説明

3重コーティング乳酸菌の製造方法及びナノ粒子コーティング方法、その方法で製造された3重コーティング乳酸菌及びそれを含む製品

本発明は、 3重コーティングされた乳酸菌の製造方法、その方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌及びこれを含む製品に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、蛋白質、多糖類及びナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌の製造方法、上記方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌及びこれを含む製品に関するものである。本発明の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法は、従来の二重コーティングされた乳酸菌に比べて耐酸性、耐胆汁性及び加速試験安定性に優れた乳酸菌を製造できる方法である。従って、本発明により製造された乳酸菌は、摂取時に胃酸または胆汁酸により死滅して乳酸菌本来の生理活性機能を失わず、発酵乳、加工乳、醤油類発酵食品、キムチ発酵食品、機能性飲料、機能性食品、一般食品及び化粧品などの多様な製品に効果的に用いられ得る。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3重コーティングされた乳酸菌の製造方法、その方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌及びこれを含む製品に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、蛋白質、多糖類及びナノ粒子により3重コーティングされた乳酸菌の製造方法、上記方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌及びこれを含む製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌(lactic acid bacteria)は、ラクト酸とも呼ばれ、哺乳類の腸内に棲息して雑菌による異常発酵を防止し、整腸剤としても用いられる有用な細菌である。例えば、ブルガリア乳酸菌(L. bulgarcus)は、最も古くから知られた乳酸菌であり、ヨーグルトの製造に用いられ、チーズや発酵バターの製造時のスタータとしても用いられる。また、好気性乳酸菌(L. acidophilus)は、ヒト及び全ての哺乳類とその他の動物の腸に存在し、バターまたは牛乳の製造や腸内の自己中毒の治療にも用いられる。一方、乳酸球菌(L. lactis)はDL−乳酸を生成し、常に牛乳中に存在してバターまたはチーズの製造に用いられ、酪農用乳酸菌として最も重要な菌である。
【0003】
上記のように有用な乳酸菌は、腸に定着し、腸管運動の活性化、有害菌の抑制、ビタミン及び免疫増強物質の促進など多様な生理活性効果を発揮するが、人体の構造上、ヒトが乳酸菌を摂取すれば、乳酸菌が胃酸または胆汁酸により死滅して乳酸菌本来の生理活性機能を発揮できなくなる場合が多かった。
【0004】
上記のような問題を解決するために、乳酸菌をコーティングする方法が開発されたが、従来の乳酸菌のコーティング技術としては、カプセル剤を用いた腸用コーティング剤とゼラチン、糖類、ガム類などを用いたマイクロカプセル化(Microencapsulation)工程などがあった。
【0005】
具体的には、従来乳酸菌のコーティング技術は、乳酸菌体の回収工程以後にコーティング剤を投入する別途のコーティング工程により行われることを特徴とした。さらに具体的には、従来の乳酸菌コーティング工程は、乳酸菌粉末に非常に微細な球形のビード(Bead)形成能がある水溶液状のコーティング剤組成物が加えられ、攪拌及び混合後に凍結乾燥することを特徴とした。
【0006】
上記従来の乳酸菌のコーティング技術は、常法で培養された乳酸菌体を回収し、乾燥させて粉末化した後、コーティング剤組成物を混合して攪拌する工程がなされるため、高価なコーティング剤及び工程の追加による費用負担が発生し、その他微生物の混入が懸念されるため、無菌操作に困難が発生する問題が指摘され、また、液状コーティング後に凍結乾燥する過程では、優れた生存率及び安定性を確保するために、凍結保護剤及び安定剤の使用が必要であり、材料間の相互作用または工程の重複が発生する問題があった。
【0007】
上記のような問題を解決するために、空気、水分との直接的な反応が抑制され、耐熱性、耐酸性及び耐胆汁性が強化され、生菌安定性及び加工安定性が増強された二重コーティングされた乳酸菌の製造方法(大韓民国特許出願第2001−10397号)が開発された。具体的には、上記製造方法は、低廉な蛋白質素材を用いて蛋白質で単一コーティングされた乳酸菌を製造した後、キサンタンガム(xantan gum)、セルロース(cellulose)またはレバン(levan)のような多糖類を用いて二重コーティングすることを特徴とした。
【0008】
しかし、上記改善された従来乳酸菌のコーティング技術も乳酸菌の表面を完全にはコーティングできず、上記方法で製造された乳酸菌は、耐熱性、耐酸性及び耐胆汁性が十分に優れない問題が依然として指摘された。
【0009】
一方、ナノ技術は、ナノサイズの物質(ナノ物質)が有する独特の性質と現象を見出してナノ物質を整列させ、組み合わせて非常に有用な性質の素材やシステムを生産する技術を言う。現在まで開発されたナノ物質の製造方法としては、燃焼、爆発、ショックウェーブ(shock wave)を活用する乾式工程(dry process)とゾル−ゲルプロセス(sol-gel process)、超臨界流体活用技術、化学反応、溶媒分散、沈殿、蒸着、有機溶媒などを用いる湿式工程(wet-process)に大別される。最近は、上記のようなナノ技術を食品に適用することにより、これまで摂取が困難であった食品素材を一部ではなく全体としての摂取を簡単にすることができ、化学的又は熱的に加工されなければならなかった食品をそのまま摂取できる。また、ナノ粒子をカプセル化することにより変質を防止できるだけでなく、人体内の作用部位での主要作用の調節が可能になると見通されている。しかし、上記のようなナノ技術が乳酸菌のコーティング方法として活用された場合は全くない。
【0010】
これに対し、本発明者は、ナノ技術を用いて、耐熱性、耐酸性及び耐胆汁性に優れた蛋白質、多糖類及びナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌の製造方法を開発することにより、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、蛋白質、多糖類及びナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌の製造方法、上記方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌及びこれを含む製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するために、本発明は、
(a)蛋白質水溶液に蛋白質分解酵素剤を加えて酵素処理する段階;
(b)上記(a)段階で酵素処理された蛋白質水溶液に、ブドウ糖、酵母抽出物、肉エキス、イオン成分及び乳酸菌を添加した後、発酵させて単一コーティングされた乳酸菌を製造する段階;
(c)上記(b)段階で製造された単一コーティングされた乳酸菌に多糖類水溶液を混合して二重コーティングされた乳酸菌を製造する段階;及び
(d)上記(c)段階で製造された二重コーティングされた乳酸菌にナノ粒子をコーティングして3重コーティングされた乳酸菌を製造する段階を含むことを特徴とする3重コーティングされた乳酸菌の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記製造方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記3重コーティングされた乳酸菌を含む製品を提供する。
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法は、
(a)蛋白質水溶液に蛋白質分解酵素剤を加えて酵素処理する段階;
(b)上記(a)段階で酵素処理された蛋白質水溶液に、ブドウ糖、酵母抽出物、肉エキス、イオン成分及び乳酸菌を添加した後、発酵させて単一コーティングされた乳酸菌を製造する段階;
(c)上記(b)段階で製造された単一コーティングされた乳酸菌に、多糖類水溶液を混合して二重コーティングされた乳酸菌を製造する段階;及び
(d)上記(c)段階で製造された二重コーティングされた乳酸菌にナノ粒子をコーティングして3重コーティングされた乳酸菌を製造する段階を含むことを特徴とする。
【0016】
上記(a)段階で蛋白質水溶液は、これに限定されないが、好適には、大豆分離蛋白または脱脂粉乳を混合して製造された1〜10%の水溶液を言い、蛋白質分解酵素剤は、これに限定されないが、好適には、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン及びエラスターゼからなる群から選択された酵素を意味する。
【0017】
本発明の一実施例では、大豆分離蛋白及び脱脂粉乳を水に懸濁して蛋白質水溶液を製造し、製造された水溶液に蛋白質分解酵素剤(Amano社、Protease-N)を添加した(<実施例1−1>を参照)。
【0018】
上記(b)段階で上記(a)段階の酵素処理された蛋白質水溶液に加えられたブドウ糖、酵母抽出物、肉エキス、イオン成分は、乳酸菌の生存及び増殖に必要な要素であり、これに限定されないが、好適には、上記(a)段階の酵素処理された蛋白質水溶液の重量に対してブドウ糖を1〜5%、酵母抽出物を0.1〜1.5%、肉エキスを0.1〜1.5%、イオン成分を0.01〜0.1%を添加できる。また、上記イオン成分は、これに限定されないが、好適には、クエン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン及び塩化ナトリウムからなる群から選択された1つ以上の成分を意味する。また、上記乳酸菌は、これに限定されないが、好適には、ストレプトコーカス(Streptococcus)属、ラクトコーカス(Lactococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ペジオコックス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ウェイッセラ(Weissella)属及びビフィオバクテリアム(Bifidobacterium)属の菌株からなる群から選択された1つ以上の乳酸菌を意味し、上記乳酸菌は、好適には、1010〜1011CFU/mlに濃縮して用いられる。上記(b)段階により上記乳酸菌は、蛋白質で単一コーティングされるようになり、これを通じて耐熱性、耐酸性、耐胆汁性を有するようになるが、上記単一コーティングだけでは乳酸菌の表面が完全にコーティングされない問題があった。また、乳酸菌を培養する前に殺菌工程を追加でき、乳酸菌発酵液を分離及び濃縮する工程を追加し、残存蛋白質成分が菌体と共に浸漬しながら効果的なコーティングを誘導できる。
【0019】
本発明の一実施例では、上記(a)段階の酵素処理された蛋白質水溶液に、ブドウ糖、肉エキス、酵母抽出物、及びリン酸二カリウム、クエン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンで構成されたイオン成分を添加し、殺菌した後、ラクトバシラスアシドフィルス(lactobacillus acidophilus CBT-LH)乳酸菌を投与した後、連続式遠心分離機を用いて分離及び濃縮して単一コーティングされた乳酸菌を製造した(<実施例1−1>を参照)。
【0020】
上記(c)段階で上記(b)段階の単一コーティングされた乳酸菌に多糖類水溶液を混合し、多糖類で二重コーティングされた乳酸菌を製造できる。上記多糖類水溶液は、これに限定されないが、好適には、上記(b)段階の単一コーティングされた乳酸菌の重量に対して1〜10%の多糖類が含まれた多糖類水溶液を意味する。また、上記多糖類は、これに限定されないが、好適には、キサンタンガム(xantan gum)、セルロース(cellulose)及びレバン(levan)からなる群から選択された1つ以上の多糖類を意味する。上記(c)段階により、乳酸菌は、多糖類で二重コーティングされるようになり、多糖類が保有している強力な接着力により菌体間の結合が発生し、非常に緻密な構造を有する菌塊を形成できる。特に、多糖類は、水溶液状態である時、酸性の条件では溶解度が極めて低く、中性以上のpHでは容易に解離、溶出するため、酸性条件での乳酸菌の安定性及び腸内定着性が極めて高くなる。
【0021】
また、上記(c)段階で製造された二重コーティングされた乳酸菌を凍結乾燥する必要がある場合、上記(c)段階の二重コーティングされた乳酸菌に凍結保護剤水溶液を添加した後、常法により凍結乾燥する段階を追加できる。上記凍結保護剤水溶液は、これに限定されないが、好適には、上記(b)段階の単一コーティングされた乳酸菌の重量に対して1〜10%の凍結保護剤成分が含まれた水溶液を意味し、上記凍結保護剤は、これに限定されないが、好適には、トレハロース、マルトデキストリン、マンニトール及び脱脂粉乳成分からなる群から選択された1つ以上の成分を意味する。
【0022】
本発明の一実施例では、トレハロース、マンニトール、マルトデキストリンで組成された凍結保護剤水溶液及びキサンタンガム、セルロース、レバンで組成された多糖類水溶液に上記(b)段階で製造された単一コーティングされた乳酸菌を混合して凍結乾燥した(<実施例1−1>を参照)。
【0023】
上記(d)段階でナノ粒子は、これに限定されないが、好適には、固形脂質ナノ粒子(solid lipid nanoparticles、SLN)を言い、上記固形脂質ナノ粒子は、好適には、ゼラチン(gelatin)、カゼイン(casein)、レシチン(lecithin)、デキストラン(dextran)、アカシア・ゴム(gum acacia)、コレステロール(cholesterol)、ステアリン酸(stearic acid)、ステアリン酸カルシウム(calcium stearate)、ソルビタンエステル(sorbitan ester)、リン酸塩(phosphate)、セルロース(cellulose)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)及びこれらの組合せからなる群から選択された1つ以上であることを言い、最も好適には、ステアリン酸と大豆レシチンを言う。上記物質の大きさは、これに限定されないが、100〜200nmであることが望ましい。
【0024】
一方、上記ナノ粒子を部分的に分離するために、通常のナノ粒子製造方法により、ろ過、精密ろ過、遠心分離、超遠心分離、沈殿、傾斜分離またはこれらを組み合わせた段階をさらに含むことができる。また、懸濁液に脱安定化(destabilising)する段階を含むことができるが、脱安定化工程は、上述したろ過、精密ろ過、遠心分離、超遠心分離または沈殿工程の前に行われることもできる。具体的には、上記脱安定化段階は、懸濁液に脱安定化液体を添加する段階を含むことができる。脱安定化液体は、極性であってもよく、非極性液体と混和されてもよい。脱安定化液体は、水と混和されてもよい。例えば、脱安定化液体は、アセトン、エタノール、メタノールまたは他の液体であってもよい。脱安定化段階は、例えば、懸濁液が不安定になる温度に懸濁液の温度を変化させる段階を含むことができる。状況に応じて、変化段階は、加熱段階であってもよく、冷却段階であってもよい。
【0025】
また、ナノ粒子を洗浄する段階を含むこともできるが、上記洗浄段階は、ナノ粒子を洗浄液体(水性または有機性)と接触させる段階及び洗浄液体からナノ粒子を分離する段階を含むことができる。例えば、洗浄段階の一部または全部は、洗浄液体中にナノ粒子を懸濁させる段階、任意に集められた洗浄液体と層状ナノ粒子を攪拌する段階、及び、例えば、上記分離方法のうち任意の方法を用いて洗浄液体からナノ粒子を分離する段階を含むことができる。または、洗浄段階の一部または全部は洗浄液が、例えば、フィルタ内に保有され得るナノ粒子を通過する段階を含むことができる。洗浄は、相分離により傾斜分離じょうご(decantation funnel)を用いて行われ得る。水性洗浄液体は、水または水性液体、例えば、塩溶液であってもよい。有機性洗浄液体は、溶媒であってもよく、極性または非極性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジクロロメタン、クロロホルム、エチルアセテート、トルエンまたは他の溶媒であってもよく、溶媒の混合物であってもよい。洗浄段階は、約10〜70℃、または約10〜50、10〜30、10〜20、20〜70、50〜70、20〜50または30〜50℃に懸濁液を加熱または冷却する段階を含むことができ、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65または70℃に懸濁液を加熱または冷却する段階を含むことができる。加熱または冷却は、システムの状態を変化させることにより、システムが単一の安定した相を形成することを防止する温度であり得る。システムは、また、溶媒の混合物を用いて状態を変化させることにより、安定した単一相を形成することが防止され得る。
【0026】
また、ナノ粒子を流動層乾燥する段階を含むこともできるが、上記流動層乾燥段階は、ナノ粒子を加熱する段階を含むことができる。例えば、約30〜80℃、または約30〜60、30〜40、40〜80、60〜80または40〜60℃であってもよく、約30、35、40、45、50、55、60、65、70、75または80℃であってもよい。そして、乾燥段階は、気体の流れをナノ粒子の上に、またはコーティングしようとする粉末を通過させる段階を含むことができる。気体は、ナノ粒子に対して不活性である気体であってもよく、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素またはこれらの混合物であってもよく、乾燥されてもよい。乾燥段階は、ナノ粒子に部分真空を加える段階を含むことができる。部分真空は、例えば、約0.01〜0.5大気、または、約0.01〜0.1、0.01〜0.05、0.1〜0.5、0.25 〜0.5、0.05〜0.1または0.1〜0.25大気の絶対圧力を有することができ、約0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4または0.5大気の絶対圧力を有することができる。
本発明の一実施例では、ステアリン酸と大豆レシチンのアルコール基を消去し、溶解させて水相(W/Oタイプ)を製造した後、油相(O/Wタイプ)に入れて変性澱粉懸濁液を製造した後、上記懸濁液を分散させ、フィルタに通過させて100〜200nmの大きさのナノ粒子を製造した(<実施例1−2>を参照)。
【0027】
上記のように製造されたナノ粒子は、上記(c)段階の二重コーティングされた乳酸菌の表面をコーティングして乳酸菌の生存率を増加させる役割をし、好適には、上記(c)段階の二重コーティングされた乳酸菌総重量に対して0.1〜10重量%の範囲で用いられ、より好適には、 0.5〜3重量%の範囲で用いられる。
【0028】
上記のように製造されたナノ粒子で3重コーティングするために、通常用いられるナノ粒子コーティング方法を用いることができ、当業者が容易にナノ粒子と乳酸菌の種類に応じてコーティング方法を選択できる。上記通常用いられるナノ粒子コーティング方法には、乳酸菌の活性が維持される方法であれば、これに限定されないが、物理的コーティング方法(ガス蒸発−凝縮法、機械的合成法、塗布法)または化学的コーティング方法(沈殿法、噴霧乾燥法、固相合成法)が含まれるが、物理的コーティング方法が望ましい。上記物理的コーティング方法には、これに限定されないが、乳酸菌の表面にナノ粒子を塗布する方法を含む。
【0029】
本発明の一実施例では、上記(c)段階の二重コーティングされた乳酸菌と上記製造されたナノ粒子を循環流動層乾燥コーティング機(Circulating Fluidized Bed Dry Coater: CFBDC)を用いて3重コーティングされた乳酸菌を製造した(<実施例1−2>を参照)。
上記(d)段階により、乳酸菌の表面は、ナノ粒子により完全にコーティングされ(<実験例1−4>を参照)、これにより、従来の二重コーティングされた乳酸菌に比べて耐酸性(<実験例1−1>を参照)、耐胆汁性(<実験例1−2>を参照)及び加速試験安定性(<実験例1−3>を参照)に優れる。その他にも4℃の冷蔵保管実験や25℃及び37℃での保管実験でも従来の二重コーティングされた乳酸菌に比べて本発明による乳酸菌が多数生存し(<実験例1−5>及び<実験例1−6>を参照)、殺菌による乳酸菌の数の変化も大きな差を示した(<実験例1−7>を参照)。
【0030】
また、本発明の3重コーティングされた乳酸菌は、上記のような方法で製造されたことを特徴とする。従って、本発明の3重コーティングされた乳酸菌は、従来のコーティングされていない乳酸菌や単一または二重コーティングされた乳酸菌に比べて耐酸性、耐胆汁性及び加速試験安定性などが非常に優れ、胃酸または胆汁酸により死滅することなく、乳酸菌本来の生理活性機能を維持できる。
【0031】
また、本発明は、上記3重コーティングされた乳酸菌を含む製品を提供することを特徴とし、上記製品は、これに限定されないが、好適には、発酵乳、加工乳、醤油類発酵食品、キムチ発酵食品、機能性飲料、機能性食品、一般食品、医薬品及び化粧品からなる群から選択された製品であり得る。
【発明の効果】
【0032】
以上、詳察したように、本発明の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法は、ナノ粒子を用いて乳酸菌をコーティングすることにより、従来の二重コーティングされた乳酸菌に比べて耐酸性、耐胆汁性及び加速試験安定性に優れた乳酸菌を製造できる方法である。従って、本発明により製造された乳酸菌は、摂取時に胃酸または胆汁酸により死滅して乳酸菌本来の生理活性機能を失わず、発酵乳、加工乳、醤油類発酵食品、キムチ発酵食品、機能性飲料、機能性食品、一般食品及び化粧品などの多様な製品に効果的に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌の形状を示した写真である。
【図2】図2は、従来二重コーティングされた乳酸菌の形状を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施例により詳しく説明する。
ただし、下記実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
<実施例1>
本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌の製造
<1−1>従来の蛋白質及び多糖類で二重コーティングされた乳酸菌の製造
まず、蛋白質で単一コーティングされたラクトバシラスアシドフィルス(lactobacillus acidophilus CBT-LH)乳酸菌を生産するために、以下のような実験を進めた。
【0036】
具体的に、脱脂粉乳4kg、大豆分離蛋白2kgを水100kgに懸濁した後、低速攪拌機、温度及びpH調節装置付の酵素処理槽で55℃、初期pH7.0で蛋白質分解酵素剤(Amano社、Protease-N)1.02gを100mlの水に溶解させて添加し、pH6.0になるまで加水分解した。上記加水分解した後、ブドウ糖5kg、肉エキス1kg、酵母抽出物0.5kg、リン酸二カリウム50g、クエン酸アンモニウム50g、酢酸ナトリウム50g、硫酸マグネシウム10g及び硫酸マンガン10gを添加して溶解させ、200l容量の嫌気的発酵管に移送し、121℃で15分間殺菌し、種菌2lを接種し、アンモニアでpHを6.0に維持しながら12時間発酵した。上記発酵後、発酵液を60l/hrの流速で連続式遠心分離機に移送させながら菌体と残存蛋白成分を浸漬させ、これらを回収し、蛋白質で単一コーティングされたラクトバシラスアシドフィルス(lactobacillus acidophilus CBT-LH)乳酸菌を生産した。
【0037】
その後、多糖類で二重コーティングされたラクトバシラスアシドフィルス(lactobacillus acidophilus CBT-LH)乳酸菌を生産するために、以下のような実験をさらに進めた。
【0038】
具体的には、トレハロース1kg、マンニトール1kg及びマルトデキストリン1kgで組成された凍結保護剤水溶液10lを加圧殺菌して製造し、10gのキサンタンガム(Xantan gum)、10gのセルロース(Cellulose)、10gのレバン(Levan)を溶解させた多糖類水溶液3lを加圧殺菌して製造した。上記で製造された蛋白質で単一コーティングされた菌体、凍結保護剤水溶液及び多糖類水溶液を全部混合した後、攪拌機で5,000rpmの速度で攪拌して均質化させ、−55℃の冷凍庫で急速凍結した後、0℃から40℃で凍結乾燥した。
【0039】
上記のような製造過程を通じて半水溶性の残存の蛋白成分は菌体を包括し、水溶性ペプチド成分は、菌体の細胞壁に沈着して蛋白質コーティングを形成し、多糖類成分は、菌体間の結合により非常に緻密な構造を有する菌塊を形成し、結局、蛋白質及び多糖類で二重コーティングされた乳酸菌を製造した。
【0040】
<1−2>本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌の製造
上記<実施例1−1>で製造された蛋白質及び多糖類で二重コーティングされた乳酸菌にナノ粒子を用いて3重コーティングされた乳酸菌を製造した。
【0041】
まず、ナノ粒子を製造するために、ステアリン酸と大豆レシチンを70℃の水槽に投与してアルコール基を除去し、溶解させて水相(W/Oタイプ)を製造した後、80℃程度の高温で注射針を通過させて油相(O/Wタイプ)に入れ、70〜80℃で2時間混合した。上記製造された変性澱粉懸濁液を超音波ホモジナイザーを用いて300秒間再分散させながら室温状態に冷却した後、ミリポアフィルタを通過させることにより、100〜200nm程度のナノ粒子のみを選別した。
【0042】
上記製造されたナノ粒子を上記<実施例1−1>で製造された二重コーティングされた乳酸菌重量に対して2重量%の範囲とし、上記ナノ粒子と乳酸菌を循環流動層乾燥コーティング機(FBC−120、チュンジンテック、大韓民国)に30〜35℃、3〜4時間通過させ、本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌を製造した。
【0043】
<実験例1>
本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と従来の二重コーティングされた乳酸菌の比較
<1−1>耐酸性の比較
上記<実施例1−2>で製造された本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と上記<実施例1−1>で製造された従来の二重コーティングされた乳酸菌の耐酸性テストを行い、その結果を比較して下記表1に示した。
【0044】
具体的に、上記<実施例1−2>で製造された乳酸菌または上記<実施例1−1>で製造された乳酸菌3.4×1011cfu/gをpH2.1の人工胃液で30、60、90及び120分間それぞれ反応させ、生理食塩水を用いて十進希釈法で希釈した後、固体培地(agar plate)に塗抹して乳酸菌の数を計数した。
【0045】
【表1】

【0046】
<1−2>耐胆汁性の比較
上記<実施例1−2>で製造された本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と上記<実施例1−1>で製造された従来の二重コーティングされた乳酸菌の耐胆汁性テストを行い、その結果を比較して下記表2に示した。
【0047】
具体的に、上記<実施例1−2>で製造された乳酸菌または上記<実施例1−1>で製造された乳酸菌3.5×1011cfu/gを0.5%の雄牛の胆汁(oxgall)溶液で30、60、90及び120分間それぞれ反応させ、生理食塩水を用いて十進希釈法で希釈した後、固体培地(agar plate)に塗抹して乳酸菌の数を計数した。
【0048】
【表2】

【0049】
<1−3>加速試験安定性の比較
上記<実施例1−2>で製造された本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と上記<実施例1−1>で製造された従来の二重コーティングされた乳酸菌の加速試験安定性テストを行い、その結果を比較して下記表3に示した。
【0050】
具体的に、上記<実施例1−2>で製造された乳酸菌または上記<実施例1−1>で製造された乳酸菌3.1×1011cfu/gを40℃、相対湿度70%で10、20、30及び40日間保存し、生理食塩水を用いて十進希釈法で希釈した後、固体培地(agar plate)に塗抹して乳酸菌の数を計数した。
【0051】
【表3】

【0052】
<1−4>形状の比較
上記<実施例1−2>で製造された本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と上記<実施例1−1>で製造された従来の二重コーティングされた乳酸菌の形状を比較し、それぞれ図1及び図2に示した。
【0053】
上記図1及び図2に記載されたように、従来の方法で二重コーティングをした乳酸菌の場合、コーティングの稠密性が不十分であり、乳酸菌の露出程度が比較的大きいのに対し、本発明のようにナノ粒子でコーティングした場合、稠密にコーティングされ、乳酸菌の露出が少ないことが分かった。
【0054】
<1−5> 4℃の冷蔵保管実験
上記<実施例1−2>で製造された本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と上記<実施例1−1>で製造された従来の二重コーティングされた乳酸菌を1年間4℃の冷蔵状態で保管した後、経時による1ml当り乳酸菌の数を測定し、その結果を下記表4に記載した。
【0055】
【表4】

【0056】
<1−6> 25℃及び37℃での保管実験
上記<実施例1−2>で製造された本発明によるナノ粒子で3重コーティングされた乳酸菌と上記<実施例1−1>で製造された従来の二重コーティングされた乳酸菌を25℃で1年間保管した後、それによる乳酸菌の数を測定し、その結果を下記表5に記載した。
【0057】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により製造された乳酸菌は、摂取時に胃酸または胆汁酸により死滅して乳酸菌本来の生理活性機能を失わず、発酵乳、加工乳、醤油類発酵食品、キムチ発酵食品、機能性飲料、機能性食品、一般食品及び化粧品などの多様な製品に効果的に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)蛋白質水溶液に蛋白質分解酵素剤を加えて酵素処理する段階;
(b)上記(a)段階で酵素処理された蛋白質水溶液にブドウ糖、酵母抽出物、肉エキス、イオン成分及び乳酸菌を添加した後、発酵させて単一コーティングされた乳酸菌を製造する段階;
(c)上記(b)段階で製造された単一コーティングされた乳酸菌に多糖類水溶液を混合して二重コーティングされた乳酸菌を製造する段階;及び
(d)上記(c)段階で製造された二重コーティングされた乳酸菌にナノ粒子をコーティングして3重コーティングされた乳酸菌を製造する段階を含むことを特徴とする3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項2】
上記(a)段階で蛋白質水溶液は、大豆分離蛋白または脱脂粉乳を混合して製造された1〜10%の水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項3】
上記(b)段階で上記(a)段階の酵素処理された蛋白質水溶液の重量に対してブドウ糖を1〜5%、酵母抽出物を0.1〜1.5%、肉エキスを0.1〜1.5%、イオン成分を0.01〜0.1%を添加することを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項4】
上記(b)段階のイオン成分は、クエン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン及び塩化ナトリウムからなる群から選択された1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項5】
上記(b)段階の乳酸菌は、ストレプトコーカス(Streptococcus)属、ラクトコーカス(Lactococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ペジオコックス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ウェイッセラ(Weissella)属及びビフィオバクテリアム(Bifidobacterium)属からなる群から選択された1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項6】
上記(b)段階の乳酸菌は、1010〜1011cfu/mlに濃縮された乳酸菌であることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項7】
上記(c)段階で上記(b)段階の単一コーティングされた乳酸菌の重量に対して1〜10%の多糖類が含まれた多糖類水溶液を混合することを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項8】
上記(c)段階の多糖類は、キサンタンガム(xantan gum)、セルロース(cellulose)及びレバン(levan)からなる群から選択された1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項9】
上記(c)段階の二重コーティングされた乳酸菌に凍結保護剤水溶液を添加した後、凍結乾燥する段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項10】
上記凍結保護剤水溶液は、上記(b)段階の単一コーティングされた乳酸菌の重量に対して1〜10%の凍結保護剤成分が含まれた凍結保護剤水溶液であることを特徴とする請求項9に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項11】
上記(d)段階でナノ粒子は、固形脂質ナノ粒子(solid lipid nanoparticles)であることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項12】
上記固形脂質ナノ粒子は、ゼラチン(gelatin)、カゼイン(casein)、レシチン(lecithin)、デキストラン(dextran)、アカシア・ゴム(gum acacia)、コレステロール(cholesterol)、ステアリン酸(stearic acid)、ステアリン酸カルシウム(calcium stearate)、ソルビタンエステル(sorbitan ester)、リン酸塩(phosphate)、セルロース(cellulose)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)及びこれらの組合わせからなる群から選択された1つ以上であることを特徴とする請求項11に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項13】
上記(d)段階のナノ粒子を上記(c)段階の二重コーティングされた乳酸菌の重量に対して0.5〜3重量%を加えることを特徴とする請求項1に記載の3重コーティングされた乳酸菌の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の方法で製造された3重コーティングされた乳酸菌。
【請求項15】
請求項14に記載の3重コーティングされた乳酸菌を含む製品。
【請求項16】
上記製品が発酵乳、加工乳、醤油類発酵食品、キムチ発酵食品、機能性飲料、機能性食品、一般食品、医薬品及び化粧品からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項15に記載の製品。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−510624(P2011−510624A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544214(P2010−544214)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004199
【国際公開番号】WO2009/093785
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509138073)セル バイオテク カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】