説明

7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジンの結晶性化合物

本発明は、フマル酸を有する式(I)


の7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)またはこれらの水和物の結晶性化合物およびこれらを製造する方法に関し、式1の化合物とフマル酸とのモル比は1:0.6から1:1.3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フマル酸を有する7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)またはこれらの水和物の結晶性化合物に関する。本発明はさらに、これらの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、多数の要因から生じる疾患過程を指し、空腹状態の間、または経口グルコース負荷試験の間にグルコースを投与した後の、高い血漿グルコースレベルまたは高血糖から明らかになる。持続性または無制御高血糖は、増大したおよび早発性の罹患率および死亡率に関連する。異常なグルコース恒常性は、脂質、リポタンパク質およびアポリポタンパク質代謝における変化と、他の代謝および血行動態疾患との両方に直接的および間接的に関連することが多い。結果として、2型糖尿病を患う患者にとって、冠動脈心疾患、脳卒中、末梢血管疾患、高血圧、腎症、神経障害および網膜症を含む大血管性および微小血管性合併症の危険性が特に高い。グルコース恒常性、脂質代謝および高血圧の治療的制御は、糖尿病の臨床上の取り扱いおよび治療に決定的に重要である。
【0003】
糖尿病には、2つの一般的に認識された形態がある。1型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病(IDDM)において、患者は、グルコース利用を制御するホルモンであるインスリンを、ほとんどまたは全く産生しない。2型糖尿病または非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)において、患者は、糖尿病患者でない人のレベルに対応するまたはこれより高い血漿インスリンレベルを有することが多い。しかし、これらの患者は、インスリン感受性が高い組織である筋肉、肝臓および脂肪組織において、グルコースおよび脂質代謝におけるインスリン刺激作用に対して抵抗性を生じ、血漿インスリンレベルは、増大するが、顕著なインスリン抵抗性を克服するには不十分である。
【0004】
インスリン抵抗性は、主にインスリン受容体数の減少の結果ではなく、依然として説明されていないインスリン受容体結合後の欠陥の結果である。インスリン感受性に対するこうした抵抗性は、筋肉中のグルコース吸収、酸化および貯蔵の不適切なインスリン活性を導き、脂肪組織中の脂肪分解ならびに肝臓中のグルコースの産生および分泌の不適切なインスリン抑制を導く。
【0005】
糖尿病の治療に使用できる非常に多数の化合物分類があることが判明している。ここで特に記述すべきものは、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与する疾患、例えば糖尿病、および特に2型糖尿病等における治療または予防に好適なジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素の阻害剤(「DP−IV阻害剤」)である。
【0006】
WO03/004498A1では、そのような阻害剤として、ピラジン構造を有するDP−IV阻害剤物質が提案されており、特に7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)についても記述されている。特にシタグリプチン塩酸塩も記載されている。この塩酸塩は吸湿性である。
【0007】
WO2005/003135には、水和物として得られることが明らかになっているシタグリプチンリン酸二水素塩が記載されているが、これは40℃を超える温度で相不安定性である。これは、産業規模での相対的に多量の製造が制御が難しい乾燥方法を導くことを暗示している。
【0008】
WO2005/072530A1には、さらに、シタグリプチンの塩が開示されている。これらの化合物も、糖尿病の治療のためにDP−IV阻害剤として使用されることが述べられている。WO03/004498A1にもWO2005/072530A1にも、シタグリプチンおよびフマル酸を含む化合物は開示されていない。
【0009】
Kim et al.,J.Med.Chem.2005,48,141−151では、2型糖尿病を治療するための経口活性DP−IV阻害剤が調査されている。特に、シタグリプチンはインビボ調査のためにフマル酸と反応させる。この方法において、シタグリプチンとフマル酸との比が1:0.5である固体が得られる。特徴付けは、NMRおよびHRMSによってのみ行われる。得られた固体が結晶性であるかどうかについては述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/004498号
【特許文献2】国際公開第2005/003135号
【特許文献3】国際公開第2005/072530号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kim et al.,J.Med.Chem.2005,48,141−151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先行技術において、改善された投与を可能にするシタグリプチンを含む化合物を提供することが必要とされている。特に、活性成分の薬物動態学の要件を考慮し、さらに経口投与形態の形成に使用できる投与形態のシタグリプチンを提供することが目的である。特に、貯蔵時に最適化された低い水吸収を有する化合物を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の技術的目的は、フマル酸を有する式1の7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)の結晶性化合物またはこれらの水和物によって達成される。
【0014】
【化1】

ここで、式1の化合物とフマル酸とのモル比は1:0.6から1:1.3である。
【0015】
驚くべきことに、フマル酸およびシタグリプチンは、シタグリプチンとフマル酸との上述のモル比を有する結晶性化合物を形成する。これは、当業者がシタグリプチンおよびフマル酸は結晶性化合物を形成しないことを前提としていたはずであるため、先行技術からは予測不可能であった。
【0016】
非晶質形態は、一般にシャープな粉体回折反射を示さないことを特徴とする。非晶質形態の粉体図は、約10度から30度の角度2θ範囲において顕著に増大した背景シグナルを有するのみである。中胚葉型の形態は、通常、これらがごくわずか、多くの場合は1または2つだけシャープな粉体回折反射を有しているか、または全く有していないことを特徴とする。特に非晶質および結晶性相の混合物は、非晶質画分が非常に高い、例えば50%以上である場合に、ごくわずかの粉体回折反射を有する。
【0017】
X線粉体回折は、分子体を同定および特徴付けるために広まり、広く認識された方法である。この方法の記載は、European Pharmacopoeia、およびさらにUS Pharmacopeiaにおいて、Method No.941「X−Ray Diffraction」として、または「Polymorphism−In the Pharmaceutical Industry」Chapter 6,Rolf Hilfiker,Editor Wiley−VCH Verlag,Weinheim,Germany,2006の両方において見出すことができる。通常、X線粉体回折は、本明細書の場合もそうであったように、銅−Kα放射線を用いて行われる。Å単位のD値(d)および角度単位(angle−degree)の2シータ(2θ)値は、次のようなブラッグの式によって互いに変換できる:nλ=2dsinθ(式中、nは整数であり、λはÅ単位で使用されるX線放射線の波長である。)。粉体回折測定から得られるデータは、角度2θの関数としてのシグナル強度(カウント単位)である。さらに、測定は反射配置だけでなく、透過配置においても行われることができることを考慮すべきである。本明細書で述べられた測定は、反射配置にて行われた。しかし、角度単位の線の位置が配置に依存しない一方で、相対強度は、配置の結果だけでなく、試料の特性の結果および試料調製の結果の両方として変化し得る。結果として、記述された強度は、単に定性的特徴として作用し得る。この種類の測定について、測定エラーは通常±0.1角度2θ(±0.1°2θ)である。角度2θについての測定エラーは、上述のブラッグの式を考慮して、測定範囲全体にわたって、たとえあったとしてもわずかにだけ変化するが、d値の場合のエラーは角度に依存する。しかし、2θ角度およびd値は等価であり、このため測定エラーは、存在するけれどもd値について計算されていない。
【0018】
本明細書に示される本発明の特有の特徴は、高い結晶純度によって区別されるフマル酸を有するシタグリプチンの結晶性化合物である。これは、これらの化合物の粉体X線図が少なくとも4つのピークを有し、このそれぞれが好ましくは少なくとも4のシグナル対ノイズ比を有することを特徴とする。少なくとも8以上のシグナル対ノイズ比がさらに好ましく、ここでX線粉体回折測定は、本明細書に記載される測定条件下または等価な測定条件下で行われることができる。
【0019】
既知の先行技術に比べて、フマル酸を含む化合物に関して、本発明に従う結晶性化合物は、好ましくは大きい数を有し、シャープな粉体回折反射を有する。
【0020】
ラマン分光法は、種々の形態の分子体を同定および特徴付けるために非常に有用な第2の方法である。記述された目的のためのラマン分光法の使用の詳細な説明は、例えば「Polymorphism−In the Pharmaceutical Industry」Chapter 5,Rolf Hilfiker,Editor Wiley−VCH Verlag,Weinheim,Germany,2006に見出され得る。この種類の測定について、測定エラーは、通常±1cm−1である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】形態Aの粉体回折図を示す。
【図2】形態Bの粉体回折図を示す。
【図3】形態Cの粉体回折図を示す。
【図4】形態Aの特徴的なラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
好ましい実施形態において、結晶性化合物は、X線粉体回折法(XRPD)により、12.9(w)、10.3(w)、5.15(m)および4.30(vs)におけるd値(Å)を有し、これは後で形態Aと称される。さらに好ましくは、化合物(形態A)は、X線粉体回折法(XRPD)によって、12.9(w)、10.3(w)、5.15(m)、4.69(m)、4.30(vs)、3.50(s)、3.22(s)でのd値(Å)を有する。図1は形態Aの粉体回折図を示す。
【0023】
式1の化合物とフマル酸とのモル比は、好ましくは1:0.95から1:1.05であり、この比は好ましくは形態Aの場合において示される。
【0024】
形態Aは、好ましくは3083、3034、3019、2940、1707、1655、1516、1479、1439、1389、1338、1260、979、899、807、756、748、697、537、453、396、288、213、104および85cm−1(波数)における特徴的なラマンバンドを有する。形態Aのより強いラマンバンドは、好ましくは3034、2940、1655、1516、756および104cm−1(波数)に見出される。
【0025】
化合物の非晶質またはメソモルファス(mesomorphous)形態は、結晶形態よりも非常に強い吸湿傾向を有し得る。ここで記載されるシタグリプチンフマル酸塩化合物は、良好な吸湿性特性を有する、即ち高い相対湿度においてほとんど水を吸収しないことを特徴とする。これは以下の表1から明らかであり、この表では50%および90%相対湿度にて、結晶性フマル酸塩形態Aと結晶性塩酸塩との水含有量を比較している。データは、動的水蒸気吸着測定から得られる。水蒸気収着測定は、固体物質の吸湿特性を調査するための好適な方法である。水蒸気収着測定は、異なる方法にて行うことができる。一般に、これに関連して約10から30mgの小さい試料は、好適な試料キャリアにて、微量天秤に導入される。次いでこの試料を規定のプログラムに従って異なる相対湿度に曝し、同時に試料質量における変化を経時的に記録する。結果として、物質の吸湿挙動についての洞察を得ることができる。結晶性シタグリプチン塩酸塩一水和物および本発明の結晶性化合物の両方を、この方法を用いて調査し、これにより、塩酸塩は、同一測定条件下で顕著に多い水を吸着し、このためより吸湿性であることが実証された。例えば形態Aの結晶性フマル酸塩は、50%相対湿度にて、約0.3%だけ水を含有し、96%の相対湿度にて4時間後には、50%の相対湿度よりも約1%だけ高い水を吸収し、後者の値は、中央ヨーロッパにおける標準的な湿度条件にほぼ対応する。
【0026】
【表1】

【0027】
この結果は、当業者には予測されず、先行技術からは推定されない。結果として、本発明の結晶性化合物は、薬剤に使用するのに有利な特性プロファイルを提供する。
【0028】
さらなる実施形態において、結晶性化合物は、X線粉体回折法(XRPD)によって、12.3(s)、7.0(s)、4.62(vs)および3.51(vs)でのd値(Å)を有し、これは後で形態Bと称される。さらに好ましくは、化合物(形態B)は、X線粉体回折法(XRPD)によって、14.1(s)、12.3(s)、7.0(s)、6.1(s)、4.62(vs)、4.03(vs)および3.51(vs)でのd値を有する。図2は、形態Bの粉体回折図を示す。
【0029】
さらなる好ましい実施形態において、化合物は、X線粉体回折法(XRPD)によって、18.3(m)、11.4(s)、4.56(vs)、および3.47(vs)でのd値(Å)を有し、これは後に形態Cと称される。さらに好ましくは、化合物(形態C)は、X線粉体回折法(XRPD)によって、18.3(m)、13.9(s)、12.2(w)、11.4(s)、6.2(s)、5.02(m)、4.56(vs)、4.03(vs)および3.47(vs)でのd値を有する。図3は、形態Cの粉体回折図を示す。
【0030】
式1の化合物とフマル酸とのモル比は、好ましくは1:0.60から1:0.80であり、ここでこの比は形態Bおよび/またはCの場合に存在するのが好ましい。
【0031】
本発明はさらに、結晶性化合物を含む薬剤を提供する。
【0032】
結晶性化合物は、糖尿病を治療するために使用されるのが好ましい。
【0033】
本発明はさらに、結晶性化合物を製造する方法を提供する。
【0034】
この方法は次の段階を含む。
【0035】
a)式1の7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)の溶液を与える段階、
b)フマル酸を段階a)の溶液へ添加する段階、
c)段階b)の後に得られた組成物を任意に濃縮し、および/または結晶性化合物の溶解度を低下させるのに好適な非溶媒を任意に添加する段階、および
d)得られた固体を取り出し、続いて乾燥させる段階。
【0036】
好ましくは、段階b)のフマル酸は、段階a)の溶液に固体として添加されることができる。または、段階b)のフマル酸は、好適な溶媒中の溶液として段階a)の溶液に添加できる。さらなる好ましい実施形態において、段階a)およびb)を交換すること、即ちシタグリプチンを含む段階a)の溶液を段階b)のフマル酸に添加することも可能である。
【0037】
好ましくは、段階a)の溶媒および/または段階b)の任意の溶媒は、それぞれの場合に、有機または無機溶媒である。
【0038】
好ましい実施形態において、段階a)の式1の溶解した化合物と段階b)のフマル酸とのモル比は、1:0.6から1:1.3である。
【0039】
形態Aを製造するために、段階a)の式1の溶解化合物と段階b)のフマル酸とのモル比は、1:0.90から1:1.10であるのがさらに好ましく、1:0.95から1:1.05であるのがさらに好ましい。
【0040】
形態BまたはCを製造するために、段階a)の式1の溶解化合物と段階b)のフマル酸とのモル比は、1:0.60から1:0.80であることがさらに好ましい。
【0041】
さらに好ましくは、低分子量および生理的に適合性の溶媒および/または生理的に適合性のアルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、n−ブタノール、低分子量ケトン、例えばアセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、アセタート、例えばエチルホルマート、エチルアセタート、ブチルアセタートまたはイソプロピルアセタートまたはエーテル、例えばtert−ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルまたは所望により組み合わせられるこれらの混合物が、段階a)および/または段階b)に使用される。段階a)および/または段階b)に関して、フマル酸が適切な程度に可溶性である生理的に適合性の溶媒が特に好ましい。エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、THF、アセトン、エチルメチルケトン、水およびこれらの混合物が好ましい。段階a)について、エタノール、2−プロパノール、エチルアセタート、イソプロピルアセタート、アセトン、エチルメチルケトンが特に好ましく、段階b)についてはエタノール、2−プロパノール、アセトン、エチルメチルケトンおよび水が特に好ましい。
【0042】
「生理的に適合性」とは、これらの溶媒が、ICH(International Commission for Harmonization:医薬品規制調和国際会議)ガイドラインQ3C、Class 3に該当することを意味する。段階a)およびb)の順序は交換できる。
【0043】
段階a)およびb)において、2つの構成成分は、同じ溶媒中または異なる溶媒中のいずれかに、同一濃度または異なる濃度のいずれかで溶解できる。それぞれの場合に、段階a)および/または段階b)の2つ以上の溶媒の溶媒混合物を使用することもできる。
【0044】
または、結晶化の出発材料として、フマル酸を有する式1の7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)の化合物またはこれらの水和物を使用するのが好ましい。
【0045】
【化2】

段階c)において、好ましくは所望の形態の種結晶を添加できる。段階c)において、得られた懸濁液を好適な温度で撹拌するのがさらに好ましい。好ましくは、この温度は5℃から50℃の範囲である。
【0046】
さらに、段階a)およびb)において、結晶化温度、または所望の塩に関連する飽和の達成は、所望の塩が高収率および高純度にて得られるような、溶媒および濃度の異なる組み合わせの選択により調整できる。
【0047】
形態Aを製造するために、シタグリプチンおよびフマル酸は、2−ブタノン(メチルエチルケトン)またはアセトニトリルに撹拌させるのが好ましい。ここでのシタグリプチンとフマル酸とのモル比は、1:1±0.1が好ましい。組成物は、好ましくは室温にて、好ましくは少なくとも1日間撹拌する。さらなる好ましい実施形態において、溶媒は、撹拌中少なくとも部分的に蒸発させる。
【0048】
形態Bを製造するためのさらに好ましい実施形態は、エタノールおよびエチルアセタートの溶媒混合物から形態Aを再結晶化させることを含む。
【0049】
好ましくは、形態Bは、エタノールおよび水の混合物中、スラリーとしての形態Aを撹拌することによって得ることができる。好ましくは、このスラリーは、好ましくは室温にて少なくとも1日間撹拌する。
【0050】
形態Cを製造するためのさらに好ましい実施形態は、溶媒2−プロパノールからの形態Aの再結晶化を含む。
【0051】
驚くべきことに、形態Aは、他の形態、例えば本発明の結晶性化合物の形態Bまたは形態Cを製造するための出発材料として使用できる。形態Aは高純度で得ることができる。この関連において、本発明の形態Aは好適な溶媒または溶媒混合物中、初期充填(initial charge)として導入されるのが好ましい。続いて、再結晶化により、本発明の結晶性化合物の所望の形態が得られ、ここで所望の形態の種結晶、例えば形態Bまたは形態Cを添加するのが好ましい。使用できる溶媒または溶媒混合物は、上述の溶媒のすべてである。エタノール、エチルアセタート、2−プロパノールおよびこれらの混合物が特に好ましい。場合により、好適な量の水を添加できる。
【実施例】
【0052】
X線粉体回折
粉体回折図は、銅Kα放射線を用いて、217.5mmのゴニオメータ半径を有するBruker D8 Advance粉体回折計にて測定した。この機器は、変動可能な発散スクリーン(divergence screen)を用いて、40kVのアノード電圧および40mAの電流にて、反射Bragg−Brentano配置にて操作する。Bruker D8機器は、LynxEye検出器を備え、有効観察窓は3度に調節される。ステップサイズは0.02度であり、等価累積時間(equivalent accumulation time)はステップあたり37秒であった。試料は、0.1mmの深さおよび12mmの直径を有する円形ケイ素単結晶支持体上でさらなる処理を行わずに調製した。試料は、毎秒あたり0.5回転にて測定中に回転させた。測定エラーは約±0.1角度2θである。
【0053】
ラマン分光法
フーリエ変換ラマン分光法は、Bruker RFS100を用いて行ったが、これは励起用波長が1064nmのNd:YAGレーザーを備える。使用されたレーザー出力は300mWであった。使用された機器は、液体窒素冷却されたゲルマニウム検出器を備える。約3mgの測定試料を、小さいアルミニウム支持体に加圧し、この支持体を分光計測定チャンバーに挿入する。スペクトルの記録に関して、100−3500cm−1波数の範囲で2.0cm−1の解像度にて、64回の累積測定をした。測定エラーは、約±1cm−1である。
【0054】
水蒸気吸着測定
動的水蒸気吸着測定は、ドイツ国、ウルムの「Projekt Messtechnik」によって製造されたSPS11−100n機器を用いて行った。このために、約20mgの試料をアルミニウム支持体に計量し、これを機器の測定チャンバーに挿入した。次いで試料を規定のプログラムに従って予め選択された相対湿度に供し、質量の変化を経時的に決定した。次の測定プログラムを使用した:50%相対湿度一定で2時間、次いで相対湿度を0%相対湿度に変更、次いで相対湿度を96%相対湿度に変更して、96%相対湿度一定で4時間、および次いで相対湿度を50%相対湿度に変更、および次いで50%相対湿度一定で1時間。設定された変更速度は、それぞれの場合に毎時5%であった。
【0055】
H−NMR分光法
H−NMR分光法をBruker DPX300機器にて行った。
【0056】
シタグリプチンフマル酸塩試料は、通常DMSO−d中で測定した。
【0057】
結晶性シタグリプチンフマル酸塩化合物の調製
【0058】
[実施例1]
500.7mg(1.23mmol)のシタグリプチン遊離塩基および142.8mg(1.23mmol)のフマル酸を、室温にて、50mlのエチルメチルケトンに撹拌させた。1時間後、得られた透明溶液を、熱空気ブラストによって加熱し、超音波浴にて冷却した。N蒸気を用いて約40mlに溶液を濃縮することにより沈殿を生じ、これをろ過した。第1の沈殿からの種結晶を母液に添加し、これを室温で保管した。得られた懸濁液をろ過し、白色固体を約3mbarにて30分間乾燥した。X線粉体回折を用いて、形態Aの典型的な粉体図を得る。これを図1に示す。最も重要な反射を以下の表2に記述する。同じ試料のH−NMR分光法では、シタグリプチンとフマル酸とのモル比が1:1であることがわかる。
【0059】
【表2】

【0060】
得られた生成物のラマン分光法調査により、形態Aの特徴的なラマンスペクトルを得て、これを図4に示す。最も重要なピークは表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
[実施例2]
2.0g(4.91mmol)のシタグリプチン遊離塩基および571mg(4.92mmol)のフマル酸を、室温にて、150mlのエチルメチルケトンに1時間撹拌させた。さらに60mlのエチルメチルケトンを添加した後、濁った溶液を熱空気ブラストによって加熱した。室温まで冷却した後、シタグリプチンフマル酸塩の種結晶をこの透明溶液に添加し、溶液を室温にて光を排除して保管した。3日後、得られた懸濁液をろ過し、白色固体を約3mbarにて2時間乾燥した(収率135g)。得られた材料を、ラマン分光法、H−NMR分光法、元素分析、熱重量分析を赤外線分光法およびさらに動的水蒸気収着測定と組み合わせて用いることによって特徴付けた。FT−IR分光法と組み合わせた熱重量分析により、最小限に乾燥された試料は、約0.5%にすぎない水および少量のエチルメチルケトンを含むことを示す。H NMR分光法により、シタグリプチンとフマル酸との比が1:1であるとわかる。少量の水および残留溶媒を考慮して、この比は元素分析の結果と一致し、次の値を示す:C=45.5%、H=3.5%、N=13.2%、O=15.6%およびF=21.6%。ラマン分光法は、形態Aの典型的なラマンスペクトルを示す。動的水蒸気収着は、高い相対湿度であっても形態Aがごく少量の水だけを吸収することを示す。
【0063】
[実施例3]
実施例2からの67.5mgのシタグリプチンフマル酸塩を、4mlのエタノール/エチルアセタート(1:1 v/v)に、65℃にて溶解した。透明溶液を20℃に0.5℃/hで冷却させ、この間に懸濁液を形成した。ろ過後、白色固体を3mbarにて15時間乾燥した。得られた生成物を、ラマン分光法、X線粉体回折およびH−NMR分光法によって分析した。H NMR分光法は、シタグリプチンとフマル酸とのモル比が1:0.8であることを示す。ラマン分光法およびX線粉体回折は、それぞれシタグリプチン形態Bの典型的な特徴であるスペクトルまたは回折図を示す。
【0064】
図2は、形態Bの粉体回折図を示す。最も重要な反射を以下の表4に記述する。
【0065】
【表4】

【0066】
[実施例4]
実施例2の46.3mgのシタグリプチンフマル酸塩を、65℃にて12.4mlの2−プロパノール中に溶解させた。透明溶液を20℃に0.5℃/hで冷却させた。沈殿は観察されなかったので、溶液を5℃で2.5時間撹拌した。形成されたゲル様懸濁液を室温で7日間撹拌し、次いでろ過した。固体を約3mbarにて15時間乾燥した。得られ生成物を、ラマン分光法、X線粉体回折およびH−NMR分光法によって分析した。H−NMR分光法は、シタグリプチンとフマル酸とのモル比が1:0.7であることを示す。ラマン分光法およびX線粉体回折は、それぞれシタグリプチン形態Cの典型的な特徴であるスペクトルまたは回折図を示す。
【0067】
図3は、形態Cの粉体回折図を示す。最も重要な反射を以下の表5に記述する。
【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸を有する式1の7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)
【化1】

またはこれらの水和物の結晶性化合物であり、式1の化合物とフマル酸とのモル比が1:0.6から1:1.3である、結晶性化合物。
【請求項2】
X線粉体回折法(XRPD)による、12.9(w)、10.3(w)、5.15(m)および4.30(vs)のd値(Å)を有することを特徴とし、以後これを形態Aと呼ぶ、請求項1に記載の結晶性化合物。
【請求項3】
X線粉体回折法(XRPD)による、12.9(w)、10.3(w)、5.15(m)、4.69(m)、4.30(vs)、3.50(s)、3.22(s)のd値(Å)を有することを特徴とする、請求項2に記載の結晶性化合物。
【請求項4】
式1の化合物とフマル酸とのモル比が1:0.95から1:1.05であることを特徴とする、請求項1から3の少なくとも一項に記載の結晶性化合物。
【請求項5】
X線粉体回折法(XRPD)による、12.3(s)、7.0(s)、4.62(vs)および3.51(vs)のd値(Å)を有することを特徴とし、以後これを形態Bと呼ぶ、請求項1に記載の結晶性化合物。
【請求項6】
X線粉体回折法(XRPD)による、14.1(s)、12.3(s)、7.0(s)、6.1(s)、4.62(vs)、4.03(vs)および3.51(vs)のd値を有することを特徴とする、請求項5に記載の結晶性化合物。
【請求項7】
X線粉体回折法(XRPD)による、18.3(m)、11.4(s)、4.56(vs)、および3.47(vs)のd値(Å)を有することを特徴とし、以後これを形態Cと呼ぶ、請求項1に記載の結晶性化合物。
【請求項8】
X線粉体回折法(XRPD)による、18.3(m)、13.9(s)、12.2(w)、11.4(s)、6.2(s)、5.02(m)、4.56(vs)、4.03(vs)および3.47(vs)のd値を有することを特徴とする、請求項7に記載の結晶性化合物。
【請求項9】
式1の化合物とフマル酸とのモル比が1:0.60から1:0.80であることを特徴とする、請求項1、5、6、7または8に記載の結晶性化合物。
【請求項10】
糖尿病の治療のための、請求項1から9の少なくとも一項に記載の結晶性化合物。
【請求項11】
請求項1から10の少なくとも一項に記載の結晶性化合物を含む、薬剤。
【請求項12】
糖尿病を治療するための薬剤を製造するための、請求項1から10の少なくとも一項に記載の結晶性化合物の使用。
【請求項13】
次の段階:
a)式1の7−[(3R)−3−アミノ−1−オキソ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブチル]−5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(INN:シタグリプチン)の溶液を提供する段階、
b)フマル酸を段階a)の溶液へ添加する段階、
c)段階b)の後に得られた組成物を任意に濃縮し、および/または結晶性化合物の溶解度を低下させるのに好適な非溶媒を任意に添加する段階、および
d)得られた固体を取り出す段階
を含む、請求項1から10の少なくとも一項に記載の化合物を製造する方法。
【請求項14】
段階a)の式1の溶解した化合物と段階b)のフマル酸とのモル比が、1:0.6から1:1.3であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
段階b)のフマル酸が、段階a)の溶液に固体として添加され、または段階b)のフマル酸が、好適な溶媒中の溶液として段階a)の溶液に添加されることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
式1の結晶性化合物(シタグリプチン)およびフマル酸が、2−ブタノン(メチルエチルケトン)またはアセトニトリルに撹拌され、シタグリプチンとフマル酸とのモル比が好ましくは1:1±0.1である、形態Aを製造するための方法。
【請求項17】
エタノールおよびエチルアセタートの溶媒混合物から形態Aを再結晶化させること、またはエタノールおよび水の混合物中にスラリーとして形態Aを撹拌することによる段階を含む、形態Bを製造するための方法。
【請求項18】
溶媒2−プロパノールからの形態Aの再結晶化を含む、形態Cを製造するための方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−501755(P2013−501755A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524234(P2012−524234)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061733
【国際公開番号】WO2011/018494
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】