説明

5’−フルオロサリドマイド誘導体及びその製造方法

【課題】サリドマイド代謝物5’−ヒドロキシサリドマイドの水酸基をフッ素原子で置き換えることにより、薬理活性を向上させ、また酸化酵素による代謝を阻害し、サリドマイドの薬理活性を失うことを防ぐことを目的とした新規な5’−フルオロサリドマイド誘導体、および該誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】5’−フルオロサリドマイド誘導体として、下式(1)で表される2−(5−フルオロ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体、および該誘導体の製造方法。


(式中、R1,R2,R3,R4及びR5はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基,ハロゲン原子等を示し;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,5’−フルオロサリドマイド,2−(5−フルオロ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオンおよびその誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
50年ほど前,当時西ドイツのグリュンネルタール社が開発した催眠鎮静剤サリドマイドは,過剰服用によっても致死量に達しないなど,極めて安全な睡眠薬として大衆化された大ヒット医薬品である。しかし,販売開始後,多くの国で胎児に奇形を起こすことが判明し,5年後に販売が中止された。一旦抹消されたサリドマイドだが,その後の研究で,らい病,エイズ,がん,アフタ性口内炎,ベーチェット病といった難病に有効であることがわかり,FDAは,オーファンドラッグとして認定した(非特許文献1乃至4)。
現在はセルジーン社が製造販売している。しかし,サリドマイドは,広範囲の難病に高い活性を示すという特徴を有し期待されながらも,そのラセミ体の服用により,催奇形性を併発する重篤な副作用が見られるため,その使用にあたっては賛否両論がある。このような諸問題を回避するためには,光学活性体を薬剤として使用する必要がある(非特許文献5)。しかしながら,サリドマイドは投与後,体内でラセミ化してしまうため,たとえ光学活性体を使用しても副作用を回避できないという問題点がある(下記式(化3),非特許文献6乃至9)。
【0003】
【化3】

【0004】
一方,近年ではサリドマイド代謝物にも注目が集まっている。サリドマイド自身が生体内で薬理活性を発現させているか,あるいはその代謝物が発現させているかは分かっていないのが現状である。そもそもサリドマイドの分子レベルでの薬理活性発現機構自体が未解決であり,サリドマイド代謝物こそが薬理活性に最も寄与しているのではないかとも考えられる。種々の代謝物が確認されているなかで,催奇形性を示すS体の主な代謝物は(3’S)−5−ヒドロキシサリドマイドであるのに対して,催眠鎮静作用を有するR体の主な代謝物は(3’S,5’R)−cis−5’−ヒドロキシサリドマイドであることが報告されている(下記式(化4),非特許文献10)。
【0005】
【化4】

【0006】
フッ素原子は水素原子,水酸基のバイオイソスターとして知られており,フッ素原子に置換することで,薬理活性の向上,脂溶性の増大,安定性の改善を行うことができ,現在,医薬品世界売り上げトップ30にフッ素含有医薬品が7品目エントリーしている。このようなフッ素の効果は,サリドマイドにおいても同様であり,3’位にフッ素を導入した3’−フルオロサリドマイド(非特許文献11)は,サリドマイドのラセミ化を除去しただけでなく,生理活性の向上も見られた。
【非特許文献1】Randall, T. J. Am. Med. Assoc. 1990, 263, 1467.
【非特許文献2】Skolnick, A. J. Am. Med. Assoc. 1990, 263, 1468.
【非特許文献3】Randall, T. J. Am. Med. Assoc. 1990, 263, 1474.
【非特許文献4】Muller, G. W. Chemtech 1997, 27, 21.
【非特許文献5】Blaschke, G.; Kraft, H. P.; Fickentscher, K. and Kohler, F. Arzneim.-Forsch. 1979, 29, 1640.
【非特許文献6】Knoche, B. and Blaschke, G. J. Chromatogr. 1994, 2, 183;
【非特許文献7】Wnendt, S.; Finkam, M.; Winter, W.; Ossing, J.; RabbeG. and Zwingenberger, K. Chirality 1996, 8, 390.
【非特許文献8】Winter, W. and Frankus, E. Lancet1992, 339, 365.
【非特許文献9】Nishimura, K.; Hashimoto, Y. and Iwasaki, S. Chem. Pharm. Bull. 1994, 42, 1157.
【非特許文献10】Meyring, M.; Muhlbacher, J.; Messer, K.; Pustet, N. K.; Bringmann, G.; Mahnshreck, A.; Braschke, G. Anal. Chem. 2002, 74, 3726.
【非特許文献11】Takeuchi, Y.; Shiragami, T.; Kimura, K.; Suzuki, E. and Shibata, N. Org. Lett. 1999, 1, 1571.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は,これまで報告のない,サリドマイド代謝物5’−ヒドロキシサリドマイドのフルオロイソスターであるcis−,もしくはtrans−5’−フルオロサリドマイドの設計・製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らはcis−5’−ヒドロキシサリドマイドにフッ素アニオン供与剤を作用させ,求核的フッ素化反応によりtrans−5’−フルオロサリドマイドを合成することに成功した。またtrans−5’−ヒドロキシサリドマイドにフッ素アニオン供与体による求核的フッ素化反応を行うことでcis−5’−フルオロサリドマイドを合成することに成功した。
【0009】
すなわち第1発明の2−(5−フルオロ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体は,下記の式(1)で表される。また,第2発明の前記2−(5−フルオロ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体の製造方法は,下記の式(2)で表される2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体にフッ素アニオン供与剤を用いた求核的フッ素化反応を行う工程を備えることを特徴とする。
【0010】
【化5】

【0011】
(式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基,ハロゲン原子,ハロゲン化低級アルキル基,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基、低級アルキルチオ基,低級アルコキシカルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,置換基を有してもよいスルホニル基,シアノ基,ニトロ基,低級アルケニル基,又は低級アルキニル基を示し,R1ないしR4のうち隣接する2つの基は一緒になって置換基を有していてもよい5乃至7員環を形成してもよく;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。)
【0012】
【化6】

【0013】
(式中,R1,R2,R3,R4, R5及びR6は式(1)記載の通りである:R7はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基,ハロゲン原子,ハロゲン化低級アルキル基,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基、低級アルキルチオ基,低級アルコキシカルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,置換基を有してもよいスルホニル基,シアノ基,ニトロ基,低級アルケニル基,又は低級アルキニル基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
サリドマイド代謝物5’−ヒドロキシサリドマイドの水酸基をフッ素原子で置き換えることにより,薬理活性を向上させることができる。また酸化酵素による代謝を阻害し,サリドマイドの薬理活性を失うことを防ぐ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において,アルキル基又はアルキル部分を含む置換基(例えば,アルコキシ基,アルキルチオ基,アルコキシカルボニル基など)のアルキル部分は,直鎖状,分枝鎖状,環状,又はそれらの組み合わせいずれでもよい。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示す低級アルキル基としては,例えば,炭素数1〜6程度のアルキル基を用いることができる。より具体的には,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,シクロプロピル基,n−ブチル基,sec−ブチル基,イソブチル基,tert−ブチル基,シクロブチル基,シクロプロピルメチル基,n−ペンチル基,n−ヘキシル基,シクロヘキシル基などを用いることができる。
【0016】
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示す低級アルコキシ基としては,例えば,炭素数1〜6程度のアルコキシ基を用いることができる。より具体的には,メトキシ基,エトキシ基,n−プロポキシ基,イソプロポキシ基,n−ブトキシ基,sec−ブトキシ基,tert−ブトキシ基,シクロプロピルメチルオキシ基,n−ペントキシ基,n−ヘキソキシ基などを挙げることができる。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すハロゲン原子はフッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子のいずれでもよい。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すハロゲン化低級アルキル基としては,上記に説明した炭素数1〜6程度のアルキル基にフッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨウ素原子からなる群から選ばれる1又は2個以上のハロゲン原子が置換した基を挙げることができる。2個以上のハロゲン原子が置換している場合には,それらは同一でも異なっていてもよい。
【0017】
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すアミノ基が置換基を有する場合,置換基として,例えば,上記に説明した炭素数1〜6程度のアルキル基又はハロゲン化アルキル基等を有していてもよい。より具体的には,炭素数1〜6程度のアルキル基で置換されたモノアルキルアミノ基,又は炭素数1〜6程度の2個のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基(2個のアルキル基は同一でも異なっていてもよい)などを挙げることができる。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すアルキルチオ基としては,例えば,メチルチオ基,エチルチオ基などを挙げることができる。R1,R2,R3,R4,及びR5が示すアルコキシカルボニル基としては,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基などを挙げることができる。
【0018】
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すカルバモイル基,スルホニル基が置換基を有する場合,置換基として,例えば,上記に説明した炭素数1〜6程度のアルキル基又はハロゲン化アルキル基,置換基を有していてもよいアリール基等を有していてもよい。カルバモイル基が2個の置換基を有する場合には,それらは同一でも異なっていてもよい。例えば,ジアルキルカルバモイル基などを好適に用いることができる。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すアルケニル基又はアルキニル基に含まれる不飽和結合の数は特に限定されないが,好ましくは1〜2個程度である。該アルケニル基又はアルキニル基は,直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよい。
【0019】
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7はそれぞれ独立に上記に定義されたいずれかの置換基を示すが,全部が同一の置換基であってもよい。また,R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7のうちの隣接する2つの基は一緒になって5〜7員環を形成していてもよく,環は炭化水素環又は複素環のいずれでもよい。なお,該環は置換基を有していてもよい。置換基の種類,個数,置換位置は特に限定されないが,置換基として,例えば,炭素数1〜6程度のアルキル基などを好適に用いることができる。例えば,上記の環は,1個のアルキル基,又は同一若しくは異なる2〜4個のアルキル基を有していてもよい。なお,R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が全て水素原子である化合物は本発明の好ましい態様である。
【0020】
本発明の化合物に存在する不斉炭素は(S)又は(R)配置のいずれであってもよく,光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体はいずれも本発明の範囲に包含される。光学的に純粋な形態の異性体は本発明の好ましい態様である。また,立体異性体の任意の混合物,ラセミ体なども本発明の範囲に包含される。本発明の5’−フルオロサリドマイド誘導体は置換基の種類に応じて塩を形成する場合があり,また水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが,これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。
【0021】
本発明の5’−フルオロサリドマイド誘導体の製造方法は特に限定されないが,上記式(2)の5’−ヒドロキシサリドマイド誘導体と公知又は市販されているフッ素アニオン供与剤を用いた求核的フッ素化反応によって,式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0022】
求核的フッ素化反応に用いるフッ素アニオン供与体の使用量は,一般的に式(2)に対して1乃至10当量,好ましくは1.5乃至5当量程度である。反応は,通常,溶媒中で−80乃至150℃で行なうことができるが,0乃至100℃が好ましい。
【0023】
用いるフッ素アニオン供与剤は特に限定はされないが,例えば,フッ化トリブチルアンモニウム(TBAF),フッ化トリメチルアンモニウム(TMAF)等のフッ化アンモニウム塩;フッ化カリウム,フッ化銀等の無機塩;三フッ化ジエチルアミノ硫黄(DAST),フッ化水素等が挙げられるが,三フッ化ビス(2−メトキシエチル)アミノ硫黄が最も好ましい。
【0024】
求核的フッ素化反応に用いる溶媒の種類は特に限定されないが,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,n−ブチルメチルエーテル,tert−ブチルメチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル系溶媒;ヘプタン,ヘキサン,シクロペンタン,シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム,四塩化炭素,塩化メチレン,ジクロロエタン,トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン,トルエン,キシレン,クメン,シメン,メシチレン,ジイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド等の溶媒;超臨界二酸化炭素が挙げられるが,塩化メチレンが最も好ましい。
【0025】
以下,実施例により本発明をさらに具体的に説明するが,本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0026】
次式により5‘−ヒドロキシサリドマイド ジアステレオ混合物を用いた5’−フルオロサリドマイドの合成を行う。
【0027】
【化7】

【0028】
(+−)−5’−ヒドロキシサリドマイドのジアステレオ混合物(cis体:trans体=1:1)4.6 mg(16.8 μmol)を充分に乾燥させた摺り付き試験管に入れ,アルゴン置換した。そこへ塩化メチレンを2.0 mL加え,基質が溶けないので強く攪拌しながら,−78℃の低温装置にて冷却し,そこへ三フッ化ビス(2−メトキシエチル)アミノ硫黄5.0 μL(27.3μmol)加えた。装置から取り出し,室温に昇温させながら18時間攪拌した。TLCによって反応が完了しているのを確認し,塩化メチレンをロータリーエバポレーターにて留去した。その後,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/ジエチルエーテル=50/50)にて単離・精製したところ,ジアステレオマーの分割に成功し,(+−)−cis−5‘−フルオロサリドマイドを収量2.3 mg,50%で,(+−)−trans−5’−フルオロサリドマイドを収量2.3 mg,50%で得た。
以下に(+−)−cis−5‘−フルオロサリドマイドの化合物データを示す。
分子式:C13H9FN2O4
M.W.:276.22
Rf=0.60 (CH2Cl2/Et2O=1/1)
1H NMR (CDCl3) δ2.68 (m, 1H), 3.14 (m, 1H), 5.14 (m, 1H), 5.38 (dd, J=5.8, 12.9 Hz, 1H), 7.85 (m, 4H), 8.99 (brs, 1H, NH)
19F NMR:(CDCl3) δ -193.0 (d, J =42.4 Hz)
EI MS calculated for C13H8FN2O4 ([M - H]-) 275.05 found 275.05
以下に(+−)−trans−5’−フルオロサリドマイドの化合物データを示す。
分子式:C13H9FN2O4
M.W.:276.22
Rf=0.76 (CH2Cl2/Et2O=1/1)
1H NMR (CDCl3) δ2.62 (m, 1H), 3.12 (m, 1H), 5.14 (m, 1H), 5.31 (m, 1H), 7.86 (m, 4H), 8.02 (brs, 1H, NH)
19F NMR:(CDCl3) δ -189.7 (ddd, J = 12.6, 42.0, 48.9 Hz)
EI MS calculated for C13H8FN2O4 ([M - H]-) 275.05 found 275.00
【実施例2】
【0029】
次式により(+−)−trans−5’−フルオロサリドマイドの合成を行う。
【0030】
【化8】

【0031】
(+−)−cis−5’−ヒドロキシサリドマイド5.0 mg(18.2 μmol)を充分に乾燥させた摺り付き試験管に入れ,アルゴン置換した。そこへ塩化メチレンを2.0 mL加え,基質が溶けないので強く攪拌しながら,−78℃の低温装置にて冷却し,そこへ三フッ化ビス(2−メトキシエチル)アミノ硫黄5.0 μL(27.3μmol)加えた。装置から取り出し,室温に昇温させながら18時間攪拌した。TLCによって反応が完了しているのを確認し,塩化メチレンをロータリーエバポレーターにて留去した。その後,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=50/50)にて単離・精製したところ,収量5.4 mgで定量的に目的とする,(+−)−trans−5’−フルオロサリドマイドを得た。
【実施例3】
【0032】
次式により(+−)− cis−5’−トシロキシサリドマイドの合成を行う。
【0033】
【化9】

【0034】
(+−)−cis−5’−ヒドロキシサリドマイド5.0 mg(18.2μmol)を充分に乾燥させた摺り付き試験管に入れ,窒素置換した。そこへ1,4−ジオキサン1.0 mLを加え溶解した。1.4M n−ブチルリチウム ヘキサン溶液0.65 mLを1,4−ジオキサン5.0 mLで希釈した溶液を0.1 ml加え,室温で10分攪拌すると白色懸濁した。塩化 p−トルエンスルホニルを1,4−ジオキサン0.1mLに溶解させた溶液を加え,1時間攪拌した。攪拌後,溶媒を留去した。収量8.0 mg,定量的に目的とする(+−)−cis−5’−トシロキシサリドマイドを得た。これ以上の精製を行わず,次の反応に用いた。
以下に(+−)−cis−5’−トシロキシサリドマイドの化合物データを示す。
分子式:C20H16N2O7S
M.W.:428.42
Rf=0.43 (Hexane/AcOEt=1/1)
EI MS calculated for C20H17N2O7S([M + H]+) 429.08 found 429.05
【実施例4】
【0035】
次式により(+−)−trans−5’−ヒドロキシサリドマイドの合成を行う。
【0036】
【化10】

【0037】
(+−)−cis−5’−トシロキシサリドマイド62.0mg(0.145 mmol)を10 mL ナスフラスコにとり,DMF2.0 mLを加え完全に溶解させた。そして,15−クラウン−5エーテル32 mg(0.145mmol)を加え,40℃に加熱し24時間攪拌した。室温まで冷却したのち,蒸留水を加え,塩化メチレンで抽出した。飽和食塩水で有機相を洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒をロータリーエバポレーターにて留去し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=50/50)にて単離・精製した。収量25.0 mg,収率63%で目的とする,(+−)−trans−5’−ヒドロキシサリドマイドを得た。得られた目的物のジアステレオ過剰率をHPLCにて測定すると99% de以上であった。
以下に(+−)−trans−5’−ヒドロキシサリドマイドの化合物データを示す。
分子式:C13H10N2O5
M.W.:274.23
1H NMR (CDCl3) δ2.21 (m, 2H), 4.30 (m, 1H), 5.15 (dd, J=5.4, 14.3 Hz, 1H), 6.50 (s, 1H, OH), 7.89 (m, 4H), 11.21 (brs, 1H, NH)
EI MS calculated for C13H9N2O5 ([M - H]-) 273.05 found 273.00
【実施例5】
【0038】
次式により(+−)−cis−5’−フルオロサリドマイドの合成を行う。
【0039】
【化11】

【0040】
(+−)−trans−5’−ヒドロキシサリドマイド2.0 mg(7.3 μmol)を充分に乾燥させた摺り付き試験管に入れ,アルゴン置換した。そこへ塩化メチレンを1.0 mL加え,基質が溶けない為強く攪拌しながら,−78℃の低温装置にて冷却し,そこへ三フッ化ビス(2−メトキシエチル)アミノ硫黄2.0 μL(10.9 μmol)加えた。装置から取り出し,室温に昇温させながら10時間攪拌した。TLCによって反応が完了しているのを確認し,塩化メチレンをロータリーエバポレーターにて留去した。その後,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=50/50)にて単離・精製したところ,収量2.0 mgで定量的に目的とする,(±)−cis−5’−フルオロサリドマイドを得た。

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の5’−フルオロサリドマイド誘導体及びその製造方法は、医・農薬等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される2−(5−フルオロ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体。
【化1】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基,ハロゲン原子,ハロゲン化低級アルキル基,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基、低級アルキルチオ基,低級アルコキシカルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,置換基を有してもよいスルホニル基,シアノ基,ニトロ基,低級アルケニル基,又は低級アルキニル基を示し,R1ないしR4のうち隣接する2つの基は一緒になって置換基を有していてもよい5乃至7員環を形成してもよく;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。)
【請求項2】
前記の式(1)で表される2−(5−フルオロ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体の製造法であって,下記の式(2)で表される2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体
【化2】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6は式(1)記載の通りである:R7はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基,ハロゲン原子,ハロゲン化低級アルキル基,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基、低級アルキルチオ基,低級アルコキシカルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,置換基を有してもよいスルホニル基,シアノ基,ニトロ基,低級アルケニル基,又は低級アルキニル基を示す。)にフッ素アニオン供与剤を用いた求核的フッ素化反応を行う工程を備えることを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2009−215195(P2009−215195A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59012(P2008−59012)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】