説明

3次元デジタル記録システム

【課題】構造物表面の不良箇所を3次元のデジタルデータとして記録する。
【解決手段】本発明に係る3次元デジタル記録システムは、構造物表面の不良箇所に接触している間パルス波を送信する入力装置10と、前記入力装置10からのパルス波を受信すると、パルス波を送信する3個の距離測定装置20と、を備え、前記入力装置10は、前記入力装置10がパルス波を送信した時間と、前記3個の距離測定装置20の各々からのパルス波を受信した時間との差から、前記入力装置10と前記3個の距離測定装置20の各々との距離を算出し、前記距離から前記入力装置10の位置情報を算出する制御部15と、前記位置情報を記憶するメモリ13と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置情報検知技術を利用して、地下に埋設された通信土木設備等の構造物表面の不良箇所を3次元のデジタルデータとして記録する3次元デジタル記録システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信土木設備の点検は、設備内部の劣化、損傷の有無や程度の把握を目的として定期的に行われる。従来の点検方法は、点検項目として設備内部の劣化、損傷事象として、コンクリート表面のひび割れや剥離、地下水の漏水等の不良箇所を主に目視で点検している。点検結果については、点検表へ文言および図示等での記録、更にカメラ等での画像撮影といった方法がとられている。(例えば、非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】コンクリート標準示方書(2007年制定)(土木学会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地下に埋設されているマンホールやとう道といった通信土木設備については、周辺地盤からの圧力や路面からの荷重等により様々な方向から外力等を受けることでコンクリート表面上に劣化や損傷による変色やひび割れ等が発生する。将来的に補強や修繕を行う場合には、損傷の形状や程度により補修方法や管理方法を判断するために、ひび割れ等の劣化や損傷の位置や形状、長さ等をできる限り3次元的に定量的に把握し、当該通信土木設備に対する損傷要因を検討することが重要である。しかし従来の通信土木設備の点検技術は、劣化、損傷の形状や程度を目視確認し、その結果を点検表や画像で記録することであるが、点検表へ文言や図示等で記録する方法は、記録した劣化、損傷データの場所や形状の正確さに欠け、定量的なデータとして活用するのは困難である。
【0005】
また、通信土木設備は設備内部の劣化、正確かつ定量的に記録することが重要であることから、画像撮影による記録方法も行われているが、被写界深度やキャリブレーション、レンズ等による画像歪などがあるため、ひび割れ等の正確な位置を定量的に把握することが難しいといった課題がある。更に、程度の小さい劣化、損傷個所を視覚的に認識できない場合や表面の汚れや色合いの変化等によって、健全な場所を劣化、損傷個所と認識する場合があり、図面へ描画する方法と同様、正確さに欠け、定量的なデータとして認識するのは困難である。
【0006】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、通信土木設備等の構造物表面の不良箇所(劣化、損傷個所など)を3次元のデジタルデータとして記録することが可能な3次元デジタル記録システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した諸課題を解決すべく、本発明に係る3次元デジタル記録システムは、構造物表面の不良箇所を3次元のデジタルデータとして記録するための3次元デジタル記録システムであって、前記構造物表面の不良箇所に接触している間パルス波を送信する入力装置と、前記入力装置からのパルス波を受信すると、パルス波を送信する3個の距離測定装置と、を備え、前記入力装置は、前記入力装置がパルス波を送信した時間と、前記3個の距離測定装置の各々からのパルス波を受信した時間との差から、前記入力装置と前記3個の距離測定装置の各々との距離を算出し、前記距離から前記入力装置の位置情報を算出する制御部と、前記位置情報を記憶するメモリと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る3次元デジタル記録システムは、前記入力装置は、前記構造物表面の不良箇所に接触していない場合であって、前記不良箇所に関する追加情報を記録する場合、前記パルス波を送信し、前記制御部は、算出した前記位置情報を前記追加情報として前記メモリに記憶する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明による3次元デジタル記録システムによれば、通信土木設備等の構造物表面の不良箇所(劣化、損傷個所など)を3次元のデジタルデータとして記録することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る入力装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る距離測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】入力装置及び距離測定装置間の処理シーケンスを示す図である。
【図4】本発明によるマンホール不良箇所測量イメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。なお、本発明は、地下に埋設された通信土木設備の点検を対象とし、通信土木設備内の劣化、損傷などの不良箇所を描画、記録するためのペン状の入力装置10(以下、専用ペン10と呼ぶ)と専用ペン10の位置情報を検知する機能を有する3つの距離測定装置20を用いて、点検結果を3次元のデジタルデータとして記録することで、従来の図面への描画や画像撮影等による記録方法ではできなかった点検結果の3次元デジタルデータ化および定量化を可能にする技術である。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る専用ペン10の概略構成を示す図である。専用ペン10は、パルス波を送受信するための無線部11をペン先に有し、電源を供給するためのバッテリー12、パルス波の送受信により検知する位置情報を記憶するためのメモリ13、専用ペンの筆圧を感知するためのセンサ14、および距離情報及び位置情報の計算や各機能部の制御を行う制御部15を本体内部に有する。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態に係る距離測定装置の概略構成を示す図である。距離測定装置20は、パルス波を送受信するための無線部21および電源を供給するためのバッテリー22を本体内部に有する。
【0014】
ここで、専用ペン10の位置情報は、専用ペン10と同一空間内で任意に固定設置された距離測定装置20間との距離を測定することにより検知するが、空間上における位置を特定するためには空間上の固定された3点との距離が必要となるため、本実施形態では、距離測定装置20を3個使用する。これは、3次元の空間上において、ある点の空間座標(位置)は任意に固定された3点との距離が分かれば一意的に決定されるためである。仮に任意に固定された1点との距離しか分からなければ、ある点は固定された1点との距離を半径とした球面上にあることしか決まらず、任意に固定された2点との距離しか分からなければ、ある点は固定された2点との距離を保つ円周上にあることしか決まらない。
【0015】
図3は、入力装置10(専用ペン10)及び距離測定装置20間の処理シーケンスを示す図である。なお、以降の説明において、3つの距離測定装置20を、距離測定装置20a〜cと称するものとする。
【0016】
専用ペン10が描画対象物(例えば不良箇所)に触れたことをセンサ14が筆圧を感知すると(ステップS101)、専用ペン10と3つの距離測定装置20a〜c間でパルス波の送受信が開始される(ステップS102)。各々の距離測定装置20a〜cはパルス波を受信すると、パルス波を応答として送信する(ステップS103a〜c)。専用ペン10は、パルス波を送信後、3つの距離測定装置20a〜cの各々から送信されたパルス波を距離に応じた時間差で受信する(ステップS104)。専用ペン10(制御部15)は、パルス波の速度と、応答して返ってきた各々の時間差とから、専用ペン10と3つの距離測定装置a〜cとの間の距離を計算することができる(ステップS105)。専用ペン10(制御部15)は、さらに、3つの距離測定装置間a〜cとの距離から定まる空間上の1点から、空間上の位置を算出することが可能となる(ステップS106)。
【0017】
なお、専用ペン10と3つの距離測定装置間a〜cにおけるパルス波の送受信は、センサ14が筆圧を感知している間、連続して行われる。専用ペン10で描画対象物をなぞることで専用ペン10の位置情報(空間座標)が変化し、制御部15は、その変化を、例えば1μsec単位のレコードデータとしてメモリ13に記憶する(ステップS107)。なお、メモリ13に記憶した1μsec単位のレコードデータは連続した3次元のデジタルデータへ任意に変換することができる。専用ペン10のメモリ13に記憶されたデータは、無線又は有線にてパソコンと接続し、3次元のデジタルデータとして保存することができる。
【0018】
図4は、本発明に係る入力装置10(専用ペン10)及び距離測定装置20を用いたマンホール不良箇所測量イメージを示す図である。図4(a)は、マンホールの地下に埋設された通信土木設備を図示するものであり、通信土木設備内の任意の位置に3つの距離測定装置20a〜cが設置されている。通信土木設備内に壁面等の劣化、損傷個所といった不良箇所(C1、C2)がある場合、専用ペン10で不良個所(C1、C2)をなぞることで、専用ペン10の位置情報(空間座標)の変化をデジタルデータとして記録することができる。
【0019】
また、本システムは、必要に応じて、不良箇所以外に、文字や数値、記号等を専用ペン10で描くことで形状以外の不良箇所に関する情報(追加情報)を記録することも可能である。具体的には、専用ペン10は、不良箇所に接触していない場合であっても、不良箇所に関する追加情報を記録する場合、距離測定装置20a〜cに対してパルス波を送信し、制御部15は、距離測定装置20a〜cからのパルス波により算出した位置情報を追加情報としてメモリ13に記憶する。これにより、点検時のマンホール内部のひび割れ等の形状や長さや、文字や数値、記号といった追加情報を正確かつ定量的にデジタルデータとして保存できる。点検終了後、図4(b)に示すように、専用ペン10を無線又は有線にてパソコンと接続し、3次元のデジタルデータとして保存することができる。
【0020】
以上のように、本実施形態によれば、入力装置10(専用ペン10)は、構造物表面の不良箇所に接触している間パルス波を送信し、3個の距離測定装置20a〜cは、入力装置10からのパルス波を受信するとパルス波を送信し、入力装置10(制御部15)は、入力装置10がパルス波を送信した時間と、3個の距離測定装置20a〜cの各々からのパルス波を受信した時間との差から、入力装置10と3個の距離測定装置20a〜cの各々との距離を算出し、算出した距離から入力装置10の位置情報を算出し、位置情報をメモリ13に記憶する。これにより、通信土木設備等の構造物表面の不良箇所を3次元のデジタルデータとして記録することが可能になる。特に、地下に埋設された通信土木設備内の劣化、損傷状態等を正確かつ定量的な3次元のデジタルデータとして記録することが可能となる。通信土木設備は、地下に埋設されている状況から、周辺の地盤からの圧力また、路面からの荷重等様々な方向から外力を受けるため、通信土木設備の劣化、損傷状態を3次元的に正確に把握することは、補修方法や管理方法の選定の根拠になるだけでなく、劣化、損傷要因の解明にも非常に重要な情報となる。また、過去の点検結果や今後の点検との差分も定量的、視覚的に把握することができ、劣化、損傷の進行速度や補修経過等を極めて詳細に記録することが可能になる。
【0021】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0022】
10 入力装置(専用ペン)
11 無線部
12 バッテリー
13 メモリ
14 センサ
15 制御部
20 距離測定装置
21 無線部
22 バッテリー
C1、C2 不良箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物表面の不良箇所を3次元のデジタルデータとして記録するための3次元デジタル記録システムであって、
前記構造物表面の不良箇所に接触している間パルス波を送信する入力装置と、
前記入力装置からのパルス波を受信すると、パルス波を送信する3個の距離測定装置と、を備え、
前記入力装置は、
前記入力装置がパルス波を送信した時間と、前記3個の距離測定装置の各々からのパルス波を受信した時間との差から、前記入力装置と前記3個の距離測定装置の各々との距離を算出し、前記距離から前記入力装置の位置情報を算出する制御部と、
前記位置情報を記憶するメモリと、を有することを特徴とする3次元デジタル記録システム。
【請求項2】
前記入力装置は、前記構造物表面の不良箇所に接触していない場合であって、前記不良箇所に関する追加情報を記録する場合、前記パルス波を送信し、前記制御部は、算出した前記位置情報を前記追加情報として前記メモリに記憶する、ことを特徴とする請求項1に記載の3次元デジタル記録システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15385(P2013−15385A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147847(P2011−147847)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】