説明

3連ローラウェッジ機構

【課題】アクチュエータの押圧力によりウェッジを介して倍力機構に発生する後退力を確実に保持するとともに、外因によるブレーキアームの変動からウェッジ部を保護する。
【解決手段】エアーチャンバ4により軸動し傾斜面を有するウェッジ5によりメインローラ6、6を介して揺動する一対のリンク12、12と、これらリンクの中間部とブレーキアーム3の基端部とを隙間調整機構14を介して連結し、前記メインローラ6の両側に同軸上にガイドレール上を転動する一対のサブローラ7、7を配設したので、ウェッジ5からなるカム機構とリンク12からなる梃子機構の2重の倍力機構によってブレーキ機構をコンパクトにでき、エアーチャンバ4の押圧力により倍力機構に発生する後退力をサブローラ7を介して確実にガイドレール上に転嫁して分散でき、倍力機構の各構成部品自体の負担荷重が小さく、摺動抵抗も少なく倍力効率を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータにより軸動して車輪軸と直交状に配置されたウェッジロッドと、該ロッドに装着され対向する傾斜面を有するウェッジと、これら傾斜面上を転動する一対のメインローラの動きに応じて揺動する一対のリンクと、これらリンクの中間部とブレーキアームの基端部とを隙間調整機構を介して連結し、メインローラの動きに応じてブレーキアームの基端部を倍力押圧拡開してその揺動端部に配設されたブレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置の3連ローラウェッジ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において使用されるディスクブレーキ装置にあって、特に鉄道車両用のディスクブレーキでは、ブレーキが取り付けられるばね上とディスクロータが取り付けられるばね下との相対移動が大きいことから、これに対応できる機構が要求され、一般的には大きな相対移動に容易に適応できるリンクの連結による梃子式のブレーキが知られている(に例えば下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−315422号公報(公報要約書参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示された鉄道車両用ディスクブレーキ装置について図9を用いて説明すると、ディスクDを挟圧するところのブレーキパッドを取着したブレーキヘッド107、107がそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバー106、106と、進出方向または退避方向の少なくともいずれか一方へ駆動される可動ロッド115を備えるアクチュエータ114とを備え、また、このディスクブレーキ装置101には、可動ロッド115に枢結される回転伝達アーム116と、この回転伝達アーム116に係合する伸縮軸110を備える。アクチュエータ114の進出に伴う回転伝達アーム116の押出し回転により、ネジ機構によってネジ体113が外方へ押し出されて、キャリパレバー106、106を支持ピン105の回りにて揺動させ、ブレーキヘッド107、107がディスクDを挟圧して、ブレーキ動作が行われる。ブレーキパッドが摩耗すると、回転伝達アーム116の超過ストロークにより、基体に固定された隙間調整棒121にカム板119の切欠部の端部が接触して、ウォームギヤ117が回転し、隙間調整ギヤ118が回転して自動隙間調整がなされる。
【0004】
これらの構成によって、前記従来例のものでは、可動ロッド115の進出動作は、回転伝達アーム116を介して伸縮軸110の伸張動作に変換され、かつ、その力を増力されてキャリパレバー106、106に伝達されることとなった。しかも、増力変換機構を構成する回転伝達アーム116に、カム板119、切欠部、ウォームギヤ117、隙間調整ギヤ118等からなる隙間調整機構が設けられているため、ディスクDとブレーキパッドとの隙間を自動調整できる高機能なディスクブレーキ装置101のコンパクトな構成が提供できることとなった。しかしながら、前記従来のエアーブレーキでは、通常エアー圧が700〜900kPa以下であるため、鉄道車両に適した大きな制動力を得るためには、エアーチャンバの断面積を大きくしたり、ブレーキアーム部のリンク比を大きく採る等の対策を講じる必要があり、依然としてブレーキ装置自体が肥大化して要スペースも拡大し、台車をコンパクトに設計できなかった。
【0005】
また、前記引用文献1の鉄道車両用ディスクブレーキ装置では、図9(D)の実施例に示すように、倍力機構として簡素な構造の傾斜カム機構を用いた、いわゆるウェッジ機構を使用する例も開示されているが、鉄道車両用ブレーキの場合、車両の台車に設置された車輪が全方向に自由度を有して揺動する挙動を示すため、車輪の挙動に追随してブレーキ装置すなわちブレーキアームも頻繁に変位する。そのために、前記図9(D)の例のものも、制動時にブレーキアームに相当するキャリパレバー106、106が車輪すなわちディスクDからの変位を受けて頻繁に変位する。それらの変位がロッド部材129を揺動させるこじり力を発生させたり、該ロッド部材129を介して倍力機構を構成するウェッジ131に直接に伝達される。これらの変位力により、ウェッジ131や可動ロッド115、さらにはアクチュエータ114に悪影響を与えかねないものであった。また、アクチュエータ114からの操作力によりウェッジ131を介してロッド部材129に大きな揺動方向の後退力を生じさせ、ロッド部材129を1点で支持するケーシングに大きな負担を強いることになった。
【0006】
そこで本発明は、前記従来のディスクブレーキ装置の諸課題を解決して、アクチュエータからの押圧力によりウェッジを介して倍力機構に発生する後退力を確実に保持するとともに、ブレーキアームが外因により頻繁に変位しても倍力機構を構成するウェッジ部に悪影響を与えることのない3連ローラウェッジ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、アクチュエータにより軸動して車輪軸と直交状に配置されたウェッジロッドと、該ロッドに装着され対向する傾斜面を有するウェッジと、これら傾斜面上を転動する一対のメインローラの動きに応じて揺動する一対のリンクと、これらリンクの中間部とブレーキアームの基端部とを隙間調整機構を介して連結し、メインローラの動きに応じてブレーキアームの基端部を倍力押圧拡開してその揺動端部に配設されたブレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置のローラウェッジ機構において、前記メインローラの両側に同軸上にガイドレール上を転動する一対のサブローラを配設したことを特徴とする。また本発明は、前記一対のリンクの基端部をストラットの両端部に軸支するとともに、前記ウェッジとメインローラとリンクとストラットにより台形型四辺リンクを構成することを特徴とする。また本発明は、前記隙間調整機構の両端部が球面軸受を介してリンクおよびブレーキアームの基端部と連結されたことを特徴とする。また本発明は、前記一対のサブローラが転動するガイドレール面にサブローラの軸方向の移動を規制するR段差部を形成したことを特徴とする。また本発明は、前記ウェッジの傾斜面が、少なくとも2つの異なった面角度にて形成されたことを特徴とする。また本発明は、前記隙間調整機構を、前記メインローラの過剰ストロークによって前記リンクとブレーキアームの基端部との間の間隔を拡大するように調整される自動隙間調整機構としたことを特徴とする。また本発明は、前記一対のリンクの基端部とストラットの両端部との軸支部に、前記台形型四辺リンクを原形状に復元するダブルトーションスプリングを配設したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アクチュエータにより軸動して車輪軸と直交状に配置されたウェッジロッドと、該ロッドに装着され対向する傾斜面を有するウェッジと、これら傾斜面上を転動する一対のメインローラの動きに応じて揺動する一対のリンクと、これらリンクの中間部とブレーキアームの基端部とを隙間調整機構を介して連結し、メインローラの動きに応じてブレーキアームの基端部を倍力押圧拡開してその揺動端部に配設されたブレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置のローラウェッジ機構において、前記メインローラの両側に同軸上にガイドレール上を転動する一対のサブローラを配設したことにより、ウェッジからなるカム機構とリンクからなる梃子機構の2重の倍力機構によってブレーキ機構をコンパクトにでき、しかも、アクチュエータからの押圧力によりウェッジを介して倍力機構に発生する後退力をメインローラの両側に同軸上に配設された一対のサブローラを介して確実にガイドレール上に転嫁して分散でき、倍力機構を構成する各部品自体が荷重を負担して変形する等の悪影響を受けることがなく、倍力機構の摺動抵抗も少なく倍力効率を高めることができる。しかも、メインローラが押し広げられて回転する方向と反対方向にサブローラがガイドレール上を転動する回転差異により、滑りが少なくころがり抵抗が大部分を占めて、さらに摺動抵抗の少ない倍力機構が実現できる。
【0009】
また、前記一対のリンクの基端部をストラットの両端部に軸支するとともに、前記ウェッジとメインローラとリンクとストラットにより台形型四辺リンクを構成する場合は、ブレーキアームが叩かれ衝撃等の外因により頻繁に変位しても、ストラットとともに該ストラットに軸支されたリンクが揺動することで吸収され、ウェッジとメインローラとに外因による力を及ぼすことが抑制されるので、倍力機構を構成するウェッジ部に悪影響を与えることが防止される。さらに、前記隙間調整機構の両端部が球面軸受を介してリンクおよびブレーキアームの基端部と連結された場合は、ブレーキアームとリンクとの間の全方位の変位に対して隙間調整機構を介してこれを吸収して適正に対応させることができる。
【0010】
さらにまた、前記一対のサブローラが転動するガイドレール面にサブローラの軸方向の移動を規制するR段差部を形成した場合は、サブローラ自体の脱落を防止できるのはもとより、倍力機構を構成するリンクが揺動する際のサブローラの蛇行動を有効に規制し、円滑なリンク揺動を促進して倍力機構における倍力効率を低下させることがない。さらに、メインローラへの偏荷重を防止できる。また、前記ウェッジの傾斜面が、少なくとも2つの異なった面角度にて形成された場合は、制動初期のパッドクリアランスを小さなウェッジストークにより迅速に詰めるとともに、制動後半には確実な制動力を得るように高い倍力比率を得ることも可能となり、応答性が良く確実な倍力が得られるブレーキ機構が実現できる。
【0011】
さらに、前記隙間調整機構を、前記メインローラの過剰ストロークによって前記リンクとブレーキアームの基端部との間の間隔を拡大するように調整される自動隙間調整機構とした場合は、ブレーキパッドの摩耗によりメインローラが過剰ストロークを生じることにより、自動的にリンクとブレーキアームの基端部との間隔が適正に調整されるので、ブレーキパッドが摩耗しても自動的にブレーキアームの過剰揺動ひいてはウェッジの過剰ストロークが抑制調整される。さらにまた、前記一対のリンクの基端部とストラットの両端部との軸支部に、前記台形型四辺リンクを原形状に復元するダブルトーションスプリングを配設した場合は、ブレーキアームのそれぞれが左右非対称にて叩かれ衝撃等の外因により頻繁に変位しても、台形型四辺リンクを容易に原形状に復元させることができ、その結果として、左右のパッドクリアランスを適正(均等)に発生させることを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明に係る3連ローラウェッジ機構を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の3連ローラウェッジ機構を示す図で、図1(A)は要部平断面図、図1(B)は3連ローラ部を示す図1(A)のB−B断面図、図2は本発明の3連ローラウェッジ機構が使用されたブレーキ装置の全体側面図、図3は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構からなる倍力機構とブレーキアームとの関連を示す要部平面図、図4(A)は図3のC−C断面図、図4(B)は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構からなる倍力機構の斜視図、図5は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構の分解斜視図、図6はガイドレールとリンクアセンブリの分解斜視図、図7(A)はリンクの斜視図、図7(B)はアジャスタレバーの斜視図、図8(A)はブレーキパッド新品の制動初期にブレーキパッドからの衝撃が加わる叩かれ状態の平断面図、図8(B)はブレーキパッド摩耗時のフル制動時にブレーキパッドからの衝撃が加わる叩かれ状態の平断面図である。
【0013】
本発明の3連ローラウェッジ機構の基本的な構成は、図1に示すように、アクチュエータとしてのエアーチャンバ4により軸動して車輪軸と直交状に配置されたウェッジロッド20と、該ロッド20に装着され対向する傾斜面を有するウェッジ5と、これら傾斜面上を転動する一対のメインローラ6、6の動きに応じて揺動する一対のリンク12、12と、これらリンク12、12の中間部とブレーキアーム3、3の基端部とを隙間調整機構14、14を介して連結し、メインローラ6、6の動きに応じてブレーキアーム3、3の基端部を倍力押圧拡開してその揺動端部に配設されたブレーキパッド24、24を押圧作動させるディスクブレーキ装置のローラウェッジ機構において、前記メインローラ6の両側に同軸上にガイドレール(11)上を転動する一対のサブローラ7、7を配設したことを特徴とする。
【実施例1】
【0014】
本発明の3連ローラウェッジ機構が設けられるブレーキ装置本体は、図2に示すように、台車等に取り付けられる上部(図2では右側が上部)の取付けサポート1と、該サポート1にボルト等により固定される下部のキャリパボディ2とから構成される。該キャリパボディ2内にはブレーキ用のエアーチャンバ4が収容され、該エアーチャンバ4の軸動(図2の上下方向)により、テーパカム状のウェッジ5を介してメインローラ6およびその軸方向両側に軸支されたサブローラ7、7からなる3連ローラが押し広げられる。これによって図1(A)に示すように、上端部に3連ローラが軸支され下端部がストラット15の両端部に軸支された一対のリンク12、12が外側に揺動することで、隙間調整機構である一対のアジャスタ14を介してブレーキアーム3の基端部がそれぞれ外側に移動させられる。これにより、図2に示すように、ブレーキアーム3が中間部の揺動軸21を軸心として揺動し、その揺動端部にホルダ軸22により首振り自在に軸支されブレーキパッドを装着したパッドホルダ23を図示省略のディスクロータの側面に押し付け(図2の紙背側へ)てブレーキ動作が行われる。
【0015】
3連ローラウェッジ機構の要部平断面図である図1(A)に示すように、キャリパボディ2内に収容されたエアーチャンバ4は、好適には空気圧等の流体圧(正圧あるいは負圧のいずれも可能)を動力源とする。ブレーキチャンバ4は、内部に配設されたコイルばね等の復元力によりブレーキ解除方向に付勢されている。これらのコイルばねをダイヤフラムを介して対向側に配設された正圧により圧縮するか、コイルばね側に負圧を導入してコイルばねを圧縮するかして、ブレーキ動作を行うように構成される。制動時にはエアーチャンバ4に接続されたウェッジロッド20のリターンスプリング16の復元力に抗する進出(図1(A)の図面下方への)に伴い、該ウェッジロッド20に固定されたテーパカム状のウェッジ5がその傾斜面により一対のメインローラ6、6を外側に押し広げる。ウェッジ5の傾斜面は、後述する図8(B)に明瞭に示されるように、少なくとも2つの異なった面角度(先端側が大角度の急傾斜面5B、基部側が小角度の緩傾斜面5A)にて形成される。このような構成により、制動初期のパッドクリアランスを小さなウェッジストークにより迅速に詰めるとともに、制動後半には楔作用により確実な制動力を得ることができるので、応答性が良く確実な倍力が得られるブレーキ機構が実現できる。
【0016】
図1(B)に示すように、前記一対のメインローラ6が軸支されるローラ軸ボルト9の軸方向両側にはそれぞれガイドローラであるサブローラ7、7が軸支される。これらのサブローラ7、7はリンク12の2又状の上端部(図5参照)の外側に配設される。したがって、メインローラ6は前記リンク12の2又状の上端部の内側に配設される。符号10はこれらメインローラ6およびサブローラ7、7を軸支するローラ軸ボルト9の端部を緊締するナットを示す。また、図1(B)にて理解されるように、ウェッジ5はリンク12の2又状の上端部内に位置するため、ウェッジ5がメインローラ6に対して回転方向の力を受けてもリンク12の2又状の内側面によって規制されるので、ウェッジ5がメインローラ6との摺接から外れて脱落することが防止される。
【0017】
図3は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構からなる倍力機構とブレーキアームとの関連を示す要部平面図である。本発明では、テーパカム状の傾斜面を有するウェッジ5とメインローラ6との楔作用による倍力機構に加えて、台形型四辺リンク機構におけるリンク12の揺動による梃子作用による倍力機構をも備えるものである。これらの2つの倍力機構の組合せにより、コンパクトで省スペースのブレーキ装置によるも大きな制動力が得られる。つまり、ウェッジ5とメインローラ6との楔作用による倍力作用に加えて、ベアリング軸ボルト19を中心としたリンク12の揺動の際には、リンク12の中間部に軸支されたアジャスタ14からのブレーキアーム3への出力は梃子作用により倍力作用を伴う。一方、前記一対のリンク12、12の基端部がストラット15に軸支されており、ブレーキアーム3、3を通じて外因により車輪すなわちディスクロータからの衝撃により変位するに際して、リンク12はメインローラ6側を中心としてストラット15側が変位する(図8参照)。これにより、ブレーキアーム3が叩かれ衝撃等の外因により頻繁に変位しても、ストラット15に軸支されたリンク12が揺動することで吸収され、ウェッジ5とメインローラ6とに外因による力を及ぼすことが抑制されるので、倍力機構を構成するウェッジ部に悪影響を与えることが防止される。
【0018】
図4(A)は図3のC−C断面図、図4(B)は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構からなる倍力機構の斜視図であり、ストラット15とリンク12との関連構成がよく理解される。図4(A)は図3のC−C断面すなわちストラット15の両端部に軸支されたリンク12、12のベアリング軸ボルト19部での断面図であり、一対のストラット15、15はウェッジロッド20とはフリーな状態にあることが理解される。リンク12の基端部を中間部に、ストラット15、15を両端部に軸支したベアリング軸ボルト19には、リンク12の基端部とストラット15との間にダブルトーションスプリング17、17が嵌挿される。図4(B)に示すように、ダブルトーションスプリング17の一端部はリンク12に、その他端部はストラット15に係止される(図示の例は1つのスプリングの中間部がリンク12に、両端部が一対のストラット15のそれぞれに係止されているが、各ベアリング軸ボルト19宛に2つのスプリングを配設してもよい)。これにより、前述したように、ブレーキアーム3が叩かれ衝撃等の外因により頻繁に変位してストラット15に軸支されたリンク12が揺動した後には、ダブルトーションスプリング17により迅速に台形型四辺リンク機構を原位置(形状)に復元することができる。
【0019】
図5は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構の分解斜視図である。一対のリンク12、12の基端部が一対のストラット15、15の両端部にダブルトーションスプリング17、17を介してベアリング軸ボルト19により浮動状態にて軸支され、前述したように、各リンク12の2又状の上端部の内外にメインローラ6およびサブローラ7、7がローラ軸ボルト9により軸支配設される。リンク12の構成は図7(A)に明瞭に示され、2又状の上端部にはローラ軸ボルト9が挿通される上部ボルト孔12Aが、中間部には内側球面軸受13Bが収容される球面軸孔12Cが、下端部にはベアリング軸ボルト19が挿通される下部ボルト孔12Bがそれぞれ形成されている。各サブローラ7、7、7、7はガイドレール11における上面に対向配置された転動面11C上を転動するように構成される。該転動面11Cにはサブローラ7の軸方向(図示の例では外側)への移動を規制するR段差部11Dが形成される。このR段差部11Dによりサブローラ7自体の脱落を防止できるのはもとより、倍力機構を構成するリンク12が揺動する際のサブローラ7の蛇行動を有効に規制し、円滑なリンク揺動を促進して倍力機構における倍力効率を低下させることがない。さらには、メインローラ6がウェッジ5により押し広げられて回転する方向と反対方向にサブローラ7がガイドレール11の転動面11C上を転動する回転差異により、滑りが少なくころがり抵抗が大部分を占めて、さらに摺動抵抗の少ない倍力機構が実現できる。
【0020】
また、図5では、リンク12の中間部にブレーキアーム3との間に介設されるアジャスタ14の構成を明瞭に示している。内側球面軸受13Bを収容したリンク12の中間部に、ラチェット歯14Cを中間外周部に設置したアジャスタナット14Bと、該アジャスタナット14Bの筒状部の内部に刻設した雌螺子に螺合される雄螺子部を刻設したアジャスタスクリュ14Aとから構成されるアジャスタ14を装着するものである。符号14Dはアジャスタレバーを示し、一端の固定基端部14Gが一方のガイドレール11の端面にビス止めされ、上部にはメインローラ6が過剰ストローク時に当接するテーパ部14Eが、下方の他端部には前記アジャスタナット14Bにおけるラチェット歯14Cを一方向にのみ回転させる爪部14Fがそれぞれ形成される。アジャスタレバー14Dは復元力のあるばね材から構成される。図7(B)はアジャスタレバー14Dのみを取り出した斜視図である。
【0021】
図6はガイドレールとリンクアセンブリの分解斜視図である。ここでは、リンク12とストラット15とのダブルトーションスプリング17を介した軸支状態がよく理解される。好適にはニードルベアリング18を介して軸支される。また、ここでは、ガイドレール11における対向する一対のレール部11Aを連結する連結支持部11Bが明瞭に示されており、該連結支持部11Bの中心部に穿設された軸孔11Eにブッシュ等を介してウェッジロッド20が挿通されることが明瞭に理解される。(図6ではウェッジロッド20の図示は省略されている。)このことは、ガイドレール11における転動面11Cとウェッジロッド20の直角度を機械加工的に現出し易くできる。
【0022】
図8は自動隙間調整機構(アジャスタ)14の調整前後の状態を説明するもので、図8(A)はブレーキパッド新品の制動初期にブレーキパッドからの衝撃が加わる叩かれ状態の平断面図、図8(B)はブレーキパッド摩耗時のフル制動時にブレーキパッドからの衝撃が加わる叩かれ状態の平断面図である。ブレーキパッド(図1(A)の符号24)が摩耗すると、図8(B)に示すように、ブレーキアーム3の揺動が大きくなり自動隙間調整機構14を介したリンク12の揺動も大きくなる。したがって、ウェッジ5を設けたウェッジロッド20のストロークも大きく過剰となる。それによって、メインローラ6の外側への移動も大きくなり、アジャスタレバー14Dにおけるテーパ部14Eをアジャスタナット14B側へ押し下げることとなる。図5の分解斜視図で説明すると、アジャスタレバー14Dは一端の固定基端部14Gを中心として撓み、他端部の爪部14Fがアジャスタナット14Bにおけるラチェット歯14Cに摺接(回転はさせない)して充分に下方まで移動する、ブレーキ動作の解除によってアジャスタレバー14Dが自らの復元力により原位置に復帰する際に、爪部14Fがラチェット歯14Cに噛合してアジャスタナット14Bを一方向にのみ回転させる。これにより、アジャスタナット14B内に螺合させるアジャスタスクリュ14Aとの間の軸方向距離を拡大させて自動隙間調整がなされ、ブレーキパッド摩耗によるブレーキアーム3の過剰揺動を抑制することができる。
【0023】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、アクチュエータの種類、エアーチャンバの場合、(正圧型、負圧型のいずれもが採用可能である)の形状、形式(ダイヤフラム型、ピストン型等)、エアーチャンバとウェッジロッドとの接続形態、ウェッジロッドへのウェッジの装着形態、ウェッジにおける傾斜面の形成形態(少なくとも2つの異なった面角度の角度の選定、メインローラに接触する2面のみに傾斜面が形成されるが、例えばウェッジを円錐体としてメインローラをウェッジ円錐面に適合する凹円錐溝を有する断面としてぶれを抑制するように構成することもできる)、リンクの形状、形式、ストラットの形状、形式、リンクのストラットへの軸支形態、ストラットにおけるリンクの原位置復帰を行うダブルトーションスプリングの形状、形式およびその配設部位、リンクにおけるメインローラおよびサブローラの軸支形態、リンクおよびブレーキアーム基端部への隙間調整機構の介設形態(球面軸受を介した介設の他、適宜の自在継手を用いてもよい)、隙間調整機構の形状、形式(アジャスタナットとアジャスタスクリュとの螺合の他、ターンバックル状の調整機構も適宜採用される。また、メインローラの過剰ストロークによってリンクとブレーキアームの基端部との間の間隔を拡大するように調整される自動隙間調整機構を好適とするが、手動調整のものも本発明の範疇内である)、自動隙間調整機構の形状、形式(サブローラによってアジャスタレバーが揺動するように構成することもできる。)、ガイドレールの形状、形式、ガイドレール面におけるサブローラの転動形態、R段差部の形状(好適にはサブローラの外側に転動面に沿って形成されるが、サブローラを複輪状としそれらの間の溝をガイドレール面に形成した突条にガイドさせるように構成することもできる)、ウェッジとメインローラとリンクとストラットによる台形型四辺リンクの形状、形式等については適宜選定できる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の3連ローラウェッジ機構を示す図で、図1(A)は要部平断面図、図1(B)は3連ローラ部を示す図1(A)のB−B断面図である。
【図2】同、本発明の3連ローラウェッジ機構が使用されたブレーキ装置の全体側面図である。
【図3】同、3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構からなる倍力機構とブレーキアームとの関連を示す要部平面図である。
【図4】図4(A)は図3のC−C断面図、図4(B)は3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構からなる倍力機構の斜視図である。
【図5】同、3連ローラウェッジ機構と台形型四辺リンク機構の分解斜視図である。
【図6】同、ガイドレールとリンクアセンブリの分解斜視図である。
【図7】図7(A)はリンクの斜視図、図7(B)はアジャスタレバーの斜視図である。
【図8】図8(A)はブレーキパッド新品の制動初期にブレーキパッドからの衝撃が加わる叩かれ状態の平断面図、図8(B)はブレーキパッド摩耗時のフル制動時にブレーキパッドからの衝撃が加わる叩かれ状態の平断面図である。
【図9】従来例を示す鉄道車両用ディスクブレーキ装置の説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 サポート
2 キャリパボディ
3 ブレーキアーム
4 エアーチャンバ
5 ウェッジ
6 メインローラ
7 ガイドローラ(サブローラ)
8 カラー
9 ローラ軸ボルト
10 ナット
12 リンク
14 アジャスタ(隙間調整機構)
16 リターンスプリング
20 ウェッジロッド
24 ブレーキパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータにより軸動して車輪軸と直交状に配置されたウェッジロッドと、該ロッドに装着され対向する傾斜面を有するウェッジと、これら傾斜面上を転動する一対のメインローラの動きに応じて揺動する一対のリンクと、これらリンクの中間部とブレーキアームの基端部とを隙間調整機構を介して連結し、メインローラの動きに応じてブレーキアームの基端部を倍力押圧拡開してその揺動端部に配設されたブレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置のローラウェッジ機構において、前記メインローラの両側に同軸上にガイドレール上を転動する一対のサブローラを配設したことを特徴とする3連ローラウェッジ機構。
【請求項2】
前記一対のリンクの基端部をストラットの両端部に軸支するとともに、前記ウェッジとメインローラとリンクとストラットにより台形型四辺リンクを構成することを特徴とする請求項1に記載の3連ローラウェッジ機構。
【請求項3】
前記隙間調整機構の両端部が球面軸受を介してリンクおよびブレーキアームの基端部と連結されたことを特徴とする請求項1または2に記載の3連ローラウェッジ機構。
【請求項4】
前記一対のサブローラが転動するガイドレール面にサブローラの軸方向の移動を規制するR段差部を形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の3連ローラウェッジ機構。
【請求項5】
前記ウェッジの傾斜面が、少なくとも2つの異なった面角度にて形成されたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の3連ローラウェッジ機構。
【請求項6】
前記隙間調整機構を、前記メインローラの過剰ストロークによって前記リンクとブレーキアームの基端部との間の間隔を拡大するように調整される自動隙間調整機構としたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の3連ローラウェッジ機構。
【請求項7】
前記一対のリンクの基端部とストラットの両端部との軸支部に、前記台形型四辺リンクを原形状に復元するダブルトーションスプリングを配設したことを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の3連ローラウェッジ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−150432(P2009−150432A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326760(P2007−326760)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】