説明

3次元形状データの統合処理方法および3次元形状データの表現方法

【課題】 統合すべき部分形状のポテンシャル方向が大きく異なる場合でも、正確な統合が可能な統合処理方法を提供する。
【解決手段】 部分形状データ10および20は位置合わせを行った段階では異なる曲面を構成しているので、それぞれの形状ベクトルV1およびV2は独立しているが、部分形状データ10および20を形状ベクトルを用いて表現し、形状ベクトルの演算により部分形状データ10および20を統合することで統合後の形状ベクトルV3を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は3次元形状データの統合処理方法および表現方法に関し、特にベクトルポテンシャル空間における3次元形状データの統合処理方法および表現方法に関する。
【0002】
【従来の技術】図6および図7を用いて3次元形状データの統合の概念について説明する。立体の形状をデータ化した3次元形状データ(以後、形状データと呼称)を得るには、3次元スキャナのような装置を用いて立体を撮影するが、立体である以上1つの視点からの撮影だけでは全ての部分を撮影することはできず、死角になる部分が生じる場合がある。そこで、複数の視点からの撮影が必要になるが、その場合はそれぞれの視点で得られた形状データの位置合わせ(Registration)を行った後、形状データの統合(Merge)を行う必要がある。
【0003】図6は立体撮影の例を示す図であり、カップCPについて矢視Aおよび矢視Bの2方向からの撮影を示している。このようにして撮影された2つの形状データは原点等が異なる別個のデータなので、位置合わせを行っただけでは別個の曲面のままである。その状態を図7に示す。図7はカップCPを開口部側から見た場合の形状データのずれを模式的に示しており、矢視A方向から得られた形状データCP1(ハッチングで示す)と、矢視B方向から得られた形状データCP2とでは完全には一致していない。この分断を解消して2つの形状データを一体化させる処理が統合処理である。
【0004】次に、図8〜図12を用いて従来の統合処理方法について説明する。図8および図9には部分形状データ1および2がそれぞれ示されており、それぞれ、重なり合うべき部分を枠線で囲って示している。
【0005】図10には部分形状データ1および2の位置合わせ結果である形状データ3を距離ポテンシャル(距離関数)を用いて示している(ポテンシャル表現と呼称)。距離ポテンシャルとは、立体表面の位置が視点から見てどこにあるかを相対的に示すための概念であり、図10においては矢視方向に立体表面を見ており、形状データ3のポテンシャル値を0とし、形状データ3よりも所定距離だけ視点に近づいた位置のポテンシャル値を−0.5とし、形状データ3よりも所定距離だけ視点から離れた位置のポテンシャル値を+0.5としている。従って、ポテンシャル方向は矢視方向となる。なお、ポテンシャル値は形状表面処理上必要と考えられる近傍の点(例えば近傍の全てのボクセル)において算出され、ポテンシャル値が−0.5の空間上の点を結んだものがポテンシャル値−0.5の等高線となり、ポテンシャル値が+0.5の空間上の点を結んだものがポテンシャル値+0.5の等高線となる。
【0006】このように、形状データをポテンシャル表現することにより、それまでポリゴンと呼ばれる多角形の連なりで表されていた境界部分、すなわち立体表面の形状をボクセルと呼ばれる立方体で表すことができ、形状データの処理時間を短縮するなどの効果がある。
【0007】図11にはポテンシャル表現された形状データ3をポテンシャル値(距離値)の加算などの演算により統合して得られる統合済み形状データ3Aを示している。
【0008】そして、マーチングキューブ(Marching Cubes)法などの等値面抽出法によりポテンシャル値0の形状データを抽出し、ポリゴンにより境界部分を表現する処理を行うことでボクセル表示からポリゴン表示に戻す。図12には、抽出されたポテンシャル値0の形状データを示す。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】以上説明した従来の統合処理方法においては、ポテンシャル表現された形状データをポテンシャル値(距離値)の加算などの演算により統合していたので、図10に示すように、統合すべき部分形状データ1および2のポテンシャル方向が大きく異ならない場合には問題ないが、両者のポテンシャル方向が大きく異なる場合、すなわち視点位置が大きく異なる場合には正確な統合ができないという問題があった。
【0010】本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、統合すべき部分形状のポテンシャル方向が大きく異なる場合でも正確な統合が可能な統合処理方法および3次元形状データの表現方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明に係る請求項1記載の3次元形状データの統合処理方法は、複数の視点から撮影した立体の形状をデータ化した複数の3次元形状データの統合処理方法であって、前記複数の3次元形状データの位置合わせを行って位置合わせ済み形状データを得るステップ(a)と、前記位置合わせ済み形状データを、距離成分と方向成分とを有し前記立体の表面を原点とする形状ベクトルを用いて表現するステップ(b)と、前記形状ベクトルで表現された前記位置合わせ済み形状データをベクトル演算により統合するステップ(c)とを備えている。
【0012】本発明に係る請求項2記載の3次元形状データの統合処理方法は、前記ステップ(c)が、前記複数の3次元形状データのうち、それぞれ対応する前記形状ベクトルを合成するステップを含んでいる。
【0013】本発明に係る請求項3記載の3次元形状データの表現方法は、立体の形状をデータ化した3次元形状データの表現方法であって、前記3次元形状データを、距離成分と方向成分とを有し前記立体の表面を原点とする形状ベクトルを用いて表現するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、図1〜図5を用いて本発明に係る3次元形状データの統合処理方法の実施の形態について説明する。
【0015】図1および図2には統合すべき部分形状データ10および20がそれぞれ示されており、それぞれ、重なり合うべき部分を枠線で囲って示している。また、図1および図2にはポテンシャル方向を矢印で示している。
【0016】また、この例においては一方向撮影型のレンジファインダを用いて形状データを得ており、部分形状データ10および20においてはそれぞれポテンシャル方向は一方向のみとなっている。
【0017】図3には部分形状データ10および20を位置合わせした結果を示す形状データ30(位置合わせ済み形状データ)を、データ周辺の各点において形状表面を原点とし、形状表面近傍の空間上の点(例えばボクセル)を終点するベクトルを用いて示している。これを形状ベクトルと呼称する。なお、形状ベクトルの値は上記空間上の点、例えばボクセルに持たせる。形状ベクトルは距離成分と方向成分とを有した一種の位置ベクトルであり、距離成分としてポテンシャル値を、方向成分としてポテンシャル方向を用いている。
【0018】図3においては部分形状データ10の形状ベクトルV1を白矢印で、部分形状データ20の形状ベクトルV2を黒矢印で示している。そして、位置合わせの結果、ポテンシャル方向が異なることになるので、図3R>3に示されるように、部分形状データ10および20のポテンシャル方向(すなわちベクトルの方向)は異なっている。
【0019】図3に示す部分形状データ10および20の重複部分Xの詳細を図4に示す。図4に示すように、部分形状データ10および20は位置合わせを行った段階では異なる曲面を構成しているので、それぞれの形状ベクトルV1およびV2は独立している。従来の統合処理ではスカラー量であるポテンシャル値(距離値)の加算などの演算により統合していたので、部分形状データのポテンシャル方向が異なる場合には、正確に統合できないなどの問題があったが、部分形状データ10および20を形状ベクトルV1およびV2を用いて表現し、形状ベクトルの演算(数式1参照)により部分形状データ10および20を統合することで、統合処理が正確にできる。
【0020】
【数1】


【0021】上記数式(1)は、複数の形状ベクトル等を入力変数としたベクトル演算fによって、統合後の形状ベクトルV3が得られることを表している。
【0022】図5にベクトルの加算演算により統合処理を行った結果である統合済み形状データ30Aを示す。この場合のベクトル演算を数式(2)に示す。
【0023】
【数2】


【0024】なお、数式(2)に示す演算は単なる加算演算であったが、バリエーションは種々あり、例えば、数式(3)に示すようにベクトルに係数を掛けるような演算としても良い。
【0025】
【数3】


【0026】そして、マーチングキューブ(Marching Cubes)法などの等値面抽出法によりベクトルの大きさが0である部分の形状データを抽出し、ポリゴンにより境界部分を表現する処理を行うことでボクセル表示からポリゴン表示に戻す。
【0027】なお、形状データを距離ポテンシャル空間において形状ベクトルで表現するということは、形状データの情報量が増え、より正確なデータ処理が可能となることを意味しており、形状データの統合処理以外においても有益である。
【0028】また、以上の説明においては、部分形状データ10および20のポテンシャル方向はそれぞれ一方向としたが、部分形状データ10および20がボクセル単位で処理されることを考慮すれば、ポテンシャル方向は各ボクセルごとに異なっていても良い。
【0029】
【発明の効果】本発明に係る請求項1記載の3次元形状データの統合処理方法によれば、形状ベクトルで表現された位置合わせ済み形状データをベクトル演算により統合するので、撮影視点の方向が大きく異なる状況下で3次元形状データが得られた場合であっても、位置合わせ済み形状データをスカラー量だけで統合する場合に比べて正確な統合処理が可能となる。
【0030】本発明に係る請求項2記載の3次元形状データの統合処理方法によれば、位置合わせ済み形状データを最も容易に統合することができる。
【0031】本発明に係る請求項3記載の3次元形状データの表現方法によれば、3次元形状データを、距離成分と方向成分とを有した形状ベクトルを用いて表現するので、3次元形状データの情報量が増え、より正確なデータ処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 統合対象となる部分形状データを示す模式図である。
【図2】 統合対象となる部分形状データを示す模式図である。
【図3】 本発明に係る統合処理方法における位置合わせ済み形状データを示す模式図である。
【図4】 位置合わせ済み形状データの部分詳細を示す模式図である。
【図5】 本発明に係る統合処理方法による統合済み形状データを示す模式図である。
【図6】 立体の撮影を説明する図である。
【図7】 形状データのずれを模式的に示す図である。
【図8】 統合対象となる部分形状データを示す模式図である。
【図9】 統合対象となる部分形状データを示す模式図である。
【図10】 ポテンシャル表現による位置合わせ済み形状データを示す模式図である。
【図11】 従来の統合処理方法による統合済み形状データを示す模式図である。
【図12】 抽出された形状データを示す模式図である。
【符号の説明】
10,20 部分形状データ、30A 統合済み形状データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の視点から撮影した立体の形状をデータ化した複数の3次元形状データの統合処理方法であって、(a)前記複数の3次元形状データの位置合わせを行って位置合わせ済み形状データを得るステップと、(b)前記位置合わせ済み形状データを、距離成分と方向成分とを有し前記立体の表面を原点とする形状ベクトルを用いて表現するステップと、(c)前記形状ベクトルで表現された前記位置合わせ済み形状データをベクトル演算により統合するステップとを備える、3次元形状データの統合処理方法。
【請求項2】 前記ステップ(c)は、前記複数の3次元形状データのうち、それぞれ対応する前記形状ベクトルを合成するステップを含む、請求項1記載の3次元形状データの統合処理方法。
【請求項3】 立体の形状をデータ化した3次元形状データの表現方法であって、前記3次元形状データを、距離成分と方向成分とを有し前記立体の表面を原点とする形状ベクトルを用いて表現する、3次元形状データの表現方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【公開番号】特開2000−111324(P2000−111324A)
【公開日】平成12年4月18日(2000.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−286391
【出願日】平成10年10月8日(1998.10.8)
【出願人】(000006079)ミノルタ株式会社 (155)
【Fターム(参考)】