。得られた物質をキラルHPLC分析したところ、5.5%のZ−2、0.0%のent−E−2、及び94.50%のE−2が含有されていた。er=100:0、E/Z=94.5:5.5であった。
【0069】
実施例3
(S)−2−((1R,2S)−2−ベンジルオキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(3a)と、(S)−2−((1R,2R)−2−ベンジルオキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(3b)、並びに、立体配置が一部未決定の、更に2種の(S)−2−(2−ベンジルオキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルのジアステレオ異性体(3c及び3d)との混合物の合成
【0070】
【化26】

【0071】
S−メチルチオアセテート(64.09g、703mmol)をアルゴン下、攪拌して700mlのテトラヒドロフランに溶解させた。この透明な無色溶液に、カリウムエトキシド(59.16g、703mmol)を固体のまま、ガラス漏斗を用いて加え、漏斗を100mlのテトラヒドロフランで濯いだ。この黄−橙色の懸濁液を41℃に昇温した後、30min内にrtに戻した。懸濁液をrtで2.75h攪拌した。計3.25h反応させた後、48.39gの塩酸トリエチルアミン(351.5mmol)を一度に加え、次いで、80.97gの(S)−2−(2−ベンジルオキシカルボニル−プロペニル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(2、実施例1より)を344mlのテトラヒドロフラン中に含む溶液を滴下により加えた。この黄−橙色懸濁液をrtで5h攪拌した。処理を行なうため、344mlの酢酸エチル及び690mlの5M塩化アンモニウム溶液を、rtで反応混合物に加えた。この二相系をrtで2min攪拌した後、分液漏斗に移した。相を分離し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過及び蒸発濃縮する(40℃/10mbar)ことにより、収率93.91gの粗製物を、黄色油状物として得た。続いて、この粗製物93.0gを、465gシリカゲルにより、2lのヘプタン/酢酸エチルの1:1混合物を用いた濾過に供した。蒸発濃縮し、真空下で乾燥することにより、91.8gの表題化合物(3)を、透明な黄色油状物として得た。得られた物質をGC分析したところ、1.2%の(E)−2、84.1%の3a、1.4%の3c、1.5%の3d、及び8.7%の3bが含有されていた。drは、3a/3b/3c/3d=87.8:9.1:1.5:1.6であった。
【0072】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): 7.45-7.25 (m, 5 arom. H); 5.3-5.05 (br. m, PhCH2O); 4.2-3.8 (br. m, 1H); 3.75-3.15 (br. m, 3H); 2.6 (br. m, 1H); 2.07 (s, SCH3); 1.9 (m, 3H); 1.7 (m, 1H); 1.46 and 1.43 (2s, tBu of 2 rotamers); 1.34 (d, J = 6.5, CH3).
【0073】
実施例4:
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(1a)の合成
【0074】
【化27】

【0075】
a)(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(1a)と、(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(1b)、及び、立体配置が一部未決定の、更に2種の(S)−2−(2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルのジアステレオ異性体(1c及び1d)との混合物の合成
【0076】
91.8gの(S)−2−(2−ベンジルオキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(3、ジアステレオ異性体混合物、実施例3参照、224.5mmolのBoc−L−プロリナールから誘導)を、アルゴン下、エルレンマイアーフラスコ中で、920mlのエタノールに溶解させ、46.0gのラネーニッケルで処理した。懸濁液をrtで1h攪拌した後、濾過し、濾過ケーキを360mlのエタノールでよく洗浄した。濾液と洗浄液とを併せてから、概ね同量(約640ml)となるよう2つに分割し、それぞれ個別に水素化した。水素化は、各々13.75g、計27.5gの20%Pd担持木炭を用いて、水素中、10barの圧力下、30℃で18hかけて行なった。水素取り込み量は2.74l及び2.41lであった(理論値2×2.82l)。これら二系列の黒色懸濁液を濾過し、濾過ケーキを各300ml、計600mlのエタノールで洗浄した。両系列の濾液と洗浄液とを併せ、得られた溶液を正確に同量となるよう2つに分割した。一方を蒸発濃縮し(40℃/10mbar/4h)、真空下で乾燥することにより、33.85gの薄黄色油状物を得た。他方を容量約150mlまで濃縮し、残っていた若干の木炭を濾過により除去した後、蒸発濃縮し、真空下で乾燥することにより、33.13gの薄黄色油状物を得た。粗製酸1(ジアステレオ異性体混合物)の総収量66.98g。得られた物質をGC分析したところ、84.4%の1a、1.4%の1c、8.8%の1b、及び1.65%の1dが含有されていた。drは、1a/1b/1c/1d=87.7:9.2:1.5:1.6であった。78.1%の1a及び7.1%の1bのアッセイは、内部標準を用いたHPLCにより決定された。
【0077】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): ca. 10 (br. s, COOH); 4.15-3.95 (br. m, 1H); 3.65-3.1 (br. m, 3H); 2.6 (br. m, 1H); 2.12 (s, SCH3); 2.0-1.65 (m, 4H); 1.46 and 1.43 (2 s, tBu of 2 rotamers), 1.39 (d, J = 6.5, CH3).
【0078】
b)(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルの形成;ジシクロヘキシルアミンを用いた化合物(1a×Cy2NH)
【0079】
33.5g量の粗製酸[1、a)のジアステレオ異性体混合物、112.3mmolのBoc−L−プロリナールから誘導]を、170mlのtert−ブチルメチルエーテルに溶解させた。溶液を濾過して若干の残存固体(木炭)を除去した後、23.73mlのジシクロヘキシルアミン(119mmol)で処理した。溶液を攪拌しながら0〜5℃に冷却したところ、約8℃で白色固体が沈殿し始めた。懸濁液を0〜5℃で3h攪拌した。予備冷却したガラスフィルター漏斗を用いた濾過により固体を集め、予備冷却した(0〜5℃)100mlのtert−ブチルメチルエーテルで洗浄し、乾燥させる(40℃/10mbar/4h)ことにより、38.55g(70.8%、Boc−L−プロリナール基準)の表題化合物(1a×Cy2NH)を白色粉末として得た;m.p.141〜142℃;[α]D20−20.56(c1.04、エタノール)。得られた物質の組成をGC分析から求めたところ、44.6%のCy2NH、54.1%の1a、0.33%の1c、0.69%の1b、及び0.13%の1dが含有されていた。drは、1a/1b/1c/1d=97.9:1.25:0.6:0.25であった。61%の1a(理論値62.6%)のアッセイは、内部標準を用いたHPLCにより決定された。キラルHPLC分析により、1aが鏡像異性的に純粋であることが示された(ent−1aは未検出)。
【0080】
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): 8.55 (br. s, NH2+); 4.2-4.0 (br. m, 1H); 3.75-3.2 (br. m, 3H); 2.87 (m, 1H); 2.27 (m, 1H); 2.2-1.1 [m, total 39H, with 2.12 (s, SCH3), 1.48 and 1.44, (2s, tBu of 2 rotamers)].
【0081】
c)(S)−2−(1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(1a)の単離及び結晶化
【0082】
38.5g量の1a×Cy2NH(112.1mmolのBoc−L−プロリナールから誘導)を、160mlのtert−ブチルメチルエーテル及び160mlの1M炭酸ナトリウム溶液で処理した。有機相を分離して、160mlの1M炭酸ナトリウム溶液で抽出した。水相を併せて、175mlの2M硫酸を加えてpH2に酸性化し、得られた混合物を各175ml、計525mlのtert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。抽出液を併せて、約90gの硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して蒸発濃縮する(40℃/10mbar/0.5h)ことにより、24.16gの粗製酸1aを無色粘性油状物として得た。95.2%の1a及び1.2%の1bのアッセイは、内部標準を用いたHPLCにより決定された。粗製酸1aをrtで120mlのヘキサンに溶解させ、溶液を−20℃で16h攪拌した。予備冷却した(−20℃)ガラスフィルター漏斗で白色沈殿を濾過し、60mlのヘキサン(−20℃で予備冷却)を用いて少量ずつ洗浄し、乾燥する(40℃/10mbar/2h)ことにより、19.94g(Boc−L−プロリナール基準で58.5%)の表題化合物(1a)を白色結晶として得た;m.p.は64.5〜66℃であった。得られた物質をGC分析したところ、97.9%の1a、0.53%の1c、0.98%の1b、及び0.13%の1dが含有されていた。drは、1a/1b/1c/1d=98.4:1.0:0.5:0.1であった。キラルHPLC分析により、1aが鏡像異性的に純粋であることが示された(ent−1aは未検出)。
【0083】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): 4.15-3.95 (br. m, 1H); 3.65-3.15 (br. m, 3H); 2.6 (br. m, 1H); 2.12 (s, SCH3); 1.94 (br. m, 3H); 1.75 (m, 1H); 1.47 and 1.45 (2s, tBu of 2 rotamers), 1.39 (d, J = 6.5, CH3).
【0084】
実施例5
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル;(R)−1−フェニル−エチルアミンを用いた化合物(1a×(PhEt)NH2
【0085】
実施例4b)に記載の塩の形成と同様にして、(R)−1−フェニルエチル−アンモニウム塩を得た。
【0086】
30.34g量の粗製酸1[ジアステレオ異性体混合物、drは1a/1b/1c/1d=87.7:9.2:1.5:1.6、実施例4a参照、101.7mmolのBoc−L−プロリナールから誘導]を、166.9mlのヘプタンに溶解させたところ、僅かに濁りのある、緑がかった溶液を得た。次いで、12.98g(105mmol)の(R)−(+)−1−フェニル−エチルアミンをシリンジにより一部分に注入したところ、温度が25℃から35℃まで上昇した。反応混合物をrtで一晩(16h)攪拌した。沈殿した結晶を濾過で分離し、ヘプタンで洗浄し、rtで真空下で乾燥することにより、31.43gの1aの(R)−1−フェニルエチルアンモニウム塩の粗製物を得た。この粗製物をジイソプロピルエーテルで再結晶化させたところ、27.4g(Boc−L−プロリナール基準で63%)の白色結晶を得た。m.p.は99〜100℃であった。GC分析の結果、得られた物質には97.7%の1a、0.9%の1b、並びに、0.2及び0.1%の微少ジアステレオ異性体1c及び1dが含有されていた。更に再結晶化して得られた分析用サンプルは、白色結晶であり、m.p.は103〜104℃、[α]D20−22.4(c1.04、エタノール)であった。
【0087】
1H-NMR: (300 MHz, CDCl3): 7.5-7.2 (m, NH3+ and 5 arom. H); 4.33 (q, J = 6.8, PhCH(Me)); 3.97 (br. m, IH); 3.50 (br. t, J = 8, 1H); 3.24 (m, 2H); 2.45-1.15 [m, in total 23H with 2.03 (s, SCH3), 1.58 (d, J = 6.8, PHCH-CH3), 1.34 (s, tBu), 1.20 (d, J = 6.5, CH3CH-COO-)].
【0088】
1aの単離及び結晶化は、実施例4c)における記載と同様に行なうことができる。
【0089】
実施例6
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル;ジイソプロピル−アミンを用いた化合物(1a×(iPr)2NH)
【0090】
実施例4b)又は5に記載の塩の形成と同様にして、ジイソプロピル−アンモニウム塩を得た。
【0091】
1.10g量の粗製酸1[ジアステレオ異性体混合物、内部標準を用いたHPLCにより69.9%の1a及び8.0%の1bのアッセイを決定、実施例4a参照]及び370mg(3.62mmol)のジイソプロピルアミンを、60℃で、10mlのシクロヘキサンに溶解させた。熱溶液を一晩攪拌しながらrtに冷却した。沈殿した白色結晶を濾過により集め、シクロヘキサンで洗浄し、rtで真空下乾燥することにより、700mg(68.5%)の1aのジイソプロピルアンモニウム塩を白色結晶として得た。m.p.は125〜128℃、[α]D20−26.9(c1.98、エタノール)であった。
【0092】
1H-NMR: (300 MHz, CDCl3): 8.42 (br. s, NH2+); 4.1 (br. s, 1H); 3.7-3.3 (br. m, 3H); 3.24 (septet, J = 6.5, 2CHMe2); 2.25 (m, 1H); 2.15-1.2 [m, in total 31H, with 2.11 (s, SCH3), 1.46 and 1.44 (2s, tBu of 2 rotamers), 1.26 (d, J = 6.5, 2CH(CH3)2].
【0093】
1aの単離及び結晶化は、実施例4c)における記載と同様に行なうことができる。
【0094】
実施例7
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル;(R)−1−シクロヘキシル−エチルアミンを用いた化合物(1a×(CyEt)NH2
及び
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル;ベンジル−((R)−1−フェニル−エチル)−アミンを用いた化合物(1a×(Bn)(PhEt)NH)
【0095】
実施例4b)、5、及び6に記載の塩の形成と同様にして、対応する(R)−1−シクロヘキシル−エチルアンモニウム塩又はベンジル−((R)−1−フェニル−エチル)−アンモニウム塩を得た。これらの塩は参考実施例として、以下の手順で得られた。対応するアミンを精製された酸(1a)に加え、これをアルゴン下、tert−ブチルメチルエーテルとヘプタンとの混合物(1:1)に溶解させた。rtで18h攪拌し、生成した結晶アンモニウム塩を濾過で分離し、ヘプタンで洗浄し、真空下で約4h乾燥した。
【0096】
a)対応する(R)−1−シクロヘキシル−エチルアンモニウム塩は、白色結晶として得られ、その融点は132〜133℃、[α]D20−23.2(c1.06、エタノール)である。
【0097】
1H-NMR: (300 MHz, CDCl3): 7.29 (br. s, NH3+); 4.0 (br. m, 1H); 3.55 (br. t, J = 8, 1H); 3.4-3.2 (m, 2H); 3.06 (qui, J = 6, 1H); 2.4-1.0 [m, in total 42H with 2.09 (s, SCH3), 1.43 (s, tBu), 1.35 (d, J = 7, 1CH3), 1.27 (d, J = 7, 1CH3)].
【0098】
b)対応するベンジル−((R)−1−フェニル−エチル)−アンモニウム塩は、白色結晶として得られ、その融点は71〜73℃、[α]D20−5.1(c1.09、エタノール)である。
【0099】
1H-NMR: (300 MHz, CDCl3): 7.4-7.2 (m, 10 arom. H); 6.97 (br. s, NH2+); 3.99 (q, J = 5.5, 1H); 3.90 (q, J = 7, 1H); 3.75 and 3.65 (AB, J = 13; PhCH2-); 3.65-3.15 (br m, 3H); 2.47 (m, 1H); 2.11 (s, SCH3); 2.0-1.25 [m, in total 19 H, with 1.46 (s, tBu), 1.36 (d, J = 7, 1CH3)] .
【0100】
1aの単離及び結晶化は、実施例4c)における記載と同様に行なうことができる。
【0101】
反応シークエンスB)
実施例8
(S)−2−(2−tert−ブトキシカルボニル−プロペニル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(4)の合成(予め形成したウィッティヒイリドを用いた合成)
【0102】
【化28】

【0103】
a)ウィッティヒイリド((2−トリフェニルホスホランイリデン)−プロピオン酸tert−ブチルエステル)は、「Y. Guindon, L. Murtagh, V. Caron, S.R. Landry, G. Jung, M. Bencheqroun, A.-M. Faucher, B. Guerin, J. Org. Chem., 66, 2001, 5427」、又は
「P.L Stotter, K.A. Hill, Tetrahedron Lett., 16, 1975, 1679」に記載された合成法に従って、得ることができる。
【0104】
b)56.0g(2−トリフェニルホスホランイリデン)−プロピオン酸tert−ブチルエステル(143.4mmol)を、アルゴン下、攪拌しながら、160mlのtert−ブチルメチルエーテルに懸濁させた。21.0gのBoc−L−プロリナール(105.4mmol)を50mlのtert−ブチルメチルエーテル中に含む溶液を、一滴ずつ加えた。得られた黄色がかった懸濁液を50℃で3.5h攪拌した。転換完了後、懸濁液をジクロロメタンにより、1lの丸底フラスコに移送した。溶媒を除去するため、蒸発濃縮し、最終的には真空下で乾燥した(0.1mbar/rt/15min)。残渣を400mlのヘプタンに取り、得られた黄色がかった懸濁液をrtで30min攪拌し、トリフェニルホスフィンオキシドの白色沈殿を、約20gのdicalite speed plus(珪藻土濾過助剤)を用いて、濾過により除去した。濾過残渣を3回、各50ml、計150mlのヘプタンを用いて洗浄し、濾液と洗浄液とを併せて蒸発濃縮した。残渣を乾燥し(0.1mbar/rt/2h)、34.4gの粗製物を得た。得られた物質をGC分析したところ、5.5%の(Z)−4、91.7%の(E)−4、及び1.8%のトリフェニルホスフィンが含有されていた。粗製物を約20mlのヘキサン/酢酸エチル(9:1の混合物)に溶解させ、150gのシリカゲルを用いて、約0.5barの圧力でフラッシュ濾過した。
【0105】
生成物を約2lのヘキサン/酢酸エチルの9:1の混合物を用いて溶出した。蒸発濃縮により、濾過生成物として32.4g(Boc−L−プロリナール基準で98.7%)の表題化合物(4)を、薄黄色がかった油状物として得た。得られた物質をGC分析したところ、5.6%の(Z)−4、92.8%の(E)−4、及び1.4%のトリフェニルホスフィンが含有されており;E/Z=94:6であった。得られた物質をキラルHPLC分析したところ、0.05%(R,E)−4、99.95%(S,E)−4;ee=99.9%であった。
【0106】
1H-NMR: (300 MHz, CDCl3): 6.5 (br. d, J = 7, vinyl. H of (E)-4); 5.75 and 5.95 (2 br. s, vinyl. H of 2 rotamers of (Z)-4); 4.65-4.35 (br. m, 1H); 3.6-3.35 (br. m, 2H); 2.15 (m, 1H); 2.0-1.3 (m, in total 24H, with 1.48 (s, tBu), 1.41 (br. s, tBu)].
【0107】
実施例9
(S)−2−((1R,2S)−2−tert−ブトキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(5a)と、(S)−2−((1R,2R)−2−tert−ブトキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(5b)、及び、立体配置が一部未決定の、他の二つの(S)−2−(2−tert−ブトキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルのジアステレオ異性体(5c及び5d)との混合物の合成
【0108】
【化29】

【0109】
54.6gのS−メチルチオアセテート(606mmol)を、アルゴン下、攪拌しながら、310mlのテトラヒドロフランに溶解させた。この透明な無色溶液に対して、黄色固体状のカリウムエトキシド50.4g(599mmol)を、ガラス漏斗を用いて一度に加えた。漏斗を50mlのテトラヒドロフランで濯ぎ、懸濁液をrtで更に4h攪拌した。計5h反応させた後、41.3gの塩酸トリエチルアミンを一度に加え、次いで、31.1gの(S)−2−(2−tert−ブトキシカルボニル−プロペニル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(100mmol、実施例8参照)を160mlのテトラヒドロフラン中に含む溶液を滴下により加えた。この黄色懸濁液をrtで22h攪拌した。22h後、120mlの酢酸エチルと350mlの5M塩化アンモニウム溶液を反応混合物に加えた。この二相系をrtで10min攪拌した後、分液漏斗に移送して相分離した。水相を100mlの酢酸エチルで抽出した。有機相を併せて、約40gの硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過及び蒸発濃縮することにより、37.7gの粗製物が得られた。得られた物質をGC分析したところ、1.3%の(Z)−4、3.3%の(E)−4、81.8%の5a、2.0%の5c、及び9.5%の共溶出5b及び5dが含有されていた。粗製物を20mlのヘキサン/酢酸エチル(9:1混合物)に溶解させ、100gのシリカゲルを用いて、約0.5barの圧力下でフラッシュ濾過した。生成物を約2lのヘキサン/酢酸エチル9:1混合物で溶出した。蒸発濃縮及び乾燥する(0.1mbar/rt/2h)ことにより、濾過生成物として、35.5gの表題物質5(Boc−L−プロリナール基準で99%)を、透明な黄色油状物として得た。得られた物質をGC分析したところ、1.3%の(Z)−4、2.6%の(E)−4、82.5%の5a、2.2%の5c、7.5%の5b、及び2.2%の5dが含有されていた。drは、5a/5b/5c/5d=87.4:8.0:2.3:2.3であった。
【0110】
1H-NMR: (300 MHz, CDCl3): 4.2-3.1 (br. m, 4H); 2.45 (m, 1H); 2.3-1.15 (m, in total 28H, with 2.11 (s, SCH3), 1.48 and 1.46 (2 s, tBu of 2 rotamers), 1.29 (br. d, J = 6.5, CH3)].
【0111】
実施例10
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジニウムクロリドの合成(6a×HCl)
【0112】
【化30】

【0113】
33.5g量の(S)−2−(2−tert−ブトキシカルボニル−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(5、93.3mmol、実施例9から;ジアステレオ異性体混合物、5a/5b/5c/5d=87.4:8.0:2.3:2.3)を、アルゴン下、攪拌しながら、4.44M乾燥塩酸の酢酸エチル中溶液185ml(821mmol)に溶解させた。溶液をrtで30min攪拌した後、種晶を加えて結晶化を開始した。懸濁液をrtで2h攪拌し、更に0℃で2h攪拌した。沈殿を濾過によって単離した後、洗浄を2回、各10ml、計20mlの冷酢酸エチル(0℃)を用いて行ない、真空下(0.1mbar)、rtで約18h乾燥することにより、15.5g(5基準で69%)の表題化合物(1a×HCl)を、白色結晶として得た。m.p.は169〜170℃であった。
【0114】
1H-NMR (300 MHz, d6-DMSO): 12.5 (br. s, COOH); 9.9 and 8.9 (2br. s, NH2+); 3.57 (q, J = 6.7, 1H); 3.34 (dxd, J = 9 and 4.5, 1H); 3.21 (m, 2H); 2.86 (m, 1H); 2.25 (m, 1H); 2.19; (s, SCH3); 2.0-1.65 (m, 3H); 1.15 (d, J = 6.9, CH3).
【0115】
実施例11
(S)−2−(1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(1a)の合成
【0116】
【化31】

【0117】
15.2g量の(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジニウムクロリド(6a×HCl、63.4mmol、実施例10より)をアルゴン下、攪拌しながら280mlのジオキサンに懸濁させた。9.4gの炭酸ナトリウム(89mmol)を205mlの脱イオン水中に含む溶液を加えた。容量のおよそ半分を加えた時点では透明な溶液であったが、全量を加えた後では乳状溶液に変化していた。その後、17.3gのジ−tert−ブチルジカーボネート(79.3mmol)を加え、得られた微濁溶液をrtで5.5h攪拌した。処理を行なうため、100mlのtert−ブチルメチルエーテル/ヘプタンの1:1混合物を加え、二相を分離した。有機相を蒸発濃縮することにより、4.4gの無色油状物を得た。TLC及びHPLCにより、この中に生成物が含まれていた。水相の上に150mlのtert−ブチルメチルエーテルを注ぎ、攪拌しながら57.5mlの2N塩酸によりpH2に酸性化した。相分離後、水相の抽出を3度、各40ml、計120mlのtert−ブチルメチルエーテルを用いて行なった。有機相を併せて、洗浄を2度、各40ml、計80mlの飽和塩化ナトリウム溶液を用いて行ない、約40gの硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過、蒸発濃縮した。残渣を少量のジクロロメタンに取り、上記手順で得られた物質4.4gと併せた。溶液を蒸発濃縮し、残渣を真空下(0.1mbar)、温度70℃で2h乾燥することにより、21.5gの粗製物を、濃厚な無色油状物として得た。得られた物質をGC分析したところ、96.0%の1a、0.35%の1c、0.43%の1b、及び0.17%の1dが含まれていた;drは、1a/1b/1c/1d=99.0:0.5:0.4:0.1であった。内部標準を用いたHPLC分析により、85.0w%の1aのアッセイが示された。結晶化のために、粗製物を60mlのヘプタン中に70℃で溶解させた。この透明な溶液を攪拌し、rtまで放冷したところ、20分後に結晶化が始まった。懸濁液を0℃で3h攪拌した後、得られた濃厚懸濁液を4℃の冷蔵庫内で24h放置し、最終的には−18℃の冷凍庫内で72h放置した。沈殿を濾過によって単離し、洗浄を2度、各10ml、計20mlの冷ヘプタンを用いて行なった後、真空下(0.1mbar)、rtで2h乾燥することにより、1aの1次生成物15.6g(81%)を白色結晶として得た。m.p.は71〜72℃であった。得られた物質をGC分析したところ、98.9%の1a、0.25%の1c、0.04%の1b、及び0.00%の1dが含まれていた。drは、1a/1b/1c/1d=99.7:0.05:0.25:0.0であった。
【0118】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): ca. 10 (br. s, COOH); 4.15-3.95 (br. m, 1H); 3.65-3.1 (br. m, 3H); 2.6 (br. m, 1H); 2.12 (s, SCH3); 2.0-1.65 (br. m, 4H); 1.46 (br. s, tBu), 1.39 (br. d, J = 6.5, CH3).
【0119】
Microanalysis calc. for C14H25NO4S (303.42): C 55.42, H 8.30, N 4.62, S 10.57;
found: C 55.34/55.25, H 7.88/7.88, N 4.64/4.64, S 10.56/10.59.
【0120】
母液から得た残渣(4.3g、無色油状物)を丸底フラスコ中、9mlのヘプタンに70℃で溶解させ、溶液をrtまで放冷した。1次生成物を種晶として加え、フラスコを−18℃の冷凍庫内に48h放置した。上記と同様にして濾過及び乾燥を行なうことにより、2次生成物として1.04g(5.4%)の1aを白色結晶として得た;m.p.は70〜71℃であった。得られた物質をGC分析したところ、98.2%の1a、0.60%の1c、0.13%の1b、及び0.10%の1dが含まれていた。drは、1a/1b/1c/1d=99.2:0.1:0.6:0.1であった。
【0121】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3):1次生成物の1H−NMRと同一であった。
組み合わせ収率:16.64gの1a(86.5%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】

を製造する方法であって、
A)式(II)の化合物
【化2】

を、式(III)の化合物
【化3】

と、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、好適な溶媒中で反応させ、ここで、当該式(III)の化合物は、それ自体を使用してもよく、又は、式(III−A)の化合物
【化4】

を、カリウム塩基の存在下で反応させることにより、インサイツで生成させてもよく;
−COOR2エステル基中のR2を開裂し、次いで、得られたカルボン酸に式NHR45のアミンを加え、式(IV)のアンモニウム塩
【化5】

を形成し、更に式(IV)の塩を分解することにより、式(I)の化合物を得るか;
或いは、
B)式(V)の化合物
【化6】

を、上記のカリウム塩基とともに、式(III)又は(III−A)の化合物と反応させ;
得られた反応生成物に塩酸を加え、式(VI)の化合物
【化7】

を形成し、次いで、tert−ブトキシカルボニル導入試薬と反応させ、N−原子を再保護することにより、式(I)の化合物を得るものであって;
1、R3、及びR6は、互いに独立に、アルキルを表わし;
2は、ベンジル又は置換ベンジルであり;
4及びR5は、シクロアルキル又はアルキルから独立に選択され、当該アルキルは、無置換でもよく、或いは、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アセトキシ、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキルカルバモイルオキシ、ハロゲン、シクロアルキル、又はフェニルにより、1、2、又は3置換されていてもよい、方法。
【請求項2】
式(II−A)の化合物
【化8】

を、上記のカリウム塩基とともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中、式(III)又は(III−A)の化合物と反応させ;
当該反応の生成物をベンジル−エステル開裂させ、次いで、得られたカルボン酸に式NHR45のアミンを加え、更に塩基を加えた後、鉱酸を加えることにより、式(I)の化合物を得るとともに;
1、R4、及びR5が、上述した定義を表わす、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記式NHR45のアミンが、
ジシクロヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、(R)−α−フェニルエチルアミン、ベンジル−(R)−α−フェニルエチルアミン、及び(R)−α−シクロヘキシルエチルアミン
から選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
式(2)の化合物
【化9】

を、カリウムエトキシドとともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中で、S−メチルチオアセテートと反応させ;
当該反応の生成物をベンジル−エステル開裂し、次いでジシクロヘキシルアミンを加え、更に炭酸ナトリウムを加えた後、硫酸を加えることにより、式(1a)の化合物
【化10】

を得る、請求項3記載の方法。
【請求項5】
式(V−A)の化合物
【化11】

を、上記のカリウム塩基とともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中、式(III)又は(III−A)の化合物と反応させ、
更に、上記反応の生成物を、酢酸エチル中、乾燥塩酸と反応させ、次いで、炭酸ナトリウムを加えた後、ジ−tert−ブチルジカーボネートと反応させることにより、式(I)の化合物を得るとともに;
1が、上記定義である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
式(4)の化合物
【化12】

を、カリウムエトキシドとともに、トリエチルアンモニウムクロリドの存在下、テトラヒドロフラン中で、S−メチルチオアセテートと反応させ、
上記反応の生成物を、酢酸エチル中、乾燥塩酸と反応させ、次いで、炭酸ナトリウムを加えた後、ジ−tert−ブチルジカーボネートと反応させることにより、式(1a)の化合物
【化13】

を得る、請求項5記載の方法。
【請求項7】
式(I)の化合物を更に反応させて、式(A)の化合物
【化14】

を得るものであって、
a)式(I)の化合物をアルコール又はアミンと反応させ、次いで、tert−ブトキシカルボニル基をピロリジンN−原子において開裂させ、式(B)の化合物
【化15】

を生成し;
b)式(B)の化合物を更に、式(C)の化合物
【化16】

と反応させ、式(A)の化合物を得るものであって、
1及びR3は、請求項1と同じ定義であり;
8及びR9は、互いに独立に、アルキルを表わし;及び
7は、(C1−C4)−アルキレンを有する、フェニルアルキル−、又はフェニルジアルキルアミノ、又はフェニルアルキロキシであり、ここで前記フェニル基は、ハロゲン、アルコキシカルボニル、スルファモイル、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、シアノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アルキル、アルコキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキルチオ、ヒドロキシ、アルキルカルボニルアミノ、1,3−ジオキソリル、1,4−ジオキソリル、アミノ、及びベンジルからなる群より選択される、1、2、又は3の置換基によって置換されていてもよい、請求項1記載の方法。
【請求項8】
式(A−1)の化合物
【化17】

を得る方法であって、
a)式(1a)の化合物
【化18】

を、3−(2−メチルアミノ−エチル)−フェノールと反応させ、次いでtert−ブトキシカーボネート基をピロリジンN−原子において開裂させることにより、式(B−1)の化合物
【化19】

を生成させ;
b)式(B−1)の化合物を、更に、式(C−1)の化合物
【化20】

と反応させることにより、式(A−1)の化合物を得る、請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項7記載の式(A)の化合物の製造における、請求項1記載の方法の使用。
【請求項10】
請求項8記載の式(A−1)の化合物の製造における、請求項1記載の方法の使用。
【請求項11】
式(IV)の化合物であって、
【化21】

1及びR3は、互いに独立に、アルキルを表わし;
4及びR5は、シクロアルキル又はアルキルから、独立に選択され、ここでアルキルは、無置換でもよく、或いは、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノ−又はジ−アルキルアミノ、アセトキシ、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイルオキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキルカルバモイルオキシ、ハロゲン、シクロアルキル、又はフェニルで、1、2、又は3置換されていてもよい、化合物。
【請求項12】
1及びR3が、メチルであり;
+NH245が、ジシクロヘキシルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、(R)−α−フェニルエチルアンモニウム、ベンジル−(R)−α−フェニルエチルアンモニウム、又は(R)−α−シクロヘキシルエチルアンモニウムから選択されるカチオンを表わす、請求項11記載の化合物。
【請求項13】
式(VI)の化合物であって、
【化22】

1及びR3が、互いに独立に、アルキルを表わす、化合物。
【請求項14】
1及びR3が、メチルである、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
(S)−2−((1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルである、化合物。
【請求項16】
請求項1記載の方法における、請求項11から15の何れかに記載の化合物の使用。
【請求項17】
請求項7記載の式(A)の化合物の製造における、請求項11から15の何れかに記載の化合物の使用。
【請求項18】
請求項8記載の式(A−1)の化合物の製造における、請求項12から15の何れかに記載の化合物の使用。
【請求項19】
明細書記載と実質的に同様の新規な方法、化合物、及び使用。

【公表番号】特表2008−523001(P2008−523001A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544792(P2007−544792)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012991
【国際公開番号】WO2006/063706
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】