説明

3級アミン化合物

【課題】接着付与剤として使用した場合であっても白金触媒の活性を低下させることがない新規の3級アミン化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される3級アミン化合物。


(式中、R1は水素原子ではなく、活性水素を有しない有機基であって、少なくとも2個のR1がアルコキシシリル基含有基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表す。複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の3級アミン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の各樹脂に用いられる接着付与(促進)剤として、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン、メルカプトンシラン等のシランカップリング剤を用いることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シリコーン系接着剤の接着促進剤として、下記式で示される化合物が記載されており(請求項1)、また、この化合物が、活性水素を含むアミン化合物(アミノアルキルアルコキシシラン等)と(メタ)アクリロイル基を有する化合物(アクリロキシアルキルアルコキシシラン等)との反応により得られることが記載されている(第4頁右上欄〜第5頁左上欄)。
【0004】
【化1】


[ここにR1,R2は水素原子あるいは非置換または置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、X,X′は非置換または置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、あるいはZ3SiQ(Zは炭素数1〜8の一価炭化水素基またはアルコキシ基、Qは二価の炭化水素基)で示される基で、そのいずれかまたは両者がアルコキシシリル基である基、Yは酸素原子または−NR1で示される基]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−33982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載の接着促進剤について検討したところ、上記式で示される化合物が活性水素原子を有する場合、すなわち、アミノ基と(メタ)アクリロイル基との反応により生起するイミノ基(−NH)を有している場合には、これが白金触媒等の触媒の活性を低下させて樹脂の硬化不良を起こしたり、ポリウレタン樹脂に適用すると貯蔵安定性に悪影響を与えたりすることが明らかとなった。
そこで、本発明は、接着付与剤として使用した場合であっても硬化性や貯蔵安定性に悪影響を与えない新規の3級アミン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルコキシシリル基を2個以上有する特定の式で表される3級アミン化合物が、接着付与剤として使用した場合であっても白金触媒の活性を低下させることがないことを知見し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(a)〜(f)を提供する。
【0008】
(a)下記式(1)で表される3級アミン化合物。
【0009】
【化2】

【0010】
式中、R1は水素原子ではなく、活性水素を有しない有機基であって、少なくとも2個のR1が下記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表す。複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0011】
【化3】

【0012】
式中、R3は炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合の複数のR4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、nが0または1である場合の複数のR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0013】
(b)上記式(1)中、R1がいずれも上記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基を表す上記(a)に記載の3級アミン化合物。
【0014】
(c)上記式(1)中、少なくとも1個のR2が水素原子である上記(a)または(b)に記載の3級アミン化合物。
【0015】
(d)上記式(2)中、nが0である上記(a)〜(c)のいずれかに記載の3級アミン化合物。
【0016】
(e)上記式(2)中、R3がアルキレン基である上記(a)〜(d)のいずれかに記載の3級アミン化合物。
【0017】
(f)上記式(1)で表される接着付与剤。
【発明の効果】
【0018】
以下に説明するように、本発明によれば、接着付与剤として使用した場合であっても白金触媒の活性を低下させることがない新規の3級アミン化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1で合成した3級アミン化合物の1H−NMRのチャートである。
【図2】図2は実施例2で合成した3級アミン化合物の1H−NMRのチャートである。
【図3】図3は比較例1で合成した2級アミン化合物の1H−NMRのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の3級アミン化合物は、下記式(1)で表される3級アミン化合物である。
【0021】
【化4】

【0022】
上記式(1)中、R1は水素原子ではなく、活性水素を有しない有機基であって、少なくとも2個のR1が下記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表す。複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
【化5】

【0024】
上記式(2)中、R3は炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合の複数のR4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、nが0または1である場合の複数のR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
本発明においては、使用する樹脂に対する接着性(硬化性)がより良好となる理由から、上記式(1)中のR1がいずれも上記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基であるのが好ましい。
ここで、上記式(2)中、R3の炭素数1〜6の2価の炭化水素基としては、具体的には、例えば、アルキレン基、ビニレン基などの2価の脂肪族炭化水素基;1,4−シクロへキシレン基などの2価の脂環式炭化水素基;1,4−フェニレン基などの2価の芳香族炭化水素基;およびこれらを組合せた基等が例示される。
これらのうち、入手が容易であるという理由から、アルキレン基であるのが好ましく、より具体的には、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、1,1−ジメチルエチレン基等が好適に例示される。
【0026】
また、上記式(2)中、R4およびR5の炭素数1〜6の1価の炭化水素基としては、具体的には、例えば、アルキル基;シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基などのアリール基;等が挙げられる。
これらのうち、入手が容易で安価であるという理由から、アルキル基であるのが好ましく、より具体的には、メチル基、エチル基等が好適に例示される。
【0027】
また、上記式(2)中、nは0〜2の整数であり、使用する樹脂に対する接着性(硬化性)がより良好となる理由から、nが0であるのが好ましい。
【0028】
一方、上記式(1)中のR1が上記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基でない場合のR1は、水素原子ではなく、活性水素を有しない有機基であれば特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基などの炭化水素基や、これらの炭化水素基とO、NおよびSからなる群より選ばれるヘテロ原子を少なくとも1つ有する基(例えば、エーテル基、カルボニル基、チオエーテル基、スルフィニル基、スルホニル基等)とを組み合わせたものが挙げられる。
これらのうち、具体的には、例えば、アルキル基としてヘキシル基、アルケニル基としてアリル基(CH2=CHCH2−)、アルキルアリール基としてベンジル基等が好適に挙げられる。
【0029】
また、本発明においては、合成が容易となる理由から、上記式(1)中、少なくとも1個のR2が水素原子であるのが好ましく、いずれのR2が水素原子であるのがより好ましい。
【0030】
上記式(1)で表される3級アミン化合物としては、具体的には、例えば、下記式(3)〜(7)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【化6】

【0032】
本発明の3級アミン化合物の製造方法は特に限定されないが、後述する実施例で示すように、アミノ基を1個有する1級アミン化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを官能基の当量比(アクリロイル基/アミノ基)が2以上となるように反応させる方法が好適に例示される。なお、この方法における(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、1級アミン化合物に対する上記当量比が合計して2以上となるように異なる2種の化合物を用いていてもよい。
【0033】
具体的には、例えば、アミノアルキルアルコキシシランとアクリロキシアルキルアルコキシシランとを当量比(アクリロイル基/アミノ基)が2となるモル比で反応させる方法;モノアルキルアミンとアクリロキシアルキルアルコキシシランとを当量比(アクリロイル基/アミノ基)が2となるモル比で反応させる方法;アミノアルキルアルコキシシランとアルキルアクリレートとを(アクリロイル基/アミノ基)が2となるモル比で反応させる方法;等が挙げられる。
【0034】
ここで、上記アミノアルキルアルコキシシランとしては、具体的には、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。
また、上記アクリロキシアルキルアルコキシシランとしては、具体的には、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
一方、上記モノアルキルアミンとしては、具体的には、例えば、アリルアミン(2−プロぺニルアミン)、n−ヘキシルアミン等が挙げられる。
また、上記アルキルアクリレートとしては、具体的には、例えば、メチルアクリレート等が挙げられる。
【0036】
本発明の3級アミン化合物は、接着付与剤として使用した場合であっても白金触媒の活性を低下させることがない。そのため、特に、加熱硬化型のシリコーン樹脂に対して用いられる接着付与剤として使用するのが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0038】
(実施例1)
3−アミノプロピルトリメトキシシラン4.48gと3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン11.7gとを120℃で24時間反応させ、下記式(3)で表される3級アミン化合物を製造した。1H−NMR(400MHz、重クロロホルム)の分析結果を図1に示す。
【0039】
【化7】

【0040】
(実施例2)
1−プロピルアミン1.43gと3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン11.7gとを120℃で24時間反応させ、下記式(5)で表される3級アミン化合物を製造した。1H−NMR(400MHz、重クロロホルム)の分析結果を図2に示す。
【0041】
【化8】

【0042】
(比較例1)
3−アミノプロピルトリメトキシシラン8.97gと3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン11.7gとを120℃で24時間反応させ、下記式(8)で表される2級アミン化合物を製造した。1H−NMR(400MHz、重クロロホルム)の分析結果を図3に示す。
【0043】
【化9】

【0044】
加熱硬化型シリコーン(SE1816CV、東レ・ダウコーニング社製)のA液とB液との混合液10gに対して、実施例1で製造した上記式(3)で表される3級アミン化合物を接着付与剤として0.05g添加した。
その後、アルミニウムテストピースまたはガラステストピース上で100℃1時間硬化させ、ピール試験を行ったところ、いずれのテストピースにおいても凝集破壊となり、接着性が優れていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される3級アミン化合物。
【化1】


(式中、R1は水素原子ではなく、活性水素を有しない有機基であって、少なくとも2個のR1が下記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表す。複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】


(式中、R3は炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合の複数のR4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、nが0または1である場合の複数のR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記式(1)中、R1がいずれも前記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基を表す請求項1に記載の3級アミン化合物。
【請求項3】
前記式(1)中、少なくとも1個のR2が水素原子である請求項1または2に記載の3級アミン化合物。
【請求項4】
前記式(2)中、nが0である請求項1〜3のいずれかに記載の3級アミン化合物。
【請求項5】
前記式(2)中、R3がアルキレン基である請求項1〜4のいずれかに記載の3級アミン化合物。
【請求項6】
下記式(1)で表される接着付与剤。
【化3】


(式中、R1は水素原子ではなく、活性水素を有しない有機基であって、少なくとも2個のR1は下記式(2)で表されるアルコキシシリル基含有基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表す。複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化4】


(式中、R3は炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合の複数のR4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、nが0または1である場合の複数のR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184396(P2011−184396A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53351(P2010−53351)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】